タイトル:君は天然色マスター:御神楽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/21 23:51

●オープニング本文


●UPC本部にて
「ブレゴビッチさん!」
 ちょっとした所用で訪れていたエミールを、軍医らしき人物と看護婦が取り囲む。何事だと人々が眺める中、ずずいと一歩、軍医が迫った。
「な、何か用か?」
「用件は解っているでしょう?」
 更に一歩前進。
 その動きに呼応し、エミールの両脇を固める看護婦。
「今日こそは、健康診断を受けて戴きます」
「‥‥」
 押し黙るエミールを前にして、勝ち誇った顔で、軍医は告げる。
「さぁ、来て戴きましょうか」
「そうは行くかぁ!」
 直後、噴煙。
 何処から取り出したのか、煙玉。
 突然の煙にむせ返る軍医達を放置して、エミールが走り出す。追えだ逃げただとの言葉を背に受けながら、エミールは得意な顔で人ごみへと駆け込んでいった。


●君は天然色
 書類にバンと捺された『不審点アリ』のハンコ。
 エミールの写真が貼られた書類だけでなく、それもかなりの枚数が、机の上に積み上げられていた。その書類を前にして唸り声を上げるのは、UPCの将校。彼の前では、秘書らしき兵士が、書類の仕分けに忙しそうだった。
「おのーれー!」
 頭を抱え、突如立ち上がる。
「おのれ傭兵め、軍隊を馬鹿にするなぁ〜!」
「ど‥‥どうなさいました!?」
 驚き、秘書官が顔を上げた。
「性別詐称だぞ、俺等完全に舐められてるだろ!?」
「はぁ‥‥まぁ‥‥」
「ううっ、うっ‥‥こんな可愛い子が男だなんて、お、俺は認めん‥‥ッ!」
 涙目になって机を叩く将校を見やり、秘書官が唖然とする。
 その悔しがりよう、一枚の書類を手にするや書類を破きかねん勢いで震えるあたり、心に深ぁ〜い傷を負っているようにも見えるが、まぁ、それはそれとして。
 将校はひとしきり悶えた後、ゆらりと顔を上げ、笑みを浮かべる。
「だが、こんな乱れた社会も今日までだ!」
 現実問題、傭兵の中にはあまりに可愛いらしい男性やら、男前な女性というものも多く、そういった者達の幾らかは、明らかに女装男装状態で生活している。公序良俗的に言えば、良い状態とは言えないだろう。まぁ、将校のは大分――というより九割九部私怨だが。
「それで、どうするんですか?」
「傭兵には、傭兵をぶつけようと思う。性別詐称の証拠を得たら、金一封。どうだ!」
「‥‥んなこったろーと思ったよ」
「何だ?」
「いえ、何でも」
 さらりと、笑顔で回避する秘書官。
 ではと将校は、どこに隠していたのやら、素早く男服を取り出した。
「見ろ。女装をしているような悪い子には、男物の服を着せてやるのだ!」
「は?」
「無理矢理でも罠でも良い。本来あるべき服を着せ、その様子を写真に収める! これで、俺の初恋を終わ――ごほん。良俗公序を正すのだッ!」
「バカだ‥‥ホンマもんのバカだ‥‥」
「うるせえ! 俺ァな、俺ァな〜! 可愛い野郎の本来の姿ってのに絶望してよォ、この初恋を終わりにするんだ! こうなりゃ自腹を切ってでも依頼を出してやる! 俺は絶対に諦めないからな!」
 あきれ返る秘書官を捨て置いて、将校は机の上に足を乗せ、拳を握り締めて高らかに宣言する。
「今度こそ、今度こそヘンタイどもを一網打尽にしてやるんだ! ふふふふ、ぬふ、ぬわーはははは!」

●参加者一覧

空間 明衣(ga0220
27歳・♀・AA
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
魔神・瑛(ga8407
19歳・♂・DF
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
クリス・フレイシア(gb2547
22歳・♀・JG
ソフィリア・エクセル(gb4220
19歳・♀・SF
Observer(gb5401
20歳・♂・ER
桃ノ宮 遊(gb5984
25歳・♀・GP

●リプレイ本文

 春も中頃のラスト・ホープ。
 逃げるエミールを、魔神・瑛(ga8407)が追っていた。
「傭兵ならそれに付いてくる義務から逃げんな!」
 放り投げられた煙玉。辺りを包む煙を強行突破した魔神が辺りを見回すが、エミールの姿は見当たらない。
「どこに行きやがった! チェシャ猫か、テメエは?」
 まったくと腕を組み、じろりと辺りを見回す魔神。
 続けて、桃ノ宮 遊(gb5984)と朧 幸乃(ga3078)が顔を出す。
「すばしっこいなー」
「‥‥」
 朧は黙って、辺りを見回した。
 彼女としては、服装を強制するのも、されるのも好きではない。本来は、知っている人間に『気をつけて』の一言くらいは伝えておくつもりだったのだが。
「‥‥」
 まだ残っている、大規模作戦での傷に、そっと指を触れる。
 傷が無くなるまでは、もう暫く、女の子らしい服は着れないかもしれない。ふと、そんな事を考えた。
「朧さん、危ないですわっ!」
「‥‥?」
 銀髪の少女が、一閃に飛ぶ。
 向かってくるのは、ソフィリア・エクセル(gb4220)だった。何事かとぼんやりする朧の手を引いてそのまま駆け抜ける。
「朧さん、私が守りますわ!」
 少し、というより完全に勘違いだ。
 彼女はそのまま廊下の脇道へと駆け込み、ゴミ箱の前に立ち止まるや、迷わず蓋を放り捨てる。
「エミールさん、早く逃げましょう!」
「わっ、馬鹿!」
 ゴミ箱の中で口に指を当てるエミール。
 にこにこ笑顔のエクセル。
「ご安心下さい、あなたも絶対に守り抜きますわ!」
「シャーラーッ!」
 ゴミ箱の中から立ち上がるエミール。
 と、同時に。
「逃がさへんで!」
 魔神と桃ノ宮が廊下裏へと駆け込んだ。
「ちくしょ〜! 一体何なんや!?」
「解りました、今こそ全てをお話ししましょう!」
 ぐっと拳を握り締め、頷くエクセル。
「けれどその前に‥‥」
「?」
 ゴソゴソとかばんをさぐり、取り出したるは一台のカメラ。
「鬼ごっこの記念撮影ですわね♪」
 光るフラッシュ。
 ぎょっとしたエミールと朧が、フィルムに残る。
「それから私の写真もお願いしますわ」
「ん‥‥解りました」
 受け取ってゆっくりとファインダーを覗き込む朧。
 彼女にカメラを頼んで、エクセルは清らかな笑顔を――そう、誰が見ても純真無垢に思えるであろう笑顔も、彼女はフィルムに残しておいた。10秒しか持たないから。


●少佐の野望
「マガミ・エイだ。宜しく頼むぜ、少佐殿」
 身長2mにも達しようかという魔神が、少佐の前で腕を組む。
「うむ。諸君、今日は変態共に正義の鉄槌を下そうではないかっ」
 対する少佐は、恨みがましそうな眼を燃やし、ぐっと拳を握り締める。
 どうも腑に落ちない様子で首を傾げる桃ノ宮。
「何か変な依頼やなぁ」
「まぁな。けど、報酬出るみたいだし、俺は思いっきり楽しむぜ♪」
 にやりと笑みを浮かべる霧島 亜夜(ga3511)。
「なあ、変な趣味に目覚めるんじゃねぇぞ?」
「あ! 勘違いしちゃダメだぜ。これはあくまで『コスプレ』! 女装じゃないんだしさ」
「そ、それは何か違う気もしますけど‥‥」
 眼鏡を揺らし、Observer(gb5401)が苦笑を浮かべる。
「まぁええわ。とりあえず、ターゲット何人か、手分けして探そか」
 桃ノ宮の言葉に頷く面々。だがクリス・フレイシア(gb2547)一人だけは、近くのオフィスへと足を向け、少佐がそれを見咎めた。
「どうする気だね?」
「ベースを作って指示を出します。気が散りますので、入って来ないようにして下さい」


 コンクリートを蹴って前へ前へと突っ込んでいく桃ノ宮。
 思い切りの良さ故か、あるいは普段の大風呂掃除の賜物か。大股に駆ける彼女は、じわりじわりとエミール達との距離を詰めていた。
「早い方‥‥ですね‥‥」
「逃がさへんで〜!」
 より前屈みに加速する桃ノ宮。
 その足首を、何かが払った。
 勢いを殺せず、桃ノ宮が床へと突っ込んでいく。だが、しかし、彼女も即座に床目掛けて肩を流すと、前転の要領でそのまま一回転して立ち上がる。
「何するんや!」
 突然の事に、逃げる三人の足も止まった。
「すまんな、見ての通り足が長いんで」
 そこに立っていたのは、かなり長身な赤毛の女性。それこそ、端から見れば魔神並みの長身だった。
「私は空間 明衣(ga0220)だ」
 名乗り、三人の方へと顔を向け、ピッと指を立てて挨拶する。
「服装の自由を守る為、貴方達に協力する」
「そっちに協力すんのか?」
「あぁ。だいたい傭兵ってのは束縛されないのが良い所なのに、理不尽な要求など軍の横暴だ」
 くっと自分の襟を持ち上げ、言い放つ。
「既製品が着れない人の事も考えろって言うんだ」
「ふ、言うやないか」
 己の胸元、着込んだ女性用軍服を親指で差すようにして、桃ノ宮は胸を張る。
「あたしとしては、逃げる側の気持ちも解らんでもないんや」
 皆までは言わなかったが、彼女自身、普段は胸をさらし巻きにし、女性らしさを隠して過ごしている。今日、軍服を着ているのは、あくまで捕り物側に廻ったからであるに過ぎない。
「けどな、健康診断は受けなあかんで」
「交渉決裂か」
 飛びのき、じり、と芝生を踏みしめる両者。何処から来たやら吹きすさぶ風。
 先に動いたのは、桃ノ宮だった。
 側面に回りこむようにして、壁の反対側へと芝生を駆け抜ける。
 しかし、空間もまた負けじと、腰に挿した刀を振るった。鞘のまま放たれたソニックブームが地に当たって弾け散る。
「くっ!」
「今だ、逃げるぞ!」
 その衝撃に巻き上げられる土埃。
 即座に踵を返して、空間は駆け出した。ただ、小脇にエミールを抱えて。
「へ?」
「ちっ、そう簡単に逃が――」
 土埃を払い、再び追撃に入ろうとする桃ノ宮。しかしその寸前、彼女のトランシーバーが電子音で彼女を呼び出した。素早くトランシーバーを取り上げて耳を傾け、彼女は素早く別のルート目指して走りだした。
「‥‥」
 その様子をモニターするクリス。
「さて、そろそろか‥‥」
 トランシーバーを手にしたまま、窓の方へと歩いて行く。ドアの鍵は掛けっぱなし。もう暫くは大丈夫だろう、頭の中で一人頷くと、彼女は窓の外へ、ひらりと身を投げ出した。


 その頃――
「見つけたぞ!」
「ふぇ?」
 突然現れた魔神に、金城 エンタ(ga4154)が首を傾げた。
 彼の服装は、細かい表現を抜きにすると、その、なんと言うか、ドレスだ。
「何でそんなに女装が似合ってるんだよ! 修正してやる!」
「え、えぇ〜っ!?」
 だが魔神にとっては、相手が何であれ関係無い。寸を置かずに飛び掛り、金城との距離を詰めんとする。
 追い掛ける魔神に、逃げる金城。
 二人の身長差、遥かなるかな半メートル。
 その上、魔神は肩幅が広く、顔もやや強面。
 本人がどういうつもりであろうと、傍目にはイタイケナ美少女を追う悪者そのものだった。
「一体何が‥‥ま、まさか僕に『追っかけ』さんが!?」
「待ちやがれ!」
「ふぇ〜!?」
 半ば涙目で、全速力で走り始める金城。
「わーっ!? 馬鹿、避けろ避けろ!」
「えっ?」
 衝撃。
 曲がり角から現れた何かと正面からぶつかって、彼はしりもちをついた。お尻をさすりつつ、もう一度顔を上げる。そこには、先ほど桃ノ宮から逃げた四人。
「皆さん、一体どうし――」
「ラスト・ホープ全住人を欺いた罪、償ってもらうぜ!」
「ひゃあ!?」
 迫る魔神。
「説明は後ですわ!」
 力強い笑顔を浮かべるエクセル。
「このままじゃ挟み撃ちか‥‥仕方ない。二手に分かれよう」
 空間の言葉に頷き、路地を二手に分かれて走り出す。
 空間はエミールを抱えたまま右手に、エクセルと朧、それから新たに金城を加えた三人は左手に、彼らは一目散に駆け出して、当然、魔神は金城を追いかける。
 道中、朧からの、追われつつの状況説明。
 金城はその内容に驚き、焦り、そして呆れててうな垂れる。
「好きな服を着て、それが似合っているのなら、それで良いじゃないですか‥‥」
「うん」
 こくりと頷く朧。
 続けてエクセルが、にっこりと笑みを浮かべる。
「えぇ、私もそう思いますわ。ですから――」
 その説明に、金城は黒い表情を覘かせるや、ぴたりと立ち止まり、迫る魔神へと振り返った。
「何だ? やっと観念したか?」
「魔神さん、その服着ますから‥‥もっと稼げる写真、撮りに行きませんか?」


●コスプレ
 桃ノ宮から逃げ続ける空間達の前には、一人、霧島が立ちはだかっていた。
「エミール――それは古よりの生贄の名」
 大鎌を背負い、身長ほどもあろうかという巨大注射器を手に、ゆらりと現れた霧島の、魔法少女モノのコスチュームに身を包んだその姿。毛の処理からポージングまで完璧だ。
「健康診断はちゃんと受けないとな♪」
「ここは私が食い止める、あとは頑張れ!」
 エミールを離した空間が、連続でソニックブームを放つ。
「へへーん、緋色の閃光が動き、見せてやるぜ!」
「早いっ!?」
 連続して空を切る衝撃波。
 その合間をすり抜けて、霧島は一足飛びに彼女の懐へと入り込んだ。打撃がごつんと、おでこに決まる。ぐらりと揺れる空間。
「‥‥すまん! アンタの犠牲は無駄にっておうわ!?」
 空間の犠牲を背に飛ぶエミールだが、その服の裾を、誰かがぐいとひっ掴まえた。勢い余って転び、後頭部を強打する。見上げればそこには、芹架・セロリ(ga8801)が純真そうな笑顔で立っている。
「ねぇ、どうしてにげるの‥‥? たしかにじょそうがいやなのはわかるけど‥‥」
 小首を傾げられ、エミールが怯む。
「でも、にげるのは、おとこらしくないとおもうんだ‥‥」
「うぐっ」
 深く言葉が突き刺さる。
 うんうんと頷き、カバンから服を取り出す霧島。
「観念したか? 観念したならこの服を――」
「待てっ!」
「うん?」
 だが、そうしてエミールに服を突きつけたその瞬間、どこからともなく声が響き渡った。
 声の主が、砂利を踏みしめて現れる。
 表れた黒い長髪の女性は、すらりと伸びた足にハイヒールを突っかけて、ワンピースを風にはためかせていた。
「誰だ?」
 首を傾げ、じっと彼女を見る霧島。
「そうだな‥‥謎の女Cとでも名乗らせてもらおう」
「謎の女C?」
「私が何者かなんて、どうでも良い事だ。だが、そこで引っくり返っている者を‥‥」
 サングラスの裏に薄いアイラインを覘かせて、謎の女はエミールを指差した。が。指差された先にいた芹架が、にこりと微笑んだまま歩み寄るや、突如として般若の如き形相で謎の女に掴みかかる。
「てめぇ、何そんな中途半端な女装してるんだヨ!」
 後ずさる謎の女。
「女装といったらメイド服だろうが! あ!?」
 迫る芹架に、謎の女はひたすら後ずさり、顔を背ける。
(‥‥あのまま隠れていれば良かったな)
 心の中で、謎の女は呟く。
 そもそもエミールが孤立してから顔を出す予定だったのに。エミールがまんまと捕まってしまうものだから、こうやって助けに来て、これだ。ちらりと視線を落とすと、芹架は相変わらず喰らい付くような勢いで迫ってきている。
「キミはいつもそうだ! 何故そんなコソコソする!? 自分に嘘をつく!?」
「何だ、知り合いか?」
 顔を見合わせる、桃ノ宮と霧島。
(やはり危険だな)
「自分が漢だと思うなら、漢を貫き通せ! 自分の身体に自信を持て! 無い胸を張れ! それが嫌ならこのメイド服を着やがれ! クリリn――」
「あっ、エミールさんが逃げるぞ」
「えぇっ!?」
 びしりと指差す謎の女に、芹架は慌てて振り返る。
 が、そこに居たのは、桃ノ宮に取り押さえられた空間に、霧島に押し倒されたままのエミール。その様子に、芹架はぷうと頬を膨らませた。
「てめぇ騙し――ぎにゃぁあ!?」
 そんな彼女の視界に、お星様が飛び交った。ぐわんぐわんと頭を揺らす衝撃。たんこぶをつくって仰向けに倒れる彼女を見下ろして、謎の女はやれやれと溜息を吐く。
「まったく‥‥」
「何か見た事ある気がすんな、アイツ」
「俺も。ついさっき会ったような」
 エミールの呟きに頷く霧島
「‥‥」
 黙る謎の女。
 しばし、静寂がその場を支配した。やれやれと溜息をつき、女は首を振る。その様子をじっと眺める、他の四人。女のリアクションを待っていた彼女らの前で、女はスカートをはためかせる。
 そして。
「さらばだ」
 一直線に駆け出した。
「あぁっ、逃げやがった!」
「何しに来たんだ一体‥‥」


●罠
 暗闇の中に、眼鏡が輝いた。
「ふっふっふっふ‥‥」
 Observerだ。彼は暗い部屋の中、ベンチの上に並んだ様々な服を眺めつつ、息を殺してロッカーの中に潜んでいた。そこには、ナース服やらバニースーツ、ネコミミだ何だとありとあらゆる種類の服が並べられていた。
 そう、彼は己が欲ぼ‥‥学術的好奇心を満たすため、こうして罠を張って覗‥‥観察の準備を整えていたのである。
「だ、誰も入ってきませんねぇ」
 やはり誰も来ないのだろうか。
 そう諦めかけたまさにその時、更衣室のドアが力の限り開け放たれた。
(おぉっ、遂に誰かが入っ――)
「い、いけません少佐! イヤぁっ、ダメですよぉっ!」
 転がり込んできたのは、一人の小柄な‥‥というか金城だ。男性用の軍服を着た金城が、転がり込むようにして床にへたりこんでいた。
「うるさぁ〜い! ちゃんとサイズの合う服を着ろォ!」
 後から入ってきたのは、涙をだばだばと流す少佐だった。彼は、Sサイズの軍服を手に金城へとにじり寄る。
「そ、そんな‥‥」
 そんな二人を他所に、ロッカーの中ではObserverが震えていた。
 女体の神秘を期待していたというのに、これは何だ。目の前で繰り広げられているのは、小柄な男の子とトチ狂った軍人の追いかけっこだ。
「しょ、小生の青春を返して下さい〜!」
 何とも居た堪れない気分になって、思わず彼は飛び出す。
「小生の青春が‥‥夢が‥‥!」
「ハイ、チーズ♪」
 同時に、フラッシュが光った。
 更衣室の入り口で、エクセルが金ダライを手に微笑んでいた。隣では、魔神がやれやれと言った表情でカメラを手にしている。
「綺麗に写りましたわね♪」
「男性向けの服の方が似合わないなんて事、あるもんなんだな」
 エクセルにカメラを手渡し、魔神は金城を見やって呻いた。
「「‥‥」」
 一方で一言も喋れぬ二人。あんまりな状況に、顔を引きつらせて呆然自室。だが、廊下ではまた桃ノ宮が金城をとっ捕まえ、ワンピースをはためかせてもいて。
「さぁ、ちゃんとした服を着てもらうで!」
「ち、違いますよう〜!」
 廊下に響き渡る二人の声。
 騒動の様子を眺めていた芹架は、たんこぶに絆創膏を張りつつ眼を伏せる。
「本当に大切なのはその心‥‥何もかもデータ化される世界で、俺達は‥‥何か大切なものを忘れてるのかもしれないね‥‥」
 感慨深そうに頷く芹架。
「‥‥えらく強引に纏めたね」
 謎のお――クリスは呟き、呆れた様子で溜息をついた。