タイトル:ユーロファイター構想マスター:御神楽

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 21 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/26 23:58

●オープニング本文


●そもそもは
 突然切り出されたその言葉に、企業の重役らしき男達4人が、ポケンとした表情を返した。そんな彼らの目の前で、正面に立つ男は、書類カバンから山ほど書類をぶちまける。
「我々の出した結論です」
 男が告げる。
 男の後ろには、数名の男女がずらずらと顔を連ねていた。
 その姿を見ただけで解る。彼らの殆どは技術屋か、科学屋。重役達に比べれば、より現場に近い人間だった。そして、何より特徴的だったのは、彼らの作業着や白衣である。カプロイア、英国工廠、クルメタル、プチロフ――欧州の主要メガコーポレーション四社、その全ての出身者が、そこには集まっていた。
 もちろん、彼らを出迎えた重役達も同様だった。
 四人、全員共に、別々のメガコーポレーションが出身である。
「‥‥ドローム社の攻勢に欧州企業が太刀打ちするには、メガコーポレーション各社の総力を結集し、欧州標準機を作るしかありません」
「‥‥」
 黙る重役達。
「各社の技術を組み合わせる事で、それぞれの得意分野を活かした強力なKVを発表するしかないんです」
「それで。勝てるかね。ドロームに」
 ヒゲを撫で付けながら、プチロフの重役が問いかけた。
 彼らプチロフの勢力圏であるロシアは、バグアからの集中攻撃を受けている真っ最中だ。余計な事をやる余力は無いのだと、彼は暗に問いかけていた。
「勝てます」
「‥‥技術的統合性は」
 カプロイアの若々しい重役が、腕を組む。
 彼らの生産してきたKVは、その多くがハンドメイド機だ。そこまでこだわってKVを設計してきたカプロイア社の技術陣は、いかな理由があれ、妥協の産物を嫌う。
「とるしかありません」
「軍事的メリットはあるのだろうね」
 貴族階級らしき、英国工廠の重役。
 英国王立兵器工廠の名が示すとおり、彼らの社は民営化されたとは言え、王国の兵器庫である。戦争に役立たぬなら、そんな兵器お断りだ。
「とうぜんです」
「では問おう。我々にとって、その計画に利益はあるか」
 オールバックのクルメタル社重役が、眼鏡の奥からじろりと睨む。
 自社の優れた技術を、他者と共有すれば、下手をすれば技術流出を招きかねぬ。その危険性を無視して他社と仲良くするほど、クルメタルはお人よしではない。
「あります。必ずです」
 技術屋達の真正面に立つ男は、険しい表情を崩さぬまま、小さく頷いた。


●需給関係
 必要とされるのは、まず大前提として、敵HWに対抗しうる高性能だ。
 しかしただ高性能なだけではダメだ。高性能でありながら、素早く量産体制を整える事が可能な、生産性の高い機体でなければならない。
 航続距離が絶大である必要は無いが、格闘戦性能は最優先されねばならない。が同時に、貴重なパイロットを保護する為にも対弾性は高くなければならず、KVの特性上、陸上戦にも強くなければならない――可能な限り高性能で、信頼性が高く、生産コストが安価である事。
 無茶苦茶だ。
 相反する幾つもの性能を、好きなだけ要求している。
「彼ら、えらい好き勝手言ってくれますね」
 技術屋が思わず苦笑を浮かべる。
 その『彼ら』とは、つまりUPC欧州軍の『お偉いさん』だ。言うだけなら気楽なものと、彼らは思いつく限りのスペックを要求しているのだ。
「まったく‥‥」
「構わんさ。好きなだけ要求させてやれ。最低必要スペックだって、そのうち落ち着くさ」
 そう。
 結局のところ、それにどう応えるかはともかく、重要なのは現場の要求なのだ。
 使う者達、買う者達が必要とするモノを可能な限り安価に供給する事が、企業人の使命であり、技術屋のプライドでもある。
「どっちにしろ、だ。この調子なら、軍の協力は得られそうじゃないか。え?」
「えぇ――」
 眼鏡を揺らし、広報担当員が呟く。
「あと、残る顧客と言えば‥‥」
 その場に居合わせた数名の社員達が、互いに顔を見合わせ、頷く。
「傭兵」
 言って、ニヤリと笑みを浮かべた。


●空の歴史
 LHの電子掲示板の前に、傭兵達の人だかりができあがっていた。
 人が人を呼び、どうかしたのかと、次々と傭兵が集まってくる。彼らが覗き込むそのモニターに表示されるのは、欧州系KV。一機一機の全てが、傭兵達にとっては馴染み深い相棒であり、恋人であった。ワイバーンが写った、シュテルンが写ったと、広告に見入る傭兵から声があがる。
 古今東西ありとあらゆる欧州機の映像が、画面を流れていく。

 人類の敵が、人類だった時代。

 メッサーシュミット、フォッケウルフ、スピットファイア、ハリケーン、ヴェルトロ、シュワルベ、ミグ、ミラージュ、ハリアー、ビゲン、グリペン、ジャギュア、ラファール、フランカー、エトセトラ――欧州各国は技術の粋を尽くした様々な戦闘機を空へ送り出してきた。
 第一次世界大戦で空軍が誕生し、第二次世界大戦で戦闘機は加速度的に進化し、木製の戦闘機はやがて鋼鉄の身体を手に入れ、世界初のロケット戦闘機が空を舞い、武装は機関銃からミサイルへと変化していった。
 欧州は、本当に様々な戦闘機を空へ飛ばしてきたのだ。
 そして訪れた東西冷戦。
 1980年代。
 欧州統一規格機の構想は、その当時、既に西側諸国において存在していた。だが、紆余曲折によって伸びに伸びていた開発計画は、バグアの襲来において止めを刺され、計画は完全に空中分解を起こした。
『今、あの計画を再度。我々は検討せねばならない』
 告げる、女性オペレーターの声。

 ユーロファイター

 ざわめく人だかり。傭兵達が互いに顔を見合わせた。
『しかし、欧州標準機設計の為には、今や主力の一角を担いつつある、傭兵の皆様からの協力が必要不可欠なのです』
 続いて示された日時と場所の指定。
『傭兵の皆様の参加を、心よりお待ち申し上げております』
 メガコーポレーション各社のロゴが浮かび上がると同時に、そのアナウンスは締めくくられた。

●参加者一覧

/ 緑川 安則(ga0157) / 藤田あやこ(ga0204) / ツィレル・トネリカリフ(ga0217) / 榊 兵衛(ga0388) / 鯨井昼寝(ga0488) / 黒川丈一朗(ga0776) / 新条 拓那(ga1294) / 須佐 武流(ga1461) / 高坂聖(ga4517) / ファルル・キーリア(ga4815) / クラーク・エアハルト(ga4961) / 瓜生 巴(ga5119) / カルマ・シュタット(ga6302) / 井出 一真(ga6977) / 三枝 雄二(ga9107) / 烏谷・小町(gb0765) / ジェームス・ハーグマン(gb2077) / 赤崎羽矢子(gb2140) / ドッグ・ラブラード(gb2486) / ユウキ・スカーレット(gb2803) / ふぁん(gb5174

●リプレイ本文

「それじゃ皆、とりあえず、事前に打ち合わせてからって事でも良いかな?」
 新条 拓那(ga1294)の言葉に、参加者達が頷く。
 傭兵達は一足先に会場へと足を運び、顔を合わせていた。事前にある程度打ち合わせておけば、提出する意見も、ある程度絞れるというものだった。
 となると、機体固有の特殊能力については、皆の意見を直接伝えるのが良い。ここでは、コンセプトとでも呼ぶべき、機体全体のバランスや方向性について話をすべきだろう。
 彼等はある程度相談を重ねた上で、改めてメガコーポレーションの担当者達を出迎えた。


●開始
 司会がマイクを手に、こほんと咳を払った。
「本日はお集まり頂きまことに有難う御座います。では、さっそくですが――」
 担当者からの簡単な挨拶で始まる意見聴集会。
 言葉が途切れると共に、新条が立ち上がる。
 先程傭兵達の間で纏めた内容を、彼は、改めてメガコーポレーションへと伝える。
 傭兵からの意見は、大別して幾つかに分けられる。
 彼は、それらをひとつずつ、ある程度の概要を交えつつ担当者に説明する。多少、個々人の意見と食い違う面もあるが、大別して議題を進め易くする為であるからいささか止むを得ない。
「とりあえず、俺達の考えてきたプランは、大別するとこんなところです。具体的な説明は、当人達に説明してもらうのが良いと思います」
「ふむ‥‥解りました。では、まずは汎用高性能で、かつ低コストな機体の件からお聞きしましょうか」
 その言葉に、ツィレル・トネリカリフ(ga0217)が口を開く。
「基本的に、尖らせるよりも、平均的な能力で合計水準を高く保って貰いたいな。マルチロールファイターという面からも、この方向性が妥当だ」
 ただ、最終的に優劣を付けるならばどの能力か、という問題もある。カルマ・シュタット(ga6302)が静かに、言葉を繋ぐ。
「良好な運動性も良いんだけど、やはり、装甲等の耐久性に重点を置いた方が扱い易いと思う」
 重視すべきは、第一に生存性。
 その点に関しては賛成の者が多い。ドッグ・ラブラード(gb2486)もまた、その意見に賛成だ。時間当たりの被撃墜率等を交えつつ、言葉を続ける。
「KVだけではなく――言い方は悪いとは思いますが、能力者や兵士も貴重な資源です。無駄にするのは、得策ではないでしょう」
 心のどこかで、彼は不本意だった。
 本当はもっとストレートな表現で、仲間に死んで欲しくないと言ってしまいたいのだが、相手が相手。口説くためともなれば、多少不本意でも仕方が無いと割り切っている。
 再び、カルマが口を開く。
「標準機ともなれば、新兵が乗る事も多いだろう。多少直撃を食らっても大丈夫という頑丈さがある方が、彼らも安心できるかと思う」
 クラーク・エアハルト(ga4961)、赤崎羽矢子(gb2140)もほぼ賛成だ。エアハルトの場合は、正確に言えばバイパーの強化発展型であるが、バイパーの機体特性を考えればほぼ同じ意味だ。
 頷く、高坂聖(ga4517)。
「私としては、耐久性さえ確保されれば、後は攻撃性能を重視して頂きたいですけどね」
「それとその‥‥私も賛成です」
 おずおずと、ユウキ・スカーレット(gb2803)が手を掲げた。
 しかしもちろん、全員が全員その意見に賛成という訳ではない。
「まぁ、待ってくれ。生き残るために耐久性が必要なのは解る」
 すっくと立ち上がる榊兵衛(ga0388)。
「だが、耐久性に比べ、運動性は後から上げ辛い。特に命中については、攻撃は当たらなければ無意味だ」
「俺も賛成だな」
 頷く、黒川丈一朗(ga0776)。
「やはり、運動性重視で行ってもらいたい。余りに薄い装甲は心もとないが、装甲そのものは追加装備である程度補強可能だ。だから、十分な積載性能も必要だな」
「あぁ。逆に火力は控えめでも良い。積載性能さえあれば、大型の武装である程度カバーできる」
「それは確かにね」
 赤崎もまた、その言葉に頷く。
 彼女だけでなく、生存性を重視しようという傭兵達の間でも、積載性能については、やはり十分なペイロードは魅力的らしい。運動性を重視するか、生存性を重視するかは意見の分かれる所ではあるが、少なくともその点においては、傭兵達の意見はほぼ一致していた。
 何より、積載重量次第では、かなりのチューンナップが可能だ。各種装備によって機体性能を補ったり、大火力を保持させる手段を得られる。
 機体本体のスペックも重要だが、やはりこの点は大きい。
「まぁ、ねぇ‥‥」
 英国工廠の担当者が溜息を漏らす。実際彼等は、ナイチンゲールの一件でかなり泣いた。言いたい事は解る。
「となると、やはり、機体ベースには、クルメタルのシュテルンを推したいですね」
 井出 一真(ga6977)が立ち上がり、笑顔を浮かべる。
 シュテルンをベースにより扱い易く、より普及し易いKVを開発してはどうかと、彼は言葉を続けた。
「具体的には、PRMシステムを廃止し、エンジンを四発から双発に。これだけでもきちんとした性能と、かなりのコスト減が見込めるのではないかと思います」
「えぇ、あの兵装最適化システムは、もう少しスペックダウンするのも手と思う」
 ファルル・キーリア(ga4815)が、後に続ける。
「現状ではかなりの高出力だけど、もう少し細いものでも、全てに転用できるというのは大きいわ。多少使い辛くなるのは仕方ないところね」
「俺もだ。愛機にしてるし、クルメタルには頑張って欲しいところだな」
 カルマ等も相次いで賛成するが、一方、対するクルメタル社の担当官が見せる表情は複雑だ。実は、ここにいる多くの傭兵には解らぬ事であったけれど、クルメタル社はシュテルンに不満があった。本来ならもっとハイスペックを実現できるものと思っていたのだが、技術的な問題から妥協した面も少なくない。
「となればやっぱり」
 烏谷・小町(gb0765)がつらつらと、従来機の特色を思い起こしていた。
「まずプチロフには、IRSTを提供してもらいたいやね。地形画像の入手と標的捕捉、追尾の為にFLIRも開発してもらいたいけど」
 FLIR、フリアとは、赤外線で前方を撮影するカメラのようなもので、夜間や悪天候時の操縦に大きなアドバンテージが得られる。得られた画像は、コックピットのHUDや武器と連動し、パイロットを補助するという仕組みだ。
「夜間や悪天候時にも、地形攻撃が可能になれば軍の行動にも幅が出るし、ウチらも便利ではあるんで是非お願いしたいかな」
「そうだな、後は英国のマイクロブーストも重要だろう」
 黒川が烏谷に続ける。
 既存機の特色としては、IRSTとマイクロブーストに皆の意識が集中していた。絶大な効果を持たぬ地味なシステムではあるが、隙が無く扱い易いのがその理由であろう。
 事実上、これらの搭載システムの面では、ワイバーンに人気があると言っても良い。
「何だか凄いわくわくしますね‥‥是非実現して欲しいです」
 分厚い大学ノートにメモを取りつつ、ユウキが表情をほころばせる。
「僕は何だか、面食らっちゃいます。皆さん凄い熱気ですし‥‥」
 対して、ジェームス・ハーグマン(gb2077)はややおろおろと視線を揺らす。彼自身、期待しているし、空軍を目指すならばこのくらい、と先輩に連れてこられたまでは良かったのだが、皆の勢いに気圧されて中々口を差し挟めない。
「あと、カプロイア社には、そのこだわりと簡略化の方向へ活かして欲しいかな。プチロフは整備性の良い機を作れるみたいだし、両方併せればコストも下がるんやない?」
 烏谷の言葉に腕を組むカプロイアの担当官。
 プライドをくすぐられるような、上手く丸め込まれたような、少し複雑な気分だ。とはいえ、現実問題、カプロイア社の機体はその殆どがハンドメイド状態で、このままではマズイのも確かで。
「あとは‥‥些細なところだけど、ステルス性や、小型化による地上での隠蔽、能力者のエミタとシンクロした、操縦をサポートするAI等も欲しいわね」
 ふぁんの言葉に、クルメタル社が反応した。
 電子機器といえば一日の長があるが、小型化等についてはあまり検討してはこなかった。実際、シュテルンは四発ものエンジンを積んだかなりの大型機だ。


●簡易変形
「さてと、少し良いか。カタログスペックは、それはそれとしてだ」
 須佐 武流(ga1461)がぶっきらぼうに言う。
「変形機構についてだが、陸戦形態を簡易的な人型にするというのはどうだ?」
「エンジンは脚部だな」
 話を、緑川 安則(ga0157)が繋いだ。
「離着陸用の脚部に、機体後部の装備を前提とすると良い」
 その言葉に、口を差し挟む男。
 プチロフから来た担当官だ。
「しかしそれは‥‥」
「従来の格好を考えれば不恰好なのは解る。だが、この形態であれば――」
「い、いや、違うのだ」
「む‥‥?」
 やや様子の違うその態度に、緑川は帽子を持ち上げた。
 何であろうかと顎に手をやって相手の言葉を待つ。男は、申し訳無さそうに口を結んでから、切り出した。
「傭兵に供給はされていないが、我国では、その簡易変形は実用済みなのだ。ただ、一昔前の変形機構でな‥‥」
「ふむ。そういう事か」
 そこまで聞けば凡その事は解る。絶対的な価格はともかく、相対的な価格を含め、そちらの方が性能が優秀であれば、今でも、そちらが採用されている筈だ。革新的な変形技術ではないだろうか、と考えてはみたものの、言われてみれば『簡易』である以上、既に実験済み、実用化済みであった可能性は高かった。
「じゃあ、一時的にそういった形態をとる、というのは無理かな?」
 新条の言葉に、担当官は首を捻る。
「まぁ出来なくは無いだろうな」
「問題は、どのぐらい役立つか、って事かぁ‥‥」
「うぅん‥‥」
 ふぁん(gb5174)も、思わず溜息を吐いた。
「遠距離攻撃の運用も出来るのでは、と思ったのですが‥‥」
 空戦中にやれば、最悪墜落する可能性がある。
 おそらく陸上戦という事であろうが、『機体側の問題』だけでなく、『武器側の問題』というものもある。例えばAAM等の場合、陸上数メートルの高さから射出し、そのまま陸上兵器を狙う――というような運用を想定していない。
 となれば、武器側の問題も併せて解決していかねばならない、という事になる。
 現実的には、『不可能ではないが、導入による長所は未知数』といったところだろう。
「‥‥でしたら、そこで四足歩行に」
 おずおずと口を開くスカーレットだが、声が小さかったのか、他の皆に聞こえていない。
「他にも、推力偏向ノズルのような運用も可能だったのだがな」
 緑川が頷き、腕を組む。
 すかさず、藤田あやこ(ga0204)が口を挟んだ。
「だったらVTOL機能を搭載すれば良いのよ。垂直離着陸機能は、何も離着陸だけが用途ではないわ」
 足を組み替えつつ、言葉を続ける。
「空中で一点静止が可能だし、ヘルメットワームの空中静止にも対抗できる。イギリス軍だって、フォークランド紛争でハリアーを空中静止させて、敵の背後を取るという戦法を使って――」
「いや、待って下さい」
 話の途中で、英国工廠の担当官が口を挟む。
「VTOL機能は、あくまで垂直離着陸用のシステムです。そりゃ、ハリアーは細やかな動きがとれます。ある程度、空中で静止したりもね」
「だからこそ、格闘戦能力を求めるなら必須でしょ? 空中静止できないKVは、今後ヘルメットワームに太刀打ちできないと思う」
 あくまで食い下がろうとする彼女を、掌で制する担当官。
「しかし、格闘戦の途中に静止はできませんし、やれば機体がバラバラになります。だいたい、空中で静止したところで、戦闘に耐えうる機動性は発揮できませんよ」
 彼によれば、空中で静止はできるが、マッハで飛ぶ戦闘機が突然静止は出来ないし、静止したところで、そこからどうしようもない。ヘルメットワーム相手には良い的となってしまう。フォークランドの件も、敵国のパイロットがそう主張しているだけで、イギリス側ではこれを否定しているとの事だ。
 そもそも論でいけば、ハリアーは亜音速で敵戦闘機との戦いに弱く、あくまでそのVTOL機能を活かした強襲揚陸艇からの出撃や、滑走路の無い敵地での運用を想定したもので、ドッグファイターではない。
「推力ノズルの偏向を活かす事はともかく、それは目的と手段が入れ替わってます。包丁で木材を切ろうとするようなものですよ」
「うーん‥‥」
 そう言われれば、彼女も二の句を継げなかった。


●様々な道
 機体本体の特色は、何も機構的なものだけでは無い。
 電子戦能力や小型のブースト機能等、特徴的なものは、まだ他にもある。
「あとは、煙幕や照明弾を内蔵しておいてもらえると助かるな」
 トネリカリフの言葉に、高坂が頷いた。
「それなら、K−01小型ホーミングミサイルの廉価版で、攻撃対象を1体に絞って、10発ずつくらい攻撃を仕掛けるものはどうでしょうか?」
「僕としては、内蔵武装にはソードウィングを入れて欲しいですね」
 新条が相好を崩す。
 が、そんな彼らの言葉を、ファルルが強引に遮った。
「ちょっと待って。内蔵武器の搭載には反対させてもらうわ」
「何故ですか?」
 おやと首を傾げて、新条が問いかける。
「搭載しないで、その余力を外へ回した方が汎用性が高いわ。よっぽど特殊で、機体と切り離せない物じゃなければ意味が無いわね」
 その言葉に、新条は口元へ手をやる。
「うーん、それはそうかもしれませんけど‥‥」
「ミカガミの雪村なんかが悪い例だと思うわ」
「‥‥ミカガミも悪い機体じゃないぜ?」
 須佐に、指を突きつけるキーリア。
「悪い例よ。少なくとも私にとっては」
 この辺りは、これ以上会話を続けても揉めるだけだろう。
 多くの場合、新型機の開発に際しては、傭兵達へ意見を求めたり、テストを依頼したりしている。ミカガミに思いいれのある者もいるだろう。ただとりあえず、内蔵するぐらいならその分の積載能力、拡張性を保持しておく方が良いとの意見は、至極真っ当ではある。特に、汎用性を確保する為であればなお更だ。
「内蔵武器‥‥と少し近くなるが、マルチタスクFCSなんてのはどうだ?」
 トネリカリフの言葉に担当官が耳を傾ける。
「火力を数で補うんだよ。マルチロックがダメなら単体のみにすれば安くもできる。ロングボウの試作型で動いてたんだから、技術的には不可能じゃないんだろ?」
「えぇ、まぁ。ただ‥‥」
 カプロイア社の担当官が言葉を濁す。
「問題が解決しなかったが故に、ロングボウでの搭載を見送ったという経緯もありますし、ドローム社との共同開発ですから、勝手には利用できませんねぇ。要検討でしょうか」
「それじゃ、他にノイズキャンセラーのようなものはどうだ?」
 まだまだと、トネリカリフは身を乗り出す。
「キューブワームやリフレクターの怪音波を大幅に軽減する。現在の対策は『とっとと片付ける』だけだろ。今後頑丈なヤツを出されたら終わる」
「ふむ‥‥」
「怪音波の影響下でも普通に戦える機体が存在する事は、作戦行動の幅を大きく広げる事になる」
 トネリカリフがおおよそ言い終えると、担当官は腕を組み、椅子にもたれる。
「実際にどの程度のシステムが必要かにもよりますが‥‥それは、逆にそういった敵が存在しない場合には、デッドウェイトとなりませんか?」
「我々が今回のユーロファイターで目指しているのは、マルチロールファイターとしての汎用性です。実際に検討する上で、局地的な機能は、やはりデッドウェイトと判断される可能性もありますしね‥‥」
 続けてのクルメタル社からの言葉に、顎に手をやるトネリカリフ。
「意外と手厳しいな」
「何事でも、無駄はコスト増や、その他の機能を排除する事に繋がりますからね。取捨選択は重要です」
 ならばと、鯨井昼寝(ga0488)が椅子を蹴って立ち上がった。
 ぐっと拳を突き出し、言い放つ。
「ならばいっそ、特殊能力を持たない機体なんてどうかしら」


●発展性
「え?」
 ぎょっとした表情の担当官。
「特殊能力の一切を排除したプレーンな機体よ。特殊技術の流出も避けられるし、システムを排除する分を通常戦闘能力に充てれば良いわ。AU−KVへ対応し、防塵処理とIRSTを搭載して、汎用性を最重視するのよ」
「む、むぅ、しかしそれは‥‥」
 面食らって顔を見合わせる担当官達。
 そこへ、瓜生 巴(ga5119)が口を挟んだ。
「でしたら、モジュール換装式は如何ですか?」
「私も賛成。ウェポンパックや特殊装備を換装できれば、極めて高い汎用性を獲得できるわ」
「えぇ、平均的な機体をベースに並列開発した専用パーツ‥‥他のKVでは運用できない事になりますが、例えば、空戦シェルやVTOLマヌーバ、固定武装等もあります」
 煙草に火をつける、プチロフの担当官。
「ふむ、それで?」
「傭兵の感覚として、従来機には特化型と汎用高性能の両極端がありますが、この案は、パーツ選択によって、欲しい性能を最小価格で確保できますので、特化型としてはシェアを、多機能機としては低価格を実現できるかと思います」
 瓜生に続けて、須佐が声をあげた。
「いっそ、ベース機はS−01並の弱い機体でも良いかもしれないな。拡張性が高ければ、オプションパーツで大幅に補う事だって可能だ。ドラグーンとAU−KVみたいなもんだな」
「あるいは‥‥」
 口を開く三枝 雄二(ga9107)。覚醒時とは違い、喋りは落ち着いている。
「複数回のバージョンアップを前提とするって手もあるっす。初期型を開発して、数階のアップデートで、最終的に完成型へ持っていく。傭兵なら好きな段階でストップも可能っす」
「えっと、そう、ですね。僕の祖国の、大戦時のスピットファイアやドイツのBf109みたいに、性能向上の余地を大きく取って、長く使える機体がいいと思います」
 おずおずと、ジェームスが手を挙げる。
 ラブラードや、赤崎もこの案には賛成だった。
「それなら、そのバージョンアップ先を何種類か準備して、各メガコーポレーションの特色を出す、という手もあるわ。ベースとなるユーロファイターを中心に、ベテランから駆け出し、正規軍まで広く使えるんじゃないかしら?」
「うぅむ‥‥」
「基盤となるフレームとエンジンは、拡張性の高いものを開発して欲しいけどね。各社の技術を融合して、更に上の次元に進化したものを目指して欲しいの」


「皆さん、本日は有難う御座いました」
 担当官が揃って立ち上がり、目配せする。
 この日には、他に様々な意見が出された。ユーロファイターとは直接の関係が無いものもあり、例えばロジーナのデチューン案や、各種武装の改良、新規開発案等だ。これらもまたひとつの意見として、担当官は持ち帰ると約束している。
 ただこれらに関して言えば、直接の関係が無い以上、ユーロファイターとは別枠で検討される事となるだろう。
「本日頂いた意見は、一通り全て持ち帰り、改めてその効果を考慮した上で、導入を検討したいと考えております」
「頂いた名称案も、ここでは答えを出せませんしな」
 カプロイア社の担当官が苦笑を漏らす。
「こちらも、各社の広報担当が集まって協議せねばならんでしょう」
「あ、最後にこれを‥‥」
 たったと駆け寄って、スカーレットがノートを差し出した。
「これは?」
「全てのアイディアを書き留める事はできませんでしたが‥‥皆さんの出していた意見です。宜しくお願いします」
 そう言って彼女は、ぺこりと頭を下げた。