●リプレイ本文
●敵補給拠点を爆撃せよ
彼らの編隊に通信が届く。その通信は、地上部隊の陽動攻撃の開始を伝える内容だった。
目指す敵補給拠点はここから暫く飛べば見えてくる。傭兵達はそれぞれに集中し、戦闘に備えて覚醒する。
「さぁ、行くよ‥‥ボクの王子様」
月森 花(
ga0053)が呟く。その途端、瞳は金色へと変化し――
「ボク達の力‥‥見せ付けてあげよう」
途端に、冷徹な瞳を覗かせた。
「敵の補給拠点構築を許す訳にはいきません。ここでキッチリと叩きましょう」
「えぇ、形になる前に叩かせてもらいましょう」
櫻小路・あやめ(
ga8899)の言葉に、狭間 久志(
ga9021)が頷く。
「民間人の事も‥‥何とか助けられればええんやけど‥‥」
篠原 悠(
ga1826)が気を引き締め、『ポチ』の操縦桿を握り締める。
「できれば、古のフィリッポス王の武勇にあやかりたいところだがねェー」
櫻小路と獄門・Y・グナイゼナウ(
ga1166)、それぞれのバイパーが加速した。戦線を押し上げる原因となるような、敵の補給拠点構築をそのまま見過ごす訳にはいかない。
「新型でも、武装は前のままか‥‥でも、やらなくちゃ」
頷く流 星之丞(
ga1928)。
流はウーフーの機体を操り、編隊の中心に移動した。
「‥‥来ましたね」
遠方の空に光る機影を見たのだ。その電子戦機能を最大限に活用する為、味方の多くがそのアンチ・ジャミングの効果範囲内に収まるよう移動した。
「丸い円盤は3機目の証‥‥敵のジャミングを中和、各機の戦況データー中継、通信もクリアー‥‥皆さん、行きましょう!」
航空機同士、相対速度はかなりの速度になる。
接敵はすぐだ。流のウーフーが位置に着いたと見て、A班が一歩先んじる。中でも、狭間は愛機のハヤブサを前面に押し出し、更なる加速を掛ける。
「ただの旧型じゃないってところを見せてやろう!」
ハヤブサさえも旧型と称されてしまう辺り、人類の日進月歩が窺えなくも無い。
「いくぞハヤブサ! ブースト・オン!」
普段の不安げな表情はどこへ。
力強い自信をもって、ハヤブサは突貫した。多数の追加ブースターが施されたハヤブサは、狭間の身体にとてつもない加重をかけると共に、変則的な機動を発揮する。
今までハヤブサのあった空間を、プロトン砲の光が焼く。
機動に驚いたのか否か、あるいはハヤブサを追うべきと迷ったのか否か、ヘルメットワームの動きに乱れが生ずる。そして傭兵達は、その隙を見逃すような間抜けではない。
「どういう改造だい!? 興味深いねェー!」
カラっとした笑みを浮かべるユウコ。
彼女は今までハヤブサのいた空間へ機を滑り込ませた。同時に、バイパーが爆発――いや、爆発ではない。だが、爆発と見間違う程の盛大な発射炎だった。彼女は機首を敵に向け、放てる限りのミサイルを吐き出す。
動きの乱れていたHWがそのミサイルに巻き込まれ、爆発に煽られる。
「各機で敵を叩きます!」
霞澄 セラフィエル(
ga0495)が自身の駆るアンジェリカを敵の死角へ回りこませ、高分子レーザー砲の引き金をひく。レーザーに機を焼かれ、HWが一機、爆散。敵HWの数は、今の撃墜によって5機。特に大戦力とは言えないが、制空権の確保を狙うA班、B班の合計とほぼ同数。油断する訳にはいかない。
ワンテンポ遅れて空戦域に突入するB班。
フォル=アヴィン(
ga6258)は、ヘルメットの裏に古傷を浮かび上がらせ、HWを睨んだ。
「正気!?」
彼は、正面にふらりと現れたHWにすれ違いざま、KA−01を叩き込む。
前面装甲をひしゃげさせ、くるりと回転するHW。後は、重力に引かれて落ちるまま。
「こちら櫻小路、一機撃墜!」
「今のところは順調‥‥ですね」
流は、各機からの通信を聞きながらも、周囲への警戒を怠らない。
「私達は大丈夫です。C班は突入、B班は対地攻撃を」
霞澄のアンジェリカがSESエンハンサを発動し、周囲にG放電の嵐を吹き荒れさせて舞う。かと思えば、そうして動きを阻まれた敵機に対し、ユウコのバイパーが一撃離脱で不意を突いていく。
「了解した。こちらレティ、C班は突入を開始する」
レティ・クリムゾン(
ga8679)は静かに告げた。
「解りました、対地攻撃へ向かいます」
櫻小路やアヴィンの機体も反転し、地上へと眼を向ける。
「放置すれば不幸になる人が増える。あの拠点は、何としても‥‥」
呟くレティ。
生身の戦いであれば、黒い片翼が現れているが、今は航空戦。或いはその赤い翼、ディアブロが代わりか。空中戦の最中を突破する彼女の機に続き、C班各機は陸上を目指して減速していった。
この瞬間がもっと危険だ。
陸上に強硬着陸して変形する以上、生じる隙はかなりのもの。無理矢理着陸すれば、KVとて無傷で済む筈が無い。
「対空砲は潰す。先に行け!」
威龍(
ga3859)のウーフーが地上に接近し、ロケットランチャーからロケット弾を吐き出していく。狙い辛い地上物とは言え、静止物が相手であれば後はパイロットの腕次第。
地面に固定された対空砲が唸り声を上げる戦場の最中を、ウーフーは次々とロケット弾を吐き出しつつ、駆け抜けていく。
続けて対地攻撃を担ったのは、B班だ。
彼らは空対地攻撃を大前提とした装備で機体を固めている。
櫻小路のバイパーがロケット弾による攻撃を仕掛けたかと思えば、間髪置かずに雷電の巨体が晒される。
「次は‥‥クッ!」
機体の揺れに、彼は奥歯をかみ締めた。
コンソールパネルを見れば、機体の一部がアラートを示している。だが、それが何だ。雷電はその程度の攻撃にびくともしない。
雷電は急上昇と急降下を繰り返し、敵対空砲に対して圧倒的な火力を発揮する。
瞬間、対空砲火が途切れた。
対地爆撃を前に損害が増した間隙を縫って、高坂の放った煙幕弾が周囲に煙を噴き上げる。その連携に、動きの鈍い対空砲では対応できなかったのだ。
●抉り込む傷
ここからの任務は、敵の拠点を完膚なきまでに叩きのめす事だった。だが、ここで働かされているという民間人がいるという情報もある。これを放っておく訳にはいかない。
着陸したレティは、間髪おかず、ディアブロの外部スピーカーをオンにして叫ぶ。
『民間人は居るか!? これより基地を破壊する、急いで逃げろ!』
だが、どうにも妙だった。
「民間人は‥‥!」
同様に、篠原もまた、注意深く辺りを見回していた。
ワイバーンがその首を振り、時にはカメラを走査して辺りを確認して廻るも、人影らしきものはない。事前に伝えられていた情報は、もしかすると誤報だったのか。間違いであれば良いのに――彼女は想う。
「民間人の姿が、見当たらんね‥‥?」
「だが‥‥おかげで戦いやすい!」
威龍は、C班の中でも最後に着陸した。
他の機の中央、アンチ・ジャミングを展開し続けたまま、彼のウーフーは立ち上がり、ライト・ディフェンダーを構えた。
「考えるのは後だよ‥‥」
静かな声で告げる、月森。
「半端な攻撃じゃ、また復活するよね‥‥」
彼等C班の視界の中から、重要そうな地域がB班にポイントされ、逆にB班からは、C班の面々へ対空砲の位置が知らされる。確認と攻撃をそれぞれが相互に補う、非常に立体的な作戦だった。
「なら、徹底的に爪痕を残してあげるよ‥‥」
D−02を構え、S−01は地を踏みしめる。
「まずはひとつめ‥‥」
ブレス・ノウの発動と共に、D−02の銃口が火を吹いた。
銃弾の後を追い、レティのディアブロが地を滑る。
「タイミングを合わせる‥‥いこう」
コンテナを挟んで移動していた敵の蟹型キメラが腕を振るい、突進してくる。
高足蟹のような姿であるが、実際の蟹とは違って前進後退も自由のようだ。
「させへんっ!」
篠原のワイバーンが首を向ける。
後から遅れて振り向いた胴体。その肩口からD−02ライフルの弾丸が放たれ、クラブキメラの脚をもぎ取っていく。
「伊達にこの称号な訳やないで‥‥? そこっ!」
次々とキメラをなぎ倒し、B班の指示した対空砲火を破壊して廻る傭兵達。
威龍とレティが前衛として前に出る、月森と篠原はそれを援護する。陣形としてはほぼ形になっている。クラブキメラは数こそ多かったが、敵としては極めて非力だった。おそらくは荷物運搬用か何かで、戦闘用のキメラではないのだろう。
「僕達も負けてられませんね」
『えぇ、指示地点も届きましたしね』
通信回線から聞こえた櫻小路の声に、アヴィンは頷く。
重装甲の雷電が先陣を切れば、その後ろには櫻小路と高坂のKVが続く。ロケットランチャーであれば、ミサイルより炸薬も多い。C班の指示に従って、彼等は的確に爆撃を展開して言った。
一方、拠点上空での航空戦も、絶え間なく続いていた。
「むぅ、ミサイルの数が減ってきたねェー」
ユウコのバイパーが、敵キメラをガトリング砲で薙ぎ払う。
キメラは軽量級のキメラが多く、彼等は比較的有利に戦いを展開してはいた。だが如何せん数が多い。
「短期決戦という訳には‥‥逃しません!」
急ターンさせ、キメラの背後に回りこむアンジェリカ。
セラフィエルの放つ高分子レーザー砲が、キメラの翼を焼く。もだえ、きりもみ状になって落下していくキメラ。そろそろ二桁になる筈だ。これで何匹めのキメラになるか、もうよく覚えていない。
「地上班の邪魔はさせない‥‥それが僕等の仕事ですからね!」
狭間も苦笑しつつ、キメラの合間を縫い、ハヤブサを走らせる。
「‥‥そうも言っていられませんよ」
だが彼等は、星之丞の一言を耳にし、スピーカーに意識を傾ける。
敵に援軍襲来――星之丞が迫る敵を報せる。戦場全体を見渡すように留意していた彼だからこそ、いち早く気付いたのだろう。多少敵の数が増えたところで彼等A班の優勢に変わりは無いが、これ以上数が増えては、対地攻撃を担うBC両班への妨害は避けられ得なかった。
「こちらA班です。敵の援軍を確認しました」
無線を通じ、B班、及びC班へと連絡を入れるセラフィエル。
『来たか!』
威龍が、言葉を返した。
ローラーダッシュで地を滑るウーフーが、すれ違いさまに、仮設のコンテナクレーンを薙ぎ倒す。
「残念やねぇ‥‥!」
並ぶコンテナ目掛け、クラブキメラをも巻き込んでG−44グレネードを乱射する篠原。
コンテナの脆さには言及するまでもない。広範囲を巻き込むG−44の攻撃性能は、平面的な破壊工作において非常に有効だった。
「少し物足りなさが残るが、潮時らしいな。まぁ、やるべき事はやった。これ以上の危険を冒すより、速やかに離脱した方が懸命だと思ぜ」
返す刀で、威龍はクラブキメラを叩き伏せる。
『3時方向、そこから100mの位置に離陸可能な道路があります。そこから離脱を』
「突破するよ!」
試作型リニア砲を構える月森のS−01。
その銃口が轟き、キメラの群れに穴を穿つ。
C班は最後とばかり、周辺へありったけの弾薬を叩き込みながら道路へと機を走らせる。
「C班の離脱を確認しました‥‥フォルさん!」
櫻小路は、ミサイルを降らせて、先ほど倒れたコンテナクレーンを爆破する。
施設破壊が不十分であれば、復活も早めてしまう。彼女達は、味方が破壊した施設に更なるダメージを与え、徹底的な破壊を旨としていた。
そしてその極め付けが――雷電から投下される。
急降下する雷電から切り離されたフレア弾が敵倉庫を突き破り、周辺に高熱を吹き上げる。計2発投下されたフレア弾は広範囲を高熱で包み込む。収納されていたのであろう資材は熱風に散らばり、カニ型のキメラは良い具合に殻焼きになる。
「後はこの空域を離脱するだけやね」
作戦は最終段階。篠原は前を見据え、ワイバーンを飛行形態に変形させる。
「さーて、上空は確保している。早く離脱したまえ」
「全員が無事に戻ってこその作戦成功だからね」
ユウコと狭間が上空を警戒する中、強硬離陸するC班。篠原とレティの温存していた煙幕が煙の壁を作り、キメラ達を戸惑わせる。それでもなお少数の飛行キメラが離陸させまいと妨害に出るも、乱戦模様の最中、そこまで知恵の廻るキメラは所詮少数派だ。
傭兵達は次々と離陸し、再び上空に翼を掲げた。
「次訪れる時は、名跡観光の為に訪れたいものだがネェー?」
ユウコがニヤリと笑う。
眼下で、敵の補給拠点が燃えていた。
●人の命
基地に到着した傭兵達が、次々と滑走路に降り立つ。最後になったのは、狭間とアヴィン。殿を務めた為に、少し遅れたのだ。
着陸した彼等傭兵を出迎えたのは、整備兵、そしてモーリスだった。
『大変です! 今すぐブリーフィングルームへ!』
手にした無線機で、コックピットへ向けて一斉に呼びかけるモーリス。
帰還した傭兵達は、その切羽つまった様子に、急いでブリーフィングルームに駆け込む。訪れた彼等を、苦しげな表情で見つめるモーリス。
「皆さん、基地に民間人はいましたか?」
「‥‥?」
互いに顔を見合わせ、眉をひそめる傭兵達。
特にC班の傭兵は、口々に一人も見ていないと断言する。それを聞き、安心したような、残念がるような、複雑な表情を見せるモーリス。
「‥‥これをご覧下さい」
ノートパソコンの前に皆を呼び、映像ファイルを開く。
響く、何者かの声。
『奴ら人類は、このように同胞達をも巻き込んで無差別に基地を爆撃し――』
「‥‥馬鹿なっ」
普段冷静なレティが、思わず声を荒げた。
彼等は誰一人として民間人を見ていない。だが、その映像に映し出されているのは、焼け焦げた無残な死体ばかりだった。
「そんな、どういう事‥‥」
思わず口を覆う篠原。
「おそらくは、戦闘後にこの遺体を並べたものと思われます。民間人が働かされているという噂は、この事への布石だったのでしょう」
「これがバグアのやり方か」
威龍の一言に、深いため息をつき、眼を伏せるモーリス。
プロパガンダである事は明らかだ。UPCも反論声明を出すであろうが、しかし。
「こんなのって、無いよ」
戦闘中は冷徹に振舞う月森も、堪えきれず、涙を浮かべる。普段元気な篠原も、表情が暗く沈む。
重苦しい空気が、部屋を満たしていた。
やがて、耐え切れなくなったのか、モーリスが立ち上がってドアへ向かって靴音を響かせる。
「状況を甘く見た我々UPCの責任です‥‥皆さんに責任はありません。あろう筈もありません」
それどころか、この犠牲者達はUPCや傭兵達の与り知らぬところで密かに殺されてしまった。その行いを誰が阻止できたものか。最終的な解決の為には、人類がこの戦いに勝つ他は無いのだ。
「結局、救えなかった。犠牲者が出た‥‥けど、だからこそ逃げる訳にもやめる訳にもいかない。そうですよね」
狭間の問いかけに答えられず、ドアを閉じるモーリス。
怒りや悲しみ、決意――様々な感情を胸に、傭兵達は基地を後にした。