●リプレイ本文
揃えられた物資を見渡し、風羽・シン(
ga8190)が呟く。
「‥‥ふむ、ある意味偽善的でもあるが‥‥確かに、多少の希望があった方が生き延びようって気になるわな」
「それ以上に、危険な任務の後に見捨てられてしまうかも‥‥となれば、兵士達は戦う気力をなくしてしまいますからね」
ロジャー・ハイマン(
ga7073)、彼は救助や救出といった依頼、任務を半ば専門にこなしている。この依頼にも、別の依頼を断って参加したぐらいだ。その分、意気込みも高かった。
「あぁ、状況は厳しいが、僅かでも可能性があるなら助けてみせるさ」
「そういう事ですね。とりあえず、早いところ荷を積み込んでしまいましょう」
それぞれ、ジープに荷を積み込むブレイズ・カーディナル(
ga1851)とリュドレイク(
ga8720)。まず、探索の足としてサイドカー付きのバイクを2台申請した。ジープは、能力者所有のジーザリオがあるので不要として、リュドレイクの申請した荷の中では、10人分の糧食2日分は結構な量になる。あとは、糧食に次いで武器弾薬の類が多い。
「まぁ、これだけあれば弾薬に困る事はないでしょう、ね」
弾薬の山を叩く水流 薫(
ga8626)。
「急ごう。今まさに同志が儂らの助けを待っている」
梵阿(
gb1532)の言葉に皆が車やバイクに向かうなか、ラウラ・ブレイク(
gb1395)が、最後の荷物をジーザリオに放り込んでいた。
●出発
「パイロットのお二人、無事だといいですね〜」
「えぇ」
のんびりとした声を響かせるなるなる(
gb0477)。その言葉に、ラウラは小さく頷いた。
だが、ハンドルを握る彼女の様子は、どこか遠くを見ているようにも思えて。
「さっきの最後の荷物、あれは何だったんですか〜?」
「‥‥遺体袋よ」
「まだ死んだと決まった訳じゃ‥‥」
ぎょっとするなるなる。彼女の言葉を遮り、ラウラは割り込む。
「違うわ。もし死んでたとしても、遺体だろうと連れ帰りたいの」
「遺体を、ですか〜?」
「空っぽの墓に、手をあわせるのって虚しいでしょ?」
「そう、ですねぇ‥‥」
ラウラに思い出されるのは、空っぽの墓だ。遺体も無く、主が不在のまま立てられた同僚たちの墓――どうしても、その事を思い出す。なら、そのもしが無い事を祈ろうというなるなるの言葉に頷き、ラウラは強くアクセルを踏み込んだ。
「パイロットが生きてりゃ良いですけど、ね」
双眼鏡を構えたままの薫が、苦い顔をした。
「‥‥うん、パイロットさん達も含めて、全員無事で帰ってきたいね」
バイクを運転するのはロジャーだ。
フライトジャケットの襟が、風にばさばさと揺れている。
現在位置はピレネー山脈を越えた辺り。ここまでは道路でまっすぐ走ってこれたが、此処から先はバグアの優勢な地域。人類側の部隊も展開しているものの、有利な状況とは言えず、傭兵達は改めて気を引き締める。
そんな最中、傭兵達の通信機が鳴り響く。
『あー、こちらシン。キメラを発見した。こっちのルートは使わない方が良いな‥‥暫く無線をきるぞ』
その通信に、リュドレイクは一旦ジーザリオを停車させる。
ブレイズが地図を取り出すと、ルートとの兼ね合いを始めた。やや遅れて停車するラウラ達のジーザリオ。ルートをどうすると問われ、ジーザリオで移動する4人は、やや遠回りになるルートへ切り替えた。
あとは一時後退するシン達のバイクを待って再度の出発となる。
「問題は俺たちだ、ね」
地図を眺める薫。
「戻らない方が良いかな」
運転席からサイドカーへと身を乗り出し、ロジャーは地図を睨む。キメラの発見地点と現在位置、本隊の所在を考えると、戻るのはあまりに非効率的だった。両者合意の上、二人は再び探索を開始した。
一方、シンはなだらかな小道を戻っていた。
サイドカーでは、梵阿の小さい身体が身を乗り出し、双眼鏡を通じて、辺りに視線を走らせている。
「どうする、戻ったら一度交代するか?」
「いや、構わん」
「ほう?」
「ラボに篭っているばかりがサイエンティストではない。これぐらいでへたばるものか。広大な大地でのフィールドワークもまた、サイエンティストの領分であることを教えてやる」
シンの問いかけに、えへんと胸を張る梵阿。
ならばと、シンはアクセルを捻る。バイクが大きく揺れた。
●回避回避また回避
途中、キメラや戦闘の痕跡を回避しつつ、傭兵達は飛行ルート下へと向かった。
墜落したと思しき地域は、連絡を断った方角から凡そ解っている。異常無しと告げる先行班の連絡を受けながら、二台のジーザリオは後を走り、先行班は更に前へ前へと走ってゆく。
『次の道を右へ行けば、飛行ルートの下へ出る筈ですね』
無線機から発せられたリュドレイクの声。
「こちらロジャー、了解」
ロジャーの隣では、薫がクラッカーを頬張っていた。しかし、その手からスコーピオンを離すことはない。敵地に深く侵入するにつれ、どうしても緊張の度合いは高まっていく。
『あぁ、少し待って下さい』
「‥‥?」
突然の停止要請に首を傾げる二人。
『友軍が見つかったんです』
無線機から口を離し、リュドレイクは前方を見やった。
助手席から降り、トラックの兵士と話し込むラウラ、なるなるへと向かう。
「サラゴサ方面、午前4時ごろに墜落した輸送機を知らない?」
「輸送機なぁ‥‥」
兵士達の反応は芳しくない。
彼等は数台のトラックに分乗していたが、向かう先は傭兵達と逆方向、つまり撤退中。少なくともこの部隊は。
「おい、誰か知ってるか?」
助手席から顔を出す兵士が、荷台の兵士に問いかける。顔を見合わせ、首を横に振る兵士達。朝四時という時間帯もさる事ながら、彼ら自身に余裕が無い事も影響が大きそうだった。兵士達は、皆疲れた顔をしていた。
「残念です、誰も見てないんですね〜」
溜息をつくなるなる。
そんな中、一人の兵士が身を乗り出す。
「俺、昨晩は見張りをやってたんだが、それらしいもんは見て無いぜ」
「そうか‥‥」
残念そうに肩をおとすラウラ。ひとまず、その見張りに野営した位置と見張っていた方角を記してもらい、彼等は友軍と分かれた。見張りが見ていないという事は、逆を言えばその方角に落ちた可能性は低い。
場所を特定する事は出来ないが、候補となる地域を絞る事には役立った。
本隊の合図に合わせて再び走り出す先行隊。
そのまま何時間程走っただろう。
途中で幾度か集落や街にも差し掛かったものの、殆どは無人だった。おそらくは、戦闘の激化に伴って避難したのだろう。
慎重に進む彼らは、敵を見かければ極力迂回し、戦闘を回避して進んだ。この点において、先行隊と本隊を分けた彼らの作戦は見事に的中した。大所帯で敵と遭遇すれば戦闘の回避は容易でなかっただろうし、先行班が発見し次第迂回するという手段は、時間が掛かりこそすれ、安全である事には違いはなかった。
一度の戦闘も無く、彼等は少しずつ前進を続ける事が出来たのである。
「何か見えるか?」
「むぅ‥‥」
ちらりと梵阿を見やるシン。戦場故か、時折爆音や銃声が耳に鳴り響く。そうした音を気にも留めず、梵阿は食い入るように双眼鏡を覗いていた。
「‥‥止めろ!」
梵阿が叫んだ。
素早くブレーキが掛けられ、砂利を跳ねる。
「どうした?」
「バックだ、バック!」
促され、シンはバイクをターンさせる。再び双眼鏡を覗き込む梵阿が、明るい笑顔をあげた。
「見ろ、パラシュートだ。どうだ、伊達に日々レンズを覗いている訳ではないぞ!」
●フェニックスの尾作戦
パイロットを前にして、ラウラが押し黙っている。
「‥‥遅かったみたいね」
いや、正確に言えばパイロットだった物体、だ。既に、息絶えている。おそらくは、降下した後にキメラに襲われたか。パラシュートから少し離れた地点で、パイロットは腹を食い破られていた。ラウラは遅かったと評したが、距離から考えれば、降下直後に襲われたのかもしれない。
死体袋を開き、遺体を収容する一行。
「急ぎましょう。もう一人はまだ無事です。きっとです」
ロジャーがバイクに跨り、エンジンを捻る。サイドカーには薫と交代してなるなるが乗り込んでいた。パイロットの死に沈んだ表情のなるなるだったが、気合を入れなおし、渡された双眼鏡を手にする。
朝に出発した一行だが、時刻は既に夕方。
空は暗くなり始めていた。夜になれば、探索には困難が伴う。とはいえ、野営の提案は出されなかった。戦闘でスキルを使ったわけでもなく、錬力には余裕がある。とにかくまずは墜落した輸送機を探そうと、その点において異論は無い。
「ここから北西の方角だな」
地図を睨むブレイズ。
輸送ルートの飛行ルート下に出た一行は、そのまま連絡の途絶した方角へ向かった。脇道へと入り、木々が生い茂る中を走る。やがて、バイクやジープはライトを点灯する。時刻は夜の7時を過ぎつつある。
「まずいです、ね」
空を見上げる薫。
「急がな‥‥少し停めてくれます?」
「何だ?」
ブレイズがブレーキを掛けた。ジーザリオから飛び降りた薫は木々の合間を覗き込み、振り返る。
「輸送機の破片か、な?」
無線で連絡をと伝える薫。ブレイズが無線機を手に取り、先行する二台に向けて連絡を入れる。無線連絡を受け、シンやロジャーが速度を緩めると、サイドカーの二人が無線に顔を近づける。
先に口を開いたのは、梵阿だった。
『輸送機の破片?』
「そうだ」
『方角は?』
「少し西に逸れる」
『了解だ』
短く簡潔なやりとり。なるなるが口を挟む隙も無かった。
「ロジャーさん、少し西に逸れるみたいです〜」
「了解、ちゃんと掴まってて下さいね」
ハンドルを切る。
今までは細い道を走っていたが、その道を逸れるとなれば、木々の合間を縫うしかない。幸い地面の起伏は緩やかで、木々さえ避ける事さえできればある程度の速度は維持できた。
バイクはやがて木々を抜けて開けた空間へと出る。
そして――
「あった‥‥あった!」
「わぁ、やっと見つかりましたね〜!」
「ロジャーです、輸送機を発見しました。位置は‥‥」
シンと梵阿の二人が急いで現場に現れたのとほぼ同時に、ロジャーが輸送機から顔を出した。
「大丈夫です、生きています」
気絶したまま動かないパイロット。見れば、足や腕があらぬ方向に曲がっては居るが、確かに生きている。ロジャーの抱えるパイロットに、梵阿となるなるの二人が駆け寄る。
「良かったです〜大丈夫だったんですね〜」
ほっと胸をなでおろし、彼女は超機械を取り出した。
「全般の治療は任せるぞ。儂は骨折の処置をする」
梵阿は救急セットを広げ、腕や脚の手当てに取り掛かった。
酷い怪我ではあるが、一通りの治療は練成治療で行える。あとは、今後困ることが無いようきんちと処置をすればよい。
「添木だ、添木を取って来い。早くせぬかぁ」
わっと大声を上げる梵阿。
小さい身体でテキパキと治療をする様に驚きつつ、ロジャーとシンは添木になるものを見繕う為、走った。そうして治療を続ける途中、少し遅れてジープ二台が到着する。胴体着陸した輸送機を横目に駆け寄るブレイズ達。
「治療は大丈夫ですよ〜安心して下さい〜」
言葉以上に安心感のある彼女の笑顔に、ほっと胸を撫で下ろす一同。
「‥‥と、なると」
「そうだな」
薫の言葉に、ラウラが頷く。
視線の先には輸送機。元々は物資を輸送しようとしていた輸送機だ。まだ使えそうな物資や機密物があればと輸送機を覗き込み、必要そうなものをジーザリオへと放り込んでいく。とはいえ、胴体着陸の影響もあって、殆どのものは破損し、使い物にならなくなっていた。
「うっ‥‥」
一通り荷物を移し終え、あとは移動するだけという段階になって、パイロットが目を覚ました。
「大丈夫‥‥じゃないですよ、ね。水、飲みます?」
薫からミネラルウォーターが差し出される。
脇についていたなるなるがそれを飲ませてやり、一本全てを飲み干し、兵士は一息ついた。
「あんた達は一体?」
「心配しなくても良いわ。あなたを救出に来たのよ」
「本当か‥‥すまない、ありがとう」
安堵の表情を浮かべかけ、しかし、彼は思い出したように顔を上げた。
「そうだ、もう一人居る筈だ。途中で脱出して‥‥」
「それは‥‥」
言葉を遮るリュドレイク。
兵士の視線に首を振った。
「そうか‥‥」
「さて、動かせるようなら移動しよう。敵に発見されると厄介だ」
「けど一度休憩すべきね。錬力の事もあるし、いざという時に疲れが出れば意味が無いもの」
「フム‥‥」
ラウラの言葉に、顎へ手をやるシン。
「まぁ、休むなら休むでその時は、俺が見張りに立つよ」
金髪をかきあげ、リュドレイクは笑顔を見せた。
幸い、糧食はしっかりと積み込んであるので、パイロットにもきちんとしたものを食べさせる事が出来る。休憩するに際して不足は無い。皆はそれぞれに自分の状況を述べ、相談した結果、ひとまず輸送機の傍は離れ、警戒しやすい場所で休むという事になった。
後は彼を連れて退却すればそれで依頼は完了だ。
今までと同じように退却すれば、さほど難しくは無い。その筈、だったのだが――