タイトル:フェニックスの尾作戦マスター:御神楽

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/31 22:57

●オープニング本文


●スペイン上空
 一機の輸送機が、弾幕の中を飛んでいた。
「くそっ! 通信は!?」
「駄目だ‥‥回復しない!」
 パイロット達は暴れまわる計器類を宥める為にありとあらゆる手段を尽くしたが、機械は正直で、無情だった。そしてそうでなければ、意味が無いものだ。
 高度は下がり続け、四発あるエンジンは次々と停止していく。
「ここまでだ! もう脱出しよう!」
 サブパイロットが悲鳴をあげた。
 その悲鳴を聞き流し、尚も最後の抵抗を試みていたメインパイロット。しかしやがて、彼も悔しそうに唇をかみ締め、彼の提案に同意した。
「‥‥くそっ!」
 彼は部下に脱出を指示し、最後までコックピットに留まる。
 僅かでも、僅かでも可能性があるのであれば、彼は機体を捨てる訳には行かなかった。自分の相棒だった。そしてそれ以上に、どこかの前線部隊が、顔を見た事すら無いであろう友軍達が、自分の物資を待っている筈だった。
 だから、だから彼は――。


●任務依頼
「皆様への依頼を説明させて頂きます」
 傭兵達の前に現れたモーリス准尉が、書類片手に地図を指し示す。
「今から2時間前、この地点において輸送機が連絡を断ちました。通信妨害、そして機体側における何らかのトラブル‥‥まぁこれは予測ですが、このトラブルにより、確実な情報は掴んでいません」
 地図で指し示された地点は、イベリア半島はスペイン。
「しかし、救援信号が発せられていましたし、信号の種類は敵機襲来から、墜落等を知らせるものに変わっています」
 モーリスの説明を聞くと、この輸送機に積載されていたのは、前線の部隊へ送られる筈の物資だったらしく、補給の失敗により、一部の小隊は後退せざるを得なかったらしい。
 ――では、我々の任務は前線への支援か。
 傭兵の誰かが発した問いかけに、モーリスは小さく首を振る。
「申し訳ありませんでした。本題から伝えるべきでしたね。皆さんには、墜落した輸送機のパイロット2名を救出して頂きたいのです」
 依頼の概要はこうだ。
 前線には大規模な支援を掛けるものの、敵中に墜落した彼らの救出に大軍を動員する余裕は無い。しかし、だからといって、彼らを見捨てる訳にも行かない。そこで、少数精鋭の傭兵達に依頼が廻ってきた。
 UPCとしては、もし、もし仮に、不幸にもパイロット達が死亡していたとしても、一兵たりとて見捨てない、救出作戦はきちんとやる、という事実がほしい。
 そして、司令部の総意として、助けられるものなら一兵たりとて死なせたたくない。
「作戦名、フェニックスの尾作戦‥‥今回の依頼は、多少なりと危険が伴います。パイロット達の状況は不明、生死すら確認できていません。それでもよければ、何とか願いします」
 最後に一言、モーリスは小さく頭を下げた。

●参加者一覧

ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
ロジャー・ハイマン(ga7073
24歳・♂・GP
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN
水流 薫(ga8626
15歳・♂・SN
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
なるなる(gb0477
20歳・♀・ST
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
梵阿(gb1532
10歳・♀・ST

●リプレイ本文

 揃えられた物資を見渡し、風羽・シン(ga8190)が呟く。
「‥‥ふむ、ある意味偽善的でもあるが‥‥確かに、多少の希望があった方が生き延びようって気になるわな」
「それ以上に、危険な任務の後に見捨てられてしまうかも‥‥となれば、兵士達は戦う気力をなくしてしまいますからね」
 ロジャー・ハイマン(ga7073)、彼は救助や救出といった依頼、任務を半ば専門にこなしている。この依頼にも、別の依頼を断って参加したぐらいだ。その分、意気込みも高かった。
「あぁ、状況は厳しいが、僅かでも可能性があるなら助けてみせるさ」
「そういう事ですね。とりあえず、早いところ荷を積み込んでしまいましょう」
 それぞれ、ジープに荷を積み込むブレイズ・カーディナル(ga1851)とリュドレイク(ga8720)。まず、探索の足としてサイドカー付きのバイクを2台申請した。ジープは、能力者所有のジーザリオがあるので不要として、リュドレイクの申請した荷の中では、10人分の糧食2日分は結構な量になる。あとは、糧食に次いで武器弾薬の類が多い。
「まぁ、これだけあれば弾薬に困る事はないでしょう、ね」
 弾薬の山を叩く水流 薫(ga8626)。
「急ごう。今まさに同志が儂らの助けを待っている」
 梵阿(gb1532)の言葉に皆が車やバイクに向かうなか、ラウラ・ブレイク(gb1395)が、最後の荷物をジーザリオに放り込んでいた。


●出発
「パイロットのお二人、無事だといいですね〜」
「えぇ」
 のんびりとした声を響かせるなるなる(gb0477)。その言葉に、ラウラは小さく頷いた。
 だが、ハンドルを握る彼女の様子は、どこか遠くを見ているようにも思えて。
「さっきの最後の荷物、あれは何だったんですか〜?」
「‥‥遺体袋よ」
「まだ死んだと決まった訳じゃ‥‥」
 ぎょっとするなるなる。彼女の言葉を遮り、ラウラは割り込む。
「違うわ。もし死んでたとしても、遺体だろうと連れ帰りたいの」
「遺体を、ですか〜?」
「空っぽの墓に、手をあわせるのって虚しいでしょ?」
「そう、ですねぇ‥‥」
 ラウラに思い出されるのは、空っぽの墓だ。遺体も無く、主が不在のまま立てられた同僚たちの墓――どうしても、その事を思い出す。なら、そのもしが無い事を祈ろうというなるなるの言葉に頷き、ラウラは強くアクセルを踏み込んだ。


「パイロットが生きてりゃ良いですけど、ね」
 双眼鏡を構えたままの薫が、苦い顔をした。
「‥‥うん、パイロットさん達も含めて、全員無事で帰ってきたいね」
 バイクを運転するのはロジャーだ。
 フライトジャケットの襟が、風にばさばさと揺れている。
 現在位置はピレネー山脈を越えた辺り。ここまでは道路でまっすぐ走ってこれたが、此処から先はバグアの優勢な地域。人類側の部隊も展開しているものの、有利な状況とは言えず、傭兵達は改めて気を引き締める。
 そんな最中、傭兵達の通信機が鳴り響く。
『あー、こちらシン。キメラを発見した。こっちのルートは使わない方が良いな‥‥暫く無線をきるぞ』
 その通信に、リュドレイクは一旦ジーザリオを停車させる。
 ブレイズが地図を取り出すと、ルートとの兼ね合いを始めた。やや遅れて停車するラウラ達のジーザリオ。ルートをどうすると問われ、ジーザリオで移動する4人は、やや遠回りになるルートへ切り替えた。
 あとは一時後退するシン達のバイクを待って再度の出発となる。
「問題は俺たちだ、ね」
 地図を眺める薫。
「戻らない方が良いかな」
 運転席からサイドカーへと身を乗り出し、ロジャーは地図を睨む。キメラの発見地点と現在位置、本隊の所在を考えると、戻るのはあまりに非効率的だった。両者合意の上、二人は再び探索を開始した。
 一方、シンはなだらかな小道を戻っていた。
 サイドカーでは、梵阿の小さい身体が身を乗り出し、双眼鏡を通じて、辺りに視線を走らせている。
「どうする、戻ったら一度交代するか?」
「いや、構わん」
「ほう?」
「ラボに篭っているばかりがサイエンティストではない。これぐらいでへたばるものか。広大な大地でのフィールドワークもまた、サイエンティストの領分であることを教えてやる」
 シンの問いかけに、えへんと胸を張る梵阿。
 ならばと、シンはアクセルを捻る。バイクが大きく揺れた。


●回避回避また回避
 途中、キメラや戦闘の痕跡を回避しつつ、傭兵達は飛行ルート下へと向かった。
 墜落したと思しき地域は、連絡を断った方角から凡そ解っている。異常無しと告げる先行班の連絡を受けながら、二台のジーザリオは後を走り、先行班は更に前へ前へと走ってゆく。
『次の道を右へ行けば、飛行ルートの下へ出る筈ですね』
 無線機から発せられたリュドレイクの声。
「こちらロジャー、了解」
 ロジャーの隣では、薫がクラッカーを頬張っていた。しかし、その手からスコーピオンを離すことはない。敵地に深く侵入するにつれ、どうしても緊張の度合いは高まっていく。
『あぁ、少し待って下さい』
「‥‥?」
 突然の停止要請に首を傾げる二人。
『友軍が見つかったんです』
 無線機から口を離し、リュドレイクは前方を見やった。
 助手席から降り、トラックの兵士と話し込むラウラ、なるなるへと向かう。
「サラゴサ方面、午前4時ごろに墜落した輸送機を知らない?」
「輸送機なぁ‥‥」
 兵士達の反応は芳しくない。
 彼等は数台のトラックに分乗していたが、向かう先は傭兵達と逆方向、つまり撤退中。少なくともこの部隊は。
「おい、誰か知ってるか?」
 助手席から顔を出す兵士が、荷台の兵士に問いかける。顔を見合わせ、首を横に振る兵士達。朝四時という時間帯もさる事ながら、彼ら自身に余裕が無い事も影響が大きそうだった。兵士達は、皆疲れた顔をしていた。
「残念です、誰も見てないんですね〜」
 溜息をつくなるなる。
 そんな中、一人の兵士が身を乗り出す。
「俺、昨晩は見張りをやってたんだが、それらしいもんは見て無いぜ」
「そうか‥‥」
 残念そうに肩をおとすラウラ。ひとまず、その見張りに野営した位置と見張っていた方角を記してもらい、彼等は友軍と分かれた。見張りが見ていないという事は、逆を言えばその方角に落ちた可能性は低い。
 場所を特定する事は出来ないが、候補となる地域を絞る事には役立った。
 本隊の合図に合わせて再び走り出す先行隊。
 そのまま何時間程走っただろう。
 途中で幾度か集落や街にも差し掛かったものの、殆どは無人だった。おそらくは、戦闘の激化に伴って避難したのだろう。
 慎重に進む彼らは、敵を見かければ極力迂回し、戦闘を回避して進んだ。この点において、先行隊と本隊を分けた彼らの作戦は見事に的中した。大所帯で敵と遭遇すれば戦闘の回避は容易でなかっただろうし、先行班が発見し次第迂回するという手段は、時間が掛かりこそすれ、安全である事には違いはなかった。
 一度の戦闘も無く、彼等は少しずつ前進を続ける事が出来たのである。
「何か見えるか?」
「むぅ‥‥」
 ちらりと梵阿を見やるシン。戦場故か、時折爆音や銃声が耳に鳴り響く。そうした音を気にも留めず、梵阿は食い入るように双眼鏡を覗いていた。
「‥‥止めろ!」
 梵阿が叫んだ。
 素早くブレーキが掛けられ、砂利を跳ねる。
「どうした?」
「バックだ、バック!」
 促され、シンはバイクをターンさせる。再び双眼鏡を覗き込む梵阿が、明るい笑顔をあげた。
「見ろ、パラシュートだ。どうだ、伊達に日々レンズを覗いている訳ではないぞ!」


●フェニックスの尾作戦
 パイロットを前にして、ラウラが押し黙っている。
「‥‥遅かったみたいね」
 いや、正確に言えばパイロットだった物体、だ。既に、息絶えている。おそらくは、降下した後にキメラに襲われたか。パラシュートから少し離れた地点で、パイロットは腹を食い破られていた。ラウラは遅かったと評したが、距離から考えれば、降下直後に襲われたのかもしれない。
 死体袋を開き、遺体を収容する一行。
「急ぎましょう。もう一人はまだ無事です。きっとです」
 ロジャーがバイクに跨り、エンジンを捻る。サイドカーには薫と交代してなるなるが乗り込んでいた。パイロットの死に沈んだ表情のなるなるだったが、気合を入れなおし、渡された双眼鏡を手にする。
 朝に出発した一行だが、時刻は既に夕方。
 空は暗くなり始めていた。夜になれば、探索には困難が伴う。とはいえ、野営の提案は出されなかった。戦闘でスキルを使ったわけでもなく、錬力には余裕がある。とにかくまずは墜落した輸送機を探そうと、その点において異論は無い。
「ここから北西の方角だな」
 地図を睨むブレイズ。
 輸送ルートの飛行ルート下に出た一行は、そのまま連絡の途絶した方角へ向かった。脇道へと入り、木々が生い茂る中を走る。やがて、バイクやジープはライトを点灯する。時刻は夜の7時を過ぎつつある。
「まずいです、ね」
 空を見上げる薫。
「急がな‥‥少し停めてくれます?」
「何だ?」
 ブレイズがブレーキを掛けた。ジーザリオから飛び降りた薫は木々の合間を覗き込み、振り返る。
「輸送機の破片か、な?」
 無線で連絡をと伝える薫。ブレイズが無線機を手に取り、先行する二台に向けて連絡を入れる。無線連絡を受け、シンやロジャーが速度を緩めると、サイドカーの二人が無線に顔を近づける。
 先に口を開いたのは、梵阿だった。
『輸送機の破片?』
「そうだ」
『方角は?』
「少し西に逸れる」
『了解だ』
 短く簡潔なやりとり。なるなるが口を挟む隙も無かった。
「ロジャーさん、少し西に逸れるみたいです〜」
「了解、ちゃんと掴まってて下さいね」
 ハンドルを切る。
 今までは細い道を走っていたが、その道を逸れるとなれば、木々の合間を縫うしかない。幸い地面の起伏は緩やかで、木々さえ避ける事さえできればある程度の速度は維持できた。
 バイクはやがて木々を抜けて開けた空間へと出る。
 そして――
「あった‥‥あった!」
「わぁ、やっと見つかりましたね〜!」
「ロジャーです、輸送機を発見しました。位置は‥‥」


 シンと梵阿の二人が急いで現場に現れたのとほぼ同時に、ロジャーが輸送機から顔を出した。
「大丈夫です、生きています」
 気絶したまま動かないパイロット。見れば、足や腕があらぬ方向に曲がっては居るが、確かに生きている。ロジャーの抱えるパイロットに、梵阿となるなるの二人が駆け寄る。
「良かったです〜大丈夫だったんですね〜」
 ほっと胸をなでおろし、彼女は超機械を取り出した。
「全般の治療は任せるぞ。儂は骨折の処置をする」
 梵阿は救急セットを広げ、腕や脚の手当てに取り掛かった。
 酷い怪我ではあるが、一通りの治療は練成治療で行える。あとは、今後困ることが無いようきんちと処置をすればよい。
「添木だ、添木を取って来い。早くせぬかぁ」
 わっと大声を上げる梵阿。
 小さい身体でテキパキと治療をする様に驚きつつ、ロジャーとシンは添木になるものを見繕う為、走った。そうして治療を続ける途中、少し遅れてジープ二台が到着する。胴体着陸した輸送機を横目に駆け寄るブレイズ達。
「治療は大丈夫ですよ〜安心して下さい〜」
 言葉以上に安心感のある彼女の笑顔に、ほっと胸を撫で下ろす一同。
「‥‥と、なると」
「そうだな」
 薫の言葉に、ラウラが頷く。
 視線の先には輸送機。元々は物資を輸送しようとしていた輸送機だ。まだ使えそうな物資や機密物があればと輸送機を覗き込み、必要そうなものをジーザリオへと放り込んでいく。とはいえ、胴体着陸の影響もあって、殆どのものは破損し、使い物にならなくなっていた。
「うっ‥‥」
 一通り荷物を移し終え、あとは移動するだけという段階になって、パイロットが目を覚ました。
「大丈夫‥‥じゃないですよ、ね。水、飲みます?」
 薫からミネラルウォーターが差し出される。
 脇についていたなるなるがそれを飲ませてやり、一本全てを飲み干し、兵士は一息ついた。
「あんた達は一体?」
「心配しなくても良いわ。あなたを救出に来たのよ」
「本当か‥‥すまない、ありがとう」
 安堵の表情を浮かべかけ、しかし、彼は思い出したように顔を上げた。
「そうだ、もう一人居る筈だ。途中で脱出して‥‥」
「それは‥‥」
 言葉を遮るリュドレイク。
 兵士の視線に首を振った。
「そうか‥‥」
「さて、動かせるようなら移動しよう。敵に発見されると厄介だ」
「けど一度休憩すべきね。錬力の事もあるし、いざという時に疲れが出れば意味が無いもの」
「フム‥‥」
 ラウラの言葉に、顎へ手をやるシン。
「まぁ、休むなら休むでその時は、俺が見張りに立つよ」
 金髪をかきあげ、リュドレイクは笑顔を見せた。
 幸い、糧食はしっかりと積み込んであるので、パイロットにもきちんとしたものを食べさせる事が出来る。休憩するに際して不足は無い。皆はそれぞれに自分の状況を述べ、相談した結果、ひとまず輸送機の傍は離れ、警戒しやすい場所で休むという事になった。
 後は彼を連れて退却すればそれで依頼は完了だ。
 今までと同じように退却すれば、さほど難しくは無い。その筈、だったのだが――