●リプレイ本文
ミスコンの審査員は応募が無かった。
応募者自体も少なかったので、運営側で行きずりのヲタクをとっ捕まえて審査員、採点者に引っ張り込んだ。審査員は5人。一通り揃っている。
「では、一番手はハルカ(
ga0640)さんでぇす!」
司会者の元気な声が会場に響いた。
出場者の順番はくじ引き。最初に廻ったのが吉と出るか凶と出るか。
その声と共に現れたハルカの姿は、普段となんら変わりない。彼女は白いタンクトップを着こなし、紺色のカットジーンズを穿いている。普段着だ。しかしだ、その普段着こそが彼女のアピールポイントを最大限に強調する。
グラビアアイドルらしいメリハリの利いたラインのうち、ふくらみのある部分は服で隠れ、腰のくびれだけが目立つ。
審査員席からざわめきの声があがった。
それは、彼女の流麗な身体のラインに眼を奪われるという以上に、その手にあるボクシンググローブが気になったから。
「1番ハルカ。え〜っと、イイ子ちゃんです〜‥‥ダメ、ですか?」
審査員席からの反応は芳しくない。天然やアホの子属性の者はいないらしい。
「それじゃ、他にもアピールポイントをお願いしまぁす」
「は〜い。ん〜‥‥」
少し首を傾げるハルカ。ややして、思い出したように脚を開く。
――ところが、開かれた脚は止まる事なくずるずると開いていき、あれよあれよと言う間に180度。そのままぺたりと前屈してみせる。もっとも、大きい胸があるせいで、完全にぺったり前屈できた訳じゃあない。
図らずしも強調された胸に眼を奪われる審査員。彼女はそこで更に立ち上がり、素早くグローブを繰り出した。
「シャドーボクシングですね〜」
「おぉっ!」
司会者や審査員も驚く。鳴り響く指笛。何故なら胸が大きいのだから、パンチを繰り出せばその度に‥‥あとは語るまでもなし。何の事か解らない者は修行が足りぬ。この場の審査員達であれば、眼を瞑っていても情景が思い浮かぶだろう。
「ありがと〜御座いましたっ」
一通りボクシングスタイルをとった後、健康的な汗と共に、彼女は下がっていった。
審査員達が手元の書類に点数をつける。
「さぁ、次は三島玲奈(
ga3848)さんでぇす!」
呼ばれて飛び出す玲奈。奇妙な格好で、会場に現れる。
その格好は、長袖セーラー服に瓶底眼鏡。コミレザのカタログを読み耽りつつ、更には俯いて何かをぶつぶつと呟いている。空気が暗い。淀んでいる。
「おや‥‥?」
エントリーの時と違うな、と首を傾げる司会者。
のたり、ぺたりと歩いてきた玲奈は、突然、どんでん返しで場面を変えるが如く、眼鏡を投げ捨てて振り返る。覚醒し、眼には炎が渦巻いていた。
曰く、キーワードはキッス。
KISEKAEのKIS。
そうして審査員達の眼を奪っておいて、胸元のリボンをするりと緩める。
「南風と太陽か‥‥君のイジワルに萌え」
投げキッスと共に後ろを振り向いて、セーラー服を脱ぎ去る。しかし、その下から現れるのは、下着姿等という露骨なものではなく、体操服だ。しかもブルマー。更には赤色で2本線。もちろん裾はブルマに突っ込んである。
「むむッ、これは」
「まさか‥‥」
審査員達がひそひそと顔を寄せ合う。
そんな彼らの前で、玲奈は軽い運動をこなして屈伸運動をとり、汗を拭った。
「潮の香りがボクを呼んでいる――今いくよ♪」
再度の投げキッス。ブルマを脱ぎ捨て、競泳水着を体操服の下に除かせつつ、彼女は会場を後にした。これぞ、三種の神器。解説も含めようとして機会を失ったが、そんな事に何の問題があろうか。
審査員達はそろってコミレザに参加する百戦錬磨のヲタクどもである。
日本の伝統的なその三点の存在を知らぬ筈が無い。
評価も中々に上場。ただ‥‥司会者とちょっとキャラが被り気味なのがマイナスに働いてない、とは言えなかった。
●男組
一方舞台裏。
「るな姉ぇさん‥‥こんにちわ」
小さく、静かに、イスル・イェーガー(
gb0925)が声を掛ける。
「‥‥? あぁ、イスルさん」
にっこりと笑う。
準備中から緊張の色を隠しきれないイスルは、知人である神無月 るな(
ga9580)を見つけ、思わず駆け寄ったのだ。一安心とほっとしかけるが、スタッフが現れ早く早くと彼の手をとる。
「え‥‥えと‥‥?」
「頑張ってきて下さいね」
小さく手を振って、るなは彼を送り出した。
「さて、お次の登場はイスル・イェーガー君です!」
三人目、イスルがひょっこりと顔を出す。
歳不相応に落ち着いた雰囲気の彼は、しずしずと舞台中央へと歩く。傍目には落ち着き故の静けさと見えたかもしれないが、その実、彼は緊張の極地にあった。
元々このコンテストに参加したのも人見知りを、人付き合いの苦手を克服したいと思っていたからだ。元がそういうつもりだったから、結局は普段通りにそっけない態度がありありと表れてしまっている。
「それではっ、自己アピールをどうぞ〜!」
「あぁ、えぇ‥‥」
ぽつりと応えるイスル。
どうしたのか、と首を傾げる司会者。
周囲からはツンツンとしているように見えたかもしれないが、しつこいようだが、彼は緊張しまくっているだけだ。
「たとえばほら、好きなもの嫌いなものとか」
「えと‥‥注射、かな‥‥」
ぴくりと反応する審査員。特に女性。腐り気味の人。
ぎょっとして身を引くイスルだが、何分人付きあいの経験も少ない。審査員が何に反応したのかは解らない。解らないままに、視線がじっと集中してしまうと、あまりの恥ずかしさに頬が朱に染まる。
「ぁ‥‥いや、えと‥‥うぅ‥‥」
恥らう様子に余計に視線が集中する。
悪循環だ。
(こ、このままじゃ‥‥)
その悪循環を断ち切る為、彼は覚醒した。右目を赤色に変え、銃の腕を披露すると宣言、司会者の頭に林檎を乗せてもらう。何か特技等のアピールに廻れば意識も集中できる。先ほどとは打って変わって、彼の眼は真剣そのもの。
落ち着き払い、片手でゆっくりと銃を持ち上げる。
「さぁ、失敗すれば私の頭が吹き飛びます!」
何気に恐ろしい事を口走る司会者。
そういった言葉も聞き流し、彼はじっと林檎を見据えた。
ふいに、指へ力を込める。
一直線に走った銃弾が、見事に林檎を貫き、浮かび上がらせる。
「ブラボォ!」
直後、拍手が沸いた。
その拍手に、イスルは再び真っ赤になって俯いた。
「さて、再び男性の登場。続いて福居 昭貴(
gb0461)さん、どうぞ〜!」
イスルに代わって舞台へ現れる昭貴。
その手には包丁を一振り。
「実はですね‥‥何を隠そう、俺は『男前の板前』と呼ばれています」
その称号に似合うだけの男前っぷりを、彼は兼ね備えている。
格好良いとかハンサムという形容詞より、男前という呼び方が似合うのだ。こう、生真面目そうで、折り目正しく、職人然としている。
具材を前にしての包丁捌きもかなり様になっているし、天ぷら鍋の準備もまるでプロのようだ。
笑顔を見せつつ一通り料理の腕をアピールすると、彼は鍋を取り出した。
鍋の中には、料理の完成品。
いわゆるひとつの‥‥料理番組。時間配分もばっちりだ。
皿に盛り付ける様子も手馴れたもので、料理の準備は手早く終え、彼は机の上に綺麗に盛り付けられた皿を並べた。
あまり優勝する気も無い。
出すぎず引きすぎず、程々なパフォーマンスを披露し、一礼して彼は出番を終えた。
●後半戦
続いての登場は彼女、と司会者が舞台裏を指差す。
登場するのは先ほどイスルと言葉を交わしていた神無月るなだ。
「頑張って、下さいね‥‥」
イスルに言われて、彼女は軽く微笑んで応じた。彼女の服装は紫と黒で統一されている。悪友のイチ押しでフリル付き‥‥というよりフリル全開のゴシックロリータの丈長ドレス。選んでくれたのは友人で、自分で選んだ訳ではない。
服装に不満は無いかと聞かれれば、悩みであれば少なからず感じていたりして。
「うーん‥‥」
ちょっとげんなりとしている様子が傍目にもよく解る。
とはいえ、優勝を狙っている辺り、ミスコン参加自体は結構ノリノリ。
「おっと、これはまたストレートなゴスロリですね〜!」
司会者がひょいとマイクを向ける。
何をどうすると特に考えていなかった彼女は、反射的に、にこりと微笑んでみせた。
その笑顔に嬉しい悲鳴をあげる審査員数名。彼女は微笑を崩さず、ファッションショーのように、しずしずと前面に歩み出た。
「‥‥」
この浮世離れしたおしとやかさに、儚げな雰囲気を漂わせる微笑み。何名の審査員が、彼女の雰囲気に騙されただろう。名古屋攻防戦で保護された彼女には、誰にも踏み込めぬ陰があった。最近こそ周囲の影響で笑みを見せるようになってはいるものの、その微笑みは少なからず偽られている。時には一寸の差で表裏一体の微笑みを振りまいてもみせた。
そして、彼女のそういった生き方こそが、一種独特な雰囲気をかもし出しているのかもしれなかった。
「ムムム‥‥」
司会者も質問すべき事柄が中々思い浮かばない。
ひらひらとフリルを揺らしながら、彼女は登場時と同じように、静々と下がっていった。ひと時、場がしぃんと静まり返り、遅れてざわめきが沸き起こる。近しい人間と今のが良かったか否か、それを語らいあう声だ。
「い、以上、神無月るなさんでしたぁ! 次は最後、香原 唯(
ga0401)さんでぇす!」
「あっ、はい、ただいま〜」
先ほどの静けさとはまた違う、のほほんとした静けさが会場に広がった。
唯はほぼ普段通り、茶色いブレザーに白衣という姿で舞台にあがり、手にはおたまを持っている。
「先生、ファイトっ」
舞台裏から小声で応援する昭貴。
二人は助手と先生の間柄。彼が出場者の側に廻ったのは、身内贔屓にならぬようという意味もある。
「香原唯です。庶民派傭兵を目指しています」
よろしくお願いしますね、と彼女はぺこりと頭を下げる。
家で焼いてきたどら焼きを取り出して、彼女は料理器具に歩み寄った。外見や特技に突出した何かは無い。彼女にとって自らのアピールポイントは笑顔が全て。にこにこと笑ったまま、彼女はフライパンを暖め始めた。
「どら焼きは簡単で、材料もお手軽なので、家で作る事も多いんですよ」
会場の参加者達は――会場が大阪故に当然日本人が多いのだが――その言葉に意外そうな表情を向ける。どら焼きを自分で焼く、というのは、多くの日本人にとっては馴染み薄い。
彼女はどらやきをじっくりと暖めるとチョコペンを取り出す。
「これ、どうするんですか?」
不思議そうに覗き込む司会者を横に、彼女はチョコペンを圧し、ゆっくりと動かした。
少しずつ、司会者の顔がなるほどと納得したものに変わる。ところが、審査員達には何が起こっているのか解らない。ややして、彼女は顔を上げ、完成したと告げる‥‥と同時に、カメラがフライパンの中を映し出した。
どら焼きには可愛らしい笑顔がひとつ。
「この出来立てホカホカのどら焼きは、優勝者へのお祝いにプレゼントしましょう」
チョコペンで似顔絵を描いたのだ。これはという派手さこそ無いものの、最後の最後に、会場はのんびりとした雰囲気に包まれた。
「さてさてさてぇ!」
マイクを手に小指を立てて、司会者は仁王立ちに立ち上がる。
「では‥‥運命の時、です!」
居並ぶ審査員達は肩で息をしている。勝負は接戦にもつれ込み、喧々諤々と言い合い、優勝者はやっとの思いで選出された。当初に各自がつけていた点数を統合すればほぼ優劣が付くものだが、それが中々つかなかった。
「コミレザ第一回ミス・ミスターコンテスト、栄光ある優勝者は――!」
息を呑む一同。
息を荒げていた審査員達も暫し声を潜め、結果発表を待った。
小太鼓の音が長く長く鳴り響き、明るい会場の中、ライトが出場者達を照らし、走る。
「イスル・イェーガー君ッ!」
ライトがぴたりと交差する。
「ツンデレとは少し違う、静けさを伴った態度、そして後半の実力アピールでポイントを稼ぎました。僅差での優勝となりまぁす!」
「‥‥え?」
ライトに照らされ、衆目を集めたイスルは爆発したように真っ赤になり、茹で上がった。慌てふためく彼にスタッフ数名が駆け寄り、嫌がる彼に優勝トロフィーを押し付ける。
「尚、彼には希望衣装がありませんでした為、執事服とメイド服のセットを贈呈する事に致しました。また、他出場者から申し出のあった唯さん作の似顔絵どらやきに昭貴さん作の豪華料理!」
先ほど作られた料理がぞろぞろと運び込まれ、彼の前に並べられる。
「あの、僕、こんなには‥‥」
おろおろと慌てるイスル。
しかし周囲の『おめでとうムード』が彼に引き下がるという選択肢を認めない。
結局彼に二着の服装が押し付けられ、コンテスト参加者達は皆揃ってのんびりと食事、デザートにはどら焼き。
――もっとも、優勝衣装を着るか否かはイスル次第。
「‥‥それにしても、皆さん凄いですね」
このパワーや勢いがあればバグアなんて怖くないかもしれない。割と本気で、昭貴はそう思いつつ会場を後にした。