タイトル:Cold Turkeyマスター:御神楽

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2008/07/15 22:45

●オープニング本文


●パンを作る男
 麻薬というものは、儲かる。
 ケシは麻酔にも利用されるものであり、ヨーロッパなどでは大規模に栽培されていたりもする。だが、好き勝手に栽培できるものではない。もちろん、麻薬精製を目的に生産するなどもっての他。通常は政府によって厳しく統制されている。
「私は、麻薬畑を持ってました。去年までは」
 難事を持ち込んだのは、ボスニアの農家。
「しかし摘発されて、それからは真っ当に農業をやってるんです」
「せやけど、昔の付き合いがーってか?」
「そうです。ほとぼりが冷めたと見て、奴等がもう一度話を持ち掛けてきたんです。もちろん断りましたよ。やつらが脅してきたって、私は決して首を縦に振らなかったんだ。なのに、なのに‥‥」
 言葉を詰まらせる男。
 どうした、とエミールが問いかけると、沈んだ表情を持ち上げる。
「娘を誘拐されたんです。娘の命が惜しければ、言う事を聞けと脅されました。一日やるから、明日改めて答えを聞きに行くぞと‥‥」
「警察は?」
「駄目です。色々と理由をつけてとりあってくれない。奴等、報復を恐れて、揉め事にしたがらないんだ」
 バルカン半島での攻防戦もあり、地元の治安維持機関は軒並み疲弊していた。
 この上、大型マフィアとのドンパチは避けたい。そんなところだろう。今の状態では、警察の力はあてに出来そうになかった。
「しかしアンタ、金はあるんか。傭兵なんて、所詮は金で動く人間やで」
 みてくれ、と、男はパンをひとつ取り出した。
 目の前に座っているエミールに食べてくれ、と押し付ける。
「‥‥おぉ、んまいっ」
「うちの小麦で作られたパンです。お願いだ、はした金しか準備できないが、頼む、助けてくれ! パン、美味かったろう? この小麦を麻薬畑になんか戻したくないんだ!」
「うっ‥‥えぇーい! しゃーないっ、一肌脱いだるっ!」
 エミールが膝を叩き、パンを頬張る。
「へやへど‥‥うぐ」
 トントンと無い胸を叩いて飲み込み、腕を組む。
「せやけど、どれだけ物好きがおるんか、その辺りは期待したらあかんで?」

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
香原 唯(ga0401
22歳・♀・ER
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
稲村 弘毅(ga6113
23歳・♂・GP
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
福居 昭貴(gb0461
19歳・♂・SN
城田二三男(gb0620
21歳・♂・DF
武藤 煉(gb1042
23歳・♂・AA

●リプレイ本文

 まだ朝靄も消えぬ内に、傭兵達は農家へ到着した。
 エミールから提示された金額は安いものだったが、彼等は嫌な顔もせずに依頼を請けた。泣きそうな顔で飛び出し、彼等の車を出迎える依頼人。
「ありがとう御座います。本当に、何とお礼を言えば良いか‥‥!」
「フッ、最近ストレスが溜まってたからな‥‥」
 暴れられれば良いのさ、といった感じで手を振るう稲村 弘毅(ga6113)。
「‥‥たまにはパンも食いたくてな」
 城田二三男(gb0620)も、車から降りて手を掲げた。
 とにかく彼等は、余裕を持って早く農家を訪れた。とりあえずあがってくれ、と農家の依頼人に促され、彼等は家の中へと足を踏み入れる。
「‥‥ん。お腹空いた‥‥パン焼いてくれると、嬉しい」
「え? あ、あぁ、はい、勿論です」
 最上 憐 (gb0002)の言葉に暫しキョトンとした農夫だったが、慌てて台所へ向かい、妻にパンを焼くよう告げる。それはそうと、と、大泰司 慈海(ga0173)が縄梯子やロープは無いかと問う。農夫からロープを受け取ると、彼は車のトランクへロープを放り込んだ。
「それと‥‥娘さんの写真はあるかい?」
 差し出された写真は若干古いそうだが、おそらく問題は無いだろう。彼等は同様に名前も確認し、準備を整えた。
 一通り落ち着くと、憐がパンを頬張っている隣で、武藤 煉(gb1042)が溜息交じりに口を開いた。
「‥‥要するに、オッサンの自業自得ってヤツなんだろ?」
 その言葉に、農夫の顔が沈む。
「マフィアの世界はそう甘いもんじゃない。そんな事、解っていただろうに」
「あの時は、金が必要だったんです。それに、奴等は異常だ!」
 異常、というストレートな言葉に、傭兵達は怪訝な顔をする。
「ジュリアーニは、ここ数年でのし上がって来た組織です。それに、元々この辺りを仕切ってた組織には、そんな悪どい噂は聞かなかった」
「ジュリアーニ・ファミリーは新興マフィアという事か‥‥」
 木場・純平(ga3277)は顎に手をやり、ふむと考え込む。
「噂じゃ、ジュリアーニは元々その組織の幹部で、ドンを裏切ったって話ですが‥‥」
 無論、一般人である彼はそれ以上の事を知らない。そして、最初に麻薬栽培を提案された際も、彼は最終的に承諾こそしたが、銃を手にして脅し同然に栽培を迫られたという。
「‥‥あら。時間ですね、そろそろ行きましょうか」
 皆の思考を打ち破り、香原 唯(ga0401)が呟く。彼女はハンドガンを手にすると、福居 昭貴(gb0461)に手渡した。
「有難う御座います。でも‥‥緊張しますね」
「あっくんなら、きっと大丈夫ですよ」
 傭兵達はそれぞれの装備を手に、車へと乗り込んで行く。
 純平は車の窓から腕を乗り出させて、厳つい顔を向けた。
「娘さんは必ず助け出してやる。だから、安心して報酬のパンを焼いていてくれ」
「それから、娘さんを抱きしめる準備もな。後は俺たちが何とかするさ」
 彼の言葉に煉が続き、小さく笑ってみせた。



 目立たぬ服装の唯が、車の窓からこっそりと、双眼鏡を向ける。
 夕刻。屋敷の外には数名の男が常駐しているらしく、門番の装備こそ軽そうではあったが、庭の奥に腰掛けている男達は突撃銃まで手にしている。
「車が、出ましたね‥‥」
「どれどれ?」
 煉が双眼鏡を受け取って車を見つめる。
 視界から車が消えると、彼は無線機を手にし路上に待機している味方へと連絡を入れた。隣に停車するランドクラウンは慈海のもので、娘の奪還を担う班。煉と唯は陽動担当だ。
「‥‥っと、ちょっと待ってな」
 慈海は出発しようとした皆を制し、車を降りるとナンバープレートを外した。それをトランクへと放り込み、運転席への戻り際、後部座席の憐に声を掛ける。
「憐ちゃん、起きてるかい?」
「‥‥ん。車乗ると。眠くなる」
 お弁当のパンを取り出し、頬張る。
 両班は互いに軽く挨拶を交わすと、屋敷に眼を向け、エンジンキーを廻した。

「連絡が入ったな。車は黒のフォルクス。ナンバーは‥‥」
「ハッ、掴まってろよ‥‥飛ばす!」
 二三男が言い切る前に、弘毅はアクセルを踏み込んだ。
 無線性能の問題から、彼等は街中に待機していた。脅しの為と思われる車が出たと連絡を受けた以上、急いで先回りする必要がある。
「‥‥まぁ、こっちはこっちで楽しめそうだな‥‥」
「何だ?」
「いや‥‥何でもない‥‥」
 ジーザリオは土煙を上げ、麦畑を走り抜けた。
 起伏の多い道を走り抜け、二人は路上に車を停めて下車すると、荷台の辺りでぶらりとマフィアを待った。街中さえ出れば、農家への道はほぼ一本道。暫く待っていると、やがて情報の車が姿を現した。
 ボンネットに廻って少しして、マフィアの車が後方に停車する。
「何してる、どきやがれ!」
 停車すると同時に、マフィアの怒号が投げ掛けられ、弘毅がひょいと顔を覗かせる。
「どうもすいませぇん。エンストしてしまって」
「何ぃ? エンストだぁ?」
 にへら、と笑顔を見せた弘毅に対し、マフィアの二人が車を降り、歩み寄る。
「急いでどかしますんで‥‥っと!」
 言い切るより早く、彼はマフィアの頭を掴んで膝を持ち上げた。先程のにへらとした表情は演技‥‥既に彼は、鋭い眼光で相手をにらみつけている。鈍い音と共に、男の顔へ膝がめり込む。強烈な一撃にふら付いた所へ、追い討ちとばかり鳩尾への一撃。
「沈め‥‥!」
 彼の言葉と共に、男は膝を降り、倒れこんだ。
 突然の事に驚くマフィア。一瞬の時間を置いて胸へと手をやる。
(運転手含めてあと一人‥‥)
 二三男は運転席の刀を掴み、地を蹴った。
 マフィアは拳銃を手に二三男を追おうとするも、弘毅が肘を振るい、相手を打ち倒し、拘束する。運転席の男は異変に気づいて助手席に手をやったかと思うと、短機関銃をその手にした。
 だがその手を、刀の鞘が思い切り叩き伏せていた。
「‥‥随分、派手な武器まで用意してるな」
 開いている窓から突き込まれた鞘。二三男が顔を出し、運転手を睨み付けた。


●作戦開始
「よっと‥‥!」
 壁を乗り越え、煉が手を差し出す。
 唯に手を貸すと、彼は一気に引き上げた。見渡せば、近くには駐車場や庭があるが、さほど広いという訳でもない。長々と破壊工作を続けるという訳には行かないようだ。
 飛び降りるが早いか、二人は覚醒し、それぞれの得物を手にする。
 煉はユンユクシオを握り締めると、停車していた車のボンネットを叩き伏せる。
「な、何事だ!」
 金属がへしゃげた音に驚いて、見張りの兵隊が立ち上がった。
 相手にとってみれば車どころではない。突然の襲撃に対応し、無線機を手にした。襲撃だ、と叫ぶ大きな声は、無線機を介さない彼にも届いた。
「まずは、車から狙いましょう」
 彼の後ろに廻り、唯はスパークマシンαを掲げる。発せられた電撃が一直線に飛んで車体に電流が走ったかと思うと、一瞬の遅れを待って、車が盛大な音と共に爆発炎上する。
「命が惜しければ逃げたほうが良いですよ」
 両手をあわせ、にこりと微笑む。
「ナメるな!」
「撃ち殺せ!」
 ぞろぞろと現れた兵隊達が、銃の引き金を引いた。

 衝撃音に爆発音、そして銃声。
「始まりましたね」
 昭貴がこっそりと覗き込むと、裏口で一人の男が銃を手に辺りを見回している。肩からは無線機がぶら下がっているが、男は銃の引き金から指を離さない。
「‥‥ん。裏口。見張り。奇襲で気絶させる」
 ファングを構え、憐が地を踏みしめる。瞬天速を発動させ、消えるような素早さで接近してファングを叩き込んだ。一撃で崩れる男。
 ロープを振るい、慈海はそれを煙突へと投げた。ぽんと空を飛んだロープが煙突に掛かってぐるりと回ると、彼は強度を確認する。純平と慈海はそれぞれ三階と二階を担当しており、二人はロープを手に壁を蹴り、それぞれの窓を開く。
「‥‥ん。パンの為に頑張る。人質も助ける」
「終わったら、一緒に美味しいパンを食べましょう」
 裏口のドアノブに手をかけ、昭貴はゆっくりと扉を開く。
 二人はそれぞれ地下と一階の担当だ。
(人影はないですね‥‥)
 憐と分かれ、地下に向かう途中、昭貴は慎重を期す為に隠密潜行を発動した。壁づたいに素早く移動する彼は、各部屋を一つずつくまなく捜索して廻る――と、足音が聞こえた。
「――が何だって?」
「とにかく加勢に来いって言っ――」
 走る彼等の前に飛び出して、昭貴はハンドガンの引き金を引いた。
 力は制御しており、致命傷にならないよう配慮しての射撃。狙い辛く、数発の連射でようやっと一人の腕を撃ち抜いた。
「野郎!」
 銃を構える敵。
 銃口の流れを見つめ、素早く身を転がす。銃声が鳴り響くも、銃弾は床を弾くだけだった。
「‥‥今だ!」
 この距離で外す訳が無い。昭貴のハンドガンが相手の銃器を弾き飛ばした。

 憐は小柄な身体を廊下に躍らせながら、次々とドアを開いていった。
 次々とドアを開くが、娘の姿は見当たらない。ただ、幾つかの部屋には人の気配が残っており、床に飲み掛けのワイン瓶が転がっていたりする。おそらくは、陽動に引っ掛かって飛び出したのだろう。
 曲がり角から廊下を覗き込む。
 やはり、見張りの類はいない。
 殆どが庭の方で出払ってしまったのだろう。
「‥‥ん。一階にはいない」
 最後の部屋を開くと、彼女は通信機へ告げた。
『昭貴です。地下一階にもいません』
「うーん」
 報告に、慈海は唸った。
 となると残りは自分の二階と純平の三階だ。彼自身も、既に半分以上の部屋をあたって収穫ゼロ。
 次の部屋を、と廊下を飛び出した彼の耳に銃声が飛び込んだ。
 咄嗟に身を隠すが、どうやら自分を狙ったものでは無いらしいとすぐに知れる。銃声の主は窓から身を乗り出してライフルを構えていた。その先には庭。もしかしなくても陽動班を狙っての攻撃だ。
 狙撃に集中していてこちらに気付いてない事を確かめると、彼はつかつかと近寄り、後頭部を超機械で殴りつけた。
「義賊マフィア参上〜っと」
 ロープで縛り付けつつ、窓から顔を出して軽く手を振る。
 庭で戦う唯が慈海に気付いて、小さくウインクを返した。
「うおお!」
 そんな彼女目掛けて、男が銃を構えた。しかし、接近戦が苦手なサイエンティストと言えど、それでも一般人よりは遥かに素早い。振り向きざまにスパークマシンαを構えると、男は感電してその場に崩れ落ちた。
「ごめんなさいね」
 頬を紅潮させる彼女は、軽く謝ってみせた。
 威力はもちろん制御している。怨恨回避の必要性も勿論だが、彼女は、エミタの力で人の命を奪いたくはなかった。たとえ、それがどんな悪党であったとしても、だ。
「優しいなぁ、えぇ?」
 ユンユクシオをマフィアに叩き込む煉。
 そんな風にからかう彼も、力は加減していた。あくまで示威行動を中心に、人への攻撃は昏倒させる事で最低限に控えている。
「さって、次は‥‥痛ッ!?」
 側頭部に鈍い痛みを感じて、彼は振り返った。
 その先にあったのは、機関銃。植木の隙間に二脚を開き、彼等を狙いすましていた。幾ら頑丈な身体とはいえ、痛いものは痛い。痛いから頭にも来る。彼は気合と共に飛び上がると、全体重を乗せてユンユクシオを振るい、機関銃を一撃の下に粉砕する。
「大丈夫ですか?」
 超機械を掲げ、練成治療を行う唯。
 多少なりと与えた筈のダメージすら一瞬で回復されてしまい、居並ぶ男達は明らかに怯んでいる。更にはそこへ、追い討ちのように車が突っ込んできた。蜘蛛の子を散らすように、慌てて逃げ惑う。
「待たせたな‥‥! 加勢に来た!」
 ブレードシューズのつま先を地に打ち合わせ、弘毅が腕を組む。
「‥‥ずいぶん楽しそうじゃないか‥‥まぁ殺さない程度にやるか‥‥」
 刀を引き抜き、ぽつりと呟く二三男。
 元々、マフィアなどという連中は死ねば良いと思っているが、今回は事情が事情。あまり派手に危害を加えるわけにもいかない。
「て、てめえら何者だ!?」
 腕を組む弘毅が、恐ろしげな眼帯面を向け、高らかに宣言した。
「同業者だ!」


●パンの味
「ふん!」
 じたばたする男の肘打ちに少しも動じず、純平は首を締め上げる。
 やがて男の動きが鈍ると、彼は廊下に男を放り投げた。締め落としただけで、殺してはいない。このドアの前にはわざわざ二人が待ち構えていた。その事実を考えればやはり‥‥彼はドアを開き、中へ視線を走らせる。
 ドアの音に気がついて、ベッドの上の少女が面をあげた。
「‥‥な、何ですか?」
「大丈夫だ。助けに来た」
 誰がどう見ても、純平の格好はマフィアのそれである。その、ターバンを除けば。
 少女は少しだけ疑いの眼差しを向けたが、足元に見張りの兵士が倒れているのを見て、パッと顔を輝かせる。
「こちら純平だ。三階で娘さんを発見した」
 通信機を胸ポケットにしまい込む。
「さ、農場に帰ろうか?」
「うん!」
 彼は少女を軽々と持ち上げると、今来た道を駆け足に戻り始めた。
 窓から下を見下ろすと、他の三人が既に待機している。彼は己の巨体すらも簡単に支えてみせ、ロープを伝って地に降りた。
「‥‥ん。助けに来た。大丈夫」
「急ぎましょう」
 傭兵達は小さく頷くと、車へ向けて駆けていった。
「‥‥これからが楽しめるところだったのに」
 庭では、二三男が溜息をついた。
「戻るぞ!」
「‥‥さっさと行くか」
 車へ飛び乗る弘毅と二三男。
 その後部に掴まって、唯と煉も共に庭を飛び出す――と、門のところで、唯が車を止めさせた。何事かと見やる傭兵やマフィア達の目の前で、彼女は表札を剥がしとる。
「さっ、行きましょう」
 改めて一向は出発し、途中で路駐の車を拾って帰った。

 ――同時刻、警察署にて。
「それで、一体何の用件です?」
「実は――」
 気の弱そうな署長を前にして、秘密裏に警察署を訪れたイシイ タケル(ga6037)は、事の次第を話した。
「むむ‥‥敵対マフィアと言えば、コッポラ・ファミリーかな‥‥ま、まぁ、良いでしょう。噂としてそんな話を流して見ましょう」
「有難う御座います」
 あくまで噂としてですよと釘を刺す署長を前に、彼は深々と頭を下げた。

「セルマ! セルマ!」
 娘の無事な姿を見て、両親は思わず駆け出した。
「本当に、何とお礼を言っていいか‥‥!」
「‥‥ん。お腹空いた」
 憐の言葉に、慌てて農夫は家へ駆け込む。机の上にドカリと置かれたのは、焼きたてのパンだ。飲み物や地元のジャムもずらりと並べられている。
「‥‥あそこのボスの顔を見たかった気はするけどな。まぁ‥‥どうせろくでもない面してるんだろうな‥‥」
 椅子に腰掛けながら独り言を呟く二三男。気のせいかもしれないが、口にしたパンの味は、出発前よりも美味しく感じた。
「それはそうと、これ、どうしましょうか?」
 マフィアの表札を手に首を傾げる唯。
「暖炉にでもくべてしまいましょう」
 純平が、厳つい顔を笑わせた。