タイトル:露営の歌、双子の家マスター:御神楽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/11 01:05

●オープニング本文


●カレリア
 この季節、北欧にも短い夏が近づいている。
 太陽は徐々に沈まなくなり、夜になっても、朝焼けのように空が染まっている。深い森の中、軍用ブーツが残雪を蹴散らして進む。
 木々の狭間を、銃弾が跳ねた。
「――コミト伍長戦死!」
 ややして、再びの跳弾。
 カウンターが叩き込まれ、同様の声。
「ブレジネフ二等兵戦死!」
 そうした応酬が続いて、そして、やがて銃声が止んだ。
 雪の中から一人の男が姿を現した。真っ白い軍服と雪原迷彩のフードに身を包み、その手には狙撃銃が一丁、握られている。インテークがある所から見るに、能力者であろう。
「貴様等ッ、たるんでるぞ!」
 男が吼えた。
 その声に、ビクリと震える兵士達。皆、初々しい。
「戦死した者、前へ」
 半数以上が一歩前へと足を踏み出し、彼らの頬を、男は片っ端から引っ叩いた。
「適正のある貴様等が、エミタ移植前に何故こんな訓練を受けているか、解るか」
 静まりかえる兵士達を前に、男は尚も続ける。
「能力者がコロリと死んでは勿体無いからだ」
 フィンランドは、最前線から遠い北欧の地にあって、バグアによる大規模攻撃の被害を受けていない。国土を守る大軍より、最前線に派遣する精鋭の育成に力を注いでいた。
 この男――教官の名は、ヴィリオ・ユーティライネン中佐。


●露営の歌
「ふむ‥‥模擬戦ですか」
 依頼書の内容を見て、モーリスは首を傾げた。
 内容は至極単純。ABそれぞれの2チームに分かれ、模擬戦をやるというもの。技術向上と能力者同士の交流を兼ねるとの事だった。場所はフィンランドの森林地帯。地面は雪解けによってぬかるみ気味で、夜になれば尚寒い。中々に過酷な環境下だ。
 傭兵の募集は十名で、観測手は無し。
 正規兵の中からも傭兵と同数の人数が参加する予定で、メンバーもフィンランドからロシアやドイツ、はてはポーランドと国籍も様々だった。
「えーと、K.ルイシェンコにY.ブルザックに‥‥W.ユーティライネン? ん? どこかで見ましたね‥‥?」
 まさかと思い、彼はPCの資料を呼び出した。
 ファイルはゾディアックに関するもの。
 パスワードを入力して閲覧記録を残し、彼は資料を表示させる。
「やっぱりだ‥‥」
 ユカ・ユーティライネンとミカ・ユーティライネンの双子。
 備考における親類関係の部分に、その名はあった。フィンランド軍中佐、ヴィリオ・ユーティライネン――ジェミニの父親だ。

●参加者一覧

エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
絢文 桜子(ga6137
18歳・♀・ST
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG
シェスチ(ga7729
22歳・♂・SN
月村・心(ga8293
25歳・♂・DF
矢代 瑠香(gb1234
17歳・♀・SN

●リプレイ本文

 彼等はポイント集計場所であるテントの前に並び、モーリスから一通りの説明を受け、チームの組み合わせが発表された。組み合わせは完全にランダムで、モーリス曰く、コイントスだとか。
 Aチームには、エミール・ゲイジ(ga0181)、南部 祐希(ga4390)、ラシード・アル・ラハル(ga6190)、月村・心(ga8293)、矢代 瑠香(gb1234)。
 Bチームには、如月・由梨(ga1805)、クラーク・エアハルト(ga4961)、ラルス・フェルセン(ga5133)、絢文 桜子(ga6137)、シェスチ(ga7729)。それから、ヴィリオ・ユーティライネン中佐もBチームだ。
 開始まで30分、それぞれの開始地点へと移動する。
「まぁ、よろしく頼む」
 軽く手を掲げて挨拶する月村。
「えっと‥‥よろしく、お願い、します」
 ぺこりと頭を下げるラシードは、ちらりとBチームのユーティライネンを見た。唯一の被撃墜、ジェミニとの戦いの恐怖を、ふと思い出す。
「‥‥普通の訓練は十年振りです。あの頃はまだ、東京に居れた」
 少し寂しげな祐希の一言が聞こえた。
 開始地点に向かう途上、ラシードと瑠香が、ツーマンセル――つまり二人一組での作戦を提案した。
 だけではなく、月村はかたまらずに動き続けるべきだと述べるが、フォン・タクト少佐がその分発見されやすくなる可能性について言及する。祐希や瑠香が待ち伏せ攻撃を考えていた事もあり、散会して警戒に当たる事になった。
「折角の交流戦だ。傭兵と正規兵が対になる、という事でどうだ?」
 フォン・タクトの言葉に強い異論は出ない。
 生命が掛かっている訳でもなく中々無い機会だという事で、彼等は二人一組となり、模擬戦が開始されると共に散会した。


●露営の歌
「スウェーデン出身のラルス・フェルセンと申します〜」
 どうぞ宜しくと微笑む彼に、ノルデンショルド曹長が同国出身だ、と笑い掛ける。
「元USA陸軍第82空挺師団所属、クラーク・エアハルトです」
 ピシリと敬礼するクラーク。
 敬礼につられ、他の正規兵が敬礼を返す。
「この機会に、自分の戦い方ってのを見つけたい‥‥かな」
 蛇剋にきつく、硬く布を巻くシェスチ。他の兵士達も、刃物に布を当てたりしている。そんな彼等の耳に、モーリスの声が飛び込んだ。
『開始5秒前‥‥3、2、1、訓練を開始して下さい』
 由梨は自分のホルスターから散弾銃であるスパイダーを引き抜く。今まで銃は扱って来なかったので、やや苦手。正規兵には銃に慣れた者も多いだろう――とはいえ、大剣を帯びた兵士もいる。正規軍の中にも、色々いるらしい。
「‥‥風上ですね。風下へ廻りますか?」
 ラルスがふと口にし、空を見上げた。
「できればそうしたいな」
 遮蔽物に身を隠しながら、彼等は慎重に歩を進め始めた。
 中でも、クラークは斥候として先行した。銃には白いテープを巻き、双眼鏡には反射対策を施してある。周囲の地形と同化して気配を絶つべし――彼を指導した教官の言葉だ。
 共に向かうのはノルウェー出身の少尉。
 二人は物音や光の反射を探りつつも、自分たちがそうならぬように気を配る。そうして偵察を続けていた二人が、ふと異変に気がついた。
 クラークがハンドサインで発見を報告し、少尉を呼ぶ。
 二人で確認すると、改めて無線機で連絡を入れた。
「となれば、凡その位置は特定できるな‥‥」
 ユーティライネンの言葉に緊張が走った。各自は散会し、Aチームの予測位置を風下から半包囲するように移動、警戒を強める。
「いた‥‥!」
 木の影からそっと様子を様子を窺うシェスチ。
 S−01を引き抜くと、じっくりと狙いをつけ、引き金を引いた。
 銃声が響き渡って兵士の胸元に塗料が大きく広がる――と同時に、撃たれた彼のイヤホンへとモーリスからの通信が届けられる。
『ヨハネス・ブルザック曹長、戦闘不能!』
 しかし、模擬戦が終了した訳ではない。
「‥‥クリア」
「チッ!」
 曹長の後方に位置していた月村が地を蹴る。
 シェスチは逃がすまいと銃を構えたが、突如、視界を閃光が覆った。月村の放った照明弾だ。Bチームのノルウェー兵が反射的に引き金をひくが、銃弾は月村の足元に跳ねるだけ。一瞬の隙を突いて、彼は倒木の陰へと飛び込んだ。
 かと思えば、後を追おうと顔を出した兵士の顔にペイント弾がべっとりと広がる。
 おそらくは戦死判定。撃ったのはエミールだった。
 位置が発覚したと思って離脱しようとするシェスチであったが、ハルバードを掲げるフォン・タクトが前衛として飛び出し、シェスチ目掛けて振り下ろす。
「くっ‥‥」
 反射的に蛇剋でガードするも、勢いが強い。
 支えきれずに転倒し、続くハルバードを肩で受け止めてしまう。負傷との声がイヤホンから聞こえる中でS−01を眼前の少佐に向けるも、そんな彼の胸元に塗料が広がった。
 やったかと思って油断した少佐だが、ふと頭痛を感じる。
『シェスチ、戦死! ブルーノ・フォン・タクト少佐、戦闘不能!』
「‥‥これが今の実力、か‥‥まだまだ修行だね」
 シェスチの見上げた先では月村がアサルトライフルを構え、銃口を倒木の上に覗かせている。対するBチームでは、桜子が超機械ζを手に岩の裏に隠れていた。
「‥‥」
 機械の利点を生かし、遮蔽物の裏から攻撃を加えたのだ。燐光を纏う彼女は、冷静に隙を窺っていた。


●アンブッシュ
 一通りの銃撃戦の後、しんと静まり返ってしまった場所もある。
 ラシードは木の陰からこっそりと相手の様子を窺った。相手も木の陰から動く様子は無いものの、このままではどちらも迂闊に手を出せない。彼は、ペアを組んでいる兵士に顔を向けた。
 対するのは、ラルスだ。
 残雪のぬかるむ音に、彼は気づいた。
 先手を取れるかと思ったが、そこは相手もさるもの。近場の樹木を揺らすまでは良かったが、二射目を射る前に発見されてしまい、慌てて木陰に潜り込んだのだ。
 問題は、現状をどのようにして覆すか、だ。
(さて、どうしたものでしょう‥‥)
 ふと考え込みかけた彼の耳元で、通信機が鳴った。

 一方、ラシード達も動きを見せた。
「‥‥僕が、走ったら。吊られた敵を、撃って」
「了解した」
 眼前の軍曹はライフルを手に、じっと身構える。
「いきますっ」
 ラシードが飛び出す。
 両手にはスコーピオン。ラルスが射た矢をかわすと、彼の隠れる方角目掛けて弾幕を張りながら、隣の木へ向かって駆け抜ける。彼の攻撃はラルスに第二射を射る隙を与えず、ペアの兵士は木陰から顔を見せ、銃を構えてラルスが現れるのを待ち構えている。
 しかし――
「わっ!?」
 即頭部への衝撃に驚いて、ラシードは思わず眼を閉じた。
 額に手をやると、赤い塗料がべっとりと広がっている。矢ではない――なら、誰かが銃でこちらを狙っているという事だ。突然の事に驚く兵士が、ラシードの方へと視線を逸らした。
「上手い‥‥!」
 ラルスは、その隙を見逃さなかった。
 上体を逸らし、狙撃眼にファング・バックルで距離と精度を稼いだ矢を放つ。その矢は兵士の肺近くを打ち、戦闘不能の判定が下された。
 ラルスはちらと視線を走らせる。
 後方のユーティライネンが軽く手を掲げ、移動を開始した。

「煙草の臭いがしますね‥‥」
 つんと鼻をついた臭いに、由梨が足を止める。
 その言葉に、警戒を強め、ポーランド兵が周辺を見回す。
「煙が立ってる?」
 木の裏を覗き込むと、石に煙草がすり潰してあった。
「‥‥あれを見て下さい」
 由梨の突然の言葉に、咄嗟に伏せる兵士。
 指差す先には、双眼鏡があり、遠方を見張っているようだった。
「僕が見てきましょう」
 ラトビアの准尉がマシンガンの引き金に指を掛けて歩み寄る――まさにその時だ。彼の喉を、矢が突いた。突然の事に尻餅をつく准尉。矢を放ったのは祐希だった。
 彼女は泥水の中にじっと伏せ、今の今までずっと待ち構えていたのだ。
 戦死との報告が入ると同時に立ち上がる祐希。
 瞳を赤く光らせた由梨が、祐希目掛けて銃弾を放つも、彼女は身を翻し、木々の合間をすり抜けて逃げて行く。逃がすまじとその後を負う二人。振り返っての牽制を避けながら、少しずつ距離を詰めて行った。
 再び祐希が振り返る。
 その祐希の動きに気をとられたのか、横合いからの攻撃には気づかなかった。
 ポーランド兵が連続するペイント弾に身が曝される。由梨は咄嗟に踵を返して射撃の主を撃ったが、肩や腰を次々に矢に打たれた。
「これは‥‥即射!?」
 耳から響く通信は負傷。散弾銃の引き金を引くと同時に、辺り一面にペイントが撒き散らされる。しかしそれと同時に、胸にペイント弾が着弾する。
 攻撃を加えたのは瑠香。
 隠密潜行によってじっと気配を消し、そこへ鋭角狙撃を用いた慎重な一撃だった。
『如月由梨、戦死! 南部祐希、負傷!』
 由梨は両手両足を投げ出して泥の上に転がる。
 溜息と共に少しだけ、好戦的に成らざるを得ない己の覚醒を恨んだ。
「‥‥よし」
 さっと視線を外す瑠香。
 しかし彼女の身体に、塗料が広がった。
 銃撃の方角へと振り返りつつ、地に伏せる。視界の隅で銀髪の中に金髪が揺れる。おそらくはクラークか。当のクラークは迂回しての攻撃。一撃で仕留められなかった以上は危険と判断し、移動を開始していた。
 ところが、そのままアッサリとはいかない。
 土手を越えたところで、ばったりとエミールに出くわしてしまったのだ。
「クッ、近っ‥‥」
 クラークは腰のアーミーナイフに手を掛けると同時に、横一閃に振るった。
 慌てて飛びのいたエミールのジャケットを、ナイフが擦っていく。
 エミールと共に移動中だった月村も銃を向けるが、エミールまで巻き込みかねない。返す刃を向けるクラークを前に、エミールは銃を同時に構え、引き金を引いた。二連射での素早い射撃に、クラークは腹に数発を叩き込まれ、無念そうにナイフを降ろす。
「はぁ、危なかった‥‥」
 苦笑するエミール。
 それと同時に、模擬戦終了の連絡が入れられた。


●双子の家
 結果は、Aチーム23点、Bチーム19点でAチームの勝利だった。
 力を制御してあったとはいえ、参加者達には生傷も増えた。桜子が絆創膏や湿布を取り出して簡単な治療を施す中、エミールがマトファンを皿に現れる。桜子はラシードと共にサンドウィッチを作った。瑠香はクッキーでもと思っていたのだが、オーブンが無い為、泣く泣く諦めた。
「‥‥訓練はまだ続いているかもしれないぞ?」
 ニヤリと笑う月村が、手入れしたライフルを構えてみせ、引き金を引いて動きを確かめる。
「まぁ、そう緊張ばかりでは身体が持ちませんよ」
 クラークがコーヒーを差し出すと共に、瑠香の装備を手に取る。
 泥まみれになった装備の点検方法を‥‥と思っての老婆心だ。瑠香の側では、整備点検の仕方を真面目に聞いている。
「半年早いですが〜」
 ラルスがグロッグを差し出す。グロッグを飲むには少し季節外れだが、参加者には北欧出身の兵士も多く、話は弾んだ。彼等は傭兵と兵士であるから、自然、話題はどこそこのレーションは美味しいとか、何某社の武器は性能がどうとか、或いはもっと真面目な戦況についての事となる。
「ロシアは大変みたいだね‥‥」
「アフガンを相手にしてた時のが、まだ楽だぜ」
 老齢のロシア人兵士が腕を組む。
 やれシベリアでは劣勢だ、スペインではどうだ、北欧はまだ安全か――。
「ジェミニはこの国の出身でしたね‥‥舞い戻らせはしませんよ。この地を侵す者は何であれ許しはしません」
「あぁ、その通りだ」
 ラルスの言葉に、他の兵士がひざを叩いて同意する。
 彼等の言葉に、ユーティライネンはちらりと視線を投げかけた。
 そんな中佐を見て、由梨は逡巡する。声を掛けようか、掛けまいか。
「あの‥‥ユーティライネン、中佐‥‥?」
 由梨の逡巡を、ラシードの言葉が遮った。
「何か用か?」
「その‥‥」
 臆さずに彼は、双子がどういった子供達だったのか、そして今のジェミニが、本当に自分の子供と感じるか否かを問うた。その言葉を耳にした周囲も、少しばかり、しんと静まる。
「‥‥さあな」
 取り付く島も無い一言に、怪訝な顔をするラシード。
「家は妻に任せていたし、写真を見た限り、自分の子供だろうとは思うが、今更親として何かする気は無い」
 もっと感覚的な答えを期待してたが、男の返答は極めて素っ気無かった。
 由梨も横で会話を聞いていて、眉をひそめる。
「能力者、軍人としての責務は理解できます」
 ぽつりと祐希が口を開く。
「‥‥ですが、子供に関しては、父親の我が儘を許されたのではと、そう思います」
「研究施設の事か?」
 察し良く問い返す彼に頷く。
「提案したのは私だ」
「え‥‥」
「何故だね?」
 当然ではないか、と言わんばかりの、その態度。
「‥‥あの二人の事を‥‥中佐は、どう、思ってるんですか‥‥?」
「アレをか? ふむ‥‥」
 続くラシードの言葉に、中佐は顎に手をやった。
 そうして暫し考え、面を上げる。
「敵だ」
「‥‥ッ!!」
「中佐、それは‥‥!」
 愕然とするラシードに、由梨が立ち上がる。
「‥‥すいません」
 立ち上がった勢いを、どこにぶつければ良いのか。その先を見付けられず、由梨は押し黙った。紅茶を手に黙ってサンドウィッチを頬張っていたエミールが、指を舐め、中佐の方へと視線を投げかける。
「俺もあの双子にはロクなめにあわされてない。けど、洗脳されてるだけかもしれない。それなら‥‥」
「そんな事は無い。絶対にだ」
 声を荒げ、中佐はエミールを睨んだ。
 立ち上がり、ドアへ向かって歩いて行く。
「いつか、2人ともコックピットから引っ張り出して、中佐のとこに連れて行きます」
 答えず、そのまま歩いて行く。
「甘いと言われようが、偽善と言われようが、俺は可能性があるなら賭けますよ!」
 他の兵士や傭兵達も、思わず顔を見合わせる。
「親とか家族って全然知らない‥‥知らないけど‥‥難しい‥‥ね、家族って」
「僕と、中佐は。もしかしたら‥‥同じものを、失くしたの、かもしれない‥‥」
 シェスチの言葉に繋ぐラシード。
 誇り高かった亡き父の影も感じたが、だが中佐には、それと同時に誇りが嵩じた何かも感じた。
「‥‥」
 桜子は言葉こそ発しなかったが、ずっと会話を聞いていた。
 自分の子供を敵として戦うなんて、辛くない筈が‥‥とは思ったが、本当にそうだったのだろうか。
 同様に黙っていた月村も、思案顔で腕を組む。ジェミニとの関わりは、現段階で推察するしかなさそうだ。彼等の生活を掴めれば今後の役にも立ったのでは、と思う由梨だったが、彼女もまた、月村と同様、黙って思案するしかない。
「yoton yo‥‥夜がない夜、ですね〜」
 窓から空を眺めるラルス。
 この時期、北欧等の高緯度地域では夜は短く、薄明りが長く続く。白夜――空が暗くなるのは、それから大分経ってからだった。