タイトル:僕こんなシベリアいやだマスター:御神楽

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/03 23:35

●オープニング本文


●僕ベルリンさ行ぐだ
 シベリアっつーところは、ハッキリ言って田舎である。
 それも超がつく。超がついた上にドまでつく。要するに超ド田舎である。
 辺りを見回しても、湿地と森林しか見当たらない。
 そんなシベリアの一角、とある寒村。
「今年はコリマ炭鉱に出稼ぎにいかにゃならんかーのー」
 前線からも離れていて、呑気で、んでもってやっぱり超ド田舎な、何も無い村である。
 バスは一週間に一度だけ、電車はラーゲリ一直線。
 村民の朝は早い。黒パンかじって鍬持って、単一作業の繰り返し。あとは、シベリアの木を数えるという大切な仕事もある。KVやキメラもラジオの向こうの存在で、そもそもブライトンが何者かも知らなくて。
 爺婆に至っては、バグア遊星をロシアの建造した超兵器と思い込み、十字架片手にむにゃむにゃ拝む始末。だって赤い星だもの。
「もう嫌ずら! 僕はべるりんさ行ぐから!」
 村を飛び出したのは御歳16歳のミーシャ君。これでも、れきとした能力者である。
 ロシア陸軍が大規模な試験を実施し、その結果適正が認められたのだ。
 とは言え、エミタの移植もタダではない。じゃあ何でそんな事をしたのかと聞かれれば、緊急時の地方警備だ何だと、ロシアなりに色々考えていた事があったのだ。まぁ、とにかく。期せずして適正試験にパスし、移植の為にモスクワに向ったのだが、そこで都会というものに初めて足を踏み込んだ。
 こうなるともう、若いもんだから、あんな田舎帰りたくない。
 付き添いの父――もちろん旅費は政府持ち。父だってモスクワ旅行は始めて――の制止を振り切って、単身ベルリンへ向かってしまった。移動費用はロシア政府の給付金を使い込んだ。

 結論から先に言う。
 ロシア政府は怒った。けどそれ以上に、村民が怒った。

 役人の首根っこを掴まえてベルリンのUPC本部へと訪れた。
 だって、大事な若者なのだ。数少ない村の若者で、村の将来を背負う期待のホープなのである。ラスト・ホープなんぞとは比べ物にならないぐらい切実な最後の希望だ。
「あのバカ息子を連れ戻してけろ」
 おいおいと泣き喚き、怒って机を叩き、父親が訴える。
「何が傭兵だべ、ばかばかしいっ! もうすぐ農繁期なんだど!? 息子にも手伝って貰わんと、種まきが終んねえべ!」
「ま、まぁ、うち等としちゃ、給付金さえ戻ってくりゃあええから、傭兵だろうが何だろうが構わな‥‥」
「何言うだべさ!」
 口を挟んだ役人を怒鳴りつけ、父親は続ける。
「あのバカ息子め、都会は怖いところだべ。見ろい、このべるりんとやらにゃ、畑なんぞどこにもねえだ! 水もまじい、空気も悪い、何も良い所なんぞねえというに!」
 役人と父親を前にして、担当者は頭を抱えた。
 仕方が無いのでミーシャを呼び出し、そちらからも話を聞く事にした。
「僕嫌ずら! 絶ぇっ対に、嫌ずら! お金は傭兵稼業で返すし、仕送りもできるでねえか! 村でテレビを買えるど!」
 もしかして簡単に説得できるんじゃ‥‥とも思ったが、見込みが甘かった。ミーシャの意志は想像以上に強情だ。悩んだ挙句、担当者は依頼内容を書き換えた。曰く『この問題を仲裁し、適当に解決する事』と。
「おら、金を稼いだらべるりんでブタ飼うだよ!」
 そんでもって有給を取って逃げ出した。

●参加者一覧

奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
香原 唯(ga0401
22歳・♀・ER
流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
穂波 遥(ga8161
17歳・♀・ST
蛇穴・シュウ(ga8426
20歳・♀・DF
ナナヤ・オスター(ga8771
20歳・♂・JG
福居 昭貴(gb0461
19歳・♂・SN

●リプレイ本文

●何はともあれ
 並ぶモニター類には、ありとあらゆる依頼が並んでいた。
 子供のように――というより子供だ。ミーシャは眼を輝かせて、大騒ぎでタッチパネルを操作している。
「すげだなぁー! これどうなっとてるんだべ?」
「ミーシャさん、依頼依頼」
 蛇穴・シュウ(ga8426)の言葉に慌て、彼は依頼を選び始める。
「どういう依頼がよかんべ?」
「それを選ぶのも傭兵の仕事のうちですね」
 煙草を揺らし、シュウは応じた。
「そうですよ。傭兵には依頼選択の自由がありますから」
 続けて、福居 昭貴(gb0461)が口を挟む。
 とはいえ、今回はいくつか制限を設けた。
 まず、KVを使用する依頼ではない事、そして第二に、時間的制約から、長くても2,3日で終えられそうな依頼であるという事だ。
「じゃあ‥‥これにしようかな」
 ミーシャが、ひとつの依頼を指し示した。
 依頼内容は、比較的簡単なキメラ退治の依頼。ミーシャが中心に動いても、おそらくなんとかなる依頼だ。と、穂波 遥(ga8161)が現れた。先程、バスツアーに父親を引き渡してきたところだ。
 ミーシャが依頼を受ける間の時間稼ぎや、都会を理解する為の一助にもなる。そして代金はUPCへのツケ。完璧な作戦である。
「ところでミーシャ君。装備はどんなのを買い揃えたの?」
 見るだかと問うミーシャの言葉に頷く遥。
「ちゃんとSESはついてる? まさかトカレフや村田銃じゃ‥‥」
「トカレフじゃないずら」
 言い、ホルスターから拳銃を引き抜く。
「本当? 良かっ‥‥」
「マカロフだよ!」
「‥‥」
 頭を抱える遥。
 とはいえ、SESを搭載したライフルもきちんと買っていたのだが。
「とりあえず、出発しましょうか」
 白髪交じりの髪をかるくかき、奉丈・遮那(ga0352)は立ち上がる。
 無灯火の煙草を揺らすシュウ。
「さてミーシャさん、私達も依頼に同行するけど、私達はあくまでサポート。傭兵なんて、ヤクザなお仕事。究極の実力主義です」
 彼女は、自分の眼に掛かる前髪を手でかき上げた。右目には、抉られたかのような生々しい傷痕が残っている。依頼でつけられたものではないが、この傷痕もまた現実の出来事だ。
「私の右目はファッションではありませんよ?」
 にやと笑うその様子に、ミーシャはごくりと息をのんだ。


●説得開始
 結論から言えば、ミーシャの初依頼は成功に終わった。
 もっとも、無事に依頼を終えられたのは、先輩達のサポートがあってこそだ。
 大先輩と一緒とあって落ち着いていたのだろう。ミーシャは、正確な狙撃でキメラをしとめた。判断の甘さこそ残ったが、シュウの見たことろ、銃のセンスは中々のものだ。
 そして、改めて顔を合わせた親子。
 ミーシャの方は依頼も上手く行って元気全開と言った感じで、多少の生傷はアンドレアス・ラーセン(ga6523)がスキルで治療した。対する父親はと言うと、アンドレアスを相手に近代情勢の勉強中。
 ミーシャはりんごジュースを、父親はコーヒーを口にしている。
 とにかく飲み物でも口にして落ち着いてもらおうとした、香原 唯(ga0401)の発案だ。
「お茶菓子を皆さんに分けますね」
 昭貴も、唯のセッティングを手伝った。
 お茶やお菓子もUPCの支給品であるが、唯曰く、中々美味しいとの事で、皆からは概ね好評だ。
「いやぁ、申し訳ないですねぇ」
 ロシア政府の役人も恐縮そうに紅茶をすすっている。
「いえ、できるだけ和やかに話し合って頂きたいですからね」
 にっこりと笑う唯。ベルリンの赤い雨が降っては困るのだ。つっけんどんな会話から喧嘩へ発展したりしては困る。特に手刀がよくない。
「すいません、よければ明細を見せて頂けますか?」
 遥の問いかけに、役人がぺらりと資料をよこす。
 UPCから給付金がある訳ではないが、支給品がある。これを売っていくだけでも多少の収入にはなるが、それで返すには少し不確実過ぎた。やはり返すなら、真面目に働くか傭兵稼業を続けるかしか無さそうだ。
「親父さん、だからバグアっていうのは‥‥」
 一方、アンドレアスは、頭を抱え気味に孤軍奮闘していた。
 映像資料を交えての説明に、父親は露骨な疑いの目を向けている。
「ナチスみたいなもんけ?」
「ここベルリンだって! 頭の中いつの時代になってるの!?」
「あ、そういやそうだべな‥‥」
 思い出したように頷き、腕を組む父親。
「コレ映画じゃねぇから。本物だから!」
 テレビも無ければラジオも――ラジオはあるが、今日びテレビも無い生活だ。危機感が無くても仕方ないかもしれない。とにかくそれでも、アンドレアスは根気よく説明を続けた。
 まず世界は崖っぷちに立っていて、能力者、そして傭兵という職業が成立した事、そして軍人と違って依頼は選択ができる事等だ。それから、ツアーで一通りは見てきたであろうが、都会と田舎の相違なども簡単に説明してみせた。


「都会に憧れを持つのは誰にでもあって、良い事であり仕方のないものなのですが‥‥こう言った場合は、ねぇ?」
「その通りです。気持ちは良くわかります、でも、どんな理由があるにせよ、給付金の使い込みは犯罪です」
 ナナヤ・オスター(ga8771)と流 星之丞(ga1928)は、ミーシャへの説得にあたっていた。お金を使い込んだらいけないと言う言葉に、ミーシャはばつが悪そうに口を尖らせる。
「だから、ここはまず一旦村に帰って、農繁期に働いたお金で返して‥‥」
「小遣いなんて貰ったことねえずら!」
「うーん‥‥」
 割り込むミーシャの言葉に、星之丈は首を傾げた。
「ワタシも、子供の頃は首都ブクレシュティで暮らす事が一番の夢でしたよ」
「おめさも田舎の出身なんが?」
「えぇ。しかし実際に暮らすとなると‥‥ホームシックや物価高故の家計不振、治安‥‥色々と大変なんですよね」
 この依頼にも、田舎出身の者は多い――というより、都会とは田舎者が集まって形成されるものである。ナオヤもルーマニアの片田舎の出身。それも、経済的事情で家族と離れて孤児院育ちだ。結構苦労の多い人生を送ってきた。
「とにかく、一度シベリアへ戻った方が良いと思いますよ」
「だども‥‥」
「ミーシャ君、自分の中で譲れない所は譲らず、譲れる所は譲りましょう。銃で敵を撃つのはお父さんのハートを射止めてからです」
 唯の言葉に口を尖らせるミーシャ。
 そんな彼の前で、遥がにっこりと笑う。
「考えてもみて。貴方のしたことを、教会で神様に胸を張って報告できますか?」
 胸の前で手を組んで眼を閉じる遥。神の前で祈るかのような姿勢‥‥これでも信仰少女、病弱な身体に鞭打って勉強する合間には、俗物な己を戒める為のお祈りを欠かさないのだ。
 しかし。
「れえにんとか言う偉ぇおっさんが宗教は毒だって言いっただよ‥‥って爺ちゃから聞いたべさ!」
 満面の笑みで答えるミーシャ。
「‥‥このへそ曲がりっ」
 ボソリとつぶやき、握るてを締める。ぱきりと関節が鳴った。
 表情は笑っているが、眼が笑っていない。何かもう、こめかみに血管まで浮かび上がりそうな勢いだ。
 ――と、そこへ、少しやつれたアンドレアスに連れられて、一通りの説明を受けた父親が現れた。彼はミーシャの向かいの席に腰を下ろし、むっつりと口を曲げる。
「どうでしょう。農繁期はシベリアに帰って、それ以外の際はベルリンで傭兵稼業というのは?」
 ナオヤの言葉に唸る父親。
 すかさず、星之丈が二の句を継ぐ。
「農繁期にはきっちり村に帰るよう、みんなでしっかり監督します。だから、農閑期には出稼ぎとして都会へ出る事を許してあげられませんか?」
 正直傭兵という仕事は勧められないけれど、都会にはもっと良い仕事もありますよと付け加え、彼は苦笑した。案としてはかなり妥当な線だが、どうも父親は納得いかないのか、うんうんと唸って答えない。
 困ったような笑顔を浮かべる遮那。
「農作業にしても、息子さん一人いれば何とかなるなら、人を雇うという手もありますよ。息子さんも、仕送りをすると言っていますし」
「しかしのぅ‥‥」
「まぁ、給付金を使い込んで逃げ出すようでは、ちゃんと約束を守ってくれるかもわかりませんが‥‥」
「そ、そんな事はねぇだろうけんど!」
「じゃあ、約束できれば大丈夫ですよね」
 裏をかいた遮那の罠に言葉を詰まらせる父親。
「父ちゃ!」
「うるせえっ、おめさは黙ってれ!」
 身を乗り出すミーシャをピシャリと叱りつけた。まぁまぁそれなりに約束を守る子だとは考えているらしいが、いまひとつの踏ん切りがつかないようだった。


●発想の転換?
「先生、お湯が沸きました」
 給湯室。火にかけていたヤカンを手に、昭貴はぱたぱたと歩み寄る。
「何か飲み物をいれましょう。先程のお茶も冷めてきてますし」
 助手として――助手とはいってもお茶入れは実験ではないが、とにかく助手として活動中。現在の関係は先生と助手である。
 そっと話し合いを眺める昭貴。
 彼自信も田舎出身で、シティーボーイに憧れるミーシャの気持ちは解らないでもない。自分の16歳はどうだったと思うと、それはもう、顔から湯気がたつぐらい恥ずかしい事ばかり。
「あぁ、やっぱり恥ずかしい‥‥」
 もちろん、それが青春だ、とも思うけど。
 自分の青春はともかく、場の雰囲気は中々ほぐれておらず、時は今と、彼は秘蔵の一品を取り出した。キリマンジャロ産のコーヒーだ。そしてお湯はミネラルウォーター。粉に湯を注いだ時点で良い香りが漂ってくる。
「一息入れる為にコーヒーをどうぞ」
 一通り皆にコーヒーを配る昭貴。
「良い香りですね」
 お茶淹れの得意なナオヤから見ても、中々悪くなかった。
 ところがその一方で、親子の会話はまだ少ない。父親はコーヒーをすすって緊張を解しながら、どうしたものかと考えている。
「そうですねぇ、稼業を継いで一次産業の担い手になるか、農繁期の合間を縫った出稼ぎスナイパーになるか、傭兵として頑張って村興しのスターになるか」
 シュウの言葉につなげて、アンドレアスとナオヤが応じた。
「出稼ぎ傭兵なら二人の願いがきちんと叶うと思うんですけどねぇ‥‥」
「あぁ。それに、有名になれば確かに村興しのスターになれるかもな」
 コーヒーをすすり、溜息をつく。傭兵達もどうしたものかと額を付き合わせた。やはりもう一押しが必要だと思えたから――なのだが、ところが。
「お父さん、もしかしたら‥‥」
 のほほんとした口調で、喋り始める唯。
 本当はシベリアでの生活ぶりという世間話や、ロシア民謡――特にカリンカなどを教わりたいと思っていたのに、とてもそんな暇も無さそうだ。唯少し残念そうな顔をしたが、自分からも少し意見をと、父親に笑顔を向ける。
「ミーシャ君は密かにシベリアの過疎を憂いて、お嫁さん探しに来たのかも」
「まっ、まさか!」
 多分、本気で違うと言いたかったのだろう。ミーシャは顔を真っ赤に染めて首を振る。あれやこれやと都会に憧れている理由を列挙して否定に掛かるが、父親はぽかんと口を開いて驚き、ミーシャの言葉に耳をかさない。
「こればかりは現地に留まっていても相手が向こうからやって来るのは難しく‥‥」
「そうだ、そうでねえか!」
 突然、父親が大声をあげた。
 何事かと、傭兵達は顔を見合わせる。
「ミーシャ! ええどっ、傭兵やっても構わね!」
「あわわ‥‥!」
 手を震わせて慌てるミーシャ。
 傭兵達はますます首を傾げた。そんな彼等にもお構いなし、父親は机を叩いて立ち上がった。
「嫁だ! 嫁さ連れてけえれ! 傭兵さやる代わりに、村に嫁っこさ連れてけえるだ!」
「と、父ちゃ、待っってけろ‥‥!」
「ええい、むしろ傭兵さやるだ! 嫁さ見付けるまで村には帰ってきちゃなんね! 解っただか!?」


●一件落着
「んだば、本当にお世話さなりましただ」
 ベルリンの駅。父親と役人はぺこりと頭を下げ、列車に乗り込む。
「ミーシャ、めんこい嫁っこさ見付けてくるだぞ。ええな?」
「わ、解ってるだよ‥‥うぅ」
 涙目のミーシャを残し、列車はベルリンを出発した。
「今度はカリンカダンスを踊りましょうね〜」
 列車に手を振る唯。
 あれだけ強情だった父親だったのに、唯の何気ない一言で、問題は一撃で片付けられた。誰がこんな強烈な一言があると想像しただろうか。まったくもって恐るべき一言だった。
「‥‥すっっっげー、疲れたんだけど‥‥あ、煙草吸っていい?」
 アンドレアスは壮大な溜息をひとつ、ベンチにへたり込んだ。
「火ぃ、使います?」
 珍しく自らライターを差し出すシュウ。ふらつく手で、アンドレアスはライターを受け取った。
「しかし、コペンハーゲンって案外都会だったんだな‥‥」
 ふうと大きく息を吸い込む。
「お二人とも、喫煙スペースからはみ出してますよっ」
「ま、頑張れ、青年って事で‥‥」
 足を指差してぷんとふくれる遥の言葉に、二人は慌てて駆け込んだ。
「嫁‥‥あはは‥‥」
「ミーシャさん」
 そんな彼の傍らで星之丈が腰を落とした。
「また会えるのを楽しみにしています。でも、傭兵はもう少し考え直してみませんか? 命のやりとりをせずに済むのなら、僕はその方が幸せな生き方だと思います。僕が望んでこの力を手に入れた訳じゃないから、余計にそう思うのかもしれないけど‥‥」
 ミーシャは、彼の言葉に少し悩んでもいるようだったが、やがて自らの考えに頷き、星之丈を見た。
「だども、おらぁやっぱり傭兵やるだよ。どうせ、村の近くまで怪獣‥‥でながった。キメラが来たら、おら戦に狩り出されちまうだ」
 そう言って、自分の右手をかざす。エミタの埋め込まれている手だ。
 今回は、そんな話題にならなかったが、バグア襲来以降、ロシアの政治情勢は凄まじい状況にあり、スターリン時代さながらとも言われている。ミーシャはたまたま自ら承諾したが、能力者の適合試験やエミタの移植だって、選択肢なぞ、事実上無いに等しい。
「早く傭兵が不要になれば良いんですけどね‥‥」
 寂しそうにつぶやく星之丈。
 そういう意味では、選択の自由がある傭兵は『まだマシ』なのかもしれなかった。
「使い込んだお金は、頑張って返却して下さいね」
 昭貴はポン、と彼の肩に手を置く。
「それを成し遂げてこそ、真の傭兵、真の男への第一歩ですよ!」
 真の男、という言葉がぐさりと刺さる。嫁探しをやる羽目になった己を恨み、ミーシャは余計落ち込んで柱に泣きついた。
「まぁ、なるようにしかならない、とは思ってましたけどねぇ‥‥」
 遮那が苦笑いする。
 その苦笑は作り笑いではなく、本当に苦笑するしかなかったからだった。
「うぅ‥‥オラはどうすれば良いだべ!」
 涙交じりのミーシャの悲痛な叫びが、駅の構内に響き渡った。

<7月7日、御神楽MSのリプレイに差し替えを行ないました>