タイトル:【輸送】ソフト資源マスター:御神楽

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/23 22:10

●オープニング本文


●UPC欧州軍・本部
「ええ、お願いします。得た戦果は確実に活用しなければなりません。はい、輸送には細心の注意を払います」
 電話の向こう側の相手の問いかけに何度か頷くと、受話器を置くピエトロ。
 欧州攻防戦、その戦いはイタリア半島をバグアから奪い返すという結末を持って終わり、人類は初めてバグアから失地を奪還することに成功した。
 だが、その反面スペインの大半がバグアの手に落ち、フランス南部まで彼らの手に堕ちたとなれば、少なくとも地図上においての戦果は諸手を上げて喜べるほどのものではない。
「せめて鹵獲した機体くらいこちらの好きに使わせてほしいのだがな。戦果というものは山分けしたくなるものらしい」
 UPC本部から欧州軍に告げられた命令は、鹵獲した機体のラストホープ島への輸送であった。
 研究施設が整っており、各メガコーポレーションの支社も豊富に揃っているというのが表向きな理由である。
「ここに置いておくよりは安全‥‥というのが本音であろうがな。確かに、保管している場所がばれてしまえば、光学迷彩がついた機体の襲撃など防ぎようがない」
「巨大なKV格納庫を持つラスト・ホープ島は世界一強固な要塞です。ファームライドであろうとシェイドであろうと、そう簡単に手は出せないでしょう」
 自嘲気味に笑うピエトロと、今回の作戦の意義を説明するブラッド。性格はどちらかといえば似た二人であったが、表情に差が生まれるのは立場の違いからだろうか。
「ブラッド、作戦の指揮は君に任せる。‥‥情報が漏れていないなどという過信は禁物だ。多数のダミーと共に、最大限の警戒を行なって輸送任務を遂行するのだ。‥‥命令が下された以上、いかなる犠牲を払ってでも」


●ソフト資源
「えぇ〜今回皆さんに運んでいただきますのは、このトランクケースです」
 のほほんとした顔で、モーリスがトランクを開いた。
 中には一枚のディスクが厳重にしまわれており、トランクはそそくさと閉じられた。
 そのデータディスクの正体は、ファームライドとの戦闘記録。詳細な戦闘記録から、映像資料、果ては音声データまで。
「まぁ、なんで皆さんに頼むのかと言いますと、大軍で輸送すればバグアに知られてしまいますから、極秘で、それでも一応護衛の為に皆さんをと。そういう事なんです」
 手元の書類をペラペラと捲りながら、モーリスは集まった傭兵達を見回した。
 情報戦というものは地味なもので、「自分達が何を知っているか」さえ一種の情報であったりして、敵への発覚を可能な限り遅らせたいのだ。
「まぁ、本来はこのままUPC欧州の本部に向う予定だったのですが、折角ですから、安全なユニヴァースナイトで輸送していただく事になりました」
 作戦計画書によれば、輸送には民間の通常列車を利用する。出発地はフランス南部の都市マルセイユ。列車に乗って出発し、ドイツのベルリンへと向う事になっており、当のベルリンは、現在ユニヴァースナイトの寄港地となっている。
 ただ、ユニヴァースナイトの出港に間に合わなければ、ユニヴァースナイトはディスクを載せずに出発する事になる。
「とりあえず、バグアさん達に輸送計画が漏れさえなければ、のーんびり輸送して下さって結構です。あくまで大切なのは、輸送計画と悟られない事ですからね。木を隠すには森の中、ですよ」
 笑って、彼は煙草を巻き始めた。

●参加者一覧

奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
ゴールドラッシュ(ga3170
27歳・♀・AA
黒羽・勇斗(ga4812
27歳・♂・BM
M2(ga8024
20歳・♂・AA
マリオン・コーダンテ(ga8411
17歳・♀・GD
シュブニグラス(ga9903
28歳・♀・ER
都倉サナ(gb0786
18歳・♀・SN
片桐 恵(gb0875
18歳・♂・SN

●リプレイ本文

「え‥‥へ、変ですか‥‥?」
 ぽかんと口を開ける片桐 恵(gb0875)。
 うーんと唸る一同。
 迷彩服等はまだごまかし様もあるのだが、UPCの軍服にヘルメットという出で立ちまでなると、旅行サークルという雰囲気には不似合いで、そうでなくてもやはり目立っているのは明らかで。
「もうすぐ発車時間です。とりあえず何か適当に買い揃えてしまいましょう」
 慌てて、奉丈・遮那(ga0352)が切り出した。
 指差す先には露天商の列。古着ぐらい何とかなるだろう。

 駅の構内を駆ける傭兵達。
「アナウンスが無いから、油断はできないの、急いで!」
 マリオン・コーダンテ(ga8411)の言葉に、急ぐ傭兵達。車両も確認せずに乗り込んで、席はあとから探す事にした。乗り込むと同時で閉じられるドアに、ふうと溜息を吐く。
 欧州の鉄道には改札はなく、指定席の場合は刻印も特に必要としない。
「さってと、まずは席を探しちゃいましょ」
 ゴーグルを掛けなおし、ゴールドラッシュ(ga3170)が立ち上がる。
「寝台車はたぶん二人部屋のコンパートメント‥‥惜しい、四人部屋だったのね」
 ドアを開いたコーダンテが指を鳴らす。
 切符と車両の番号を参照し、皆で同じ部屋の前に立つ。
「A、B班で分かれる?」
「男女ごとでどうかな?」
 M2(ga8024)――本名マリオン・メイフラワーが声をあげた。
 確かに、依頼を受けた傭兵は男女がそれぞれ4人ずつ。男女同室で眠るというのも何なので、傭兵達は男女別に分かれて部屋に荷物を置いた。寝台車は片側通路になっており、線路の枕木に対して平行にベッドが配されている。
 列車内という制約から、部屋の広さはお世辞にも広いとは言えないが、上等な席である事には違いないらしく、ドアに鍵もついている。
 傭兵達は鍵を掛け、片方の部屋に集まった。
「えー、こほん」
 最年長の遮那が口を開く。
「ヨーロッパの旅行について、注意点を調べておきました。まず、既に先程M2さんからあったように、発車のアナウンスがありません」
 乗り遅れぬよう注意する事、車両の見分け方、改札代わりの刻印機の件、それからとランク以外の貴重品も身につけているようにと、調べてきた内容を一通り皆へ周知する。
 名目上、チームAはゴールドラッシュ、チームBは遮那がリーダーだ。
「ところで、ルートはこれであってるのか。それに、上等な寝台車で良いのか?」
 ふと覚えた疑問を、黒羽・勇斗(ga4812)が口にする。
「UPCの手配だし、大丈夫じゃないかしら?」
 シュブニグラス(ga9903)が答え、切符をぺらりと見せる。
「初依頼、何事もなくすめば良いのですが‥‥」
 荷物を整理しつつ呟く都倉サナ(gb0786)。八人全員が集まると部屋としては狭いが、彼女は上段のベッドに荷をおき、拳銃の隠し場所等を確認している。初めての依頼で緊張を隠せないが、皆の様子を見るに、それほど気構える程ではないか、とも思えた。
 そしてもう一人、カチコチに緊張している者がいる。恵だ。
(平静を、平静を装って‥‥)
 ベッドの上に正座し、身体をしゃちほこばらせ、皆の雑談も上の空。そんな二人の様子に気がついて、ゴールドラッシュがにやりと笑う。
「ま、大船に乗ったつもりで、ドンと行きましょ」
「え、えぇ‥‥」
 対するゴールドラッシュは、欠片ほども緊張していない。
 関連する輸送作戦に従事していた、という箔はゲットするつもりだが、好んで危険な航空戦へ向かうつもりも無い。途切れぬ緊張は、何時しか緊張感を磨耗させる。危険に対する警戒心を麻痺させると言っても良い。
 たまにはこういうのんびりとした依頼も良いものなのだ。
 最低限の警戒を有したまま、箔がつき、のんびり旅行を楽しめる。正直言えば――ぼろい。
「モーリスも言ってたでしょ、景色でも見ながらのんびりしてりゃ良いのよ」
 ――で、改めて恵の服装を見やった。
 軍服は既に着ておらず、恵はブレザー姿だ。だが、その頭にはねこみみが揺れている。慌てて古着を揃えたせいか、ただのフードつきマフラーと間違った。おまけに猫のぬいぐるみと使い捨てカメラ。色々間違っている気がしないでもない。
 そんな彼の目の前に、小麦色の右手が差し出される。
「あたしはマリオン・コーダンテ。クラスはエキスパートよ♪」
「ど、どうも‥‥片桐め、恵、です」
 ここまで多くの見知らぬ人に囲まれて、その上ちょっとしたミスまでしてしまって、恵の緊張は強まる一方で、顔も真っ赤。
 ただ、対するコーダンテも彼のねこみみばかり見てたりもして。


●探検
「さて、と。少し列車を回ってくるわ」
 皆が一通りの挨拶を終えた後、シュブニグラスはおもむろに立ち上がった。ミニハットをかぶり直して立ち上がる。彼女に続いて、サナもベッドを降りる。
「私も一緒します」
 シュブニグラスは、女性であるという条件を外してもかなりの長身だ。
 彼女達が二人並ぶと、姉妹か親子かというまでに身長差が顕著になる。一通り、寝台車から食堂車、通常席等を見て回り、ついでにさりげなく車掌も確認しておく。今のところ、何といって怪しむべき点も無い。
「何かお探しですか?」
 キョロキョロとしていたからだろう。
 人の良さそうな車掌が声を掛けてきた。
「いえ、自分の席が解らなくなってしまって」
「そうですか。切符を拝見しても?」
 切符に書かれた寝台車の方へと、前を歩く車掌。
「ご旅行か何かですか?」
 さりげない雑談。
 もしバグアのスパイだとしたら‥‥というのは流石に考え過ぎか。
「えぇ、旅行サークルの皆で列車旅行を計画しまして」
 サナの言葉に頷いて、車掌がうらやましそうな顔を見せた。
 同じ列車でも、やはり仕事と旅行では勝手が違うのだろう。ドアを開けば、皆、件のトランクケースを囲んでUNOに興じている。トランクケースは棄て札置き場になっていた。荷物はなるべくぞんざいに、重要そうなものには見えないよう注意しつつ、それでいて警戒は怠らずに。
 途中からの飛び入り参加をして、シュブニグラスは列車の間取りを大まかに話した。
「二つ隣に自販機のある車両、その向こうが寝台車みたいね」
「やっぱ、食堂車に向かう時は人数をずらしたほうが良さそうね」
 コーダンテがドロフォーを叩き付けると共に、確認を取る。
 周囲からあがるブーイングや悲鳴の様子からは、どう見ても旅行中のカードゲームに興じる友人達としか見えない。いったいどこの誰が、全員能力者、それも密命を帯びた傭兵等と思うだろう。
「お腹減ってきたな‥‥そろそろご飯にしよっか♪」
 データケースとそっくりなトランクケースを持ち出して、メイフラワーが笑う。
 もっとも、そのトランクケースだけでは入らない。何せ分量は八人前。実際に作ってみれば、中々大袈裟になる。
「中身は何だ?」
 二段ベッドからひょいと身を乗り出す勇斗。
「開けてからのお楽しみ!」
 八つの弁当を手際よく配る。
 食べ始める挨拶は色々だった。色々な人種の人間が集まっている。当然だ。でも、中に入っているものは皆お揃い。内訳は、まず豆腐とひじきの和風ハンバーグを挟んだトーストサンドが視界に映る。その隣にカルパッチョや夏野菜のかき揚げ、チーズとポテトの入った明太子餃子なんて変わり種まで揃っている。
 それからもちろん、トーストサンドの上にはピクルスも。
 献立は凝っていて味も上々、男だてらに油断ならぬ腕前。
 外を見やれば、広がるのはフランスの田園風景に茜色の空、夕焼け。一日目は、そんなこんなでのんびりと過ぎていった。


●パリ〜ブリュッセル
 夜――トランクケースの管理は二人ずつ交代で続けた。
 とは言え、銃を片手に警戒、等と物々しい様子は無く、対外的には彼らは旅行サークル。トランクケース傍らに夜更かしといったような様相だ。
 時刻は深夜4時。
 こんな深夜にも、列車は走り続けている。それこそが深夜列車の利点、そして秘密基地に感じるものと似た、ある種の魅力だ。
「あ、そろそろ交代の時か‥‥」
 時計を目にメイフラワーが呟く。
「もうそんな時間か」
 その言葉に、勇斗が起き上がってきた。
「す、すいません! 起こしてしまいましたか!?」
 慌てて、恵が頭を下げる。
 その様子に、少しばかり罪悪感を感じて、勇斗は苦笑した。
「いや。寝れなかっただけだ。依頼中は気が休まらん」
「きちんと寝ないといけませんよ」
 ふいに、声がした。
 遮那が背を伸ばす。枕元にあった眼鏡を掛けなおすと、前髪を両手でばっと撫で付ける。本来ざっくばらんな髪の毛だ。手を離せばぱさりと落ちてくる。
「休めるときに休みませんとね」
 代わって、メイフラワーと恵がベッドへと潜り込む。
 現在位置はパリ。深夜のパリを、電車は走り抜けていった。


 傭兵達は、待合席で腰掛けていた。
 もちろん、件のトランクケースもきちんと傍らにある。
「時間は、まだ大分ありますね‥‥」
 時計を眺め、サナが本を取り出す。
「何か飲み物を買ってきましょうか?」
「ふっふっふ、こんな事もあろうかと‥‥」
 にやりと笑みを浮かべ、鞄を漁るメイフラワー。何事かと周囲が覗き込むと、彼は勢いよくクッキーを取り出した。
「えへへ〜、クッキー持って来たんだ〜。食べる?」
 更にはポットセットを引っ張り出し、コーヒーや紅茶のパックもおまけに持ち出す。
 トランクケースを倒してその上にポットセットを置くと、手際よく湯を沸かしはじめた。
「じゃ、ついでにトランプといこうか?」
 コーダンテがカードを切りながら皆を見回す。
「何か賭けた方が盛り上がるかしら?」
「そうね‥‥負けたらベルリンでベルリーナー・ヴァイゼ奢りね♪」
「あ、未成年の飲酒はいけませんからね?」
 ベルリーナー・ヴァイゼは、ドイツで飲まれている白ビールだ。遮那はシュブニグラスの提案にフォローを加えたが、よく考えたらドイツの法律はどうだったかな、と思いをはせる。
「ゲームは大富豪が良いなぁ」
 メイフラワーが挙手と共に顔を輝かせる。
「カードゲーム苦手だから、お手柔らかに頼むぜ?」
 ぶっきらぼうに応じる勇斗。
 だが、待ち時間を利用しての壮絶なる賭け大富豪が催される一方、そんな彼らの様子を遠くから眺める男が居た。
 彼らの中には落ち着き無い者もいるが、全体としてはかなり旅慣れた様子だ。
 無理して盗みを働くのはリスクが大きい。
 慣れた小悪党ならそう判断したであろうが、もちろん、引ったくりや置引きの類にも素人はいる訳で。隙の有無を確かめる為に、じっと観察せねば解らない。そして勿論、傭兵相手にじろじろ視線を投げかけておいて、彼等にばれない訳も無く。
「‥‥」
 勇斗と眼があって、男は思い切り飛び上がった。
 一般人から見た勇斗の顔つきは、かなり甘めに考えても、怖い。日焼けした肌に眼付きも鋭く、左頬の大きな十字傷まで刻まれている。そんな彼にぎろりと睨まれて、男はそそくさと席を立った。
 一般客も多いこんな場所で揉め事も起こしたくは無かったし、睨んで追い返せたなら上々だ。
「小物‥‥ね」
 立ち去る男をちらりと見やるゴールドラッシュ。
「あぁ、ド素人だな」
 もっとも、当のトランクケース自体、今はポットセットの下。盗ろうと思えばポットセットがひっくり返る。そんな状態で引ったくりや置き引きが出来る訳も無い。
「あたし達に気取られずにそれができる一般人なんて、それはそれでスゴいけどね」
「か、革命‥‥です」
 恵の言葉にはたと気づき、ゴールドラッシュは視線を転じた。
「なっ‥‥!」
 賭けは苦手だ。苦手だが、これは元々賭け専門のゲームではない。だのに、この手札は何だ。残りは『元』強力な手札のみ。運が悪いとしか言いようが無かった。
「革命でも、私は負けませんよ?」
 普段の礼儀正しさそのままに、サナはむむと唸る。
 表面上の事だけで、実際にはかなり負けず嫌いだ。それは、見ている誰からも解ってしまうほどだ。対する革命をやらかした恵も、引っ込み思案に見えてかなり負けず嫌いだが。
「僕も大貧民は御免ですねぇ」
「俺だってそうさ」
 苦笑して応ずる遮那と勇斗。
 ゲームはそのまま推移した。
「す、すいませんっ、僕が革命なんてすいませんっ」
 勝利に胸を撫で下ろす各々の只中で、涙目気味に頭を抱える恵が目立った。一方でお金が出て行く事を悔しがるゴールドラッシュ。下手の横好きと言うには、これはちょっと大敗北に過ぎるのだ。
 それはともかく、時間も時間で、傭兵達は新しい列車に向かう事になった。


●ベルリン
 二日目からは食堂車を利用した。数名ずつ交替で食事をとり、何事の問題も無く時間は過ぎて行く。お菓子をつまみながら、シュブニグラスは静かに景色を眺めていた。紫陽花柄の浴衣が、すらりとした彼女によく似合っていた。
 サナは持参の本をじっくりと読んでいて、時折思い出したように列車内を巡回している。
「もうすぐ、ベルリンですね」
 本を閉じ、思い出したように呟くサナ。
「あら、もうそんな時間?」
 パチパチと扇子を閉じ、シュブニグラスが時計を見やった。
 体内時計は私の方が正確かもしれませんねと、サナは笑った。傭兵達はベルリンで下車する。そのまま一直線にユニヴァースナイトへ向かい、トランクケースを渡す事になる。
 あとは、ベルリン観光とまでは行かないだろうが、ゴールドラッシュの奢りで少し飲みに行く事になるんだろうか――少し悪気も覚えながら、サナは小さく笑った。