タイトル:アルバニアで朝食をマスター:御神楽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/03 22:47

●オープニング本文


 アルバニア――東欧、バルカン半島に位置する小国。
 大規模な反攻作戦が展開される五大湖周辺とは比べるべくも無いが、アルバニアもまた、両軍の競合する激戦地だ。
 バグアの主力との戦闘を担う主力は当然、UPC軍である。だが同時に、東欧の旧共産圏に於いては、多数の民兵――或いは自警団――が粘り強い抵抗を見せていた。
 というのも、これらの国々がゲリラ戦を想定していた事もあるが、このアルバニアは、その歴史的経緯から過剰な軍事力を維持しており、50万基に及ぶトーチカ群が国内に整備されている他、大量の銃が備蓄されていた。
 そんなアルバニア南部の村、ヴォルスニ。
 この村落もまた多数の民兵を擁し、村の戦略的価値の薄さもあって、辛うじてその生活を維持していた。
 だが――それも限界だ。

「さて、トイレットペーパーが無くなった訳ですが‥‥」
 村役場、髭面の男がおもむろに口を開いた。
「石油も、そろそろ、いけませんな」
「もうすぐ春とは言え、まだ寒いからな」
 ジャケットを着込み、ニット帽を被った男達が次々と続く。
 皆、表情は沈鬱だ。
 問題は簡単な話だった。物が足りない。
 別に、村が完全な包囲下にあるとか、そんな事は無いのだが、いつどこでバグアが現れるかが解らない。自然、運送業者の足は遠のく。アルバニア政府は責任を持って物資を運送すると宣言しているものの、現実的に難しい。
 トラック程度は準備できるし、物資も調達できる。
 しかし、バグアも補給線の撹乱を狙っている。輸送用のトラックを丸裸で送るのは、あまりに危険すぎた。かといって正規軍は激戦地へ回されており、これらの輸送トラックに護衛を付けるだけの余裕は無い。
 これ以上補給の無い状態が続く事は厳しいが、ヴォルスニ村へ物資が届けられるのはまだ先。ヴォルスニ村だけがごねる訳にはいかない。
 そこで‥‥傭兵だ。
「傭兵ですか?」
「その通りだ」
 疲れた表情の村長が、静かに応じる。
 物資と運搬手段だけでも用意できれば、これを傭兵の手で輸送してもらおうと考えたのだ。
 村の周囲は深い森林に囲まれており、トラックが走行できるルートが限られる一方、周囲にはキメラが徘徊している。ただ、これらの条件は、傭兵稼業に生きる者達なら、準備さえ怠らなければ十分に突破可能な障害だ。
 準備されたトラックは全部で3台。
 内、民生品が詰まれたトラックが2台に、武器弾薬が1台。これらの準備が整うと同時に、傭兵の募集が開始された。

●参加者一覧

霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
リーゼロッテ・御剣(ga5669
20歳・♀・SN
みづほ(ga6115
27歳・♀・EL
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
エミリア・リーベル(ga7258
20歳・♀・EL

●リプレイ本文

 アルバニア首都、ティラナよりも南、軍の指定した物資集積地に、傭兵達は集まっていた。
 駐車場には、四台のトラックが停まり、アルバニア軍の兵士が積荷を点検し、積み込んでいる。
「ちゃんと、スペアタイヤもお願いしますね」
 ベレー帽にジャケットを着込み、みづほ(ga6115)は兵士達と共に歩き回ってスペアタイヤ等を積み入れていた。礼儀正しい物腰を見せつつも、そのしっかりとした体付きからは、彼女が傭兵である事を再確認させる。
 その隣では、寿 源次(ga3427)が片膝で立ち、トラックの足回りを点検していた。物資を必ず届ける為、安全の為、慎重を期しての事だ。
 一方、リーゼロッテ・御剣(ga5669)は水筒を持ち出し、持参した緑茶を淹れていた。
「リーゼロッテさん、お手伝い致しますわ」
 そんな彼女の背中に声を掛けたのは、エミリア・リーベル(ga7258)だ。
「え、うん、有難う。えっと‥‥」
「エミリア・リーベルと申します」
 おしとやかに笑う彼女を前に、リーゼロッテは不思議そうに首を傾げる。面識が一方的だったからだ。出発を前に、ほんの一時、のんびりとした空気が流れた。


●出発

 曲がりくねった道を、四台のトラックが走り抜ける。
 先頭を切るのは幌を被せた軽トラックで、その後方には、一定の間隔を置いて、三台の運送トラックが続いていた。ただし、その速度は決して速いとは言えない。その原因の第一は、道だ。彼等は、バグア側に把握されている可能性が高い主要路を避け、運搬ルートに、森林の中を走る迂回路を選んだ。
 山がちな地形に沿って木々が並ぶ。森の中は舗装されていない箇所も多く、近日の天候の影響もあってか、路面状況は決して良いとは言えない。
 もっとも、原因はそれだけでは無いのだが‥‥。
 凛とした白肌の女性が双眼鏡を覗き込む。
 しかし、遠くを見渡せるかと思った双眼鏡だったが、車体が揺れ、木々が視界を過ぎ去る森の中では、思い通りの視界を確保するのは難しかった。彼女、霞澄 セラフィエル(ga0495)は、小さな溜息と共に、双眼鏡から眼を離す。
 隣席から聞こえる、控えめな鼻歌が耳をくすぐる。
「フンフ〜」
 鼻歌と共にハンドルを握るのは、リーゼロッテだ。
 だがその運転には、リラックスしつつも、どことはなしにぎこちなさが残っている。理由は単純明快で、彼女は、ペーパードライバーなのである。速度が控えめにされているもう一つの原因が、これだった。とは言え、安全運転は若葉マーク最大の武器だ。
 続く二台目に搭乗するのは、新条 拓那(ga1294)とカルマ・シュタット(ga6302)の二人だ。
 カルマがハンドルを握り、拓那は地図を広げ、方位磁石と睨めっこをしている。鉛筆を地図に走らせ、マイクを掴んだ。軍の後ろ盾があるだけに軍用無線だけは各車両に装備されている。
「次の橋越えたら右なっ」
 元気な明るい声で、彼は吠えた。
 雑音交じりだったから、自然、声が大きくなったのだ。
「村の人は、補給が早く欲しいだろうな」
 そんな拓那の様子を見て、カルマが話しかける。
「うん。荷物と一緒に、村を守る人達に希望を届けられると最高だよね」
「あぁ、なんとしても無事に届けないとな」
 最後部、四台目のトラックには、二台目のトラックと同じく、雑多な民生品が積まれていた。
「うーん‥‥」
 運転席には、残念そうな顔で諫早 清見(ga4915)が座っている。
 彼は、本来であればキメラの生態等の情報を事前に入手し、キメラに備えようとしていた。だが、これらの情報を、正規軍兵士達も殆ど把握していなかった。逆に言えば、だからこそ、地方への物資搬送が滞っているのだとも言えたのかもしれない。
 解っている事と言えば、確認されているキメラは昆虫型で数が多いという事ぐらいだ。
「‥‥諫早さん」
 小さく溜息を付いた諫早に、助手席に座るエミリアが、静かに、しかし聞こえやすいようハッキリと声を掛けた。
「来ました、キメラです」
 その言葉に、諫早はバックミラーへと視線を走らせる。ちらりとではあるが、小さな影が数体、後方から迫っている。
 傭兵の経験も浅く、彼女自身、自身が緊張している事を認識している。
 だが、その彼女が最初にキメラの接近を察知したのだ。距離は、十二分に開いている。迎撃準備を整えて尚お釣りのある程に。


●森林を抜けて。

「酷い悪路ね。お尻が痛い‥‥」
 三台目。武器弾薬を満載したトラックの運転席で、みづほがぼやいた。
「フンガー♪」
 助手席には源次が座っている。鼻歌交じりながら、彼も、周囲への警戒は怠っていない。
 先頭に響く鼻歌とはまた趣の違う、低く響く鼻歌が、ふと、止んだ。車載無線が鳴り響く。
「‥‥来たか」
 最後尾に乗るエミリア達からの連絡だ。
「キメラ?」
「後方から追って来ているようだ」
 みづほの疑問符に、源次が答え、その言葉に、彼女は速度を緩めた。
 時を同じくして、先頭、二台目のトラックも停車し、距離が詰まってから、彼等の三台目、そして最後尾の四台目が停車する。
「後方からです。数は九‥‥いえ、十!」
 助手席を飛び出し、エミリアが叫ぶ。
 皆、表情を引き締め、或いは己を鼓舞するように笑みを浮かべ、今来た道へと眼を向ける。
 遠方から羽音を響かせる甲虫型の小型キメラ――ブラインドビートルが群れをなし、森林の木々の合間を抜き、トラックへと迫る。
「虫は苦手なんだけどなぁ〜‥‥でも、困ってる人たちが待ってるわ。ちゃっちゃと届けて、現地のお酒で一杯やりましょ♪」
 努めて明るく振舞い、リーゼロッテがドローム社製のサブマシンガンを掲げる。
「キメラじゃなくても‥‥虫はやっぱり他の生き物という気がしますね」
 相槌を打つように、セラフィエルが苦笑した。彼女は、アルファルと呼ばれる洋弓に矢をつがえ、引き絞る。そして、張り詰められた弦の響きは、一つでは無い。みづほとエミリアもまた、それぞれ和弓と洋弓「リセル」に矢をつがえ、甲虫に狙いを定めている。
 甲虫の群れが、生い茂る木々を抜ける。わっと広がる。
 群れを出迎えたのは、飛び散るように跳ね回る弾幕だった。
 髪と瞳を金色へと変え、リーゼロッテは引き金に力を込める。甲虫は弾丸を表皮で弾きつつも、時折、関節を引き裂かれ、バランスを崩す。
 直後、羽音が緩まり、動きの鈍ったブラインドビートルを貫く、矢。
 一度や二度は避けられても、避けた甲虫目掛け、エミリアが矢を放つ。幾ら小型で素早くとも、十分な迎撃準備を備えた彼女等の射撃は連携が保たれ、正確であった。
「ッたくもう‥‥ワラワラとわいてきやがってぇ!」
 先ほどとは違った鋭い表情を見せ、拓那がツーハンドソードを振るう。
「とっととご退場願いましょうか!」
 襲い掛かるブラインドビートル。数任せに矢の隙間を抜くが、飛び出してきた順に、彼の振るう剣に弾き飛ばされる。
「そこだ!」
 トドメを、獣が刺した。
 その獣は、覚醒状態に置かれた諫早だ。狼――灰色に落ち着きを落とし込んだ毛色をして、狼は瞬速縮地で駆け回り、ブラインドビートルを近付かせない。
 ブラインドビートルは数こそ多かったが、固体固体の強さはさほどでも無い。
 トラックの荷台に潜り込まんと近付いたものから片っ端に、彼等傭兵達が始末を付けていく。射撃攻撃こそ誤射を警戒して攻撃が鈍ったが、しかしその分、少しでもトラックを離れれば、虫は即座に撃ち落され、息絶える。
 ただ‥‥攻撃は、想像以上に弱体だった。
 その余裕も活かし、カルマは周囲への警戒を続けていた。
「‥‥‥‥後ろだ!」
 突如、叫んだ。
 警告に、拓那が翻る。掲げた剣に、重い一撃が叩き込まれた。
 木々を薙ぎ、姿を現したのは、巨大な蟷螂だ。その全長は彼の身長に並び、一メートル半にも届こうかという程だ。
 蟷螂がもう片方の腕を振り上げた。
「くっ!」
 しかし、その動きが止まり、一歩二歩と後ずさる。蟷螂の胸から、矢が一本生えている。みづほだ。続けざまに放つ二の矢が、眼を貫いた。
「うわぁ、まだ動いてる‥‥」
 みづほは、黒く染まった腕で矢を引き絞っていた。
 彼女が呟き、それにつられ、リーゼロッテは露骨に嫌悪感を示している。
 二人の合間を縫い、カルマが跳ぶ。
 手に握られているのは、ミルキアと呼ばれる手槍だ。その槍が淡い光を放つ。
「得物を強化した。効果が続いている内に片付けよう」
 源次が超機械を構えて告げる。
 練成強化を施すと同時に電磁場を作り出し、蟷螂を牽制する。
 ぐらつく蟷螂目掛け、カルマが槍を突き出す。急所突きと豪破斬撃を併用した、正確無比な一撃だ。彼の槍が、蟷螂の鎌をすり抜け、紙一重、一直線に首元へと跳ねた。
 槍先が、ずぶりと沈む。手応えがあった。
 ぐらりと揺れた蟷螂の頭部が、矢に引きずられて弾け飛ぶ。
「村の人達が心待ちにしている物資です、足一本触れさせません」
 青白く光るオーラを羽のように纏い、セラフィエルが立っていた。


●アルバニアで朝食を

 キメラの攻撃を撃退し、トラックはヴォルスニ村へと到着した。
「毎度、お待たせした。引取りのサインを頂きたい」
 メモ用紙をひらりと見せて、源次が小さな笑みを浮かべる。
 トラックの到着に顔を出した髭面の民兵達は、大きな歓声をもって彼等を出迎えた。村長のごわごわとした掌が、彼等一人一人の手を取り、思いつく限りの謝意を述べる。
 昼過ぎの少し遅い朝食に誘われ、彼等はアルバニアの一般的な料理、オスマントルコ時代の影響の残る、中東的な、それでいてどこか趣の違った――その上で、どちらかと言えば昼食と呼ぶべきボリュームの――料理を楽しんだ。
 食事に同席した民兵達の表情は、疲労の色こそ隠せなかったが、希望の色までは失っていない。
 それも全ては、今回の補給が円満に成功したからだ。
 何処かで誰かが、共に戦っているという事実。
 それこそが、彼等競合地域の住人達に対する一番の激励であった。