タイトル:英国王立兵器工廠の決断マスター:御神楽

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/27 00:24

●オープニング本文


前回のリプレイを見る


●飯は喰わねど‥‥
「オノォーレェー!」
「うるさいですよ主任。なんですか、あなたは御大将ですか」
 涙目のルーシーがじたばたと暴れていた。
 ひとしきり騒ぎきった後、彼女はふうと溜息をついた。冷めたコーヒーを口にして、新聞記事を再び眺めて、モニターに映るデータを睨みつけた。
 彼女が睨んでいるのは、他でもない。
 インド、マルート・スタン・インディア社から発売されたビーストソウルである。
「我が社のMI6は何をやってたんだ? あ?」
「さぁ‥‥」
「まったく。開発を知ってさえいりゃ、これに対抗したものを仕上げたんだがなぁ」
 英国工廠としては、MSI社に一歩先んじられ、完全に出し抜かれた形だ。
 かといってこのまま引き下がっては英国紳士の面子が立たぬ。面子無い世界帝国などくそくらえと言ってのけるのが英国紳士。上層部はあくまで強気に開発続行を指示している。ルーシーはイングランド人ではないけれど。
「‥‥かといって、な」
 問題は、リヴァイアサンが完成に近付いている事である。
 これを白紙に戻す訳にも行かない以上、方針を継承しつつ、改良を加えねばならない。
 コーヒーをぐっと一気飲みし、エミールが立ち上がる。
「さぁて、ハドソン君」
「ワトソンです」
「傭兵を呼んでおいてくれぇい」
 ごくり、と息を飲むワトソン。
「最後の機会になる。あとはやれる事は無いやろうからな」
「わ、解りました」
「んじゃ、頼んだぞハリソン君」
「‥‥ワトソンです」


●現状
 集まった傭兵達の前に、ルーシーが現れる。
 何時もの汚〜い白衣も洗濯済みなのか、若干マシそうだ。彼女は部屋を暗くすると大画面にデータを表示して、煙草を手に傭兵達に向き直った。
「さて、と。みんな知ってるだろーけど、ビーストソウルが出ました」
 大きな溜息を、一度。
「問題はリヴァイアサンの今後な訳だよ。前回話してた方針で行くか、多少高額化しても更なる性能を突き詰めるか‥‥」
 ルーシーら開発陣の予定としては、回避性能や攻撃力を加算する事で、さらに鋭い機体へと仕様を変更する事等も考えられているが、いずれにせよ、性能を変えていくのであれば、レンタル料も変わる事になる。
 したがって、集める意見は機体価格にまで及ぶ事になる。
 そして、一方のナイチンゲールMk2改め、ロビンは――
「こっちは、リヴァイアサンと違って、別段の問題は無いんだ」
 腕を組み、ルーシーは様子を思い出すように首を傾げる。浮かぶのは会議室での幹部達の様子。今のところ概ね好印象を持たれている。
「あとは‥‥上層部が最終的な決断を下すのを待つばかりさね」
 つまり、ロビンに問題はなく、今回の問題、依頼の中心となるのは、やはりリヴァイアサンだ。予定では試作機をテストし、その後完成へ向かう事になっていたが、事ここに至っては止むを得ない。
 はたしてリヴァイアサンが大海の悪魔となるか、万人の闘争を治めたる王となるか‥‥それは今回の依頼に掛かっている。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
アッシュ・リーゲン(ga3804
28歳・♂・JG
柊 香登(ga6982
15歳・♂・SN
ロジャー・ハイマン(ga7073
24歳・♂・GP
リュウセイ(ga8181
24歳・♂・PN
ジーン・SB(ga8197
13歳・♀・EP
エメラルド・イーグル(ga8650
22歳・♀・EP

●リプレイ本文

●死んだ魚の目とか
「元気出せよ! ビーストソウル登場で沈んでるだろうが、一緒に負けないものを作ってやろうぜ!」
 開口一番、リュウセイ(ga8181)はいつもの大音量で景気よく笑い飛ばしてみせる。
「まぁ、わしあまだ良いんだけどさ、皆がねぇ‥‥」
「ん?」
 ひょいと肩越しに研究室を覗き込むと、そこにはカビが漂っていた。
 いや、正確に言えばカビは漂っちゃいないのだが、精神的カビが漂っている。居並ぶ死んだ魚のような目に、陰気で閉め切られた研究室。あんまりと言えばあんまりなその様子に、鯨井昼寝(ga0488)がたまらず飛び込んだ。
「当初仮想敵に据えていた強力な敵兵器も現れ始めてる、ここまで来て引く必要は無いわ」
 そう言われて、力なく顔を見合わせる研究員達。
 そんな彼等を見て、鯨井は研究員達の背中をバンッと叩いた。
「しゃきっとしなさい! 仕上がれば私は必ず買う!」
「そうだ、マルート・スタンのビーストソウルリリースは事故として割り切り、より良いものを完成させるより他ないだろう」
 苦笑する白鐘剣一郎(ga0184)。彼の言葉に続けて、アッシュ・リーゲン(ga3804)がフッと煙を吐いた。
「最初の水中用機って武器は無くなっちまったが、最高級を武器に変えて殴りこみといこうじゃねえの」
 正直なところを言えば、彼が注力していたロビンの開発はほぼ終了している。自分の仕事は終ったという感もある。のだが、ケリをつけたという感は無い。その点はロジャー・ハイマン(ga7073)も一緒だった。
 英国の為を思って参加した以上、行く末を見届けたいのだ。
 一方、立場の少し違うものもいる。
 ジーン・SB(ga8197)だ。
「慣れた顔が並んでいるところにわりこんで恐縮だが、今日はあのナイチンゲールヲタクの代理でな」
「あぁ、彼の代理ですか」
「んむ。私は代打としてもエキスパートだ‥‥!」
 ロジャーの一言に力強く頷くジーン。何といっても彼女には、家主相手の義理がある。あのナイチンヲタ――語弊がありそうだ。ナイチンゲールヲタクに代わり、リヴァイアサンの見直しに参加している。
「では皆さん、そろそろ始めましょうか」
 柊 香登(ga6982)がすっくと立ち上がり、やおら資料を配りだす。資料にはビーストソウルとリヴァイアサンのスペック比較や、実戦での写真などが納められていた。
 人数分の資料が行き渡っている事を確認すると、彼等は意気込んで顔を寄せ合った。


●基本方針
 口火を切ったのは、鯨井だった。
「研究員の皆には悪い話と良い話、両方同時にさせてもらうわ」
 その言葉に、思わず顔を渋らせる面々。
「まずビーストソウルだけど、リリースされてからそこそこ出回っている。ただ同時に、これは良いものを出せば売れるという何よりの証拠だから、リヴァイアサンも価格と性能の両面を引き上げるべきよ」
「僕も賛成です。ただ、高価格に見合うだけの生存性とバランスは保持しつつも、命中と回避に特化させるべきと思います」
 柊の言葉に、アッシュが首を傾げる。
「まずは回避を中心に性能を上げるべきじゃないか? 俺としては、海中の雷電を目指すべきかな、と思ってるんだが」
 アッシュの言う『雷電』とは、高い生存性を中心とした重爆撃機という意味ではなく、高い機動性によって先陣を切るという面を指してのものだろう。
「ふむ‥‥」
 顎に手をやり、白鐘は資料へと眼を落した。
 そんな彼の隣で、ジーンが立ち上がって写真へと手を伸ばした。
「ビーストソウルとの競合は甚だ宜しくないという点は皆と同意見だ。というか、XNといい今回の件といい、MSIは英国になんぞ恨みでもあるのかッ‥‥っと、届いた」
 ビーストソウルの写真をつまみ上げ、それをまじまじと眺めるジーン。口がへの字に傾いた。
「‥‥あったな。インドだものな」
「個人的には‥‥現在の提示性能でも充分だと思うんですけどね」
「そうか?」
「えぇ」
 ロジャーが、ジーンの言葉に頷く。
「機動性を重視するリヴァイアサンと、重厚なビーストソウルですから、現状で、少なくとも片方に客が集中する事は無いんじゃないかと。もちろん、性能の引き上げに反対する訳ではありませんが‥‥」
「いや、やはり、俺としては高性能化と高額化を推すな」
 先程まで資料を眺めていた白鐘が眼をあげる。
 そうして、おもむろに口を開いた。
「水中が厳しい環境なのは言うまでもないが、水棲キメラ‥‥とりわけ水中型アースクエイクの存在は無視できない。これに勝てるだけの性能を保持する事を前提として考えると、あまり価格を意識しすぎれば競合に勝つ事は出来まい」
 彼の言葉に、エメラルド・イーグル(ga8650)は淡々とした様子で続ける。
「そうですね‥‥あくまで、リヴァイアサンは全てにおいて強い機体というイメージをもたせるべきと思います」
「そいじゃ、基本的には多少高額化しても構わないから、機体性能を引き上げる、って方向でOKか?」
 ルーシーの言葉に、皆頷いた。反対は無かった。


●各論
 基本的な方針が定まった事もあり、議論は性能等の各論に入る事となる。基本的な性能に優先順位を付けねば、ただ闇雲にスペックをあげるだけでは良い機体は生まれない。
 まず、ロジャーが発言を求め、軽く手を掲げた。
「装甲をこれ以上引き下げる訳にはいきませんが、値段を上げてでも機動力を底上げすべきかと思います。もう少しビーストソウルを引き離すべきですね」
 その言葉に、エメラルドが小さく頷いた。
「先ほども述べたとおり、私は平均的な高性能を求めたいと考えていますから、強化を図るなら、弱点を補う形で改良を進めるのが良いと思います」
「確かに、リヴァイアサンの回避性能は比較的低めだからね」
「もしくは、反応速度や加速力を改良する、もしくは拡張性を高める等の強化を望みたいところです」
「基本的には‥‥」
 と、柊が口を挟む。
「先鋭化より汎用性です。エース仕様である以上ある程度の先鋭化は仕方ないでしょうが、基本性能と拡張性のバランスを重視し、実質剛健に、華より実で行くべきかと思うのですが‥‥」
 その言葉に、いやいや、とアッシュが手を振り、ニヤリと笑みを見せる。
「さっきの繰り返しだが、俺のイメージは、やはり海中の雷電だな。ただ、こっちは硬さじゃなく回避で勝負だ」
「というと?」
 鯨井の問い掛けに、アッシュが頷く。
「ハイドロジェットによる高い機動力で敵の攻撃をひきつけ、先陣を切るって感じだ」
 いわゆる、ヒット&アウェイ、一撃離脱と呼ばれるものだ。
 それを実現する為には高い機動力と、一瞬の大火力が必要とされる。先陣を切るのであれば、尚更だった。
「俺も回避性能の改善に賛成だぜ」
 ぐっと拳を突き上げ、立ち上がるリュウセイ。
「基本は今のまんま、ハイドロジェットの能力は、ワイバーンのマイクロブーストを応用させて水中だけでも移動力強化を持たせたいぜ。デザインはシャープに、回避を高める方向にチェンジだ!」
「それなら、いっそのこと知覚を切り捨てて実弾火力に特化してみてはどうだろうか」
 ジーンの言葉にアッシュが振り向く。
「俺としては、まだ不足がちな水中用知覚武装を同時に売り出して、それで普及させるってのも手と思うんだが」
「うむ。だが、潜水形態をメインとするなら、レーザーよりも魚雷やガウスガンがメインだろう。ビーストソウルはバランス型だが、やや知覚兵装寄りだ。知覚を切り捨ててでも高い火力を得れば、差別化を図れるように思う」
「うーん、確かにな、その方向も捨てがたいな‥‥」
 もちろん、反対意見もあった。
「いえ、待って下さい。これ以上攻撃力を引き上げる必要性は薄いと思います。それぐらいなら価格に転化するか、各性能の弱点を改善する事に注力すべきかと」
「妥協点と言う訳ではないが、まず第一に機動性を強化する、というのでどうかな」
 白鐘が机中央にあった、水中用アースクエイクの写真を指差す。
「俺は、潜水形態の高機動力を最大限に引き出す方向を推したい」
 彼は、ビーストソウルは強装アクチュエータによる水中での人型戦闘を重視した機体と見た。であれば、その逆方向で高い性能を発揮すべきではないか、と考えたのだ。
「優れた加速性と運動性を以って、アースクエイクをも狩る海の王者。リヴァイアサンの名に相応しいと思うが」
 そう言って、微かに笑って見せた。


●重要な二点
「それから、水中での速度は40ノット以上でブーストを可能に、実用的な潜水深度は、ビーストソウルと同じ200m程度は欲しい」
「同じく」
 今まで静かだったが、事は今と立ち上がる鯨井。
「私なりに色々考えたのだけど、リヴァイアサンに特殊な力は必要無いという、前提を貫くべきよ。私が求めるのは一点。潜行可能深度はビーストソウルと同等以上である、200m以上とする事」
 水中用機体にとって、どこまで潜れるのかという点は、重要なスペックだと彼女は考えている。
 ここまできてテンタクルス並みの75m前後が限界、では格好がつかないにも程がある。最低限、同等レベルであれば問題無し。できれば、200m以上の潜水も可能としたいところだった。
 ならばと、リュウセイが机をドンと叩く。
「あとそれならよ、ここでドラグーン、AU−KVにも対応できれば絶対受けると思うぜ。水中用AU−KVもこれからやっていくと良いんじゃねえかな? ロイヤルネイビーの底力、見せてやろうぜ!」
「私も賛成だ。耐水性能を確保するには大型化、重装甲化が必要だろ?」
 ジーンの言葉に、ルーシーが鷹揚に頷く。
「まあね」
「なら、操縦席の空間を少し大きくとって、AU−KVに対応する余裕を確保できないだろうか」
「そうですね‥‥」
 普段と変わらぬ様子で、エメラルドは淡々と応じた。
「私としても、耐水圧装甲かAU−KVへの対応、そのどちらかは欲しいと思います。両方追加されるのがベストですが、これらへの対応で価格が400万を越えるとしたら、せめて、どちらか片方だけでも検討して頂きたいです」


「どれ。それじゃあ昼食とするかい?」
 アッシュが手包みを開き、中からサンドウィッチの入ったタッパーを取り出す。
「はぁ、こりゃありがたやありがたや‥‥」
 もしゃもしゃと群がる研究員達。
 少しはまともな生活を送れ、と思わないでもないのだが、まぁ、少し言ったところで今更改まるとも思えない。言っても栓無い事だろう。
「ふーむ‥‥」
 ガジガジとサンドウィッチ噛んでいたルーシーが首を傾いだ。
「つまり、まず回避を優先しつつ、弱点‥‥現段階で言えば、シールド性能や抵抗を引き上げる、ってところかね? 或いは、知覚を切り捨てて打撃力か‥‥」
 皆が最後にと手渡した武装案をファイルしつつ、彼女は机に腰掛ける。
「そういう事なら、やはり攻撃を高めては?」
 柊が、手を揚げる。
「まずシールドは人型でなければ展開できませんし、抵抗はともかく、一撃離脱戦には高い火力が必要です」
「ふうん」
「皆さんは機動性を重視してるみたいですし、それだったら、機動性以外の能力も、高い機動性を活かす事に注力すれば、高次元で纏ると思います。それに、価格当りの性能も大切ですから」
 柊は手元の紙に簡単に計算を走らせた。
 その計算がストレートに評価を与えているかどうかはともかく、彼が考える限り、ビーストソウルや雷電を比べてみると、雷電は『価格の割りに弱い』という事になる。つまり、対費用効果の問題だ。
「その上で、AU−KVへの対応と潜水深度200m以上、両方を満たすべき、か。まっ、こんなところかの?」
「それと、デザインはどんな感じになるの?」
 最後だからと、鯨井が軽く問い掛ける。
「ん? ふふふ、みなの意見を取り入れつつ、まだ秘密、ってところかな?」
 ルーシーはにやりと笑ってみせた。