●オープニング本文
前回のリプレイを見る●再接触
ベオグラードのしがない軽食屋。
エミール・ブレゴビッチはジンジャーエールを喉に流し込みつつ、ぼんやりとテレビを眺めていた。
テレビのニュースでは、先の欧州攻防戦を人類側の勝利と大々的に報じており、現地の声や兵士の声、ヒーローインタビュー等が延々と流されている。
ドアの鈴が鳴った。
いらっしゃいと声を掛ける店主に軽く会釈し、初老の男が隣に座る。
「もう一度傭兵へ声を掛けてくれ」
男はコーヒーを注文した。
「それはそうと、傭兵の能力って大したもんやろ?」
「まぁ、悪くないな」
「‥‥アリガト」
偉そうな言い方だなぁ、と思ったが、口には出さなかった。
男は言葉を続ける。何でも、欧州での攻防戦も一段落したのでホテルを移ろうという事になった為、一泊の護衛と、移動中の護衛を続けて担えという事らしい。前回の襲撃を考えると、相手は普通の人間では無い。移動中が危険だと判断したのだろう。
「了解〜、せやったらさっそく」
こそこそっと軽食屋を後にするエミール。
自然なその動作によって、料金は踏み倒した。男に勝手にツケて来た。
「失敗するとはな‥‥」
「そういう事もありますよ」
雑誌のページをめくり、男が眼鏡を掛けなおす。
「傭兵達が意外とやりましてね」
「言い訳は後からしろ。良いな、今度こそヴィンセントを始末しろ」
「傭兵が居るなんて話、最初にはありませんでしたからね。良いですか? 代金は割りまして頂きますよ」
雑誌を畳む男。
帽子を深く被りなおして、会釈も無しに歩き始めた。
●ホテルにて。
時刻は夜11時。ホテルの最上階二階分が貸しきられているのは以前と変わらない。
壊れた非常口はまだ応急措置だけで、壁には闘いの痕跡が残っている。
傭兵達が通されたのは前と同じスウィートルーム。多くの傭兵が同じ部屋に集まり、机を囲んでいる、机には、移動先のホテルや地図等、必要と思しき情報が並んでいた。
ドアを、ノックする音。
「ブレゴビッチ、いるか」
顔を出したのは、幾度となく彼女と接触していた初老の男性だった。
長身で痩身、白髪混じりのその男はマッシモ・ロッセリーニという。
呼ばれたエミールが立ち上がり、ドアへ歩み寄る。
「何やろ?」
「書類手続きだ。エントランスまで行く」
「やって。誰か来てくれる?」
言葉に頷き、立ち上がる傭兵。数名の足音が部屋から遠ざかって行った。
後に残されたのは会議を続ける傭兵達だけで、暫くして、ヘンリエッタが飛び込んできた。髪が乱れているその様子を見るに、兄のところを飛び出してきたのだろう。
「うぅ、疲れたー!」
軽く手を掲げ、挨拶する。
彼女が、腰掛けようと椅子を引いたその時――
●エントランス
エントランスへ向うエレベーターの中、傭兵達はふとした違和感に首を傾げた。
エレベータをおり、カウンターに向うマッシモ。違和感の正体にはたと気付いて、エミールが問い掛けた。
「あ、他の兵隊は――」
「他は護衛は下がらせた。車で移動するとなると、大人数でゾロゾロ動くわけにも行かないしな」
「ふぅん‥‥ん?」
再び首を傾げるエミール。
「あれ? それじゃあ――」口を開きかけたが、その言葉は続かなかった。
突然の轟音。
面を上げたマッシモの表情が強張っている。
「何事だ!」
「これは‥‥爆発か!?」
傭兵達に、緊張が走った。
顔をマスクで隠した何者かが姿を現す。
爆弾は最上階のエレベーターと階下のホール、非常階段の出入り口を吹っ飛ばしている。
ナイフを引抜くと、床を蹴って駆け出した。現在位置は最上階、向うはヴィンセントの部屋だ。
(さて、傭兵は来るかな?)
睨むような男の笑顔が浮かんだ。
●リプレイ本文
●嵐の前の静けさ
「暇ね‥‥」
風代 律子(
ga7966)が、ぼんやりと呟いた。
前回と同じく、彼女は天井裏の排気管にいた。カルマ・シュタット(
ga6302)も、ドアの前で警戒に当たっている。
「――おっと」
ドアから駆け出すヘンリエッタを、カルマが眼で追う。兄弟なんて気心の知れたもので、からかったりからかわれたり、あんなものかな、とも思う一方で、自分の弟を思い出したりもする。
「俺も、帰ったらジノのところへ顔を出すか。見ていてちょっと寂しくなってきたからな」
そんなヘンリエッタと入替りで、如月・由梨(
ga1805)がエレベーターから現れた。
ヴィンセントの護衛は、現在三名だ。
マッシモと共にエントランスへ向ったのは四名。
ファーザー・ロンベルト(
ga9140)もその中の一人だ。
「始めまして、マッシモさん」
背のすらりとのびたロンベルトが、屈みがちに会釈する。ロンベルトと比べると大人と子供ぐらいに丈が違う。マッシモはやや気圧されながら、その挨拶に応じた。
「にしても蟹座のゾディアックといい‥‥偉い人達の間でお嫁探しの旅が流行ってるんですか?」
苦笑するレールズ(
ga5293)。
その言葉に、ふとエミールが首を傾げる。
「蟹座‥‥ギルマンが嫁探ししとんのか?」
あのジェイソンづらの嫁とは、ぞっとしない。
――そしてふと、護衛の兵隊がいない事に気付いた。
「大規模作戦が一段落しても‥‥いえ、だからこそ余計に不安定な状況、下手に動かない方が良いとはいえ、狙われてるとなると何とも言えませんわね‥‥」
エレノア・ハーベスト(
ga8856)を前に、ジュリエット・リーゲン(
ga8384)が口を開く。
「せやねぇ‥‥」
確かに移動するのは危険で不確定要素を増やすことになる。ただ一方で、このホテルの居所は割れているのも確かで。
会議室に、ヘンリエッタが飛び込んできた。
その表情からするに、ヴィンセントの元を逃げ出してきたのは明確で、ジュリエットは苦笑を隠せない。御疲れ様と声を掛けて紅茶を注ぎ、そっと差し出す。
「有難う、ジュリエットさん」
「ジュリアで構いませんわ。代わりに、わたくしもエッタと呼んで宜しいかしら?」
その言葉に、ぱっと表情を明るくするヘンリエッタ。
「こちらこそ喜んで。ジュリエッ‥‥っと、ジュリア」
「それにしても、うちの兄みたいな無頓着もそうだけど、何事も『過ぎる』のは考えも‥‥」
その時だ。
轟音が、どこからともなく響いた。
「爆発!?」
「どないしました?」
通信機を手に、表情を強張らせるエレノア。
『上の方で爆発のようですが‥‥』
返ってくるレールズの声。
『そちらの状況はどうな――わっ!』
「レールズはん、大丈夫ですか?」
『こっちでも爆発です、エレベーターがやられました!』
会議室の三人は、互いに顔を見合わせ、頷いた。
「ジュリエットはんとヘンリエッタはんは上をお願いします、うちは下に行きますよってに」
飛び出すエレノア。ドアの外に人影は無いものの、廊下の突き当たりになるホールでは、塵や埃の混じった爆煙が充満していた。
「エッタ、ヴィンセント様のところへ行くわよ!」
「えぇ!」
ジュリエットとヘンリエッタも武器を手に駆け出す。階段のところで、三人は上下それぞれに分かれた。
●エントランスの攻防
「爆破とは、敵も大胆にやってきましたね‥‥」
通信機の会話を聞きつつ、由梨は苦い表情を見せる。
だが同時に、彼がこれほど執拗に狙われる理由が何故なのか、それが解らない。表面上、ヴィンセントはただの資産家、大株主だ。それにしては不可解な――そういった意識は消せないが、今、そんな事を考えている暇は無かった。
『こちら律子、状況の説明をお願い』
律子からの問いかけに、由梨は敵による爆破ではないかと告げる。
「爆破か‥‥随分過激にやってくれるじゃねえか」
煙草を磨り潰すヴィンセント。
慌てていれば落ち着かせる必要もあると考えていたが、そんな必要は欠片程も無さそうだ。ふてぶてしいまでに、彼は落ち着いている。
「よ、っと‥‥」
排気管の金網を蹴飛ばし、天井からぶら下がる律子。
『こちらカルマ。こちらで敵影は確認できません』
「了解。私も部屋から出るわ」
通信機のその向こうで、カルマは通信機から口を離し、周囲をぐるりと見回す。
窓の外にうっすらと煙が見える。やはり、爆発は階下だ。
(やはり‥‥この前の奴なのか?)
右手の甲に幾何学的な文様を浮かばせ、カルマは再び周囲を見渡した。
爆発が起こってからやや時を置き、ロンベルトは探査の眼を発動した。
トレンチコートの神父が、赤い瞳から血の涙を流し、他に罠が無いかを探る。
「他には特に無さそうだが‥‥」
「敵はどこから襲撃してくるか解りません、十分注意を」
ロンベルトとは逆に、蒼い瞳を走らせる綾野 断真(
ga6621)。
エミールやレールズもマッシモを中心に置いたまま辺りを見回し、エントランスの状況を確認する。爆発は小規模だったようだが、たとえ小規模であっても、爆発は爆発。客達は右往左往し、混乱状態にあると言って良い。襲撃するには、うってつけの状態だったろう。
正面の大窓がけたたましい音を立てて弾け飛び、エントランスを銃弾が跳ね回った。外からの攻撃だ。辺りにガラス片が飛び散り、頭を伏せた一般客達の悲鳴が響き渡る。
「伏せろ!」
レールズが叫ぶ。
同時に、ロンベルトがマッシモの肩を抑えて姿勢を低くさせる。
「玄関から離れて下さい!」
ガラスの鋭利な破砕音に顔をしかめ、断真は大声で叫んだ。
一斉に正面玄関から離れる客達。
「大丈夫なのか!?」
マッシモの言葉に、ロンベルトはにこりと笑った。
「いかなる職業であっても救われる権利はあります――Aimen」
胸で十字を切る。
その彼の脇をすり抜け、レールズとエミールが駆け出した。
玄関先に停車した車からは絶え間なく弾丸がばら撒かれており、その射線を避けて、数名の男達が銃を片手に走ってくる。
「近接は任せましたよ? エミールさん!」
「任しとき!」
正面の男目掛け、躊躇い無く引き金を引くレールズ。
「人間相手なら‥‥これは結構優秀な武器でしてね?」
足を打ちぬかれて転倒する後ろから、新手が飛び出し、銃口を向ける。その眼前に、。拳銃をホルスターに差し込み、メタルナックルを握ったエミールが立ちはだかった。徒手空拳で駆け寄り、鳩尾へ拳を叩き込む。
男の姿勢がぐらりと崩れ、どうと地に伏した。
『こちら由梨、応答を』
「断真です、どうぞ」
断真は柱の影で銃の弾倉をチェックし、肩で通信機を挟み込む。
通信から互いの状況を確認する。敵が撤退し次第ヴィンセントを避難させる――由梨から告げられ、断真は階段口へと立ちはだかる。そして正面から転がり込んできた敵の右手を撃ち、カウンターへと視線を向けた。
「‥‥?」
マッシモや一般客、そしてロンベルトが守るカウンター方面へは、銃弾は殆ど向って居ない。逆に、階段口や、エミールとレールズの二人には攻撃が集中している。やはり狙いは――
「断真はん!」
声に振り返る。
「地下を見てくる!」
「頼みます」
そのまま背後で床を蹴り、地下へと降りていくのは、エレノアだった。クロムブレイドを肩に担ぎ、彼女は一直線に地下へと駆け下りていった。
「!!」
眼前に表れた数名の男。手にした銃、そして現在の状況が、それらが敵であると彼女に認識させる。
「この剣を前に、露と消えたいのは誰!?」
エレノアの言葉を前に、男達はじりと後退した。
その隙を、彼女は見逃さなかった。
階段とは言え、ホテルのメイン階段。道幅は十分だ。流し斬りを発動して振るわれたクロムブレイドが、敵の構えた銃ごと、相手の胸を切り裂く。血飛沫をあげて後ろへ倒れる彼を、他の者達が受け止め、じりじりと下がって行く。
「くそっ、こっちからは無理だ」
誰かの号令以下、一斉に撤退する。
無理に全員を捕らえる積りは無い。
エレノアは相手を追わず、警戒し続けると共にその他に罠が無いかを調べ出した。
「罪深き汝らに裁きを、我は与えん」
グレートソードが、敵の肩を打つ。
窓ガラスを叩き割って現れた敵兵を、ロンベルトが返り討ちにしたのだ。その他の一般人の前に立ちはだかり、なおも続く攻撃を受け流し、再び斬りつける。
「Aimen」
血を撒き散らす男を前に、心の中で十字を切るロンベルト。
「エミールさん、避難をお願いします」
応ずるエミールが、マッシモに駆け寄った。
ロンベルトの要請は、移動経路を潰して追い詰めるつもりだと考えたからだが、しかし、敵の攻撃は見た目より散発的だ。絶え間なく弾丸を叩き込んで来、派手である事には違いないが、侵入してくる敵は防御や牽制に徹し、積極的な攻勢は仕掛けてこない。
そしてやがて、敵はあっさりと引揚げ始めた。
ホテルに足を踏み込んでいた者も、銃を乱射しながら後退りしていく。
「撤退する?」
階段口からS−01を放つ断真が、思わず眉を持ち上げる。
「SESに薄いジョッキなんて無意味です。降伏しては?」
アサルトライフルのマガジンを排出し、告げるレールズ。
銃弾は止まないが、敵は後退しているのは確かだ。だが、動けなくなった敵にまで弾丸がばらまかれ、数名の生存者が瞬く間に始末される。
「どういう事だ‥‥?」
マガジンを差し替え、彼は表情を曇らせた。
●暗殺者
敵が撤退し始めたとの報告に、最上階の傭兵達が動き始めた。
「ヴィンセント氏をお願い」
階下へ降りる階段で、クルメタルP−38を構えた律子が立ち止まる。
由梨は先頭を走り、角やドアといったポイントを警戒しつつ、階段を降っていく。ヴィンセントの左右にはカルマとジュリエットが位置し、後ろをヘンリエッタが抑えていた。
急いで階段を駆け下りてゆく中、ふいに、由梨が飛び出した。
すらりと抜き放たれた月詠が、鈍い音と共に何かを弾く。
驚いた表情を見せたのは、メイドだった。
弾かれたのは短機関銃。刀の切先を突きつけられて、メイドはゆっくりと両手を上げた。
「‥‥」
それでも、由梨は気を抜かない。
ヴィンセントの命を狙うのが、たかが変装したメイド、それも一般人一人という事は無い筈だ。それぞれが視線を走らせる中、床を蹴る音に、ハッと振り返った。
「――きゃあ!」
刀を鞘ごと弾かれ、ヘンリエッタが転倒する。
「エッタ!」
ヴィンセントが片手を突き出すが、弾かれるヘンリエッタの勢いが強過ぎた。
ここは階段。倒れれば自然、後ろに居たジュリエットへと落ちてくる。それも、ヴィンセントの半身も一緒。受け止めきれるものではない。巻き込まれて倒れる事こそ無かったが、ジュリエットは、事態に対して先制するチャンスを奪われてしまう。
「ハッ!」
何者かの襲撃者目掛け、カルマがミルキアを突き出す。
先手必勝の鋭い一撃だ。
敵はヘンリエッタを弾いた直後で、逆手に掴んだナイフは高く掲げられている。避けられない――カルマはそう確信した。だが。
次の瞬間、敵はナイフの刃をくるりと返し、槍の切っ先を弾いていた。
布一枚の差で逸らされたミルキア。
素早く引いたところへ、追撃と言わんばかりのナイフが繰り出されるが、この一撃もまた、ミルキアの柄によって弾かれる。深く刻まれた切り込み。かなりの手練れだ。ナイフだからと侮る訳にはいかなかった。
しかし、階段がいくら広いと言えど、通路である以上、人数の利を生かせない。
「ヴィンセントさんを早く!」
「解ったわ」
ヘンリエッタやジュリエットがヴィンセントを守るように階段を下りていく。
両手を掲げるメイドに切っ先を突きつけたまま、そろり、そろりと道を空ける由梨。
「――逃がすか!」
能力者が、床を蹴った。横へ飛び、拳銃を手に狙いを定める。
その手を打つカルマのミルキア。
「これで――」
「まだだっ」
同時に、暗殺者はナイフを放つ。
「危ないっ!」
ジュリエットがヴィンセントに体当たりをかますと同時に、飛来するナイフを、由梨の月詠が弾く。生じた隙に、メイドが動いた。姿勢を屈めるメイドに向けて柄を手にし、氷雨を抜く。
床の短機関銃を取るメイド。
間に合わない――その刹那、メイドの胸に大穴が開いた。
壁に叩き付けられ、びくりと痙攣してそれっきりだ。
「ふふ、デートの相手が私では不足かしら」
「排気管女か」
ニヤリと笑うヴィンセント。
メイドの胸を吹き飛ばしたのは、P−38の弾丸。律子のものだった。
「私達が動く前に階を降りていたとはね‥‥」
「チィ!」
この事態に、暗殺者は素早かった。
腰からナイフを引き抜き、階段を駆け上る暗殺者。
疾風脚を発動し、回り込む律子。
瞬間素早さを増したその動きに虚を突かれ、右手のナイフは空を斬った。律子のアーミーナイフが素早く繰り出され、男の顔を凪ぐ。ゴーグルが切れ、マスク部分からはらりと布が垂れる。その隙間から、暗殺者の顔がのぞいた。細面の、優男風だ。
火花が散り、左手のナイフがアーミーナイフを受け止めるも、それも一瞬の事。瞬く間に、左手のナイフは音を立てて弾かれた。
暗殺者の左肩には由梨の月詠が突き刺さり、アーミーナイフ相手に力負けしたのだ。
「えぇい、一度ならず二度までも!」
律子の脇を潜り抜け、廊下へと駆け上る男。
P−38の引き金を引くも、弾丸は角の壁に阻まれる。男はそのまま飛び上がり、窓ガラスを突き破ってホテルの外へと飛び出した。
●懸念
周囲には気配も無く、正面にはマッシモの呼び出した車が横付けされている。
傭兵達が周辺を警戒しながら、車に向かうヴィンセントを取り囲む。
「狙撃手が居る可能性もあります。気をつけて下さい」
「いや、大丈夫でしょう、周囲には見当たりません」
レールズの懸念に答えるロンベルト。
残された遺体を見るに、敵は一般人。何故人間同士相争わねばならぬのかと、溜息を吐く。こんな事をしているからこそ、バグアが攻めてくるのではないかとすら思えた。
「ところで‥‥先程、何を言いかけたのですか?」
断真がエミールに声を掛けた。
かすり傷を負った腕を、エレノアが救急セット片手に診ている。
「ん‥‥護衛の兵隊下がらすのが早ないかと思うたんや」
「それです。何故その事を連絡して下さらなかったのですか?」
カルマが口を挟み、マッシモに詰め寄る。
「それに全員下げるなんて‥‥」
「し、しかし、同じホテルに二度、それもこんな大掛かりに仕掛けてくるとは!」
動揺し、言葉を詰まらせるマッシモ。
(‥‥)
妙だ、とレールズは思う。
警備を手薄にしたのはマッシモの不手際かもしれないが、その間隙を縫って敵が攻撃を仕掛けてきた。まさか、内通者がいるのではないか――考え過ぎかと思いつつ、一人、彼は思案した。