タイトル:【PN】Extreme鬼ごっこマスター:御神楽

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/15 23:19

●オープニング本文


●プロローグ
「申し訳有りません、皆様‥‥私が居たばかりに、足を引っ張って‥‥」
 表情を曇らせるのは、教皇庁が孫娘、ジャンヌだ。周囲の傭兵達を気遣っての言葉であるが、自身もまた、胸元を抑え、眉間に皺を寄せている。
「大丈夫ですか?」
「えっ‥‥その、少し息が上がっただけです」
 慌てて、少女は、いつもと変わらぬ笑顔を見せた。
 元々、何故バグアに狙われる事になったかと言えば、己の義憤が原因だ。後先を考えずに、気持ちに任せてしまった。バグアに目をつけられてしまった。
「とにかくこちらへ‥‥」
 姿勢低く応じるエミールが、前を行く。
「解りました」
 後ろを歩き、にっこりと微笑む少女。シスター服が、とても良く似合っていた。花のように可憐な、それでいて芯の強さを、意志の強さを感じさせる少女だ。後ろを歩くジャンヌを、エミールは見た。なるほど、旗印には十分だろうと、そう思った。思っておいてから、少しだけ、自己嫌悪に陥った。
 ドアを、静かに開く。
 やや間を置いて、足を踏み入れた。
 そこには傭兵達が武器を磨き、ジャンヌの到着を待ちわびている。殆どは、金次第、信条次第で命を掛ける、とんでもない親不孝者だ。


●駆けるリラの花
 作戦の骨子は、現段階である程度決定されている。
 新たに本作戦へ投入される傭兵達は、ジャンヌを連れ、バルセロナからミラノまで向う訳だが、囮達の影で目立たぬよう、事実上「逃亡」する。
 目立つような行動を最大限に避ける為、KVの使用許可は降りない。
 現在位置はバルセロナ郊外。バグアの支配地域は辛うじて脱しているものの、ジャンヌの身柄は、未だバグア側の追撃可能範囲に残されている。そこで、ジャンヌ及び、それを護衛する傭兵達は、バルセロナ郊外から素早くペルピニャンへ移動し、UPCが準備した高速艇へ乗り込む。
 バグア側はジャンヌの身柄を重要視しており、過剰なまでの偵察を実施、捜索に奔走している。更には占領地域は無論の事、果ては前線にまでビラをばら撒き、ジャンヌの首に賞金を掛けている。それも、通報から殺害まで、段階的に賞金が上がるというオマケ付きだ。人類に裏切り者が出るとは考えたくないが、世の中には、どうしようも無い奴が、少なからず居る。
 ジャンヌを逃がすための囮作戦も別口で実施される予定ではあるが、それだけで完璧に欺けるとは考えない方が良いだろうし、今回の任務が格段に危険である事には違いないのだ。ゆめゆめ、油断するわけにはいかない。


●仮面が笑い
 位置は崖っぷち、潮風を受けて、男は周囲を見回した。
 金髪が風になびく。しかし、素顔は見えない。そこには人間の肌が無い。異様にも、仮面を被り、男性は、その素顔を隠している。仮面に隠れぬ口元は微かな笑みを浮かべているが、その瞳からは、笑みを、感じられない。
 その後ろから、キメラの群れが姿を現した。
「女性を追うのは‥‥嫌いではないが、さて?」
 男は、崖を飛び降りた。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
愛紗・ブランネル(ga1001
13歳・♀・GP
ベーオウルフ(ga3640
25歳・♂・PN
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
イレーネ・V・ノイエ(ga4317
23歳・♀・JG
空閑 ハバキ(ga5172
25歳・♂・HA
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA

●リプレイ本文

●リラの花改め、負傷兵
 前線近くのキャンプ地。
 テントの中、ジャンヌは服を脱いだ下着姿でいる。
 だが、その胸元には下着を身につけていない‥‥といっても、胸元には包帯が巻かれており、何も見えはしないのだが。
 包帯は、イレーネ・V・ノイエ(ga4317)が要請した応急手当の結果だ。専門家である衛生兵が手当てしている。
 さて本題の下着姿だが、何の事は無い、変装の為だ。
 眼の前にずらりと並べられた衣類は、傭兵達が持ち寄った服。そこには、どちらかと言えば男物っぽい服装が並んでいた。
 一方、テントから摘み出された男性陣。
 まぁ、別に摘み出されたという訳ではないのだが、エミール・ブレゴビッチ(gz0071)が軍からがめて来た地図を前に、ルートの検討に入っている。
「この歳で鬼ごっこをすることになるとはな。しかも命がけだ」
「全くですね」
 ベーオウルフ(ga3640)の苦笑いに、レールズ(ga5293)が応じる。
「そうだな‥‥我々は山道を行く予定だ」
 UNKNOWN(ga4276)が手に荷物を抱えて現れた。しれっと嘘をついている。会話の相手は、UPC軍の兵士であるのにだ。情報はどこから漏れるか解らないから、警戒するに越した事は無い。
 ――と、テントの中からジャンヌが出てきた。
 格好は、月森 花(ga0053)が持ち込んだ迷彩服に、宗太郎=シルエイト(ga4261)の飛行帽、フォル=アヴィン(ga6258)のフライトジャケット、愛紗・ブランネル(ga1001)のゴーグル‥‥と、皆の持参品を持ち寄っての変装。
 傍目には、飛行機乗りと言った所で、中々様になっている。
 しかも、顔にはすす汚れ等も再現されている。
「そこいら中バグアの目があると思っておかないと‥‥」
 ジャンヌの肩を押して現れ、花が笑う。
「ミラノまでの逃避行、いっちょいきますかー♪」
 ひょいと顔を出したのは、空閑 ハバキ(ga5172)。その手には、各種メイクセットが握られている。メイクは何も、綺麗にする為だけのものではない。更に、彼にとっては、ジャンヌの緊張をほぐす為という考えもある。
「ふむ‥‥」
 一歩、時任 絃也(ga0983)が近寄った。
 その状態を確認し、口を開く。
「指示には従ってもらう、護衛対象に下手に動かれたくないんでな。君も理解してるはずだ、この結果を招いた原因をな、自重してくれよ」
 その口調は冷たい。冷淡にも感じるぐらいだ。本人に悪気は無く、女性と接するのが苦手だからというのが実情だが‥‥当のジャンヌには解る筈も無く、ただこくこくと首を縦に振るばかり。
 ふいに、ベーオウルフがナイフを手に彼女に近寄る。
 鞘に収められたナイフを見せ、問い掛けた。
「扱える必要は無いさ。御守りみたいなもんだ。利き腕はどっちだ?」
「え、その、右ですが‥‥」
 返事を聞き、片膝を付くベーオウルフ。
 きょとんとしているジャンヌを前に、ベルトを使ってナイフを固定した。
「どんな使い方をするかは君次第だ」


●鬼さんこちら
 彼等は、バルセロナからペルピニャンを結ぶ幹線道路を走っていた。
 時折、バイクを停め、周囲を見渡したり、通行人からの情報収集を行っている。
 絃也とUNKNOWNが、地図を前に周辺の確認を行っていった。地形等もそうだが、それ以上に気になるのは民間人の動きだ。避難民も多く、車道まで塞がれてはいないが、ぽつぽつと集団が見受けられる。決して、数は少なく無い。
「了解です。伝えますね」
 通信機を手に、フォルが応えた。
 先行班は彼等三人。
 そのうち、フォルはジープで走っている。バイクで移動している二人からの情報を元に判断し、後続へ定期連絡を入れる為だ。
 今のところは、特筆すべき問題も無い。
 鬼ごっこの鬼は、まだ現れる気配をみせないのだから。

 一方、最後尾に付けた殿班のジープ。
 カチリと、銃にマガジンを装着する音がした。
 ベーオウルフが貫通弾を装填しなおしたのだ。彼は銃を一通りチェックしてホルスターにしまい直すと、花にフェイスマスクを手渡した。
「どうしたの?」
 マスクを手に首を傾げる花。
 その格好は、ジャンヌのそれと似ている。それもその筈。彼女はジャンヌが脱いだシスター服を身に纏っている。となれば当然、手渡されたマスクも。
「もしもの時にな」
 なるほどね、と合点がいったというような表情をして、花はマスクを被った。

 ジープが一台、走っていく。
 後部座席中央にジャンヌを乗せた、直衛の班だ。
「ジャンヌお姉ちゃんの隣ー♪」
 愛紗の可愛らしい声が車内に響く。
「助手席に美女を乗せてドライブとは嬉しい限りですね‥‥逃走じゃなければ。おっと、UPCです。道を空けてください」
 運転席では、レールズがクラクションを鳴らす。時折路上をウロウロしている民間人を退かせ、先を急いでいる。
「あのね‥‥」
 双眼鏡を降ろし、愛紗が声を掛ける。
「何でしょうか?」
「知らない人に名前を呼ばれても返事しちゃダメだよ?」
 もちろん、直接の受け答えも良くない。
 とは言っても、ジャンヌはいまいち状況を飲み込みきれて居ないようにも見える。
「バグアが賞金ビラをばらまいていてな。どこでどう襲われるか解らんのだ。用心だよ」
 眼帯の無い、残された片目が軽く笑う。
 イレーネの手にはアサルトライフルが握られており、周辺への警戒は怠らない。
「そゆ事。物騒やから気ぃつけんと」
 喉を鳴らし、エミールが続けた。
 愛紗はにこりと笑い、相棒のはっちーが喋っているかのように、その手足を振らせた。
「無茶は一番めーっ、だよ?」
「はいっ」
 愛紗のトドメに、ジャンヌは大きく頷いた。


●手の鳴る方
 それは、突然の事だった。
「特に問題は無‥‥ん?」
 地図を畳みながら、絃也が呟く。が、ふと、眉を顰める。
 がさりがさりと、何かが地を這う音だ。
 少し遅れ、UNKNOWNやフォルもその物音に気付いた。周囲へと視線を走らせながら、無線機を手に取るフォル。
「こちら先行班‥‥ルート変更を検討して下さい。何かが来ます」
 向こうから、了解の言葉が返って来る。
「ふむ‥‥」
 煙草を足で揉み消し、UNKNOWNは皮手袋を嵌めなおす。ポイ捨てだが、非常時だ。硬い事は言いっこ無し。彼等だけであればバイクで逃げても良いのだが、後続の事もある。時間を稼がねばなるまい。
 各々に得物を握り、じり‥‥と構える。
「――カァ!」
 山側、狂った眼付きの獣が飛び出してくる。
 その異様な出で立ち、キメラだ。
 サソリだった。手には巨大なクローを揺らし、山肌から躍り出てきた。
 その横っ腹を、絃也のイアリスが思い切り殴り付けた。
 叩き付けられる様に地に伏すサソリ。だが、すぐに体勢を立て直し、尻尾を振るう。相手は先ほどの一撃を受けても、なお立ち上がった。絃也もその手に微かな痺れを感じており、その外殻はかなり頑丈らしかった。
 フォルと絃也がサソリを前に剣を振るい、UNKNOWNが後方から支援する。
 だが、両手のクローにその尾と、中々隙が見出せない。
「意外と手強そうですね」
 キメラの尻尾をパリィリングダガーで弾き、フォルが呟く。その瞳は青く、左の頬には古傷が浮かんでいる。
「どきたまえ!」
 後ろから声が響き、二人は咄嗟に飛び退いた。
 突っ込んできたのはバイクだ。ただし、無人の。突然の襲来にキメラは驚き、そのバイクをクローで挟み込む。突如、バイクが火を吹いた。UNKNOWNのスコーピオンがエンジンを撃ち抜いたのだ。
 炎を振り払うように暴れるサソリ。そこに隙が生じた。
「今だ!」
「おぉぉっ!」
 フォルの朱鳳がキメラのクローを寸断し、体勢が崩れた瞬間、急所を狙う絃也の一撃が叩き込まれた。開かれた口に、イアリスが深々と突き刺さる。更に一歩を押しこみ、捻ってから引き抜く。
 びくりと大きく痙攣し、サソリはどさりと倒れた。
「ゲームにもならんな‥‥」
「問題は後続ですね」
 覚醒状態を解除し、傭兵達は、今来た道を眺めた。


 その頃、直衛班は、迂回路を走っていた。
 予備として検討されていた海岸付近の道で、こちらも幹線道路。戦闘中と思われる道を避けた格好だ。近づく国境線に速度を落し、レールズとイレーネが車を降りる。
「UPCの依頼で負傷した傭兵を送っています。通過を許可してください」
 事前に書かせた命令書を突き出し、彼は強い口調で押した。
「え、命令、ですか? 事前に聞いては‥‥」
 歯切れの悪い兵士が、ず、と一歩後ずさる。
「いいですか? UPC北欧軍の指令に違反するなら、あなた達の首も飛びかねませんよ?」
 それでも、レールズはあくまで強気だ。
 対する兵士は、落ち着き無く車の中を覗きこむ。
 ジャンヌ――今は負傷中の傭兵だ。キャンプでの包帯跡が、よりそれらしさを演出している。じっと見る兵士、おどおどとしそうなジャンヌの脇腹を、エミールが小突いた。
 ジャンヌは約束を思い出し、視線が外れるのをじっと待った。
 外見的には、まずジャンヌと解らない筈だった。しかし‥‥。
「解りました」
 敬礼を返し、下がる兵士。
 だが、命令書をしまうレールズの前で、見知らぬ男達が姿を現した。手に、拳銃や猟銃を抱えている。
 兵士もその手に銃を構え、彼等の中に並ぶ。
「そんな‥‥」
 ジャンヌが悲しそうに声をあげた。
 人はかくも貪欲になれるものかと、その想いがつい漏れたのだろう。ただその言葉は、ある意味、自らジャンヌと認めたようなものだった。
「チッ!」
 エミールの舌打ちに続け、兵士が大声を張り上げた。 
「そ、その傭兵を置いていけ!」
 声が、手が震えている。
 彼等がこのような暴挙に出たのは、ビラの賞金、そして、この人数だろう。傭兵が、能力者がどう強かろうと、人数で勝っていればと、甘い考えで居るのだ。
 並ぶ男達を前に、イレーネの瞳孔が拡大する。睨み据え、引き金に指を掛けた。
「ほう‥‥命を無駄にしたいか?」
 イレーネの冷たい一言が響いた。
 アサルトライフルを素早く掲げ、中空目掛けて放つ。その動きに、暴漢達がわっと動いた。襲い掛かろうというよりも、驚いて、腰が引けたという動きだ。
「飛ばしますよ! 気をつけてください!」
 髪を金髪に輝かせるレールズ。
 素早い動きで、飛び込むように運転席へと転がり込む。
 タイヤを擦り、急発進を掛けるジープ。
「あっ! 待っ‥‥」
 先頭に居た兵士が、ぶれた銃身を再び構える。
 だが、そのまま撃つ事も出来ず、彼はひっくりかえった。一瞬の事に訳が解らない、という顔をする。撃ったのはイレーネ。撃たれたのは、彼の足だ。太腿を貫いている。貪欲は理財の道に反する――その事を知るための高い授業料だ。
 急発進するジープへ、イレーネが飛び乗る。
 わっと、ジープの後ろに暴漢が追い縋った。だが、自分達のの足元目掛けて傭兵達のばら撒いた弾丸が撃ち込まれると、皆、その場で腰を抜かしてしまった。


 時を同じくして、殿班。
 彼等もまた、賞金目当ての数名の暴漢たちを前にして、車を停めていた。
 強がる男達を前に、ハバキは無言のまま、近くの木へと近寄る。
「ハッ!」
 気合と共に一閃。一撃の下に、木の幹が吹き飛ぶ。彼が放ったのは、ファング・バックルをのせた蛍火の一撃だった。幹を失った木が、大きな音と共に倒れる。
「喧嘩する? 言っとくけど、俺はこの中でいっとう弱いよ?」
 穏便に済ませたいのは打算的意図だけではない。
 見れば、暴漢たちの身成りは、貧相だった。表情には、疲れの色さえ浮かんでいる‥‥彼等のような者達にとって、金というものがどれほどの価値をもっているのか、ハバキは知っていた。だからだ、穏便に済ませたかったのは。
「あの人の存在は、人々の希望そのものなんです。それを摘み取ってまで、賞金が欲しいんですか?」
 宗太郎の強い言葉が、男達を揺さぶる。
 誰かが一歩、後ずさった。
 それだけでダムは決壊する。男達はわき目も振らずに逃げ出し、傭兵達があとに残される。余計な時間を喰ってしまった――そう思い、車のドアに手を掛けた時だった。
 パチパチと、嘲るような拍手が響いた。
「フフフ、やはりダメでしたね‥‥車を停められただけ良しとしましょうか」
 聞こえる言葉に、傭兵達は頭上へと眼を走らせた。
 山肌に飛び出た石に、男が一人腰掛けている。その顔には、仮面が装備されていた。だが、隠されて居ない口元から、彼が微笑んでいる事が見て取れる。
「花、ハバキ‥‥背中、任せたぜ!」
 エクスプロードを手に、一歩を踏み出す宗太郎。
 だが――
「いや、待て。こいつは強い‥‥いっそ、ジャンヌを引渡してしまえ」
 突然として卑屈な言葉が飛び出し、宗太郎とハバキが驚きに振り返る。
 声の主はベーオウルフだ。
 一体何を――言い掛けて、納得する。
 彼の手には、花が取り押さえられていた。それに賞金も出るんだろうと言い、ジャンヌを歩かせる。
「ほう?」
 意外そうな顔をして、仮面男は岩から飛び降りた。
「マスクはお前の手で取ればいい」
 ドン、と背中を押す。
(大丈夫かなぁ‥‥)
 心の中で心配しつつも、花は一歩一歩、仮面男に近寄る。
 何か罠があるな――エルリッヒはその意図を疑っていた。その上でマスクに手を掛けた筈、だった。ぱたりと外した手が、僅かに止まる。
「‥‥美しい」
 洗練された動作で、花の顎をくい、と持ち上げた。
「僕の花嫁に相応しい」
「‥‥はいぃ?」
 訳の解らぬ一言に、花が首を傾げた。
「花!」
 ベーオウルフの叫びに、はっとなる。慌てて、横転で飛び退いた。
 その間隙を縫い、貫通弾が放たれた。だが、銃弾は虚しく地を抉るだけだ。
「外した!?」
 人間とは思えぬ跳躍力で飛び上がる男。
 その瞬間、豪波斬撃と紅蓮衝撃を同時に使った重い一撃が叩き込まれる。宗太郎の槍だった。この一撃をレイピアのような剣で弾き、仮面男は飛びずさり、優雅に着地した。
「ここから先は、絶対に通さねぇ!」
「その程度の罠で‥‥」
 しかし、この攻撃が、彼等に猶予を与えた。
 煙を噴き上げ、ジープが急発進を掛ける。宗太郎と花が相次いで飛び乗り、男の突き出すレイピアを蛍火が弾き、ハバキが飛び退く。
「あんた、誰?」
「スコルピオ――とでも名乗っておきましょう」
 尚も追撃を図る、スコルピオだが、一瞬、動きが横へ逸れた。
 花の銃弾だ。当りはしなかったが、スコルピオはこれを避けたが為に、追撃の機会を失った。離れ行くジープを遠目に眺める。
「フ、良いでしょう。しかし次は逃がしません。フロイライン・ジャンヌ――」
 スコルピオはレイピアを収め、踵を返す。
 やや暫くして、ジャンヌは高速艇に乗りこむ事となる。傭兵達は、見事逃げ切ったのだ。もっとも、スコルピオなる男がマスクの下の素顔を見てなおジャンヌと間違ったままの理由は、少し定かではないけれども。