タイトル:【PN】サラマンカ偵察戦マスター:御神楽

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/13 00:10

●オープニング本文


●プロローグ
  イベリア半島を巡る情勢は、僅か1日余りで急変していた。東部の都市バルセロナ、バレンシアは半日を置かずして陥落。交戦初期に脱出した一部の住人や部隊からの情報によれば、海上からの奇襲による電撃的な制圧だったと言う。
 この事態に対し、スペイン在留陸軍は南方に備えていた部隊の集結、再編を試みていたが、バグアに対して明らかに後手に回っていた。また、空軍によって行われた2都市への偵察作戦は数次に渡って全滅、あまりの被害の甚大さに偵察の続行が不可能となっている。
 手詰まりの状況の中、またもや傭兵達に白羽の矢が立つのであった。

●ファロ
 部屋の中に、一人の軍人が足を踏み入れた。
 男は、かかとを鳴らして敬礼を見せ、背筋を伸ばし、傭兵達を見回した。
「諸君、本日はお集まり頂き、幸いである」
 一言告げると、ばさりと地図を貼り付け、幾つかのマークを指し示す。
「イベリア半島を巡る戦況は急変している。そして諸君もご存知の様に、スペイン戦線にはレッドデビルと噂される敵が出没している。我々の偵察はスペイン北部方面から実施されているが、多くが全滅の憂き目にあってきた」
 一呼吸置き、男は指し棒を振るう。
 指し示したのはイベリア半島西部――ポルトガル共和国だ。
「そこで、我々は発想の転換をはかる」
 提示されたルートは、ポルトガル方面から侵入して長躯サラマンカ近辺の偵察を実施するというものだ。
「今回の作戦であれば、必ずや偵察が成功する筈だ。尚、出撃するKVは諸君等傭兵達のKVだけである為、作戦の詳細については、諸君等に一任する」

●参加者一覧

エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
ファファル(ga0729
21歳・♀・SN
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
夜柴 歩(ga6172
13歳・♀・FT
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG
ダニエル・A・スミス(ga6406
28歳・♂・FT
ソード(ga6675
20歳・♂・JG
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
風羽・シン(ga8190
28歳・♂・PN

●リプレイ本文

●ウィザード隊
 基地を発進した彼等は、ポルトガル領内をサラマンカの緯度まで北上、スペインへ侵入した。
「‥‥さぁて、鬼が出るか蛇が出るか」
 コックピットで呟く風羽・シン(ga8190)。
「情報が無ければ対応のしようがありませんからね‥‥必ず持ち帰ってみせないと‥‥」
「薮蛇かもしれんが、行って確かめてみん事には分からんわな」
 ヴァシュカ(ga7064)が応じ、シンは、更に言葉を続けた。
(地中の新型の次は空の新型‥‥しかも、かなりの強敵か)
 藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)は面を上げ、周囲を見回した。4機はしっかりとフォーメーションを組んで崩さず、スペイン領内へと侵入していく。
「案外、空色に機体をペイントしたら、向こうも気が付かなかったりしてな‥‥うむ、冗談じゃ」
 ふと、思い付いた事を口走った。
「いや、悪くないかもな?」
 応じて、緋沼 京夜(ga6138)が笑う。
 時刻は日の出。
 彼等の前に、太陽が出現した。山肌を抜き、弾けた朝日が、KVの編隊を照らす。
(‥‥眩しいな)
 ヴァシュカは眼を細めた。
 幾らコックピットの中、パイロットスーツに身を包んでいるとは言え、アルビノにこの光は辛かった。
 ちくりとした痛みが、眉間を刺激する。
 眩しさのせいかとも思ったが、違う。そういった類のものではない。
「‥‥こちらウィザード3、頭痛がします‥‥」
 些細な変化だが、その変化に思い当たる節は、十分だ。
 キューブワーム――シンはレーダーサイトを睨むが、乱れ始めている。パイロット達はそれぞれの方角へ視線を走らせた。キューブワーム単体での存在は、罠の可能性がある。離脱せねばならないだろうか――京夜が思案を始めたまさにその時、朝日を背に受けて、機影が空に輝いた。
「こちらウィザード4、いたぞ!」
 シンが叫ぶ。
 レーダーサイトの乱れが激しくなった。どこから湧いて現れたのか、突如として姿を現した多数のキューブワーム。そして太陽を背にする、正体不明の機影。
「ウィザード1より各機へ、離脱だ!」
 正体不明機と呼ぶ必要すら無い。
 スペイン戦線の偵察作戦におけるこれまでのパターンを考えれば、敵影の正体に悩む必要など無い。
 レッドデビル――ファームライド。
「薮蛇だったか!」
「‥‥あらゆる状況を考えて、動じぬ心の手練れたれ‥‥Sleight of Mind」
 誰に告げるとでもなく、呟くヴァシュカ。
 急制動を掛けて反転するシンのディアブロ、その後ろ、ヴァシュカ機が太陽を背に、シンの後ろに付いた。何かが輝いた直後、京夜機が爆ぜ、身体を大きく揺さぶる。
「くそッ!」
 京夜のディアブロが赤い機体を揺らし、煙幕弾を放つ。
 激しく噴き上げられた煙が周囲へと広がっていく。大ダメージを受けたとは言え、初撃には耐え切って見せた。しかも、現れたファームライドは一機‥‥倒せるとは考えていないが、離脱するには十分な時間がある。
 相手が一機であれば。
「京夜! 上じゃ!」
 藍紗の叫び声に、ハッとなる。
 接近するファームライドの真後ろから、もう一機の赤い悪魔が上昇した。直後、空を覆うホーミングミサイルが、京夜の機体を襲う。一瞬の事だった。藍紗が援護に入る隙も無かった。
「おのれっ!」
 京夜の背後に付けていた藍紗が、加速を掛けた。
 一度は退却に向ったヴァシュカも、撃墜された京夜の救出に向いかける。
「俺に構うな、離脱しろ!」
 煙を吹いて地表に向う機影からキャノピーが弾き飛ばされ、椅子ごと機外に放出される。京夜の言葉を無下にする訳にはいかなかった。ぎゅっと唇を噛み、離脱を開始する藍紗とヴァシュカ。
 離脱し始めた三機めがけ、接近する二機のファームライド。
「機体性能に驕っておるな?」
 相手が人間であればその呼吸を読める筈だ。事実その動きには、ある程度の――癖がある。
「なればその裏を取る!」
 無理な機動が藍紗の身体をきしませるも、初撃を、避けた。レーザーは機体を掠って空を熱する。だが、一度だけだった。まるで、回避を見越しているかのように、彼女の機体を光が貫いた。
 奴等は二機存在している。しかもそのチームワークは、完璧に等しく。
 振り返ったヴァシュカの虹彩に、ファームライドのエンブレムが映った。
 ジェミニ――双子座だ。
「少しは時間を稼いだ筈だ‥‥後は他の隊に期待するしかない、な」
 シンの独白が、小さく響いた。


●ヴォルシュテッド隊
 彼等の隊は、キューブワームとヘルメットワームの混成部隊を素早く殲滅し、先を急いでいた。時折発見された地上レーダーを破壊しつつ進むヴォルシュテッド隊。数分間は、それ以上の事は起こらなかった。
 もはや定石となった、キューブワームの出現。
 遠方に影が揺らぐ。
「光学迷彩‥‥来ます!」
 南部 祐希(ga4390)が唇を結んだ。
 現在位置はサラマンカよりおよそ35km地点。
「‥‥誰も欠けずに、還ってこよう‥‥ね」
 反射的に、ラシード・アル・ラハル(ga6190)が呟く。
 急加速するファームライドは、まるで、待ち構えていたかのようだった。あの性能があれば、僅か四機のKVぐらい簡単に撃破出来るであろうものを、何故か、このタイミングで仕掛けてくる。必ず、キューブワームとのセットだ。
 漸 王零(ga2930)が急制動を掛けて煙幕をばらまく。
「撤退だ! 夜柴!」
「皆‥‥幸運を祈る」
 周囲こそキューブワームに囲まれているが、ファームライドとの距離は、およそ3km。夜柴 歩(ga6172)の岩龍は足が遅い。しかし、これだけの距離があれば、十分逃げ切る時間がある。彼等はそう考えていた。
 数秒――僅か数秒だった。
「なっ‥‥!」
 しかも、攻撃を加えるだけの余裕を持っていた。
 機首が輝くと同時に、祐希のディアブロがエンジンを貫かれ、爆発する。一瞬機体が跳ね、そしてそのまま、くるくると回転する。
 二機のファームライドは、明らかに偵察機である歩の岩龍を狙っている。
 先頭に並んでいた祐希と王零の二機。祐希が攻撃を受けて王零が無視されたのは、ルート上に居たか否か、その違いだけらしかった。
「‥‥震えるなっ!」
 一人、コックピットで歯を鳴らす歩。
 震える己を否定し、必死に操縦桿を握る。
 だが、岩龍の足では、ファームライドから逃げ切る事など、とうてい叶わない。
 あっと言う間にロックオンされ、警告音が鳴り響くよりも早く、多量のホーミングミサイルが吐き出された。脆い岩龍が喰らえば、一たまりも無い。
 歩を逃がそうと王零機が加速を掛けるが、間に合わない。
 その瞬間、何物かが空を裂いた。
「誰も、欠けさせない‥‥ッ!」
 ラシードのワイバーンだった。
「ラシード!?」
 歩が顔を上げた時には、ワイバーンがぼろ雑巾のようになって、真っ逆さまに落下していた。
 直後、ワイバーンのエンジンが爆発を引起した。
 歩の頬を涙が伝う。恐怖か、怒りか、悲しみか、その感情が何であるか、それは本人にしか窺い知れない。そしてそれでも、ファームライドが攻撃の手を休める事は無い。冷たい、冷め切った殺意だ。
 レーザーに羽をもがれる岩龍。
 だが、続く攻撃は、寸でのところで、阻止された。
 王零の、G放電装置だ。辺り一帯を包み込む放電が、ファームライドを巻き込んでいる。
「やったか?」
 しかし、動じない。
 かすり傷一つ受けたようにも見えない。そしてディアブロを包んだ、爆発。だがそれは、G放電を受けたファームライドからのものではない。祐希を狙っていた筈のファームライドが、突如として反転、彼を狙って来たのだ。
 その攻撃は、執拗だ。異常なほどだった。
 明らかに、当初狙っていた歩や祐希を放ったらかしにしている。
 ――それも、攻撃を受けた僚機の為に、だ。
 火を吹き上げ、高度を下げていく王零機。
 その後方に並ぶ、赤い二機。トドメを刺されるか――そう覚悟した瞬間、祐希が動いた。ブーストを掛け、ファームライドにぶつけるような勢いで機体を割り込ませる。
「やらせない‥‥」
 今の祐希に、恐怖は無い。
 チキンゲームなら負けはしなかった。
 ファームライドは、攻撃のタイミングを失したのだ。
 そのまま王零と祐希を追い越すファームライド。二機はそのまま地面へと激突するはめにはなったが、辛うじて、トドメをさされるような事態は回避する事が出来た。
 そして――ファームライドはそのまま反転、戦場を離脱して行った。
「見たか?」
「覚えた‥‥」
 祐希に肩を貸し、立ち上がる王零。
 あの瞬間、二人が見たのは、双子座のエンブレムだけではない。コックピットに見えた影があった。線の細そうな――子供だ。


●スカウト隊
 数分後――サラマンカ周辺。
 封鎖されていた無線が、開かれる。
「スカウト1、撹乱に入る」
「っ‥‥エンゲージ!」
 先行するエミール・ゲイジ(ga0181)のナイチンゲールに、ファファル(ga0729)が続く。
 前方には多数のキューブワームが浮かんでおり、地上のワームからの火砲が弾幕を張っているが、ヘルメットワーム、そして、ファームライドの姿は見えない。
「目標発見、10時方向だ!」
「確認しました、あそこです!」
 ソード(ga6675)の言葉と同時に、各機にデータが送付される。
「全機にグッドラック、ってところだな!」
 データを受け取ると同時に、ダニエル・A・スミス(ga6406)のワイバーンが、加速を掛けた。
 エミールのナイチンゲールが眼前に現れたキューブワームをUK−10AAMで撃墜し、露払いに入る。ソードが示したそこには、荷の山があった。上空に入り、速度を落すダニエル機。それを狙い、地上の対空砲が火を吹いた。
 その対空砲が爆発した。ファファルの放った3.2cm高分子レーザー砲が、砲座を貫いたのだ。
「さすがに対空砲火がきついな‥‥」
 急旋回に耐え、呟くファファル。
 右上へと視線を走らせ、ダニエルのワイバーンを見た。
「‥‥邪魔だ」
 AAMが空を舞い、キューブワームを撃墜する。
「時間はかけられないんだよね。早めに潰させてもらうよ」
 ソードのディアブロが、機首を翻した。
「敵機、ロック完了。カプロイアミサイル発射します」
 K−01小型ホーミングミサイル。芸術的なミサイルの群れが、立ちはだかるキューブワームへと殺到する。
「酷い頭痛だ‥‥たまらないな」
 余裕を覗かせながらも、辛そうに声を洩らすエミール。残ったキューブワームを撃ち落して行くが、数が多過ぎた。墜としても墜としてもキリが無い。
「オーケー! ベストショットだ!」
 皆が待っていた言葉が、発せられた。
 速度を落としていたダニエル機が再度加速を掛け、対空砲の網を突破する。皆が続き、集積所を後にしていく。後は、ここを離脱するだけだった。
「スカウト隊、退却を開始‥‥クッ!」
 レーザーが、尾翼を吹き飛ばした。
「レッドデビルか?」
 遅れて現れたファームライド。
 その機体には、ジェミニのエンブレムがあった。しかしこの時はまだ、奴等が遅れた理由に気付いていない。
「エミールさん、俺が代わります」
 ソードが告げた。
「いや、行ってくれ」
 小さく、笑う。
 偵察役のダニエルを逃がさなければ、作戦が成功とは言えないが、ナイチンゲールの足では、逆に足手まといにもなりかねない。殿で、構わなかった。スカウト隊目掛け、後方から迫るファームライド。その速度は、人類側KVの加速を遥かに上回っている。誰かが殿にならなければ、どうしようもなかった。
「相手は俺が‥‥!」
 エミールのナイチンゲールが、即座にハイマニューバを起動した。
 煙幕と共に、相手の進行方向上に無理矢理機体を滑り込ませる。それでも機体を避け、突破する片割れ。自身の機体だけで妨害するには、一機が限界だ。それも、自機を犠牲にしてのもの。ハイマニューバを起動しようと、まるで無駄で、一閃の元に撃墜されてしまう。
 傭兵達が弱いのではない。
 エミールにしても、経験豊富な歴戦の猛者だ。それでもなす術が無かったのだ。
 迫るファームライドへ、ファファルのR−01が追いすがる。
「相手をしている暇がないのでな‥‥」
 ロックオンし、3.2cm高分子レーザー砲のトリガーに指を掛けたその時。
 赤い影が――消えた。
 直後、響き渡るロックオンアラートに、火を吹くファファル機。バランスを崩した彼の機体を追い越し、ミサイルが、ダニエルに殺到する。
 ダニエルのワイバーンが、ミサイルの群れの隙間を縫い抜ける。
 満身創痍で、弾幕を抜けた。
 しかし、そんな辛うじての突破さえも、微かな可能性さえも、ファームライドは打ち砕く。
「――シット!」
 真横に、ファームライドが並んでいた。
 少年か少女かも定かでない子供が、ダニエルに笑みを浮かべた。


●WANNABE
 一面が真白だった。
「‥‥ッつ!」
 一気に覚醒した脳が身体を起こさせるが、胸の痛みに、動きを止める。身体中に包帯を巻いているのは、ラシードだった。辺りをきょろきょろと見回す。おそらく病院だろう。
 ふと、視線を落す。
 ベッドの上では、歩が頭を伏せ、寝息を立てていた。
「目が覚めたか?」
 病室の出入り口、腕を組んでシンが立っていた。
 その言葉に釣られ、参加した皆が顔を出す。皆それぞれ、あちこちを怪我している。
 機体と共に帰還できたのは四名。撮影データも失われ、当初の目的から言えば、作戦は失敗だ。
 だが、収穫もあった。
 まず第一に、幾らデータが失われたとはいえ、傭兵達が直接見てきた情報がある。
 状況を積み重ねるだけでも、少なく無い情報を得る事は出来る。
 彼等は3方面に分かれてサラマンカへ接近したが、奴等の襲撃には時間差があり、全ての小隊で『ジェミニ』を目撃した。これら一連の襲撃は全て同じ二機という事になる。
 その速度から考えても不可解な迎撃の遅れ――補給か、あるいは何か別の理由か、それについては推察するしかないが、少なくとも、ファームライドの持戦能力は限りなく低いと思われた。キューブワームの効果範囲外に追って来ないという事もあるだろうが、それにしても、一歩踏み込めば攻撃を仕掛けられる距離にあったのだ。

 二人の子供が、ベンチに腰掛けている。
「ねぇユカ。僕達、ずっと一緒だよね」
「うん、当然だよ、ミカ」
 空を見上げるその容姿は、まるで、鏡あわせのようだ。
「邪魔する奴は――」
 ――殺してやる。
 綺麗な唇が、同時に小さく呟く。
 陰惨さは無かった。
 寄り添う二人は、どこまでも穏やかな表情をしていた。
 眼を閉じて互いにもたれかかり、二人肩を寄せあう。重ねられた掌に、絡められた指。夜空には、赤く禍々しい凶星が輝いていた。