●リプレイ本文
アイドリング状態で出撃を待つ八機のKV。
今この時も、ヘルメットワームはこちらへ接近しつつある。のんびりしている暇は無いのだが、滑走路は一本。順番に出撃するしか無く、後続はただ待つしかなかった。
「く〜、敵さんもお暇だよね〜いちいちコッチに仕掛けて来るんだもんな〜♪」
コックピットの中でヘルメットのバイザーを上げる火絵 楓(
gb0095)。
レジ袋からガサガサとチョココロネを取り出すや、かぷりとお尻に喰らい付く。
「良いではありませんか。笑顔で彼らを出迎えるとしましょう!」
満面の笑顔を浮かべ、須磨井 礼二(
gb2034)が通信回線で応じる。
「な、何だか、凄く上機嫌ですね‥‥?」
「スマイルスマイル、スマイレージ。笑顔貯金ですよ」
不思議そうな緋桜 咲希(
gb5515)の言葉に、やはり笑顔で応じる須磨井。
「笑顔貯金‥‥?」
何だかよく解らぬまま、彼女は計器類を操作し、パネルを踏み込んだ。ロジーナが自身のVTOL機能を利用して上昇する。何と言うか、彼女は笑顔を貯金する前に現ナマを貯金せねばならないのだ。
「‥‥さようなら、塩スパゲティとパンの耳」
よしと唇をかみ締める。
怖いが、戦わなければ依頼料は得られない。ならば、やるしかない。人間、食わねば生きていけぬのだ。
「しかし運が良かった。垂直離陸可能機がいて‥‥」
VTOL機の上昇を横目に眺めつつ、仮染 勇輝(
gb1239)のR−01が滑走路を走る。ぐっと掛かる荷重に、歯を食いしばる。通常の航空機に比べ、KVは遥かに素早い展開が可能だ。そもそもこの滑走路では、通常兵器であれば距離不足なほどだろう。
「ティリア・シルフィード‥‥S−01『Sylph』」
数十秒の時間を置いて、続けてティリア=シルフィード(
gb4903)の機が滑走路に出、エンジンの回転を上げる。
「行きます――!」
四機のKVが基地上空に揃った。
「残り3分12秒‥‥急ごう」
仮染の言葉に、皆が頷く。彼等が加速し、前進を開始した頃にも、基地では火絵とふぁん(
gb5174)のKVが離陸準備を進めている。
「‥‥くっ、この数分が待ち遠しいな」
最後尾で出撃準備を待つ、Anbar(
ga9009)。
岩龍のエンジンが起動すると同時に、特殊電子波長装置が展開する。効果半径は20km。友軍がその半径以内で戦っている限りは、せめてもの支援となる筈だ。
●接敵
「来ましたね」
笑顔を崩さず、須磨井が呟く。
「後続の合流まで頑張りましょう」
シルフィードの一言に、皆が頷き、KVを加速させる。敵ヘルメットワームの数は四。対する傭兵達の数も四。増援を得るまでは、まずは同数だ。シルフィードはそっと、トリガーに指を掛ける。
射程距離へ敵を収めた。その瞬間、連装式のロケットランチャーが火を吹いた。
同時に、ヘルメットワームからも幾筋ものミサイルが尾を引く。
「‥‥来るっ!」
やや遅れて、仮染機のスナイパーライフルが唸る。
弾丸が互いに交錯する。
敵編隊の先頭を進むヘルメットワームに、ロケット弾が次々と吸い込まれ、爆炎を上げる。爆発の中を突っ切るヘルメットワーム。そこを、仮染の放った弾丸が貫いた。
直撃だ。
やや速度を落とし、そのまま後備へと位置する。
だが同様に、ヘルメットワームが放ったミサイルもまた、彼ら傭兵へと襲い掛かった。
「くっ!」
思わず声を漏らすシルフィード。
反撃とばかりに叩き込まれたミサイルが、装甲表層部分を剥ぎ取って、宙に舞わせる。がくりと揺れるS−01。だが、まだ戦える。
(意外と早い‥‥これが実戦か‥‥!)
「く、来るな、来るな、来るなぁー!」
案外冷静なシルフィードに比べ、表情を引きつらせ、機体に無茶な機動を取らせて加速する緋桜。とは言え、ロジーナの運動性能は決して良いとは言えない。しつこく追随するミサイルが、ロジーナの機体後部へと喰らいついた。
「きゃあっ!?」
炸裂音。
恐怖を煽る振動に、息を飲む緋桜。
「――あ、だ、ダメージは!?」
一発、二発と、敵のミサイルは容赦なくロジーナへと襲い掛かるも、その鈍重さと引き換えの重装甲が、ミサイルによるダメージの殆どを防いだ。
のだが――
「大丈夫そう‥‥これなら落ちな――」
三発目の衝撃が、機を大きく揺さぶる。
突然の衝撃に背を煽られ、シートへ叩き付けられる緋桜。
同じく爆炎の中を重装甲で突っ切って、須磨井が機を近づけた。
「大丈夫ですか!?」
「‥‥っじゃないですか」
「ん?」
何か、様子がおかしい。
「痛いじゃないですかーっ!」
ペダルを踏み込む緋桜。
絶叫にも似た声と共に砲が展開される。
操縦桿を握る彼女は半ば涙目で、半ベソをかいて、ロジーナを加速させる。距離は徐々に詰められており、既に、敵機を高初速滑空砲の射程範囲に捉えていた。躊躇無くぶち込まれる弾丸。小さな爆炎を吹き上げたヘルメットワームが急加速で逃げ回り、心なしか恐怖しているようにさえ思われた。
●追撃
戦争の臭いがする。
どうしても、自分が広大な戦場の只中に居る事を認識せざるを得ない。それでも今は、自分に出来る事をやるしかない。
「よしっ!」
ぐっと、卯月 桂(
gb5303)は拳を握り締める。
「お先に上がります!」
ハッキリとした口調で告げた。
「あぁ、構わん。先行ってくれ!」
アンバーの言葉に、卯月の翔幻が急加速を掛け、飛び上がる。
彼女の機に続けて彼は、遠く爆炎の輝く空を見やった。
「まさか、岩龍で敵の矢面に立つ事になるとは思わなかったが‥‥」
『出撃良し! 出てくれ!』
整備兵の言葉に頷き、アンバーはペダルを踏み込む。
「‥‥まぁ、仕方ねえか。これも仕事だ。文句を言ってる場合じゃねえしな」
加速の後、ふわりと滑走路を離れる岩龍。これで、全員が空へ上がった。時間差での出撃は苦肉の策だが、敵の奇襲から始まった以上、止むを得ない。
「先発隊のみんな〜頑張ってる〜?」
「お待たせしました。直ぐに援護します」
火絵とふぁんのディアブロ、R−01が並んで戦場へ接近する。
『助かりました! 今、そっちへ一機が抜けました!』
通信機から響くのは、仮染の声だ。
続けて、シルフィードの通信が割り込む。
『追撃入ります。そちらで迎撃を!』
翼を傾け、反転する。
今脇をすり抜けたヘルメットワームが、突如機動を変更した事を思うと、どこか歯がゆい。
「くっ‥‥あれが慣性制御というヤツですか‥‥!」
腹に響く、急反転によるG。
一拍遅れて、突破した敵機に対する追撃体勢を整える。そんな彼女を、追撃機を追撃しようと、一機のヘルメットワームが加速を掛けた。だが、そのヘルメットワームの装甲を、数発の弾丸が掠めた。
「そうは行きませんよ」
須磨井のロジーナが側面より接近し、バルカンで牽制する。
行く手を阻む攻撃に、追撃を断念するヘルメットワーム。1対1の戦闘では、時折危なげにもなる。が、味方機を追撃させる訳にも行かないのだ。
『こちらふぁん。敵機確認』
「了解、挟み撃ちに‥‥!」
シルフィードの言葉に、火絵がにやと笑顔を浮かべる。
『あいあいさ〜っ♪』
翼を水平に保ったディアブロから、英国工廠製ミサイルが切り離された。
火を吐き、一筋の煙を残して飛び去るミサイル。絶え間なく、二発めを放つ。
対するふぁんは、ホーミングミサイルを一発切り離すや、今度は自機を加速させた。ホーミングミサイルの弾数は少ない。3.2cm高分子レーザーによる格闘戦へ持ち込む事が彼女の狙いだ。
ミサイルやロケット弾を次々とかわすヘルメットワーム。
だが、火絵が放った二発めのミサイルが、その後を追い、至近距離で炸裂した。
「‥‥今だっ」
即座に背後へと回り込み、トリガーを引く。
銃身から放たれた閃光がヘルメットワームの装甲を焼いた。あくまで基地を目指すワームが、何とかふぁんを振り払おうと変則的な機動を仕掛けるが、彼女は、辛うじてその機動に追い縋る。
時間にして十秒にも満たぬ追跡劇であったが、それが命取りになった。
「逃しませんよ」
加速するS−01、シルフィード機が対戦車砲で横合いを殴りつける。
「いっただきっ!」
その直後、バランスを崩したヘルメットワーム目掛け、ディアブロが一直線に駆け抜ける。接触。ソードウィングに切り裂かれ、装甲をひしゃげさせたヘルメットワームが、盛大に爆発を起こした。
●撃滅
突破機を撃ち果たし、後発班が最大戦速で向かう中、最前衛に残った三機の旗色は、決して良いとは言えなかった。
「何で私を追いかけるのーっ!?」
左右に機を揺らしつつ、緋桜が叫ぶ。
その背後に迫り、容赦なく攻撃を浴びせ掛けるヘルメットワーム。
「ロジーナ、重いですからねえ!」
同様に背後の敵機を振り切ろうと、須磨井は歯を食いしばった。
断続的に放たれるミサイルが、ロジーナの装甲版をめくりあげる。いくら重装甲がウリのロジーナと言えど、こう絶え間なく攻撃を浴びせられては、何時かは限界が来てしまう。
もっとも、その改造の度合いから言えば、ロジーナの耐久性は驚くべきものだった。
『須磨井さん! 機種を下げて!』
突然の通信に、須磨井が機種をぐっと下げる。
開いた空間目掛け、数発のミサイルが煙を引いた。奇襲的に飛来したミサイルが、ヘルメットワームの真正面に直撃し、その勢いを殺す。
「落ちなさぁい!」
卯月だ。
彼女の翔幻は、ミサイルの直撃に揺れるヘルメットワームへ向かい、そのまま徹甲弾を浴びせ掛けた。
「基地に攻撃なんてさせないよ! 大人しくそこで落とされて!」
弾丸を吐き出しただけ、バルカン砲がザラザラと空薬莢をばら撒く。
弾幕の中を一直線に突っ切るヘルメットワーム。
その直後、広範囲を包み込む放電に、ヘルメットワームが焼かれた。アンバーは、仲間の攻撃を避ける為に敵が動くのを、じっと待ち構えていた。スペックに不足のある岩龍なら、戦い方を工夫するまでだ。
「悪いが――ここで落ちろっ」
岩龍が無茶な姿勢を、ブーストで立て直しつつ、続けて短距離用AAMを叩き込む。圧倒的加速力で敵機へ突っ込むミサイル。
次々と機に突き刺さり、爆炎を吹き上げる。
「敵機、抜けてきますよ!」
ふぁんの警告に、彼は岩龍を躍らせる。
ぐわんと大きく避けるや、今まで岩龍の居た空域をヘルメットワームが突っ切り、そのまま炎を吹き上げてシベリアの大地へと飛び込んでいく。
「残り二機。一気に片付けましょう!」
シルフィードの声が、無線機から響く。
「当然っ!」
「こうなれば全機始末する!」
火絵と仮染が、交互に無線で応じた。
こちらの数が八機となるや、ヘルメットワームから排出される巨大な弾頭。
「何だ?」
「どうやら、爆撃は諦めようという事のようですね」
仮染の疑問に答えるように、須磨井が応じた。
無論、爆撃を諦めて逃げるというのであれば、見逃すのも一つの手ではあるが‥‥ここまで来て、優しく敵を見逃す理由は無い。仮染は機を加速させ、敵機を追撃する。今なら、仲間と共に敵機を包囲する事も可能だ。
仮染からのレーザー砲、続けてガトリング砲による弾丸の嵐。
後方目掛けてレーザーをばら撒きつつ、ヘルメットワームが振り切ろうともがく。
「ブレス・ノウ発動‥‥! 喰らいつけっ!」
ホーミングミサイルが空を切る。
シルフィードの放ったミサイルは正確に空を飛び、敵の機動に追随し、爆発を起こして敵機を煽り立てる。
「行けるっ」
「落っちろ! 落ちろ、落ちろぉーッ!」
機体そのものを突っ込ませるような勢いで、緋桜のロジーナは『ストームブリンガー』によって、最適化された姿勢を保ち、ブリューナクの砲身をヘルメットワームへ向けた。
砲身が帯電に輝き、咆哮をあげる。
超高速で撃ち出された強力な弾丸が、一直線に敵ヘルメットワームを貫いた。
ぐしゃりと潰れ、爆散する。
「残り一機‥‥逃げられるぞ!」
アンバーが岩龍の機首を敵機へ向けるが、岩龍ではいささか脚が遅い。
ブーストを展開したとて、これでは相手を追いかけるのがやっとだ。
「そうは行きません」
「そのとーりっ!」
ふぁんがその背後を追えば、火絵がブーストを展開してヘルメットワームを追い越すほどの勢いで加速する。二機から次々と放たれたミサイルが敵の背後へと迫るが、直後、敵機が急減速を掛けた。
狙いを外され、追い越して飛んでいくミサイル。
「――しまった!」
逃すまじと高分子レーザーを放つ、ふぁんのR−01。
しかし、そのレーザーはヘルメットワームを確実に捉えてはいたものの、撃墜させるにはやや火力不足だったらしい。改めて急加速を掛け、最後の一機は慌てて戦場を離脱して行った。
「はぁ‥‥惜しい事をしましたね」
逃げる敵を見送るふぁんが呟き、仮染が通信画面に顔を出す。
「しかし、基地はこれで大丈夫です。爆弾も捨てさりましたし、あとは周囲を偵察して帰投しましょう」
「皆さんもお疲れ様です」
須磨井がやれやれと、やや笑顔を崩した。
「うぅ、死ぬかと思った‥‥」
「良い経験になったと思うしかないね」
緋桜の目元に、じわりと涙が浮かぶ。
やや苦笑を浮かべて、それを慰めるシルフィード。KVによる実戦は初めて、という者も今回は多い。戦場には、ちょっとずつ慣れていくしかない。
「まあ、俺としては、コイツでドッグファイトをやらずに済んだだけ感謝だな。岩龍じゃ流石に辛い」
「えぇ、けど、今回は皆さん無事で‥‥火絵さん!?」
アンバーの通信に返信していた卯月が、ぐらりと揺れるディアブロに声を上げた。
『うぅ‥‥』
苦しそうな、火絵のうめき声が聞こえる。
「大丈夫ですか!?」
「うえっぷ‥‥チョココロネ10個は、流石に食べ過ぎだったよ‥‥」
青ざめた顔で応じる火絵。
「‥‥羨ましいなぁ」
パンの耳を思い浮かべ、はぁと溜息を吐く緋桜。とりあえず、ふらつく火絵のディアブロを最後尾に配して、傭兵達は悠々と基地へと引き上げていった。