タイトル:嵐の鷹 夏合宿マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/06 11:39

●オープニング本文


「おい! いったいどういうつもりだ!」
「少佐! いったいどういうつもりなのですか!」
 ある日のこと、北米UPC基地に二人の怒声が響き渡った。声の主は黒髪の青年マサキ・ジョーンズと、UPC軍中尉のアンナ・ディアキンである。そして、その怒声を浴びせかけられているのはUPC軍少佐ミハエル・ディアキンであった。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いてください。気を落ち着かせる効果のあるハーブティーでもいかがですか? お茶菓子にカキ氷も付けましょう」
「はぐらかすのはやめろ! 納得のいく答えを聞かせてもらうぞ!」
「はぐらかすのはやめてください! 納得のいく返事をいただきたい!」
 ミハエルがはぐらかすようにお茶を入れようと席を立とうとすると、マサキとアンナはドンと机を叩いて声を荒げる。それにはさすがにミハエルも話を聞くしかないと思ったか、立つのをやめて二人に視線を向けた。
「わかりました、ちゃんと話を聞きますので、一人ずつ順番に行きましょう。まずはマサキ君からどうぞ」
「俺が外出禁止になっているのはどういうわけだ!」
「だって、禁止にしておかないと、勝手にカウフマン博士を探しに行っちゃうでしょう?」
「そんなのは俺の勝手だ! お前に俺の自由を拘束する権利は無い!」
「マサキ君‥‥君、メルス・メス社からKV盗んで壊したこと忘れているでしょ? 本来なら盗難と器物破損で投獄されるところを、UPC預かりにすることで不問になっているんだよ?」
「うっ‥‥」
「僕は君の保護観察役でもあるんだから、勝手な行動を取りそうなときは外出禁止にもします」
「‥‥‥」
 ミハエルにぴしゃりと言われぐうの音もでないマサキ。しかし、普段はマサキの好き勝手にやらせているのだから、それが本音かどうかは実際のところわからない。
「次は私の件ですが。私の話は、このマサキについてです! 前回のことからもわかるとおり、彼は明らかに自分勝手で軍の集団行動に向いていません! 『S.T.O.R.M. Hawks』の隊長として、彼の入隊は認められません」
 マサキが押し黙ると、次は自分の番だとアンナが話を始める。すぐ隣にいるマサキを指差し、自分の指揮するUPC傭兵特殊部隊『S.T.O.R.M. Hawks』への入隊を拒否する。
「たしかに部隊の人選は隊長である君に任せているが、あくまでこの部隊の指揮官は私だよ中尉。マサキ・ジョーンズの入隊は、指揮官であり直属の上司である私の指示によるものだ。君の意見は聞くが、最終的な決定権は私にあることを忘れないでほしい」
「し、しかし! 彼の行動は目に余るものがあり‥‥」
「そこをどうにかするのが隊長である君の役割だろう。もともと様々なタイプの人間がいる傭兵を指揮する以上、彼のような人間も使いこなしてもらいたい。私は、君にならできると信じているよ」
「う、うう‥‥」
 マサキに対しての口調とは一変し、軍の仕官として部下に対しての厳しい口調でアンナの意見を一蹴するミハエル。その言葉に、軍人としてのアンナは逆らうことができない。
「お前ら‥‥本人を目の前にして、俺を無視して話進めるなよ‥‥俺は嵐の鷹とやらに入るつもりはないぞ!」
「いいかげんにしろ! マサキ・ジョーンズ! 今後は私の部下として、私の部隊の規則に従ってもらうぞ!」
「そうですよ。もうすでに決まっちゃっていることですから」
「断る、お仲間ごっこは俺のいない所でやってもらおう」
 今度はマサキが部隊加入を拒否する。それに対し、アンナが声を荒げて注意するが、マサキは頑として聞き入れない。にらみ合うアンナとマサキだが、どちらも譲るつもりは無いようだ。
「あー、それでですね。二人が仲良くなれるために、こういったものを用意しました」
「「‥‥は?」」
 そんな中で突然、なにかを取り出したミハエル。それに、アンナとマサキはハモるように疑問の声をあげた。
「夏だ! 海だ! 『嵐の鷹』夏の強化合宿in海! ぽろりもあるよ?」
「‥‥‥」
 ミハエルが取り出したのは、謎の企画書。その内容は、海での部隊強化合宿というもの。しかし、その中身は交流を目的とした海でのバカンス。
「ふ、ふざけないでください!」
「いやいや、ふざけてませんよ。一応これ、軍の作戦活動として通ってますので。それに、アンナは最近色々お疲れでしょう? たまの夏休みとしてパーッとやってもらおうかと」
「だ、誰のせいで疲れているのかと‥‥!!」
「軍の作戦活動だと言ったでしょう、これは命令です」
「ぐっ‥‥!」
「俺は参加しないぞ。そんなことよりも、逃げたカウフマンを見つけ出すのが先決だ」
「おやそうですか? 実は君の孤児院の子供達も招待してあるんですけれど」
「なっ!?」
「シェリルさんからも了承をいただいておりますが、そうですか、残念ですね。子供達はみんなマサキ君と遊べることを楽しみにしているというのに‥‥」
「く、くそ‥‥。こ、今回だけだからな!」
 ミハエルの巧みな(?)言葉に、アンナとマサキは結局了承せざるえなくなり。部隊の交流を目的とした海合宿が開催決定となるのであった。

依頼内容
『S.T.O.R.M. Hawks』の一員として、海合宿に参加すること

概要
 今回、UPC傭兵部隊『S.T.O.R.M. Hawks(嵐の鷹)』が強化合宿を行うので、部隊の一員としてそれに参加すること
 合宿場所は、北米西海岸カリフォルニア州南部の軍保養施設のひとつ
 軍と民間人の交流もかねており、孤児院の子供達が一緒に参加することになっている
 期間は二泊三日。今回は軍活動となっており、傭兵の合宿参加者には少量の報酬が出ることとなっている

参加NPC概要
マサキ・ジョーンズ 長身痩躯の黒髪の青年、20歳男性。かつてバグアによって肉体改造を受けるも、洗脳まえに逃亡し、バグアへの復讐を誓う。その後、不完全な肉体改造のために身体がボロボロになるも、UPCに保護されエミタ能力を得ることにより再び戦う力を取り戻す。

アンナ・ディアキン UPC中尉の銀髪の美女、23歳女性。ミハエル少佐の片腕として嵐の鷹の隊長を務めている。気の強そうなつり目がちの瞳とショートボブに切り揃えられたシルバーの髪が印象的な女性軍人。規則にうるさい真面目で典型的な軍人だが、人当たりは良く世話焼き。エミタ能力者ではあるが、後方指揮がメインで直接戦闘はあまり行わない。女性らしい弱点を持つらしい。

シェリル 孤児院最年長の少女、17歳女性。以前、傷ついたマサキを助けて以来、彼を家族と呼ぶ少女。孤児院の最年長で気の強いしっかり者、元の院長が死去してからは若くして孤児院を切り盛りすることになった。マサキを慕っており、マサキのほうも彼女を妹のように思っているようだが‥‥。

孤児院の子供達 上は10歳から下は3歳までの十数人の孤児院の子供達。シェリルを姉、母のように慕っており、マサキも兄のように慕っている。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
佐伽羅 黎紀(ga8601
27歳・♀・AA
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
イスル・イェーガー(gb0925
21歳・♂・JG
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
石田 陽兵(gb5628
20歳・♂・PN
魔津度 狂津輝(gc0914
28歳・♂・HD

●リプレイ本文

 UPC傭兵特殊部隊『S.T.O.R.M. Hawks』で合宿を行うと聞き、それに参加することになった能力者の面々は、北米西海岸へと降り立ち所定の場所へと向かうことになった。
「お前達、こっちだ!」
 そこへ、一行の聞き覚えのある声がかかる。現れたのは、普段の軍服とは違うラフな私服姿のアンナで、軽く手を上げて一行へと呼びかけていた。
「あ、あの、中尉‥‥」
「ん、どうした瑞姫?」
 おずおずとアンナに声を掛ける瑞姫・イェーガー(ga9347)。なにやら恥ずかしそうにもじもじしている瑞姫の様子に、アンナは首をかしげる。
「アンナ中尉、イスル連れてきたよ!! ‥‥いえ、夫を連れてきました」
 しばらく顔を赤くして俯いていた瑞姫だが、意を決したように顔を上げる。そして、自分の愛する人であり夫であるイスル・イェーガー(gb0925)を紹介した。
「ど、どうも‥‥イスルです‥‥。その‥‥瑞姫とは夫婦で‥‥今回は瑞姫の誘いで参加しました」
「あ、ああ、君がそうなのか。瑞姫は我が隊でもがんばってくれている、今後も彼女を支えてやっていって欲しい」
「は‥‥はい‥‥!」
 瑞姫に紹介されたイスルが挨拶をすると、アンナは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべて挨拶を返した。
「‥‥むぅ、ショタっ子の旦那様か、羨ましい‥‥」
「?」
「い、いや、なんでもないぞ! さぁ、ハウスへ行こうか!」
 その後、仲睦まじい感じの瑞姫とイスルの様子に、ぼそっと呟くアンナだが、首をかしげる瑞姫を誤魔化すように急いで宿泊所へと一行を案内するのであった。

「あ、お帰りなさいアンナさん。それと、部隊の皆さんも今回はよろしくお願いします」
 アンナの案内で、大きめのペンションのような建物へと着いた一行。ペンションでは、一緒に参加することになっていた孤児院の少女シェリルが彼らを待っていた。
「久しぶりだな。2年半振りでは忘れていてもおかしくないが」
「いえ、その節は色々とご迷惑をおかけしました」
 面識のある白鐘剣一郎(ga0184)が声を掛けると、シェリルは礼儀正しく頭を下げて挨拶を返した。孤児院の子供達も一行の前で元気に挨拶を行った。
「みなさん、よろしくおねがいしまーす!!」
「お、元気なガキどもだな! 俺は新条 拓那(ga1294)、よろしくな!」
「よろしくー! タクナおじちゃん!」
「お、おじ!?」
 子供達の屈託の無い笑みに一行は顔を綻ばす。二泊三日、騒がしくも楽しい日々を送れそうだ。そんな中、一人すみのほうで一行を避けるように立っている人物がいた。
「マサキさんも、皆さんいらっしゃいましたよ!」
「‥‥ふん」
 シェリルがマサキにも挨拶を促すが、マサキは一行を一瞥しただけでその場を後にする。
「あ、あの、すいません。今日は機嫌が悪いようで‥‥。いつもはもう少しちゃんとしているのですけど」
「君が気にすることは無い。まぁ、彼とのことは我々の方でもなんとかしてみるよ」
 マサキの態度に申し訳なさそうに頭を下げるシェリル。それにアンナが苦笑しつつ声を掛け、マサキとの関係を良くするためにどうするか考えるのだった。
「よし、これより自由行動とする。ただし、夕刻になったらここに戻ってくるように。解散!!」
「よっしゃー! おい、ガキども今から海行こうぜ! 海!!」
「わーい! 海って見るの初めて!!」
「こら! ちゃんと荷物は片付けてから行け! まったくどちらが子供だか」
「くす、面白い人達ですね」
 その後、アンナが自由行動を宣言すると、拓那が真っ先にハウスを飛び出し、それに子供達が付いていく。それに呆れ顔で見送るアンナと、笑みを零すシェリル。そして二泊三日のバカンスが始まった。

「そこ、手薄です」
「うおりぁぁぁ! はっはっは! ビーチバレー、楽しいものだな!!」
 セレスタ・レネンティア(gb1731)の正確なサーブを魔津度 狂津輝(gc0914)が巨体で拾い返す。そして、浮いたボールを子供達が歓声をあげながら追いかけて砂浜を駆け回る。一行と子供達はセレスタ発案でビーチボールを行っていた。もちろんルールは子供達専用になっており、能力者達も子供達が楽しめるよう手加減している。初めはそんなルールをつまらなそうに聞いていた狂津輝だが、始まってみれば一番ハッスルしているのだった。そんな中、イスルは何故か羨ましそうにコートの外で観戦している瑞姫に声を掛ける。
「あれ‥‥瑞姫は参加‥‥しないの?」
「うぅっ仕方ないじゃないか‥‥、ポロリするものないんだもん!!」
 イスルの声に恥ずかしそうに自分の胸を押さえて言う瑞姫。たしかに、彼女の視線の先にいるセレスタやアンナの胸と比べると見劣りしてしまうのかもしれない。そんな瑞姫にイスルは微笑を浮かべて答える。
「僕は好き‥‥だけどな‥‥瑞姫のちっちゃな胸‥‥」
「ち、ちっちゃいっていうなー! いするのばかー!」
「あ‥‥れ‥‥褒めたのに‥‥」
 その答えに、瑞姫は子供化してぴゅーっと走って逃げていってしまった。イスルはそれを見送って首をかしげる。乙女心は複雑である。
 そんなこんなで、初日はめいっぱい遊んだ一行と子供達。しかし、それにマサキが参加することは無かったのであった。

「遊んでばかりではいけません。午前中はお勉強をしますよぉ」
「えーー!」
 二日目の午前中は佐伽羅 黎紀(ga8601)が主導となって、子供達に勉強を教えることになった。子供達(と一部の能力者)は不満の声をあげるが、シェリルに一喝されてしぶしぶと勉強を受けることに。

「少し時間を貰えるか。何、取って喰いはしない。少し話をしたいだけだ」
「あんたは‥‥俺にはない、ほっといてくれ」
 昼食を終えた頃、剣一郎がマサキに声を掛けた。見覚えのある相手に、一瞬顔を向けるマサキだが、すぐにそっけない返事で顔を背けた。
「なーに、ちょっとした余興の話だよ。俺達と模擬戦してみない?」
「何で俺がそんなことを」
 一緒にいた拓那が軽い口調で模擬戦を申し出るも、やはり興味が無いと首を横に振るマサキ。
「自分の死を甘受したあの頃よりは遥かに良いが、聞いた所いささか排他的に過ぎないか? 何故自分だけでDr.カウフマンを討とうとする」
「‥‥‥」
 剣一郎の問いかけにもにべも無い態度。明らかにマサキは彼らとの間に壁を作っている。そこで拓那は一計を案じた。
「わかった、俺はあんたのことは諦めるよ。ただし、模擬戦に勝ったらな!」
「‥‥わかった、そういうことなら話に乗ろう」
 そして拓那の言葉に乗ったマサキは、模擬戦を行うことに承諾した。

「おーい! マサキ兄ちゃんと軍の人が模擬戦するんだって! 見に行こうぜ!」
「うん! マサキ兄ちゃんの応援しよー!」
 砂浜で遊んでいた子供達が、模擬戦の話を聞いて喜び勇んで走り出す。
「頭以外埋められるってなかなか怖いね。って、模擬戦見に行くの? せ、せめて砂を除けてから!」
 そして、頭だけ残して身体を全て埋められた石田 陽兵(gb5628)が忘れられたように後に残されるのであった。
「約束は守ってもらうからな」
「OKOK、言ったことは守るよ。遠慮は要らないからどーんと来な♪ 一応そんなすぐにはへこたれない程度には鍛えてあるつもりだからね」
 砂浜に作られたフィールドの上で対峙するマサキと拓那。睨みつけてくるマサキに気さくな笑みを浮かべ、拓那は軽くステップを踏んだ。
「それでは、私の合図と共に模擬戦を開始します! 双方構えて!」
 ギャラリーの見守る中、黎紀が審判役を行い二人の間に立つ。今回は武器は模擬用、能力強化の装備無しのルールで行うことになった。マサキは模擬刀を持ち、拓那は両手剣を構える。
「‥‥始め!」
 そして、黎紀の手が振り下ろされ、模擬戦の開始が告げられる。だが双方動かない。お互いに隙を探るように微動だにせず。そして、勝負は一瞬であった。
「先手必勝!」
 先に焦れたのは拓那であった。スキル発動を発動し、一瞬のうちにマサキの背後に回りこんだ拓那は、マサキが動くよりも早く大剣を振り下ろす。
「‥‥‥」
 しかしマサキはその動きを読んでいたのか、紙一重で大剣を避け、カウンター気味の鋭い横薙ぎを拓那に見舞う。
「勝負あり! 勝者マサキ!」
 その一撃がクリーンヒットし吹き飛ばされる拓那。そして勝者が決まった。子供達がマサキの勝利に歓声を上げる。
「これで、俺にかまうのはやめてもらう」
「いてて‥‥そうだな。だけど言ったよな、模擬戦に勝ったら『俺は』諦めるって。他のやつらが諦めるかどうかは保障しないぜ。それに、模擬戦はまだ終わっていない。これ、模擬戦のスケジュール」
 マサキの言葉に、拓那はニヤリと笑みを浮かべて答える。そして、手渡した紙には『一回戦 マサキVS個人戦 二回戦 マサキVS集団戦』と書かれている。
「ちっ、図りやがったな!」
「図ってないよ、きみの早とちりだ。おっと、いまさらやめるとか言わないよな。子供達が見てるぜ?」
「うぐ‥‥」
 引っ掛けられたことに悔しげな表情を浮かべるマサキだが、いまさらやめることもできず、一対多の模擬戦を行わされることになった。
「正直きみの実力ははんぱ無いことはわかった。だが、俺達の本当の戦いは、いくら個人の力が強くてもどうにもならないんだ。仲間を頼る、それがどんなことか少しでもわかって欲しい」
「ふっ、集団の前では個人の力なんぞ、儚いものと知るが良い。たった独りで闘えるほど戦場は優しくないのだよ」
「一人じゃできないことも二人なら‥‥って、わかってくれるかな‥‥?」
 マサキの相手は、拓那・狂津輝・イスルの三人。イスルはペイント弾使用のライフル、狂津輝はAU−KVを纏っているが武装無し。
「では、模擬戦二回戦を開始します‥‥始め!」
 再び模擬戦が開始され、今度は先に動いたのはマサキ。遠距離のイスルを先につぶしてしまおうという作戦のようだが、それは読まれて狂津輝に阻まれる。そこへ、イスルの射撃が放たれ、マサキは回避行動を取らざるを得ない。
「‥‥っ、すごく狙いにくい‥‥です‥‥」
 イスルの射撃を避けるマサキ。しかし、純粋な速度で言えば拓那のほうが上。マサキが回避する隙を突いて背後に回り強烈な蹴り。これは何とかガードするマサキであったが、反動で跳ね飛ばされる。飛ばされた先には狂津輝が待ち構えており、マサキを捕まえようとするが、マサキは刀を地面に当て棒高飛びの要領で狂津輝を飛び越える。
「ここだ!」
「ぐっ!」
 しかしそれを予想していた拓那が一瞬のうちにマサキを追い越し、再び蹴り。さすがにこれはクリーンヒットし、マサキは地面に叩き落される。そこへイスルの追撃。それを素早く立ち上がり回避したマサキ。だがその後も三人のコンビネーションにより戦いを有利に進めた。
「そこまで! 時間切れによりこの試合は引き分けとする!」
 しかし、結局マサキへの致命的な打撃は与えられず、試合は引き分けとなる。ともあれ、息を呑む試合にギャラリーは満足したようであった。

「あっ。ねぇ、シェリルさんはマサキさんの事どう思ってるんですか?」
 模擬戦が終わった後、陽兵がシェリルにそう声を掛けた。
「へ!? ど、どうって‥‥マサキさんは‥‥その‥‥家族ですよ! 家族! 子供達にとってお兄さんみたいな存在で、私は‥‥」
「あー、うん、ありがとう。なんとなくわかったよ」
「い、いえ‥‥」
 それに対してのシェリルの様子に、陽兵は何故か微笑ましいものを見るように笑みを浮かべてその場を去っていた。
「マサキさんのことを‥‥私はどう思っているの?」
 だがシェリルは陽兵の言葉が気になるように呟き、何かを考え込むのであった。

「マサキさん‥‥」
「ん、シェリーか、どうしたこんな夜更けに。子供達は?」
「遊び疲れて寝てしまいました」
 模擬戦の後、夜まで一人たたずんでいたマサキにシェリルが声を掛けた。
「あんなに一生懸命子供達と遊んでくれて、アンナさん達って良い方々ですよね」
「‥‥‥」
「あの、マサキさんはアンナさん達のことが嫌いなんですか?」
「‥‥‥」
「も、もし、軍のお仕事が嫌でしたら、私達の家に帰ってきてください! 今度こそ、何があってもマサキさんを守りますから‥‥」
 シェリルの問いに無言のマサキ。そんなマサキに、なんとか自分の気持ちを伝えようと、必死に決意を口にするシェリル。
「俺は‥‥彼らを嫌いというわけじゃない。それにバグアと戦うと決めたのは俺だ」
「はい‥‥」
「だが、俺は弱い。だから、仲間を持ちたくは無かった。怖いんだ‥‥仲間を守りきれず失うのが。だから避けた」
「マサキさん、あの‥‥」
「だが、君は俺を守ると言ってくれた‥‥。そういえば、あの時も君は俺の事を必死に守ろうとしてくれたな」
「は、はい! あ、いえ、その‥‥力は弱いかもしれませんが、心を守るというか‥‥支えるというか‥‥。そ、それに、家族を守るのは当然ですし」
「心を守る‥‥か。俺は君達を守っているつもりで、本当は守られていたんだな」
「も、もちろんマサキさんにも守ってもらってます。でも私達も守りたい。お互いがお互いを支えあいたいんです」
「お互いがお互いを支えるか‥‥そうだな、一方的に守ろうなんていうのはおこがましい話だ」
「はい‥‥」
「今日、拳を交えてみてわかった。あいつらは自分の力以上に仲間の力を信じ、お互いが補い合って戦っている。俺にもできるだろうか‥‥」
「できますよ、マサキさんは優しいですから」
「はは、どういう根拠だよそれ」
 マサキの問いかけに、シェリルは自信満々に頷いた。その様子に、マサキは笑みを零すのだった。
「さて‥‥お前らそろそろ出て来いよ!」
「へ!?」
 話が終わったところで、マサキは暗闇に包まれた茂みの方へと声をかけた。驚くシェリルが視線を向けると、がさがさと音を立ててアンナ達が現れる。
「バレていたか」
「当たり前だ。‥‥まぁ、そういうわけだ、お前達に少しは協力してやるよ」
「素直じゃないやつだ。仲間に入れて欲しいと言えばいいものを」
「あいにく、拳を交えて友情が芽生えるほど単純でもないんでね。せいぜい利用させてもらうさ」
「理由はどうあれ、今後は我々の指示に従ってもらうぞ」
「ああ、わかっている」
 マサキの態度に苦笑を漏らすアンナだが、彼の答えに満足したように頷いた。

「本日より正式に、我が隊に新しい仲間が増える」
 次の日、朝食に集まった一同に、アンナから発表があった。
「セレスタ・レネンティア」
「はい」
「そして、マサキ・ジョーンズ」
「ああ」
「今後は、『S.T.O.R.M. Hawks』の一員として、今まで以上に奮起してもらいたい。そして、新しい仲間を加え、部隊も躍進することを望む」
 歓声と共に迎え入れられる二人。隊に新しい仲間を加えた『嵐の鷹』は、一時の休息を終え再び戦いの空へと飛び立つことになる。