タイトル:【AP】Dエミターズマスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/22 05:42

●オープニング本文


※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。

・正式タイトル『デュエルエミターズ』
 その世界はこことは違う世界、どこかも分からない世界。中世ヨーロッパの町並みが広がり、剣と魔法が力を持つファンタジー。この世界には、いくつもの王国が存在しているが、危ういながらも平和が保たれている。そして、その平和を維持するために、幾度と無く行われてきた儀式が今回もまた行われていた。
「スマイザ・ゴウト・ガリア・キダタイテミオ・ズータミエル・エュデノモリ・マヤリドミオ・リナシルーフ・ルリプイエ・ノスエーィテーシ‥‥来たれ! エミタの英雄よ!」
 城の一角、神秘的な聖堂の広間で、幾人もの魔術師が魔方陣を囲み呪文を唱える。すると魔方陣からはまばゆい光が溢れ、やがてその光の中から、人影のようなものが映し出された。
「‥‥‥」
「おお、我が召喚に応え、よくぞ現れてくれたエミタの英雄よ!」
 聖堂の奥、儀式のもっとも良く見える場所でその様子を見ていた、豪華な衣装を纏った初老の男は、光から現れる人影に感嘆と感謝の声をあげた。しかし、『エミタの英雄』と呼ばれた人影は、わけも分からない様子で周りを見回している。
「我はプーホトスラの王ラツネッテ。驚かれるのも無理は無い、だがどうか我々に力を貸してくれ、エミタの英雄よ。汝が力こそ、この世界の平和を維持する力なり!」
 よくわからない場所に連れてこられた人影は、しかたなく王と名乗る男の話を聞くことにする。それは、あまりに自分達のいた世界とはかけ離れた世界の話であった。

「貴方はこの世界に呼び出された『エミタの英雄』です。エミタの英雄とは、我々とは別世界にいる力持つ人々のことで、エミタと呼ばれる超人的な能力を持っています」
 驚きから少し落ち着いた頃、エミタの巫女と名乗る女性から今回の事の説明が行われた。この世界は、いわゆる中世ファンタジーの世界で、エミタ能力者である自分に力を借りるために召喚したらしい。その理由が‥‥。
「この世界は、八つの王国が存在し、それらの国が一つの同盟を結んで平和が維持されています。そして、同盟の盟主である国を決め、その盟主国によって世界の舵取りが行われいます。その盟主国を決めるための儀式が、『デュエルエミターズ』と呼ばれるものです。貴方にはそれに参加し、勝利して欲しいのです」
 『デュエルエミターズ』とは、八つの国を纏める同盟の盟主国を選ぶため、それぞれの国が『エミタの英雄』を召喚し、彼らを競い合わせて勝利した者の国が、盟主となる戦いのようだ。言うなれば、エミタ能力者を利用した代理戦争というわけである。召喚された側としてはずいぶんと理不尽な話ではあるが、この世界では犠牲無く平和的に解決するには必要なことなのであった。
「かつて八つの国がそれぞれ自らが世界の覇権を得るための、大きな戦争がおきました。それにより、人々は多くの犠牲を出して立ち直るのに大きな時間が必要なほど衰弱しました。これは、そんなことが二度と起きないようにするためにどうしても必要な儀式なのです」
 その説明で納得できたかはわからないが、召喚されたエミタの英雄には選択肢は無い。召喚された者は、召喚者に従わなければならない契約がなされているのだ。どうあっても、この戦いに参加しなくてはならない。
「ルールは各国一人ずつ8人の代表が一つの広いフィールドで戦いあい、致命傷を受ければ失格、最後の一人になるまで続くバトルロイヤル方式です。大丈夫、勝っても負けても元の世界には帰れます。ただし、不参加は認められません、それだけはどうぞご容赦を」
 ルールは単純にして明快、8人が一箇所に集まり、あらゆる力、手段を用いて最後の一人になるまで生き残ること。制限時間は24時間、それまでに決着がつかなかった場合、隠れる場所の無い小さなフィールドで一人になるまで戦いあう。
「同じ参加者の誰かと協力してもかまいません、しかし最終的には勝者は一人なので、自分以外の全員が敵となります」
 もしかすると、同じように他国に召喚されたエミタ能力者に知り合いがいるかもしれない。しかし、最後に生き残るのは一人。いずれは争わなければならなくなりそうであった。
「この世界の平和を維持するためにも、どうしても我が国がこの儀式に勝たなければなりません。エミタの英雄よ、どうぞそのお力を我らにお貸しください」
 召喚された者は、エミタの巫女が頭を下げて懇願するのを、仕方ないとばかりに頷き、戦いに参加することを決めるのだった。

・デュエルエミターズ概要
目的 一つのフィールド内で、参加者8人が戦いあい、最後の一人になるまで生き残ること
・基本ルール
勝利条件 参加者8人の中で、最後の一人になること
敗北条件 致命傷となるだけのダメージを受けた場合は敗北となりフィールドから送還される
可能行動 エミタ能力の使用、道具の使用、戦闘の回避、共闘、その他自分ができるあらゆる行動を許可する。
特記事項 参加者は、それぞれ魔法センサーにより、お互いが周囲10メートル以内に近づくと自動的に相手の場所が分かるようになっている。
制限事項 決められたフィールドの外へと出ることを禁止する。フィールドから出ようとすると、強制的に戻される。
制限時間 勝負開始後24時間が経った時点で、参加者の残りが一人でなかった場合、狭いフィールドでの短期決戦が行われる。その際は、戦いを回避することは不可能となる。

・フィールド説明
 今回の戦いで戦場となる場所。数キロ四方の広い範囲になっており、森や川、廃墟などいくつかのステージが用意されている。動植物は自然のままだが、人間は参加者以外いない。以下、フィールド内で特記すべきステージ。

闘技場 すり鉢状に作られた建造物。中央には戦うために作られた広場があり、それを見物するための客席が周囲を囲む。
廃墟 崩れた石の建造物が散乱する廃墟。かつては高い塔であったと思われるが、今はほとんど残っておらず、3階層程度の高さ。
森 鬱蒼と木が茂る森。木々が生い茂り、視界が大変悪い。ただし範囲は狭く直径1キロ程度の広さ。
川 フィールドを横切るように流れる川。川幅は10メートルほどで、深さは大人の腰あたりまで。
丘 フィールドを見渡すことができる小高い丘。周囲に遮蔽物が無く、とても見通しが良い。フィールド中央に位置する。

●参加者一覧

新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD
ナンナ・オンスロート(gb5838
21歳・♀・HD
館山 西土朗(gb8573
34歳・♂・CA
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
爆田豪(gc1325
24歳・♂・FT

●リプレイ本文

「戦うことを期待してる人たちにはちょっと申し訳ないけど、滅多に来れない世界だもんね。色々見ていかないと♪」
 戦いの中、新条 拓那(ga1294)は戦いそっちのけで、フィールド内をふらふらと異世界見学を行っていた。
「おお、この樹はでかいな。伝説の世界樹って、こんな感じなのかな」
 森に入った拓那が見たのは、ビルのように大きく高い一本の樹。拓那はそれを見上げ感嘆の声を上げた。
「よし、さっそく登ってみるか!」
 好奇心でその巨木に手を掛ける拓那。だが、少し登ったところで、頭に妙な感覚が流れてきた。
「っ!? 上に誰かいる!! 三十六計逃げるにしかず、ってね!」
 それは、事前に説明された魔法による感知。どうやら巨木の上にはすでに誰かがいるようだ。拓那はすぐさま樹から飛び降りると、一目散に逃げ出す。
「‥‥ふっ、まあいい、私の戦いは23時間後だ」
 その様子を、樹の上から見ていたUNKNOWN(ga4276)は、拓那を追うこともなく、再び巨木の上でくつろぐのであった。

「そこのあなた、すこし話を聞いてください」
「っ!! 誰だ!!」
 戦いを避けるためにフィールドの範囲ぎりぎりでうろうろしていた爆田豪(gc1325)に、突然話しかける者が現れた。慌てて戦闘態勢に入る豪に、相手は敵意が無い様子で姿を現す。
「この戦いに生き残るために、あなたに提案があります」
「‥‥いいだろう、話を聞こうじゃないか」
 現れた相手、ナンナ・オンスロート(gb5838)の言葉に、豪は警戒しながらもゆっくりと頷くのだった。

「‥‥誰もこない」
 闘技場の中央でくつろぎながら、フィルト=リンク(gb5706)はすこしつまらなそうにつぶやいた。彼女は、戦いが始まる前に自分は闘技場で相手を待つと宣言していたのだが、一行に誰も現れない。
「まぁいいです。誰もこないのなら、このまま時間まで待ちましょう」

「ようやく見つけたぜ」
「むっ」
 他の者から隠れるように移動していた館山 西土朗(gb8573)が、水分補給にと立ち寄った川で、西土朗に声を掛けるものが現れた。西土朗はいつでも武器を振るえる準備をしつつ相手を見やる。
「何のようだ? 俺としては無用な戦いは避けたいのだが?」
「そういうわけにもいかん。おまえにはここでリタイアしてもらうぜ」
 現れたのは豪。その表情は完全に西土朗を敵とみなし、話を聞くつもりはないように見えた。
「ならば、降りかかる火の粉は払わなけりゃならん。わざわざ声をかけてから勝負を仕掛けてきたことだけは褒めてやろう!」
「いくぞ!」
 メイスと盾を構えた西土朗と、ナイフと銃を持った豪は対峙し、真正面からぶつかり合う。
「ほれ、どうしたどうした! さっきまでの威勢のよさはどこにいった?」
「くっ、やっぱり実力は相手のほうが上‥‥か」
 だが、戦いは終始、西土朗の優勢。豪快に振るうメイスと、確実に攻撃を受け流す盾捌きに、豪は成す術が無いように見えた。
「だが、間合いを開ければ!」
 豪はそう言って、後ろに跳躍、持っていた銃での遠距離戦に切り替える。
「その程度で俺の猛攻は止まら‥‥っ!?」
 間合いを開ける豪に対し、西土朗は盾を構えたまま間合いを詰める。弾丸を盾で受け流し、そのまま突っ込みメイスの一撃を。と思った瞬間、西土朗の動きが止まった。そして、その脇腹から血が流れ、膝をつく。
「こ‥‥れは‥‥伏兵‥‥か?」
「そういうこった。要は勝ってしまえば、いいんだろう?」
 西土朗はすぐに目の前の相手以外から攻撃を受けたことを察した。豪はあくまで囮、本命の攻撃は離れた場所からのナンナの射撃であった。
「ぐっ、こんな手に引っかかっちまうとは‥‥俺も歳か‥‥」
「じゃあな、おっさん」
 悔しげな表情のまま、致命的ダメージを受け消えていく西土朗。それを冷たい表情で見送る豪。この戦い、最初のリタイアであった。
「さて、このまま他のメンバーも‥‥っ!?」
 西土朗が消え去った後、豪は戦いの緊張から気を抜いた瞬間。
「な‥‥なんじゃこりゃ‥‥!」
 突然の腹への衝撃、そしてわけも分からずに力尽きる豪‥‥。
「要は勝ってしまえば、いいんでしょう?」
 消え去った豪に、そう呟いてナンナは撃ったばかりの小銃を下に降ろすのであった。

「‥‥くくく‥‥セクハラの申し子‥‥俺! 惨状!」
 謎の台詞と共に、謎のポーズを取る紅月・焔(gb1386)。とりあえず暇だったらしい。
「あー、にしてもどうするかな。参加者は男ばっかりだし、といって闘技場へ向かうのはおっかねえし‥‥」
 女の子にやらしいことをしたい焔だが、参加者のほとんどは男、闘技場へいけばフィルトがいるのは間違いないが、怖くていけない。とそんなことを焔は数時間も悩み続けている。
「あの‥‥すいません‥‥」
「っ!?」
 そんな焔の前に現れたのは、一人の少女。黒髪ショートにセーラー服を纏った、一見可憐な少女の姿に、焔はすぐに緊張よりも欲望が上回る。
「なにか御用ですか、お嬢さん?」
「は、はい‥‥僕‥‥いえ、私、なんの力もないのに変な戦いに巻き込まれてしまって‥‥」
「それは大変ですね。俺も巻き込まれたくちですが、俺でよければ助けになりますよ」
「あ、ありがとうございます‥‥」
 キリッと表情を繕う焔に、少女はオドオドとした様子で助けを乞う。その様子に、内心鼻の下を伸ばしながら、焔は笑みを浮かべて彼女の手を取った。
「それじゃ行きましょうお嬢さん。俺との愛の逃避行に!」
「‥‥‥」
 そう言って、少女の肩を抱いて歩き出す焔。少女は恥ずかしがる様子を見せながらも、一緒に歩き出し‥‥。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったけど」
「私の名前は‥‥ソウマです」
「ソウマ? なんか男の子みたいな名前だけ‥‥うっ!」
 焔は言葉を言い終わる前に、頭部に強い衝撃を受けて意識を失ってしまった。
「どうでした? 本物の女の子より女の子らしかったでしょ」
 致命的ダメージと判断され消えて行く焔にそう言って、天使のように微笑んだ少女の手には、いつのまにか分厚い本が握られている。どうやらこれで、焔の頭部を思い切り叩いたようだ。少女の正体は、強(狂)運の持ち主ソウマ(gc0505)、れっきとした(?)男の娘である。
「よし、このまま女の子のフリして勝ち残‥‥な、なんだこれ‥‥?」
 スカートの裾をつまんで気持ちを新たに次の獲物を探そうとするソウマ。しかし、誰かと同じ台詞を口にしてその場に倒れこむ。その腹部には、銃弾を受けた痕が‥‥。
「女性に対し、女の子のフリをしても意味ないですよね」
 そして、二人の様子を見ていたナンナは、誰もいなくなったその場所にそう言葉を残して後にするのだった。

「あら、ずいぶんと遅かったですね」
 フィルトはそう言って、くつろいでいた体勢から身体を起こし、闘技場の出入り口に視線を向けた。
「ふっ‥‥待たせてしまったか?」
「いえ、それほどやる気もありませんでしたし‥‥ともあれ、せっかくの機会です。強者と本気の勝負をしてみるのもいいかもしれません。この戦い、私の全盛を持ってお相手しましょう」
 その言葉と共に、張り詰めた空気が限界になった。二人は、お互いにゆらりと動き始め戦闘が始まる。
「まずは‥‥」
 先に動いたのはフィルト。隠し持っていた閃光手榴弾を二人の間に投擲。手榴弾のピンはすでに抜かれており、すぐさま爆音と閃光が闘技場を包み込む。その隙をついて、フィルトはAU−KVを身に纏い、攻撃態勢へと入った。
「準備はできたかね?」
「余裕ですね‥‥ですが、その油断が命取りです」
「油断したつもりはないのだがね」
 あえてフィルトがAU−KVを装着するのを待ったUNKNOWN。その態度に、フィルトは眉を顰めるが、覚醒し冷め切った感情には挑発に乗ることなく自分が有利になった事実だけが映る。しかし、UNKNOWNは気障な態度を崩さず、銜えていた煙草を地面に落とした‥‥。
「‥‥これは!?」
 と、その瞬間、地面に落ちた煙草から盛大に大量の煙が上がった。それはまるで煙幕のようにフィルトの視界を遮り、UNKNOWNの姿を隠す。
「これは特注品でね。携帯性と偽装性に優れている」
 UNKNOWNの特注である煙草型煙幕発生器で、闘技場は濃い煙に包まれ、視界を著しく低下させた。
「ですが、見えないのは相手も同じはず、‥‥っ!?」
「そうかね? 私には、君の居場所が手に取るようにわかるが」
 煙幕の中、ふいにフィルトは弾丸での攻撃を受ける。AU−KVの装甲で辛うじて受け流すが、この煙幕の中で相手は確実に自分を捉えているようだ。
「そうか、音で‥‥」
「ご名答。どれほど静かに動いても、君のそれの音を完全に消すことはできない」
「そこっ!!」
 AU−KVは機械であるため、どうしても音が出てしまう。そのため、煙幕の中でも、その位置を相手に知らせてしまうのだ。フィルトも相手の声を頼りにサブマシンガンで弾丸をばら撒くが、手ごたえは感じられない。だが、フィルトも反撃のチャンスを待ち必死に耐えていた。
「これでっ!」
 やがてフィルトは武器を槍に持ち替え、その槍を高速で回す。それによって、風を生み出し、煙幕を吹き飛ばす。
「捕えた!」
「‥‥くっ」
 その一瞬を見逃さず、フィルトは竜の翼で高速移動。UNKNOWNを掌に捕まえると、そのまま闘技場の壁へと押しつぶす。
「もう逃がしません。このまま止めです」
「それは‥‥どうかな‥‥ぐはっ」
 そのまま畳み掛けるように力を込めるフィルト。だが、AU−KVの怪力に押しつぶされながらUNKNOWNは不敵に笑う。そこで、UNKNOWNがまた煙草をくわえている事に気づいた。
「また煙幕ですか。ですがもう離しませんよ」
「ふっ‥‥」
 フィルトは油断せず、拳に力を込めていく。だが今度は、UNKNOWNはその煙草を相手の腕に押し付けた。
「なっ‥‥!?」
 煙草はその数瞬後、爆発を起こしAU−KVの腕を吹き飛ばした。今度のそれは、煙草型の小型爆弾だったのである。
「キメラへの効果は薄いが、対物であれば十分だ」
「‥‥いったい何種類持ってるのですか」
 開放されたUNKNOWNが淡々とした口調で答える言葉に、フィルトは呆れたように呟く。そしてUNKNOWNはエネルギーガンの銃口を胸部装甲に押し当てた。
「これで、チェックメイトだ」
 UNKNOWNは何の躊躇もなく、エネルギーガンの引き金を引きフィルトに止めを刺す。
「いるのだろう、そろそろ出てきたらどうだ?」
「‥‥やはり気づいていましたか」
 フィルトが消え去るのを見届けたあと、UNKNOWNは誰にとも無くそう声を掛けた。だがその声に反応しナンナが姿を現す。
「なぜ、戦いの最中を狙わなかった?」
「フィルトさんの邪魔はしたくなかったので」
「では、何故今になって姿を現す?」
「サドンデス対決になるまえに、確実に決着をつけたかったためです」
「なるほど‥‥ならば相手をしよう」
 UNKNOWNの問いにナンナは答える。UNKNOWNもその言葉に納得し、先ほどの戦いで飛ばされた帽子を拾い上げ瀟洒な仕草で被ると、銃口をナンナに向ける。そして、お互いの銃声が闘技場に響き渡るのだった‥‥。

「‥‥‥」
 傷を負ったUNKNOWNが片膝をついている。フィルトとの戦いのダメージは思いのほか多く、ナンナの全ての攻撃を避けきることはできなかった。さすがのUNKNOWNも、これ以上の戦いは難しく、勝負は決していた。
「さすがです‥‥これほどとは‥‥」
 対峙するナンナはそう言って、UNKNOWNを見た。ダメージを負った相手に対して、正面からの真っ向勝負。最後まで『卑怯』に徹しきれた、ナンナは自分でそう思ったに違いない。
「いい勝負だった」
 そう言ったUNKNOWNは、ゆっくりと立ち上がり、しっかりとした足取りでその場に立った。そして、逆に倒れたのはナンナであった。すでに彼女のAU−KVは破壊され、内部の彼女自身も致命的なダメージを負っている。そう戦いはUNKNOWNの勝利で決していた。ナンナは善戦しUNKNOWNを追い詰めたが、最終的にはその力量の差に破れたのである。そして、制限時間終了のアナウンスが流れる。
「ようやく、これで終わりか」
 UNKNOWNは身なりを整え、一見まるで何事も無かったかのように涼しい表情で最後の生き残りを待った。やがて、闘技場に一人の人影が現れ‥‥。
「やっぱりアンタは生き残ってるよな」
「やはり君か‥‥」
 現れたのは拓那、結局制限時間いっぱい逃げ回り、異世界を見物していたようだ。顔をあわせた拓那とUNKNOWNは、お互いに納得したように言葉を交わす。
「ともあれ、この気に入らない代理戦争とやらをさっさと終わらせてしまおうか」
「同感。異世界とやらも十分楽しんだし、あとは終わらせるだけってね。それじゃ、最後の戦いをとこっとんやり合おうじゃないか!」
 そう言ったUNKNOWNはすでに準備万端のように見えた。それに対し、拓那も気合を込めた声で武器を構えた。そして‥‥。
「先手必勝!」
 先に動いたのは拓那。UNKNOWNが狙いを定めるよりも先に、瞬天速にて間合いを詰め、瞬即撃にて両手剣を目にも留まらぬ速さで横になぎ払う。UNKNOWNはその一撃を、避けることなく受けるのだった。
「お? まさか当たるとは。だが、アンタならまだまだこれからだろ!」
「いや、これで終わりだ」
「!!」
 あっさりと攻撃を受けたことに多少驚く拓那、だがすぐにUNKNOWNの反撃があるだろうと気を引き締める。UNKNOWNは一撃をものともせずに、拓那の肩を両手で掴む。
「いい一撃だった。この勝負‥‥君の勝ちだ」
「‥‥へ?」
 だがそこまでだった。すでにUNKNOWNの体力は限界、気力だけで立っていたようなものだった。最後の一撃を受け、UNKNOWNはその言葉を残し、消えていく。呆然と消え行くUNKNOWNを見守る拓那。そして‥‥。
「勝負が終了いたしました。今期のデュエルエミターズの勝者はパンジヤ国召喚、新条拓那! おめでとうございます」
「あれ? 俺が‥‥勝ったの?」
 鳴り響くアナウンスに、拓那はまだ実感がわかないまま成り行きを見守っている。ともあれ、この戦いに最後まで生き残った拓那が勝利者となったようだ。
「これにて今期デュエルエミターズは終了いたします。全てのエミタの英雄に感謝を!」
 アナウンスはそう締めて終わったようだ。そして、拓那の身体はゆっくりと消失していく。
「え? あれ? それだけ? 優勝者への賞品とか無し!? ちょっとちょっと、おーい、待ってくれ〜!」
 そのことにいい加減慌てだす拓那。だが、彼の声はむなしく響き、やがて完全に消え去るのであった‥‥。そして、4月2日の朝、拓那は異世界を救う(?)夢から覚めるのであった。