●リプレイ本文
依頼を受けて現地へと向かった能力者一行は、依頼主である現地の行政機関から詳しい状況を聞き、調査に乗り出した。
「おお! 見事なまでの田舎! 田園風景て何年ぶりだろうー? んー故郷を思い出すー」
「おお、アレはなんじゃ? こっちも気になるのぅ」
町の中心部から少し離れれば、一面に広がる田園風景に、世史元 兄(
gc0520)と朧・陽明(
gb7292)が声を上げる。まだ田植えは始まっていないようで、田んぼには誰もおらず静かだ。
「まるで子供ですね‥‥」
「はは、まだ来たばかり。あまり気張りすぎても大変だし、あれくらい気楽でもかまわんでござろう」
陽明達の様子に呆れたように呟くソウマ(
gc0505)。陽明は実際に子供なので、おそらく兄に対しての言葉だろう。それに雲空獣兵衛(
gb4393)が笑いかけてフォローをする。
「とりあえず、まずは相手の正体を見極めることが必要ですわね」
「そうだね、日本には妖怪というモンスターが言い伝えられてるらしいし、それをモチーフにしたキメラかもしれない」
美沙・レイン(
gb9833)の言葉に、ドリル(
gb2538)が頷く。現状の情報だけでは、相手が何者かわからないが、おそらく何かをモチーフとしたキメラである可能性は高かった。
「うぇ‥‥妖怪? 怖いよボク怖いの嫌だもん。ねぇねぇ、帰ってもいい?」
「くす、大丈夫ですよ、相手はあくまでキメラ、怖くありませんから、ね?」
妖怪と聞いて、怯えたよう愚図るロジーナ=シュルツ(
gb3044)に、カンタレラ(
gb9927)は諭すように声を掛けて笑みを浮かべた。
「まずは情報収集でござるな。手分けして聞き込みを開始しようでござるよ」
「じゃー調査開始だね? 僕は事件が起きた田園の方に行って現場検証してくるね? 聞き込みとか宜しくね」
しばらく町の様子を見て回った後、獣兵衛の言葉に兄達は頷き、事前に立てた作戦通り調査を開始するのであった。
そして一行は、日中は聞き込み、夜は囮作戦による誘き出しを行って敵が現れるのを待ち。そのまま、三日間の時が過ぎていった。そして、三日目の夜‥‥。
「今日で三日目、いい加減そろそろ現れて欲しいものじゃのう」
「そうですね‥‥僕もいい加減何も無いのは飽きてきました」
囮役になっている陽明とソウマは、行方不明者が出たという人気の少ない農道を歩いている。さすがに三日も同じような道をぐるぐると回り続けていると、二人とも精神的に疲れてきているようであった。
「む、女の子と一緒に歩いておるのに、飽きたなどと失礼な話じゃ」
「そんなこと言われても‥‥これはあくまで囮任務ですし」
「そもそも、そのマスクはあまりに無粋だとおもわんか?」
「これはいざと言う時に顔を守るためだって、何度も説明してるじゃないですか」
それでも、軽口を叩きながら辺りを警戒して歩き回る二人。ソウマはフェイスマスクを装着し、いざと言う時に備えている。
「でも、今回の相手は何者でしょうね。僕は妖怪一反木綿のキメラじゃないかと予想しているのですが」
「ふむ、陽明は天女ではないかと思うぞ。羽衣をこう縄のように巻きつけて、空へと連れ去ってしまうのじゃ」
いまだ姿を現さぬキメラの姿を想像し、二人はそれぞれの意見を述べる。陽明は自分の服の袖を、天女の羽衣に見立ててヒラヒラと舞ってみせる。月明かりに映ったその姿は、なかなか見ごたえのあるものだった。と、そのとき。
「‥‥っ!!」
「なんじゃ、陽明の舞に見惚れて何もいえぬか?」
「むー! ふぐぅぅ!!」
突然、ソウマの口元に布のようなものが巻きついたかと思うと、強い力で縛り上げられる。ソウマは慌てて手を挟み込もうとしたが時すでに遅し、顔全体を布で覆われてしまった。
「ソウマ! すぐに助けるぞ!」
異変に気づいた陽明は、すぐさま助けに入ろうと飛び掛る。だが、ソウマの身体はフワリと宙に浮き、そのまま空へと連れ去られそうになる。
「むぐ、むぐぅ!」
しかし、ソウマはすぐに落ち着き、服の袖に隠しておいた機械剣で、力の覚醒と同時に謎の布を切り払う。思わぬ反撃を受けたせいか、ソウマに張り付いていた布は解け、ソウマは地上へと降り立った。
「ぷはぁ! 僕のキョウ運も相変わらずだな!」
「おお、無事じゃったか! しかし、あれは一体何者じゃ?」
なんとか危険を脱したソウマは息を吸い込み、肺に酸素を取り込む。陽明はソウマの無事を確認すると、月明かりに浮かぶソレを見上げて眉を顰める。
「あれは一反木綿でござる。日本の妖怪で、長い布生地のような姿をした物の怪でござるな」
「二人とも大丈夫かい? しかし、ようやく姿を現したなキメラめ。絶対に逃がさないぞ!」
そこへ、隠れて二人を見守っていた獣兵衛と兄が現れた。獣兵衛の言うとおり、ソウマを襲ったソレは、白く長い布生地のような姿で、ヒラヒラと風に舞うように空中に浮いている。
「拙者であれば、あの高さでも届くはず。はっ!」
230cmの長身である獣兵衛が、空中に浮いている一反木綿へと飛び掛る。しかし、後一歩で刀が届くというところで、一反木綿はより高い場所へと浮き上がってしまった。
「あ、逃げる! このまま見失うわけにはいかんぜよ!」
そのまま空へと逃げてしまう一反木綿に、兄が銃を構え狙いを定めた。そして、一発の弾丸が相手に向かって吐き出される。弾丸は、一反木綿に命中すると、その白い身体に蛍光塗料を撒き散らした。そのおかげで、闇夜に消えそうになる一反木綿の姿が、ぼんやりとした光に浮かび上がる。と、同時に少し離れた場所から、バイクの起動音が聞こえ、ドリル達が姿を現した。
『追跡は僕達に任せて!』
無線機にドリルからの連絡。ドリルとロジーナは、AU−KVの後部座席に美沙とカンタレラを乗せ、逃げる一反木綿の追跡に機体を走らせるのだった。
「さすがに早いな。でも絶対に逃がさないよ!」
山のほうへと逃げる一反木綿。それを追いかけて、ドリルとロジーナのAU−KVが道を疾走する。ちょうど一本道の農道に合わせて一反木綿が飛んでいるため、全速力で追いかけることができた。
「うう、あの光るの気色が悪いよぉ。嫌だなぁ、いまからでも帰っていい?」
「ダメですよ、もう少し頑張ってね」
空にぼんやりと浮かぶ蛍光塗料の様子に、ロジーナがまた愚図りだす。それを後部座席のカンタレラが諌めるように声を掛けた。やがて前を走るドリルの後部座席から、美沙が銃を構える。そして、エミタの力を目に集中させ視力を向上、闇夜に浮かぶ光の点へと正確に狙いをつけた。
「もう逃げられないわよ‥‥全弾持っていきなさい!!」
パララララと軽快な音と共に、連続で十発もの弾丸が美沙特注の銃『アテナ』から吐き出される。その弾丸は正確に光点へと吸い込まれ、直撃した音が聞こえた。と、同時に、中空の光点はゆらゆらと地上へと近づいてくる。
「命中だね、倒したのかな?」
「わからない。手ごたえはあったと思うけれど‥‥」
ドリルの声に、美沙は小さく首を振る。一行はキメラの生死を確かめるため、そのまま光点が落ちていく場所へと急行した。
一反木綿が落ちたと思われる場所にAU−KVのバイクにより先に到着したドリル&美沙組とロジーナ&カンタレラ組は、バイクから降りて付近を捜索する。その場所は、すでに山の中に入っており、月明かりが届かずとても暗く、鬱蒼と茂る木々に大変見通しが悪い場所だった。
「ねえねえ、もうお化け倒したんだよね? ここ、暗くて、何か出そうで怖いよ〜」
「だめよぉロジーナちゃん。敵は最後まで‥‥そうグチャグチャに引き裂いて、完全に息の根を止めるまで、倒したと思っちゃいけないの。ふふふ‥‥」
周囲の雰囲気に怯え、愚図りだすロジーナに、カンタレラは諭すように声を掛けるが、その言葉には少なからず狂気が含まれているように感じられた。
「でもこう見通しが悪いと、探すのは一苦労だね」
「間違いなくこの辺りに落ちたはずですけれど」
ドリルと美沙も、バイクのライトとランタンの明かりで周囲を照らすが、木々の影は濃く、目印の光点を見つけ出すことができない。そうこうするうちに、他のメンバーも車で追いつき、一行はしらみつぶしに周囲を探索することとなった。
「どうじゃ? おったかの?」
「むぅ、なかなか見つからんでござるな。こう暗いと拙者の身長では、逆に足元が見づらくて仕方ない」
「まったく、厄介な場所に落ちてくれたもんぜよ」
陽明や獣兵衛、兄も森の中に入ってはお互いに声を掛け合いながら捜索しているが、やはりすぐに目標を見つけ出すことは出来ない。と、そこにソウマが大きな声をあげた。
「いた! 見つけましたよ!」
ソウマの指差す先、そこにたしかにぼんやりとした明かりが浮かび上がっている。すぐさまランタンの明かりを向ければ、白い布のような姿が映し出された。しかし、相手も発見されたことを察したのか、シュルッと長い体を浮かび上がらせ、動き始める。
「逃がすか!」
動き出した相手に、ソウマは武器を超機械に持ち替え電磁波を放った。電磁波は一反木綿の周囲を囲むように発生し、相手にダメージを与える。しかし、一反木綿はそのダメージを無視するように浮かび上がり、ソウマへと向かって飛び掛ってきた。
「っ!!」
慌てて避けるソウマ、その横を一反木綿が飛びぬけていく。だが、微かに掠った腕が、鋭利な刃物に切られたかのように裂かれた。
「くっ、見た目は布のようなのに、まるで刃のようだ。皆さん気をつけてください!」
「あら大丈夫ですか? 綺麗な切り口ねぇ、これならすぐにくっついちゃいますよ」
痛みに顔を歪め、腕を押さえるソウマ。カンタレラがすぐに傷を確認して、練成治療を行った。彼女が言うように、傷はすぐに塞がり血が止まる。
「お化け何て姿が解ればバグア共と同じ只の化け物、茶々と終わらせて貰う」
「飛騨の山奥で修行をした拙者にとって、山での戦闘はお手の物でござるよ!」
その間も、兄と獣兵衛が一反木綿へと斬りかかる。しかし、一反木綿は木々の隙間をスルスルと飛びぬけ、上手く間合いを詰めるのも一苦労の様子だ。
「ほっ! とっ! やっ! この程度の障害物、この陽明には苦にならん。逃がさんのじゃ!」
逆に、身体の小さな陽明は、難なく木々の隙間を抜け、一反木綿へと接近してはその拳を叩き込む。しかし、布のような身体は拳での打撃を吸収し、効果的なダメージを与えられない様子。
「む? 打撃は効き目薄か。ならばこれならばどうじゃ!」
だが、陽明の拳に装着されていた武器は、実は超機械だった。打ちつけた拳から強力な電磁波が発せられ、一反木綿に効果的なダメージを与える。堪らず暴れだす一反木綿は、陽明を弾き飛ばし、再び木々の隙間を飛び回る。
「ぬお!? 往生際の悪いやつじゃのう!」
「うわわ、こっちきた! 助けてぇ〜」
そうこうしていると、蛍光塗料でうっすら光る白い影が、AU−KVを纏ったロジーナに向かって飛び込んできた。ロジーナは驚いた様子で機械剣を振り回すが、うまく当たらない。
「ボクをいじめないでぇぇぇっ!」
横をすり抜けていく一反木綿に、ロジーナは振り向きざまに脚部に装着したガンポッドで追撃。連続発射されたグレネード弾が周囲の樹木ごと辺りをなぎ払う。
「ほら、落ち着いて。森ごと焼き払う木? でもおかげでAU−KVでも追いやすくなったよ」
そんなロジーナをドリルが肩を叩いて落ち着かせる。だが木々がなぎ倒されたおかげで、森にAU−KVの巨体を入りやすくなった。ドリルは一反木綿を追いかけて刀を振るう。しかし‥‥。
「くっ、こいつ、巻き付いて‥‥」
ちょうど刀を振り下ろした直後に、一反木綿がドリルの機体にその長い身体を巻きつけてきた。包帯のように巻きついた一反木綿は、強い圧力でAU−KVを縛り上げる。ギシリと機体が軋む音が聞こえ、ドリルは顔をしかめて引き剥がそうとするが、強く巻きついているため簡単には剥がせない。
「これでは、下手に攻撃することもできないわ! なんとかドリルさんから、あれを引き剥がさないと!」
銃を構える美沙だが、ドリルにも攻撃が当たってしまうため攻撃ができない。剣などの接近武器でも、さすがに難しい状況だ。肌を傷つけずに服だけ斬るようなものである。
「よーし、僕らの出番だね。おっちゃん、手伝って」
「うむ、二人掛りならなんとかなるでござろう」
そこで、前に出たのは兄と獣兵衛。二人掛りで引き剥がそうと、ドリルに近づき一反木綿の身体に掴みかかる。
「身体は刃物のように鋭いので注意してください」
「了解っ! ふぐぐぐぐ!」
「ふんぬぅぅぅぅ!」
ソウマのアドバイスに返事を返し、二人は力を込めて一反木綿を引っ張る。さすがに二人掛りであれば、がっちりと縛りついた一反木綿でさえ少しずつであるが引き剥がされていく。
「おおおおお! 剛! 力! 発! 現!」
兄がここぞとばかりに、渾身の力を込めた。そして、ようやくドリルの身体が自由になる。
「二人とも、そのまま捕まえていてくださいね。さぁ、みんな、ズタズタにしてあげましょう」
「ええ、もう年貢の納め時ね!」
「運(ツキ)がなかった。それが貴様の敗因だ‥‥!」
「うむ、朧流の技を食ろうがよい、雷槍!」
「さよなら、また化けてでてこないでね!」
無理やり引き剥がされ、ドリルと兄&獣兵衛の間で引き伸ばされるように固定された一反木綿。カンタレラがそのまま押さえつけておくよう指示し、機械剣を構えた。それにあわせ、美沙達も武器を構えると、一同は一斉に引き伸ばされた一反木綿の身体に全力の攻撃を加える。さすがにこれには一反木綿も耐えられず、引き伸ばされた身体は二つに裂け、苦しむようにのた打ち回りながら、やがて力を無くして地へと落ち動かなくなった。
「さて、キメラも倒したし、任務は達成ですね。皆さん、治療しますのでこちらへどうぞ」
「あー、さすがに手の平が切れちゃったみたいだなぁ」
敵が完全に動かなくなったのを確認し、カンタレラが一同の治療を行い。力いっぱい引っ張った兄達の傷もカンタレラの練成治療で治って、無事に任務を達成するのであった。
その後しばらく経って、一反木綿を倒した山の中で、失踪者の遺体が発見されることとなり、事件は悲しくも解決。そして一行には、キメラを退治してくれたことへの感謝の声が届けられるのであった。