●リプレイ本文
依頼を受けた能力者一行は、近くの町から車でキメラの現れたという町へと向かっていた。
「さぁ、ガッチリとカメラを固定しますよ〜、ガムテで!」
「古河さん、ほどほどに頼みますよ‥‥」
ビッと軽快な音を立てて、ガムテープを引き伸ばす古河 甚五郎(
ga6412)は、満面の笑みで木場・純平(
ga3277)の腕に記録用ビデオカメラを貼り付けて、そのガムテープでぐるぐる巻きにしてしっかりと固定した。頑丈に固定されたカメラは、よほどのことが無い限り手元から離れることは無くなったが、代わりに純平は片手を動かせなくなってしまい苦笑を浮かべる。
「ん〜、我ながら完璧ですねぇ。さて、今回の相手は九尾の狐‥‥ということですが、資料にある証言は結構バラバラですねぇ」
「私の予想では、幻術によって様々な姿に変わるキメラではないかと思うのですが」
自分の仕事に満足したように頷き、甚五郎は資料を改めて確認しながら首をかしげた。資料には町を破壊したキメラについての目撃証言が記載されていたが、その内容は姿や大きさ、数についての証言がバラバラで正確とは言えない内容であった。それに対し辰巳 空(
ga4698)が自分の考えを口にする。
「九尾、ですか‥‥毛繕いが大変そうですわね‥‥」
「正体は傾国の美女ということは無いでしょうかねぇ」
「それはさすがに‥‥」
ミルファリア・クラウソナス(
gb4229)が九尾の狐の姿を思い浮かべてポツリと漏らす。甚五郎は、伝説の九尾の狐は美しい女性に化けて男を惑わし国を滅ぼすという言い伝えに、美女の姿を思い浮かべるが空は苦笑して首を横に振った。相手はあくまでキメラであり、力で町を破壊していることからも、わざわざ女性の姿をしている可能性は薄いだろう。
「しかし、九尾の狐って捕まえたらお金になるんですかねー?」
「さぁ、どうでしょう? キメラですからぁ」
「あぁ‥‥キメラか‥‥つかえねぇ」
退屈そうに外をぼーっと眺めていた小鳥遊 ミスミ(
gb9419)がそう呟くのを、ユーフォルビア(
gb9529)が曖昧に首を傾げて答える。その答えにミスミは、実に残念そうにため息を漏らした。そんな彼女の着ているTシャツには『札束最高』の文字がプリントされており、彼女の心からの気持ちが現れている。
「いや、持ってくとこ持っていけば引き取ってもらえることもあるらしいぞ」
「マジッすか! そんじゃま、ちょこっと気合入れて稼ぎますかー」
「今回はあくまで調査だけどな‥‥」
そこへ純平が何気なく答えると、ミスミは急にやる気を出してグッとガッツポーズを取った。その様子を冷めた表情で眺めながら、ユウ・ナイトレイン(
gb8963)はポツリと口にするのだった。
「妖怪、ですか。‥‥危険であれば早急に何とかせねばなりませんね。皆さん、そろそろ現場に着きます。準備のほうお願いいたします」
それからしばらく、車を運転していた祝部 流転(
gb9839)の声に、一同はすぐに気を引き締めて調査の準備を行う。そして一行は、キメラに壊滅させられたという町へとたどり着いた。
「酷い有様だな」
「これほどとは‥‥」
町に入った一行が見たものは、無残に破壊された町並み、そして地面に伏し動かなくなった住民達の亡骸。あまりに悲惨な光景に、一行は言葉を失う。
「あの‥‥このまま野晒しで放置されるのはこの方達が可哀想すぎます。土に埋めて供養してあげることはできないでしょうか?」
「‥‥そうしてやりたいのは山々だが」
「残念だけれど、私達だけでこれだけの人数を供養してあげることは難しいですわ。私達にできることは、一刻も早くこの地からキメラの脅威を取り除くこと。そして改めて人手を集めて、彼らを供養しましょう」
「はい、そうですね」
亡骸を眺め悲しげな表情を浮かべるユーフォルビアの言葉に、純平は目を伏せて首を横に振り、ミルファリアがユーフォルビアの肩に手を置いて諭すように微笑んだ。それに対し、ユーフォルビアも納得したように頷く。
「とりあえず、固まっていても仕方ないな。各自手分けしてキメラの調査を行おう。ただし、くれぐれも離れすぎず、連絡が取れるようにしてくれ」
その後、一番の年長者である純平の指示に一行は従い。各自が手分けしてキメラの痕跡などの調査を開始するのだった。
「この爪跡は大きいですね。十分にキメラの大きさを物語っているようです」
崩れたビルの壁跡に刻まれた、巨大な爪跡を発見したユウ。その大きさから、キメラの大きさを予想して眉を顰める。
「ですがおかしいですね。こちらに残っている傷跡とは明らかにサイズが違う。目撃証言にもあるように、大型のキメラと小型のキメラが複数いるということでしょうか」
「そういえば、小型の狐も目撃されているのですよね」
それとは別に、比較的小さいサイズの爪跡も瓦礫のそこかしこに残されており、流転は資料にあった一部に注目して考えを口にした。ユーフォルビアもそれに納得したように頷く。
「それにしても、肝心のキメラはいったいどこへ行ったのでしょうか。すでにこの町からは離れてしまったのか‥‥」
『こちら、クラウソナス。目標を発見しましたわ! 至急こちらに来てください!』
「了解! 急行する!」
通信機から流れるミルファリアの通信。目標発見の報告に、一同はすぐさま力を覚醒し、ミルファリア達と元へと駆けるのだった。
「さて、皆さんが来るまでどうしましょうね」
キメラ発見の通信を行ったミルファリアは、瓦礫の影に隠れながら道の先を見つめる。視線の先には、巨大な黄金の獣が悠然とした様子で歩いており、それこそが一行が調査をするべき対象、『九尾の狐』であった。
「黄金の毛に包まれ、九つの尻尾を持つ狐。まさしく九尾の狐ですわね」
「すげー、黄金の毛皮だ。あれ、売ったらいくらになりますかねぇ」
「そんなに目を輝かせて見ていては気づかれますわよ。もうしばらく大人しくしていましょう」
太陽の光を反射し美しく輝く黄金の毛皮、ピンと立った三角の耳、鋭い雰囲気の細長い顔、そして扇のように開かれたフサフサと大きな九つの尻尾。まさに九尾の狐といった姿のそれは、獲物を探すかのように周囲を見渡しながら、道の先へと進んでいく。一見すれば美しいとも思えるその黄金の獣の姿に、ミスミが目を輝かせていまにも飛び出しかねない様子に、ミルファリアは彼女を押し止めながら注意した。
「まずは、気づかれないように観察するべきですね。やつの能力はどのようなものか、本当に実体があるのか、しっかりと見極めなければ」
その存在さえも疑って、キメラの力を見極めようとする空。しかし、気づかれないように遠くから見る限りでは、それが幻覚であるようには見えなかった。それでも、一同は仲間が来るまで離れてキメラを観察しようとしていた、そこへ‥‥。
「‥‥!」
一同の頬を北風が撫でる。秋も終わり本格的な寒さが訪れようとしているのを感じる冷たい風。そこで空達はようやく気づいた。
「まずい! こちらは風上だ!」
風は自分達の後方から、キメラのほうへと流れていた。動物を模したキメラならば、野生の動物、いやそれ以上に高い嗅覚を持っていてもおかしくは無い。風に乗った人には感じ取れない臭いも、キメラには分かってしまう。案の定、九尾の狐は鼻を鳴らすような仕草を見せたかと思うと、進行方向を転換し一行の隠れている場所に向かって駆け出してきたではないか。
「仕方ありませんわ‥‥撮影の準備が整うまではと思いましたが、直接戦闘に入りましょう。よっしゃー‥‥ばっちこーい‥‥」
「了解。この手でその化けの皮を剥がしてみせましょう」
一同はすぐさま能力を覚醒すると、隠れるのを諦め臨戦態勢へと入る。ミルファリアと空は剣を構え、九尾の狐を迎え撃つように前へと出た。
「でけー、めんどくせー‥‥さっさとおわらせちゃいましょうよ。見つかっちゃったもんはしょうがないしね! あっはっはっ!」
やる気があるのか無いのかよくわからない態度を取っていたミスミだったが、覚醒し異常なほど気分が昂揚しているのか、自分専用に調整した機械槍のスイッチを入れて豪快に笑い飛ばした。
「大きな図体にしては、結構素早いですわね。っ!!」
「クラウソナスさん!」
5メートルを超える巨大なキメラが、猛スピードで一行へと襲い掛かる。ミルファリアは巨大な両手剣でキメラの突進を受け止めようとするが、大型トラックに衝突される以上の衝撃に、簡単に弾き飛ばされてしまう。
「ぐぅ‥‥見た目どおりの攻撃力‥‥ということですか」
「大丈夫ですか! やはりあれは幻覚ではなく本物‥‥。だが、そうだとわかれば!」
瓦礫に背中を打ちつけて、苦しそうに息を吐き出すミルファリア。空は彼女に駆け寄り、大事が無いか確認すると、キメラの足へと向かって刀を一閃。
「やったか‥‥? っ!! 再生している!?」
空の攻撃は、キメラの前足を切り裂く。だが、その傷口は瞬く間に塞がり、動きにまったくの支障が無いようだ。
「ガルルルルッ!」
攻撃を受けたことにより、怒りのうなり声を上げる九尾の狐。そして、今にも二人へと襲い掛かろうとしている。
「よし‥‥そこだっ」
「虚実空間行きます記録宜しくです」
「曝け出しましょう、‥‥隠し事は良くありませんよ?」
そこへ駆けつけたのはユウ、ユーフォルビア、流転、ミスミの四人。ユウがキメラの側面に回りこむように流し斬りを行い気を引き、ユーフォルビアと流転、そしてミスミが虚実空間を使用する。
「外してしまいました!?」
「いえ、どうやら抵抗されてしまったようです。さすがは‥‥と申し上げておきますか」
しかし、虚実空間の妨害電波はキメラに防がれてしまったようでその効果を発揮することができなかった。非物理に対しての耐性もかなり高いようだ。
「巨大な体躯から出される高い破壊力、加えて高い身体能力、非物理耐性も高く、しかも再生付きとは‥‥」
「物理攻撃は効果がありますけど、再生されてしまってはねぇ」
仲間達と九尾との戦いを、少し離れたビルの残骸の上で、ビデオに撮影する純平と甚五郎。九尾の狐の高い能力に険しい表情を浮かべながらも、その一挙手一投足も逃さぬようビデオに収め続ける。
「戦闘に参加できず、見ているだけというのは歯がゆいな」
「そうですねぇ。ですが、我慢しなくては」
「わかっている」
仲間達の奮闘を心の中で応援しながら、ビデオをとり続ける二人。しかし突然、九尾が二人に気づいたかのように視線を二人の潜んでいるビルへと向ける。鋭い視線に睨まれた、そう感じたとき、九尾が謎の行動に出るのだった。
「見つかった!? いったいどう出るつもりだ‥‥」
「何をするつもりです!?」
九尾が突然攻撃の手を緩めた、そう感じたとき交戦していたユウ達は奇妙なものを見た。
「尻尾が‥‥」
なんと九つある九尾の尻尾のいくつかが、九尾本体から切り離されたのだ。しかも、その切り離された尻尾からは、4本の手足が生え出てきたのである。そして瞬く間に小型の(といっても大型犬ほどの大きさの)狐の姿へと変わってしまった。
「アオーーーーン!」
狐キメラ達は一声雄たけびを上げると、素早い動きで一行へと襲い掛かってくる。
「っ! 掠りましたね‥‥二種類の大きさの傷跡、なるほどこういうことでしたか」
「まさか身体の一部が別のキメラになるとはね‥‥」
狐キメラは、攻撃力はさほどではないが、とにかく動きが素早い。狐キメラの攻撃を受けながら、流転とユウは理解したかのように頷いた。
「キメラが木場さんのほうへ行ってしまうです。電磁波による攻撃行きます記録宜しくです」
そのうち一匹が、純平達のいるビルのほうへと駆け出していく。慌ててユーフォルビアは超機械での攻撃を行うが、さすがに一撃では動きを止めることはない。そして、そのまま狐キメラは純平達のもとへ。
「俺は戦うことができない。古河さん頼んだ」
「任せて置いてください。このための自分ですよ」
向かってきた狐キメラに、純平の護衛についていた甚五郎が迎撃を行う。まずは牽制と銃撃を行う甚五郎だが、キメラは怯むことなく襲いかかってくる。それに対し、甚五郎は『獣突』を使い弾き飛ばすように相手を遠ざけた。終始有利に戦う甚五郎、しかしたまたま瓦礫の脆い場所に足を取られてしまう。
「おっと、足元が‥‥」
ほんの一瞬の隙、だがその隙にキメラが純平へと突っ込んできた。すぐさま回避行動を取る純平、しかし‥‥。
「っ!!」
突如キメラが自爆。激しい爆風が辺りを襲う。そして瓦礫の埃が周囲に巻き上がった。
「木場さん大丈夫ですか!」
「‥‥なんとか、な。ビデオも無事だ」
視界を奪われた甚五郎が、純平の安否を確かめる。そして、純平の返事に胸を撫で下ろした。純平はとっさにビデオを抱え込み、爆発に背中を向けてダメージを避けたのだった。
「皆さん、無事ですか」
突然の狐キメラの爆発に、ユーフォルビア達もそれぞれに安否を確かめるため声を掛け合う。全員致命傷は避けられたようで、返事を返しながら再び九尾と対峙し合った。
「再生するというのなら、再生よりも早く攻撃を叩き込みますわ」
いつの間にか切り離された尻尾まで再生し始めている様子に、ミルファリアは素早い動きで大剣による二段攻撃を行おうとする。しかしそこへ、九尾の口から黒い霧のようなブレスが吐き出された。
「くっ!」
突然撒き散らされた黒い霧に、一行は回避も間に合わず包まれてしまう。すると、身体の中から急激な寒気に襲われ、体力が一気に下がるのを感じた。
「毒‥‥? それとも何か別の‥‥」
空がその黒い霧を分析しようとするが、口から吸い込まなくてもダメージを受けてしまうらしいということぐらいしか分からなかった。そして一行が一瞬怯んだ隙に、九尾はすごい跳躍で飛び上がると、山の方角へと撤退していってしまう。
「逃げました‥‥か。いえ、我々もこれ以上の追撃は難しいですね」
「かなり危険なキメラでした。ですがこれでかなりの情報は集まったはずです」
影が見えなくなり、安堵とも無念とも取れるため息をつく一行。ユウの言葉に、空が頷きこちらへと向かってくる純平達へと視線を向けた。
「みなさん、回復いたしますねー」
「みなさん、お疲れ様でした。あとは今回のレポートを書くだけですね」
ユーフォルビアと流転が練成治療を行い一行の傷を癒す。そして、一行は今回の調査のレポートを記載し、ULTへと提出するのだった。今回の調査で、九尾の能力がある程度解明され、次には討伐が期待されるだろう。