●リプレイ本文
ジャックランタンの討伐依頼を受けた能力者達は、すぐに現地へと向かうと状況確認のために警察へと向かった。
「俺達は依頼を受けキメラを退治しにきたエミタ能力者です。現在の状況確認と、警察の協力を要請しにきました」
「おお、あんた達がか!」
木場・純平(
ga3277)がこちらの身分と目的を伝えると、警官達はすぐに納得した表情を浮かべ好意的に対応してくれるようになった。
「早速ですが、キメラが現在どこにいるかわかれば教えてください」
「悪いが、こちらでも火事と住民の避難の対応に追われていて、キメラについての情報が錯綜しているため、実際にどこにいるのかは確認が取れていないんだ」
「ならば、町の地図に南瓜の目撃場所、火災の発生地域、それと町民の避難場所を記入してくれ」
「わかった、だが避難所も書き込むのか?」
「戦場が避難場所の近くでは‥‥やりにくい」
「そうか‥‥すまない!」
キメラの所在地を聞く純平だが、警察でも詳しい場所は把握していないようだ。そこで、ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は町の地図を用意させ、そこに必要な情報を書き込んでもらうことにする。そして、情報が書き込まれた地図を確認し、作戦を組み立てた。
「事前の作戦の通り、東西南北4班に分かれましょう。私達は北、この辺りね」
その後、一通り警察署でできることが終わり、シェリー・神谷(
ga7813)が地図の町の北を指し示す。各人も頷いて、自分達の担当する地域を確認すると、それぞれジャックランタンの捜索へと出るのだった。
「はぁ! これで五匹目!」
筒状の柄から一瞬射出されたレーザーナイフで、浮遊する鬼火を切り裂いた鳳凰 天子(
gb8131)。切り裂かれた鬼火はどこともなく消えうせ、辺りに静けさが戻る。
「大丈夫? あまり無理しないでね」
「多少熱いのなぞ気にしない!」
天子とペアを組んだベルティア(
ga8183)が心配するように声をかけるが、天子は強い言葉で返事を返す。多少やせ我慢的なところもあるが。
「でも見つけた火の玉をすぐに倒しちゃうし」
「出会ったキメラは全て斬る。どうやら私は幽鬼の類との縁が深い様だ。実体の無いものを斬る為に手に取った機械剣、それを活かす機会だ」
実際のところ、鬼火を見つけてももう少し様子を見てジャックランタンを誘き寄せたいベルティアであったが、天子が真っ先に倒してしまうのでなかなか目的の相手が見つからない。
「しかしわざわざ人類の祭りや記念日に合わせたキメラを用意する悪趣味なバグアのどもめ。町人のささやかな団欒を乱そうとは不届き千万。我々が二度と姿を現せぬ様成敗してくれる! さぁ、次の相手はどこだ!」
「根はすごく良い子なんだけど、もう少し融通を利かせてもらえると助かるかなぁ‥‥」
すでに燃えてしまったハロウィンの飾りつけを見ては怒りに燃える天子は、次のキメラを探し走り出す。ベルティアは誘き寄せ用に用意したバスケット一杯のお菓子を見て小さくため息をつきながら、天子を追いかけて走り出すのだった。
「『トリック・オア・トリート!』と唱えて火を吐いたか‥‥お菓子を貰えず悪戯したつもりかな?」
「なるほど、お菓子を与えれば悪戯をしない。またはお菓子に釣られて現れる‥‥」
「さすがに‥‥暴れるのをやめるとは思わないが、興味を示す可能性は高いだろう」
ホアキンは持参したチョコレートを持ち、ペアを組んだユウ・ナイトレイン(
gb8963)は途中で購入したお菓子を持って、南瓜のキメラが姿を現さないかと、辺りを見回しながら進む。と、しばらくそうやって町の中を捜索していると‥‥。
「キャハハハハハ! トリックオアトリート! トリックオアトリート!」
「いたぞ!」
火の手が商店街から上がっており、住民が慌ててその場から逃げ出していた。商店街はハロウィンの飾りつけがされており、道にはお菓子のワゴンセールのようなものが並べられている。その上空を、南瓜頭のキメラが飛びまわっており、火を吐いてはあちこちを燃え上がらせていた。
「早く止めないと!」
「待て‥‥ほら、まだこっちに沢山あるぞ」
キメラへと駆け出そうとするユウを止め、ホアキンが懐からチョコレートを取り出してキメラへと見せ付けた。
「キャハ! トリックオアトリート! トリックオアトリート!」
「そうだ、トリック・オア・トリートだ。お菓子が欲しければこちらへこい! いくぞ、こっちだ‥‥」
「は、はい! ほら、お菓子はこっちだぞ!」
ジャックランタンがお菓子に反応したのを確認し、ホアキン達は来た道を戻る。そして、商店街から少し離れた場所にある広い駐車場へとキメラ達を誘導した。
「ここならば邪魔は入らないだろうし、被害も少なくてすむ」
「たしかに、周囲に燃えそうなものはありませんね」
ホアキンは右手に鉄鞭、左手に剣を構えキメラを待ち構える。ユウも水と氷の幻影を纏い、長剣を構えた。
「キャハハハ! トリックオアトリート!」
「そら、くれてやる。その命と引き換えだがな」
「ギョエーーー!」
上空から追いかけてきたジャックランタンに向かって、チョコレートを投げつけるホアキン。それに一瞬気を取られた隙に、鉄鞭から強力な電磁波を発し、キメラを地上に叩き落した。
「その汚らわしい炎を、俺の氷水で消し去ってやる」
ユウは自分達を取り囲むように集まってくる鬼火を、素早く切り裂いて消し去っていく。鬼火は数が多く、何度か鬼火の炎を受けてしまうが、身体の活性化によりすぐに傷を癒していった。
「とりっくおあとりー‥‥」
「悪いがこちらが先だ」
「ギャーーーー!」
ジャックランタンが起き上がり、その南瓜の口から炎を吐き出そうとする。だが、ホアキンはそれよりも早く、その口へと剣を突きたてる。ジャックランタンが断末魔の悲鳴をあげた。
「これで止めだ‥‥」
「オアトリック!」
剣を突き立てられたジャックランタンは、自らの炎によって燃え上がる。だが、同時に南瓜頭が突然爆発した!
「くっ!」
「大丈夫ですか!?」
「‥‥たいしたことはない」
とっさに身を庇うホアキン。しかしその身に纏う防具のおかげで、少しのダメージを受けるがたいしたことは無く、駆け寄るユウに無事を伝える。
「敵はまだ残っている。次へ向かうぞ」
「了解です」
ジャックランタンが倒されたことにより、鬼火はどこかへ消えてしまったようだ。そして二人は、残りのキメラを退治するため再び町の捜索へと出るのだった。
「いたぞ、ジャックランタンだ!」
町の北側へと向かった純平とシェリーの二人は、しばらくの町の探索後、浮遊する火の玉の一団を発見。それらを追いかけると、学校の上空で騒ぎ立てるジャックランタンを発見した。どうやら学校ではハロウィンパーティが催されていたようで、校庭にはカボチャの飾りつけなどがされていた。
「電光石火の勢いで行く! 援護は任せた!」
「了解! 子供達はみんな避難したようね。なら遠慮なくやってやろうじゃないの!」
長大な槍斧を構えた純平が、鬼火の一団へと突っ込む。初めから全力で槍斧を振り回し、次々と鬼火達を薙ぎ払っていく。それを援護するように、シェリーが純平の槍斧に練成強化をかけ、周囲に散らばる鬼火に超機械で電磁波を与えた。
「トリックオアトリート!」
「そんな問答には付き合っていられないのでね」
ジャックランタンの掛け声を無視し、純平は瞬天速によって一気に間合いを詰めると、上空にいるキメラに向かって飛び上がりそのまま槍斧を振るった。南瓜頭に槍斧が叩きつけられ、バキッと軽い音と共に叩き割られる。
「もう倒しちゃったの? やるじゃない」
「いや、まだだ」
まさに電光石火の一撃に感嘆の声をかけるシェリー。しかし、純平は小さく首を振り、頭を割られたはずのジャックランタンが起き上がろうとするところへ、止めの一撃を放った。
「っ! 爆発したか」
「さすがに爆発しちゃったら、食べられないわね」
止めと同時に爆発したジャックランタンに、純平は軽く顔をしかめるも大事には至らず。シェリーはなにやら残念そうに、破片となったキメラを眺めるのだった。
「おまえさんも気合が入っとるのぅ」
そう言って感心するように頷くユーミル・クロガネ(
gb7443)の視線の先には、中世の王子様のようなきらびやかな衣装に、異常に高い襟のついた漆黒のマントといったまるでバンパイアのような姿の紫陽花(
gb7372)。白い肌がよりいっそうバンパイアっぽさをかもし出している。
「いえ、たまたま衣装があったので、せっかくのハロウィンだし。たいした考えがあったわけじゃないですけど」
「いやいや、ハロウィンを装いキメラを誘き寄せる、なかなか良い作戦じゃと思うぞ。わしも不服じゃが‥‥子供の振りでもするかの‥‥トリックオアトリート♪」
「はぁ」
紫陽花の言葉を謙遜ととったか、ユーミルもがんばって子供の振りをしようとしてみせるが、振りをしなくても十分外見は子供っぽいですよ、と思ってもいえない紫陽花であった。
「トリックオアトリート♪ トリックオアトリート♪ ふぅ、老体にはなかなか堪えるわい」
「‥‥‥」
町の南側をハロウィンを装いながら練り歩いていく二人。子供の振りは疲れるのかユーミルが小さくため息をつく様子に、何か言いたいが無言の紫陽花。
「キャハハハハハ! トリックオアトリート!」
「む、出おったな‥‥トリックオアトリート♪」
「お菓子ならここにあるよ」
しばらく捜索を続けていると、二人の前に一体のジャックランタンが現れた。紫陽花がお菓子を差し出すと、ジャックランタンは複数の鬼火を連れながら空中からゆっくりと降りてくる。
「トリックオアトリート!」
「もう少しじゃ、もう少し近づけば‥‥よし、トリックオアトリー‥‥クラッシュオアデストロイ♪」
ジャックランタンが近づいてくるのをぎりぎりまで待つユーミル。そして、射程に入ったところで能力を覚醒、その豪腕をキメラに向かって繰り出した!
「っ!!」
「キャハハハハ!」
だがしかし、ジャックランタンはヒョイっと外套をひるがえして、ユーミルの一撃を避ける。渾身の一撃が空を切り、ジャックランタンがユーミルに向かって炎を吐き出した。
「なんのこれしき! あちち‥‥おのれ南瓜の分際で!」
ユーミルはすぐさま地面に拳を打ちつけ、割れたアスファルトを盾にしようとする。しかし、そう上手く行くはずもなく、辛うじて直撃は避けられたが熱気でダメージを受けてしまった。
「ほら、お菓子だ! もっと欲しければこっちへこい! ほらユーミルさん、こっちだよ」
「お、おお!?」
そこへ、紫陽花がお菓子を投げつけて気を引く。そして、ユーミルの手を引いて少し離れた人気の少ない場所へとキメラを誘導した。
「あのままあそこで戦うと被害が大きくなりそうだったので」
「うむ、それは分かったから、いい加減、手を離さんか?」
「あ、ごめんなさい」
人気の無い空き地へとたどり着いた二人。言われて気づいたように慌てて手を離す紫陽花に、ユーミルは苦笑を浮かべる。そうこうするうちに、ジャックランタンと鬼火が追いついてきた。しかし、何故か南瓜頭は二個。
「なんじゃ、いつのまにか二体になっとるぞ」
「本当だね‥‥まさかこの衣装がそんなに気に入ったのかな?」
「いや、それは違うと思うのじゃが」
いつのまにか二体に増えているジャックランタンに、驚きながらも紫陽花の言葉に呆れたように首を振るユーミル。
「さて、そろそろ本気を出させてもらおうかの」
「さっきのは本気じゃなかったんだ」
「うっさいわい!」
そんな会話をしつつ、ユーミルは空を裂くように拳を振るう。すると衝撃波が発せられ、離れた場所の鬼火を切り裂いた。紫陽花も弓を構えると、正確な射撃により何体もの鬼火を撃ち抜く。しかし、ジャックランタンに対しては、ユーミルの拳もなかなか当たらず、紫陽花の矢は弾かれてしまう。
「キャハハハ! トリックオアトリート!」
「‥‥さすがにあの南瓜は少し硬いな」
「おまえさん、しばらくやつらの気を引いておれ」
「わかりましたけど‥‥」
何か考えがあるのか、ユーミルが紫陽花にそう指示を出す。紫陽花はそれに従い、相手の気を引くように何度も矢を当てていく。と、しばらくして‥‥。
「ふふふ、捕まえたぞ」
紫陽花が気を引いている隙に、ユーミルはその小柄な身体を茂みに隠し、隙を見てジャックランタンの外套を掴む。
「少し悪戯が過ぎたようじゃな。クラッシュオアデストロイ♪」
そしてそのまま、豪腕を南瓜頭に叩きつけた。バキッと頭が割れ、と同時に爆発する。
「ゲホゲホ、爆発するとは。最後まで鬱陶しいやつじゃ。どれもう一匹」
軽く咳き込みながらも、ユーミルは満足そうに不敵な笑みを浮かべた。
「それにはおよびません」
そう言って、紫陽花は力を込めた正確な一撃を残りのジャックランタンに撃ちこむ。その矢は、眉間に突き刺さると南瓜頭を撃ち砕いた。幾度と無く放たれた射撃は、全てこの一撃のために眉間へと当てていたのだ。
「さて、次へ行くかの」
「その前に、ユーミルさんの治療をしましょう」
「なんの、この程度。いたた‥‥」
二体のキメラを倒した二人は、少し治療を行った後、再び町へと出るのだった。
「キャハハハ! トリックオアトリート!」
「やっと見つけた‥‥breadではなく、bulletでおもてなし致しましょう」
「ついに現れたな、南瓜の妖怪! この機械剣の錆にしてくれよう!」
しばらくの間町の東側を走り回ったベルティアと天子は、ようやくジャックランタンと遭遇した。ベルティアは首にかけた戦乙女の首飾りに軽くキスをしてその祈りと共に覚醒する。
「それじゃあ、シューティング・スタートだよっ!」
少し子供っぽい口調になったベルティアが、拳銃で周囲を飛ぶ鬼火を撃ちぬいていく。そこへ、天子が迅雷で一気に駆け抜けジャックランタンへと斬りかかった。
「切り裂け、機械剣! はぁ!」
加速のついた鋭い一閃が、横一文字に南瓜頭を切り裂く。反撃の炎が吐き出されるが、軽快なステップで素早くそれを回避し、続けて縦一文字に切り裂いた。
「ねぇ、生まれ変わってもまたカボチャで化けるなら、今度は素敵な馬車になるんだよ?」
そこへちょうど十字に付いた傷跡の中心に、ベルティアが弾丸を撃ちこむ。弾丸は南瓜頭を撃ち砕き、ジャックランタンは爆発し霧散するのだった。
「ふ、所詮南瓜の妖怪などこの程度か。さぁ、次の相手はどこだ!」
「あら、いまので最後だったみたい。依頼終了ね♪」
無事にジャックランタンを退治した二人。次へと向かおうとする天子だが、無線で仲間が残り4体を退治していることを確認し、にっこりと微笑んでそれを止めるベルティアだった。こうして、町への被害を最小限に抑え、キメラの殲滅に成功した一行は、住民に感謝されながら帰還するのだった。