●リプレイ本文
「‥‥ゾンビの親玉退治か」
依頼を受け、ゾンビが徘徊する町へと向かった一行。町から少し離れた場所で、町の様子を確認しながらホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は、小さくため息をつくようにつぶやいた。
「命を奪ったうえに、ゾンビにして人を襲わせる‥‥か。浅ましいマネしやがって。ブチ壊してやる」
「寄生型のキメラ? なんて酷い事を‥‥絶対に許さない!」
「この様なタイプのキメラが一番厄介‥‥ですよねぇ」
同じく、苦々しげに顔を顰め不快感をあらわにする杠葉 凛生(
gb6638)と、怒りに拳を握り締めるサンディ(
gb4343)。ヨネモトタケシ(
gb0843)は深くため息をついて肩をすくめる。
「うげっ、死体に種植え付けて動かすって、悪趣味。何の為にンな事やってんだか。ま、良いや。さくっとヤっちまおうぜ?」
「実に趣味の悪いことだ。これを考え付いた奴の顔がみてみたいね」
「今度こそ土に還してさしあげますわ‥‥」
ジングルス・メル(
gb1062)は気色悪いものを吐き出すように舌を出し、日野 竜彦(
gb6596)は「見たら絶対ぶっとばす」と小さく呟き、ミルファリア・クラウソナス(
gb4229)は怒りを静かに内に秘める。三人は前回の町の調査に赴き、ゾンビがあふれる町の現状を見てきた者達だったが、ゾンビ発生の原因を聞きよりいっそうの怒りを感じていた。
「バイオハザードの原因‥‥‥ステルスヒメ、がんば‥‥」
「それじゃ、作戦の通り、陽動と襲撃の二手に分かれるぞ」
「わかりました、陽動のほうは自分達に任せてくださいねぇ」
「気ィつけろ、アイツら生きてナイから死なねーぞっ」
「そっちこそ、何が潜んでるかわからないから、気をつけてくれよな!」
ホアキンの指示に頷くタケシ。前回の経験で忠告するジングルスに、竜彦が忠告を返す。そして7人は、ゾンビを操る本体を襲撃する洞窟班と、ゾンビを陽動し洞窟の守りを薄くする陽動班に分かれて、行動を開始するのだった。
「ちょ、置いてかないでほしいッス!」
‥‥いや、薄井 姫里(
gb8518)を含め8人で、である。
ホアキン達と別れ、町へと入ったタケシとサンディ、竜彦の三人は陽動のために、町の目立つ場所へと来た。少し先には、ゾンビが集団で歩いているが、まだこちらには気づいていないらしい。タケシは時間を確認すると、担いでいた大きな武器をその手に構える。
「荒々しくも騒がしい鎮魂歌になりますが‥‥安らかに御眠りを!」
そして、タケシは持っていた武器『大口径ガトリング砲』で銃弾の嵐をゾンビの群れへと放った。火薬の爆ぜる大きな音、ガトリングの回転する銃口の音、そしてゾンビ達の吹き飛ぶ音が、盛大に周囲に響き渡った。
「あまり、気持ちの良いものではありませんねぇ‥‥しかし、自分に『コレ』は似合わない気もしますが‥‥ねぇ?」
「いや、よく似合ってる‥‥じゃなくて、彼らの望まぬ殺戮を止めてやるためにも、ここは俺達がやらないと!」
「そうだ! 死してなお動き続ける苦痛を止め、彼らに安らかな眠りを与えてあげなければ」
ガトリング砲でゾンビ達を掃射しながら、タケシは物憂げにため息をつく。それに、竜彦とサンディは小さく首を振り、決意の表情を浮かべた。そうするうちに、騒ぎを聞きつけたのか、周囲からゾンビが集まってくる。それに対し、竜彦とサンディは剣を持って、ゾンビの群れへと突撃すると、次々とゾンビ達を打ち倒していくのだった。
「始まったようだな‥‥」
前回の調査を参考に、極力安全なルートで町を抜け、洞窟があるとされる場所へと向かったホアキン達。離れていても聞こえる大きな銃撃音に、無事に陽動が始まったことを確認し、一行は先を急ぐ。そして墓地を抜けた先に、一行は情報に合ったとおりぽっかりと開いた穴を発見した。洞窟は、地面に大きく開いており、緩やかな傾斜で地下へと続いているようである。
「陽動は成功といったところか、しかしまだどれほどのゾンビが中に隠れているとも知れないな」
「つっても、ゆっくりもしてらんねーだろ。時間もねーし、あとは出たとこ勝負だな」
「そうだな‥‥。中は暗い、足元に注意しろ。ライトやランタンの明かりだけでは心もとないからな」
「そうッスね、でもこの暗闇はステルスヒメの真骨っ‥‥」
「作戦時間は今から2時間‥‥行くぞ‥‥」
木々に隠れながら、洞窟から出てきたゾンビが通り過ぎるのを待ち冷静に状況判断する凛生。それに頷きつつも、洞窟へと突入するよう言うジングルス。ホアキンも同意し、ランタンに火を付けて洞窟の中を照らす。他の者達もそれぞれ支給されたヘッドライトや懐中電灯を持ち、一同は洞窟への侵入を開始した。
「暗いですわね‥‥辛気臭いですわ‥‥」
懐中電灯で洞窟の中を照らしながら先へと進む一行。ミルファリアは洞窟特有のジメジメした雰囲気に顔を顰める。洞窟の様子は、高さ2メートル、幅は3メートルほど、壁は入り口付近は固めの土であったがしばらく降りると岩に変わり、辺りが湿地帯のためか壁の間から時折水が流れている。
「すでに30分経過か‥‥」
探索を進め、所々狭いところを抜けながら奥へと進む一行。かなり進んだようにも思えるが、実際のところは暗闇を警戒しながらのために、思ったほど進めてはいない。
「この先は分かれ道か」
それからまたしばらくして、道が二つに分かれている場所へとたどり着いた。といっても、片方の道は小さく屈まないと通れないほどである。
「二手に分かれるわけにもいかないからな。この道は無視して‥‥、先を進むか」
「たしかに、この道はさすがにねーよな」
ホアキンの意見に、ジングルスが同意、他の者も特に反対しなかったので、一行は広い道を進むことにした。
「でも、こういうところに何かあったりするのが‥‥」
何か言おうとして結局スルーされてしまう姫里、とそのとき‥‥。
「ぴゃっ!」
突然、姫里は何者かに足を掴まれて短く悲鳴をあげる。見れば、先ほどの小さな穴から、腕が伸びて足首を掴んでいるのだ。慌ててライフルを構えようとするが、強い握力に握られ足に痛みが走る。
「なにやってんよ」
ダン! そこへ銃声が響き、姫理を掴んでいた腕が吹き飛ぶ。気づけば、ジングルスが素早く戻ってきており、拳銃で彼女を助けたのだ。
「あ、ありがとうッス、ジングルスさん」
「ヒメリは影薄いんだから、はぐれるとマズイっしょ。あーあ、アザになってる。歩ける?」
「はい、たいしたことないッス」
密かに姫理の様子を気にかけていたジングルスのおかげで、姫理は事なきを得る。その後、戻ってきた仲間達と穴の中にいたゾンビを退治し、先が行き止まりであることを確認した。それから、何度かゾンビの不意打ちを受けた一行であったが、なんとかそれらを切り抜けながら、やがて洞窟の奥にある広い空間へと出るのだった‥‥。
一方その頃、陽動班は。
「はぁ!」
気合と共に一陣の風が吹き、次々とゾンビの腿が斬られ身体を支えきれずに倒れる。サンディが目にも留まらぬ速さで、ゾンビの群れの中を駆け抜け、その行動力を失わせているのだ。
「相変わらず遅いよ! そこ!」
竜彦も二刀の小太刀を持ち、舞うようにゾンビ達を切り裂いていく。また、時折拳銃に持ち帰ると、新しく近づくゾンビに発砲し、その動きを阻害していった。そして、ゾンビの動きは緩慢で、素早く動く二人を捉えることはできていない。
「二人ともいい調子ですねぇ。ですが‥‥これはキリがありませんね」
タケシも二人の動向を確認しながら、ガトリング砲で攻撃を続けていた。しかし、かなりの数を打ち倒しているというのに、ゾンビの数は減るどころか増える一方。実際、一度倒しても再び蘇るし。足を切り裂き歩けなくしても、上半身だけで迫ってくる始末。三人は徐々に押し戻される形で後退を余儀なくされていく。
「くっ‥‥ごめん!」
迫り来るゾンビの中には、もちろん女子供も含まれており、竜彦は年端も行かない子供のゾンビを悲しげに謝罪して切り裂いた。彼らを安らかな眠りに付かせるためと心の中に言い聞かせても、さすがに簡単には割り切れるものではない。
「退路が! っ!!」
サンディもヒット&アウェイでゾンビの猛攻をよくしのいでいたが、退路に一度倒したゾンビが立ち上がり回避を邪魔され、指の爪で腕を切り裂かれてしまう。痛みに顔を顰めるサンディ。しかし、歯を食いしばりグッと我慢する。
「この程度、彼らの痛みに比べれば‥‥」
切り裂いたゾンビの指のほうがぼろぼろになっている様子に、悲しみを瞳に浮かべながらサンディは動きを止めずに敵を切り裂いていった。
「どれほどの数が集まってきてるんだ。これで、少しでも時間が稼げれば!」
周りの通りから続々と集まってくるゾンビ達。竜彦は少し退きながら99度のアルコール『スブロフ』に火をつけて、身近のゾンビへと投げつける。瓶が砕け散り、散乱した中身が盛大に燃えて火の壁となりゾンビを止めた。だがそれも少しの間だけ、火が消えればすぐに襲い掛かってくる。
「さすがにこれはまずいですねぇ」
のんびりな口調ながら少し焦りの表情を浮かべるタケシ。どうやら後方からもゾンビの群れが来ているようだ。タケシはガトリング砲で近づけまいとするが、それも多少の時間稼ぎにしかならない。三人は徐々に追い詰められていくのであった。
「ちっ、なんだこいつら!」
ジングルスが悪態をついて拳銃を発砲するが、目標は素早くそれを避ける。洞窟内の謎の広い空間へとたどり着いた一行。そこで待ち受けていたのは、高速で動くゾンビであった。ゾンビ達は一様にガタイの良い者達で、その身体にはUPCの制服が纏われており、今までのゾンビとは比較にならないほど素早い動きで、広い空間の中を自由自在に飛び回る。
「恐らくは、前回の調査の前に行方不明になったUPCの兵士ですわ!」
「元々身体能力の高い者が、ゾンビとなって肉体のリミッターがはずれ、化け物じみた動きをするということか」
パラソルでゾンビの攻撃を受け流しながらミルファリアが、ゾンビとなった者達の素性を推察する。それに、凛生が納得したように呟きつつ銃撃を放つ。
「こう暗闇の中を飛び回られては、攻撃を当てるのは難しいですわ。一度来た道に戻り迎撃いたしません?」
「それは無理なようだ‥‥」
「ゾンビが迫ってるッス! スブロフに火をつけるッス!」
ミルファリアの提案、しかしホアキンの自前の暗視ゴーグルには、来た道にゾンビの群れが溢れ返っている様子が映されていた。すぐに姫理が通路に向かってスブロフを撒き、火をつけて足止めする。
「それよりも、この先に目標と思われるものがある。本体を倒せば、ゾンビも滅ぶ」
「ちっ、気楽に言ってくれるんだケド!」
そして、広間の先にはなにか大きな影があることにも気づいていたホアキンが、一行にその存在を示す。だが、兵士ゾンビの猛攻は激しく、そう簡単には近づけるものではないことに、ジングルスは苦笑した。
「これを使うときのようだ」
そんな中、そう言ってホアキンは依頼出発前に科学者に貰った謎の機械を取り出したのだった‥‥。
「無理よ」
ゾンビを操る電波を無線で受信しようと考えたホアキンに、科学者はあっさりそう言った。
「ゾンビを操る電波の周波数を特定しろなんて、バグアの通信を傍受するより難しいことよ。そんなことが一朝一夕で出来るわけないでしょう。これだから、安易に力を得た者は‥‥」
「そうか‥‥すまなかったな、これで失礼する」
不機嫌にそう言う科学者は、何かエミタ能力者に対し不満でもあるのか、ぶつぶつと文句を続ける。その様子に、もう得るものは無いと早々に立ち去ろうとするホアキン。そんな彼に、科学者は憮然とした表情のままで、一つの機械を差し出した。
「‥‥ちょっと待ちなさい。これ、持って行きなさい」
「‥‥?」
「強力な電磁波で、一瞬だけ周囲のあらゆる電波を妨害する、電波爆弾よ。試作品で、これ一個しかないけど、もしかするとゾンビの動きを止めることができるかもしれないわ」
「‥‥すまない」
「‥‥たまたま有ったから渡しただけよ。こんな事してあげるのは今回だけだし、コレはあくまで試作品、過度な期待はしないようにね。それと使うときはなるべく電波の発生源の近くで使いなさい」
「ありがたく使わせてもらう」
そう言って、ホアキンは電波爆弾を起動し、大きな影へと向かって投げつけた。機械がピーと発動の音を発した瞬間。
「ゾンビの動きが止まりましたわ!」
「よっしゃ、突っ込むぜ!」
ゾンビ達が一斉に、力を失ったように動きを止める。その隙に、ミルファリアとジングルスが広間の先へと駆け出した。だが、ゾンビが止まったのも一瞬、すぐさま動き出したゾンビが二人を追う。
「やらせないッスよ!」
「不憫だな‥‥楽にしてやるよ」
それを、姫理と凛生が撃ち落とした。一度狙いをつけてしまえば、暗闇といえど彼らの射撃が外れることは無いようだ。
「ナーイスアシスト、ヒメリ!」
「助かりましたわ」
それぞれに賛辞を贈りながら、巨大な影に迫る二人。
「なんだコリャ!?」
「木‥‥のようですわね」
そこにあったのは巨大な木で、根っこの部分が触手のようにウネウネと動いている。
「ゾンビを動かす種子と、それを操る巨木。恐らくこれが本体だろう」
二人に追いついたホアキンの言葉に、ジングルスとミルファリアも頷く。そして、三人は一斉に攻撃を繰り出した。
「土へと還れ!」
「折れろ、クソ木が!」
「これで終わりですわ!」
ホアキンの鉄鞭から電撃が発せられ、ジングルスの爪が幹を切り裂き、ミルファリアのパラソルが突き刺さった。それらの攻撃を受けて、大木はあっさりと折れ、根っこの動きも止まった。それと同時に、ゾンビ達の動きも完全に止まる。どうやら、ゾンビの守りがある分、本体は耐久力が無かったようだ。
「作戦は終了だ。速やかに撤収するぞ」
「みんな可哀想ッス。せめてお墓だけでも‥‥」
「墓。作りたいんなら、手伝うケド。生きてる人間のケアも忘れんよーにナ?」
作戦の完了を確認し、ホアキンが撤収の指示を出す。姫理が通路のあちこちに倒れている死体達を見て悲しげに言うのを、ジングルスが諭すように軽く肩を叩くのだった。
「ふぅ‥‥どうやら洞窟班がやってくれたようですねぇ」
完全にゾンビに囲まれ、絶体絶命のピンチであったタケシ達だが、突然操り人形の糸が切れたように倒れこむゾンビ達の姿に、作戦が成功したことを悟った。
「みんな、ごめんな‥‥。せめてこれから安らかに眠ってくれ」
「主よ。死者に等しき安らぎを与えたまえ」
すでに動かなくなった死体達に冥福を祈る竜彦とサンディ。そして三人は、仲間達と合流し町をあとにする。こうして、ゾンビの徘徊する町の依頼は解決となるのだった。