●リプレイ本文
「イチゾー先生、久しぶりだね〜。相変わらず無理難題だね〜」
依頼を受けた際、ドクター・ウェスト(
ga0241)は依頼主の梶原一三にそう挨拶をした。科学者である彼は、以前に一三の行った講義を受けたことがあったのだ。
「なんじゃ貴様は、なれなれしい」
「あっれぇ? 我が輩をお忘れ?」
しかし、一三は訝しげにウェストを睨みつけ首を横に振る。その様子に、ウェストはガクッと肩を落とした。
「けひゃひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜」
「‥‥ああ、その笑い声。たしか、そんなボケたガキがおったなぁ。なんじゃ、あまりに頭がイカレてしもうて、傭兵まがいになったのか?」
「我が輩は活動的かつ、実践派の科学者なのだ〜! けひゃひゃひゃ!」
「研究者って、どうスてあんなに個性の強い人が多いんでしょうねぇ?」
ウェストの笑い声に、ようやく思い出したのか訝しげな視線はそのままに、小さく頷いた一三。そんな一三の憎まれ口に、ウェストは胸を張って誇らしげに笑う。そして、その様子を見ていた内藤新(
ga3460)が呆れたようにため息をついた。
「まぁよいわ、さっさとわしの研究材料を取ってこい」
「わかったよ、じゃあ檻を運ぼうかねぇ。それじゃ男のあんた達頼んだよ」
「なるほど、そうきますか」
「何故、我が輩の肩を掴むのだ〜!」
一三の言葉に、エクセレント秋那(
ga0027)が答え、ポンと新とウェストの肩を叩いた。
「か弱い女の子にこんな重たいもん持たせるきかい?」
「女の『子』には見えんが?」
「いや、突っ込むところはそこじゃないんでないすか?」
秋那の言葉に、ウェストが首を傾げる。そこへ、新がツッコミを入れた。まぁたしかに、元女子プロレスラーだという秋那の身体つきは筋骨隆々で、どうみても細身なサイエンティストのウェストと新よりも力はありそうだ。
「いやぁー人間より重いものを担いだ事なくてねぇ」
「あぎゃぎゃぎゃぎゃ! 肩が! 肩が〜〜〜〜!!」
「痛い痛い! わかりますた、持ちますから持ちますから!」
不満がありそうな二人に、秋那はニッコリ笑うと、肩に置いた手を握り締める。すごい握力に肩を掴まれたウェストと新は、苦悶の叫びをあげながら、檻を運ぶのを承諾するしかなかった。
「うう‥‥何故我が輩がこんなことを‥‥」
「女って怖いですね‥‥」
「くそ、家庭用反重力ユニットが完成していれば、こんなもの」
「それって、ノーベル賞ものですよね」
そして、渋々と檻を運ぶ二人。本来大人四人で運ぶ檻も、サイエンティストといってもエミタ能力者であればなんとか二人で運べないことはない。痛む肩に心で涙を流し、二人は檻を運ぶのだった。
その後、一行は目的地である都市廃墟へと向かった。途中、捕獲に必要なものを購入し、用意を済ませた。
「ゴム前掛け意外と高価なのね」
「そう‥‥ね」
緋室 神音(
ga3576)の言葉に、クロード(
ga0179)が頷く。準備の中で、ゴム製の前掛けは支給された支度金の範疇を越えていたのだ。
「しかたないですよ、雨合羽で我慢しましょう」
そんな二人に、銀野 すばる(
ga0472)が前向きな笑顔を向ける。結局、その代わりにビニール製の雨合羽にしたのだ。
「そうだね〜、ほんとはネズミ退治の専門家、猫のトムさん用意したかったんだけど、3000円じゃあ買えなかったしね」
「それはいらないと思うわ」
「え〜!?」
すばるの言葉に、うんうんと頷く潮彩 ろまん(
ga3425)だが、神音の否定の言葉に心底驚いた様子であった。
「おしゃべりはそこまでだよ! 目的地が見えてきた! 先に言っておくがお前ら、アタシの足を引っ張ったら只じゃおかないよ」
そんな中、シェリー・ローズ(
ga3501)が警告するように厳しい言葉を放つ。派手な見た目どおり女王様気質のようで、命令口調が目立つ女性だ。道中でも率先して回りに指示を出していたが、自分もしっかりと仕事をするので特に苦情は出ていないようであった。
「それじゃ、予定通り罠係は落とし穴を、アタシ達はキメラの所在を確かめる」
やがて目的地へとついた一行は、車から降りてサンダーマウス捕獲作戦の準備を開始しようとするが。
「‥‥力仕事や‥‥単純労働は‥‥嫌いじゃない‥‥でも‥‥」
「ねぇ、これってどこ掘ればいいのかなぁ?」
クロードとろまんが街を見て困ったように首を傾げる。落とし穴を掘ってそこにキメラを追い込む予定だった一行だが、廃墟の道はしっかりとアスファルトで舗装されており、またビル街のため周囲の土台はコンクリートであった。たしかに、所々崩れていたりするが、穴を掘れるような場所は一見見当たらない。
「‥‥‥」
「けひゃひゃひゃ! いきなり作戦の変更を余儀なくされたなぁ〜!」
「やろうと思えば、アスファルトごとぶち抜いて穴作ってもいいんだけどねぇ」
「‥‥な、なぜ、そこで我が輩の肩を掴むのだ」
けたたましく笑うウェストに、秋那がニヤリと笑って肩を掴む。その手に、ウェストはビクッと身体を震わすのだった。
「少し非効率ですね‥‥。まぁ、とりあえず、キメラを探しませんか」
「うんそうだね、相手がどこにいるかわからないうちに罠を作っても、引っ掛けにくいし」
「行こう! 行こう! 早くサンダーマウス見たいなぁ、きっと可愛いに違いない!」
神音の意見に、すばるが同意し、ろまんが楽しそうに飛び跳ねた。そして、一行は都市廃墟へとサンダーマウスを探しに向かうのだった。
「いた‥‥」
それから、日も暮れはじめたころ。崩れたビルの一角で、すばる達は大型犬ほどの大きさの黄色いネズミを発見した。薄暗い部屋の隅で、丸い目が光を反射している。
「ほほう、なるほど。こりゃでかい。ネズミというよりは小さ目のイノススの様な大きさですね」
「可愛くない‥‥こんな位で可愛いの期待してたのに酷いよ。それに、博士のネーミングセンスもないよね、あれじゃあ色以外はどう見てもライ‥‥えっ、こっちもこれ以上は駄目?」
その姿に、興味深そうに呟く新と、なにやら不満げな表情を浮かべるすばる。なにが駄目なのかは推して知るべし。
「デフォルメしてヌイグルミにしても人気は‥‥でないかな」
神音もなんとなく残念そうだ。
「どうします? 一匹ならあたし達だけで捕まえても‥‥っ!?」
すばるがそう言いかけたとき、部屋の隅で大人しくしていたサンダーマウスがこちらに気づいたようにビクッとその身を震わせた。そして、気づけば暗がりにいくつもの光る玉が‥‥。
「キシャアアアア!!」
「鳴き声も可愛くない〜」
「そんなこと言ってる場合じゃないって! 逃げよう!」
狂暴そうな鳴き声と共に、歯をむき出しにして威嚇するサンダーマウス、それに呼応するように多くのキメララットがすばる達に襲いかかろうとする。いまだに不満そうな表情を見せているろまんの手を引っ張り、すばる達は慌ててその場を逃げ出すことにした。
その晩、キメラの生息場所を確定した一行は、捕獲の作戦を立てる。
「じゃあ、餌で誘き寄せて檻に捕まえると」
結局、落とし穴は非効率ということで、持ってきたチーズやハムでネズミを誘き寄せて捕まえる作戦に決まり。次の日に準備と作戦を決行することになった。その後、野宿し就寝となったのだが。
「‥‥何か来る。我が輩の知覚力に間違いはない」
「みんな起きて、なんかやばいもんが近づいてきてる」
深夜、かすかに聞こえてくる複数の足音。いち早く気づいたウェストと新が、仲間達を起こし警戒を呼びかける。やがて、一行の周りに複数の光る目が。
「‥‥囲まれた」
クロードの言う通り、一行は複数のキメララットに囲まれていた。威嚇の鳴き声が、静かな廃墟に響き渡る。
「まさか、向こうからくるなんてねぇ」
「全員油断するじゃないよ。奴ら一匹自体はたいした事無い、だが囲まれ無いようにしな!」
「もう囲まれてるけどね〜」
秋那がニヤリと笑みを浮かべ、雰囲気が変わる。シェリーもその身体に黒いオーラのようなものを漂わせ、刀を抜き放った。ろまんは軽口を言いながら、覚醒し長く伸びて三つ編みにまとまった髪に、キュッと黄色いリボンを巻きつける。
「あ〜あ、結局戦うことになっちゃったか」
メタルナックルを手に装備しながら、靴のつま先をトントンと地面に叩きつけるすばる。その瞳は、金色に変わり、拳は螺旋状の光に包まれている。
「予定外の戦闘‥‥けれど負けはしない。アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
「手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に‥‥。兵法『窮修流』丸目蔵人、参る!」
美しい虹色の翼を浮かび上がらせ、神音が刀を構える。同じく、独特の四角い瞳でキメラを睨みつけ、刀身が淡く光る刀『蛍火』を構えたクロード。そして、臨戦態勢に入った一行は、自分達を取り囲んだキメララットの群れとの戦闘を開始するのだった。
「ふぅ、なんとか追い払ったね」
激しい戦闘の後、すばるは息をついて汗を拭った。思わぬ奇襲であったが、一行はなんとかキメラ達を追い払った。しかし、彼らも少なからずダメージを受けてしまった。
「けひゃひゃ! 傷を治してやろう、我が輩に感謝するのだな〜」
「はいはい、ありがとさん。しかし、まさか奇襲されるとはね」
「ここは、キメラが巣くう競合地域だもの。警戒はしておくべきだったわね」
ウェストと新が、超機械で一同の傷を治す。秋那は苦笑を浮かべて、奇襲されたことに肩を竦めた。神音は冷静に呟き、周囲を見渡した。
「でんも結局、サンダーマウスは現れなかったな。やっぱり、直接やつの居るところに行って、誘い出さないとならないか」
先ほどの戦いに、目的のキメラがいなかったことに、新が小さくため息をつく。
「いいさ、薄汚い鼠どもに、たっぷりお仕置きをしてあげるから」
「それはいいけど、サンダーマウスまで倒さないでね〜。弱らせて状態異常にして捕まえるのが基本だけどさ♪」
まだ戦いの余韻が残っているのか、シェリーは舌なめずりして笑みを浮かべる。ろまんは、そんなシェリーに笑みを浮かべて声をかけた。
「ともかく、今日は休みましょう。一応見張りは立てておいたほうがいいわね」
「‥‥私がする‥‥皆は寝ていていい‥‥」
「こういうのは交代制って相場が決まってるんだよ!」
神音の提案に、クロードが見張りに立つと答える。だが、シェリーはピシャリと言い放つと、見張りの順番を決めるのだった。そして、その後は何事も無く夜が明ける。
「さ、これでよしだね〜」
次の日、昨日サンダーマウスのいたビルの入口付近に檻をセットした一行。ウェストが、檻の中にハムを仕掛け、シートをかぶせてカモフラージュした。
「こっちも準備OKだよ」
そう言ったろまんの背中にはチーズが紐でぶら下がっており、どうやらそれがキメラを誘き寄せる餌のようであった。
「むしろ、キメラにとってはろまん君が餌なのかもしれないがね〜」
「大丈夫、そう簡単には捕まらないから」
「じゃあ、そろそろ始めるわよ。行くよお前達!」
ウェストの言葉に、自信満々で答えるろまん。そして、シェリーの掛け声に、一行は静かに頷いた。
「鬼さんこっちら、手のなるほうへ〜!」
「そっちに行ったぞ、誰か止めろ!」
「おっと、こっちにはいかせないよ!」
「ピー! ピー!」
昨日と同じようなところに潜んでいたサンダーマウスを見つけた一行は、檻へと追い込む作戦を開始した。ろまんが囮になりつつ、新や秋那、クロードが呼笛などを使いルートをそれないように誘導する。
「邪魔なやつらはアタシらがお仕置きしてやるよ!」
シェリー、すばる、神音は目標のサンダーマウス以外を排除する役割。一緒に襲い掛かってくるキメララットや、他のサンダーマウスを打ち倒し追い払う。シェリーは言葉のわりに冷静に状況を判断し、陣形などを指示しながら仲間と連携を取る。
「抉る様に打つべし打つべし打つべし!」
「悪いけど、他のキメラは邪魔なの」
すばるが捻りこむように拳をキメラに打ち付ける。急所付きの効果もあり、その威力は強力、邪魔なキメラを昏倒させる。神音も、素早い動きでイニシアチブを取ると、敵の動きを読み回り込むように刀で切りつけてキメラを排除する。
「まずい、雷撃が来る!」
そんな中、ろまんを追いかけていたサンダーマウスが、その身を放電させ始めた。新がいち早く気づき、周囲に警告を発する。
「ひゃひゃひゃ! いまこそ我が輩の開発した特製アースを使うとき!」
そういってウェストが取り出したのは、二つの鉄の棒を銅線で結んだアース、らしきもの。それを、放電しているサンダーマウスに当てようと近づくと。
「ぐはぁ! 体当たりは想定外! あだだだだだ! し、しかも、感電した〜!」
電撃での攻撃ではなく、直接体当たりしてきたサンダーマウスに吹き飛ばされるウェスト。しかも、アースを手放して、放電するキメラに感電する。
「なにやってんだい!」
急いで秋那が雷耐性のジャングルブーツでキメラを蹴飛ばして、なんとか事なきを得る。その後も、何度かハプニングに遭いながら、サンダーマウスを檻へと追い立てる一行。
「見えてきた! よし、いまだジャーンプ!」
サンダーマウスに追いかけられるろまん。ようやく、設置した檻が見える。ろまんは、檻の直前まで走りこむと、檻の上を跳び箱のように華麗にジャンプした。そして、ろまんを追いかけてきたサンダーマウスは、そのままの勢いで檻の中へと突っ込んでしまう。
「よし、キメラゲットだよ!」
ガシャンと檻の扉が閉まり、サンダーマウスは檻へと閉じ込められた。色々と予定外のことが続いたが、一行はなんとかサンダーマウスを捕らえることに成功したのだった。
「まったく、もう少し生きのいい奴を捕獲できんかったか? まあいい、報酬は払ってやろう。もうお前達にようはない、研究の邪魔じゃ、さっさと帰れ」
その後、サンダーラットを一三のもとへと輸送した一行。与えたダメージや、輸送の際の状態で少し弱ってしまったラットに文句をつける一三だが、依頼は達成ということになった。ちなみに、輸送の時にウェストのアースが少しだけ役に立ったとか立たなかったとか。