タイトル:嵐の鷹 討伐マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/20 17:44

●オープニング本文


 北米某所、豪華な部屋の一室で優雅に葉巻を燻らせる初老の男が一人。
「失態だなデューイ。偵察任務で間違った情報を持ち帰り、結果我らに損害が出ることとなった‥‥」
「はっ‥‥申しわけ‥‥ありません。まんまと、人間どもにしてやられました」
 男の視線の先には、畏まった様に立つ若い男。デューイと呼ばれた若い男は、初老の男の叱責に身を縮ませた。彼は先のロサンゼルスでの戦いで、強行偵察の任務にて敵戦力の誤った情報を報告してしまうこととなった。それが直接、バグア新鋭機の被害に繋がったわけではないが、人間側の作戦にまんまと引っかかってしまったことは失態以外の何物でもない。
「ふん、貴様は驕りが過ぎる。そんなだから、あの男にも逃げられるのだ」
「‥‥‥」
 あの男とは、一度はバグアによって連れ去られ改造手術を受けさせられるも、洗脳を受ける前に脱走し、バグアへの復讐に燃える男マサキ・ジョーンズ。そして、この二人は、その父と兄、KV開発に携わる科学者ジョーンズ博士とその息子デューイである。会話からして、二人はすでにバグア側の人間であり、親子というより上司と部下といった立場のように見えた。
「貴様には当分の間、謹慎を申し渡す」
「くっ‥‥わかりました」
「その間、あの娘の世話でもしておれ」
「あの娘ですか‥‥デューイの妹‥‥」
「そうだ。お前の持つ知識を、しっかりと教え込んでおけ」
 ジョーンズ博士に指示を受けながら、デューイはいぶかしげに表情を歪める。デューイとマサキの妹、アイリーンはバグアの庇護の下で可能な限り不自由の無い生活を送らされていた。
「‥‥博士は、なぜあの娘をあのまま生かしておき、あまつさえ教育しているのですか?」
「あの娘には、親から受け継いだ才がある。この身体が限界に達したとき、ちょうど良いヨリシロとなるだろう」
「なるほど、ストックというわけですか‥‥では、あの娘の指導をしてまいります」
 ジョーンズ博士の答えに納得したように頷き、デューイは静かに部屋を後にした。
「あの男さえ戻ってくれば、このような手間は必要なかったのだがな‥‥」
 デューイが立ち去った後、ジョーンズ博士は葉巻の煙を吐き出しながらそうつぶやくのであった。

 北米にある小さな孤児院。玄関の呼び鈴が鳴り、一人の少女が扉を開けた。
「はい、どなたでしょうか?」
「シェリー、久しぶりだな」
「‥‥!?」
 扉の先には、黒髪の若い男が立っており、少女に親しげな笑みを浮かべた。少女シェリルはその姿に驚きの表情を浮かべ、呆然としながら青年の顔を見つめる。
「どうした? 俺のこと、忘れてしまったか?」
「‥‥‥」
「困ったな。たしかに、あまり良い思い出といったわけじゃないだろうけど‥‥」
「マ、マサキさん‥‥」
「あ、良かった。一応、覚えていてくれたんだ。あの時は本当に世話になって‥‥」
「マサキさん!!」
 気を取り戻した様子のシェリルは、喜びの余り青年に抱きつく‥‥と思いきや、思いっきり張り手を食らわせた。パーン! と小気味の良い音を立てて、青年の顔が横に張り倒される。
「シェ、シェリー‥‥?」
「いままで、連絡も無くどこをほっつき歩いてたんですか!!」
「え、いや、その‥‥ごめん?」
「ごめんじゃありません! みんながどれほど心配したか! ずっと‥‥ずっと帰ってくるのを待ってたのに‥‥もうここは、あなたの家なのに‥‥う、うぅ‥‥」
「ごめん‥‥そして、ありがとう。こんな俺を待っていてくれて」
「あ、マサキ兄ちゃんだー!」
「マサキ兄ちゃんが帰ってきたぞー!」
「あー! マサキ兄ちゃんがシェリー姉ちゃんを泣かしたー!」
 怒ったように捲くし立てるシェリルに、マサキは困ったように苦笑するが、シェリルが声を静めて泣き出すと、優しい笑みでシェリルを抱きしめる。いつしかその周りには、孤児院の子供たちが集まり、マサキの帰還に騒ぎ立てるのであった。
「そうか、院長先生は‥‥」
「はい、二ヶ月前に静かにお眠りになられました」
「本当に悪い。もっと早くに訪れていれば」
「いえ、それはもういいんです。院長先生もマサキさんが無事に戻られて喜んでいると思います」
 少したって落ち着いた後、マサキは孤児院の院長が亡くなったことをシェリルから伝えられる。バグアから脱走した後、瀕死となったマサキを助けてくれたのが、シェリルとこの孤児院であった。世話になった院長先生の訃報に、マサキは表情を曇らせるが、シェリルは気丈に笑って首を横に振った。
「しかし、それだったら孤児院の維持はどうしてる? 孤児院の最年長は君だけだ。院長先生が亡くなって、色々大変だろう?」
「ううん、院長先生が動けなくなられてからは、ずっと私がやってきたから大丈夫です」
「だが、お金の問題とか、君一人だけじゃどうにもならないことがあるだろう。少ないが、俺のツテで何とか‥‥」
「え? お金はマサキさんが送ってくださってるから大丈夫ですけど?」
「は‥‥? 俺が?」
 マサキはなんとか孤児院の力になれないかと申し出るが、シェリルの意外な言葉に、目を丸くする。
「はい、ミハエルさんという方から、マサキさんのお仕事の報酬を孤児院にって。それと、マサキさんの近況の報告などもしてもらってます。一時はどうなるかと思ってましたが、マサキさんが元気そうで、みんな喜んでるんですよ」
「‥‥あの狸が〜!」
「狸?」
「いや、それならばいいんだ」
「でも、余り危険なことはしないでください。それと、できればこれからはもう少しここにも顔を見せてください。ここはもうあなたの家なんですから」
「‥‥わかった」
 シェリルの答えに、マサキはニヤニヤと笑みを浮かべるいけ好かない男を思い浮かべて拳を握り締めた。しかし、シェリルの言葉に優しげな笑みを浮かべてゆっくりと頷くのであった。

「はっくしょん!」
「あら少佐、風邪ですか?」
「うーん、誰かが噂でもしているのかな?」
「なら、悪い噂でしょうね。腹黒い誰かさんに良い噂が立つわけありませんから」
「ひどいなぁ。僕はいつだって良い事しかしていないというのに」
 UPCの士官室、くしゃみをするミハエル少佐に、アンナ中尉は辛らつな言葉を返す。
「それで、今回の任務はこれですか。大型キメラの退治‥‥まさかまた、ミミズやナメクジじゃないでしょうね‥‥?」
「いやいや、わざわざ君の苦手なキメラをあてがったりはしないよ」
「しらじらしい‥‥」
「ちょっとやっかいなキメラでね。ほら、ファンタジーとかでよく出てくるだろう。巨大な空飛ぶトカゲ‥‥いわゆるドラゴンってやつだね」
 どうやら、次の嵐の鷹の相手は、ファンタジーの王道ドラゴンのようであった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
御門 砕斗(gb1876
18歳・♂・DG
七市 一信(gb5015
26歳・♂・HD
アリステア・ラムゼイ(gb6304
19歳・♂・ER
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER

●リプレイ本文

「これより作戦地域に入る。全員気を引き締めて、任務に当たること」
 依頼を受けた能力者達は、アンナ中尉の指揮の下、廃墟となった町へと向かった。そこは、かつては近代的な町並みがあったであろう場所だが、バグアの襲撃により破壊され見る影も無くなっていた。辺りは建物が崩れ瓦礫と化しており、道も荒れ果てて車での通行不能、生き物の気配も無く完全な廃墟である。
「事前の報告によれば、ドラゴンは現在どこかへと飛び立っているはずだ。いまのうちに巣を発見し、攻撃の準備を整える。その後ドラゴンが戻って巣で休むのを待ち、包囲強襲を行う」
「了解、出来れば奴が巣で休んでいる所を狙いたいからな」
「確か結成初仕事も翼竜退治でしたよね。この調子だと『嵐の鷹は竜殺し部隊』とかいう評判で知られるようになるかもですね」
 アンナの指示に、白鐘剣一郎(ga0184)が頷き、新条 拓那(ga1294)は以前に部隊が結成されたとき戦ったワイバーンを思い出して苦笑した。
「やれやれ、ドラゴン退治とは骨の折れる事だこって。ああでも、ニーベルングの指環にもドラゴン退治はでてきたな」
「赤竜の民の末裔がキメラとはいえ赤竜退治‥‥縁起がいいのか悪いのか‥‥」
 ドラゴンと聞いて御門 砕斗(gb1876)は面倒そうに肩をすくめて首を振りながらも、祖父母の故郷で有名なオペラを思い浮かべ。アリステア・ラムゼイ(gb6304)は出身地の伝承を思い出しては複雑な表情を浮かべる。
「‥‥ドラゴンか。また闘えるとはな。それに、アンタと一緒になるとはな。ま、宜しく頼むぜ」
「こっちこそ、期待している」
 以前にもドラゴンタイプのキメラと戦い『ドラゴンキラー』の称号を得たブレイズ・S・イーグル(ga7498)が、戦友である剣一郎に声をかける。剣一郎もそれに応え頷き返した。
「それにしても、お前達のその格好はなんとかならないのか‥‥」
「このパンダの被り物だけは簡便してー!」
「がっはっはっ! この肉体は、隠そうと思っても隠すことができないのですよ!」
 そんななか、アンナ中尉が困ったように眉を顰めて見る先には、軍服姿でパンダの被り物をつけている七市 一信(gb5015)と胸元の筋肉を露出するゼンラー(gb8572)の姿が。仮とはいえ、UPC傭兵特殊部隊『S.T.O.R.M. Hawks』へ入隊した二人に、軍人としての身だしなみを整えるよう言ったアンナだったが、二人にも譲れないものがあったので、軍服を着たうえでこのような格好になっていた。
「我が隊は傭兵部隊とはいえ、れっきとしたUPCの部隊なのだが‥‥。これでは色物部隊と笑われてしまうぞ‥‥はぁ‥‥」
「まぁまぁ、そんな気にしないで。スマイルスマイル♪」
「‥‥他の部隊との合同でないだけまだましか」
 アンナは、おどけてみせる一信にもう一度ため息をついて、改めて気を引き締めた。そして、斥候に出ていたリン=アスターナ(ga4615)が戻ってくる。
「待たせたわね。情報の通り、確かにあのビルの屋上に、巣のようなものがあったわ」
「そうか、ご苦労だったな。よし、全員配置につき、ドラゴンが巣に戻るまで見つからないように待機。その後、やつが休んでいるところを強襲し、これを撃滅せよ」
「了解!」
 リンの斥候により、事前の情報の通り、原型を止めているビルの中で一際高いビルの屋上にドラゴンの巣があることを確認し、アンナは作戦を開始することを指示する。そして、一行はドラゴンの巣へと潜入を開始するのであった。

『来たぞ‥‥全員、くれぐれも発見されないよう気配を隠すことに注意せよ』
 それから数時間後、彼方の空から大きな羽ばたきの音と共に巨大な影がビルへと降り立ってきた。トカゲのような長細いフォルムだが、その大きさは大型トラック以上で、その身体は炎のような真紅の鱗に包まれ、その背には膜が張られた大きな翼、長く伸びた首の先にある頭には鋭い牙が生え揃い人間をひと飲みにできそうなほどの大きな口があり、4本の両手両足には太く鋭利な爪が。まさしく、西洋で数々の伝承に謳われ、現代でも多くの物語で語られる幻想の生物、ドラゴンであった。
「‥‥‥」
 ドラゴンが巣に戻り、周囲を警戒する中、一行は身を隠して息を潜めながら待つ。緊張のために数分が数時間とも感じられる長い時間、やがてドラゴンの動きは緩慢となり、その呼吸が穏やかなものへと変わっていった。
「よし、ドラゴンが休んだ。行きましょう」
 その様子を双眼鏡で確認していたリンが、仲間に手招き。全員がドラゴンを囲むように巣のある階層へと潜入する。ドラゴンはどこからか持ってきた車や家電製品を積み上げた土台の上で休んでおり、その土台こそが巣なのであろう。
「全員、音を立てるなよ」
 声を抑えて仲間へと指示する剣一郎。一行はドラゴンが起きないように、音を立てぬよう慎重に歩を進めていく‥‥。
「‥‥!!」
 しかし、たくさんの瓦礫が散らばった部屋に三台もAU−KVが入れば、バイク形態とはいえさすがに音を立てないようにするというのは無理があった。踏んだ瓦礫がミシっと音を立て、その音に反応してドラゴンの瞳が開かれる。
「でっかァ‥‥! こんくらいでかかったらそりゃ暴れまわりたくもなるよねぃ」
「ドラゴンが目覚めた! 全員、攻撃開始!」
「寝込みは襲えなかったが、意表を突くことはできた。一気に叩き込むわよ」
 身体を起こそうとするドラゴンに、ゼンラーが思わずつぶやいた。そしてその動向に、すぐさま攻撃指示を出す剣一郎。リン達は準備しておいた銃器を構え、ドラゴンの翼に向かって攻撃を開始した。まずは相手の飛行能力を無くす作戦である。しかし、射撃が翼に命中する瞬間、赤い壁のようなものがはっきりと見え、その攻撃を阻んだ。
「フィールドか!」
 どうやら、このドラゴンは通常よりも強固なフォースフィールドを持っているようで、一行の攻撃は本来の威力を発揮できないようである。たしかに、攻撃はフィールドを撃ちぬき命中したが、ダメージは抑えられているようであった。
「ギシャアアアアアアアア!!!」
「っ! なんて声だ!」
 寝起きに突然攻撃を受けて、ドラゴンが咆哮をあげる。鼓膜を破りかねない大声に、一行は思わず耳を押さえた。その隙に、ドラゴンが態勢を整え始める。
「拙僧、玉ァ投げちゃうぞ!! ‥‥3! 2! 1!!」
 そこへ、ゼンラーが支給されていた閃光手榴弾を合図と共に投擲。あたり一帯がまばゆい光に包まれた。ドラゴンは目を晦ましたらしく、一行に向けていた頭を空へと逸らす。
「‥‥!!」
 まさにその瞬間、ドラゴンの口から光線のような赤い光が放出された。光線は頭を逸らす軌道に沿って周囲を薙ぎ、空を切り裂く。そして、光線が抜けたあとは、熱気と何かが焼け焦げた臭いが残った。
「くそ、マジか! 壁が吹っ飛んだぞ!」
「自分の巣もお構いなしだな」
 悪態をつく拓那と砕斗。周囲を見渡せば、光線の当たった場所はコンクリートの壁が吹き飛び、焼け焦げた跡が残っている。それだけで、威力は十分に理解できた。
「これも宿命ってか‥‥! 今回もあの世に送ってやる!」
「ミカエルの装着完了! バグアの尖兵が赤竜の姿なんてね‥‥断じて許すわけにはいかない。お前らには災厄をもたらしたという黒竜がお似合いだ!」
 そんな中、ブレイズはドラゴンの攻撃力を意に介さず、大剣を構えて突っ込む。そしてアリステアが、美しい騎士の甲冑のようなAU−KVを身に纏いそれに続いた。
「シャアア!!」
「逃がすかっての! 翼一つ‥‥もらうぞっ!」
「っ!」
 だが、一気に近づいた二人の攻撃がドラゴンの翼へと繰り出されようとそのとき、突然ドラゴンは翼をはためかせる。その大きな翼が起こした風は、強い風圧となって二人を襲い身体を押し戻した。
「く、飛ばれるぞ!」
 吹き荒れる暴風で、一行は攻撃するチャンスを失う。リン達が射撃で追撃するが、風圧のせいで狙いが定まらず、決定的なダメージは与えることができない。そのうちにドラゴンは、その巨体を宙へと浮き上がらせ、その鎌首をもたげる。
『全員! その場から退避! 退避!!』
「間に合え!!」
 その様子を、少し離れた場所から確認していたアンナが、全員に無線で叫んだ。そこに剣一郎が自分用に持ってきていた閃光手榴弾をドラゴンへと向かって思い切り投擲。その直後、飛び上がったドラゴンから再び光線が放たれた‥‥。

『全員無事か!? 返事をしろ!』
 轟音と共に、ドラゴンのブレスがビルを撃ち抜いた。凄まじい衝撃が一行を襲い、一瞬お互いの所在を見失う。そんな中、アンナの安否を確かめる無線が響き渡った。
「俺は無事だよ! ったく、あんな図体でよくも飛んだりはねたり出来るもんだ。ちょっとは大人しく地に足をつけてろって言うんだよ。オマケにかってーし、やりにくいったら!」
「私も退避が間に合った」
「相変わらず、やっかいな相手だ‥‥」
「パンダさんも無事だよー」
「拙僧も無事だぞぉ」
「こちら御門、無事だ。ジークフリートのようには行かないか、面倒なことだぜ」
「こちらラムゼイ! なんともない!」
 拓那、リン、ブレイズ、一信、ゼンラー、砕斗、アリステアと次々に返事が返ってくる。しかし、剣一郎からの返事が無い。閃光手榴弾を投げたときに、退避が遅れたのか。
『白鐘! おい、白鐘、返事をしろ!』
「‥‥こちら白鐘。なんとか生きてる」
 アンナの必死の呼びかけに、崩れた瓦礫の下から剣一郎が起き上がり、返事を返した。どうやら避けそこなってダメージは受けたが、盾により直撃は免れたようだ。
「ほい、治療治療‥‥! ったく、見た目に違わず、さすがにタフだねぃ‥‥!」
「すまない、それでドラゴンは?」
「上空を旋廻している。アンタの目晦ましのおかげで、追撃は免れたようだ」
 ゼンラーの練成治療を受けながら剣一郎は状況を確認する。どうやらブレイズの言うとおり、ドラゴンは上空を旋廻しながら目晦ましが直るのを待っているようであった。
「このまま、この狭い場所に固まっていては危険だ。全員、周囲に散らばり、遊撃戦に入るぞ!」
 状況を確認した剣一郎の指示。全員は頷くと、巣のあったビルから脱出し、各自がドラゴンを狙える場所へと移動する。
「準備はいいかい、いっくよお? パンダさんから悪い子に弾丸の雨霰をプレゼントだよーん!」
「グォォォ!」
 広い場所へと出た一信が、ガトリング砲でドラゴンを狙い打つ。嵐のように張り巡らされる弾幕に、ドラゴンが怒りの咆哮をあげる。続けて、拓那、リン達も各々の射撃武器でドラゴンの翼にダメージを与えていった。
「ここからならば‥‥」
「今度こそ、確実に叩き落す!」
 そこへ、別のビルの屋上へと上った砕斗とアリステアが、ドラゴンに向かって勢いよくジャンプ。翼を鋭く斬り付けると、反対側のビルへと着地した。さすがにこれには、ドラゴンも飛行態勢を崩し、滑空するように高度を下げていく。
「ソニックブームを受けろ!」
「天都神影流、虚空閃・波斬!」
「ギュアアアアア!!」
 高度が下がるのを狙っていたブレイズと剣一郎は、その剣に錬力を込め、衝撃波を放った。二人の強力な一撃に、ついにドラゴンの翼は折れ、瓦礫の山へと墜落する。
「グルルルルル!」
「悪いドラゴンは勇者ご一行に退治されるまでが役目なのさ! それが分かったらいい加減ご退場願おうか」
 地上に落ちたドラゴンを取り囲む一行。威嚇するように唸り声をあげるドラゴンに、拓那は持ち替えた大剣をかざしてみせた。
「さて、ここからが本領発揮だ。地上にいれば、単なるでかいトカゲだろ」
 砕斗は刀を鞘に収めたまま居合いの構えを取り、ドラゴンに向かってAU−KVを加速した。それに合わせ、他の者達もドラゴンへの攻撃を開始する。
「遅い、鈍いっ!」
 砕斗は口を開け噛み付いてこようとするドラゴンを素早く避け、巨体を支える足へと居合い抜きを繰り出した。ドラゴンの鱗は硬く、フォースフィールドは強固であるが、それを意に介さずAU−KVでの拳や蹴りを織り交ぜた連続攻撃でダメージを与えていく。
「鱗が硬くても、その中身はそうでもないでしょう? 傷のついた場所に繰り返し攻撃を行えばどう?」
 リンも武器をナイフとショットガンに持ち替え、ドラゴンの足の腱を切るように攻撃を行う。そして、傷ついた場所をより深く傷つけるように執拗に何度もショットガンを撃ち込んだ。
「グルァァアア!」
「みんな、尻尾に気をつけろ!」
 一行の足への集中攻撃に、ドラゴンの動きは鈍くなっていく。しかし、怒り狂ったドラゴンは闇雲に尻尾を振り回し始めた。少し離れて援護に徹していたゼンラーがいち早くその予兆に気づき、全員に警告を出す。ドラゴンの尻尾は、付近のビルの柱を軽くなぎ倒すほどの威力だが、ゼンラーの警告のおかげで致命傷を受けたものはいなかった。そうするうちに、ドラゴンが弱ってくるのが見て取れるようになる。
「‥‥さて、終わりにするか」
 そう言ったブレイズが、ドラゴンの至近距離まで近づき剣を横脇に構えると、渾身の力を剣に込める。
「貰った‥‥灰燼へ誘う炎獄の刃ッッ!」
 全身が赤いオーラに包まれたブレイズが、気合と共にドラゴンの胴体を水平に薙ぎ払った。長い大剣だけでなく剣から生まれた衝撃波が、太い胴体を切り裂く。それに続き、剣一郎がドラゴンの正面から、紅蓮の衝撃波を叩き込んだ。
「‥‥天都神影流『奥義』断空牙」
「ギギャアアアアア!!」
 攻撃後、刀を鞘に収め技名を呟く。と同時に、ドラゴンの胴体が裂けて鮮血が飛び散った。そして悲鳴をあげるドラゴン。だが致命傷を受けようとも、ドラゴンは再びブレスの態勢に入ろうとする。
「いい加減しぶといんだよ! これでどうだ!」
「ドラゴンの出番はここで終わりだ。グラム、とはいかないがな!」
 しかしその隙をついて、拓那と砕斗がドラゴンの背に飛び乗ると、拓那は首に大剣を突き刺し、砕斗は頭部へと機械剣の柄を押し当てレーザーを射出した。それにはさすがのドラゴンも絶命し、その巨体を地に伏すのであった。

「皆ご苦労。これで、ドラゴンの被害で活動に支障がでていた部隊も大丈夫だろう」
 ドラゴン討伐後、作戦の成功に対し一同にねぎらいの言葉をかけるアンナ。
「‥‥鱗とか装甲の代わりに使えそうな感じもするけど、キメラのだしなぁ‥‥」
「倒せばすこしゃ晴れると思ったけど‥‥そーもいかんね」
 ドラゴンの死骸を見上げながら呟くアリステア。赤竜の民の末裔として、それっぽい武装ができたらと思ったのかもしれない。それとは別に、終始物見を装っていた一信も何か思うところがあるように呟く。何はともあれ、『嵐の鷹』に新しい戦歴が加わるのだった。