タイトル:百鬼夜行 赤鬼青鬼マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/14 13:46

●オープニング本文


「またやつらが来たぞー! すぐに隠れるんだー!」
 物見台の上からそう叫ぶと共に、激しく鐘を鳴らす男性。それを聞いた者が、すぐさま機材のスイッチを押し、けたたましいほどのサイレンが町中に響き渡った。サイレンを聞いた人々は、すぐに今行っていた作業を止めると、取るものも取らずに建物から出て、誘導に従いながら安全な場所へと避難を開始する。この避難もすでに何度も繰り返されているもので、人々はパニックになることも無く、決められた通りに避難が終了した。
「くそ、またあいつらか。これで何十回目だ」
「それにしても、いつまでこんな生活を行わなければならないんだろう」
 だが、いくら慣れてきたとはいえ、人々からは不安が消えることは無い。キメラの襲撃に怯えながら暮らす生活は、精神的にも肉体的にも大変なものがあった。
「なぁ、聞いたか? なんでも、ようやくあいつらを退治するために、傭兵を雇うことに決まったそうだぜ」
「本当か!? じゃあ、これであいつらに怯える生活も終わりってことか?」
 そんな中で、避難所に集まった人々が、なにやら噂話を始めた。それに反応し、何人もの人が話に加わる。
「まったく遅すぎるぜ。なんでこう日本のお役所ってやつは、対応が遅いんだ?」
「まぁまぁ、でも良かったじゃねえか。これで平和が戻ってくるんだろ?」
「ばーか、宇宙人を完全におっぱらうまで、平和なんてこねーよ」
「つうか、本当に傭兵なんかであの化け物を退治できるのか?」
「さあな、でもその傭兵だって、普通の人間とは比べ物にならないぐらいの力をもったやつらなんだろ?」
「前に住んでたところで見たことあるぜ。自分よりもでかい剣を軽々とぶん回してるような、ある意味こっちも化け物みたいなやつらだったな」
「なるほどな。化け物には化け物をぶつけるか‥‥」
「そこ! 静かにしてください。あまり騒がれると、キメラに見つかってしまうかもしれません!」
「‥‥‥」
 話し声が騒がしくなってきたころ、避難所の所員の叱責で人々はシーンと静かになった。もし間違って、避難所が襲われることがあれば、被害を受けるのは自分達である。実際に助けが来るのはまだ先の話で、今の彼らはいつも通り息を潜めて、キメラが立ち去るのを待つしかなかった。
「本当に、能力者というのは何とかしてくれるのでしょうか?」
 人々が静かになるのを確認した後、所員は上司に小さな声で尋ねた。上司の男も正確なことはわからないといった表情であるが頷く。
「世界中で彼らは活躍していると聞く。きっと大丈夫だよ。あの鬼達をなんとかしてくれる」
 避難所の外からは、何者かの雄たけびのような声と、建物が破壊される音が微かに響いてきているのだった。

「グガァァァ!!」
 雄たけびの声と共に、二体のキメラが町へと入ってきた。その姿は、3メートル近い人の形をしており、その顔は釣りあがった目、シワの寄った額、歯をむき出しにした大きな口と、人が激しく怒り狂った形相に近いが、口には大きな牙があり、頭の上には三角錐状の大きな角が生えている。ほとんど全裸の男のようであるが、腰に虎模様の布を巻いており、その手にはゴツゴツと棘のついた大きな鉄鎚を持っていた。いわゆる、一般的に想像される鬼の姿をしているのだ。二体の肌は、赤いものと青いものがあり、赤いものは角が一本、青いものは角が二本ついていた。
「グルルァァ!」
 鬼達は、その手に持った鉄鎚で周囲の建物を破壊していく。その怪力はすさまじく、コンクリートで出来た建物が次々と叩き壊されていった。かろうじて、人々は避難をしていたが、彼らを止めるものは無く。ただ彼らが飽きるまで、破壊行為は続けられた。
「グルルルル‥‥」
 やがて、その行為に飽きたのか、二匹の鬼は再び来た道を戻り、山へと帰っていった。しかし、町の被害は甚大で、その修復には何ヶ月も要することになる。鬼達はこのような破壊行為を数日に一回は町にやってきて繰り返していた。このまま放っておけば、やがて町には人々が住む場所が無くなってしまうかもしれないのだった。

「日本のある町から、キメラを退治して欲しいとの依頼がありました」
 ULTにて依頼を受けた能力者達に、オペレーターが詳しい説明を行っている。
「どうやら、そのキメラの姿は、日本の民話に登場する『鬼』を模した姿をしているようです。能力もそれに合わせた力を持っていると予想され、注意が必要です。キメラは定期的に町へとやってきては、しばらく破壊行動を行って、山へと戻っていくそうです。ちょうど今から皆さんが町へと向かうぐらいに再び襲ってくると予想されており、皆さんは早急に町へと向かってこのキメラの退治を行ってください」
 どうやら能力者達はこれからすぐに町へと向かい、町付近でキメラを迎撃することになっているようだ。
「今回も恐らく、ここ最近頻繁に起きている、妖怪をモチーフにしたキメラの事件に関連するものだと思われます。なぜこうも続けて、妖怪をモチーフにしたキメラが現れるのか、もし何か判ったことがあれば、些細なことでも報告を行ってくださいね。それでは、皆さんよろしくお願いします」

・依頼内容
 鬼キメラの退治
・概要
 日本のある町に現れた、二匹の鬼キメラ『赤鬼』『青鬼』の退治を行う。
 現場到着後すぐにキメラの襲撃があると予想されており。すぐさま町付近での迎撃を行うことになる。ただし、町への被害は最小限に抑えること。
 今回の依頼に、UPCなどからの支援は行われない。必要物資は各自で用意を行うこと。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
神撫(gb0167
27歳・♂・AA
鬼非鬼 つー(gb0847
24歳・♂・PN
山崎・恵太郎(gb1902
20歳・♂・HD
ランディ・ランドルフ(gb2675
10歳・♂・HD
山下・美千子(gb7775
15歳・♀・AA
式守 桜花(gb8315
16歳・♀・FC

●リプレイ本文

「いました、あれですね!」
 一行がすぐさま現場へと向かうと、道の先に二つの人影が見えた。明らかに人間と比べて大きな身体、原色に染まった赤と青の肌、そして頭の上にははっきりと三角ツノが生えている。まさしくそれは、大きな金棒を持ち、虎のパンツを穿いた、民話や童話にでてくる『赤鬼』『青鬼』の姿であった。
「これって、どう見ても日本の昔話に出てくる日本の鬼だよな?」
「勘違いするな。あんなものは子供に分かり易く簡略化されたものだ。本来の鬼とはかけ離れている」
 その姿にランディ・ランドルフ(gb2675)が苦笑すると、自らを鬼と名乗る鬼非鬼 つー(gb0847)が少しムッとした口調で鬼キメラを否定する。
「ともかく、このままいけば町に被害が出てしまいます。作戦通り、囮を使って町から引き離し、二体を分断させて別々に退治しましょう」
「任せておいてくれ。上手くやつらを引き離すよ」
「僕は赤鬼ですよね。じゃあ、突撃するので後はよろしく! ランディ・ランドルフ! バハムート! 吶喊する!」
 綾野 断真(ga6621)の指示に囮役の山崎・恵太郎(gb1902)とランディが頷き、AU−KVを身に纏い鬼達のほうへと突撃した。
「まずは青鬼さん、こっちにおいでっと!」
「グァァァァ!」
 AU−KVを纏った二人が、鬼へと攻撃を仕掛ける。まずは、恵太郎が拳銃で青い肌の鬼へと発砲。その弾丸が鬼の身体に当たると、鬼は痛みよりも怒りをあらわにして恵太郎を睨みつけては大きく咆哮した。
「鋼鉄のごとき肌と聞いているが知覚系武装でぶった切るんだ。ビームコーティングカタナだとかビームサーベルとかじゃないから一瞬しかレーザーが出ないのが気に入らないが‥‥今はこれでやって見せる!」
「グルルルァァ!」
 青鬼が恵太郎に気を取られたところに、続けてランディが今度は赤い肌の鬼へとレーザーブレードで斬りつける。切りが浅かったのか、傷こそつかなかったが、腕を切りつけられて怒りの咆哮をあげる赤鬼は、ランディを睨みつけた。まさしく鬼の形相でそれぞれの相手を睨みつける赤鬼青鬼。それを確認した恵太郎とランディは、すぐさまAU−KVをバイク形態へと変化させると、それぞれが逆方向へと走り出した。二体の鬼は、それぞれが自分にちょっかいを出した相手しかみえてないかのように、猛烈な勢いで恵太郎とランディを追いかけだす。その結果、二体の距離はどんどんと離れていく。
「よし、二体の分断には成功したな」
「それでは、私達赤鬼班は交戦予定地へと向かいますね」
「ふむ、別に町が壊れても対して気にならんのだがね」
「そんなこと言わないで、早く行きましょう」
 囮役が先行するのを確認し、断真達は町から少し離れた交戦予定地へと向かう。悪ぶった鬼非鬼だが、式守 桜花(gb8315)に急かされるように一緒に向かうのだった。
「俺達も‥‥行こうか‥‥」
「はい! がんばるぞー!」
「急ぎましょう。山崎さんと離れすぎてしまいます」
 青鬼班である幡多野 克(ga0444)達も断真達とは逆方向へと向かって移動を開始する。山下・美千子(gb7775)が大きく手を上げて気合を入れた。そして神撫(gb0167)の言葉に頷くと、三人は全力で青鬼を追走するのであった。

「うぉ、思ったより足が速いぞ!」
 囮役として赤鬼を誘導しているランディが、バイクのサイドミラーで鬼がちゃんとついてきているか確かめると、赤鬼が猛ダッシュでランディに迫ってきていた。
「‥‥!? 消えた!!」
 しかし突然、赤鬼の姿がミラーから消えた。ランディは訝しげにどこへ行ったかと周囲を見渡す。と、そのとき、空に何かの影が‥‥。
「正面!!」
 影はランディを追い越すと、前方に着地する。どうやら、赤鬼は恐るべき跳躍力で、ランディを飛び越して前へと躍り出たのだ。ランディの前に立ちはだかる赤鬼。このままでは正面からぶつかってしまう。
「こんなとこで止まってられないだろ!!」
 だがランディは急ブレーキをかけるどころか、あえて加速を行った。その狙いは、前方にあった建物の瓦礫。ランディはその瓦礫を利用し、バイクごとジャンプした!
「‥‥っ!! どんなもんだ!!」
 上手い具合に瓦礫がジャンプ台となり、ランディのバイクは宙を飛ぶ。そして、赤鬼の頭を飛び越えると無事に着地した。そして、一瞬ランディを見失った赤鬼に、スロットルを鳴らして挑発すると、ランディは再び誘導を開始するのだった。
「よし、この辺りなら被害も出ることはないだろ」
 それから少しして、ランディは無事に交戦予定地へと赤鬼を誘導した。たどり着いたのは、町から少し離れた場所にある田畑。すでに使われなくなってから久しく、すっかりと荒れ果てている様子。
「さぁここからが本番だ! かかって来い!」
 AU−KVをバイク形態から再びアーマー形態へと変形させると、ランディは足を止めて赤鬼と対峙した。ランディがわざと迂回して仲間達が追いつけるようにしたおかげで、鬼非鬼達もすぐに追いつき、武器を構えて赤鬼を囲む。
「破壊活動ご苦労、と言いたいところだが貴様等には消えてもらう。貴様等はこれから何の手助けも受けずに、ただひたすら死ぬだけだ。どこまでもがき苦しむか、見せてもらおう。死ぬがよい」
「鬼の首、取らせてもらうよ」
「グルルァアア!!」
 自分がいつの間にか囲まれていることに苛立ちの咆哮をあげる赤鬼。そしてついに、鬼退治が始まるのだった。
「グルゥア!」
「そんな攻撃、牽制にもならないな」
 まず赤鬼が牽制に金棒を周囲に振り回す。しかし鬼非鬼は臆することなく赤鬼の懐に入り込むと、自分も金棒を振りかぶって叩きつける。それを赤鬼が金棒で辛うじて受けると、その一瞬には素早い足捌きで赤鬼の横へ移動し、ちょうど視界の死角になる場所へと潜り込むと再度攻撃を行った。
「グァァ!」
 あまりに早い一撃に赤鬼は攻撃を受け止めることも出来ず、鬼非鬼の金棒は赤鬼の足首、アキレス腱の辺りを打ち据えた。それにはさすがに、赤鬼も悲鳴のような声をあげる。
「ちっ、普通の生き物なら鍛えられないアキレス腱も、キメラは強化しているということか」
 しかし鬼非鬼は、酷く固いものを殴った感触に顔を顰め、思ったよりも効果が薄いことに舌打ちをした。
「硬そうな皮膚だね‥‥、少し手間取りそうだなぁ‥‥」
 桜花も赤鬼の注意が鬼非鬼に向いた隙を突いて、刀での攻撃を行う。
「迅雷!」
 一瞬のうちに赤鬼との距離を縮めて間合いに入ると、そのまま刀を赤鬼の腕へと斬りつける。
「‥‥っ!」
 しかし、あまりに硬い赤鬼の皮膚に、刀は弾かれてしまう。桜花は一瞬驚きの表情を浮かべるが、すぐさま気を引き締めた。
「弾かれた! だったらこれで! 円閃!」
「ガァ!」
 そして、弾かれた反動を逆に利用し、身体を回転させると遠心力の勢いのついた一撃を、もう一度腕へと叩き込む。その一撃は、皮膚を切り裂くことはできなかったが、衝撃は確かに赤鬼へのダメージとなったようだ。赤鬼は苦痛に顔を歪めて、闇雲に腕を振り払う。
「そんな攻撃には当たらないね。疾風!」
 それを桜花は冷静にバックステップで避け、再び攻撃するチャンスを見据えるのだった。
「戦いは順調のようですね」
 それらの戦いを少し離れた場所から援護している断真。彼は、気配を隠しながらライフルを構え、赤鬼の眉間に狙いを定めると引き金を引く。
「ヒット‥‥」
 ライフルから発射された弾丸は、正確に赤鬼の眉間に命中、赤鬼は頭部の衝撃に首を折る。しかし、弾丸は弾かれてしまい致命傷とはなっていないようだ。
「‥‥弾かれましたか、なかなか厄介なようですね」
 そうつぶやきながら、断真はすぐさま移動を開始する。同じ場所にいつまでも留まっていれば、いつ反撃を受けるかもしれないからだ。そして、位置を移動した断真は再び狙撃を行うのだった。

 一方青鬼班では。
「これは参ったね。ヘルメットでも被ってくるべきだったかな」
 囮役の恵太郎が青鬼の誘導を行っていたが、突然青鬼が周囲の瓦礫を投げ始めたために危険に晒されていた。空から降ってくる人の頭ほどの大きさの瓦礫を、上手くバイクを蛇行させながら回避し続ける恵太郎。そうこうするうちに、青鬼も業を煮やしたのか、再び恵太郎を追いかけ始める。しかし、追いかけながらも時折投げつけてくる瓦礫を、恵太郎は少し距離を取りながら確実に避けていくのであった。そしてやがて、広い空き地へとたどり着く。
「作戦の第一段階は完了。それじゃ、本格的に退治を始めるぞ」
 その空き地は、山間にある採石場跡だった。すでに採石は行われておらず、ここでならば町に被害を出さずに戦うことができた。恵太郎は自分を追いかけて採石場へと入ってくる青鬼を確認し、AU−KVをアーマー形態へと変形させる。
「‥‥相手に不足はない。存分に殴り合いといこうか」
「そう何度もバグアの好きなようにはさせないんだから!」
「もうここからは逃がしませんよ」
 先回りしていた克と美千子が青鬼を取り囲む。そして、町への道に神撫が立ちふさがった。そして、恵太郎は少し後ろに下がり援護に回り、克達が近接戦闘を開始する。
「波多野さん、左右から挟みましょう。俺は右から行きます」
「わかりました‥‥。鬼は隠‥‥この世に存在してはならないもの。その名の通り、ここで消えてもらう!」
「ギギャアアア!!」
 克は青鬼が間合いに入ると同時に鋭い刀の一撃を青鬼の足へと繰り出した。その一撃は、相手の弱所を正確に突き、硬い皮膚を切り裂いた。青鬼は苦痛に悲鳴を上げ、傷からは皮膚と同じ色の青い血が飛び散る。
「ここに留まってもらいますよ」
 続けて神撫も、両手に持った二刀の剣を振るい、同じく足の弱所を正確に斬りつける。紅蓮衝撃によって瞬間的に威力を上げた剣が青鬼の肉を切り裂き、青鬼は膝をついて苦しんだ。そこへ素早く近づく小さな影。
「いまがチャーンス! とぉ!」
 膝をついた青鬼の正面から突撃する美千子。そして、少し低くなった頭部へと向かって飛び上がる。
「なんてね!」
 そのまま攻撃するかと思いきや、バサッと大きなビーチパラソルを開いた美千子。青鬼はそれに対し、頭を腕で庇おうとするが、美千子はパラソルを目隠しにして青鬼の側面へと回ると、パラソルの柄に仕込まれた刀を抜き去りそのまま胴体を流し斬りする。ちょうど腕が上がって無防備になった脇腹に斬撃が叩き込まれ青鬼は苦痛の声を上げた。
「でも、硬いよこれ!」
 さすがにそれでも、硬い皮膚を裂くことはできなかったようで、美千子の手が少し痺れる。それを我慢しながら、美千子はすぐに青鬼の間合いから離れるよう移動し、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
「グルルァァ!」
 そうやって、着実にダメージを与えていく彼らだったが、突然青鬼が怒り狂ったように咆哮すると、地面に思い切り拳を叩きつけた。その威力はすさまじく、地面は爆発が起きたかのように土が舞い上がる。
「っ!? 目眩まし!!」
「まずい、下が‥‥っ!」
 そのため、近くに居た克達はまともに土煙を浴びてしまい、一瞬視界が遮られてしまう。そこへ、青鬼の金棒が横に払われ、回避し損ねた克と神撫が吹き飛ばされる。
「二人とも大丈夫!?」
「な、なんとか‥‥」
「くっ、やってくれるぜ」
 運良く間合いから外れていた美千子が克と神撫に声をかけ、二人は苦痛に顔を歪ませながらも立ち上がった。しかしそこへ、青鬼が手に持った大きな岩で追撃を行おうとする!
「っ!!」
 青鬼が岩を投げつける寸前、恵太郎の放った貫通弾が青鬼の腕を撃ち抜いた。腕を撃ち抜かれ、岩を取りこぼしてしまう青鬼。そして、落とした岩が青鬼の足の小指に落っこちた。
「ギャアアアア!!」
「あー、あれは痛いよな」
「うん、痛いね‥‥」
 さすがの青鬼もそれには悲鳴を上げる。実際はフォースフィールドによりたいしたダメージにはなっていないだろうが、足の小指は少しぶつけただけでも痛いものである。それを見ていた恵太郎と美千子は、自分の経験を思い出して頬を引き攣らせるのだった。
「これでどうだ!!」
 その後、何度か危険な攻撃を受けながらも、確実に青鬼を弱らせていく克達。そして、最後に克が紅蓮衝撃による一撃を縦一文字に叩き込み、ついに青鬼はその巨体を地に平伏すのであった。

 ちょうどその頃、赤鬼班も赤鬼の追い込みに入っていた。
「そんな飾り、貴様には分不相応だ」
「グギャアアアア!」
 鬼非鬼の全力の一撃が、赤鬼の脳天に命中する。それは赤鬼の頭から伸びた角を叩き折り、割れた額から赤い血が噴出した。
「やっぱり、弱い部分もあるみたいだね」
 悲鳴を上げて額を押さえる赤鬼の隙を突き、桜花は股の間へと刀を突き刺す。男であれば、心理的に躊躇してしまうその場所でさえ、非情なる桜花には関係ないようだ。度重なるダメージに、赤鬼すでにかなり弱ってきていた。
「これで止めっ‥‥なっ!!」
「シャアア!!」
 だがしかし、ランディが止めの一撃を加えようとした寸前、赤鬼は最後の力を振り絞るかのように、すごい勢いで周囲を薙ぎ払う。それにランディ達は吹き飛ばされ間合いを外された。そして、凄まじい跳躍によって一行の囲みを突破する。
「ちっ、タフさだけなら鬼並みと言えないことはない」
「っ! 逃がさない!!」
「まったく、しつこいぞ! お前らは街にくるんじゃねえ!」
 囲みを抜けた赤鬼は、一目散に逃げ出そうとした。しかしその方角は町へと向かう道。鬼非鬼達は急いで赤鬼を追いかけようとする。
「残念ながら、あなたに逃げ道はありません」
 そこへ援護に徹していた断真が、赤鬼の足の急所に強力な一撃を与える。それを受けて赤鬼は勢いのついたまま足をもつれさせて、盛大に転んでしまった。そしてそのまま、力尽きてしまうのであった。

 その後、一行は合流すると、二匹の鬼キメラを退治したことを町に報告した。町は歓喜に染まり、一行は英雄と喜ばれるのであった。
「キメラは人が恐怖する存在を模すことが多い、ね‥‥。いい趣味してるよ、まったく」
「なにはともあれ、町の人が喜んでくれて良かったな」
「ええ、それにみんな無事でなによりです」
 依頼の帰りに、鬼キメラの姿を思い出して苦々しく眉を顰める桜花。町と仲間の無事を喜ぶ恵太郎と神撫。
「それでも、鬼の恐怖は残る。お蔭様で酒が美味い」
「はは、理由はともかく、仕事の後の一杯は美味しいに限りますね」
 鬼非鬼と断真は、仕事の後の酒を酌み交わして笑みを浮かべる。
「依頼が成功して、嬉しいよう、美味しいよう〜」
「鬼退治‥‥か‥‥。桃太郎にでも‥‥なった気分‥‥。少しだけ‥‥ね‥‥」
「あ、僕にも一切れ分けてください!」
 そして、嬉し涙と共に買っておいたケーキを食べる美千子、それのご相伴に預かる克とランディであった。こうして、今回の依頼は成功となった。