●リプレイ本文
「ふ、ようやく迎撃が出てきたか、ずいぶんと悠長なものだな。もしくは、五大湖に戦力を集中してるために、こちらの防御がおろそかになっているのか‥‥。だとすれば、お粗末としか言い様が無いな」
緑の蛇が描かれたバグアのエース機のパイロットは、部下を率いて地球側の領空に侵入、彼らを迎撃に出た敵機がレーダーに映るとさげすむような表情でニヤリと笑みを浮かべた。
「部隊を二つに分ける。副隊長は3機を連れ迂回コースを取れ。残りはこのまま進み、私と共に敵の迎撃部隊を撃破、可能な限りの情報を収集せよ!」
パイロットの男は、部下に指示を出すと、機体を加速させて真っ直ぐ迎撃部隊へと突っ込んでいく。指示を受けた4機が離れ別コースを取り、残りはエース機の後に続いた。
「敵の数は‥‥6機か。こちらを偵察と思って侮っているのか、それともこれがやつらの限界なのか‥‥。ふっ、まぁいい、全滅させることに変わりはない」
レーダーに映った機影は6機、バグアの部隊よりも数は少なく、後方に別部隊が控えている様子も無い。男は敵の様子を鼻で笑い、迎撃部隊との距離を詰めていく。
『ガガガ‥‥ちっ! よりによってこんな時に』
『只でさえ数が足りないと言うのに厄介な‥‥』
その途中、明らかに迎撃部隊のものである通信を傍受、その内容に男はニヤリと笑みを浮かべる。
『ほらそこ、余計なことはしゃべらない。傍受されたらマズいでしょ』
「もう遅い。やはりやつらは戦力不足か。しかし、この通信は兵士としてはあまりにお粗末過ぎる‥‥偽装か‥‥?」
たしなめる声と共に、完全に切られる通信。男は先ほどの会話を分析しながらも、少し眉をひそめてつぶやいた。
「敵の機体は‥‥。正規軍にしてはずいぶんとばらばらな構成をしているな。なるほど、やつらは正規軍ではなく傭兵か。ならば先ほどの通信もうなずける。所詮は統制の取れていない烏合の衆よ」
そうするうちに、お互いに機体が目視できる距離まで近づく。迎撃部隊の構成を確認した男は、納得したような笑みを浮かべた。やがて武器の射程圏内となり、迎撃部隊のKVから一斉にミサイルが発射される。
「ふん、焦って攻撃してきたか。全機、攻撃開始、邪魔なミサイルごとやつらを殲滅せよ」
迎撃部隊の遠距離からのミサイル攻撃に余裕の笑みを浮かべ、男は部隊に指示を出す。それを受けバグアの部隊は攻撃を開始、一斉に放たれたビーム砲が飛来するミサイルを破壊しつつ迎撃部隊へと突き抜ける。破壊されたミサイルが盛大に爆発を起こし、視界が一瞬のうちに光に包まれた。そんな中、一機のKVがビームを回避し損ねて撃ちぬかれる。そして当たり所が悪かったのか、そのまま地上に落ちる前に爆散して跡形も無く消えてしまった。
『中尉!』
『くっ、隊長がやられた!』
「今のは敵部隊の隊長機か、脆いな。あの程度も避けられぬのでは、他の者も程度が知れるというものよ! 各機、このまま一気に殲滅せよ!」
再び聞こえる迎撃部隊の通信。どうやら落ちたのは隊長機であり、動揺する様子が聞いて取れる。男は嘲るような笑みを浮かべながら、動揺する敵部隊を一気に落とすため、機体を加速させて間合いを詰めるのだった。
「一番機ロストしました!」
UPC基地の司令室。出撃した部隊の状況を報告を聞きながら、ミハエルは柔らかい笑みを浮かべていた。
「ここまでは予定通りといったところだね。どうだいアンナ、敵に落とされた気分は?」
「戦闘中にふざけないでください。それと、ここでは軍人らしく、階級で呼び合うことになっているはずですよ、少佐?」
ミハエルは笑みを浮かべたまま、視線を先ほど撃墜報告があったはずのアンナへと向ける。その言葉に、ミハエルの横に立って控えているアンナは、真剣な表情を浮かべながら、ちらりとミハエルを睨み付けた。
「はは、ごめんごめん。しかしこれで敵さんは、こちらの力を侮ってくれるかな。『無人』のKVを撃墜したことで」
「どうでしょう。わざわざここまで強行偵察に来た部隊です。こちらが一機落とされたからといって、戦力を見誤るかどうか‥‥」
「といっても、彼らに落とされろとも言えないしねぇ」
「当たり前です! そもそも、無人機をわざと落とされるなどという作戦も、直前まで聞いてませんでしたよ!」
ミハエルの言葉に、改めて正面を向いて睨みつけ、怒ったように声を荒げるアンナ。その様子を、楽しそうに眺めながらミハエルは言葉を続ける。
「ああ、大丈夫。外観は最新鋭機だけれど、中身は廃棄寸前の旧式だから」
「そういうことを言っているのではありません! 予定にない作戦を組み込まれると、作戦全体に影響を‥‥!」
「まぁ、念には念を入れておくことに越したことはないでしょう? それに、あとは彼らに任せるしかないしね」
「‥‥わざと手加減して逃がせ、などという危険な任務。もし万が一のことがあれば‥‥」
「ま、所詮彼らは傭兵。失ったら、また補充すればいいことだしね」
「!!」
「そんな怖い顔で睨まないでよ。大丈夫、彼らはこの程度の任務、軽くこなしてくれるよ。そもそも、それだけの実力が無ければ、わざわざ特別傭兵部隊なんて作らないしね」
「‥‥‥」
ミハエルの本気とも冗談とも取れる言葉に、言葉を失うアンナだが、続く言葉に一瞬呆気に取られた表情を浮かべて、しぶしぶと姿勢を正して戦況を見守ることにする。
「兄さんの言葉は、本気か冗談かわからない。けれど、どうやら彼らの力を認め信頼しているようね‥‥」
「何か言ったかい?」
「いえなにも! ともかく、敵機も動きの良いのがいるようです。油断はできません」
周りに聞こえない程度の声でつぶやくアンナ。ミハエルの問いに否定し、敵のリーダー機を注意した。
「ああそうだね。それに、そろそろ迂回した部隊が敵の別働隊とぶつかるころだ。こちらは倒してしまっていいね」
「リン、聞こえるか? そちらに向かった敵の別働隊は倒してしまってかまわない。殲滅後は予定通り、敵本隊の追い込みに回れ!」
『了解、これより交戦を開始する』
ミハエルの言葉に、アンナが防衛部隊の別働隊であるリン=アスターナ(
ga4615)へと指示を出す。それをリンが了解し、敵別働隊とリン達の戦闘が始まるのだった。
「みんな聞いての通りよ。私達は前方の敵を殲滅、その後予定通り本隊へ向かうわ」
「やれやれ、楽な任務だと聞いていたんだが? まぁ、全力を出せる分、まだマシか」
「相手は‥‥四機‥‥。油断せず‥‥全力で‥‥いきます」
指示を受けたリンの言葉に、鹿島 綾(
gb4549)とルノア・アラバスター(
gb5133)が応える。迂回ルートから時間差で敵本隊を追い込むために別働隊となった三人だが、たまたま敵も部隊を分けてきたために、そちらの迎撃を行うことになった。レーダーに映る機影は四機、彼女達より一機ほど多いが、全力で当たればさほど苦労する相手ではないだろう。そしてやがて、敵が目視できる距離まで近づいた。
「攻撃を開始するわ」
敵を捕捉した一行、遠距離兵装のリンが先制の攻撃を行う。ホーミングミサイルの一斉発射と共に、大口径のエネルギー集積砲が敵部隊の中心に向かって放たれた。それに対し、敵部隊は反撃のビームを発射しながら、リンの攻撃を避けるように散開する。
「弾幕で、援護します‥‥行って、ください‥‥」
「任せな!」
分散した敵部隊を牽制するようにルノアが機関砲の弾丸を周囲にばら撒き、その隙をついて綾が高速で敵機へと突っ込んだ。敵機から放たれるビームの弾幕の中をものともせずに、機体を回転させ回避しながらスラスターライフルを乱射、そのまま敵機の横をすり抜ける。
「まずは一機!」
そのすり抜けざまに、刃にコーティングされた翼で敵機を切り裂いた綾。その猛攻に敵機は爆発を起こし制御を失ったように墜落、空中で爆散した。
「綾君、気を抜くな。後ろを取られたわよ!」
「わかってる。ちっ、相変わらずむちゃくちゃな機動するわね」
だが、他の敵機が横を抜けた綾に対し空中静止後急反転、即加速で綾の後ろへと付く。綾はリンに応答しながら、地球の戦闘機ではありえないその動きに小さく舌打ちをした。
「付いてこれるものなら、付いてきな!」
綾はブースト加速と共に垂直急上昇を行う。そして敵機が追いかけてくると急反転急降下をした。
「くっ、負け‥‥るか!」
身体全体に強烈なGを感じながらも、歯を食いしばりながらそれに耐える綾。機体も軋む音を立てるが、なんとかもってくれた。急反転に成功した綾は、敵機を正面に捕らえて攻撃、そのまま交差して横をすり抜けて敵機の後方へと退避した。攻撃を受けた敵機は、すぐに反転することはできずに、再び綾を追いかけることはできなかったようだ。その後は、全機入り乱れたドックファイトとなり、お互いが有利なポジションを取ろうと飛び回る。
「ロックオンキャンセラーを発動させるわよ」
この乱戦の中で、リンはバグアの機体の命中力を下げるロックオンキャンセラーを発動。敵は照準をつけづらくなった。
「この、弾幕なら、そう、簡単に、回避、なんか‥‥!」
そんな中、ルノアは機体の特殊能力を発動、増加させたSESをAIと連動、敵の動きを正確に予測し、大量の弾丸をばら撒く。そしてその攻撃を受け動きが鈍った敵機に、重機関砲とスラスターライフルの集中射撃。大量の弾丸を撃ち込まれた敵機は、装甲を破壊されて爆発した。
「これでラスト! よし、すぐに本隊へと向かうわよ」
「了解よ」
「了解、です」
リンのロックオンキャンセラーにより戦いは有利に進み、残る二機も瞬く間に撃破する。最後の一機を高出力のビーム砲で撃ちぬいたリンは、勝利の余韻に浸る間もなく、すぐに機体を旋廻させ、わざと苦戦を装っているであろう本隊へと向かうのであった。
そのころ、迎撃部隊とバグアの偵察部隊は激しい乱戦を行っていた。
「手加減しているとはいえ、あまり侮ってもらっても困るな!」
「あ、あの、いまので敵の数が‥‥半分になりました。敵エース機は‥‥健在です。あ、敵三番機と五番機はこれ以上ダメージを与えると‥‥危険です」
カウンターの要領でスラスターライフルを叩き込む鹿嶋 悠(
gb1333)、その攻撃により敵機が爆発し墜落していく。わざと手加減してこちらの戦力を見誤らせながらも、少しずつ敵機を落としていく一行。その様子を乱戦に加わらずに管制機で援護をしている明星 那由他(
ga4081)が、一行に戦況を報告する。
「だがいい加減、手加減するのも難しくなってきたぞ」
前方の敵機にレーザーを当てながら龍深城・我斬(
ga8283)は顔をしかめた。極力手加減をしながら、単発的に敵機にダメージを与えて時間を稼いでいるのだが、相手はもちろん全力で攻撃してきている。一行も乱戦になって少なからず機体にダメージを受け、少しずつ余裕がなくなってきていた。
「また幻霧を発生させる、これでもうしばらく耐えてくれ。それに‥‥ジャミングや傍受が無いとも限らない‥‥アスターナさん達がこれで気づいてくれれば‥‥」
機体の特殊機能で霧を発生させ、双方とも攻撃を当てづらくして戦いを長引かせるアリステア・ラムゼイ(
gb6304)。加えて、この霧は別働隊への目印となっていた。
「しかし、そろそろ霧を発生させるには錬力も厳しくなってきたな。早く諦めて欲しいのだが‥‥」
「アリステア! 狙われているわ、回避しなさい!」
「!!」
アリステアが錬力の残量に気を取られた一瞬、敵機からの攻撃を受ける。エリアノーラ・カーゾン(
ga9802)からの通信に、あわてて回避行動を取るアリステア。機体をかするように、敵のビームが突き抜けていった。
「良く避けたと言いたいところだが、いい加減うっとおしい煙幕を消してもらおう!」
「くそ、後ろを取られたか。俺に‥‥武運を‥‥」
攻撃してきたのは、敵のエース機。アリステアは後ろを取られて、すぐに振り払おうとするが、敵もさる者、そう簡単には離すことはできない。アリステアは胸にしまったお守りに願を掛けるようにつぶやいた。
「アリス君! そこで急上昇!」
「!!」
そこへ、悠からの指示。アリステアはすぐさま機体を急上昇させた。それを追うように、エース機が付いてくる。
「よしそこでラダーと操縦桿を逆方向に入力し急減速! そのまま反転して急降下だ!」
「は、はい!」
「煙幕だと!? また姑息な手を!!」
続けて悠の指示。それと同時に、煙幕銃で煙幕がアリステアの前方に展開される。その煙幕の中、アリステアは指示されたように機体を反転し、敵機をすり抜けて背後へと周りそのまま振り切った。
「この反応は‥‥くっ、敵の別働隊か!? やつらが待っていたのはこれか。まぁいい、十分に情報は得た、この辺で撤退するぞ。‥‥個々の実力は高いが、所詮は傭兵。防衛力の限界も知れるというもの‥‥」
その後、敵のエース機が突然反転し撤退を開始した。どうやら、リン達の別働隊が接近してきたことを察知して、これ以上の交戦は無理と判断したのだろう。エース機は生き残っていた数機を引きつれ、急速反転し高速でその場から撤退した。一行はそれを追うことなく見送る。
「ふぅ、ようやく撤退してくれたか。不自然じゃない程度に手加減するってのは、難しいな」
敵機がレーダーの範囲から出て行ったことを確認し、我斬はため息をついて肩の力を抜いた。わざと全力を出さないことは、全力を出し切るよりも逆に疲れるものなのかもしれない。
「アリス君、おつかれさま。大丈夫だったか?」
「ええ、まぁ‥‥。次は本気でやり合いたいですね」
悠のねぎらいの言葉に、アリステアは小さく頷き答えながら、先ほどのエース機の攻撃を思い出しては小さくこぶしを握り締めた。
「リン、そっちにも何機か行ったでしょ? 大丈夫だった?」
「あの程度であれば問題ない」
「そう」
合流したリンはエリアノーラの問いに簡潔に答えると、エリアノーラはそっけなく納得したように頷いた。
『みんな、任務完了よ。ただちに帰還して。それと明星は帰還後、集めたデータをすぐに提出すること』
「は、はい‥‥わかりました」
アンナからの指示の通信があり、那由他はおどおどしながらもしっかりと頷く。そして、一行は基地へと帰還するのであった。