タイトル:百鬼夜行 血吸桜マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/03 07:10

●オープニング本文


「なぁ、この辺りって危険なんじゃないか? 結構深い山ん中だし」
「ダイジョブダイジョブ! 俺は何度も来てるけど、危険なことなんて無かったし! それより、そろそろ着くぜ!」
「ねぇ、本当にここに桜の名所なんてあるの? そもそも、もう散ってるんじゃない?」
「いやこれが、この辺りの気温のせいなのか、ぜんぜん散る様子が無くてさー」
 山の中を進む若者達の集団。どうやら彼らは花見の宴会をしに来ているようだ。しかし、すでに五月の半ばにもなり、本来なら桜の花などすでに散っているはず。しかし、先頭を歩く男はまったく気にした様子もなく、どんどんと山の奥へと入っていく。そして、彼らが向かった先には。
「おー! なんだこれ! なんでこんな満開なわけ!?」
「すっごーい、めちゃくちゃ綺麗じゃない!」
「これなら、わざわざこんなとこまで来たかいもあったってもんだぜ!」
 彼らの目に広がったのは、満開に咲く桜の花。木は立った一本だが、その大きさは他の木と比べようも無く。巨大な幹から広がった幾重もの枝に、美しい紅色に染まった花びら達が花開き、見る者を魅了してやまない。その光景に、若者達は先ほどまでの疑問も吹き飛び、すぐに宴会の準備をしようと荷物を広げ始めた。
「ん? 誰だ? 裸の女‥‥!?」
「あー? もう酔っ払ってんのか? 裸の女なんてどこにも‥‥」
 一人の男が桜の木を凝視してつぶやく。それに別の男がからかうが、やはり同じように桜の木を見て口をつぐんだ。いつの間にか、桜の木の下には美しい裸身の女性が立っていた。その艶かしい姿を隠そうともせず、むしろ男達を誘うように柔らかい微笑を浮かべている。男達は思わずその姿に見惚れて、鼻の下を伸ばす。
「あれ? みんなどうしたの? やだなにあれ!?」
 男達の異変に気づいた仲間の女性が声を掛けようとして、やはり桜の木の女に気づく。そしてその様子に顔をしかめた。
「なぁ、そこの彼女。そこでなにやってんの? せっかくだし俺らと‥‥ぁ?」
 男の一人が桜の女へと声をかけようとする。しかし、それは途中で止まる。男は何がおきたのかわからないまま、自分の腹部を見下ろし‥‥。
「ひっ、あ‥‥あ‥‥なんだこれ‥‥!?」
「きゃーーーー!!」
 男の腹部には、巨大な枝が刺さっていた。枝は身体を貫通し、背中を突き破って突き出している。あまりの突然のことに男は理解できないまま、自分の腹に刺さる枝の光景をみつめていた。そして、仲間の女性が悲鳴をあげる。
「なんだよ! いったい何がおきてんだよ!」
「う、嘘だろ、なんで木が!?」
「う、うわぁ! く、くるな!!」
 女に見惚れていた男達もさすがに正気に戻るが、すぐに自分達にも襲い掛かってくる枝にパニックを起こす。逃げ出す者、わけもわからず座り込む者、持っていた棒切れを振り回す者、しかし一様に枝に突き刺され、その若い命を散らしていった。そして、動く者がほとんど居なくなったこの場所で、ただ一人無事だった男が桜の木へと近づく。
「くくく‥‥今回の肥料はどうだった? この間みたいなジジババよりも新鮮で栄養もあっただろ? そうだ、今度はもっと栄養のあるやつ持ってくるよ。人間以上のさ‥‥」
 その男は、若者達をこの場所まで連れてきた男だった。男は恍惚とした表情で、桜の木に立つ女へと話しかけ、やさしくその身体に触れる。
「あんたは最高だ‥‥。この世界でもっとも美しい‥‥。その美しさ、俺が永遠にしてやるから‥‥。ずっと、ずっと一緒にいようぜ‥‥」
 物言わぬ女に、男は愛しさをこめてつぶやいた。そして、男は次の獲物を探し、山を降りていくのだった。

「最近、日本のある街で失踪事件が多発しているようです。彼らは一様に、『花見に行く』、と言って家をでたあとに消息を絶っているそうです。この事件に、バグアがなんらかの関与をしている可能性があり、街の代表者から事件を解決するようにと依頼がありました」
 ULTで依頼を受けた能力者達は、オペレーターに依頼の詳しい内容を聞くことになった。その内容とは、日本のある地域で失踪事件が多発しており、バグアまたはキメラが関与している疑いがあるということだった。
「花見というのは、日本特有の桜の花を見物し宴会を行うことですが、その地域ではこの時期まで桜の花が咲いているということはまず無いそうです。そのため、花見に行くというのはおかしい話なのですが‥‥」
 そう言ってオペレーターは首を傾げてみせ、次に何かの資料を一行に渡す。
「以前に似たような依頼があったので、それを参考資料としてお渡しします。以前の依頼では、時期はずれの桜が咲いていて、それを見に行った者が失踪しているので調査して欲しい、というものなのですが。結果的に言うと、その桜がキメラだったようです。美しい桜に擬態し、それを見に来た人を捕食していたと思われます。そして今回も同じような事件ではないかと推測されます」
 資料には「妖桜(アヤカシサクラ)」と称された桜の木の姿をしたキメラについての情報が記されている。事例も今回の事件に酷似している部分もあり、たしかにこのキメラが関わっているようにも思えた。
「街に着きましたら、役所へと寄っていただければ、事件の担当者が案内をしてくれるそうです。それでは依頼解決をお願いします」
 こうして、依頼を受けた能力者達は、事件がおきているという日本の街へと向かうことになった。

・依頼内容
 失踪事件の調査、及びその解決
・概要
 花見に向かうと言って失踪した失踪者の調査・保護、及びその原因を排除する解決を行うこと。
 本来この時期には桜は咲いておらず、桜の花見に行くということはおかしい状況である。いまだ散っていない桜があるのか、それとも花見自体が虚偽なのかは不明。
 依頼のあった街で協力者と合流、協力者は街周辺に詳しいので、その者と協力し事件を解決すること。
 今回の依頼での、必要物資の支援などは行われない。必要な物は各自で用意を行うこと。

●参加者一覧

綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
霞倉 彩(ga8231
26歳・♀・DF
櫻杜・眞耶(ga8467
16歳・♀・DF
月島 瑞希(gb1411
18歳・♀・SN
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

「みなさん、よくいらっしゃいました! 私は、今回役所の方で皆さんの案内をするようにと言われた新木と申します。どうぞよろしくお願いします」
 一行が依頼を受けて街へと向かうと、そこでは若い役所の所員が一行を出迎えた。年齢は20代前半、爽やかな笑みと少しラフな格好で役所の堅苦しさを和らげており、丁寧ながらハキハキとした物言いは、比較的好感が持たれやすいタイプだろう。
「初めまして。何卒よろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願いします!」
(「‥‥協力者か。念には念を入れて気をつけて置きましょうか」)
 白雪(gb2228)が挨拶を返すと、協力者の青年、新木は照れたように笑みを浮かべながら視線をそらして頬を掻く。その様子には怪しいところは見受けられなかったが、白雪のもう一つの人格『真白』は協力者である彼に対しても警戒をしていた。
「早速ですが、警察の取次ぎと失踪者の住居の情報、それと人の良く集まる場所についての情報をお願いできますか」
「わかりました。失踪者の住所と、人の良く集まる場所はここに記してあります。警察の方にも連絡はしてありますが、いちおう私も一緒に行きますね」
「お願いします‥‥。私達だけよりも‥‥役所の人と一緒のほうが警察の人も協力しやすいでしょうから」
「それでは、各自手分けして情報を集めましょう」
 綾野 断真(ga6621)の指示に、新木は用意してあった資料を一行に渡し、警察への案内を申し出る。警察に行くことになった霞倉 彩(ga8231)が新木の申し出にうなずき、一行はそれぞれ分かれて失踪事件についての情報を集めることにした。

「ここが、失踪者の家ですか。すいません、失踪事件の調査をしている者ですが、お話を聞かせていただきませんか?」
「心配で、何も手に付かない状態の時に申し訳ありませんが、お話だけでもお願いします」
 断真と夢姫(gb5094)は今回の事件で失踪した若者の家族に話を聞こうと、失踪者の住居へと向かった。
「それで、娘さんは確かに花見へ行くと言って出て行ったんですね。おかしな様子などはありませんでしたか?」
「はい、間違いありません。でもこんな時期に、桜の花見なんておかしいと思ったんですよ。それがこんなことに‥‥、うう‥‥」
「しっかりしな母ちゃん‥‥。あの馬鹿娘が! きっとどっか別の街で遊んでるんだよ‥‥そうに決まってる」
「必ず、ご家族を探してきますから!」
 失踪した娘についての話をする両親。二人とも娘を失った悲しみと怒り、そしてまだ生きているんではないかという希望が感じられ、見ていて辛い気持ちになってしまう。夢姫は二人の様子に貰い泣きしながら、家族のためにも失踪者を見つけ出したいと強く思った。
「娘さんのお部屋を見させていただきたいのですが‥‥。男の私が見るのもまずいでしょうから、夢姫さんお願いできますか? 私はお二人にもう少しお話を」
「はい、わかりました。手がかりがあるといいんですけど‥‥」
 その後、失踪者の部屋を調べる夢姫。しかし、これといって怪しいものは見つけられなかった。その後も、失踪者宅を見て回った二人だが、どこも同じようであった。

「そこのあなた。少し話を聞きたいのだけれど」
「あ? なんだあんた?」
 繁華街へと向かったアンジェリナ(ga6940)達は、たむろしている若者の集団に声をかける。
「最近起きてる失踪事件についてと、いまだに咲いているという桜の話。知ってることがあったら、聞かせて欲しい」
「ああ、なんか知らねえけど花見行くつってそのままどっか行っちまったんだっけ? なぁ、そんなバカなやつらのことより、俺らと一緒に遊ぼうぜ?」
「知らないのならいい。邪魔したな」
「お、おいっ!」
 有益な話を聞けないと知ると、そっけなく立ち去るアンジェリナ。若者達は、声では引き止めるが、アンジェリナの冷ややかな視線に手を出すほどの度胸はないらしかった。
「あらあら手厳しいですね。みんなおびえてますよ」
「興味がない。それよりそっちはどう? 何かわかった?」
 その様子を少し離れた場所で見ていた櫻杜・眞耶(ga8467)がアンジェリナに近づき、クスリと笑みをこぼした。アンジェリナは気にした様子もなく、なにか情報は無いかと問いかける。
「いえ、公園や図書館の方にも行ってみましたが、これといった話は聞けませんでした。それと桜の木ですが、時期的に今頃に咲く桜が全くないわけでもないので、桜は狂い咲きの花という可能性もありますが、付近の桜はほとんど散ってましたね」
 その問いに首を横に振る眞耶。今回の事件についての噂は集団失踪といった程度しか知られていないようであるし、また桜の木についてもこれといった噂はないようだ。
「いきなり手詰まりか。無事連れて帰れれば最高だけど‥‥な‥‥。せめて‥‥どうなったのかだけでも‥‥」
「俺のほうでもさっぱりだ。あんまり広まってないのかな?」
 同じく、街の人々に話を聞いて回っていた月島 瑞希(gb1411)と番 朝(ga7743)も合流するが、やはりこれといった情報はない。
「無差別に噂を広めて人を集めるのではなく、狙いを定めて誘い出している敵がいるのかもしれない」
「それは、そういったことをしている人間がいるということですか‥‥」
 アンジェリナの意見に、眞耶が顔をしかめる。彼女達の経験からしても、バグアに協力する人間がいることは知っていた。今回も同じように、何者かが協力しているのかもしれない。
「あんたらか? 桜の花を調べてるってやつらは? 知ってるぜ、桜が咲いてる場所」
「!!」
 そんな彼女達に声をかけてくる一人の若者。どこか胡散臭い男だが、一行は話を聞くことにした。
「それはどこにあるの?」
「案内してやるよ、付いてきな。まぁ疑うんならいいんだぜ、勝手にしな」
「わかった、行きましょう」
 男は場所を告げずに自分について来いと言う。アンジェリナ達はその様子を疑うが、ほかに有力な情報もないために、しかたなく彼に付いていくことになるのだった。

「やぁ、マコト君良く来たね、待ってたよ」
 警察へと向かった彩と白雪は、一緒に来た新木と共に、刑事に迎え入れられる。
「それで警部、例の事件についてですが」
「はっはっはっ、いつものように叔父さんでかまわないよ」
「叔父‥‥さん?」
「ええ、この方は所轄の警部で、私の叔父さんなんですよ」
 彩のつぶやきに、新木が苦笑しながら答える。どうやら、新木は身内が刑事にいるために警察にも顔が利くようだ。
「‥‥被害者達を目撃した人‥‥いますか? いるのなら、何人ぐらいの集団だったかも聞ければありがたいです‥‥」
「初めのころは年寄りが多かったんだけれどね。最近は10代後半から20代前半の若者が被害にあっている。最近のだと5〜6人のグループが一度に消えたようだ。たしかマコト君、君の学校の後輩もいたんじゃないかね」
「そうみたいですね‥‥。ああ、うちは田舎なので、学校の数が少なく、同じ学校出身も多いんですよ」
 失踪者に共通点などないかと、彩の問いに答える刑事。その刑事の一言に、新木がうなずき、すぐさまフォローを入れた。その後、色々と情報を聞いた一行であったが、決定的なものは見当たらなかった。
「巧妙に情報を隠している‥‥? バグアだけの仕業とは思えない‥‥。協力者が居るのはこっちだけじゃないかもしれない‥‥」
「随分人が被害にあっているみたいだけど‥‥早く解決しないと」
 有力な手がかりが得られぬまま警察署を出た彩と白雪。一度、皆と合流しようかと考えていると。
「大変です! さきほど数人のグループが山へ向かったとの連絡がありました。そのグループなのですが、どうやらアンジェリナさん達のようで。なんでも、繁華街で話しかけてきた男と共に桜の木を探しにいったとか。私が案内しますので、急いで追いかけましょう!」
「どういうことです‥‥? こちらに何の連絡もなしに‥‥」
(「怪しいわね。でも追いかけるしかなさそうね」)
 突然の新木からの報告に首を傾げる彩と白雪。すぐにアンジェリナ達に連絡を取ろうとするが、応答は無いようだ。仕方なく、二人は新木の言うように、アンジェリナ達を追いかけて山へと向かうのであった。

「情報によれば、こちらです」
 新木の案内で山の中へと入っていく彩達。山には一般人は立ち寄らないと聞いていたが、意外にも山の道はしっかりと踏み固められており、ここしばらくの間は人が通っていると思われた。そして、木々の道を抜けると少し開けた場所へと出る。
「これは‥‥」
 彼女達の目に映ったのは、一面に広がる桜の花。美しくも妖艶な、そう表現されそうな色鮮やかな花びらに包まれた枝が、風に流れるように柔らかく揺れる。
「綺麗‥‥けれど、酷く違和感を感じるわ」
 覚醒し真白の人格が表に出た白雪はそう呟いた。それは満開に咲き誇りながらも、ひとひらの花びらも散ることのない不思議な光景。白雪は警戒を強めながら、刀に手を掛ける。
「先にこちらに向かったというアンジェリナ君達が見当たらないが‥‥」
「どこかですれ違ったか。そもそも場所が違うのか‥‥。ともあれ、この木がキメラであれば、退治しなくてはならないわね。あなたは危険だから下がって‥‥いないわね」
 油断なく周囲を見渡す彩と白雪。しかし、追いかけてきたはずのアンジェリナ達の姿は見えない。白雪は新木に下がるよう声を掛けようとするが、すでに新木はどこかに身を隠してしまったようだ。
「‥‥人?」
 そんな彼女達の前に、いつのまにか木の影から裸身の女が姿を見せた。女は均整の取れた身体を恥ずかしがることなく見せながら、彩達を誘うように笑みを浮かべる。
「‥‥女? 報告書のキメラとは少々違うようね‥‥なら」
 だが、白雪はあまりに怪しい女の様子に、躊躇することなく小刀を投げつけた。一刀の影にもう一刀を隠して投げるという、高度な投擲術で投げられた二本の小刀が謎の女に飛ぶ。
「!?」
 女は避けるそぶりも見せず、刀は女に突き刺さる。だが、女は悲鳴を上げることもなく、またその身体からは血が流れることはない。まるで気にした様子もなく女は微笑み続け。
「あぶない!」
 突然彩が叫び、銃声が鳴り響く。それは白雪の背後にいつの間にか忍び寄っていた桜の枝を撃ちぬいていた。枝が折れ、地面に落ちるが、まるで生き物のように蠢いているのがわかる。
「やはりキメラ‥‥」
「あの女も木の一部というわけね。傷はすぐに再生する‥‥か」
 木がキメラだと確信した二人は、すぐさま攻撃を開始する。だが、桜の木は攻撃を受けても傷がすぐに再生していた。そしてそれは謎の女も同様である。
「さあ、奏でようか‥‥銃声という名の鎮魂歌を‥‥」
 彩は銃を構え、襲い来る枝を撃ちぬいていく。だが枝の数は多く、またすぐに再生してしまうため効果的なダメージを与えることができない。
「はぁっ! 種を飛ばすなんて、見え透いた攻撃」
 白雪が飛んできた種を斬り落とした。すぐさま種からキメラが出ないよう警戒する。事前の情報があったために、対処はできている。
「くっ!」
 しかし、決定的な攻撃が無いまま、戦いは長引き。やがて、白雪は腕に怪我を負ってしまい、赤い血が腕から流れ落ちる。すると、キメラの根がその血を吸い取るように蠢いた。
「随分と人の生血を啜ったのね。‥‥その醜い生き様、終わらせてあげる」
 その様子に、白雪は嫌悪の表情を浮かべた。だが現状はかなり不利であり、次々と襲い掛かる枝を捌くだけで手一杯である。このままでは、いずれ疲弊し倒れるのはこちらであろう‥‥。
「!!」
 だがそこへ後方からの銃声。桜の枝が次々と吹き飛ぶ。続けて現れたのは、複数の人影。
「待たせたわね」
「大丈夫ですか!」
 それはアンジェリナ達と断真達であった。断真のライフルによる狙撃が、枝を吹き飛ばしたようだ。彼らの救援で、一気に形勢は逆転する。
「‥‥ばっちゃんと見た桜の方がずっと綺麗だ」
「散ってこその桜だ。こんな時期まで、いい加減興ざめなんだよ!」
「みんな殺しちゃったなんて‥‥酷い!」
「確かに貴女は綺麗よ。だけど‥‥私の姐はんの方が、ずっと綺麗♪」
 朝の大剣が木々を薙ぎ払い叩き折る。瑞希は両手に持った銃で味方を襲う枝を撃ち落し、夢姫の持ったレーザーブレードが太い枝さえも焼ききった。そして、枝が再生する一瞬の隙を突き、眞耶の大鎌が大木を女の姿ごと切り裂いた。さすがにこの攻撃は効いたらしく、キメラは再生が追いつかずに花びらを散らしていく。
「新木真! 出て来い! すでにあなたのことは調査済みだ!」
 アンジェリナが叫ぶ。彼女達は囮の男の誘いに乗るフリをしつつ、すぐに男を問い詰めて新木に雇われたことを突き止めていた。また断真達も、失踪者の関係者から新木と桜の場所についての話を聞きだしており、協力者の新木が事件の犯人であることを確信していた。
「‥‥まさか、これほど早くバレるとは思わなかったぜ」
 アンジェリナの声に、桜の木の影から現れる新木。その口調は、初めに会ったときとは違うふてぶてしいものだった。新木は女の姿をしたキメラ桜を愛しそうに触れて一行にニヤリと笑って見せる。
「だが、彼女はこの程度でやられることはな‥‥?」
 しかし新木の言葉はそこで止まった。そして、彼は不思議そうに自分の腹部を見つめ。
「な‥‥んで‥‥?」
 新木の腹部に突き刺さる桜の枝。新木はわけがわからない様子で女を見る。
「ああ‥‥そうか‥‥これでずっと一緒に‥‥」
 何かを悟ったように恍惚の笑みを浮かべる新木。次の瞬間には、その身体からは全ての水分が吸い取られ、ミイラのような姿となってしまった。そして、瞬く間に傷を癒して活性化するキメラ桜。
「哀れな‥‥。だが‥‥答えを出すまでは二度と使うまいとしていたが、これは決別だ。この桜が思い出させた記憶‥‥それとの決別の意を込めて私は今一度だけ師の剣、朱桜を私の刃で振るう」
 その様子に閉ざした心に一瞬だけ悲しみの感情を浮かばせ、アンジェリナは刀を構えた。
「『朱桜・漆型−八重−』‥‥‥二刃!」
 自分の持つ全ての力を刀に乗せ、アンジェリナが両手に持った二刀を放つ。強力な一撃に、再び深い傷が刻まれるキメラ桜。そこへ、各自が全力を持って攻撃を行った。やがて、巨木はついに打ち倒され、音を立てて倒れ伏した。
「季節外れの桜吹雪、か‥‥。‥‥桜は儚いから美しい‥‥長く咲くのは無粋ってもの‥‥」
 赤々と色づいた桜の花は、木が倒れると共に枯れて散り落ち、それを風がさらっていく。その様子を眺めながら、彩はタバコに火をつけるのだった。
 後日、付近を捜索した地元警察が、失踪者の遺品を発見した。それらは家族へと返され、今回の事件は一応の解決をみる。