タイトル:嵐の鷹 出撃マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2009/05/01 01:56

●オープニング本文


「アンナ・ディアキン、ご命令により出頭いたしました」
 いつものように、兄であるミハエル少佐の呼び出しに、アンナ中尉はいやいやながら彼の部屋の前へと立つ。
「どうぞ、入りたまえ」
「はっ、失礼します」
 明るい声で応じるミハエルに、アンナは敢えて堅苦しい様子で部屋へと入った。部屋では、いつもと同じ笑みを浮かべたミハエルが待っていたが、今日は珍しく別の男が立っている。やや長身のスラリとした体型をした男で、黒髪黒目で東洋人といった容姿だが、顔立ちは若干西洋風でもある。歳は20前後、アンナと同じか年下ぐらいだろう。
「ああ、それではよろしく頼むよ」
「‥‥わかった。そちらも、約束は守ってもらうぞ」
「もちろん」
 ミハエルがその男に声をかけ、男は用事が済んだとばかりに部屋を出て行こうとする。アンナの横を抜ける際、チラリと観察するようにアンナを見て目が合った。しかし、そのまま何事も無かったように男は出て行く。
「お待たせ、中尉」
「今の男は‥‥」
「ああ、彼は僕の友人だよ。今度、僕の仕事を手伝ってくれるよう頼んだんだ、ふふふ‥‥」
 アンナのつぶやきに、ミハエルは笑みを浮かべたまま曖昧に答える。だが、その含み笑いが、アンナにとってはなんとも嫌な感じを受けた。
「それで、新しく君に作ってもらった部隊の話だけれど。報告は読ませてもらったよ。『S.T.O.R.M. Hawks』か、うん、悪くないんじゃないかな」
「実力は、前回の任務で証明済みです。十分な戦力になるかと」
「そうだね。でも、僕としては‥‥」
「なにかご不満でも?」
「いや、部隊名は『アンナ親衛隊』が良かったなぁっと思ってね」
「ご冗談は止めてください」
「ごめんごめん、そんな怖い顔で睨まないで」
 飄々とした笑みを浮かべるミハエルに、アンナはキッと睨み付ける。ミハエルは悪びれた様子も無く、軽い謝罪を口にしながら、一つの書類を取り出してアンナへと差し出した。
「これは?」
「次の任務だ。今行っている大規模作戦の隙を突くように、アメリカ国内のキメラが活性化している。彼らにはその駆除をお願いするよ」
「大規模作戦での全体の勝利よりも、国内での少佐の地盤固めということですか‥‥」
「まぁ、そうなるかな。ぶっちゃけ、大規模作戦への支援は彼らでなくてもかまわないしね。今は国内での力を高めて、いざというときに活動できる地盤を固めておきたい所だよ」
 ミハエル少佐の管轄は、北南米周辺となっている。大規模作戦への支援をするよりも、まず自分の足場を固めておく腹積もりらしい。アンナはその考えに、少し顔をしかめながらも、何も言わずに任務を受け取った。
「承知いたしました。では、すぐに傭兵を集め任務に従事したいと思います。では失礼します」
「いやいや、もう少しゆっくりしていっても問題ないと思うよ‥‥ああ、行っちゃった」
 軽く敬礼をして部屋を出るアンナ。ミハエルはそれを引きとめようとするが、アンナは無視して出て行ってしまった。

「『S.T.O.R.M. Hawks』の諸君。今回の任務はこれだ」
 それから数日後、アンナは新しく結成された傭兵部隊『S.T.O.R.M. Hawks』に召集を掛け、任務の説明を開始した。
「北米でキメラが活性化しており住民に被害が出ている。だがしかし、皆も知っているように、現在UPCでは大規模の作戦が行われており、これらの対処に戦力を割く余裕はあまりない。そこで我らが軍の余剰戦力として、キメラの駆除を行うことになった。まぁ、ようは普段のキメラ退治と同じだ。ただし、今回は一度に3箇所を駆除しなければならない」
 任務の内容はキメラの駆除。場所は三箇所あり、それぞれの場所で、キメラを約10匹程度退治して、その地域の安全を確保する必要があるらしい。それぞれ移動に一日程度かかる距離にあるようだ。
「チームを三つに分けるのも、全員で一箇所ずつ迅速に確保していくのも、判断は君達に任せる。ただし、あまり悠長に構えていると、その地の住民に被害が出ることを覚えておいて欲しい。住民に被害がでれば、UPCの風評も悪くなるので、極力避けてもらいたい。だが、決して無理をするな。まだ諸君らを失うわけにはいかないのだから」
 そう言って、アンナは能力者達を見渡す。その視線は、心配ではなく、信頼しているように感じられた。
「該当地域の説明は今渡した資料に記載してある。それらを参考に、作戦を立て、任務を遂行して欲しい。それと今回私は、後方でのサポートに回る。直接の指示は出せないが、現地への移動の手配、物資の供給など、支援を行うつもりだ」
 一行は資料を手渡され、早急に作戦を立てて出発することになる。アンナは、そんな彼らを見送り、部隊活動のサポートを行う準備を開始した。

・依頼内容
 三箇所でのキメラの駆除
・概要
 傭兵部隊『S.T.O.R.M. Hawks』の一員として現地へ向かい、キメラ被害に悩まされている地域でキメラの駆除を行う。
 キメラは一箇所で10匹程度、計30匹を駆除し、周辺地域の安全を確保する。
 この任務は、UPC軍の活動として行われ。従事者は軍服を着用し、軍の威信を傷つけないよう注意する。
 任務はUPC支援のもと行われるが、高価な物資、武器などを支給することはできない。あくまで、任務遂行に必要な最低限の物資のみ支給される。

・キメラ駆除該当地域
A地区 海に面した港町のある地域。海、砂浜にキメラが出現し、住民の生活を脅かしている。主に、水生生物型のキメラが確認されており、姿形の巨大なものが多い。
B地区 荒野、岩山の広がっている地域。猛獣型のキメラが多く確認されており、特に凶暴なキメラが多い様子。時折舞い上がる砂埃によって視界が悪くなることがある模様。
C地区 大きな森林の広がっている地域。主に昆虫型、爬虫類型が多く生息し、普段は森林に隠れ、夜になると近くの町を襲いにくるらしい。キメラの発見が容易では無い地域。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
九条・運(ga4694
18歳・♂・BM
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

 各地で活性化したキメラを退治する任務を受け、現地へと向かった『S.T.O.R.M. Hawks』は、部隊を三つに分けそれぞれ三箇所の地域を警護することにした。
「『S.T.O.R.M. Hawks』の皆さんですね。アンナ中尉から連絡は受けております。エミタ能力者を集めた特別部隊だとか。我々の部隊にはエミタ能力者がいませんので、最近のキメラの動向には困っていました。皆さんには期待していますのでよろしくお願いします」
 A地区へと向かったホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)、リン=アスターナ(ga4615)、ルノア・アラバスター(gb5133)の三人は、街を守る軍の部隊から歓迎をされて迎え入れられた。
「綺麗な、海‥‥。潮風が、気持ち、いい?」
「勝手に行くなよ? そうだな‥‥ゆっくり出来ないのが残念だ。それにしても、数日のうちに三つの地域でキメラ退治か、忙しい仕事だな‥‥。さて、どんなキメラかな」
 青い海を眺めながら好奇心に瞳を輝かせるルノアに軽く相槌を打ちながら、ホアキンは現地の部隊に手渡された資料を確認しつつ、ポツリとつぶやいた。海沿いの街は潮の香りに包まれ、海から吹く少し湿った風が髪を撫でる。空は青く、太陽がさんさんと照り、休暇で来たのならバカンスにちょうどいい場所なのだろう。しかし、彼らの今回の依頼はゆっくりと街の様子を楽しむこともできない忙しいもので、少し残念である。
「大規模作戦の合間に部隊の地盤固め、か。選択としては悪くないけど‥‥食えない男ね、少佐殿は」
「なにか言ったか?」
「いいえ、なにも。それでどうするのかしら? アンナの手配で、船は借りられるようだけど」
 リンは誰にも聞こえない小さな声で、今回の任務の本当の目的を口にしてほんのわずかだけ顔をしかめた。かつて軍に所属していたという彼女は、なにか思うところでもあるのだろうか。リンはホアキンの問いに首を横の振り、今後の作戦内容の相談を始めた。
「あまりゆっくりも出来ないからな。まず、付近の砂浜でのキメラの駆逐。その後、海に出てめぼしいのを捜索するか」
「おい! そこの軍人さん!」
 ホアキンが今後のことを決めようとした矢先、市民の男があわてて三人を呼び止めた。三人は事前に軍服を着用しており、その服装で彼らに声をかけたのだろう。ちなみに、まだ仮隊員のルノアの軍服は任務の間だけのレンタルとなっている。
「はぁ、よかった‥‥砂浜に化け物が出たんだよ! 早く追っ払ってくれ!」
「早速のようね。来た早々ついてるのか、ついてないのか。ともかく向かいましょう」
 市民の男の知らせを受け、リンの言葉に頷いた一行は砂浜の方へと駆け出すのだった。

「『S.T.O.R.M. Hawks』だぁ? はっ、傭兵の寄せ集め部隊が、いっぱしの正規軍面しやがって。しかも、来たのはたった3人とは、随分と俺達も舐められたもんだな? ‥‥まあいい、俺達は街の警備で忙しいから、お前らは勝手に外に出てめぼしいキメラを退治しろ。手伝ってもらおうとか考えんなよ? お前らが全滅しようが、俺達にはまったく関係無いからな!」
 B地区へと向かった、白鐘剣一郎(ga0184)、九条・運(ga4694)、秋月 九蔵(gb1711)の三人を待っていたのは、非協力的な態度を隠そうとしない軍人達であった。
「さぞかし自宅警備が忙しいんでしょうねぇ。どうぞごゆっくりしていてください」
「なんだとてめぇ!?」
「やめておけ。我々は我々でこの街を守るよう尽力を尽くさせてもらう。また、そちらの邪魔をするつもりも無い。街の警備をよろしく頼む。ついては、キメラについての情報だけは提供していただきたい」
「ふん‥‥、これだもってけ」
 相手の物言いに対し嫌味で返す九蔵に激昂する軍人の男。それに剣一郎が間に入り、九蔵を注意しつつ、鋭い視線で相手を止める。軍人の男はその視線に気圧されるように怒りを納め、キメラについての資料を渡した。
「へん〜しん、ハァ! っと、話は終わったか?」
「ああ、とりあえず情報は得た。あとは、街の外でキメラを狩るだけだ」
「ついでに、街に巣食う害虫も狩っておきたいですけどね。面白くないなぁ」
「なんかあった?」
 詰め所の外で街の子供達と遊びながら待っていた運。剣一郎と九蔵の様子に首を傾げつつも、じゃれ付いてくる子供達に別れを告げる。
「それじゃ、ヒーローは悪いキメラ達を退治しにいくからな。じゃあな!」
「大丈夫だ。連中にこれ以上好き放題はさせない」
「荒野の七人ならぬ、三人ですね」
 三人は見送る子供達に手を振り、荒野に巣食うキメラ達を退治しに向かった。

「‥‥というわけで、今こそ少ない手勢ですが、最終的には部隊の精鋭が全員集まって対処しますので、もう少し辛抱して下さい」
「本当ですか? とにかく頼みますよ、いつキメラに襲われるかと心配で夜も眠れないですので」
 C地区へと向かった新条 拓那(ga1294)と柿原ミズキ(ga9347)は、街の代表者に安心するようにと説明を行った。いささか説明に誇張した部分があったが、それはあくまで彼らを安心させるためのやむをえないことなので気にしないことにする。
「キメラについての詳しい情報は無しか。まぁ、一般人がキメラについて詳しいわけないもんな‥‥痛っつつ」
「大丈夫? あんまり無理しちゃだめだよ?」
「ああ、わかってるけどさ。無理にでもしっかりしてないと、怪我人ってばれると色々面倒なことになりそうだからな」
 街には駐屯している軍の部隊がいなかったため、街の代表にキメラの情報を求めたが、これといって詳しい情報を得ることはできなかった。拓那はつい肩をすくめるが、その拍子に体に痛みが走り顔をしかめる。拓那は前の依頼で大怪我を負ってしまうが、それでも無理をして今回の任務に参加していた。ミズキが心配した表情で拓那を支えると、拓那は安心させようと笑みを浮かべる。
「とりあえず情報だけど‥‥お、いたいた」
「‥‥‥」
 ミズキは拓那を支えながら周囲を見渡すと、一人の少年を見つけて軽く手を振った。
「これ、キメラの情報。一応、森の中も覗いてみたけど、おそらく間違いないと思う」
「ごくろうごくろう、やっぱりイスルは頼りになるね!」
「‥‥それじゃ、僕は帰るから」
「あ、うん、でもそんな急がなくても、もう少し手伝ってもらってもいい‥‥ああ、いっちゃった」
 その少年イスル・イェーガーは、事前に街に入り、情報を集めていた。そしてイスルはその情報を纏めた資料をミズキに手渡すと、すぐにその場から立ち去ろうとする。引きとめようとするミズキだが、結局イスルはそのまま帰っていってしまった。
「あー‥‥悪いことしちゃったかな」
「え? なにが?」
 拓那はミズキに支えられながら困ったように頭を掻いてそう呟く。何のことかわからないミズキは、ただ首を捻るのみ。肩を組んで歩く二人は、なんとなく恋人同士に見えるとかなんとか。
「もう大丈夫だよ。ありがとう」
「ほんと、無茶しないでね」
 とりあえず拓那はミズキから離れ、渡された資料に目を通す。そこには、街の現状と、キメラの種類と発見した場所が、可能な限り記されていた。短時間の調査のため、それですべてではないだろうが、十分彼らにとっては役に立つ。
「じゃあ、これを参考にして作戦を考えようか」
「わかった。でも、戦闘のほうはボクに任せてよね!」
「うん、大丈夫。部隊発足後の初任務だしな。ここでケチ付ける訳にはいかないよ。しばらくすれば皆も来るし、それまでは絶対守り抜こう」
 ミズキの元気な声にうなずきながら、拓那は彼ら二人で街を守る作戦を考えることにするのだった。

 A地区の海岸へと向かったホアキン達。市民はすでに避難したようだが、海岸ではすでに上陸したキメラ達が、砂浜に立てられた建物などを破壊し始めていた。キメラの種類は、タコやイカ、ヒトデなどの姿をしており、特にタコとイカは数メートルを超える巨大なキメラであった。
「回り込んで海と遮断し、逃げられないようにする」
「そうね、海へ逃げられると厄介だから」
「‥‥はい」
 ホアキンの指示にリンとルノアが頷き、前衛のホアキンとリンが海側へと回り込む。そして、対物ライフルを持ったルノアは、やや後方から狙撃の体勢に入った。
「食らえ」
 ホアキンが巨大タコへと剣で斬りつける。しかし、タコは軟体であるためか、ヌルッとした感触と共に斬撃が流され、思うようにダメージを与えることができない。
「なら、これでどうだ」
 長い足を鞭のようにしならせて叩きつけてくるタコの攻撃を横に避け、ホアキンは武器をエネルギーガンに持ち替えると、すばやく連射する。これはさすがに効果があったらしく、タコは苦しむように闇雲に足を振り回した。
「目標確認‥‥狙い撃ちます」
 後方ではルノアが、対物ライフルを構え、回転しながら砂浜を駆け回るヒトデに狙いを定めた。そして、静かに引き金を引くと、見事に高速移動しているヒトデに命中、ヒトデは体勢を崩し、勢い余って防波堤に激突する。
「逃がすわけにはいかないわね。ここで消えてもらう」
 エネルギーガンを持ち距離を保ちながらキメラを攻撃していたリンだが、キメラが逃げ出し始めると、瞬天速を使い一瞬のうちにキメラの退路へと回りこみ、ナイフを突き立てた。
「!!」
 苦し紛れに吐き出す墨をリンは足場の悪さにもかかわらず華麗に回避。続けて射撃を行い、キメラを撃ち倒す。
「増援接近、気を付けて、下さい」
 そこへ、ルノアが海の中から新しく現れたキメラを発見、仲間達に知らせた。そして、ホアキン達は引き続きキメラ達を迎撃し続けるのだった。

「ハッハー、さぁ来い、カーリー・ビル! ‥‥ワイアット・アープがお相手するぞ」
 B地区で街から出た剣一郎達は、いくつかのおびき寄せ作戦により、キメラを誘い出した。三人を囲い込み、群れとなって襲い掛かってくる猛獣キメラ達に、九蔵が西部劇のガンマンばりの早撃ちを行い、剣一郎と運が近づくキメラに剣で斬りつける。
「天都神影流・虚空閃っ!」
「戴天神剣! あ〜、なんとか突き!」
 剣一郎の刀から放たれる衝撃波が飛び掛るキメラを真っ二つに切り裂き、運の鋭い突きが敵を弾き飛ばす。運の技名が、てきとーなのは恐らく技の師が不在なためだろう。
「こいつらが獣と同じなら、恐らくリーダーがいるはずだ‥‥。九条! そいつだ!」
「ケン、そっち飛ばす!」
「任せろ。‥‥天都神影流・流風閃」
 猛獣キメラの中で、指示を出していると思われる固体を発見した剣一郎は、運に指示を出す。それに運は応えて、素早く接近すると獣突によって、敵リーダーを剣一郎のほうへと弾き飛ばした。砂埃が起き視界が遮られるが、剣一郎はゴーグルで砂が眼に入るのを防ぎ、弾き飛ばされたキメラと交差するように流し斬りを行う。技によって強化された斬撃が敵リーダーを横薙ぎに切り裂き、一撃で撃破した。
「ハッハー! 逃げるキメラを七面鳥撃ちだ! ゴキゲンだぜ!」
 リーダーを失い、撤退を始めるキメラ達を逃がさないように、九蔵が両手に持った銃を乱射。運と剣一郎も次々とキメラを斬り倒し、ついに敵を殲滅するのだった。
「多少の傷を負ったが、十分にキメラを駆逐できただろう。一度街に戻り報告、その後は急いでC地区に向かうぞ」
「オーケー、軽く手当てしたらC地区に向かおうぜ」
「ふふ、あいつらの驚く顔が目に浮かぶなぁ」
 そして三人は目標のキメラを退治すると、急いでC地区へと向かうのであった。

 C地区のミズキ達は、迎撃の準備を整えて警備に付いた。そして夜になり、森の方からキメラの群れが姿を現す。それを発見したミズキと拓那はたった二人でキメラの迎撃へと向かった。
「ボクはお前らに容赦はしない」
 向かってくるキメラに対し、前に出て攻撃を受け止めるミズキ。昆虫の硬い外骨格での体当たりを受け流し、逆に二本の刀で斬り裂いた。
「ごめん、討ちもらしがそっち行った。フォローお願い!」
「ハァ! 何、その攻撃。そんなでボクを倒せると思ったの、なにそれ」
 拓那も懸命に援護するが、どうしても怪我により動きが鈍い。そして倒し損ねたキメラが、ミズキへと向かうが、気合と共に敵の一撃を弾いて剣を振るう。しかし‥‥。
「はぁ‥‥はぁ‥‥無茶をするのは変えられないか」
「‥‥ようやく敵さんも諦めたか。っくそ、自業自得だな。体調さえ万全ならもっと動けるのに」
 それからしばらくしてキメラを追っ払った二人。だが、拓那が怪我で体調を崩し、それでなくてもたった二人での防衛。疲労は酷く、またダメージも少なからず受けることとなる。特に、万全ではない拓那をフォローしなければならないミズキは、どうしても無理をしなくてはならなかった。そして一日が終わり‥‥。
「どうしよう。このまま、またキメラに襲われたら、守りきれないかもしれない‥‥」
 次の日、そして三日目を迎えたころ、ミズキは肩を落としポツリと呟いた。身体へのダメージは手当てと肉体の活性化によって癒せるが、錬力はどうしても心もとない。次にキメラに襲われれば街を守りきれないと不安に思ってしまう。
「悪い、俺が足手まといになってるな」
「ううん、そんなことないよ。ボクがもっとしっかりしていれば」
 申し訳なさそうに言う拓那に、ミズキは首を横に振り答えるが、現状を打破する良い考えは浮かばない。
「くそ、どうしたらいいんだ。このままじゃ、またあのときのように‥‥」
 過去に何かあったのか、ミズキは何かを思い出しては表情を暗くする。そこへ‥‥。
「何を暗くなっているんだ柿原」
「え? アンナ隊長? どうしてここに」
 現れたのは『S.T.O.R.M. Hawks』の隊長であるアンナ中尉。アンナは今回、ミズキ達のサポートに回るはずであったが。
「たった二人でよく持ちこたえてくれた。待たせたが、援軍を連れてきたぞ」
「どうやら間に合ったようだな」
「大丈夫かミズキ? タクも無事だったか」
「大変だったな。あとは私達に任せてくれ」
「ヒーローは、ピンチの時の駆けつけてくるものさ」
「騎兵隊の到着ってやつですね」
「怪我、大丈夫、です? 痛く、ありま、せん?」
 アンナの後ろには、A地区とB地区へと向かった仲間達。それぞれが、二人に労いの声を掛け、健闘を称える。
「アンナ隊長‥‥あなたの様になりたい。ボクは責任から逃げた馬鹿だけど」
「なにを言っている。柿原は逃げていないし、十分に役目をこなした。胸を張れ! 君は自信を持っていい!」
「はい‥‥。はい‥‥!」
 アンナの言葉に、ミズキは勇気を貰った気がして力強く返事をする。そして、一行は残りのキメラの退治に向かう。いまの彼らならば、キメラを退治することは容易いことだろう。
「これよりキメラ殲滅に向かう! 全員、出撃準備!」
「了解!」
 こうして、『S.T.O.R.M. Hawks』は任務を達成するのであった。