タイトル:【AP】人類滅亡!?マスター:緑野まりも

シナリオ形態: イベント
難易度: 不明
参加人数: 20 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/22 03:29

●オープニング本文


※注意 このシナリオは、エイプリルフール限定の嘘シナリオとなっています。そのため、このシナリオに出てくる設定はすべて嘘です。本来のCTSの世界観とは異なった内容となっておりますので、くれぐれもご注意ください。間違っても、通常シナリオなどにこのシナリオの設定を持ち込まないようにしてください。

 2009年4月1日‥‥。
「ふわぁ‥‥、今日もいい天気‥‥な、なんだありゃ!」
 その日、空を見上げると巨大な円盤が宙に浮いていた。しかも、その数は一つや二つではなく、数え切れないほど無数の数であり、見たものは一瞬あっけに取られる。
「‥‥ば、バグアの円盤だぁぁ!」
 突如現れたバグアの大部隊。しかもそれは、一つの地域だけではなく、世界全国に同時に現れたのである。突如行われたバグアの総攻撃に、UPC軍は対応が遅れ為す術も無く、人々はパニックに陥る。そして、たった一日のうちに人類のほとんどが壊滅してしまった。
「緊急事態! 緊急事態! 全能力者は、速やかにバグアの進攻を食い止めること!」
 人類最後の砦、このラストホープも、バグアの攻撃に晒されていた。UPC軍も能力者達も、必死に抵抗をするが、バグアの戦力は大きく、抵抗空しく進攻を許してしまう。バグアのワームが建物を破壊し、また数多くのキメラが島に上陸して、そこに暮らす民間人達が襲われる。ラストホープは火に包まれ、まるで地獄のようになってしまった。
「せめて‥‥民間人だけでも助けなければ‥‥うぉぉぉ!」
 UPCの女性中尉も、武器を取り必死になって人々を守ろうと奮戦する。しかし敵は多く、その身は血にまみれぼろぼろになっていった。それでも戦い続ける彼女だが、一緒に戦っていた仲間達は、一人また一人と倒れていく。
「助けが‥‥必ず助けが来るはずだ‥‥それまで持ちこたえてみせる‥‥」
 時に仲間を、時に愛する者を、時に力無き人々を守りながら倒れていく能力者達。それでも彼らは希望を捨てずに戦い続ける。だが、彼らは知らなかった、すでにラストホープの自爆スイッチが押されていたことを‥‥。UPC上層部は、このラストホープを捨て、脱出することを決定していた。加えて、ラストホープを自爆させ、この地を攻めるバグアを道連れにしようとしていた。だがそれは、民間人や一般の能力者、下位の軍人には知らされておらず、脱出するのは一部の人間だけで、あとは全てが自爆の巻き添えとなることになる‥‥。しかし、最後の砦ラストホープと多くの能力者を失って、人類に生き残る術などあるはずが無い。この判断はあまりに大きなミスであるといえた。人類はもう滅亡するしか道はないのである‥‥。

●参加者一覧

/ 藤田あやこ(ga0204) / 榊 兵衛(ga0388) / セシリア・D・篠畑(ga0475) / トレイシー・バース(ga1414) / 如月・由梨(ga1805) / 西島 百白(ga2123) / 伊藤 毅(ga2610) / UNKNOWN(ga4276) / 佐竹 優理(ga4607) / カルマ・シュタット(ga6302) / ロジャー・ハイマン(ga7073) / 森里・氷雨(ga8490) / 水流 薫(ga8626) / 三枝 雄二(ga9107) / 赤崎羽矢子(gb2140) / ドッグ・ラブラード(gb2486) / 美環 響(gb2863) / 堺・清四郎(gb3564) / 美環 玲(gb5471) / Lilli(gb5853

●リプレイ本文

 4月1日‥‥突然のバグアの大進攻に世界はパニックに陥り、そして成す術もなく消えていった日。ここ、ラストホープでは、最後まで希望を捨てず戦い続ける英雄達の姿があった‥‥。
「ここは絶対に通さん!!」
 ヘルメットワームの大部隊と交戦した堺・清四郎(gb3564)は、バグアのエース機と対決することとなった。だがしかし、すでにこれまでの戦闘で機体に大きな損傷を受けていた清四郎は、相手になす術も無く嬲られ続ける。清四郎は必死に耐えるが、このままでは確実に落とされるだろう。
「ぐあっ!? ‥‥ふん、是非に及ばず」
 やがて、攻撃を受けた衝撃で額から血を流す清四郎。だが、それで覚悟を決めた。彼は武装を外し、残されたブースターを全開にして、敵の機体へと特攻をかけた!
「人間を‥‥舐めるなああああぁぁ!!!」
 突然の急加速に、額から勢い良く血が吹き出る。しかし、清四郎は気にすることも無く、雄たけびをあげた。ついには、敵を捉え、機体同士が激しく衝突する。そして、爆発。
「綺麗な桜だな‥‥あ、あれは‥‥」
 白くなっていく視界の中、清四郎は今日見た桜の中にいた。そして、桜の向こうには‥‥。
「父さん‥‥俺は‥‥貴方の背中に追いつけたかな‥‥?」
 はるか昔に見た父親の背中。清四郎はそう呟いて、その背中へと手を伸ばすのだった‥‥。

「すっかりぼろぼろだね相棒。でも、まだ諦めるわけには行かない。ラストホープまでたどり着き、最後まで人々を助けるんだ」
 赤崎羽矢子(gb2140)はそう愛機のKVに声をかけ、赤く燃えるラストホープへと向かう。すでに羽矢子の機体シュテルンは直前の戦闘で多大なダメージを受け、航空機への変形が不可能になっており、4基のバーニアでかろうじて水上に留まっている状態、いつ墜落してもおかしくなかったといった感じだ。しかしそれでも、散っていった多くの仲間のためにも、彼女はまだここで終わるわけにはいかなかった。
「!!」
 しかし、そこへ一機の敵機体が高速で接近してくる。羽矢子は緊張と焦りで表情を歪め、あわてて機体を敵の方向へと向けた。
「‥‥‥」
 だが、そこへ現れた赤い塗装のされたバグアのエース機に、羽矢子は一瞬驚きの表情を浮かべ、そしてニヤリと笑みを浮かべた。
「どうやらここで終わりらしい。けど、ヨリシロの一人くらい解放してみせようじゃない。最後まで付き合ってね、相棒!」
 そのエース機と羽矢子にはなにかしらの因縁があったのだろう。エース機の方も、ほかの仲間を連れず、たった一機で羽矢子の前に現れた。羽矢子は、諦めとは違う、なにか悟ったような表情になると、ぼろぼろの機体に想いを込めて加速させるのだった。

 ラストホープ島内でもすでにバグアの侵入を許し、民間人の逃げ惑う中で戦闘が開始されていた。
「さぁ、狩りの‥‥時間だ‥‥」
 白い虎のカラーリングが施された四速歩行のKVを駆り、建物の影に隠れながら敵を捕捉した西島 百白(ga2123)は、ミサイルの一斉射撃により迫り来る敵ワーム群へと奇襲した。そして、相手が体勢を崩している隙をついて、一気に駆け抜け鋭い爪で敵の一体を切り裂く。
「まずは‥‥一匹‥‥」
 すぐさま、反撃してくる敵の攻撃を横っ飛びに避け、次のワームへと突撃。縦横無尽に駆け巡り、敵ワーム群へと打撃を加えていく。
「これが‥‥俺『達』の‥‥狩りだ‥‥」
 瞬く間に数体のワームを撃破した百白。これまでに培ってきた全ての技能を引き出し、無双の強さを発揮している。
「!? ‥‥子供だと! ‥‥逃げ遅れたのか!」
 しかしそこへ、彼の視界に人影が映る。どうやら、逃げ遅れた民間人の子供がまだ残っていたようだ。子供は怯えたように建物の影に隠れて頭を抱えて座り込んでいる。
「面倒だな! くそ!」
 百白は民間人に攻撃が行かないよう、自らの機体を盾にするように敵の前に立ちふさがる。
「早く逃げろ! ‥‥もう少しだけ‥‥耐えてくれ‥‥白虎!」
 百白の指示に、慌てて動き出す子供。その間、百白は攻撃を受け続けながら、それを見送る。やがて、その姿が見えなくなったころ。
「すまないな‥‥白虎‥‥面倒事に‥‥つき合わせて‥‥最後の最後で‥‥面倒事に‥‥首を‥‥突っ込んだな」
 攻撃を受けた際の爆発で瀕死のダメージを受けてしまった百白。最後の力で自分の愛機にそう語りかけ、やがて力尽き意識を失った。
「まったく‥‥面倒なことに‥‥なったな」
 その直後、機体はコックピットを破壊され、完全に機能を停止するのだった。

「セィ! ハァ! まだまだぁ!」
 仲間を先に行かせるため、一人敵の群れに残った榊兵衛(ga0388)。多くの敵を相手取り、ボロボロになりながらも敵を打ち倒す。しかしそこへ、今までよりも巨大なゴーレムが現れた。どうやら、敵の切り札のようである。
「エース機を繰り出してくるとはな‥‥俺も高く評価されたものだな。宜しい、本懐である。ここを俺の死に場所としてくれよう」
 新しい敵の出現に、兵衛は覚悟を決めて向き直った。そして、決死の覚悟でゴーレムへと突っ込む。しかし、すでに機体は思ったようには動かず、相手の攻撃を避けきれずに、直撃を受けてしまう。
「ぐぅ‥‥。これしきのことで‥‥止まると思うか!」
 それでも、兵衛は止まることなく、前へと進む。無理をした機体は、右腕が吹き飛び、武器である機槍も失う。ここぞとばかりに、周囲の敵からも攻撃を受け、全身に無数の剣が突き刺さるが、それでも止まることは無い。
「動け! せめて一機でも多く道連れにせねば!」
 兵衛の想いが伝わったのか、すでにほとんどの機構が破壊されながらも、機体は止まらず‥‥。そして、巨大ゴーレムの懐に入った機体は、一瞬の光と共に爆発した。その爆発に巻き込まれ、周囲のゴーレムも共に吹き飛ぶ。
 やがて、その場に残されたのは、地面に突き刺さった兵衛の機槍だけであった。

「‥‥!」
 敵に襲われた避難所へと向かったセシリア・ディールス(ga0475)と如月・由梨(ga1805)は、その場を襲おうとする部隊を発見、戦闘を開始する。その最中、どこかで何かが爆発した音を聞いた気がした。
「私達をここに向かわせてくれた榊様の分も、私達ががんばらないと」
「‥‥‥」
 由梨の言葉にセシリアが頷き、二人は決死の覚悟で敵を撃破していく。
「スラスターライフル残弾0。練力残量30%、機体損壊率50%を超えましたか‥‥いえ、まだまだです!」
「‥‥まだ‥‥まだです‥‥」
 武器もエネルギーも残り少なくなり、機体のすでにボロボロ。それでも二人は戦い続ける。自分達の背中に、避難所に避難している多くの民間人の命が背負われてると思えば、ここを退くわけにはいかない。
「機体が‥‥しまっ‥‥」
 ‥‥だが、蓄積されてきたダメージがついに限界を超え、セシリアの機体の動きが鈍る。そこへ、敵の攻撃が振り下ろされた。
「‥‥っ!」
「ディールス様!?」
「‥‥っ‥‥もう少し‥‥まだ‥‥!」
 大きなダメージを受けながらも、セシリアは剣で敵を薙ぎ払う。それでも、敵は止まらずにセシリアの機体へと追撃が加えられた‥‥。
「‥‥! (‥‥これで‥‥もう‥‥‥死ぬのは‥‥怖く、ない‥‥でも‥‥もう‥‥あの人‥‥にも‥‥会え、ない‥‥?)」
 一瞬の思考、『あの人』の姿が思い浮かぶ。そして、頬を伝う熱いなにか。
「なみ‥‥だ‥‥?」
 セシリアが最後の言葉を呟いたその時、機体は攻撃を受け、コックピットが破壊されてしまう。
「ディールス様! ディールス様! ‥‥応答なし、ですか。後、私一人」
 セシリアの姿に、悲痛な表情を浮かべる由梨。しかし、すぐに表情を引き締め、動かない機体を無理やりにでも動かし、敵を撃つ。だが、すでに限界を超えた機体に、敵の攻撃が襲い来る。
「こふっ‥‥ここまで、ですか‥‥? ハッ‥‥ハッ‥‥ま、まだ、まだ、私は、戦えま、す」
 敵の攻撃が突き刺さり、衝撃によって壊れた機体の破片が由梨の身体を傷つける。それでも気丈に振る舞い、最後まで諦めずに戦い続けようとする由梨。しかし、ついに錬力が切れ完全に機体の動きが止まった。
「最期くらい、あの人の側に、いたかったですけど‥‥。ふ、ふふ、アハハハハ、か、掛かってきなさい。私の機体はそう簡単に墜ちませんよ‥‥?」
 そして、止めの一撃が由梨の機体に加えられる‥‥。
「ゴフッ‥‥もう、少しで、あの人、の側に‥‥」
 コックピットごと敵の剣に貫かれ、由梨は口から血を吐き出し事切れるのであった。

「一足遅かった‥‥ってことかい」
 佐竹 優理(ga4607)が着いたころには避難所の一つであるはずの公園はすでにキメラによって占拠されていた。周囲には、いくつもの死体。その中には守るために必死で戦ったのであろうUPCの兵士と、同じく能力者達のものも有る。その様子に、優理は悔しそうに顔を歪めた。そして、優理の存在に気づいたキメラ達が、すぐさま優理を囲む。
「いいさ、やってやるさ‥‥さぁ、何体倒せるでしょ〜か!」
 すでに逃げ場は無い、むしろ逃げる気は無かった。優理は刀を構え、キメラ達を睨みつけ、最後の戦いを始める。
「ふっふっふ‥‥コレ、やってみたかったんだよね」
 そう言って予備の剣を地面に突き立てると、優理は銃を手に持ち、キメラへと先制攻撃を行う。その後、銃が弾切れになれば、突き立てておいた剣を引き抜いて切り裂く。群がる敵に対し、足を止め防戦の構えで一撃一撃に力を込めながら敵を粉砕していった。
「あー‥‥良い仕事したわ‥‥へへ‥‥」
 しかしあまりに多くの敵に、腕をやられ、足をやられ、ついには腹に致命傷を負う。それでも口に剣を銜えてでも戦い、十匹以上のキメラを倒す。そして満身創痍の姿となった優理は、最後にそう口にすると、動かないはずの腕を無理に動かし眼鏡のズレを直すと、満足そうに散っていったのだった。

「皆さん落ち着いて! あっちで脱出艇の用意がされているようです。キメラは俺が食い止めます、慌てず騒がずに向かってください!」
「フッフフ‥‥来た早々こんなのなんて、つくづくついてないわね」
 ロジャー・ハイマン(ga7073)とLilli(gb5853)は、そう言って民間人を安全な場所へと誘導しようとしていた。
「‥‥でも、このラストホープもいつまで持つか‥‥」
 微笑を絶やさぬまま、ロジャーはポツリと呟く。彼はすでにある程度の情報を得ていた。それは、正規軍のほとんどが壊滅、ラストホープ各地でバグアの攻撃が行われており、脱出も難しいというものだった。だが、そんなことを民間人に伝えれば、パニックで被害はより大きくなってしまう。今はロジャーも脱出艇に望みを託し、民間人達を誘導するしかなかった。
「Lilliさん、ここはお任せします」
「別にかまわないけれど、ロジャーさんはどうするつもり?」
「俺は、他に誰かいないか探してきます」
 それからしばらくして、民間人を無事に脱出艇の待つ飛行場へと送ったロジャーは、Lilliにその場を任せ、他に逃げ遅れた民間人がいないか捜索に出た。そして‥‥。
「あれは!」
 どこからか逃げてきたのか、泣きながら道を歩いてくる子供を発見したロジャー。だがしかし、突然茂みからキメラが現れ、その子供へと襲い掛かった。
「危ない!!」
 とっさに、ロジャーは瞬天速により子供の前まで飛んだ。そして、キメラの攻撃をその身で受ける。
「ぐ、ぐぅ‥‥。させるかぁ!」
 腹を引き裂かれるロジャー。それでも、渾身の力でキメラを打ち倒す。
「ほら、もう大丈夫‥‥」
 突然のことにわけもわからず泣きじゃくる子供。ロジャーはその子供の頭を優しくなでて安心させようとする。その行為に、逆に心配そうに自分を見る子供に、ロジャーは何事も無かったかのように微笑んだ。
「ん、俺は大丈夫だから‥‥早く皆の所に」
 子供を避難所へと向かわせ、その姿が見えなくなるまで手を振るロジャー。その間ずっと笑みを浮かべていたロジャーだが、実際はあまりに出血が多すぎた。子供の姿が見えなくなると、声をあげることもなく倒れこみ、そのまま息を引き取るのだった。

「あぁーあ‥‥急に総攻撃なんて、ね」
 愛用の銃のマガジンを交換しながら、水流 薫(ga8626)は小さくため息をついた。宿舎から出た彼は、現状を把握しようとしばらく様子を見ていたのだが、明らかに不利な状況にラストホープからの脱出を図ることにする。
「とりあえず、高速艇の発着所かな」
 目標を確認した薫は、草木に紛れながら、気配を消して進んだ。その途中、彼はキメラに襲われ重傷を負った者を見かける。
「ハァ‥‥クソ。俺にはどうせまともな治療は出来ないから助けてもあれはもう無駄だ‥‥。無駄‥‥ならこれで良い、さ‥‥」
 自分にそう言い聞かせ、倒れている者を見捨てる薫。罪悪感に苛まれながらも、まずは自分が生き残ることを考えて行動する。その後も、何度も同じような場面に出くわし、そのたびに決断を繰り返した。
「まさか、ここがこんな酷い戦場になるなんてね。実際に体験してみると‥‥本当に地獄だよな」
 ミリタリーマニアとして、多くの戦場についての資料を見てきた薫だったが、実際に戦場の凄惨さを目の当たりにして、顔を歪め吐き出すように呟く。その後、無事に脱出艇までたどり着いた薫だったが‥‥。
「クッソ、なんで燃料が入って無いんだよ‥‥」
 脱出艇には燃料が入っておらず、この場に集まった民間人達も一様に動揺していた。
「給油を行うには‥‥、たしか前に見た資料で‥‥、あそこの部屋から操作すれば‥‥」
 薫は脱出艇に燃料を入れるプロセスを頭に思い浮かべ、向かうべき場所を決める。しかし、そこまで行くには、どう考えても危険が伴う。
「っていっても、このままここにいたってしかたないだろ! 一般人だっているんだし‥‥行くしかないか」
 少し迷った薫だが、怯えたように身を寄せる民間人達の姿に、決意したように表情を引き締め、給油施設へと走り出した。
「ようやく‥‥ついた‥‥」
 しばらくして、薫は脱出艇に給油を行うための制御室へとたどり着いた。しかし、途中でキメラに襲われ、足に大きな傷を負ってしまう。足を引き摺りながら制御版へと向かう薫。
「たしかここをこうで‥‥よし、これで大丈夫のはずだ」
 機械を操作し、脱出艇に給油が開始されたことを確認すると、薫はズルリと崩れるように座り込む。部屋の外では、ドアをぶち破ろうとキメラが体当たりをしている音が聞こえる。
「あぁーあ‥‥。なんで生き残ろうとして折角ここまで来て肝心の自分以外だけ脱出させちゃうかな、俺は‥‥ハハハッ」
 やがて、給油が完了されたことを示す表示に、薫は苦笑しながらもどこかしら満足そうにつぶやく。そして、ついに室内に乗り込んできたキメラ達へと視線を向けると、ライターを取り出し笑みを浮かべた。すでに室内には気化した燃料が充満してあり‥‥。
『カッ!!』
 大爆発が起き、薫は多くのキメラを道連れにして燃え尽きたのだった。

 ラストホープがバグアの攻撃によって火に包まれる少し前。一機の航空空母が発進準備を行っていた。
「ほらほら急げよー! 敵が来ちまうだろうが!」
 その中で、森里・氷雨(ga8490)は整備員達に怒鳴りつけながら、優越に浸る表情を浮かべていた。
「いやぁ、ついてたぜ。まさか俺にあんな話が舞い込んでくるとはな。なぁ、兄弟?」
「‥‥‥」
 普段の猫かぶりではなく、本能丸出しの状態で肩を叩く氷雨に、同じく整備の様子を確認していたカルマ・シュタット(ga6302)が苦々しい表情でそっぽを向く。彼らは、今回の襲撃発覚の直後、UPC軍上層部の幹部だという者から、この航空空母の護衛を依頼されていた。だがそれは、ただの護衛依頼ではなかった。
「くくく‥‥。計画の末端といえど、俺の野望‥‥地位は手に入れられる」
「‥‥‥」
 航空空母に搭乗するのは、軍の幹部ばかり。彼らは、バグアの軍勢の勢いに危機を感じ、いち早くラストホープを捨て脱出することを決めた。しかもそれを知っているのは、一部の者のみであり、後の者はそのことを知らされずにラストホープを守ることを命じられる。つまりは、他の者を捨て駒にし、自分達だけが生き残ろうということであった。そこへ、脱出護衛のためにと氷雨とカルマ、その他数人の能力者達が呼ばれることになる。彼らは、脱出についての詳しい話を聞くことは無かったが、依頼のニュアンスからなんとなくこの状況を察し、それに対しての十分な報酬を約束されて協力することとなった。氷雨は脱出後の軍でのポスト、そしてカルマはラストホープにいる弟を脱出させるための手配。
「エアじゃない三次元彼女だって出来ちゃうぜ。ひゃっほい」
「あんまりはしゃぐな。彼らが疑いの目で見てるぞ」
「おっと、ついつい本音がでちまった。俺達はバグアの包囲を潜り抜け、増援を迎えにいく部隊だ。脱出? 馬鹿をいうな。最後の希望を掴む、使命の箱舟なんだ!」
 氷雨を戒めるように睨むカルマ。氷雨は少し慌てた振りをして口元を手で隠し。すぐに、真剣な表情を浮かべると整備員達に有ること無いこと言って誤魔化している。
「父さん母さん‥‥あいつは必ず守るから‥‥」
 氷雨の様子に少し顔をしかめながら、カルマは家族の顔を思い出しつぶやいた。やがて、脱出の準備は整い、カルマ達は護衛のためKVへと乗り込むのだった。

「これはさすがにまずいですわね。司令室、こちら美環、敵多数、増援を送られたし‥‥。司令室、なぜ応答しませんの!」
「‥‥玲さん、なにか嫌な予感がします」
「ええ、私もですわ」
 増援と指示を仰ぐために通信機を耳に当てる美環 玲(gb5471)。しかし、それに応答する者は無く、共に居た美環 響(gb2863)と玲は嫌な予感を感じた。二人は司令室のある建物の中へと入り、司令室へと向かうが、途中キメラの群れが追いついてきてしまう。
「‥‥しかたありませんね。どちらかが残って、ここでキメラを食い止めましょう」
「それならば、私が‥‥」
「僕が残ります。玲さんは下に行き、状況を確認してきてください」
 響の提案に、玲が答えるよりも先に、響が残ることを伝える。
「でも! ‥‥わかりましたわ。けれど、決して無理はしないように。危なくなったら、逃げるんですのよ」
「ええ、わかってます。やりたいことがまだありますからね。そう簡単に人生を終わらせるつもりはありませんよ」
 始め、それに首を横に振ろうとした玲だが、響の瞳に写る決意にしぶしぶと頷いた。心配する玲に、響は柔らかい笑みを浮かべながらポンと得意の手品で手元に一輪のバラを出し、それを玲に手渡して、そっと玲を抱きしめる。
「逐一連絡を取り合いましょう。それでは下の方はお任せします」
「わかりましたわ。それでは、またあとで」
 そして二人は分かれ、玲は司令室のある地下へ。響はその場に残り、キメラを食い止めることになる。
「‥‥ここが司令室ですわね」
『玲さん、そちらはどうですか?』
「いまから司令室に入りますわ」
 それからしばらくして、玲は司令室前へとたどり着いた。その間も、二人はお互いに無線での連絡を取り合い、お互いの無事を確認しあう。そして玲は、ここに来るまでに誰とも遭遇しなかったことにいっそうの不信感を募らせながら、鍵さえかかっていない司令室へと入る。
「失礼しますわ。無線が通じないので、状況確認のために直接‥‥」
 予感がしつつも一応建前としての理由を述べながら中へと入る玲。しかし、やはり玲の予感通り、室内には誰もいない‥‥。
「もぬけの空‥‥では彼らは一体どこに‥‥」
『どうしました玲さん?』
「嫌な予感が的中しましたわ。上層部の者達はすでにどこかへ隠れてしまったようです」
『‥‥‥』
 玲は落ち着いた声で、響へと状況を説明する。だが、内心は焦っていた。上層部が消え、外では防衛の部隊が劣勢に強いられている。状況はすこぶる悪く、打開する手立ても無い。このままでは、確実にラストホープはバグアによって占拠されるだろう。
「こ、これは‥‥」
 そんな中、玲が見たものは‥‥赤く点滅した非常スイッチのようなもの。それはすでに押されており、何かを示す時間が刻々とゼロへと向かって流れている。
「まさか‥‥このラストホープを自爆させようというの‥‥?」
 さすがの玲も驚きを隠せなかった。それは、まず間違いなく自爆を示すものであり。ここが司令室であることから、ラストホープ全体に関わることであることも予想できた。つまりは、このラストホープ全体を自爆させるスイッチだということである。おそらく上層部は、この自爆スイッチを押し、すでに島から脱出したのだろう。
「響さん‥‥どうやら、上層部はこのラストホープの自爆を決定し、自分達は脱出したようですわ」
『自爆‥‥ですか』
「ええ‥‥。私達はもう‥‥」
 響に自爆のことを伝える玲。響も言葉少なく応え、何かを悟ったようだ。おそらく、この自爆はラストホープにいる者全てを吹き飛ばすだろう。司令室の無線機能は停止しており、この事実を他の者に伝えることもできない。玲は絶対絶命の状況に、諦めの言葉を言おうとして‥‥ふと言葉を止める。そして、いつものような優雅な笑みを浮かべると。
「大丈夫ですわよ、響さん。自爆なんて絶対させませんわ」
『玲さん‥‥わかりました、そちらはお願いします。けして、キメラをそちらに行かせることはしませんから』
「ええ、任せてください」
 玲の言葉に、響も力強く応える。そして玲は、不可能と知りつつも、自爆を止める術を模索し始めるのだった。

「皆、行ったか‥‥先に死んだ方が負けだと。こんな勝ち方は望んでいなかったのだが、な」
 一人の男が、爆撃によりむき出しになった地面に穴を掘っている。男はそうつぶやくと、その穴に何かを埋め、近くにあった廃材を打ち立てた。
「――汝が信じる神の、懐に抱かれん事を祈ろう」
 その男、UNKNOWN(ga4276)は、その簡素な墓に向かい祈りを捧げる。それは、この戦いで共に戦った仲間達の墓。一人生き残った彼ができる唯一の供養。
「まぁ、時機に私もそっちへ行く。といっても、同じ空の上とは限らないがね」
 そう言って煙草に火をつけ、少し燻らせたあと、煙草のケースと共に墓に供える。そして墓に背中を向け、自分の愛機『UNKNOWN』へと向かう。先の戦いですでにボロボロになった機体は、歴戦の勇士を思わせる様相で相棒を待つ。機体からは、敵の接近を知らせるセンサーが点滅し、まるで早く次の戦いへ出ようと急かすようにも見えた。
「‥‥誰かいるかね?」
 UNKNOWNは通信機に向かって静かに問う。しかし、それに応える者は誰もいない。UNKNOWNはわかりきっていたとばかりの冷静な表情で、KVを発進させる。KVは地面を駆ける、すでに空を飛ぶ翼は破損し、自慢のツインブースターも用途を為さない。それでも、UNKNOWNは敵の部隊へと向かって駆ける。
「――UNKNOWN‥‥いや、○○○○が相手しよう」
 自分の本当の名を名乗るUNKNOWN。だが、それを聞くものは誰もいない。それでも気にした様子はなく、ジャズを口ずさみながらバグアの部隊へと攻撃を開始するUNKNOWN。やがて‥‥。
「――やれやれ、だな」
 コックピットのキャノピーを突き破った槍が、UNKNOWNの眼前で止まっている。帽子を目深に被ったUNKNOWNはそれを冷ややかな視線で見つめ、ゆっくりとした動作で、隠し持っていた最後の煙草を取り出して銜えた。
「やはり私は、UNKNOWNのようだ」
 煙草に火をつけ、紫煙を燻らせるUNKNOWN。次の瞬間、機体は爆発し、彼の全てを消し去った。

「うふっ、うふっ、うふふふふ、わぁっつはっはっは!!」
 そのような状況の中、ラストホープの一角で高笑いをする女性が一人。彼女の名は藤田あやこ(ga0204)、またの名を超時空博士アヤコ!
「よくもやってくれたわね! 追い詰められた人類が、どこまで踏み外すか思い知らせてやるわ!」
 周囲が爆撃で破壊されているにも関わらず、高いビルの上で生身のまま仁王立ちになり、空を飛ぶヘルメットワームに向かって声を張り上げるアヤコ。そして、何かの切り札があるのか、すっと白衣の中に手を入れた‥‥。
「こんな事もあろうかと!」
 自信満々に取り出したのは、何かのスイッチのようなもの。おそらくそれが秘密兵器か何かの起動スイッチなのだろう。アヤコは笑みを浮かべたまま、そのスイッチを押した!
「いでよ! ぼくの私のラストフォーゲル! かっこ仮かっこ閉じ!」
 アヤコの声に応じるように、雷が地面を穿ち、巨大ロボットが現れ‥‥るはずもなく、何もおきない。
「あ、あれぇ? じゃあ、逝け! 戦艦エリス号!」
 もちろん、空を覆いつくすような巨大戦艦が現れることもなく、アヤコの叫びは空しく消えていった。そのうちに、ヘルメットワームからの攻撃が、アヤコの立っているビルに直撃、アヤコはその爆発によって空へと投げ出されてしまうのだった。
「これで勝ったと、お〜も〜う〜な〜よ〜!」
 もう勝負ついてるから。と、バグアが言ったかどうかは定かではない。

「やっぱりあった、とりあえず、機体はしっかり整備されてるみたいっすから、燃料と弾薬さえ入れれば、飛べそうっすね」
「こいつはファントム、保管されていたとは聞いていたが‥‥」
「先輩、遅いっすよ、機体のほうはいつでも飛べる状態っす、後席には俺が座るっすから、先輩も早く乗ってください」
「わかった、やっぱり、おれたちの相棒は、こいつでなくちゃな」
 機体を破壊され、予備の機体が無かったため、倉庫に眠っていた戦闘機を見つけだした三枝 雄二(ga9107)と 伊藤 毅(ga2610)の二人は一瞬感慨深げにそれを見上げた。F−4ファントム?、かつて二人の所属していた日本の航空自衛隊が使用していた二人乗り戦闘機である。戦闘機は一応飛べるように整備されており、武装もなんとか装着可能のようであった。二人は、整備士に頼み込んで、この戦闘機で出撃できるようにしてもらう。
「燃料満タン、油圧正常、機体動作よし」
「伝送系・電算系・電気系統、オールグリーン」
 無事、武装も装着した戦闘機に乗り込む二人。懐かしさに気分が高揚するのを、なんとか抑えて発進準備を整える。
「タワー、こちらドラゴン‥‥やられちまったか、自己判断で出る」
 毅の通信に応答は無い。どうやら、管制塔は破壊されてしまったようだ。二人はしかたなく自己判断で戦闘機を発進させた。そして、二人は再び空へと舞い上がっていく。
「12時方向、敵機多数、はずすほうが難しいっす、どんどんうっちゃってください!」
「そーら、亡霊様のお帰りだ!」
 敵を発見し、積めるだけ積んだ空対空ミサイルを放つ毅。しかし悲しいかな、SESの搭載されていない旧式の戦闘機一機で、バグアのヘルメットワームを相手にするのは無理がある。
「ドラゴン1FOX2、今のが最後のAAMっすよ」
「こうなりゃやけだな、雄二、付き合ってもらうぞ」
「何いってんすか、いつでもどうぞ、二人で姐さんに会いに行きましょ」
「ああ、あいつの顔も、久しぶりに見たいからな」
 悲観的な状況でも、二人は笑いあう。そして、機体を一気に加速させた。
「くらいな、ドラゴン1、FOX4!」
 せめて一機でも、毅は決死の覚悟で体当たりを敢行する。
「いま、そっちに‥‥」
 攻撃を受け、火の玉のようになりながら、二人の乗った機体は敵の機体にぶつかり爆散するのだった。

「うぐっ‥‥!」
 キメラの攻撃が腹を割く。だが、致命傷とも言えるそのその一撃に必死に耐え、トレイシー・バース(ga1414)は斧を振り下ろした。
「はぁ‥‥はぁ‥‥」
 それからしばらく経ち、トレイシーは建物の影に座り込んでいた。彼女の傷は、簡単な応急処置が施されていたがほとんど効果は無く、止め処無く流れる血で包帯は赤く染まっている。応急処置を施した者はすでに無く、彼女は一人、遠くを見つめるように空を見上げていた。
「嗚呼ママごめんなさいママ。ママ、私が出ていくことに猛反対してた。それを、絶対戻ってくるからって約束して出てきたのにこんな事になっちゃったわ。本当にごめんなさい。罰は受け入れるわ。だからどうかママに神のご加護がありますように‥‥」
 それは、故郷に残してきた母親に対しての想いの言葉。息も絶え絶えに、纏わりつく虫を払うことも無く、ただ自分の想いを口にする。謝罪、懺悔、願い‥‥。
「嗚呼パパごめんなさいパパ。パパ、軍人として皆を守るために戦って死んでいった。すっごく悲しかったけど、パパは私の誇り、憧れよ。なのに、私ったらこんな所で寝そべって起きあがれずにいる。パパの代わりに戦うって決めてたのに。でも私一生懸命戦った。本当よ、お願い信じて。パパなら分かってくれるわよね? だから、そろそろそっちに行っても良いかしら、パパ。またパパに会いたい。お話ししたいこと、いっぱいある。ねぇパパ‥‥」
 そして、次に想うのは亡くなった父親のこと。憧れていた父親のようになろうと、必死になって戦ってきた。これまでのことが走馬灯のように流れ、認めてもらえただろうかと心配になりながらも呟く。
「パパ‥‥ママ‥‥迎えに‥‥来てくれた‥‥の‥‥?」
 やがて、トレイシーの瞳から光が失われていく。その狭まっていく視界の中で、彼女は確かに両親の姿を見た。二人は優しい微笑みを浮かべ、トレイシーに手を差し出す。その姿に、トレイシーは嬉しそうに微笑み、手を添えた。そして、トレイシーは空を見上げたまま息を引き取るのだった。

「あいつに伝えておいてください。必ず後を追うと‥‥お願いします」
 航空空母を安全圏へと逃がしたカルマは、そう告げてラストホープへと戻っていく。殿として最後までこの場に留まるつもりのようであった。
「へへ、馬鹿なやつだな、わざわざ危険な場所に残ろうとするだなんて。ここで死んじまったら元も子もないだろうに」
 それを見送り、空母に付き従って脱出する氷雨は、カルマを馬鹿にするような笑みを浮かべた。バグアの包囲を突破するために、カルマや氷雨を含むどの機体も大きなダメージを受け、まともに戦える状態ではない。もし残って戦うようならば、それは死を意味するのと同じであった。
「だがこれで、俺もお偉いさんの仲間入りってわけだ、くくく‥‥」
 そんな悪い笑みを浮かべる氷雨。しかし彼は、予想もしていない出来事に見舞われる。
「な!? てめぇ、いったい何を!!」
 突然、同じく護衛についていた僚機に攻撃を受け、機体が大きく揺れた。しかも、それは自分だけではなく、他の傭兵達も同じように一部の僚機に襲われている。
「そ、そうか、そういうことかよ‥‥畜生! 騙したな! 貴様らだけは許せ‥‥な」
 どうやら、傭兵達は捨て駒として使われ、最後は口封じの為に殺されるようだ。氷雨は突然の裏切りに、怨嗟の声をあげながら、海へと落ちていくのだった。

「あいつは無事に‥‥脱出できただろうか‥‥」
 殿として残ったカルマは、追撃に来たヘルメットワームと交戦。なんとかこれを退けながらも、ぼろぼろになりすでに飛行機能が失いつつあった。そして、カルマ自身も多量の出血で、意識を失いそうになっている。それでも、弟が待っているであろう方角へと必死に飛ぶカルマ。
「‥‥父‥‥さん‥‥母さん‥‥約束‥‥は‥‥守れない‥‥みたいだ」
 やがて、機体、肉体共に限界を迎えたカルマは、ゆっくりと水面へと落ちていき、水柱が立つほどの閃光と共に消えていった。

「まだ‥‥あの人は無事かな‥‥」
 墜落したKVから這い出るドッグ・ラブラード(gb2486)は、満身創痍になりながらも空を見上げて、いまだ戦い続けているKV達を眺める。
「‥‥そして、誰もいなくなる‥‥か‥‥。‥‥ん?」
 一機、また一機と落とされていくKV達。その様子を冷めた視線のまま見つめポツリとつぶやいた。そこで、ふと彼の耳に泣き声のようなものが聞こえてきた。声のするほうへと近づき、瓦礫を押しのけてみると、そこには毛布に包まった赤ん坊の姿。どうやら、たまたま落ちてきた瓦礫が隙間になり、潰されずにすんだようだ。ドッグは、その赤ん坊をそっと抱き上げた。
「必死に生きようとしているんだな‥‥」
 泣き続ける赤ん坊の様子に、自然と笑みが浮かび上がる。人類の滅亡の危機、それでも必死に生きようとする姿に、感動のようなものを感じる。しかし、ドッグは知ることとなる、人類はすでに生きることを諦めたのだと。
「なんだこの反応は? 地下に巨大な熱源反応!? まさか‥‥!!」
 KVのセンサーに映し出されたもの。それは、ラストホープの自爆を表す兆候。ドッグは、絶望に包まれ一瞬愕然とする。
「今、希望の全ては灰燼に帰す‥‥それでも‥‥神よ‥‥初めて心から貴方の存在を願う‥‥貴方が真実、存在するならば‥‥この生命に幸いを‥‥!」
 ドッグは赤ん坊を胸に抱きしめた。そして、鉄となりこの子を守ろうとするかのように、その身を覚醒し全身を黒く染める。
「この手の中の温もりは今、ここに在るのだ! 生きようと心臓を鳴らし、力に満ちた声を上げている! なぜ、願わずに要られるか!」
 覚醒し冷えるはずの心は、むしろ逆に熱く燃え上がる。心の声が無意識のうちに口から飛び出る。そして‥‥ドッグと赤ん坊はまばゆい光に包まれるのであった。

『玲さん今度の休日に久しぶりに出かけませんか?』
「あら、いいですわね。お弁当を持って、公園にピクニックに行って。桜の木の下で優雅に紅茶なんて素敵ですわ」
 無線で響と他愛もない会話をしながら、玲は半ば諦めながらも自爆装置の解除を行っていた。だが、技術も道具も時間も無い。この何も無い状態で、解除を行うには無理があった。
『桜‥‥きっと綺麗なんでしょうね』
「そうですね、ちょうど散り際の一番綺麗な時になりそう‥‥」
 会話を続けながらも、時間は刻一刻とタイムリミットへと迫っていた。そして、自爆まで残り数十秒。
「ねぇ、響さん、聞いて欲しいの‥‥」
『‥‥‥』
「ホントは直接言いたかったのですが‥‥響さん?」
『‥‥‥』
 玲が何かを響に伝えようとする。しかし、響からの返事は無い。響は、キメラとの戦いで重症を負い、必死に平静を装いながら玲と会話を続けるも、ついに力尽きていた。一瞬、呆然とする玲。しかし、すぐに何かを悟ったように響から貰ったバラを抱き、にっこりと微笑んで見せた。
「世界一尊敬しているわ、愛してる‥‥」
 そして、二人は光に包まれた。

「ねぇ‥‥もっと痛いの教えてよ!!」
 Lilliはロジャーと分かれた後、飛行場を襲撃してきたキメラと交戦していた。攻撃を受け傷を負っても、強気の言葉を吐きながら、キメラへとナイフを突き立てるLilli。周囲には、急所にナイフが突き刺さったキメラの死骸が多数あり、それ以上の数のキメラが彼女を囲んでいた。
「カハッ! まだよ、まだこれくらいじゃ足りない‥‥。もっと遊びましょう。あの船が出るまで‥‥ね!」
 Lilliが必死に戦うその後方には、民間人を乗せた脱出艇。脱出艇は発進準備に入っており、あと少しで飛び立つ所であった。Lilliはその船を守るため、地上に残り、キメラと戦っているのである。
「もう少し‥‥あとちょっと‥‥」
 ついには何本も用意したナイフを全て失い、それでも戦い続けるLilli。そして、ようやく脱出艇が飛び立つ‥‥だが。
「そう‥‥首輪を外されていたとも知らずに、飼い主に従っていたなんて‥‥フフッ、馬鹿みたいね」
 突如島の中央から広がってくる光の渦に、Lilliは何かを悟り苦笑いを浮かべる。そして、全てを飲み込む光の中へと消えていった。

「そん、な‥‥!」
 羽矢子はなすすべもなく赤いエース機に落とされる。大破し海に落ちたKVは、もうすでに浮き上がる力も無いように見えた。羽矢子はこれまでの闘いと落とされた衝撃の怪我で身動きがとれず、機体からの脱出もできない。そのような様子に、赤いエース機は戦いは終わったとばかりに羽矢子から背中を向け、去ろうとしていた。そのとき!
「止めを刺さずに立ちさるなんて、あんたも甘くなったもんだね!」
 突如息を吹き返す機体。四つのスラスターを全開に、水中から飛び出すと背中を向けていたエース機に取り付いた。
「これで終わりよ!」
 敵に突き立てようとする羽矢子の剣と、それを防ごうとする敵の剣がぶつかり合う。そのとき‥‥。
「この反応は!? ――!!」
「――」
 ラストホープから広がる光に飲み込まれる二人。最後に彼女達はなんと言ったのか‥‥。そして、ラストホープの周囲には何も残らず消え去るのであった。

「っ!! はぁはぁ‥‥夢か」
 その日の朝、アンナ中尉は酷く嫌な夢を見た。ラストホープが自爆し、全てが失われるという最悪の夢。
「けして‥‥けして、そのようなことにさせてたまるものか‥‥」
 アンナは汗を拭い、夢を振り払うように首を横に振ると、決意を新たに次の任務へと身を投じるのであった。