タイトル:百鬼夜行 がしゃどくろマスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/14 23:50

●オープニング本文


がしゃどくろ 戦死者や野垂れ死になど、埋葬されなかった死者の骸骨や怨念が集まって巨大な骸骨の姿を取った妖怪。ガチガチと音を立てながら彷徨い、生きた人間を見つけると、巨大な手で握りつぶして食べてしまうという。

「随分と遅くなっちまったな」
 その日、数人の男達が深夜の街を歩いていた。男達は用事で帰りが遅くなり、家路へと向かっていた。
「早く帰ろうぜ、最近はこの辺りも危険になってきたって言うじゃねえか」
「ははは、びびってんのか?」
「うっせぇ」
 周囲の家々は寝静まっているのか明かりは無く、街灯の頼りない明かりと手に持った懐中電灯だけが彼らの道を照らしている。そんな街の様子に一人が心配そうに呟き、別の男が嘲るように笑った。そんなやり取りを興味なさそうに見ていた別の男が、ふと不審そうに眉を顰める。
「‥‥なぁ、変な音が聞こえないか?」
「は? なんだお前まで怯えてんのか? どうせ風かなんかの音だろ」
「いや‥‥何かが転がるような‥‥ガラガラって‥‥」
「いい加減にしろよ、そんなん聞こえるわけ‥‥」
 男の言葉を否定しようとするが、確かにどこからかドラム缶か何かが転がるような音が聞こえてきた。それは一つや二つではなくもっと多くの数で、しかも少しずつこちらに近づいてきているように聞こえる。
「確かに聞こえるな‥‥」
「お、おい、なんだよこの音。嫌な感じがする、早く行こうぜ!」
「びびんな。どうせ、車かなんかの音が変に反響して聞こえてるだけだろ。ほっときゃ、なんもねえよ」
「しかし、いくら反響したって、こんな大量の転がる音がするとは」
「やべえよ! どんどん近づいてくる!」
「だから、落ち着けって!」
 音はどんどん男達に近づいてきており、一人が完全に怯えて挙動不審になる。それを叱咤しつつ、周囲を見回す別の男。しかし、暗くて何があるのかわからない。そのうちに、音はすぐそこまで迫り‥‥。
「‥‥音が止まった?」
「結局なんだったんだ。ま、まぁともかく、俺が言ったようにたいしたこと無かったんだろ」
 直前まで迫ったかのように聞こえた音は、突然聞こえなくなり、一同はホッと胸をなでおろした。
「さて、帰るか。ほら、どうした、なに止まってんだよ?」
「あ‥‥あ‥‥」
 再び道を歩き出そうとする一同。しかし、一人が足を止めて驚いた表情を浮かべていることに気づいた。男は、音のしていたほうの道を指差して何かを伝えようとしているが、声が出ない様子である。不審に思ってその指差すほうを見てみると。
「ひっ!?」
 闇の中に突然浮かび上がった白いもの。それは、まるで肉の無い人の顔、つまり骸骨のようであった。しかも大きさがその顔だけで男達の身長を超える大きさもあり、誰もが驚きと恐怖で声が出ない。骸骨は眼球の無いその瞳で男達を見つめ、歯と歯を噛み合わせてガチガチと音を立てる。
「に、逃げろ!!」
「う、うわぁぁぁ!」
 いち早く気を取り直した一人の指示に、全員が悲鳴をあげながら逃げ出した。しかし、一人が完全に足が竦んで動くことができない。そのうちに、闇の中から白い手が現れ、男を捕まえてしまった。
「あ、う‥‥た、助け‥‥!」
「鈴木!!」
 それに気づいた一人が叫ぶ。しかし、巨大な骸骨の手は男を完全に包み込み、やがて何かがひしゃげる音と共に、赤い雫が零れ落ちる。その意味することを理解できず、一瞬呆然とする男達。その瞬間、もう一本の白い手が伸び、別の男が捕まってしまう。
「な、しまっ‥‥」
「や、山田ぁ!」
「は、早く、逃げろぉ!!!」
 悲痛な仲間の声を聞きながら、捕まった男は最後の力を振り絞って、仲間達に逃げるように指示する。その瞬間、再びひしゃげる音が響き渡った。残った男達はどうすることもできず、必死になって逃げ出すのだった‥‥。

「最近、日本のある地域で、キメラの仕業と思われる被害が多発しています。生き残った者の証言から、そのキメラは巨大な骸骨の姿をしていたそうです」
 ULTで依頼を受けた能力者達は、オペレーターに依頼の内容の説明を受けていた。その内容は、夜な夜な巨大な骸骨が現れ、人を襲っているというものである。
「不思議なことに、明らかに全長数メートルもある巨大な骸骨が、夜とはいえ直前に近づくまで見えなかったそうです。前触れとして、ガラガラと何かが転がるような音が聞こえたという証言もありますが、その姿は目の前に来るまで見えなかったそうです。巨大な骸骨が、突然目の前に現れるなんてまるでお化けか何かのようで恐ろしいですね」
 突然目の前に現れる巨大骸骨、ULTではその骸骨を日本の妖怪の名から『がしゃどくろ』と命名した。
「これもおそらく、最近頻繁に見るようになった、妖怪をモチーフとしたキメラと同じものでしょう。まぁ、少し調べてみた所、『がしゃどくろ』は近年になってから創作されたものらしいのですが」
 『がしゃどくろ』は古くから日本に伝わる妖怪ではなく、戦後に生まれた新しい妖怪らしい。しかし、バグアにとってはそのようなことはあまり関係ないのかもしれない。
「情報が少なく、謎の多いキメラですが、これ以上の被害が出ないうちに、皆さんの力でなんとか倒してください」

・依頼内容
 妖怪キメラ『がしゃどくろ』の退治
・概要
 日本のある地域に現れたキメラ『がしゃどくろ』を退治すること。
 『がしゃどくろ』は夜にしか現れず、その姿は巨大な骸骨の姿をしている。
 キメラの現れた街では、夜は出歩かないようにと注意をしているが、いつ直接建物などを襲うかわからないので、早急に対処することが望ましい。
 支援について、UPCでは特に支援は行われない。街でも住民の安全の確保が忙しく、大きな支援は難しい。基本的に必要な物資などは、各自で準備を行うこと。

●参加者一覧

ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
斑鳩・眩(ga1433
30歳・♀・PN
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
九条・運(ga4694
18歳・♂・BM
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG

●リプレイ本文

「あまり大きな町ではないようだし、手分けすれば何とかなりそうね」
 日中、依頼があった町に着いた一行は、さっそく町の様子を見て回ることにした。ひとまず二手に分かれることにした赤崎羽矢子(gb2140)達は、古河 甚五郎(ga6412)達に関係者の話を任せ、町の探索に出る。
「雪女の次はガシャドクロか‥‥いきなりギターをかき鳴らすメタルロッカーじゃ無いだろうな?」
「それは随分と斬新な妖怪だね、きっと音楽で他の骸骨を操って襲いかかってくるんだね。それじゃ僕らも対抗してバンドでも組もうか」
「あ、じゃあ、俺はボーカルで!」
「いやいや、ボーカルはやっぱり女性にやってもらわないと、華が必要だからね」
 一緒に町に探索に出た九条・運(ga4694)の呟きに、翠の肥満(ga2348)がその様子を思い浮かべて面白そうに笑みを浮かべた。
「馬鹿なこと言ってないで、しっかりと町の構造を頭に刻んどきなよ。それと、怪しい物がないか探さないと」
 そんな二人を斑鳩・眩(ga1433)が軽く注意する。彼らの目的は、キメラとの戦場になるであろうこの町の地形を覚えることと、突然現れるというガシャドクロの痕跡を探すこと。
「住民の話も聞いておかないといけないね。実際に出会った人達の話は、警察にいった古河達に任せて、あたし達は周辺地域で何か異変が無かったかなんかの聞き込みをしないと。ついでに、夜は家から出ないよう釘も刺しておかないとね。とりあえず、皆で分かれてこの辺りを探索しよう」
 羽矢子の指示に全員が頷き、一行は手分けして周辺の探索と聞き込みを開始するのだった。

 一方その頃、関係者の話を聞きに言った甚五郎達は、警察から資料を受け取り、いくつかのお願いをして、被害者が入院しているという病院へと向かった。
「頭だけで2m以上、全体の高さ5mというと‥‥腹ぐらいまでしか無いんだろうかな」
「目撃証言を見ると、地面に寝そべって胸から上が起き上がった様子らしいけど」
 移動の途中、資料を確認していた黒川丈一朗(ga0776)と依神 隼瀬(gb2747)は、ガシャドクロの目撃証言に首をかしげる。目撃証言には、大きな巨体の上半身だけが起き上がり、腕を伸ばして人間を捕まえると書かれているが、写真などは無いので実際にどのような姿なのかは想像するしかなかった。
「がしゃどくろって、死んでも安らかに眠る事が出来ないのね」
「まぁ、今回はキメラですから、本物の妖怪というわけではないでしょうけどねぇ。でも、それに殺された人達は安らかに眠れないかもしれませんね」
「そうね、私達がその無念を晴らして、供養してあげないとね」
 妖怪としてのガシャドクロの資料を読んでいたナレイン・フェルド(ga0506)が少し悲しげに呟く。それに、甚五郎が困ったような苦笑で答えると、ナレインは気持ちを新たにした様子で頷いた。
 その後、病院に着いた一行が用件を言うと、一つの病室に案内された。そこには、げっそりとやせ細った青年が、戸惑った表情で一行を迎える。
「あなたが出会ったキメラについて、思い出せる限りでいいの、教えてくれませんか?」
「は‥‥はい‥‥」
 少しおびえた様子の青年に、ナレインが柔らかい笑みを浮かべながら声をかける。青年は戸惑いながらも、美人に声をかけられて少し嬉しそうに表情を綻ばせて頷いた。
「ナレインって実際は男だよね。俺、女の自信無くしちゃうなぁ‥‥」
「いえいえ、自分のほうこそ、依神さんを見ると男として自信無くしますよ、痛い!?」
 邪魔にならないように病室の隅でその様子を見ていた隼瀬と甚五郎。隼瀬は甚五郎の軽口に、ポカリとその頭を叩くのだった。
「俺達は‥‥用事で帰りが遅くなって‥‥夜の道を歩いてたんだ‥‥。そうしたら、どこからかガラガラと何かが転がってくる音が聞こえてきて‥‥。その音が、どんどん増えてきたと思ったら‥‥突然、巨大な白い骸骨が‥‥! そして、鈴木のやつが‥‥う、うう‥‥」
「ごめんなさい‥‥辛い事思い出させて‥‥でも必ず友達の仇とるから。それで、キメラは鈴木さんをどうしたの‥‥?」
 ポツリポツリと事件のことを語る青年。ナレインは悲しげな表情で、青年を慰めるようにそっとその手を握ろうとする‥‥。
「ひっ‥‥!? うわぁぁ!!」
「!?」
「や、やめろ! 潰れる!! ああ‥‥音が‥‥骨がひしゃげる音が‥‥!!」
 しかし突然、青年はナレインの手を振り解き、悲鳴をあげながら部屋の隅でガタガタと震えだした。慌てて、様子を見ていた医者が青年に鎮静剤を打って眠らせる。
「なるほど‥‥。友人がキメラに握りつぶされたことの恐怖が、物を握ることや、握られることのトラウマになっているんだな‥‥」
「ひどい‥‥、命が助かった人の心にまでこんな傷跡を残すなんて‥‥」
 その様子を見ていた丈一郎が呟き、ナレイン達は青年の姿に、キメラへの怒りを募らせたのだった。
 その後、ナレイン達と羽矢子達は合流し、お互いの情報を交換しあうと、夜の捜索の準備を行い。深夜のキメラ捜索へと出るのだった。

「ふぁ〜あ、さすがに三日連続は辛いな」
 大きなあくびをして、軽く目元を拭う運。夜の捜索に出てからすでに三日目、日中に仮眠を取っていても、さすがに毎晩夜明けまで捜索を行うのは、精神的な疲労が溜まってくるようだ。
「あまり気を抜くなよ。こういうときに限って、敵が現れるもんだ」
「むしろ、現れてもらった方が助かるんですけどねぇ」
「それにしても、俺の家は代々江戸、東京育ちだったからな‥‥。初日にも感じたが、こういう町って、この時間になると随分寂しいんだな‥‥本当に真っ暗だ」
 運の様子に注意する丈一郎に、甚五郎が苦笑する。彼らは深夜の町中を、異変が無いかと探索して回っていた。人気の無い町はすっかりと暗くなっており、長い間隔の街灯が微かに照らしている程度で、道のすぐ先は真っ暗といった状態である。暗い道は、自然と人に緊張感を与え、色々なものに敏感になっていく。
「まぁまぁ、ほらほら見て見て、わぁ!」
 そんな場を和ませようとしたのか、羽矢子は自分の顔に下からライトを当ててお化けを装って見せる、が‥‥。
「‥‥わひゃああ!!」
「そんなに驚かないでくださいよ、失礼ですね」
「いや、実際、その色白の肌が暗闇に映し出されると、まじビビるって!」
「なにやってるんだか。あ、ごめん、こっちに顔向けないで」
「結構傷つきます‥‥」
 同じようにライトに顔が浮かび上がった甚五郎の姿に、逆に驚いて悲鳴を上げた。その様子に呆れたように呟く眩だが、やっぱり甚五郎を直視はできないようだ。

「あっちは、随分と楽しそうねぇ」
 そんな様子を、少し離れた場所から眺めているナレイン。暗視スコープ付きのヘルメットをかぶり、この暗闇の中でも一行の姿を視認できる。ナレイン、翠の肥満、隼瀬の三人は丈一郎達から少し離れた位置で潜伏し、キメラが彼らの前に現れるのを待っていた。
「私も皆とおしゃべりしたいけど、役割はしっかりと務めないといけないしね」
 ナレインはフッと笑みをこぼしながらも、極力気配を消しながら、彼らの周囲に異変が無いか観察する。一見、女装趣味のふざけた男性にも見られかねないナレインだが、依頼に対してはとても真面目なようだ。
『こちら翠の肥満、今の所異常なし、C地点へ移動する』
『こちら依神、俺の方も異常なし、次の場所へ移動する』
「了解です。それじゃ、私も次の潜伏地点へ移動しましょう」
 通信機での翠の肥満と隼瀬からの連絡に返事を返し、ナレインは決められたルートを先回りするように移動を開始するのだった。

 その夜も、すでに午前三時を回ろうというころ、ふと遠くから何かが転がってくる音が聞こえてくる。
「みんな待って、何か聞こえない?」
 最初に気づいたのは羽矢子だった。他の者より少し高い直感が、それに気づかせたのだろう。一行は、羽矢子の言葉に周囲を警戒しつつ耳を立てる。少しの間の静寂、しかしすぐに他の者にも、ガラガラと何かが転がってくる音が聞こえ始めた。
「聞こえるな‥‥」
「ようやくのお出ましってわけか」
「音が反響しているのか、方角がつかめませんね」
「どっからでもかかってきなさいっての」
 現在の場所は住宅地近くの路地で、道は直線だがあちらこちらに細い脇道があり、街灯の先は真っ暗闇。それぞれが神経を研ぎ澄ませながら闇の向こうを見通そうとするが、音はすれども、その姿は無く、それがどこから来るのかもわからない状態だった。一行はそれぞれが背中合わせになり、四方を見渡しながらそれを待つ。やがて、音は複数に増え、どんどんと大きくなってきた‥‥。
「!!」
 突然、音がピタリと止んだ。それと同時に、暗闇の中に白い影が現れる。そして白い影は、巨大な骸骨の形を形取り、3メートルほど上空へと浮かび上がった。
「現れたぞ、ガシャドクロだ!」
 すでに覚醒し準備をしていた一行は、その姿を確認すると同時に動き出した。まず、羽矢子と甚五郎が、エネルギーガンによる牽制射撃を行う。
「効いてるのかどうかわかりませんね」
「でも、当たったんだから幻覚ってわけじゃ無いってことね」
 光線がガシャドクロに命中するが、相手は怯んだ様子は無い。しかし、それが確かに物体としてそこにあるということは確認できた。
「照明弾、撃つよ! 全員、目に気をつけな!」
 そして眩が上空へと照明弾を放つ。発光した照明弾は、あたり一面を照らし、ガシャドクロの全景を浮かび上がらせた。それは無数の骨で構成された巨大な骸骨で、胸から上が路地いっぱいに広がり、一行の前に立ちふさがっている。
「腰から先は‥‥無い!?」
 道を塞ぐ様にして立ちはだかるガシャドクロを、運は塀を飛び越えて側面へと回る。すると、横たわっているように見えた骸骨は、実際には腰より先の足の部分が無く、ずいぶんと不安定な体勢で起き上がっていることがわかった。ためしに、各部に銃撃を仕掛けて見ると、弾が命中した骨は砕けるが、別の骨がその部分を補強し、動きが鈍ることは無かった。
「こいつ、まさか不死身なんじゃ!?」
「ちぃ、こいつはヘビー級にストロー級で殴りかかるようなものだな!」
 それから、何度か攻撃を仕掛けて見る一行。しかし、依然として効いた様子は無く、またガシャドクロを操る別の存在というのも見つけられない。そうするうちに、ガシャドクロは長い腕を伸ばし、その手を振り回しては一行に襲い掛かる。丈一郎も狙いを定めて拳を打ち付けるが、質量の差は大きいようだ。
「な、なんだこりゃ!」
 そんな時、一軒の家から住民が出てくる。どうやら、照明弾の明かりに何事かと見に来てしまったようだ。そして、ガシャドクロの姿に驚き声をあげる。ガシャドクロも住民に気づき、腕を伸ばして住民を捕まえようとした。
「出てきたら駄目だって言っておいたのに! 危ない!!」
「ひ、ひぇ!」
 そこへ一瞬早く、羽矢子が瞬速縮地で住民の前に飛ぶ。羽矢子は住民を押し飛ばし、ガシャドクロから離れさせた。だが、代わりに羽矢子がガシャドクロの手に捕まってしまった。
「赤崎!」
「ぐ、ぐぅ‥‥この程度じゃ、効かないよ‥‥」
 ガシャドクロに握り締められ、強い圧力に骨が軋む。それでも、必死に身体に力を込めて、潰されないように耐える羽矢子。仲間達が急いで救出しようとするが、腕や手を砕いても、その力が緩まることは無い。まさに絶体絶命のピンチだった‥‥。

「始まったみたいだね、しっかりと映像に取って、攻略のヒントを得ないとね」
 丈一郎達がガシャドクロと遭遇した頃、少し離れた場所では翠の肥満が、自前の小型ビデオカメラでその様子を撮影していた。
「これはマズイね。でも、まだやつの秘密はわかっていない‥‥」
 しばらくして羽矢子がピンチに陥る。翠の肥満は自分も助けに向かおうか迷った。だがいま、彼が飛び出して戦闘に加わっても、ガシャドクロへの有効打が見出せなければ、目的を達成することはできない。
「ん‥‥これは‥‥。巻き戻して見て見よう!」
 そんなとき、ふと翠の肥満の目に何かが映った。慌てて、撮っていたビデオを巻き戻して、さきほど見たものを再確認する。
「もしかしてこれは‥‥。フェルド! 依神! 僕の指示で動いてください! 彼らを助けます」
 何かに気づいた翠の肥満は、すぐさまナレインと隼瀬に連絡を取り、指示を送るのだった。

「待ってろ、今助け出す!」
「もう少しだから、我慢してて!」
 丈一郎と眩の拳がガシャドクロの指の骨を砕く。しかしすぐにそれは補強されてしまう。
「だったら、ここはどうだ!」
「胴体と切り離されてるのに動くなんて、むちゃくちゃ過ぎますよ」
 運と甚五郎が、胴体と手を繋ぐ腕の骨を叩き折るが、それでも手は握り続けている。まさに万事休す、このままでは羽矢子は握りつぶされてしまう。そこへ‥‥。
「ここだぁ!!」
 ようやくAU―KVを纏った隼瀬が現れた。隼瀬は銃を構えると、ガシャドクロのある場所へとペイント弾を打ち込む。ペイント弾は背骨のある箇所に命中し、はっきりと目印となった。
「お願い! 止まって!!」
 そこへ、共に現れたナレインが全力の蹴りを繰り出す。靴に取り付けれた爪が、ペイントされた一点を貫き、打ち砕く!
「がしゃどくろが‥‥!!」
 すると、いままでどれほど攻撃を受けても動き続けたガシャドクロの骨が、ガラガラと音を立てて崩れだした。羽矢子を握り締めていた手も崩れ、羽矢子が開放される。
「は、がは‥‥、た、助かっ‥‥た?」
 苦痛から開放された羽矢子は、まだ苦しげに息をしながらも、なんとか無事であった。
「どういうことですかこれは?」
「それは僕から。どうやらこのキメラは骨一つ一つが別々に動けるようなんだけど、ガシャドクロの姿になるには、司令塔となる骨があるようなんだ。で、その司令塔の骨を見つけ出して、この二人に破壊してもらったわけさ」
 甚五郎の問いに、翠の肥満が答える。翠の肥満はカメラの静止画像によって、ガシャドクロのある一箇所が、ダメージを受けヒビが入ったまま補強されないことに気づき、ナレインと隼瀬にそこを叩くよう指示したようだ。ヒビはあまりに小さく、カメラの画像を静止させてようやく見つけ出せて、戦闘中の甚五郎達では気づけなかったようだ。
「あ! 骨達が逃げるぞ!」
 司令塔を失い、ガシャドクロの姿を取れなくなった骨達が、慌てたようにガラガラと転がって逃げ出そうとする。すぐに一行は骨達を一掃するが、一部は逃げられてしまった。
「はぁ‥‥。ともかく、これで一応ガシャドクロは退治したことになるかな」
 その後しばらくして、痛む身体をさすりながら羽矢子達は依頼を終了させる。一部は逃したが、ともあれ司令塔を破壊したことにより、一応ガシャドクロ退治は成功ということになるのだった。