タイトル:アンナ部隊結成マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/18 00:22

●オープニング本文


「アンナ・ディアキン、ご命令により出頭いたしました」
 一月初旬、UPC施設の一室に中尉の階級章をつけた女性が入室する。その女性の名はアンナ中尉、ショートボブに切りそろえたシルバーの髪にやや釣り目がちの瞳の気の強そうな女性だ。その容姿と雰囲気から、真面目な融通の気かなそうな軍人を思わせる。
「いらっしゃい、待っていたよ。休暇の方はどうだったね?」
「はっ、何事もなく有意義に過ごさせていただきました」
 部屋で待っていたのは、長い金髪を後ろで一纏めにした容姿端麗の男性。少佐の階級章を付けており、テーブルに肘をつきながら人懐っこい笑みを浮かべてアンナを出迎える。少佐の問いに、アンナは簡潔に答えて口を噤む。余計な事を言わないことを良しとしているというよりも、相手にあまり話したくないようである。
「それは良かった。実家に帰っていたらしいじゃないか、父君の様子はどうだったかな?」
「‥‥‥」
 それでも、少佐は聞き続けてくる。目元に掛けた丸眼鏡がキラリと光るのが、なんとなく意地の悪い様子に感じられた。しばらく沈黙をしていたアンナであったが、ゆっくりとその口を開いた。
「‥‥それを貴方が聞きますか? 『兄さん』‥‥」
 アンナの口から出た言葉は、少佐が自分の兄であるという事実。アンナ・ディアキン中尉と、ミハエル・ディアキン少佐は正真正銘の兄妹であった。
「こらこら、軍の中では階級で呼ぶようにと決めてあるじゃないか」
「この話の内容は、軍とは関係ないと思いますが!」
「まぁまぁ、落ち着きたまえ。コーヒーでも一緒にどうだね? それとも、紅茶かな?」
「どっちも結構です! それより、今年も結局一度も実家に新年の挨拶をしにこなかったじゃないですか! お父様が怒ってましたよ!」
「そんなこと言われてもねぇ。私も色々と忙しい身分だしね」
「そんなこと理由になりません!」
 声を荒げるアンナに、ミハエルはのらりくらりとした調子ではぐらかす。
「それよりも、どうだった親父の様子は。なにか言ってたかい?」
「相変わらずです。兄さんには、さっさと軍など辞めて、家督を継ぐ準備をしろと」
「相変わらずだねぇ。バグアに襲われれば、家督も財産も関係無いというのに。アンナにはあれかい? やっぱり、縁談の話とかしたのかな?」
「‥‥はい。私にも、危険な事は辞めて、どこぞの御曹司と結婚しろと」
「ははは、やっぱりな。まったく、こんな時代になっても変わらない親父には、ある意味尊敬の念さえ覚えるね。あんな事があったというのに、何も変わらない‥‥」
「兄さん‥‥やっぱりまだあの事で‥‥」
 一瞬見せた兄の複雑な表情に、アンナは少し悲しそうに呟く。
「中尉!」
「は、はい!?」
 突然、ミハエルはアンナを階級で呼ぶ。どうやら、この話はここで終わり、軍務についての話になるようだ。
「今日呼んだのは他でもない、以前にも言ったが、君に傭兵部隊を指揮してもらうという話だ」
「はい。報告にも書きましたが、私の目から判断しても、彼らは正規の兵士に勝るとも劣らない能力と、正義感を持っています。ただ、まだ目先のことに囚われ、大局を見られない可能性がある不安がありますが」
「その不安については、後々対処しよう。ともかく、非正規ではあるが傭兵部隊を作る事にした。言い方は少し悪いが、私の子飼いの部隊という扱いで、戦力の足りない所へと向かわせることになる。君にはその部隊の指揮を任せる」
「はっ、了解しました。それで、部隊の人選などは決まっているのでしょうか?」
「それについても君に一任するよ。ULTのほうで募集を掛けておくから、うまく纏めてくれたまえ」
「‥‥また面倒な事は投げっぱなしですか」
「期待しているよ、中尉♪」
 最後にまた意地悪な笑みを浮かべる少佐に、アンナは小さくため息をついて部屋を後にした。
「さて、こっちはこれでいいだろう。で、この問題はどうするかな? バグアに強化されるも逃亡し、バグアとそれに協力する家族を憎む男‥‥か」
 アンナが出て行ったあと、少佐は一つの資料を取り出して小さく呟いた。

「私はアンナ・ディアキン、UPCの中尉だ。この中の何人かは、見知った顔もいると思う」
 ULTの募集で集まった能力者達の前で、アンナは自己紹介を行う。そして、全員を一人ずつ品定めするようにゆっくりと見回した。
「今回集まってもらったのは他でもない、諸君らに軍の一部隊を担ってもらいたい。つまりは、傭兵部隊を結成し、軍の指揮の下で任務を行ってもらうということだ」
 アンナの言葉にざわめきが起きる。軍からの依頼という事以外は詳しい話を聞いていなかった能力者達は、話の内容に戸惑いをあらわにした。
「諸君らが驚くのも無理はない。これまでも、軍からの依頼で仕事を行った者はいるだろうが、軍の部隊として活動するようなことはまず無いはずだからな。しかし、それほど大きく気に掛ける必要はない。軍の部隊といっても、非正規のもので、大きな拘束は無いようになっている。今までどおり、個人で一般の依頼を受けることもかまわない。ただ、定期的に依頼として出される軍の任務に、軍の部隊として活動してもらうことになる。わざわざ部隊として構成されるのは‥‥」
 ここでアンナは少し言葉を止めて、能力者達を真剣な表情で見る。どうやら、なにか重要な事を言うようだ。
「いざという時に、私が所属している部署に、諸君らのような優秀な戦力を留めておきたいからだ‥‥。この意味を理解してもらえるだろうか?」
 アンナの言葉に、ピンと来る者、首をかしげる者、不快な表情をする者、様々な反応が返ってくる。それでも、アンナは彼らを見つめて続ける。
「諸君らの力をどうか我々に貸して欲しい。これは、人類がバグアを倒すためにも必要なことなのだ」
 そう言うアンナに、能力者達は部隊に所属することを承諾する。
「そうか、諸君らに感謝する。それと、この件についてはあまり他言の無い様にしてもらいたい。軍の部隊といっても、あくまで非正規、公式的には軍が傭兵へ依頼をして活動してもらっていることになる」
 わかりづらいが、どうやら軍の部隊といっても、今までの依頼活動と権限もできる事もあまり変わりが無い様である。
「早速だが、諸君らには任務を遂行してもらう事になる。今回は正規の軍が持て余しているキメラ討伐任務となっている。これが資料だ。今後も、部隊の主な任務内容は、正規の部隊の手に余る任務などになるので心して欲しい。それと、部隊任務中は軍服着用となっている。申請書類も一緒に回したので、サイズなど記入して提出するように」
 その他色々と任務内容や部隊所属についての注意点などを聞き、能力者達はキメラ討伐任務へと向かう事になったのだった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
戌亥 ユキ(ga3014
17歳・♀・JG
オリガ(ga4562
22歳・♀・SN
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA

●リプレイ本文

「諸君、よく集まってくれた」
 依頼を受けた一行が、UPC基地のブリーフィングルームへ案内されると、アンナは改めて挨拶を行った。
「これから君達は、同じ部隊の仲間だ。仲良くやっていって欲しい。それではまず、自己紹介をしてもらおうか」
 アンナは一段上がった教壇のような場所へ立つと、一行に自己紹介を言うように促す。それに応えるように、席の一番前に座った男が立ち上がった。
「じゃあ、まず俺からだな。名は白鐘剣一郎(ga0184)、クラスはファイター、剣の扱いを得意としている、とこんな所か。中尉とはロスの地下鉄の一件以来か。随分久し振りだ」
「む‥‥あの時のことはあまり公言しないで貰いたいな。苦手、不得意としていることも言ってもらおう」
「ふっ、了解。‥‥苦手なことか、そうだな、電子機器の扱いには慣れていない」
 剣一郎の言葉に、困ったように眉を顰めるアンナ。そして剣一郎の挨拶が終わり、次の男が立ち上がる。
「次は俺ね。新条 拓那(ga1294)、クラスはグラップラー、周囲からは疾風の戦士って呼ばれてる。苦手なことは、そうだなぁ、女性かな。俺、フェミニストだし」
 そう言って拓那はニッとアンナに笑みを向けた。フェミニストかどうかはともかく、女性が苦手というのは冗談だろう。
「それにしても、最近軍と俺らの共同作戦って心なし増えた気がするんだよなぁ。軍内部で何か方針転換でもあったんですか? 中尉」
「そういった質問はあとにしろ。加えて言うなら、軍の部隊とはいえ傭兵に、軍の内部機密を教えるようなことはできない」
「あらら、やっぱり」
 拓那の質問の答えをきっぱり断るアンナだが、拓那は気にした様子も無く席に着いた。
「‥‥ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)、ファイター、自由な気風と聞いて参加することにした。以上だ」
 静かに立ち上がり、低い声で淡々と挨拶をするホアキン。言うことだけ言うと、すぐに席に座ってしまった。次に立ち上がったのは、可愛らしい顔立ちの一見して普通の少女。
「戌亥 ユキ(ga3014)です。よろしくお願いします! あ、クラスはスナイパーです。好きなことは空や花を眺めることとかで、いつか正規の軍人になれたらと思ってます」
「ふむ、話は聞いている。かの水星の後継だとか‥‥期待しているぞ」
「い、いえ、そんな後継者だなんて。マーキュリーさんにはちょっとだけ師事してただけなので。じー‥‥」
「謙遜しなくてもいい。ん、なんだ?」
「いえ、なんでもありません!」
 アンナの言葉にあわてて首を振るユキ。それでも、ユキはアンナがどのような人物か見極めようと、じっくりと彼女を観察するのだった。
「次は私ですね。オリガ・アルカージエブナ・スターリナです、オリガ(ga4562)と呼んでください。クラスはスナイパー、好きなことはお酒を飲むことですね。中尉とは、また一緒にお酒を飲みたいです」
「あまり度の強いのを薦めるのは勘弁してもらいたいところだ。それと、作戦中の飲酒は許可できないからな」
「それは残念。ふふ、冗談ですよ。わかっています」
 オリガの礼儀正しいながらも飄々とした様子に、アンナは苦笑を漏らす。そして、オリガが席に着くと同時に、次の女性が立ち上がった。背筋をピンと伸ばし、凛々しい顔立ちの女性だ。どこかしら、アンナと雰囲気が似ているように感じられる。
「リン=アスターナ(ga4615)よ。クラスはグラップラー、得意不得意は‥‥特に無いわ。一つよろしいですか中尉」
「なに?」
「作戦中にタバコを咥えるのはかまいませんか?」
「‥‥規律を守るために、他の兵士の前では控えて欲しいところだけれど。特別規制するつもりはない」
「感謝します」
 アンナの答えに満足したように席に着くリン。彼女にとって、咥えタバコはトレードマークのようになっていた。
「エリアノーラ・カーゾン(ga9802)よ、ネルとでも呼んでね。クラスはエキスパート、得手不得手は特に無いかな。そうね、爬虫類が結構好き」
 次に立ったエリアノーラは、特に人当たりが悪いわけではないが淡々とした口調で挨拶を済ませると、ゆっくりと席に着いた。そして、最後に立ち上がったのは190cmを超える長身の男。
「最後は俺ですね。鹿嶋 悠(gb1333)です、クラスはファイター、見ての通り体力には自信があります。皆さんとは、同じ部隊の仲間として仲良くやっていきたいと思っています。よろしくお願いします」
 悠は筋肉質で荒々しい体型に反して、礼儀正しく挨拶をする。その優しい目元からも、温厚な性格が見て取れた。
「よし、全員の挨拶が済んだな。最後に、この部隊の名前を決めたいと思う。諸君らからいくつか意見を取った中で、私が独断で決めさせてもらった。『S.T.O.R.M. Hawks』、これがこれからの我々の部隊の名だ。ストームは嵐という意味と共に、『Special Team Of Regular Mercenaries』の頭文字を取って『S.T.O.R.M.』。ホークはそのまま『鷹』という意味だ。異論はあるかもしれないが、これからはこの名でやっていってもらう」
「傭兵特殊部隊、嵐の鷹か。悪くないな」
「鷹らしく、疾風で行こうかな」
「私はネーミングセンス無いからね。皆が良ければそれでいいんじゃない」
 アンナの決めた部隊名に、それぞれが感想を漏らすが、特に不満もでなかったようだ。こうして、部隊名は『S.T.O.R.M. Hawks』に決まり、一行はその部隊の一員として認識されることになる。
「そして、これが君達の制服だ。任務中はそれを着用すること。何人かはすでに軍服を所持しているようだが、代えがあってもいいだろう」
「わっ♪ 似合うかな?」
「では、早速だが君達には任務に入ってもらう」
 アンナから一行に軍服が配られ、ユキが嬉しそうにそれを身体に当ててみる。そして、ついに『S.T.O.R.M. Hawks』の初の任務が開始されるのだった。

「軍服に袖を通すことに、この前の時ほど抵抗を感じなくなった‥‥ちょっと前の私じゃ考えられなかったわね‥‥」
「何か言いました?」
「なんでもないわ。そろそろ着くわね」
 リンの小さな呟きを聞き返すユキに、リンは首を横に振って答える。一行は、ワイバーンに襲われたという軍の駐屯地へと向かっていた。
「これより先は目立たないように徒歩で進む。車両は、付近の森に隠すように」
 途中、アンナの指示で車両から降りた一行。ここからは警戒しつつ徒歩で進むことになる。それからしばらくして、駐屯地の付近にある、物陰の多いキメラの迎撃に適した場所へとたどり着いた。
「作戦は、囮役がキメラを誘き出し、他の者はここで待ち伏せ、キメラを地上に落として一気に叩く」
「まず、私とオリガさんで偵察し、アスターナさん達がキメラを一匹ずつ誘き出すんですね」
「そうだ。偵察はキメラの動向を逐一報告するように」
「了解、それじゃ行ってきますわね」
 一行は決めた作戦通り、アンナの指示で待ち伏せ場所に待機。ユキとオリガがまず偵察に向かうことになった。

 ユキとオリガは隠密潜行を使い、物陰に隠れながら駐屯地へと向かう。
「あれ‥‥ですね」
「随分と壊されているようですね」
 少し進んだ先に見える駐屯地の様子を確認しながら、ゆっくりと近づく二人。駐屯地は建物が破壊され、地面にはいくつもの戦闘の跡が残っている。今の所、キメラの姿は見えないが‥‥。
「戌亥さん、隠れて!」
「!!」
 何かに気づいたオリガが、小声でユキに注意を促す。二人は急いで瓦礫の影に身を潜め、周囲の様子を伺う。
「あれがワイバーン‥‥」
 少しして、原型の残っている建物の屋上から、羽ばたきの音と共に巨大な羽の生えたトカゲのような姿のキメラが現れた。キメラは二人に気づいた様子は無いが、周囲を警戒するように駐屯地の周りを飛び始める。
「どうやら、巣はあそこのようですね。おそらく屋上にあると思われますが‥‥行ってみますか?」
「いえ、無理はしないほうがいいと思います。ここで私達が見つかってしまっては元も子もありませんから」
「そうですね」
 オリガの言葉に、ユキは小さく首を振って答えた。二人は無理に建物まで入ることはせず、キメラの観察と周囲の地形を確認し、逐一仲間達に情報を送るのだった。

「では、そろそろ出撃するわ」
「オーケー、エスコートはお任せください」
 偵察の報告を聞き、リンと拓那がキメラを待ち伏せ場所まで誘き出すために駐屯地へと向かことになる。
『今の所、警戒しているのは一体のみで、他のキメラは巣で休んでいる模様』
 オリガ達から逐一キメラの動向の報告を受けながら、二人は駐屯地の周囲を旋回しているキメラへと近づいていく。
「‥‥いくわよ。もし失敗しても、慌てずに素早く逃走すること」
「わかってる。でも、何かあっても俺が守るから」
「はぁ‥‥本当にわかってるのかしら。始めるわ、3、2、1、0!」
 リンと拓那は短く打ち合わせをすると、タイミングを合わせてリンがキメラにエネルギーガンで射撃を行った。発射された光線が、ワイバーンの羽根に命中。ワイバーンは突然の衝撃に悲鳴を上げつつ、二人のことを認識すると怒りの咆哮と共に上空から急降下してくる。二人はすぐさま身を翻すと仲間の待つ待ち伏せ場所へと駆け出した。
『上空を旋回していたキメラがアスターナさん達を追いかけ駐屯地を離れました』
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ‥‥ってね。さ、捕まえられるものなら捕まえて御覧なさい!」
 キメラの動向の報告を聞きながら、素早い動きで駆ける二人。リンはキメラを挑発する言葉を口にする。だがしかし、ワイバーンはそれ以上の速度で二人を追いかけてきていた。
「!!」
 嫌な予感がして咄嗟に横に跳ぶ拓那。それと同時に、ワイバーンの足が掠め飛んでいく。そして強い突風が通り抜けていった。もし横に跳んでいなければ、足に捕まり空へと持ち上げられていただろう。
「やってくれるじゃない。鬼さん‥‥じゃない、トカゲさんこちら、手のなる方へってね? もれなくぶつ切りにして差し上げましょう!」
 それでも拓那は臆することなく立ち上がると、おどけた口調でキメラを挑発し、再び駆け出した。

「よし、来たぞ」
 待ち伏せ地点では、剣一郎達が瓦礫の物陰に隠れながら迎撃の準備を行っていた。そして、リン達と共に、キメラがこちらへ向かってくることを確認して武器を構える。
「へぇ、あれがワイバーンか、結構可愛いわね。キメラじゃなかったら飼いたい所だわ。少し大きすぎるけど」
「冗談を言っている場合ではないな。気をつけろ、何かしてくるぞ」
「冗談のつもりは無かったんだけれどね」
 エリアノーラがワイバーンの姿を見て感想を漏らすが、ホアキンはキメラの様子に注意を促す。一行に気づいたようではないが、長い鎌首をもたげリン達へと視線を向けている。そして、その口から火の玉を吐き出すのだった。
「く‥‥どうする、反撃するか?」
「いやまだだ、やつが高度を下げた時がチャンスだ。それまでは‥‥二人を信じよう」
 悠の問いに剣一郎が答える。キメラはリン達を狙い、幾度と無く火の玉を吐き出す。二人はそれを素早い動きで回避しながら、キメラを挑発しつつチャンスを待った。やがて、業を煮やしたキメラは、空中からの攻撃を止め、地上へと急降下してくる。
「いまだ!」
 剣一郎達はそのチャンスを逃さず、攻撃を開始した。
「竜とトレオを踊るとはな‥‥!」
 まず先に攻撃したのはホアキン。瓦礫を足場に跳躍し、降りてきたキメラへと接近すると、その羽根を剣で切り裂いた。トレオとは闘牛の意味、華麗に舞い、攻撃を加える様はまさにそのように見える。その不意打ちに悲鳴を上げるキメラ、体勢を崩しながら、それでも空中に留まろうとする。そこへ鋭い衝撃波が再びキメラの羽根を切り裂いた。
「天都神影流・虚空閃」
 それは剣一郎の刀身から生み出されたもので、その威力は完全にキメラの羽根を切断していた。片羽根を失い、地面に落ちるキメラ。それを、エリアノーラと悠が止めを刺す。
「可哀そうだけれどこれも任務だから、ね」
「さて‥‥解体してやろうか‥‥」
 赤いオーラに包まれたエリアノーラの一閃が、もう片方の羽根を切り裂き。キメラに跨った悠は巨大な鋏で、弱ったキメラの首を切断するのだった。
「まずは一匹‥‥」
『ワイバーンが二匹、動き出しました! そちらへ向かっています!』
 キメラを倒して一息つく暇も無く、残り二匹のキメラが異変に気づき向かってきているとユキから連絡がくる。すぐに迎撃体勢に入る一行。すぐに二匹のキメラが上空に姿を現した。
「二匹同時か‥‥厳しい戦いだな」
「けど、俺達ならやれない相手じゃないね。一気に叩き伏せてやろう!」
 ホアキンの呟きに、拓那はニヤリと笑みを浮かべて拳を握る。キメラ達は高い位置から火の玉を吐き出して攻撃をしてきた。一行は、すぐさま瓦礫を盾にしながら、射撃で応戦するが、射程外のために有効打を与えることができない。
「このままじゃ埒が明かないな」
「どうやら、私の出番のようですね」
 そう呟く一行の前に現れたのはオリガだった。キメラの動向を伺っていたオリガとユキだが、残りがこちらに向かったため、戻ってきたようだ。そして、オリガが持っているのは長射程を誇るアンチマテリアルライフル、加えて狙撃眼によってより射程を延ばすことができる。
「すいませんが、キメラを私の直線状に誘導してください」
 その反動の大きさのため、地面に設置して使用しなくてはならず攻撃範囲は狭いが、直線状に捕らえれば十分空中のキメラにまで届くだろう。一行は、オリガの指示通り、キメラに牽制射撃を行った。
「‥‥ショット。二射目準備‥‥ショット」
 やがて、水銀の瞳がキメラを捉えると、鋭い発射音と共に弾丸がキメラを撃ち抜く。続けて、二射目も確実にキメラの羽根を撃ち抜いた。その衝撃に、体勢を崩し高度を下げるキメラ達。
「目を潰されれば身動きも取れまい」
「ビンゴ!」
 ホアキンの銃から撃ち出されたペイント弾がキメラの頭部に命中。一瞬の間、キメラ達は状況を見失った。そこへ、ユキが弾頭矢を撃ち込み爆発を起こさせより混乱させる。
「‥‥天都神影流『奥義』断空牙」
 剣一郎は居合いの構えを取ると、赤いオーラと共に先ほどよりも強力な衝撃波を放つ。それは、一撃を持って一匹のキメラを真っ二つに切り裂いた。そして、もう一匹も一行の集中攻撃を受け、羽ばたく力を失い地面に落ちたところで近接攻撃によりその動きを止めるのだった。
「これで任務は達成だな、全員ご苦労! 諸君らにはこれからも期待している。よろしく頼むぞ!」
 全てが終了し、アンナは一行に労いの言葉をかけた。果たしてこれから『S.T.O.R.M. Hawks』はどのような活躍をしていくのだろうか。