タイトル:百鬼夜行 片車輪と朧車マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/15 02:46

●オープニング本文


朧車 牛車の前面、簾がかかっている場所が巨大な夜叉の顔になっている妖怪。夜な夜な大路に現れては、車を引く牛もいないのに道を走り回る。
片車輪 牛車の片方の車輪だけが道を走り回る妖怪。車輪は炎に包まれており、その中央は人の顔のようになっている。その姿を見たものを祟り、本人やその子供の片方の足を食いちぎっていってしまうという。

「あーあ、すっかり遅くなっちまったな」
 その日、男は用事を済ませ車で道を走っていた。時刻はすでに真夜中、暗い道をライトで照らしながら、長い直線道路をスピードを出しながら家路へと帰る。
「この辺りも最近物騒になってきたからなぁ。さっさと家に帰りたいぜ」
 男はそうつぶやきながら、ライトで照らされた前方を不審な影など無いか気をつけながら車を走らせる。少し前には、隣町で巨大な蜘蛛のキメラが現れたらしいし、それ以外にも不穏な噂を耳にするようになった。
「ん、なんだありゃ?」
 ふと、視線をバックミラーに向けると、なにやら道の向こうに赤い光が見える。その光は、少しずつ近づいてきており、徐々に大きさを増していった。男は、少し不安になるとアクセルを深く踏み込んでスピードを上げる。
「どうなんってんだ、振り切れない!?」
 しかし、車は速度を上げたにもかかわらず、赤い光はどんどん大きくなってくる。しかも、その光は一つ二つと増えてきており、加えて光の奥に別の影が映っているようにも見えた。
「な、なんか、やばいぞ! どうすりゃいいんだ!?」
 男は恐怖に駆られ、よりいっそうスピードをあげる。しかしそれでも、光は近づいてきている。やがて、光は炎の車輪だということに気づく。その車輪は炎を高速で回転させながら、男の車へと近づいてきていた。
「ひ、ひぃ、炎が! 炎のついた車輪が向かってくる!」
 恐怖に悲鳴をあげる男。そのうちに炎の車輪が男の車に追いついてくる。猛スピードで逃げる車の横を併走するように、片輪だけの車輪がすごい勢いで走ってきた。車輪の周囲は炎に包まれており、その中央には人の顔のようなものが付いている。やがて、男の車は複数の車輪に囲まれてしまい逃げ場を失ってしまう。そんな時、突然後ろから車に何かがぶつかる衝撃を感じた。
「あ‥‥あ‥‥化け物だ‥‥」
 男があわててバックミラーを見ると、恐ろしい形相の巨大な顔が乗った牛車が映っていた。もちろんその牛車も、引くものがいないというのに車と同じかそれ以上の速度で追いすがってきており、後ろから車に体当たりをしてきている。
「も、もうだめだー!!」
 男は完全にパニックに陥ってしまった。何をどうしたら良いのかさえわからずに、男は車のハンドルを横に切ってしまう。もちろん、猛スピードが出た状態でそんなことをすれば、車のコントロールは失われ道の外へと飛び出してしまった。道の外はちょうど低い段差になっており、車は勢い余って横転してしまう。ごろごろと何度か回転し、ついにその動きを止める車。男はその衝撃に、意識を失ってしまうのだった。そして、炎の車輪と人の顔のついた牛車は道を走り去ってしまう。

「日本のある町で、このような事件が多発しており、その調査と原因の排除をして欲しいとの依頼がありました」
 ULTで依頼を受けた能力者達は、オペレーターに詳しい内容を聞くことになった。なんでも、ある町で炎の車輪と、人の顔が乗った牛車が夜な夜な現れては、道行く車を襲っているというものである。
「運良く生き残った男性の話では、炎の車輪が猛スピードで走っていた車に追いつき、巨大な牛車が車に体当たりしてきたそうです。この話を元に調べましたところ、その姿形が日本に伝わる妖怪『片車輪』と『朧車』に酷似していることがわかりました。おそらく、この妖怪をモチーフにしたバグアのキメラの仕業であると予想されます。皆さんは、早々に現場へと赴き、このキメラを調査、退治を行ってください」
 その他、細かな注意事項や詳しい説明を行ったオペレーターは最後に一言。
「夜な夜な猛スピードで道路を走り回っているなんて、まるで暴走族か何かのようですね。騒音がないだけ、まだマシなのかしら」

・依頼内容
 日本のある町に現れた、妖怪キメラを退治すること
・概要
 日本の妖怪『片車輪』『朧車』に酷似したキメラが夜な夜な町に現れて人々を襲っているので、これの調査退治を行うこと。
 キメラが現れる場所は決まっており、町と町をつなぐ長い直線道路になっている場所とのこと。出る時刻はまちまちだが、ほとんどの場合、真夜中のようである。キメラの数は複数いるようだが、正確な数は不明。
 今回の依頼は、町からの依頼であり、UPCからの支援は行われない。ただし、調査に必要な車両などは町から支給されるようだ。それ以外の必要物資は各個人で用意を行うこと。
 依頼達成予定日数は3〜4日程度。それまでの食事、宿泊などは町で保障される。それ以上かかる場合は、報酬を引かれる場合も。ちなみに、この辺りは内陸の温泉地として、地元では有名らしい。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
オリガ(ga4562
22歳・♀・SN
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM
k(ga9027
17歳・♀・SN
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
リリィ・スノー(gb2996
14歳・♀・JG
鳳由羅(gb4323
22歳・♀・FC

●リプレイ本文

「皆さん、この度は依頼を受けて頂きありがとうございます」
 昼過ぎ頃に依頼のあった街へと着いた一行を、町役場の所員が出迎えた。所員は役所の建物へと案内し、彼らを持て成す。
「えー、我が町は地元では有名な温泉地となっており、観光や保養で町を訪れる方が多く‥‥」
「いいですねぇ温泉。少し前にもこの近くの温泉に行ったんですよぅ」
「そうなんですか、この辺りは結構温泉が多く、様々な効能があるので、温泉のハシゴをする方も少なくないんですよ」
「kの足にも効き目あるかしら」
「また自然が豊富で、野鳥なども多く見られ‥‥」
「‥‥すまないが、町の説明よりも、問題のキメラについての情報を教えてくれないか」
「あ、ああ、そうですね。いえ、失礼しました。わたくし、いつもは観光課なものでつい」
 どんな町かを説明しだす所員の話を興味深そうに聞く古河 甚五郎(ga6412)と足の不自由なk(ga9027)だが、肝心のキメラについての話がなかなか出てこないことに九条・命(ga0148)が注意を促した。
「キメラなのですが、この地図をごらんになってください」
「この辺りの地図ね。山に囲まれた内陸部で、特に特徴的な地形ではないわね」
「でもここ、随分と長い道があるぜ。隣町へと繋がってるみたいだけど?」
「はい、この町と他の町を繋ぐ長距離道路でして。皆さんがいらっしゃったのとは反対側、こちら側の道にキメラが現れるというのです」
 広げた地図を確認しながら、鳳由羅(gb4323)と諫早 清見(ga4915)の言葉に、地図の一点を示して説明する所員。そこは、町から伸びたかなり長い一本道があり、キメラはその道路に出没しているらしい。そして、キメラの姿形については、事前にULTで聞いた内容とさほど変わりは無いようだ。
「この道にキメラが現れるようになってから、町へ訪れる人が激減しており、財源が減ってほとほと困っているのです。どうぞ、早急な対処をお願いしますよ皆さん」
「任せておいて貰おう。早速だが、車両を二台、手配してくれ」
「ルーフキャリアもあると良いな。屋根に登って戦うかもしんないし」
「バリケードの材料も欲しいところですねぇ。あ、廃材で十分ですよ。廃タイヤなんかあると良いですね」
「用心のために消火器もお願いしますね、あとお酒を」
 所員の言葉に頷く命、すぐにキメラ退治に必要な物資の用意を頼む。清見は、車の屋根に取り付けるルーフキャリアを、甚五郎は車の対衝撃のために廃タイヤなどを伝える。加えてオリガ(ga4562)は万が一の火災のために消火器を頼む。聞こえないくらいの小声で余計な物まで口にするが、おそらく冗談だろう。
「あ、はい。えーと、車両のほうはすぐにでもご用意できるのですが、その他のものとなると‥‥一日待っていただけませんか」
「できれば急いで用意して欲しいんだけどな。あと、安全のために退治を行う夜間は交通規制して、完全通行止めにして欲しい」
「わかっておりますが、準備に色々と手続きも‥‥。交通規制も、警察に連絡しなければいけませんし‥‥」
「手続きとか後回しでもいいだろ? 俺達が来ることは事前に連絡してあったんだから、先に何とかしておくとか‥‥」
「申し訳ありません、明日までには用意しますので、ご容赦ください。旅館を用意しておりますので、今晩は温泉で鋭気を養っていただいてですね」
「はぁ、なんともお役所仕事と申しますか‥‥。仕方ないですね」
 依神 隼瀬(gb2747)は夜間の通行止めを要請するが、緊急であるにも関わらず微妙に遅い対応に苛立ちを覚え、リリィ・スノー(gb2996)もその様子に呆れたようにため息をつく。結局、準備ができるのは明日ということで、一行は今日の所は旅館で休むことになるのだった。

 次の日、旅館を出た一行は、準備が完了した知らせを受けて役所へと向かった。
「結局、初日を無駄にしてしまったな」
「まぁ、いいんじゃない? 結局昨日はキメラの被害も無かったわけだしさ」
「そうですよ、今日からがんばっていけばいいじゃないですか。いやぁ、温泉気持ち良かったですねぇ」
「そうそう、出されたお料理もお酒も美味しかったですしね」
 初日にほとんど進展が無かったことに、すぐにでも依頼に入りたい命は軽く眉を顰めて呟く。そんな命に、気楽な調子で笑みを浮かべる清見。甚五郎とオリガも、旅館での持て成しが気に入ったのか上機嫌だ。
「でも、依頼に期限がある以上、あまり時間を無駄にできませんね」
「う、確かに、予定じゃ今日含めてあと二日でなんとかしないとな」
「そうですね、k達は温泉保養に来たわけではありませんし」
 由羅の言葉に、少し焦った様子で頷く隼瀬とk。予定では現地到着から三日、遅くても四日以内の解決が望まれている。準備に費やされたとはいえ、初日に進展が無かったことは間違いないのだ。
「ともかく、今日からが本番ということで皆さんがんばりましょう」
 リリィの言葉に全員が頷き、一行は作戦を開始した。

「とりあえず、これで完成ですねぇ」
 車両と備品を受け取った一行は、問題の道路の巡回と、車両の改造を行っていた。甚五郎は、用意された廃材を使って、対衝撃用の装甲を取り付ける。もちろんちゃんと工具を使い、ガッチリと外れないようにした。
「装甲といっても、車体に廃タイヤを取り付けただけですけどねぇ。あ、そうそう、せっかくですし補強しておきましょう、ガムテで!」
 しかしやはり、結局自前のガムテープでタイヤを補強するガムテープ職人。
「なにがせっかくなんだか‥‥。鳳さんらが帰ってきたら、そっちも頼むよ」
「ええもちろん。できれば、前面部に槍を装備して族車っぽくしたかったんですけどねぇ」
「やめてくれ‥‥。そんなんで、街中走りたくないよ。じゃ、ルートの確認いってくるわ」
「いってらっしゃい、お気をつけてー」
 甚五郎の様子に少し呆れながら、清見は改造の終わった車両に乗ると巡回ルートへと車を走らせるのだった。
「お、帰ってきたようですね。それでは、もう一仕事しましょうか」
 少しして、先に巡回に向かった由羅達の車両が戻ってくるのを確認し、甚五郎は再び工具を手に取り改造の準備を行うのだった。

 夕方過ぎ、一行は問題の道路に集まった。これから、夜通しかけてキメラの捜索を行うことになる。
「お役目ごくろうさまー」
 交通規制を行っている地元警察に、車内からヒラヒラと手を振るオリガ。美人に手を振られ、頬を緩める若い警官達をベテラン警官が叱り付けていたりする。
「さて、それじゃドライブを開始するとしますか」
 一行は二台の車両に分かれ搭乗し、キメラを捜索することになった。基本一本道の道路を、少し車間距離を空けて走ることになっており、前の車両を清見が、後ろの車両を由羅が運転することにした。
「B班の車両護衛は任しといて」
 加えて、バイクタイプになれるAU−KVに乗った隼瀬が、後ろの車両と併走し車体防衛を行うことになる。そして一行は、日も沈み始めた道路を、ライトをつけて走り始めた。

「今の所進展無し‥‥か」
 午前二時、一行が走り始めてすでに8時間が経過していたが、いまだにキメラを発見することはできなかった。
「結構、疲れるもんだなぁ」
「いやはやまったく、こう何もないと大変ですねぇ」
 周囲は完全に闇に包まれ、車のライトだけが道路を照らしている。周囲を見通すこともできない状態で、長時間の間、同じ所を何度も往復して警戒し続けながら車を運転している清見は、肉体的より精神的に疲れを感じていた。それは同乗している甚五郎達も同じのようだ。
「今日はもう現れないのかもしれませんね」
「そうですね、必ず毎日現れるわけでもないようですし」
 リリィとkも少し諦めの入った声でつぶやく。それはおそらくB班の仲間達も同じであろう。
「どうしましょう。今日の所は終わりにしておきますか? B班の皆さんとも連絡して‥‥」
「待った! 何だあれ‥‥?」
 甚五郎が代表して今日の捜索を打ち切ろうと口にしようとしたとき、清見の視界に気になるものが映る。道の先に、ぼんやりと映る光。
「車のライトでしょうか?」
「まだ車両通行止めは解除してないはずだ。これはやっぱり‥‥」
 それは、一見車のライトのようにも見えた。しかし、状況から察してもそれはライトであるはずは無く、すぐに闇に映るそれが何なのか判別した。
「来た! 片車輪だ!」
「こちらスノー、はい、片車輪が現れました」
 清見の声に、全員が一斉に気を引き締める。リリィが素早くB班へと連絡を入れた。その間にも、炎に包まれた片車輪がぐんぐんと近づいてくる。しかも、その数は増え、5つほどの光が見えた。
「っ! あいつら、車にぶつかる気かよ! 全員しっかり捕まって!」
 清見は車へと一直線に向かってくる片車輪の様子に気づき、全員に注意を促すと、ハンドルをぎゅっと握り締める。そして、直感と俊敏さで車を器用に操ると突進してくる片車輪の隙間を潜り抜ける。
「くっ、こなくそ!」
「あ‥‥」
 次々と向かってくる炎の輪をスピードを緩めることなく右へ左へと避ける車。車内は激しく揺れて、車椅子のkは横倒しになりそうになった。それを間一髪、甚五郎が押さえる。
「と、大丈夫ですか?」
「は、はい‥‥すいません、ご迷惑をおかけして」
「いえいえー、しかし倒れないように補強しておいたほうがよかったですねぇ、ガムテで!」
「あ、いえ、それはちょっと‥‥」
 即ガムテープを取り出す甚五郎に、少し困った表情を浮かべるkだが、とりあえず無事に片車輪の突撃を避け切ったようだ。
「よし、反撃開始だぜ!」
 そしてすぐさま、清見は車をドリフト反転させると、片車輪を追いかけるようにアクセルを踏み込んだ。

「こちらは、迎撃準備完了だ」
 A班が片車輪の突撃を避けた頃、B班は少し速度を緩め、迎撃準備を行っていた。命が車の屋根へと登り、片方の手にリボルバー拳銃を握り、もう片手でルーフキャリアをガッチリと掴んで固定した。
「突進は俺に任せろ。きっちり止めてやる」
 隼瀬がAU−KVを身に纏い、車両の前に出る。普通の車両がフォースフィールドを持つキメラに突進されればひとたまりも無いが、AU−KVならば十分耐えられるはずである。
「来ましたわね、さぁ、さっさと倒して祝杯といきましょう」
「本当に飲むことばかりですね。ともかく、運転のほうは任せてもらいましょう」
 二丁の銃を両手に持ち車両の窓から顔を出すオリガの言葉に、由羅は少し呆れつつもハンドルをぎゅっと握り締めた。そして、A班にぶつかり損ねた片車輪をB班の一行が迎え撃つ。
「食らえ」
 隼瀬が長弓での攻撃を開始、危険なコースの片車輪へ弾頭矢での先制攻撃を行う。命中と共に、大きな爆発音、当たった片車輪は一部が損傷し真っ直ぐ走れず直撃コースを外れていった。
「よし、どうだ」
「油断するな、次が来るぞ」
「錬力が切れるまで撃ちつくしますわよ」
 しかし、隼瀬が次の矢を装填するまえに次のキメラが突っ込んでくる。加速のついた片車輪の体当たりに隼瀬は間に合わない。だが命とオリガが、銃を乱射し、キメラ達を寄せ付けないようにした。片車輪達は体当たりを諦めたように、ルートを変更し車の横を走りぬけようとする。
「逃がす‥‥っ!?」
 即追撃を行おうとする命。しかし、突然車体が大きく揺れ、体勢を崩した。
「なんです突然?」
「後ろ! 巨大な顔にぶつけられました!」
 車の中のオリガと由羅もそのショックを受け体勢を崩す。どうやら片車輪に気をとられているうちに、いつのまにか近づいてきていた朧車が後ろからぶつかってきたようだ。
「っ!! まずい、全員車内から脱出しろ!」
 嫌な予感にいち早く気づいた命が、あわてて二人に指示を出す。車内で反撃しようとしたオリガ達だが、その指示に急いで車から飛び出す。
「!!」
 そこへ、朧車の顔が後方の窓から車内に向かって炎を吐き出してきた。あっという間に炎上する車内。
「もう少しで丸焼けになる所でしたね」
「ですね。‥‥九条さんは?」
 間一髪、脱出した二人は、その様子にホッと息を漏らした。ふと気づくと、命が車の屋根にいない。どこへ言ったかと思えば。
「やってくれるな、これはお返しだ!」
 なんと朧車の屋根に乗り移り、腕に装着したクローを朧車に突きたてた。それは効果があったようで、朧車の顔からは苦痛の悲鳴が上がる。すぐに命を振りほどこうと暴れだす朧車に、命は零距離での貫通弾をお見舞いした。
「チャンスね。私達も」
 命の攻撃で、足が止まっている朧車に、由羅とオリガが攻撃を仕掛ける。オリガは二丁の銃で車輪に集中射撃を行い、由羅は一気に近づくと柄の前と後ろ両方に刃のついた特殊な剣を回転させて切り裂いた。朧車も、火炎を吐いて反撃するが、さすがに一行の集中攻撃には耐えられずやがて沈黙するのだった。

「B班の皆さん、大丈夫だったでしょうか」
 後方で炎上する車両の様子に、リリィが少し心配そうに言う。A班は迎撃地点を走り抜け、B班が取りこぼした片車輪を追いかけていた。
「大丈夫、仲間を信じよう。それより、追いついたぞ」
 清見はリリィを安心させるように力強く言って、前方に見える片車輪達を睨み付けた。
「射程距離に入りました‥‥射撃を開始します。‥‥ごめんなさい、さようなら」
 kがライフルを構え狙いを定める。そして、細い指が引鉄を引き、精密な射撃は片車輪のホイール部に少し突き出た顔の眉間を打ち抜いた。
「近づいてきましたねぇ。ではエネルギーガンをプレゼントです」
「その顔気持ち悪いですっ!」
「え? 私のことですか? 違う、それは良かった」
 片車輪達は仲間がやられると、反撃しようとスピードを緩め車体に近づこうとする。そこへ、リリィと甚五郎が射撃を行った。甚五郎は知覚力を生かして超機械でのエネルギー弾、リリィはサブマシンガンで貫通弾と15発の銃弾の連射で片車輪達を撃ち倒していく。その間、清見は片車輪にぶつけられないように器用なハンドルテクニックで車を走らせた。
「これで‥‥ラスト‥‥」
 しばらくして、最後の一匹をkの弾丸が撃ち抜いた。体勢を崩した片車輪が道路から外れて田畑に落ちる。そして、纏っていた炎が消えていった。
「ふぅ、終わったな」
「はい、でもB班が心配ですし、急いで戻りましょう」

「あら、あちらも無事だったようですね」
 A班の車が戻ってくる様子に、オリガが嬉しそうに手を振った。
「これで、わざわざ歩いて帰らないですむな」
「さすがに、俺のシロガネに4人乗りってのは無理だしね」
 クラクションを鳴らしながら手を振り返す清見達を見て、命はフッと笑みを零し、隼瀬も安堵のため息をついた。
「さすがに長時間の運転は疲れました。温泉でゆっくりしたい所ですね」
 そして、由羅の言葉に全員頷くと、車に乗り込み町へと向かうのだった。