タイトル:呪われた言葉を打ち砕けマスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 2 人
リプレイ完成日時:
2008/12/20 02:58

●オープニング本文


「くそ、強すぎる!!」
 苦悶の表情で、必死にキメラの攻撃を避けるジョン。ヴォンという風を切る音と共に、ジョンの身体すれすれをキメラの爪が通り過ぎる。すぐに体勢を立て直し、剣を構えるジョンだが、攻撃をする余裕など無く、ただキメラの攻撃から身を守ることで精一杯だった。
「どうするんだジョン! このままじゃ、全滅するぞ!」
 ジョンの仲間が、悲痛な声を上げる。ジョン達の周囲にはキメラが取り囲み、進む事も退く事もできない状況だ。ジョンも仲間達も少なからず傷を負い、まさに絶体絶命のピンチである。
「く‥‥、どうしてこんなことに‥‥」
 ジョンは顔を顰めて、何故自分達がこのような状況に追い込まれているかを考える。今回の依頼も、簡単なキメラ退治の依頼だったはずだった。自分も仲間達も、エミタ能力者となってから何度も同じような依頼をこなしてきたはずだ。依頼自体にもおかしな点はなく、ほんの数日前まではこのような強力なキメラ群れなどいなかったはずである。しかし、実際彼らは自分達の手に負えないようなキメラの群れに遭遇し、このように窮地に陥っている。いったいどこで間違えたのか、いくら考えてもジョンには分からなかった。
「マリー‥‥」
 だが、ジョンは気づかなかったが、彼がこのような状況に陥った理由はあったのだ。そう、全ての原因は、彼の口にした一つの言葉。あの呪われた言葉である‥‥。

 今から数日前、ジョンが仲間達と今回の依頼を受け、準備を行っていたとき。
「みんな、聞いてくれ。大事な話があるんだ」
 ジョンは仲間達に真剣な面持ちで声をかけた。仲間達は、何事かとジョンへと視線を向ける。
「あのさ‥‥。俺、今回の依頼で、傭兵を終わりにしようと思う」
「‥‥‥」
 ジョンの言葉に、仲間達は驚きつつも、最近のジョンの様子から何かを感じ取っていたのか、静かに話を聞いた。
「すごく迷ったんだけど‥‥。俺、好きな奴がいるんだ。幼馴染でさ、俺がエミタ能力者になってバグアと戦ってることを、心配してくれるんだ。‥‥それで、これ以上、あいつの心配する顔を見たくなくてさ。ずっとあいつを守ることに決めたんだ。だから‥‥、この依頼が終わったら、傭兵を辞めて‥‥あいつに告白する。好きだって、結婚しようって、ずっと‥‥ずっと守ってやるって!」
「そうか、やっと落ち着ける場所を見つけたんだな。おめでとう!」
 ジョンの言葉に、仲間達は祝福の声をあげる。だが、そのジョンの言葉こそ、一部の者にイニシエから伝わる呪いの言葉、俗に言う『死亡フラグ』というものだったのだ!

「撤退するしかない!」
「だが、この囲まれた状況からどうやって!?」
 撤退を決めるジョン達であったが、敵に囲まれた状況をいかにして脱出するか。ジョンは、何かを覚悟した表情で仲間達に告げる。
「‥‥俺が囮になる。やつらが、俺を狙うその隙に、お前達は逃げろ!」
「馬鹿を言うな! お前一人を囮にするなんてできるわけ無いだろう!」
「それ以外に、方法なんて無い! 俺は大丈夫、この程度で死ぬような男じゃないぜ! いいか、俺が突っ込んだら全力で逃げるんだぞ! いくぞ! うおぉぉぉぉぉ!!」
「待て、ジョン! ジョーン!!」
「くっ、逃げるぞ! ジョンの想いを無駄にするつもりか! ‥‥すまないジョン」
 元々、正義感が強く、責任感もあるジョンは、この状況で一つの策しか思いつかなかった。それはすなわち、自分を囮にして仲間を逃がす。ジョンは、剣を構えると雄たけびをあげながらキメラの群れへと突っ込んでいった。そんなジョンに標的を決めたキメラ達は、一斉にジョンへと襲い掛かる。そんなジョンに悲痛な面持ちを浮かべながら、仲間達はキメラの囲みを突破し脱出していくのだった。
「マリー‥‥せっかく買った指輪を、渡せなくてごめん‥‥」
 仲間達が脱出する音を聞きながら、ジョンはキメラ達を押しとどめようと必死に剣を振るい。そして小さくつぶやくのだった。

「お願いします、ジョンを探してください」
 その日集まった能力者達は、マリーという女性から依頼を受けることとなった。その依頼の内容は、キメラ討伐に向かって消息不明となった男性の捜索である。
「彼は私の幼馴染で、適正があったのでエミタ能力者となってバグアと戦っていました。今回のことは、彼の仲間だったという方から聞いたのですが、依頼でキメラ討伐に向かった際に、予想以上のキメラと遭遇して、仲間を逃がすために囮となって消息を絶ったという話です‥‥」
 悲しそうな表情で話をするマリー。時折、涙を拭くように目元をぬぐう。
「正直な話、生存は絶望的なようです‥‥。ですが、もしかすると今も生きて、どこかに隠れているかもしれない。少しでも可能性があるのならと‥‥。考えたくありませんが、もし生きていなかったとしても、彼の形見を見つけてくだされば、諦めもつくということです。どうかお願いします、ジョンを見つけ出してもらえませんか」
 彼女の依頼を受け、能力者達はキメラの巣くう森へとジョンの捜索に向かうのだった。

・依頼内容
 キメラの巣くう森で消息不明になった男性の捜索
・概要
 依頼でキメラ討伐に向かったエミタ能力者の男が消息不明となった。この男の生死を確認し、男もしくは男を示す物を依頼主まで持ち帰ること。
 男が消息を絶った場所は、北米にある広大な森の中で、現在はキメラが生息して近隣の街を脅かしている。以前は、さほど大型のキメラは居らず、またその数も少なかったのだが、男達が討伐に向かった頃から突如増えだし、大変な危険地帯となっている。
 今回の依頼は、依頼主の個人的なものであり、UPCならびに近隣の街などからの支援は受けられない。依頼に必要な物資は、各自で用意することとなる。

●参加者一覧

赤霧・連(ga0668
21歳・♀・SN
烏莉(ga3160
21歳・♂・JG
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
風花 澪(gb1573
15歳・♀・FC
羽衣・パフェリカ・新井(gb1850
10歳・♀・ER
霧島 和哉(gb1893
14歳・♂・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD

●リプレイ本文

「彼らが襲われ、ジョンが行方不明になったのはここで間違いないな」
 木場・純平(ga3277)が周囲の様子を見て、眉をひそめながら呟いた。行方不明になったジョン捜索の依頼を受け、キメラの巣食う森へと入った一行は、ジョンの仲間からの情報を元に彼らがキメラに襲われた場所へとたどり着く。その場所には、多くの戦闘の痕跡や、いくつものキメラの死骸が残っていた。
「わぁ、結構派手に暴れたみたいだねぇ。相当激しい戦いだったんじゃないかな」
「ホム、この場を見れば、彼らが仲間を見捨てざる得なかったこともわからないでもないですネ」
 その惨状に、風花 澪(gb1573)と赤霧・連(ga0668)はこの場で彼らがどれほどの戦いを繰り広げたか想像し、納得したように小さく頷く。
「戦場に赴く直前に、その戦いに生き残った後のことを語ると、叶うことなく死んでしまう。まさに、物語のお約束ね。言葉には力があるというけれど‥‥お約束というならば相当強力なのね‥‥」
「なるほど、お約束ですか。私も気をつけなければならないですネ」
 今回の件の話を聞いて思っていたことを口にする緋室 神音(ga3576)。連はその言葉を真に受けて、神妙に頷いた。
「それで、肝心のジョンはってのは? まさか、ここに死体が転がってるなんてことは無いよな?」
「縁起でも‥‥無いこと‥‥言わないで‥‥よ」
「でも、ここで見つかれば面倒が無いですよね」
「それは‥‥そうだけど‥‥」
 アレックス(gb3735)が額に手を被せて遠くを見通すように、周囲をキョロキョロと見回す。そんなアレックスの言葉を、霧島 和哉(gb1893)が少し顔を顰めて嗜めた。だが、続く羽衣・パフェリカ・新井(gb1850)の言葉に、困ったように言葉を返す。
「生きているか死んでいるかは関係無い。確認し、証拠を持ち帰ることが任務だ」
 烏莉(ga3160)は事務的な口調でそう言うと、周囲の死体を確認し始めた。
「それで、ここからは二手に分かれて捜索するということでいいのかしら?」
 神音の確認の言葉に、一同は頷き、二手に分かれ捜索を開始するのだった。

「あ〜あ、僕もあっちのチームが良かったなぁ。あっちは女の子がいるしさぁ。こっちは男ばっかりだし」
「そんなこと‥‥言われても‥‥」
「女の子が目当てかよ! ってか、あんたも女だろ!」
 二手に分かれ、ジョンの痕跡を探しながら森を探索する烏莉、澪、和哉、アレックス。澪のぼやくような呟きに和哉が困ったように答え、アレックスがツッコミを入れる。
「おまえら、もう少し静かにしろ。いつキメラに襲われるともわからないんだからな」
「へいへい」
「僕は‥‥静かにしてたのに‥‥」
 その騒がしさに烏莉が注意をする。烏莉一人だけがキメラを警戒して気配を消していても、仲間がこう騒がしくてはあまり意味が無い。
「ガサ‥‥」
「!」
 そうしていると、近くの草むらに足音が聞こえ、一行はすぐに身構える。
「すいません、自分です」
「‥‥おまえか。それで?」
 現れたのは、彼らのチームのサポートとして参加したトリストラムだった。彼は斥候として、一行の周囲の警戒を行っている。
「今のところ、これといった手がかりは‥‥」
「そうか、何かわかったらまた頼む」
「はい。それと‥‥まったく貴方たちは‥‥もっと緊張感を持ちなさい」
「わかってるよ先輩」
「‥‥僕は静かに‥‥してたんです‥‥」
 烏莉の問いに首を横に振るトリストラム。そして、アレックスと和哉に向かって、説教を行うのだった。
「お、あんた何飲んでんだ?」
「ん、ぶどうジュース」
「俺にも少し分けてくれよ!」
「ん、いいよ」
 それからまたしばらくして、いつのまにか澪が飲み物を口にしていることに気づいたアレックスは、喉が渇いたので自分にも分けてくれと頼んだ。澪は気にした様子もなく、今飲んでいるものとは別のビンを取り出して、アレックスに手渡す。
「ありがとー。さすがに、数時間歩きっぱなしだと喉が‥‥って、これ酒じゃねえか! しかも、アルコール99度って、飲めるかこんなの!!」
「あ、気づいた?」
 ビンを受け取ったアレックスは、それを口に運ぼうとして、ふとラベルに書かれた『スブロフ』の字に気づいた。激しくツッコミを入れるアレックスを、澪は可笑しそうに笑う。
「じゃあ、はいこれ」
「お、今度こそジュースだな。って、それあんたが飲んでたのだろ!?」
「そだよ?」
「それって‥‥間接キスになるんじゃ‥‥」
「僕は気にしないけど。普通にキスとか好きだしー」
「俺が気にするわ!」
 次に渡されたビンは、先ほどまで澪が口にしていたぶどうジュースだった。それを口にするということの意味する所に、過敏に反応する年頃少年のアレックスと、まったく気にした様子もない澪。
「おい‥‥」
「ご、ごめんなさい‥‥すぐ静かに‥‥しますから‥‥。ほら‥‥アレクさん‥‥静かにして‥‥」
 また騒がしくなったことに、不機嫌な声をあげる烏莉と、それに対しあわてて静かにさせようとする和哉。探索の間、たびたび繰り返される光景であった。

「ジョーン! ジョン氏はいるか! いたら返事してくれ!」
 捜索開始から数時間、連、純平、神音、羽衣達はいまだこれといった手がかりを見つけられないまま森を探索していた。
「連お姉様、大丈夫ですか?」
「あ、うん、大丈夫です‥‥よ?」
 そんな中、羽衣の心配する声に、連は笑みを浮かべて言葉を返す。しかし、その額には玉のような汗が浮き出ていた。連は以前の依頼で怪我を負い、それが完治するまえにこの依頼へと参加していたのだ。怪我による体力低下は著しく、森での長時間の捜索活動は、連に大きな負担を与えていた。
「わかっているとは思うが、無茶はしないでほしい。救助に向かった先で、救助する者が倒れてしまったら、それこそ本末転倒だからな」
「ほむ、わかっています。本当に、まだ大丈夫なのですよ」
「それならいいが」
「そうだ、いっそ純平小父様におんぶしてもらってはどうでしょう?」
「いえ、そんなことをしてもらうわけには‥‥」
「自分の体調は自分が一番良くわかるものよ。連が大丈夫というのなら、無理に怪我人扱いしないほうがいいわ」
 心配する純平と羽衣に、連は少し困ったような表情を浮かべる。それを見かねたのか、神音があまり心配しすぎるなと注意をした。
「ともかく、今はジョンの捜索に集中しましょう」
「そうだな。ジョーン! ジョンはいるか!!」
 神音の言葉にうなずき、純平は再び声をあげてジョンを呼ぶ。大きな手がかりが無い以上、呼びかけに反応するのを待つしか手段が無いのだ。
「ガサ‥‥」
「!! ジョンか!?」
 突然、草むらに何か動くものの反応がある。一行は、注意深くその草むらへと近づいていった。
「グガァ!」
 しかし、現れたのは獣の姿をした小型のキメラであった。キメラは雄たけびをあげながら草むらから飛び出ると、そのまま一行へと襲い掛かる。
「アイテール‥‥限定解除‥‥戦闘モードへ移行‥‥」
 キメラの攻撃をすばやく避け、神音が能力を覚醒させる。彼女の周囲に光の粒子が巻き上がり、羽のようなものが形作られた。
「はぁ!」
 そして抜刀一閃、抜き放たれた刀がキメラを切り裂く。キメラはその一撃によって、地に倒れ伏した。
「一撃か、さすがだな。ふむ、どうやら周囲には他のキメラはいないようだ。レイヴァーそっちはどうだ?」
「いえ、こっちもこれといって何も。ま、あの程度が何匹来てもたいして怖くないですけどね」
 その様子に、純平が関心するように呟き、周囲を見回しては他に敵がいないことを確認する。こちらのチームのサポートを行っているレイヴァーも、周囲を警戒して首を横に振った。
「ジョン達を襲ったキメラは群れで行動していたという話だが‥‥」
「ほむ、以前のこの森は、さほど脅威にならない小型のキメラばかりだったと聞きましたネ」
「では、ジョン様達がキメラ退治に訪れた時に限って、たまたま強力なキメラが現れたということでしょうか? そうでしたら、よほど運が悪かったということですね」
 首をかしげる純平に、連が確かめるようにジョン達の依頼の件を口にする。それを聞いて、羽衣は運命の悪意とも言える偶然に苦笑を浮かべた。その後も、彼らはジョンの名を呼びながら探索を行ったが、時折小型のキメラに襲われるだけで、これといった手がかりを見つけることはできなかった。
「‥‥今日の所は、そろそろ捜索を終わりにしよう」
 日が暮れかかるころ、純平の判断で今日の捜索を終了することになった。夜になれば捜索が困難になることもだが、連の体調を考えてのことだ。一行は、烏莉達と合流し、森から少し離れた安全な場所で夜が明けるのを待つのだった。

「錬力も切れ、身体は‥‥動かない‥‥。もうさすがにダメかな‥‥。眠い‥‥今度寝たら、もう起きないかもな‥‥。マリー‥‥もう一度だけ君の顔を見たかった‥‥。せめて夢の中ででも‥‥」
 すでに身体は麻痺して痛みは無い。一人で動くこともできなくなったジョンは、諦めを口にして自嘲気味に笑う。
「っ! 弱気になるなジョン! きっと、仲間達が助けを呼んでくれている‥‥それまで、生き延びるんだ‥‥!」
 そこで、グッと唇をかみ締めて、気力を振り絞るジョン。彼の長い夜はまだ続く。

「じゃ、俺達はこの辺で」
「二人とも、くれぐれも気をつけてください」
 次の日、レイヴァーとトリストラムが帰還することになり。一行は、また二手に分かれてジョンの捜索を開始した。

「昨日とは違って、また随分と集まったもんだね」
「そんなこと言ってる場合かよ! さっさとやっつけるぞ!」
 探索から数時間、烏莉達のチームは突如現れたキメラの群れに襲われていた。その様子に、呆れたように言う澪と、戦闘態勢に入りすぐにでも突っ込みそうなアレックス。
「キメラがいる‥‥ということは‥‥もしかしてジョンさんも‥‥いる‥‥かも?」
「どのみち、任務の妨げになるのなら排除する。いくぞ」
「はぁ‥‥それどころじゃないんだけどなー‥‥さっさと片付けよ!」
 キメラに襲われる可能性が今一番高いのは、おそらくジョンであろう。そのことを考え、付近にジョンがいるのではないかと推測する和哉。烏莉は言葉少なめに戦いの意思を示し、澪も気軽な口調ながら巨大な鎌を構えて鋭い視線をキメラに向けた。そして一行は、彼らを取り囲む猛獣の群れへと突っ込んでいく。
「セイ! ハァッ!」
「アレックス、突出すぎるな。各自、お互いの背後を守りつつ攻めるんだ」
 AU−KVを纏ったアレックスと和哉が先頭に立ち、猛獣キメラの攻撃を食い止めつつ、澪が巨大な鎌で敵をなぎ払っていく。しかし、キメラ達も一行を数で包囲し、四方から間髪いれず攻撃を行ってきた。それに対し、烏莉は冷静に状況を判断し指示を出しながら、銃器で各人の支援と牽制を行う。
「ぐっ、痛ってぇ。やったなこの!」
「攻撃が‥‥激しいな‥‥いなしきれる‥‥か?」
「あっっ‥‥人間相手なら読み違えないんだけどな。野生の勘ってやつかな」
「まだ想定内だ‥‥」
 しかし、相手の数に苦戦を強いられる一行。一匹一匹はたいしたことは無いが、戦いが長引けば徐々にダメージが蓄積されていく。一行に少しずつ焦りの色が見え始めるのだった。

 一方その頃。
「赤霧! 避けろ!」
「きゃあ!!」
「連お姉様!」
 連達も、キメラに群れに襲われていた。しかも、その中には巨大な獣キメラもおり、一行は苦戦を強いられる。そして巨獣の放った岩つぶてが連を襲い、怪我を負っている連はそれを避けきれず大きなダメージを受けてしまう。
「夢幻の如く、血桜と散れ――剣技・桜花幻影ミラージュブレイド」
「グガァ!」
 咄嗟に神音の渾身の一撃が巨獣を切り裂き、巨獣の追撃を止める。それでも、巨獣は倒れることなく、他のキメラをけしかけてくる。
「ぅ‥‥」
「大丈夫か、赤霧」
「す、すいません、足手まといにならないよう気をつけてたのですが」
「連お姉様、すぐに回復しますね」
 連に駆け寄り、キメラの攻撃からかばうように前に立つ純平。羽衣も、すぐに連に練成治療を行う。連は申し訳なさそうに言いながらも、治療を受け立ち上がる。
「純平‥‥相手も弱っている、一気に畳み掛けるわよ」
「わかった、任せておきなさい! うぉぉぉ! 限界突破!」
 巨獣と対峙している神音の言葉に、純平は気合と共に自身の運動能力を瞬間的に跳ね上げ、襲い掛かる周囲のキメラを吹き飛ばすとそのまま巨獣へと突っ込む。
「援護‥‥します!」
「アイテール‥‥もう一度力を‥‥夢幻の如く、血桜と散れ! 剣技・桜花幻影ミラージュブレイド!!」
「ナックルパートォォ!!」
 立ち上がった連が、銀の洋弓で速射を行い、幾本もの矢が巨獣に突き刺さる。そして、再び神音の渾身の一閃、それにあわせ純平も巨獣の眉間に拳を叩きつける。それにはたまらず、巨獣も音を立てて地に倒れ伏す。そして、リーダーを失い、他のキメラ達も蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのだった。
「やりました‥‥ね」
「連お姉様!?」
 それを見届け、連は力尽きたように膝を落として倒れこんだ。あわてる羽衣だが。
「すぅ‥‥すぅ‥‥」
「寝てます‥‥」
「これは、俺がおぶってくしかないな」
 寝息を立てる連の様子に、一同は苦笑を浮かべるのだった。

「こんな所に‥‥」
 それからしばらくして、烏莉達はなんとかキメラを撃退し、その周囲を念入りに探索してみる。そして木々で隠された洞穴を発見、中にはかすかに人の気配を感じた。
「誰か‥‥いますか‥‥?」
「ぅ‥‥」
「お、居るみたいだな」
 中に人がいるのを確認し、洞穴を調べる一行。そして、ジョンと思われる青年を見つけ出す。
「生きてる? 災難だったねー? 映画とかだとよくあるパターンだけどねー、告白宣言の後で死んだりする‥‥の」
 明るい口調で声をかけようとする澪。だがしかし‥‥。
「ひどいなこれは‥‥」
「お、おい、早く手当てを!」
「‥‥これは‥‥もう‥‥」
 ジョンはすでに瀕死の状態で、手当ての施し様が無かった。首を振る和哉に、アレックスが肩を落としてうなだれる。
「マリー‥‥来てくれた‥‥んだ」
「え!? ぼ、僕はマリーって人じゃ‥‥」
 そのとき、ジョンが突然、澪の手を取り言葉を紡ぐ。
「最後に‥‥君に会えて‥‥良かった‥‥。伝えたい‥‥言葉‥‥が‥‥あった‥‥んだけど‥‥。言え‥‥そうに‥‥ない‥‥。ごめん‥‥」
「‥‥‥」
 ジョンが最後に残した言葉は、告白ではなく謝罪。それを少し悲しそうな表情で受け取り、澪はジョンの手をぎゅっと握り締めた。
「遺品は‥‥これでいいな。任務完了だ、帰還するぞ」
 烏莉が事務的に言い、一行はジョンの遺体を埋葬してその場を去る。そして、無事に連達と合流すると、後味の悪いものを残しながらも依頼主のもとへと帰還した。