●リプレイ本文
「これが現状となっています」
依頼を受けた一行が街へと着くと、街の役所の者が現状について説明してくれた。それによれば、事前に受けた情報の通り、鼠キメラは三つのルートに分かれ街へと向かっているようだ。街では、ヘリコプターを出してキメラの様子を探っているようだが、鼠の司令塔は見失ってしまい、どこにいるかわからないようである。
「現在、市民の避難を最優先に行なっており、皆さんへの支援は難しい状態となっています」
「いえ、気にしないでください。街の人達の安全が一番大事ですから」
「そう言ってもらえると助かります。一応、長距離用の無線機はこちらで用意させていただきましたので、ご活用ください」
「助かります。これで、偵察との連絡も取り易くなります」
今回の担当者という男の話に、神浦 麗歌(
gb0922)がニコリと笑みを返す。担当者は無線機を用意してくれており、通常の小型無線機では届かない距離での通信も可能とすることができた。一行は、それぞれのルートに偵察を出し、司令塔である鉄鼠を探し出すことにした。
「ふん? 敵は鼠ですか‥‥。猫の手も借りたい、というところですかね」
南西方面へと偵察へと出た鋼 蒼志(
ga0165)は、川に架かる橋を抜け、鼠達が来るであろうルートの先を双眼鏡で監視する。
「報告によれば、あと十数分後にはここまで鼠が来るとのことですが。いざとなったら、あの橋で足止めをすることになりますか」
先ほど通った橋の様子を思い浮かべながら呟く蒼志。川はやや大きめで、水量も多く、その間に架かる橋も二車線ほどの大きさがあった。このルートでは、この橋を渡るのが最短であり、川の水も結構あるので鼠達は間違いなくこの橋を渡ってくるだろう。実際の所、彼一人で橋の全体をカバーするのは難しいのだが、それについての不安は消して口にしない。
「っと‥‥、あれですか。とりあえず、迎撃を行ないつつ司令塔を発見し、仲間が来るまで橋で足止めと‥‥」
しばらくして、道沿いに土煙を上げながら向かってくる鼠の大群を発見した蒼志。双眼鏡から目を離し、戦闘の準備を整える。
「大群でご苦労さん、だな。‥‥さて、やるとするか」
力を覚醒し、口調が変わった蒼志は、構えたドリルスピアを回転させ、鼠の大群に向かって不敵な笑みを浮かべるのだった。
「もう少し早い時期だったら、紅葉が綺麗だったのに‥‥残念」
南東方面へと偵察に向かったアグレアーブル(
ga0095)は、森の中を観察しながら進んでいく。南東には大きな森が広がっており、秋頃には紅葉の綺麗な場所であった。しかし、すでに紅葉は終わっており、多くの落ち葉が足元に落ちている。
「森には野鼠とかがいそう‥‥」
そう呟きながら捜索を行なうアグレアーブルだが、森の中は見通しが悪く、遠くの方まで観察するのは難しいようだ。そこでアグレアーブルは、丘のような高台になっている場所を探しながら森を進んでいった。
「コンクリートさえ食い散らかすのでは、建物を盾に出来ないからな」
南方面へと偵察に向かった白鐘剣一郎(
ga0184)は、鼠との遭遇が予定される少し手前で止まり、双眼鏡を構えた。この場所は、街と現在は廃墟となっている隣町を繋ぐ道路がある場所で、比較的見通しの良い場所であった。だが、道路の先に鼠達の姿はいまだ見える様子は無い。
「南からのルートなら間違いなくこの道を通るはずだ。とは言え、鼠も案外知恵を使う。油断は出来ないな」
剣一郎は道の先だけでなく、周囲の様子も確認しながら、鼠達が現れるのを待った。やがて、道の彼方に土煙のようなものが近づいてくる。
「来たか‥‥。あの中にいると思われる一際大きな個体‥‥それが鉄鼠か」
その様子に、剣一郎は双眼鏡で鼠達の姿を確認する。徐々に近づいてくるそれに、目的の鉄鼠がいないか観察しながら、剣一郎は道の真ん中へと立ち戦闘の準備を開始した。
「鼠の群れか‥‥下手な大型キメラより厄介ですね」
街で待機しながら、偵察組の報告を待つ井出 一真(
ga6977)。無線機の前で連絡を待ちながら、今回の相手の様子を思い浮かべて顔を顰めた。
「そうね、群れるなんて厄介な相手。頭を潰して手早く終わらせましょう」
「まぁ、最悪でも避難の方はなんとかなりそうですし‥‥。もちろん、街に被害は出したくありませんが」
その呟きに、白雪(
gb2228)と麗歌が頷く。街は、迅速な避難の指示により、ほとんどの住民が安全な場所へと避難を開始している。予想される鼠達の到着までには、完全な避難が完了しているだろう。
「うっひょ〜! 美人さんがイッパイじゃん‥‥お姉さ〜ん」
そんな避難が行われる中、相麻 了(
ga0224)はガールズハントに勤しんでいる。ぶっちゃけ、皆避難に必死で相手にされていないようだが。
「某妖怪ロードにいる鉄鼠さんは、撫でると金運アップなんですって〜♪」
小川 有栖(
ga0512)は、なにやら巨大な猫じゃらしのような槍を振っていた。なんでも、猫槍『エノコロ』というらしい。猫のような槍ではなく、猫が好きそうな槍である。
「妖怪の鉄鼠は高僧の法力で出現した大猫で退治されたというお話もあるので、大猫さんも出たら楽しいんですけれどね?」
「あはは、たしかに大猫が退治してくれれば、我々も楽なのですが」
有栖の言葉に、笑みを浮かべながらも困ったように言う一真。もし、そんな大猫が現れたら、間違いなくそっちもキメラであろう。
「っ! こちら井出です! はい! はい! わかりました! 至急向かいます! 皆さん、偵察から連絡がありました! 鉄鼠を発見したそうです!」
「場所は! 誰からの連絡だ!」
しばらくして、一真が無線から偵察組が鉄鼠を発見したとの連絡を受け取った。とたんに真面目な表情で了がどのルートに鉄鼠が現れたかを問う。
「南東方面、アグレアーブルさんからです!」
「大丈夫か!」
「うん」
アグレアーブルの連絡を受け、急いで駆けつけた了達。仲間の気遣う声に、アグレアーブルはコクリと頷いて返した。
「森の中をこちらへと真っ直ぐ向かってきている。移動速度はあまり速くないけれど、後一分もすれば見えてくるはず。周囲には、仲間の鼠がたくさんついてきていた」
「わかりました、ご苦労様です。これで、なんとか街へとつく前になんとかなりそうですね」
「そうはいっても、他のルートからも鼠が迫っています。あまり時間の余裕はありませんし、素早く司令塔である鉄鼠を倒しましょう」
無事に合流した一行は、アグレアーブルの報告を聞き、鉄鼠の位置を把握する。麗歌はアグレアーブルに労いの声をかけ、一真は小型のガトリング砲を構えて戦闘準備を整えた。
「お怪我はありませんでしたか? 回復しましょうか?」
「うん、大丈夫。それより、そろそろ来る‥‥」
「来たな‥‥。へぇ、十二支よろしく、やっぱ鼠は先行しちゃっていた訳ね」
有栖の心配する声に、アグレアーブルは軽く首を横に振り、スッと目を細めて森の先を睨みつける。アグレアーブルの言う通り、草を掻き分ける足音が徐々に大きくなり、やがて鼠キメラの大群が姿を現した。先頭を走る一際大きな鼠の姿に、了は予想通りといった表情で軽く頷く。
「‥‥以前見た鉄鼠とは随分と違うのね」
「あくまで鉄鼠をモチーフとしたキメラだから。でも、こちらのほうが狂暴そうよ?」
「そうね。‥‥いずれにせよあの時と同じ。退治するだけだから」
鉄鼠は2メートル以上の大きさの鼠の身体に、人と鼠を掛け合わせたような恐ろしい形相の顔、その顔にはギザギザの鋭そうな牙が揃っている。白雪が鉄鼠を見て独り言のように呟いた。自分の中に居るという姉妹の人格と話しているのだろう。
「悪いですが、きみ達はここで帰ってもらいます‥‥」
「お前の悪事もここまでだ! 爺っちゃんの名はひとつ!」
「弾幕、形成します。支援射撃15秒! 突入、どうぞ!!」
麗歌が覚醒し、その瞳からは光が消える。そして了がビシっと人差し指を鉄鼠に向け宣言するのを合図に、一行は戦闘を開始した。一真が周囲にばら撒くようにガトリング砲を発射、それに足を止めた鉄鼠達へと、一行は一斉に攻撃を行なう。
「っ!」
だが鉄鼠が一声あげると、一行の接近を阻むように旧鼠達が前に出た。むき出しの牙で飛び掛ってくる鼠達に、了達はなかなか鉄鼠へと近づけない。
「やはり、厄介ですね」
白雪も足止めを受け、両手に持った刀で旧鼠達を切り払いながら呟いた。旧鼠は、一匹一匹はたいしたことはないのだが、いかんせん数が多く、斬っても斬ってもきりが無いように思える。鉄鼠を退治する時間が長引けば、他のルートの鼠達が街へとたどり着いてしまい、被害が出てしまうかもしれない。
「援護射撃行ないます、その隙に」
「鬱陶しいんだ、よっ!」
「あなた達の相手をしている暇は無い」
そのような様子に、麗歌が弓矢で援護を行う。その援護で一瞬動きが止まった旧鼠の隙をつき、了とアグレアーブルの二人は瞬天速を用いて、一気に鉄鼠との間合いを詰めた。
「っ! 鼠達が動きを変えた!? まずこちらを狙う腹積もりですか!」
二人に接近された鉄鼠は、再び鳴き声をあげる。すると今度は一真達、後衛を狙うように旧鼠達が動きを変えた。一真はすぐに武器を刀と盾に持ち替え、襲い掛かってくる旧鼠達に対処する。
「きゃあ‥‥この槍で、猫さんが助けにきたりはしないですかね」
「そこのお前覚えておけ‥‥俺の有栖に手出しする奴は何人たりとも生かしておかねぇんだよ!」
「あまり恥ずかしいことを言わないでください」
有栖も襲い掛かかられて小さく声をあげた。その声に、了が鉄鼠を睨みつけて拳を振るう。そんな了の言葉に困ったように言う有栖だが、覚醒して抑揚の無い機械的な口調なので、実際どう思っているのか良くわからない。
「それにしても、こいつ‥‥硬い」
「隙があれば、俺の必殺技をお見舞いしてやるのに。こうしている間にも有栖が!」
「街より、小川さんの心配なんだ」
果敢に攻撃を仕掛けるアグレアーブルと了。しかし、鉄鼠の皮膚は石のように硬く、なかなか決定的なダメージを与えることが出来ない。しかも、周囲の旧鼠が間には行って邪魔をするので、思うような攻撃をすることも出来なかった。
「これならどうだ!」
業を煮やした了が、足を止めて渾身の一撃を放とうとする。
「あぶない!」
「っ!!」
しかし、それに対し鉄鼠は尻尾を振るって攻撃してきた。アグレアーブルは直感的に了へと声をあげ、了も咄嗟にその身を捻って回避行動を行なう。
「な、なんだ!?」
その一瞬後、メキィと音を立てて、周囲の木が折れた。見れば、鉄鼠の尻尾の先に、石の塊のようなものが付いており、それがハンマーのように木を叩き折ったのだ。
「鉄鼠の尻尾があんなハンマーみたいになってるなんて聞いたこと無いぞ」
その様子に、了が顔を顰める。尻尾ハンマーは、重量と遠心力によりかなりの威力で、当たれば無事にはすまないだろう。
「鉄鼠を元に、戦闘用にアレンジを加えたということなのでしょう。私が前に出て一気に倒します、二人はサポートをお願いします」
そう言って、白雪が前に出た。白雪は両手に刀を持ち、摺り足でジリジリと間合いを詰めていく。
「はっ!」
あと一歩で刀の間合いという所で、白雪は隠し持っていた短剣『蛇剋』を鉄鼠に投げつけた。意表を付かれたであろう鉄鼠だが、その鋭い牙で蛇剋を叩き落す。
「八葉流七の型‥‥六花血招」
しかしそこへ、素早く間合いへと入った白雪が流し斬りで鉄鼠の足を切り裂く。
「八葉流弐の型‥‥双葉」
続けて、本命の一撃。首を切り落とすように、二刀を用いた切り上げと切り下ろしの同時攻撃。鉄鼠が悲鳴をあげる。
「浅かったか‥‥さすがに硬いわね」
それでも、鉄鼠の硬い皮膚に阻まれ、思うようなダメージを与えられなかった。再び尻尾で反撃に転じる鉄鼠の攻撃をいなしながら、攻撃のチャンスを窺う白雪。
「みなさん、私が鉄鼠の身体を柔らかくしますので、一気に仕掛けてください」
「その間の、有栖さんの守りは任せてください」
そこへ、後ろに下がっていた有栖が超機械を持って鉄鼠へと近づく。一真に守られながら、有栖が鉄鼠へと練成弱体を掛ける。すると、鉄鼠の皮膚が少し柔らかくなった。
「続けて、弾頭矢行きます。その隙にどうぞ」
麗歌が弾頭矢を弓に番え、鉄鼠に向かって放つ。狙い定めた矢は、頭部に命中し爆発を起こした。爆発に怯み、鉄鼠に隙ができる。
「さすが俺の有栖、いい仕事だな。俺の拳よ光って唸れ‥‥必殺! 獣王ぉ閃光拳!!」
「‥‥もう少し遊んでいたかったけど、貴方のお友達が街の人に迷惑をかけるから。八葉流五の型‥‥狂紅葉」
「これで決める。はっ!」
その隙を逃さず、了、白雪、アグレアーブルの三人が一斉に渾身の一撃を放った。そして、鉄鼠は断末魔の悲鳴をあげると音を立てて地に倒れる。すると、旧鼠達は慌ててその場から散り散りに逃げ出してしまうのだった。
「鼠達が引いていく‥‥? そうか、どうやら上手くいったようだな」
突然、元来た道を戻っていく旧鼠達の様子に、剣一郎は仲間達がキメラの司令塔を退治したことを悟った。そして、息を整えるように軽くため息をつくと、刀についたキメラの体液を振り払う。
「さすがに‥‥なかなか骨が折れたな。応急処置だけでは辛い‥‥か。あの大食い仔猫に治療してもらわないとな」
そう言った剣一郎は身体に少なからず怪我を負っていた。たった一人で、旧鼠の大群を相手にしたのだから当然のことだろう。
『こちら鋼です。そちらは大丈夫ですか?』
「こちら白鐘。多少のダメージはあったが、問題は無い。鼠達はあっという間に引いていった」
そこへ、蒼志からの無線が入る。蒼志も、たった一人で橋を通ろうとする鼠達を退治していたが、なんとか命は無事のようだ。
『こちらもです。彼らは無事に鉄鼠を退治したようですね。それにしても‥‥あれだけの数に囲まれたのは久々ですよ』
「そうだな。ともかく、お互い無事でよかった。これから帰還する」
『了解』
周囲には、彼らが倒した多くの鼠達。その様子を見るだけで、彼らの獅子奮迅の働きがあったことがわかる。街への被害が最小で済んだのは、まさしく彼らのおかげだろう。その後、一行は無事に合流し、有栖の練成治療を受け。依頼達成を街に報告すると、帰路へと着くのだった。