●リプレイ本文
「これは酷いですね」
焼け焦げた山を見上げて、一行はそう呟いた。木々はすべて焼け落ち、禿山の様相を見せ、地面は炭で真っ黒に染まっている。
「不死鳥か。鳥の分際で火とは、生意気な話だよな。鳥なら鳥らしく焼かれてろっての」
「‥‥生きて死ぬ、それが生き物のルール」
「フェニックスというより、ソロモン72柱の魔神フェネクスかしら。まあ、呼び名が違うだけで同じものなんですけどね」
「フェネクス‥‥」
レイヴァー(
gb0805)とアグレアーブル(
ga0095)の言葉に、雪野 氷冥(
ga0216)が山の惨状に苦笑しながら答える。再生の霊長として尊ばれるフェニックスよりも、悪魔の一つと数えられるフェネクスのほうがイメージに合うということだろう。ルアム フロンティア(
ga4347)もそれに同意するように、小さくその名を呟いた。
「ふむ不死鳥のキメラ、ですか。実に興味深い。フェニックスの元はエジプト神話の霊長ベンヌだと言われており。数百年に一度、炎に飛び込み、灰から再び生まれ変わるそうです。また古代フェニキアの‥‥」
「トリスの悪い癖がまた始まったか‥‥」
そんな話にトリストラム(
gb0815)が、フェニックスについての解説を始める。彼は雑学の知識を披露したがる癖があり、レイヴァーがその様子に苦笑する。
「‥‥ソロモン72柱の1柱に数えられ、詩作に優れてお‥‥」
「あーあー! やっぱりAU−KVってかっこいいよな!」
「そう言ってもらえるとうれしいのですよ!」
トリストラムの解説を聞き流しながら、ミア・エルミナール(
ga0741)は美空(
gb1906)の乗っているAU−KVリンドヴルムを興味深そうに見る。ミアはロボオタクでもあるので、本気で興味深いのだろう。
「‥‥とよく混同されるが、フェニックスと鳳凰は別物です」
「なるほど、ためになる」
そんな中、トリストラムの解説をちゃんと聞いていた宗太郎=シルエイト(
ga4261)が感心したように頷くのだった。
「さて、川か湖なんかがあれば、そこに誘い込みたいと思ってるんだけど‥‥もっとも、戦う以上、足場のしっかりした場所じゃないと困るしね」
「地図を見ると‥‥この方角を真っ直ぐ行くと、川があるようです」
とりあえず、火の鳥を迎撃しやすそうな場所を探すことにした一行。氷冥の意見に、アグレアーブルが地図を確認しつつ方角を指し示す。
「では、その辺りで戦闘に適している場所を見つけたら。二手に分かれて捜索を開始しましょうか」
そして、トリストラムの意見に一同は頷き、山の中へと入っていくのだった。
川を見つけ、戦いに有利そうな場所に目処をつけた一行。その後二手に分かれ、しばらく山を探索していると、トリストラム達は山頂付近でその光景を目にするのだった。
「これは‥‥凄いですね」
トリストラムが呟く。山頂付近のやや平らになった場所で、火の粉を撒き散らしながら赤い炎が燃え盛っており。一見して、大きな焚き火が焚かれているようにも見えるが、その正体は3メートル近い大きさの巨大な火の鳥。おそらくそこは巣なのであろう、火の鳥はその場所で羽根を休めているようだ。
「こちらには、まだ気づいていない‥‥か?」
宗太郎が言うように、一行と火の鳥はまだかなりの距離があり、火の鳥の方ではまだ彼らに気づいていないようであった。しかし、彼らのいる場所から、巣まではこれといった遮蔽物も無く、身を隠すことは出来ない。近づけば、まず間違いなく見つかるであろうし、今居る場所も、上から見れば丸見えで、放っておいても見つかると思われる。
「どうせ見つかるんでしょうし、予定通りさっきの場所まで誘き寄せるしかないんじゃないですかね」
「囮役は任せて欲しいのですよ!」
「そうですね、まずはB班に連絡を取りましょう」
レイヴァーの意見に、美空が賛同し、トリストラムも頷いてトランシーバーを取り出しては、ルアム達と連絡を取る。
「まずい、起きたようだぞ」
その間火の鳥を警戒していた宗太郎が、火の鳥が動き出す気配に一行に注意を促す。やがて、火の鳥はその長い鎌首をもたげ、一行の姿に気づくと威嚇するように甲高い鳴き声を上げた。
「見つかりましたか、とにかく予定通り、火の鳥を川まで誘導します!」
「了解であります! では、いくですよ!!」
トリストラムの指示に、一行が頷き。メインの囮役となった美空が、リンドヴルムに搭載した大口径ガトリング砲を火の鳥へと向けた。そして、激しい音と共に、大量の弾丸を火の鳥へと発射する。
「情報通り、凄まじい再生力のようですね」
レイヴァーが言うように、火の鳥は銃弾を受け悲鳴をあげるも、その傷はすぐに治り。今度は怒りの声をあげながら、羽根を羽ばたかせて宙へと舞い始めた。
「来るぞ、逃げろ!」
「はいです!」
宗太郎の声に、美空はリンドヴルムをバイク形態へと変形させ、勢い良く山を駆け下りる。そしてそれを上空から火の鳥が追いかけてきた。
「気をつけろ! 何かしてくるぞ!」
「うわっひゃぁ〜! です!」
一足先に後退した宗太郎達に追いつこうとする美空。そこへ、火の鳥が鎌首をもたげたかと思うと、口から火球を吐き出した。慌てて回避行動を取る美空の横を火球が通り過ぎ、地面で盛大に爆発する。
「さすがに、あれが直撃すると、致命的ですね‥‥」
火球が命中した地面は、高温に熱されたように赤く溶け出す。トリストラムがその様子に、顔を顰めた。
「あちちー! です!」
美空は火球を避けながらバイクを走らせるが、舗装されているどころか、道ですらない山の中、思うように走らせることもできず、直撃はしていないがたびたび火球の熱波に晒される。そうこうしながらも、やがて一行は目的地の川が見えてきた。
「!」
パーン! と発砲音が響き、上空に居た火の鳥が悲鳴をあげる。それは、先に待機していた氷冥のライフルによる攻撃だった。
「誘導ごくろうさま。さぁ、反撃開始よ!」
「射撃を開始します」
美空達に氷冥は笑みを送りながら、火の鳥の注意をこちらに向ける。アグレアーブルが、その手にガトリング砲を持ち、大量の弾幕を火の鳥へと向かって放ち始めた。
「ほらほら、皆も水被って被って!」
「ちょっと待ってくだ‥‥うぶ!」
ミアがレイヴァー達に川の水をぶっ掛ける。一応、火の鳥の熱対策のようだ。
「ああ、スーツが‥‥」
「燃えて‥‥無くなるよりマシ‥‥」
びしょ濡れになったレイヴァーがぼやくのに、同じくびしょ濡れのルアムが言葉を掛ける。ルアムは水が苦手らしく、少し不機嫌に見えた。
「ふぅ、やっぱり単発では、効果が無いわね。なんとか地上に落せないものかしら」
「‥‥なら、これはどうです?」
一行の射撃に怯むことなく、上空を飛び回る火の鳥。氷冥達の水の属性を持った武器での攻撃は、少なからず効果があるはずだが、そのダメージも火の鳥は瞬く間に回復してしまっていた。氷冥がその様子に小さくため息をついて苦笑する。そこへ、アグレアーブルがガトリングから弓へと武器を変え、火の鳥へと矢を撃ち付ける。その矢には、ワイヤーが結ばれており、それで火の鳥を地上に引き摺り落そうというのだ。
「!!」
矢は火の鳥に命中、アグレアーブルはすぐにワイヤーを引っ張る。そして、ワイヤーに引き摺られ火の鳥は高度を落した。しかし、市販のワイヤーでは火の鳥の身体に纏う炎の熱には耐え切れず、目的が達成される前に切れてしまった。
「駄目でした‥‥」
「ドンマイ! いい線いってたよ!」
無表情ながら少し残念そうに呟くアグレアーブルに、ミアが励ましの声を掛ける。
「これならば、どうだ!」
次に、宗太郎が弾頭矢を束にしたものを、直接手で投げつけた。それは、火の鳥へと真っ直ぐ飛んで行き‥‥。
「‥‥外れですね」
火の鳥にあっさりと避けられてしまった。そもそも、弓で射るのも難しい矢である、投擲の達人ならともかく、慣れない者が投げつけてもそうそう当たるものでは無い。
「あ‥‥」
しかも、落ちてきた衝撃で、弾頭の火薬が爆発、盛大に土が舞った。もう使いなおすことはできないだろう。
「来ます! 皆さん避けてください!」
火の鳥の様子に、トリストラムが一行に注意を促す。そこへ、火の鳥は再びいくつもの火球を吐き出して反撃を行なってきた。それを回避する一行だが、地面に着弾した火球が周囲に熱気を撒き散らす。加えて、焼け残っていた木々が、飛び散った炎で引火し、再び燃え出した。
「もう止めて下さい‥‥母上ーっ!」
「‥‥は?」
苦戦する一行の様子に、ルアムが突然両手を広げて叫ぶ。どうやら、自分の覚醒した姿が、不死鳥を模した姿であるために、火の鳥へ仲間意識を与えて気を引こうとしたようだが。火の鳥は、まったく意に介した様子も無く、上空を飛び回っている。むしろ、その言葉に気を取られたのは仲間達であった。
「なんと! あの火の鳥はルアムさんの、お母さんでしたか!? 困りました、それでは倒すわけには‥‥」
「いや、そんなわけありませんから」
美空が本気で心配する様子に、レイヴァーが呆れたように苦笑して首を横に振る。
「危ないってば!」
逆に狙われてしまうルアムを、ミアが慌てて庇う。火球がミアを掠り横を抜けていった。
「いつつ‥‥」
「すいません‥‥いま治療を‥‥」
「だ、大丈夫、仲間を庇うぐらいの役には立たないとね。でも、母上って‥‥、あんまり笑わせないでよ‥‥ね」
「すいません‥‥」
腕に火傷を負うミアを、ルアムがすぐに超機械で治療する。そんなルアムに、ミアは苦笑を浮かべた。
「‥‥このままだと、きりが無い」
「そうね、もっと瞬間的に攻撃を集中させないと」
「少なくとも、あの羽根を一瞬でも折ることができれば、地上へと叩き落し必殺の攻撃を与えることも可能なはず。皆さん、合図と共にタイミングを合わせて、羽根へと集中攻撃を行ないましょう」
アグレアーブルの言葉に、氷冥が頷く。それに、トリストラムが提案を出した。
「合図は宗太郎さんのソニックブームで。そのタイミングにあわせ、羽根への一斉攻撃を行ないます」
「任せとけ!」
トリストラムの指示に宗太郎が応え、3メートルの槍を構える。一行はそれぞれに、自らの持つ最大射撃を、火の鳥へと放てる準備を行なった。やがて、上空を舞う火の鳥が、再び攻撃を行なおうと鎌首をもたげ一行へと向きを変える。
「いまだ! 食らえぃ!!」
その一瞬を見逃さず、宗太郎がブンと音を立てながら槍を振るう。その槍の切っ先が空を切り、衝撃波となって火の鳥に襲い掛かる。
「今です! あの燃え盛る翼を穴だらけにして差し上げましょう」
「‥‥射撃開始」
「さて、この攻撃に耐えられるかしら?」
「ファイターだって、射撃が出来ないわけじゃないんだよ!」
「スパークマシン‥‥発射‥‥」
「撃てるだけ撃ち続けるのみで御座います」
「竜の爪発動! 全力射撃であります!」
宗太郎と同時に、一行が火の鳥へと全力射撃を行なう。それらの攻撃が、間をおかずに同時に命中。さすがの火の鳥も、これだけの攻撃を一度に食らってはひとたまりも無く、片方の羽根が吹き飛んでしまう。そして、羽ばたくことが出来なくなった火の鳥は、地上へと墜落した。
「しぶとい! でも地上に落ちればこっちのもの! こいつがあたしの本気‥‥だよ!」
「コレでダメなら、二の太刀はないわよ!!」
地に落ちた火の鳥、だがしかし、まだ生きているのか、再び羽根が再生しようとする。そこへ、ミアと氷冥が武器を持ち替えて斬りかかる。二人は、身体全体に赤いオーラを纏わせ、強力な一撃を火の鳥に加えようとした。
「っ!」
しかし、火の鳥は火球ではなく、炎の息を吐き出して一行を牽制する。
「走り回れるのだけが、僕の取得ですので。やれるだけやらせて頂きます」
レイヴァーがその炎の中を疾風のごとき動きで駆け抜け、ナイフを火の鳥の首に突き立てる。ミアと氷冥も、炎をものともせずにそのまま突っ込み、斧と刀で身体を切り裂いた。
「輪廻転生。次はキメラになど生まれて来ないように‥‥安らかに眠りなさい」
最後に、トリストラムがレーザーブレードで火の鳥の首を切断。さすがの火の鳥も、首を胴と切り離されては生きることができないのか、再生することなくそのまま動きを止めるのだった。
「さすがに、伝承のように灰から復活するようなことはありませんか。所詮キメラといえど生き物、不死にすることはできないようですね」
戦闘終了後、トリストラム達は一応火の鳥が復活しないか確かめ、山火事で死んでしまった動物達に弔いを行なった。
「どうか安らかに‥‥そして、再びこの山が緑で包まれるように‥‥」
祈りを捧げるルアム。きっといつかまた、山は緑を取り戻し、多くの生き物を育むだろう。
「だ、だいじょぶだって言ってるのに、ってて‥‥」
「跡が残っちゃ大変でしょ。特に女の子はね」
遠慮するミアに包帯で治療する氷冥。いちおう、ルアムの練成治療も受けているので傷もほとんど残ることは無いようだ。
「メデューサキメラの首以来の、収穫でしょうか?」
「おお、これでついに忍法火の鳥が!」
火の鳥の身体の一部をサンプルとして回収するトリストラム。なにやら、美空が期待の眼差しでそれを見つめている。といっても、すでに火の鳥の身体からは炎は出ておらず、しかも見ただけではどうして炎が出ていたのかもわからない。よほどの研究機関で調べなければ、その秘密の解明はできないだろう。人類には、まだまだバグアのキメラ技術を理解することは難しいようだ。
ともかく、こうして一行は無事に火の鳥キメラを退治し、依頼を達成するのだった。