●リプレイ本文
「では、模擬戦を始める! 一組目、アノッソ・グランド! 木場・純平(
ga3277)! 両者前へ!」
「よっしゃ! まずは俺からか! 燃えるぜ!!」
「ほぅ、これは元気そうなのが出てきたな。若さに負けることがないよう、おじさんも張り切っていかせてもらおうか」
デイビット軍曹に名を呼ばれ、気の強そうな青年が前に出る。純平はその様子に、微かに口元に笑みを浮かべ、ゆっくりとした足取りで試合場に立った。
「相手はおっさんか。アンタが何者でも、俺は全力でやらせてもらうぜ! 怪我してもしらねえぞ!」
「心意気は良し。あとは、それに見合う経験を積むことだな」
「へっ! アンタを倒して、俺の実力を認めさせてやるぜ!」
戦いの準備のため二人は能力を覚醒させ、筋骨隆々となった。息巻くアノッソに、純平は余裕を見せる。そして、新兵達の見守る中、軍曹の合図と共に試合が始まった。
「試合開始!」
「速攻で行かせてもらう。グラップラーらしいだろ?」
「な、なに!? 疾い!!」
合図と共に純平は一気に力を解放、限界突破の能力により超人的な速度で間合いを詰める。迎撃するように拳を繰り出すアノッソだが、純平はその攻撃をものともせずに懐に入り込むと、そのまま目にも留まらぬほどの拳を叩き込む。アノッソは、防御することも出来ずにまともにそれを食らう。
「ぐっ! がはっ!!」
「悪く思うな。こういう戦いもあるってことだ」
純平は流れる動きで低空タックルをかますと、一気に押し倒し相手の関節を取った。
「さぁ、参ったをしたまえ」
「ぐぐぐ‥‥い、いや‥‥だ‥‥」
関節を極めて降参を促す純平。しかし、アノッソは首を横に振る。
「無茶をするな、折れるぞ」
「俺‥‥は‥‥負けねぇ‥‥」
「‥‥しかたない」
必死に抵抗するアノッソに、純平は小さく呟くと、なんと関節を極めたままスープレックス投げを行い、アノッソを地面に叩きつけた。そのあまりの衝撃にアノッソは気を失ってしまう。
「これで勝負ありだな。しかし、キミの頑張りは賞賛に値する。これからのキミの活躍に期待しているよ」
「勝者! 木場純平!!」
ざわざわ‥‥、純平のあまりの一方的な試合にざわめく新兵達。
「二組目、リアン・ルーズ! セラ・インフィールド(
ga1889)! 前へ!!」
「ボクの出番か」
「セラです。よろしくお願いします」
そこへ、次に呼ばれた二人が前に出る。リアンはクールな印象のある青年。セラは細い瞳に笑みを浮かべ、礼儀正しく挨拶をした。
「ボクに奇襲は効かない。この試合、勝たせてもらう」
「天才のお手並みを拝見させていただきましょう」
「試合開始!!」
勝利宣言するリアンに、セラは能力を覚醒させ、その細目をゆっくりと開き笑みを消す。そして、二人の準備が整うと、試合が開始された。
「‥‥防御主体か」
お互いに剣を持ち、数合の打ち合いを行うと、リアンはセラの戦法を見抜く。セラは盾で相手の攻撃をいなし、カウンターで攻撃を行なう戦法を取っていた。
「ならば‥‥」
そこで、リアンは間合いを取り銃器での遠距離攻撃に切り替える。
「さすが、対応が早いですね。ですが‥‥!」
「っ!!」
しかしそこへ、セラが剣から衝撃波を飛ばし牽制、そのまま一気に間合いを詰めて流し切りを行なう。的確に急所へと打ち込まれた斬撃に、リアンは回避しきれない。
「‥‥参った」
「あなたのセンスは素晴らしいと思います。ですが、それに驕らず、経験を積むことも大事ですよ」
「勝者! セラ・インフィールド!」
首筋に当てられた剣に、リアンは敗北を認める。セラは、再び細い瞳で笑みを浮かべ、リアンに助言するのだった。
「けっ、情けねえ。優等生も戦闘じゃその程度か」
「三組目! ジン・アーヴィン! アンジェリナ(
ga6940)! 前へ!!」
「ようやく出番か! 俺の相手はどいつだ?」
悪態をつきながら、一際大きな体格の男が前にでる。荒々しい顔立ちに、逞しい身体、その手に持った大剣を軽々しく振り回す。
「試合開始!」
「どうだ。てめぇも、こんな風にぺっちゃんこになりたいか?」
「――力はあるようだな‥‥だが、それだけだ」
「てめぇっ!! 模擬戦でも死ぬことはあるんだぜ!!」
周囲の瓦礫を破壊するほどのジンの力任せの攻撃を、紙一重で回避していくアンジェリナ。その真紅に光る瞳が、素早い回避のたびに残像を残す。
「ちょこまかと!」
「――朱桜弐型−時雨−」
「なっ!?」
しばらくのち、反撃に転じたアンジェリナ。模擬用の刀がジンの頬を切り裂く。
「なまくらでも、使う者が使えば、相手を切り裂くことができる」
「こ、このぅ!!」
「肆型−緋寒−」
再び、アンジェリナの刀が振るわれ、ジンの大剣をその手から弾き飛ばした。
「‥‥模擬戦でも死ぬことはある、だったな?」
「ひっ! ま、まいっ‥‥」
「伍型‥‥−白玉−」
ジンの降参を遮るように、刀を突きこむアンジェリナ。しかしそれは、あと数ミリのところで止まるのだった。
「し、勝者アンジェリナ!」
「――パワーだけでは足りない‥‥“心技体”が揃ってこその力。あなたには内二つが欠けている。そして――」
腰を抜かしたジンに、そう言葉を残し、アンジェリナはその視線を鳴神 伊織(
ga0421)へと向ける。
「――鳴神伊織。あなたが知っているか分からないが、私たちは二度‥‥一度は共闘、そして一度は敵として出会っている。私はあなたの戦いを見て自らの弱さを痛感した。そして同時にその剣と交えてみたい、と。一人の剣士として、今ここで告げたい――いつか私が、自分に納得のできる力を手に入れた時‥‥私と剣を交えて欲しい」
鋭い視線と共に、伊織に向かって告げるアンジェリナ。伊織はその視線をしっかりと受け止めるのだった。
「四組目! アルフレッド・アーク! オリガ(
ga4562)! 前へ!!」
オリガが名を呼ばれて前に出ると、ひょろりと背の高い青年が、身軽な跳躍と共に現れる。青年は陽気な笑みを浮かべながら、ダンスを踊るような足取りでオリガの前に。
「ひゅー♪ 相手は美人のおねーさんかい?」
「あら、お上手ね」
「‥‥試合開始!」
開始の合図と共に、両者とも素早く遮蔽物に身を隠す。アルフレッドは、すぐに仕掛けてくる様子は無く、まずは様子見のようだ。
「っ!!」
射撃音が響き、どこからともなく弾丸がオリガの隠れている場所へ。それを回避し、素早く弾丸が飛んできたほうへと撃ち返すが誰もいない。
「おねーさん、跳弾って知ってるかい?」
「なるほど、そういうことですか。ふむ‥‥こう‥‥かしら?」
「なっ!?」
しかしオリガは、タネがわかるとすぐに射線を予測、アルフレッドが隠れていると予想される場所へと跳弾を撃ち返した。どんぴしゃだったようで、慌てて移動しようとするアルフレッド。
「ちょっ、まっ!」
「種明かしは最後までしないことですよ。己の技術に慢心しましたね」
「‥‥ま、まいった」
アルフレッドが出てきた所に、オリガが正確に頭部をポイントすると、アルフレッドは諦めて負けを認めた。
「それじゃアル君、私が勝ちましたし、私に付き合っていただきますわね♪」
「へっ?」
「今晩一緒に飲みに行きましょう」
「行く行く! どこへだって行っちゃう!」
その後、オリガに酒に誘われたアルフレッドが、あっさりと酔い潰されて、高額の飲み代を払わされるのも一つの人生経験だろう。
「五組目、ジャック・ブロンソ! 佐竹 優理(
ga4607)!」
「けっ! 全員情けねぇやつらだぜ!」
「こりゃまた、随分と荒々しいのが出てきたね」
昼食をはさみ第五試合目が行なわれる。他の者達を嘲るように言い捨てて、唾を吐き捨てながら現れるジャック。優理は冗談交じりの口調で苦笑しながら前に出た。
「それでは、試合を開始する。始め!」
優理とジャックが位置につき、試合が開始された。お互い、少しの間様子見を行なうが、先に仕掛けたのはジャック。素早い動きで攻めるジャックに対し、優理は八相の構えで対応する。
「残念ながら、こっちにはまだ余裕があるんだ‥‥よ?」
しばらくの攻防、お互い決定打無し。しかし突然、優理は視界がブレる感覚を感じた。しかも、妙に身体が重い。
「‥‥ようやく、効いてきたか」
「なん‥‥だって?」
「てめぇの、飯に遅効性の痺れ薬を入れておいたんだ、っよ!」
「ぐっ!」
ジャックの呟きに、訝しげな表情を浮かべる優理。ジャックは優理にだけ聞こえる声で自分の手を明かし、動きが鈍った優理に拳を打ちつけた。苦痛に表情を歪める優理。
「どうしたどうした、さっきまでの余裕はどこにいった!」
調子に乗ったのか、メッタ打ちにするジャック。しかし、優理は最初の衝撃から抜けると、すぐに余裕の表情を浮かべてみせる。
「ちっ、やせ我慢しやがって。だが、これで終わり‥‥だっ!」
そんな優理に、ジャックが相手の意識を刈り取ろうと、渾身の拳を繰り出した。だが‥‥。
「‥‥それで?」
「なっ、まだ動けるのか!?」
「っ!!」
「がっ!」
ジャックの大振りの一撃を紙一重で避け、そのまま腕を掴むと、刀の柄でジャックの胸部を強打、そして一気に刀身で薙ぎ払う。
「面白い手だったねぇ。でも、バグア相手に薬物が効くとでも? それに、最後に勝負を決めるのは気迫と覚悟。私はそう感じてる」
「勝者! 佐竹優理!」
「‥‥いてぇよお゛! ‥‥死ぬ゛ー!!」
最後に言葉を決めて格好をつけた優理。しかし、その後すぐに、やせ我慢していた痛みを訴えて台無しとなるのだった。
「六組目、リューク・ベイン! 辰巳 空(
ga4698)! 前へ!」
「‥‥‥」
「結局、事前に調べた情報はこれといったものがありませんでしたね。未知の相手、相手は元軍人で特殊部隊の経験があり、狙撃のスペシャリストである以上に格闘戦も行える対人戦のスペシャリストと想定し、気を引き締めませんと」
六試合目、呼ばれたのは気配が非常に希薄な男。その様子に、空は自分に言い聞かせるように呟いて気を引き締める。
「試合開始!」
「はっ!」
「‥‥!!」
空は獣の姿となると、瞬速縮地で一気に間合いを詰めて格闘戦へと持ち込む。リュークは、逃げ切れないと判断すると、すぐさまナイフを構えて応戦しようとするが。
「はっ!」
空は居あい抜きでリュークのナイフを弾き飛ばすと、そのままの勢いで腕関節を極め、身動きが取れなくなったところに、絞め技で落した。
「あ、あれ?」
「‥‥‥」
あっさりと気絶してしまったリュークの様子に、逆に呆気に取られる空。あまりの過大評価のために、全力を出してしまったが。実際の所、秀才とはいえあくまで新兵が、少なからず実戦を積んだ空の全力に対抗できるはずもなかったようだ。
「勝者、辰巳空!」
「ま、まぁ、こういうこともありますね」
「七組目! タカノリ・ミヤマ! 緋霧 絢(
ga3668)! 前へ!」
「ようやく僕の出番か。それにしても、ここまで誰も勝てないなんて。同期として情けない限りだよ」
わざとらしくため息をつきながら前に出るタカノリ。それに、絢は丁寧に頭を下げた。
「ミヤマ様、本日はお手柔らかにお願いいたします」
「ふん! 民間人、しかも女か。僕は女でも手加減しないよ」
タカノリは絢を見て不機嫌そうに顔を顰める。どうやら、完全に絢を自分よりも下に見ているようだ。
「試合開始!」
そして試合が始まり、盾を構え防御の姿勢で様子を見るタカノリに、絢は両手に持ったショットガンで銃撃を開始する。
「スナイパーとしては多少異質な戦い方かもしれませんが、先手必勝というやつです」
「その程度、僕の守りを崩すことはできないよ」
激しい銃撃をものともせず、タカノリは上手く攻撃を防御しながら、間合いを詰めていく。
「隙が無ければ強引に作るのみです」
「なっ‥‥」
しかし、絢は攻撃の手を休める所か、より一層、攻撃を増やしていった。激しさを増す攻撃は、タカノリの予想を超えていき、やがて防御しきれなくなってくる。
「くそっ、なめるな!」
「なめていたのは、そちらでしょう」
対応しきれなくなり、慌てて防御から攻撃に切り替えようとしたタカノリだが、それを待っていたかのように絢は素早くタカノリの背後に回ると、ナイフを首に突きつけた。
「攻撃は最大の防御とも言います、防御技術も大切ですが生半可な防御力ではこうして貫かれるものですよ」
「こ、この僕の守りが生半可だと‥‥! くそっ!!」
「勝者、緋霧絢!!」
「八組目、ヘーイ・ボン! 鳴神伊織!」
「お相手の方はどちらに?」
「あ‥‥お、俺です」
伊織が前に出ると、困ったような苦笑を浮かべながら一人の青年が現れる。見た感じ、特にこれといった特徴の無い、まさに平凡を絵に描いたような青年だ。伊織の鋭い視線に、ただ苦笑を浮かべるヘーイ。どうみても実力者には見えない。
「いいでしょう、実力は実際にやってみて知るとします。こちらの準備はできました、いつでもどうぞ」
「あ、俺もいいです」
「では、試合開始!」
試合が開始された。刀の伊織に対し、ヘーイは模擬用の槍、根を構える。伊織は、腰に挿した刀を抜かず、盾扇を持つのみ。そこへ、ヘーイが根を突きこんでくるが、伊織はあっさりそれを扇で弾き返す。
「動きは悪くないのですが‥‥まだまだですね」
伊織の見立てでは、ヘーイの実力はあくまで標準並。他の代表者と比べても、目を見張る部分は見受けられない。
「うわっ!」
何合かの打ち合いの後、伊織が放った打撃にヘーイはたたらを踏む。追い討ちをかければ、そこで決着がついたが伊織は様子を見る。
「‥‥わかりました。残念ですが‥‥」
しかし、それもここまでとばかり、伊織は強い殺気と共にヘーイに止めを刺しに行く。
「っ!!」
だが、ヘーイは殺気に怯むかと思いきや、鋭い眼光と共に今までとは比べ物にならない速さで根を放ってきた。その勢いに、伊織は咄嗟に刀を抜き、それを弾いた。そのまま、刀を相手の首筋に。
「うっ、参りました‥‥」
「‥‥‥」
そして、ヘーイの敗北宣言で勝負は決まった。しかし、今の一瞬、ヘーイの見せた鋭さに、伊織は何かを感じた。まるで、こちらの殺気に、つい隠していたものを見せてしまったように。
「さきほどのあなたは‥‥」
「貴様ら!! これで、貴様らの実力がわかったか! お前達は、所詮ひよっこでしかない! 上には上がいるんだ、わかったな!! わかったら、訓練を開始しろ!!」
「あ、それじゃ、俺は訓練がありますんで」
伊織がヘーイに声をかけようとするが、軍曹の怒鳴り声に、ヘーイはすぐに訓練へと向かってしまう。
「私も終わったらお茶をしつつ反省会でもと思ったのですが。せっかく、いい豆が入ったのに残念ですね。では皆さんだけでも」
セラも訓練へと行ってしまう新兵達に残念そうに肩を竦めた。こうして、一行との模擬戦は成功を収め、新兵達は再び厳しい訓練を開始するのだった。