●リプレイ本文
●配役決定
鈴美の突拍子も無い思いつきから数日後。俺と鈴美は、依頼を受けたというエミタ能力者達との顔合わせを行っていた。まさか、本当に集まるとは‥‥、エミタ能力者ってのは意外に暇なのか?
「それじゃ配役を発表するわよ! エミタレッド、クリア・クリムゾン役。クリア・サーレク(
ga4864)!」
「はい!」
「クリア・サーレクです! アメリカでも戦隊物は大好きだったんだよー! 戦隊物のレッドが出来るなんて、夢のようなんだよー!! 一生懸命がんばりますので、よろしくおねがいします!」
凄く嬉しそうだなぁ。それに、元気な様子は好感が持てるな。け、けして、可愛いからってわけじゃないぞ。
「エミタブルー、ロジー・アクア役。ロジー・ビィ(
ga1031)!」
「はい」
「重要な役に選んでいただいて光栄です。がんばりますね」
「ブルーは、変身するまではちょっと天然入ってるから、上手く演じてね」
「あら、それでしたら、素のあたしと似てますね」
そう言ってコロコロと笑うビィさん。‥‥どうやら、見た目からの第一印象とは少し違う性格のようだ。
「エミタイエロー、犬飼翼役。伊藤 毅(
ga2610)!」
「はい」
伊藤さんは、元軍人というだけだって、ピシッとした立ち方をするな。真面目そうな人で、一番リーダーっぽいと思うんだが。イエローは勝つために手段を選ばないという真逆な性格だし、本当に大丈夫なのか?
「伊藤毅です、よろしくお願いします」
簡単に挨拶をし、席に着く伊藤さん。ま、俺は配役には口を出せないし、鈴美にも何かしら考えがあるんだろう。単なる思い付きかもしれないが。
「エミタホワイト、白鳥恭平役。水鏡・シメイ(
ga0523)!」
「はい」
「水鏡シメイです。皆さんの足手まといにならないよう、しっかりとやっていきたいと思います」
その柔らかい物腰は好感が持てるな。今は和服姿だが、きっとスーツも似合うだろう。ようやく安心材料が出来たって所だな。
「エミタブラック、夜烏源治役。六堂源治(
ga8154)!」
「俺ッスか!」
「戦隊ヒーローか‥‥ガキの頃、スゲー憧れてたんスよね! バッチリ撮影を成功させるッス!」
気合十分な様子でガッツポーズを取るその意気込みは素晴らしいと思うが、役柄とのギャップに、また不安要素が増えちまったぜ。次は、敵役か。
「バグア幹部、薔薇将軍イザベル役。シェリー・ローズ(
ga3501)!」
「ようやく、あたしね」
「バグアの幹部‥‥ね。やってやろうじゃないか。芝居だからって容赦しないよ、せいぜいあたしの足手まといにはならないようにしな!」
うわ、女王様か!? それとも、すでに役柄に入ってるのかもしれない。それにしても、いきなりこの言いよう、鈴美とぶつからなければいいんだが‥‥。
「いいわね! あんた、役柄にピッタリよ! その調子で頼むわね!」
「ふふん、ディレクターは見る目があるじゃない。任せておきな!」
意外にお互いの相性は悪くないようだ‥‥。
「バグアの怪人、機械人形使いアリス役。小川 有栖(
ga0512)! 同じく、怪人大剣使いサルファ役。サルファ(
ga9419)!」
「は〜い」
「はい」
立ち上がったのは、可愛らしい少女と美形の青年。バグアの怪人というから、もっと怖そうなイメージをしていたが、鈴美はどうやら敵役にも花を持たせたいようだ。これなら確かに敵役にも人気がでそうだが‥‥まてまて、敵ってバグアだぞ、バグアが人気出たらまずいんじゃないのか?
「小川有栖です、好きなことは食べることです。一生懸命がんばりますね〜」
「サルファだ。面白そうな依頼だと思ってやってみることにした。よろしく頼む」
それぞれの配役発表と挨拶が終わり、俺は台本を配る。エミタ能力者ってのは、もっと好戦的な人ばかりだと思ってたが、結構そうでもないらしい。皆、普通の人ばかりだ。いや、ローズさんはちょっと怖いが。ともかく、これで配役は決定し、撮影に入ることになる。正直、不安だらけだが、どうなることやら‥‥。
●撮影スタジオ
それからしばらくして、撮影が開始された。今日は、スタジオでの収録。メインは悪役側の会話シーンだ。
「最初に言っとくけど、子供番組だからってヘラヘラしてる奴は現場から放り出すよ!」
ローズさん、気合入ってるなぁ。イザベル役の衣装に着替えて、メイク済みのその姿は、まさに悪の女幹部といったところだな。本人の意向でピンク色がメインの衣装になってるが、何故か彼女が着ると可愛いというより妖しげな雰囲気になる。それにかなり露出が多いが、子供向け番組でいいのか。まぁ、最近は大きいお友達も見ることが多いみたいだしな。
「なぁADの人、俺はこの格好でいいのか? この武器、本物なんだが」
「ええ、お願いします。ディレクターが、どうせなら本物のほうが面白い、と言うもので」
大剣使いという設定の役のサルファさんは、大剣を背負っている。また鈴美の思いつきだが、サルファさんが自前で大剣を持ってたので利用することになった。
「おまたせしました〜」
「遅いわよ有栖ちゃん。あら、似合ってるじゃない。可愛いわね、ふふふ」
「そうですか? ありがとうございます」
少し遅れて有栖ちゃんがやってくる。敵役だというのに、この可愛らしさはどうだ! あと、ローズさんの有栖ちゃんを見る視線が妙に気になるが、役なのかマジなのか気になる‥‥。
「それじゃ、そろそろ撮影を開始するわよ! 皆位置について」
鈴美の指示に、役者達がセットの所定の位置につく。そして、撮影は開始された。
「よくやったわね仔猫ちゃん」
「はい、イザベル様〜」
「ふふ、交通機関を全てシルバーシートにして、若者達を座らせないようにする『若者クタクタ作戦』によって、人間達は混乱しているわ! これで地球征服も容易になると言うものね」
「素晴らしいですわ、イザベル様」
そう言ってイザベルがアリスを可愛がる。若者クタクタ作戦って、この脚本はどうなんだ?
「随分と回りくどいことをするな」
「サルファ! イザベル様の計略に不満があるというの!?」
「計略? フン、俺にはこの力がある。策なんて必要ない。非力な人形使いは、幹部の機嫌取りでもやっていろ」
「貴様!」
「いいわ、アリス。サルファ、そこまで言うのなら、その力とやらで人間達を征服してみせなさい」
「いいだろう。イザベル様に、本当の力というものを御見せする」
「イザベル様にたてつくとは、おろかなやつ」
サルファ登場か。やっぱり、あの大剣はインパクトがあるなぁ。それにエミタ能力の覚醒とやらで、実際に見えている黒いオーラが悪役っぽさを引き立てているな。いちいち映像にエフェクトをかけなくてすむから助かるな。
「はいカット! いいわよ三人とも! その調子で続きもお願いね!」
演技もみんな上手だし、ローズさんの猛特訓が効いてるようだな。鈴美の言うとおり、これからの撮影も楽しみだ。
●ロケ
さて、撮影もようやく終盤。今日は外に出て、戦闘シーンの撮影だ。今回の売りは、この戦闘シーンだからな、皆には張り切ってやってもらわないと。
「ADさん、ちょっといいですか?」
「クリアちゃん、どうかした?」
撮影が始まる前に、クリアちゃんが声を掛けてきた。人見知りしない天真爛漫な性格のおかげで、俺ともすっかり仲良しだ。いや、可愛いからとか、そういうわけじゃないぞ!
「ちょっと気になったんだけど、スタッフの皆って、実際のボク達の戦いがどんなのか知らないよね?」
「ん? まぁ、実際に見たことは無いかな。それがどうかした?」
「いや、常人が目で追うのって大変かなって思って。一応手加減とかするけど、戦いは派手なほうがいいんでしょ? 周囲に砕かれた石とかが飛んで危ないかもしれないよ」
「そうか、わかった。じゃあ、カメラマンとか他のスタッフには、俺の方から気をつけるように言っておくよ」
クリアちゃんの言うことももっともだ。実際どれほど凄い戦いになるか想像がつかないが、用心に越したことは無いだろう。鈴美のことだから、そんなこと気に掛けず、全力でやれとか言うだろうしな。
「これ以上の悪事は、このエミタレッドがゆるさない!」
「出たね! 五色饅頭!」
戦闘シーンの撮影が開始されたわけだが‥‥。なんだこりゃ‥‥。クリアちゃんとローズさんの戦闘なわけだが。クリアちゃんの銃の攻撃を、凄い跳躍で回避するローズさん。そして、目にも留まらぬ速さで間合いを詰めるローズさんの、剣での激しい突きを紙一重で回避するクリアちゃん。
「すげぇ‥‥、能力者ってこんな動きできるのか‥‥。本当に特撮みたいだな‥‥」
「いいわよ〜、これよ、これを望んでたのよ! カメラ! 撮り損ねたら殺すわよ!」
鈴美も興奮しているようだ。最初は無謀と思ってたが、たしかにこの戦闘シーンがあるだけで、十分数字を取れそうだな。
「AD!」
撮影も一段落して昼休み。なにやらローズさんが呼んでいるな。
「どうしました?」
「ちょっと何、お弁当が足りないってどういう事よ!」
「は?」
弁当が足りないってどういうことだ。間違いなく人数分用意したはずだが‥‥。
「いえ、そんなはずは‥‥」
「現に足りないのよ。ねぇ、アンタが責任取って街まで買いに行きなさいよ」
たしかに調べてみると、足りなくなっているらしい。しかし、街まではここから一時間、途中にコンビニも無い。困って周囲を眺めると、有栖ちゃんが弁当を食べているのが見えた。凄い勢いで食べているが‥‥。
「‥‥ってちょっと待て。そこ! 有栖ちゃん!」
「はい〜?」
彼女の横には空になったもう一つの弁当の箱。間違いない、彼女が弁当が足りなくなった犯人だ。
「お弁当は、一人一個だよ」
「え? 二種類あったら、二つで一食だと思うんですけど〜」
「いや‥‥」
「アンタ! ADが俳優に文句つけるんじゃないわよ。いいから、さっさと用意しなさい!」
うう、ローズさん怖ぇ‥‥。俺より年下ですよねたしか‥‥。ともかく、俺は手元にあった弁当を差し出すことにした。
「あの、すいません、これでいいですか?」
「あら、ちゃんとあるじゃない。まったく、あるならさっさと出しなさいよ」
俺の分ですけどね‥‥。ああ、今日は昼飯抜きか‥‥。
「フ‥‥俺の攻撃が避けられるかな?」
「OK、支援射撃は任せろ、敵を一歩たりとて、動かさせん!」
六堂さんと伊藤さんの殺陣シーン。戦闘員をばっさばっさと倒していくが、戦闘員の皆さんは普通の人なので、くれぐれも本気は出さないでください。
「‥‥っく! なかなかやりますわね」
「フン、この程度か、エミタブルー?」
二刀のビィさんと、大剣を振るうサルファさん。あの大剣を、よくもまぁあんなふうに振るえるなぁ。それを受け止めるビィさんも、女性なのに負けてないし。
「しかしこれも計画の内‥‥」
「っ! あの爆発の方向は、まさか!」
「隙あり!」
「ぐはっ!」
「計略も重要でしてよ?」
「‥‥計略を軽んじていた時点で、俺の敗北は決定していた、か‥‥」
爆発に動揺した隙にサルファを倒すブルー。それにしてもこの脚本、ブルーといい、イエローといい、なんで卑怯なんだ? 卑怯戦隊なのか?
「イザベル様‥‥今まで、すみませんでした‥‥どうか‥‥生きて‥‥」
「よし、そこで爆発よ!」
鈴美‥‥サルファの敗北シーンだが、いくら能力者でも自爆はできんだろ。
「おやつが無くなってます!」
三時ごろ、有栖ちゃんが突然声をあげた。
「どうしたの?」
「ここにあったおやつが無くなってるんです! もしかしてADさん食べました!?」
‥‥もし食べてたら、この腹減り具合が少しはマシになってるだろうよ。それに、弁当二つ食って、まだ食うつもりだったんだ。その後、おやつをこっそり食べた犯人が見つかったが。
「おや、バレてしまいましたね、ははは」
水鏡さん、アンタだったのか。意外におちゃめだな。
「おやつ‥‥楽しみにしてたのに‥‥おやつ‥‥」
「ははは‥‥小川さん、少し怖いですよ」
有栖ちゃんの恨みがましい様子に、笑みが引きつってますよ水鏡さん。
「ホワイト! 貴様だけは倒す!!」
「ちょ、ちょっと、もう少しお手柔らかに‥‥」
「気合入ってるわねぇ、有栖ちゃん」
小さい身体で、自分の身長と同じぐらいの槍を振るってホワイトに襲い掛かるアリス。目がかなり怖い。まぁ、食い物の恨みは怖いよな‥‥。ああ、腹減った。
●アフレコ
「この黒き刃から逃れられるかな? ブラックブレード‥‥! ぬおー! 自分で演技した口に、声を合わせるのがこんなに難しいとは! 口と声がズレる!」
「卑怯者? それはほめ言葉ってやつだ」
撮影された映像に、声をあてる作業。六堂さんは苦戦しているようだな。伊藤さんは、結構ノリノリか。この後は、主題歌の収録もあるしな、皆大丈夫か?
「え!? 今回の主題歌、オレ等が歌うんスか!? ‥‥演技は何とかなったッスけど歌は‥‥あんま得意じゃないッス」
「まぁ、歌がメインじゃないですし、あまり気張らなくても大丈夫ですよ」
「しかし、依頼ッスからね! 頑張って歌うッス!」
気合を入れる六堂さん。まぁ、複数人で歌うから、そうそう変なふうにはならないだろう。
「それじゃ、主題歌の収録開始しまーす」
●主題歌
「「「「「ULT戦隊! エミタレンジャー!!」」」」」
キミの叫ぶ声がする キミの悲しい声がする
見ない振りなんて出来ない 約束しただろう
その涙拭ってみせるさ そう俺達エミタレンジャー
「闇を切り裂く赤き閃光、エミタレッド!」
「必ず護るわ、エミタブルー!」
「天空の猟犬、エミタイエロー!」
「レクイエムを奏でます、エミタホワイト!」
「孤高のナイスガイ、エミタブラック!」
お前らの好きにはさせない 勝利へのwake up!
俺達が護ってみせる 勝利へのwake up!
この熱いパワー 誰にも止められない
Yes! エミタレンジャー GO! エミタレンジャー
ULT戦隊エミタレンジャー!
●打ち上げ
「撮影終了、おつかれさま〜!」
「かんぱ〜い!」
全ての撮影が終了し、主要の俳優とスタッフで打ち上げとなった。
「ようやく終わったのね」
「ええ、皆を引っ張ってくれたローズさんのおかげですよ。さぁどうぞ」
「あら、気が利くわね」
ホッとした表情のローズさん。撮影中はかなり気を張っていたらしい。撮影が終了した直後など、笑顔のままぶっ倒れた。本当におつかれさまですよ。
「さて、それでは盛り上がってきた所で、今回のNG集の上映と参ります!」
「ええ〜〜!!」
俺の言葉に、非難の声をあげる俳優陣。実は、クリアちゃんの提案で、こっそりとNGシーンを編集してきたのだ。正直、過重労働だが、もう慣れたさ‥‥。今日は、このNG集を皆で楽しんで、疲れを忘れるとしよう。
「よし、今回のが数字取れたら、続編を作るわよ!」
「おおーー!!」
‥‥鈴美、お前は俺を殺す気か。