タイトル:リーズ博士の危機の事マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/07/06 18:31

●オープニング本文


「ふぅ‥‥」
 疲れたようなため息をついて、リーズは研究機材から目を離す。ここはドローム社対キメラ用兵器開発室、彼女はその第三課に勤める研究員だ。時間は深夜、すでに昨日と今日の境界は越え、数時間前の今日は昨日へと変わっている。リーズ以外に研究室に残っている者はほとんどいないようで、周囲はとても静かだ。
「お疲れ様です、はいお茶をどうぞ」
「あ、メリル、ありがとう。ごめんね、つき合わせちゃって」
 一息つけるリーズに、同じ研究員のメリルがお茶を差し出す。リーズはそれに礼を述べて、お茶を口にした。暖かい湯気を立てたハーブティーの香りが、心身の疲れを癒してくれるようだ。
「リーズは根を詰めすぎてるんじゃないかな。もっとじっくり取り組んだほうがいいと思うの。がんばりすぎて、身体を壊したほうが大変ですよ」
「わかっては‥‥いるんだけどね‥‥。でも、私にはこれしかないし」
 メリルの言葉に苦笑を浮かべながら、再び資料を眺めて研究を開始するリーズ。その様子にメリルは少しため息をつくと、パッとリーズの顔を見つめて。
「リーズ! 明日出かけましょう!」
「え?」
「え? じゃなくて、明日一緒にお出かけしましょう。明日は日曜だし、研究はお休み! お出かけして、買い物とかお散歩とかして遊びましょう!」
「突然どうしたの? ちなみに、日曜はもう今日ね」
「だから、たまには息抜きしないと駄目だと思うのですよ! というわけで、今日の研究はおしまい! 明日に備えて休みましょう!」
「あ、いや、だからちょっと‥‥」
 突然のメリルの申し出に目を白黒するリーズ。メリルの強引な様子に、リーズは困った表情を浮かべるが、最終的には「しょうがないなぁ」と納得したように頷いた。
「それじゃ、明日10時に! 絶対にきてくださいね、絶対ですよ!」
「はいはい‥‥あと、明日じゃなく今日ね」

 その日、リーズとメリルは息抜きという名目で、街で買い物やカフェでの食事、公園の散歩などを行なった。最初はしぶしぶといった様子のリーズではあったが、最後にはまんざらでもない様子であったようである。
「はぁ、楽しかったですねぇ。お友達とこうやって遊ぶのもたまにはいいですよね」
「‥‥‥」
「‥‥楽しく無かったですか?」
「あ、いや‥‥こうやって遊ぶのって凄く久しぶりだったから。なんだか感慨深くって‥‥」
「そうなんですか?」
「うん‥‥。ずっと勉強漬けの毎日だったし、研究者になってからはやっぱりずっと研究漬けだったから」
 帰り道、リーズは過去を振り返るように答えた。「これしかない」と昨日答えたリーズは、本当に勉強と研究しかしてこなかったのだろう。
「あの‥‥リーズはなんで研究者になったの?」
「‥‥メリルは?」
 ふと気になったように問いかけるメリル。それに対し、逆に問い返すリーズ。
「私はその‥‥なんとなくというか‥‥誰かの役に立ちたくて‥‥。たまたま大学で師事していた先生がそっち系の人だったから」
「それは素晴らしいことだわ。それに、世界屈指のメガコーポであるドローム社に入れるんだから凄い実力だわ」
「そ、そんなぁ〜。わ、私はリーズみたいに天才じゃないし‥‥」
「天才? 私が?」
「だって、若くして多くの実績を残してるじゃない。それに比べたら私なんて‥‥」
「私は天才でもなんでもないわ。何の才能もない凡人でしかない。子供のころなんて、学業ではクラスで中の下程度でしかなかった。それに、研究者になったのだって凄くありきたりな理由‥‥」
「え、でも‥‥」
 メリルの言葉は間違ってはいない。実際に二十歳そこらでドローム本社の研究員となったリーズは、一般からすれば天才と呼ばれても差し支えないだろう。しかし、リーズはその言葉に首を横に振った。メリルは困ったような表情を浮かべたが、続く言葉にもう一度最初の質問をする。
「リーズはなんで研究者になったの?」
「復讐よ」
「復讐? 何に対しての‥‥?」
「もちろん、バグアへの復讐」
 復讐という言葉に、メリルはその意味をわかったうえで問い返した。それに、リーズは簡潔に答える。バグアへの復讐‥‥多くの人間がバグアによって殺され、自分自身が被害を受けたり愛する者を失った者は数知れない。そして、それを行なったバグアに復讐を誓う者は少なくなかった。リーズもその一人だと言う。
「1999年の大襲撃の直後に両親を失ったわ。それまで平凡な人生を送っていた私の世界は、そのことで一気に変わってしまった。いえ、自分で変えたの。私はバグアへの復讐を誓い、死に物狂いで勉強した。本当は兵隊になって、この手でバグアと戦いたいって思ったこともあったけど、それはちょっと無理だったし。エミタの適正を検査したこともあったのよ? 結局適正が無くて、すごく悔しかったことを今でも覚えてる。私が戦うには、研究者になるしかなかったの」
「ご、ごめんなさい、嫌なこと聞いて‥‥」
「ううん、いいの」
 申し訳なさそうに俯くメリルに、リーズは微笑を浮かべて首を横に振った。リーズは自分がずっと抱えてきた想いを口にして、少しすっきりしたようである。そんな二人の前に、突然サングラスをかけた男達が行く手を塞いだ。
「リーズテイル・エランド博士ですね?」
「‥‥どちらさま?」
「我々について来てもらいましょう。手荒な真似はしたくありませんからね、そのお連れさんにも」
「リ、リーズぅ‥‥」
 リーズの名を呼ぶ男達。リーズの問いには答えず、男達は彼女を捕らえようとするように、その周囲を取り囲む。その様子に、メリルは怯えた様子でリーズの腕を掴む。
「用があるのは私だけでしょう? 連れは帰ってもらっていいかしら?」
「‥‥いいでしょう。その代わり、貴女は大人しくついて来てください。抵抗すれば‥‥」
「わかっているわ」
「だ、駄目!? リーズを一人にするなんて‥‥」
「大丈夫よ。だから貴女はこのまま帰りなさい」
「で、でも‥‥」
「貴女がいたって邪魔なだけなの、わかりなさい」
「あぅ‥‥」
 リーズの厳しい声に、メリルはオロオロとしながらただ頷くしかできなかった。そして、リーズは男達に囲まれたまま、どこかへと連れ去られてしまう。
 その後、メリルはすぐに警察に通報し、リーズをさらったのが親バグア派の人間だとわかったが、そのアジトがどうやらキメラの巣食う競合地域にあるようで手が出せなかった。結果、ドローム社からULTへの依頼という形で、リーズの救出が依頼されることになる。

・依頼内容
 リーズ博士の救出
・概要
 親バグア派によってさらわれたリーズテイル・エランド博士の救出を行なう。親バグア派は、キメラの巣食う競合地域にアジトを構えており。そこに博士も捕まっている模様。
 今回の依頼は、ドローム社からのものであり、UPCからの支援は基本的に受けられない。必要な物資は各自が用意すること。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
レールズ(ga5293
22歳・♂・AA
イシイ タケル(ga6037
28歳・♂・EL
九条院つばめ(ga6530
16歳・♀・AA
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
使人風棄(ga9514
20歳・♂・GP
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD

●リプレイ本文

「なんだこりゃあ‥‥あちこちキメラの巣だらけじゃねぇか」
 リーズ博士救出の依頼を受けて、早速現地へと向かった一行。廃墟となったビル街に、巨大な蜘蛛の巣がいくつも張られている様子を、少し離れた場所から双眼鏡を覗き込んで確認する須佐 武流(ga1461)。
「全くバグアに与するだけに飽き足らず誘拐まで‥‥救い難い考えですなぁ」
「まったくだな。それにしてもアジトが早々に見つかるあたり作為的なものを‥‥いや、もし始めからそれが判っていたなら3日と言う期間はあえて空けられた? ‥‥流石に考えすぎか」
 今回の事件は親バグア派と呼ばれる、バグアを肯定し協力する人間の仕業と聞き、ヨネモトタケシ(gb0843)が呟く。その口調はおっとりとしているが、憤りを感じている様子が言葉の端々に感じられた。龍深城・我斬(ga8283)も同意するように頷くが、事件発生から犯人判明までの時間が思ったよりも早い様子に、違和感を感じ首を傾げる。
「そのことは後で考えましょう。今はいち早く博士を助け出すことが重要です」
「ええ、か弱い女性を助け出すことは、我々の義務です」
 レールズ(ga5293)の言葉に頷くイシイ タケル(ga6037)。レールズは、以前にもリーズと面識があり、今回の依頼に意欲を示していた。すぐにでも救出を開始しようと主張するレールズだが、そこには普段はあまり見せることのない焦りのようなものも感じられる。
「焦るな、何事もタイミングが肝心だ」
「それは‥‥そうですが」
 漸 王零(ga2930)に諭されて困ったように顔を顰めるレールズ。過去に、助けたい者を助けられなかったという経験が、今回の依頼に強い想いを持たせるが、それが焦りにも繋がっているようだ。
「漸の言うことももっともなことです。ですがあなたの熱意こそ、今回の任務の切り札です。リーズさんは頼みましたよ」
「‥‥はい」
 レールズを落ち着かせるような柔らかい笑みを浮かべながら、タケルは彼の肩を叩く。それに、レールズは落ち着いた表情で頷くのだった。
「でも、酷い目にあっているかもしれません! 早く助け出してあげないと‥‥」
 焦っているのはレールズだけではない。九条院つばめ(ga6530)もリーズと面識があり、なんとしてでも救出しなければと思って焦りを感じている一人だ。つばめは、嫌な想像をしては表情を暗くする。
「大丈夫だろ。目的はおそらく優秀な科学者をバグアに引き渡すためだし、手荒な真似はしないと思うぜ」
「でも! やっぱり、早くしないと博士がバグアに引き渡されてしまいます!」
「いまんところそういう動きもない。それに、バグアが動けばUPCも察知するだろ。それよりも、キメラの巣のど真ん中でやつらが襲われていないほうが問題だ。もしかすると、キメラを操っているやつがいるかもしれない。俺たちゃ、確実にリーズを助け出さなければならないんだからな。警戒するに越したことはねえよ」
「そ、それは‥‥そうですけど‥‥」
 武流の言葉に、困ったように俯くつばめ。武流の言葉に間違いはないのだが、武流も少なからずリーズとは面識があるのに、その態度は冷たいと感じてしまう。
「面倒なことは考えず、全部壊しちゃえばいいんじゃないですかぁ」
 仲間の話を聞いていた使人風棄(ga9514)が、笑みを浮かべながら言う。その口調はおっとりとしたものだが、その言葉は物騒この上ない。
「依頼内容はさらわれた博士の救出だ。わすれるなよ」
「わかっていますよ」
 王零に注意されるが、風棄は笑みを浮かべたまま、虚ろな視線を蜘蛛の巣へ向けていた。

 しばらくアジト周辺を調査した一行。どうやらアジトには見張りはいないようである。おそらく、外はキメラに任せているのだろう。その後、周囲を確認し様子を見た一行は、作戦を開始する。
「アジトまで一気に突っ切るぞ」
 ビル街のあちらこちらに張られた蜘蛛の巣を避けながら、敵のアジトに接近する一行。やがて、アジトとなったビルが見えてくると、一行は二手に分かれる。
「キメラの陽動は任せろ。救出は任せたぞ」
「おぅ、任せておけ」
「無理しないでくださいね!」
「そちらも無理はなされぬよう」
 陽動班の王零の言葉に、救出班の武流が親指を立てて頷く。つばめが心配するように声を掛け、タケルがそれに答えた。アジト付近は、蜘蛛の巣が密集しており、近づけばキメラに発見されるのは間違いない。王零達は、まず先に蜘蛛の巣へと近づき、キメラを誘き寄せる。
「現れたな」
 王零達が巣に近づくと、ビルの影から巨大な蜘蛛が姿を現した。その大きさは、全長5メートル近く、頭部には複眼が8つと凶悪な口、身体から伸びた8本の足でビルとの間に掛けた巣を渡りながら、王零達に近づいてくる。
「大きいですねぇ」
「ふふ、ようやく楽しめそうです。さぁ、綺麗に壊してあげますよ」
 巨大蜘蛛を見上げながら呟くタケシと風棄。風棄は口元が釣りあがった禍々しい笑みを浮かべ、舌なめずりするように赤く染まった爪をペロリと舐める。
「まずはこいつをアジトから引き離すぞ」
「我々は彼らを行かせるための盾にならなくては」
 今にも飛び掛らんとする風棄を制するように王零が指示を出す。タケルも頷き、盾を構えながら陽動のための退路を確認した。そして、王零とタケルは誘き寄せるようにゆっくりと後退していく。巨大蜘蛛は奇声をあげながら、二人を追いかけ。風棄とタケシも、挑発するように蜘蛛の目の前を動きながら、王零達に続いてアジトから離れていった。

「よし、いくぞ」
 王零達が蜘蛛をアジトから引き離していくのを確認し、身を隠していた救出班はアジトへと駆け出す。途中、蜘蛛の巣の近くを通ることになったが、王零達が陽動しているおかげで、蜘蛛が現れることはなかった。
「ここですね」
 誘拐犯のアジトとされるビルへと辿りついたレールズ達。ビルの外壁に背を預けると、慎重に中の様子を確かめる。中には確かに人の気配があり、微かに声が聞こえてくる。
「いまのなんだ? まさか侵入者か?」
「またあの大蜘蛛が暴れてるんだろう。それにもし何者かが来ても、キメラに襲われてここまでこれるわけがないさ」
「そ、そうだよな。俺達にはバグア様の加護がついてるんだ‥‥」
 聞こえてきた話の内容はこんな感じである。明らかに油断しているようだ。
「一気に乗り込むぞ」
「‥‥はい」
 ここまできたら、無理に隠密行動は取らず、一気に攻め落とす。武流の指示に全員が頷き、ビルの入口付近に身を潜めタイミングを計る。そして、合図と共に中へと乗り込んだ。
「な、なんだおま‥‥!? ぐぁ!」
「私、今日は凄く怒ってるんです‥‥退かないと、大怪我しますよ!」
 先ほど話していた二人の男。一行に気づくが、武流とつばめが素早く間合いを詰め、反撃の隙を与えずに倒す。その攻撃は峰打ちで、なるべく相手を殺さないよう注意していた。
「この手のビルは、おそらく地下もあるだろう。お前らは地下、俺達は上を探す」
「わかりました」
 武流の指示にレールズが頷く。ここからは二手に分かれ、リーズの捜索を行なうことになった。

 一方その頃、陽動班は蜘蛛との戦闘を続けていた。ある程度アジトから引き離した一行は、本格的な攻撃を開始する。
「我が名は漸王零!! 万魂を断ち斬り葬る刃なりっ!! 貴様らに許されるは我が刃にて死ぬまで舞い狂う事のみと知れ!!」
 名乗りと共に、鬼の面を被る王零。それは、自らの狂暴な自己を目覚めさせるスイッチのようなもの。今までの冷静な王零とは別人のように、真正面から敵へと突っ込んでいく。
「漸さん、とても綺麗ですよ〜」
 3メートルにも及ぶ巨大な刀を振るい、巨大蜘蛛と切り結ぶ王零の姿に、風棄は陶酔するように呟いた。それと共に、自らも腕につけた真紅の爪を振るい、蜘蛛を切り裂く。そして、吹き出る蜘蛛の体液を避けようともせず、狂気に染まった笑みを浮かべた。
「温かい‥‥ふふ‥‥ふふふ‥‥もっと‥‥もっと!」
 蜘蛛に執拗な攻撃を加える風棄。しかし、そんな彼を蜘蛛が硬い足でなぎ払おうとする。一瞬の隙をつかれ攻撃を受けそうになる風棄。だがそれを、タケルが盾で受け止め、ペイント弾を目に当てる。
「っ! ‥‥戦いの狂気に溺れるのは構いませんが、防御を疎かにするのは良くありませんよ」
「‥‥生物を壊す喜びに比べたら、少しぐらいの痛みなんということはありませんよ。ですが‥‥一応ありがとうと言っておきます、ふふふ」
 タケルの忠告に、笑みを絶やさずに答える風棄。両極端とも言える二人の在り方は、今後何をもたらすのか。
「大きいだけあって、さすがにタフですねぇ。だったら、畳み掛けてみますか‥‥ね!」
 タケシは両手に持った二本の刀を、ほとんど同時に振るう。その斬撃に耐え切れず、蜘蛛の足が一本切り飛ばされた。そして、苦痛で暴れる蜘蛛の側面に素早く動き、胴体を切り裂く
「やれやれ‥‥側面が御留守ですねぇ」
 さすがの巨大蜘蛛も、一行の激しい攻撃を受け続け、動きが鈍くなってきた。そこへ、王零が止めとばかりに、全身に赤いオーラを纏わせ大刀を振るう。
「万魂総じて我が斬撃にて散れ‥‥流派奥義『無明』」
 その一撃は、蜘蛛の胴体を二つに断ち切った。そして、音を立ててその身体が地に伏す。
「貴様に許されるは器を捨て原初の聖闇へと逝く事のみ」
「ようやく片付きましたねぇ。では、自分達もアジトに」
 刀についた体液を振り払い、王零は静かに告げた。風棄は壊したり無いとばかりに、すでに動かない蜘蛛の身体をグシャグシャに切り裂く。そして、一息ついたタケシの声で、一行はアジトへと向かうのだった。

「怪我の方は大丈夫か?」
「大丈夫、たいしてダメージも残っていない」
 一階探索後、上へと探索に向かった武流と我斬。武流は、別の依頼から続けてこの依頼を受けたという我斬の体調を気遣いながら、先へと進んでいく。
「何者だ貴様ら!」
「来たか」
 下の異変に気づいたのか、男達が武流達のほうへと向かってくる。全員、銃を構え、いつでも発砲できる態勢だ。しかし、武流と我斬は、警告を発する相手に素早く近づき、強力な一撃をお見舞いする。
「ぐっ‥‥」
「馬鹿かてめぇらは、自分のアジトに乗り込んでる不審者に対して、悠長に語りかけるやつがいるか」
「まったくだ‥‥なっ!」
「ぐはぁ!!」
「こ、こいつら、エミタ能力者!?」
 一瞬のうちに、周囲の男達を殴り倒す二人に、残った男達が驚きの声をあげる。
「一人くらいは事情を聞き出せそうなのを確保しておきたい所か」
 敵を蹴散らしながら、我斬は適当な男を捕まえ、その襟首を掴んで持ち上げると、リーズの居場所を聞き出そうとする。
「エランド博士はどこにいる! お前達がさらってきた女性博士だ。隠すとためにならんぞ」
「ひ、ひぃ、エランド博士なら、地下の部屋に‥‥」
「地下か‥‥。こちら須佐、博士は地下にいるそうだ。まだ見つからないか?」
『こちらレールズ。見張りが立っている部屋を発見、いまから救出する』
 男からリーズの居場所を聞き出す我残。その答えを聞き、武流はすぐに地下へと向かったレールズ達に無線で連絡する。応答したレールズの話では、どうやら怪しい部屋を見つけたらしい。
「わかった、俺達もこれから合流する」
「もう一つ教えろ。何故お前達は、キメラに襲われない」
「そ、それは‥‥バグア様がキメラに‥‥」
「お前達が操ってるわけじゃないんだな?」
「そ、そうだ‥‥。俺達はただここにいても襲われないようにしてもらっただけで‥‥」
「そうか、ごくろう‥‥さん!」
「ぐっ!」
 武流は男にキメラとの関係について聞きだすと、とりあえず男を気絶させる。そして、二人は急いでレールズ達のほうへと向かうのだった。

「外が騒がしいわね?」
 地下の一室に閉じ込められていたリーズは、扉の外から聞こえる物音に首を傾げた。
「まさか、助けが? ‥‥そんなわけないか、助けにしては早すぎる」
 一瞬考えた希望を振り払うように首を横に振るリーズ。と、そこへ、鍵が掛かったドアを開けようとする音。そして、すぐに力尽くで鍵を破壊し開け放たれるドア。
「‥‥な、なに!?」
「い、いた!!」
 その様子に目を丸くするリーズ。そこへ、ドアを開けて入ってきたつばめが、リーズの姿を見つけて声をあげた。
「博士! 大丈夫ですか!? 何か酷いこと、されてませんか!?」
「‥‥つ、つばめさん?」
「はい!」
「白馬に乗った騎士ではなく、能力者ですみませんね? お久しぶりです。博士」
「たしか、レールズさん‥‥なぜあなた達が?」
「助けに来ました」
「‥‥はぁ。白馬に乗った騎士など、いまどき口にする人がいるとは思いませんでしたわ。それに、この程度のこと、私一人でもなんとかなりましたのに‥‥」
「そうですか」
「ま、まぁ、それでもわざわざ助けに来てくれたのですし、一応お礼を申し上げておきますわ‥‥あ、ありがとう」
 つばめとレールズの姿に驚くリーズ。しかし、すぐに状況を理解するとそっぽを向いて憎まれ口を叩くが、表情は少し嬉しそうに頬を染め、最後に礼を口にする。その様子に、レールズもホッとすると共に、微笑を浮かべるのだった。
「‥‥よかっ、た‥‥。ご無事で、何より‥‥です」
「つばめさん‥‥何を泣いているのよ。ほら、私は大丈夫だから」
「は、はい‥‥」
 リーズの無事な姿に、涙ぐむつばめ。その様子に、リーズは困ったような照れたような表情を浮かべ、つばめの手を掴んだ。それに、嬉しそうに頷くつばめ。
「ともかく、ここから脱出します。一度掴んだ手は絶対に離しません。何が何でもあなたを無事に連れて帰りますよ」
「えっ!? それはどういう意味‥‥」
 落ち着いた所で、レールズがリーズの手を取り、真剣な表情でそう言うと、脱出を開始する。リーズはその言葉に驚き、少し頬を染めて、レールズに掴まれたまま彼の後を付いていくのだった。

 武流達と合流するレールズ達。四人はリーズを連れて、アジトを脱出する。ちょうどそこへ、陽動班も合流し、そのままビル廃墟を抜けた。途中、タケルが安全のために蜘蛛の巣をアルコールで焼こうとしたが、上手く行かなかったようだ。
「そ、そろそろ放してもらえない?」
「あ、申し訳ありません」
 安全な場所へとついた一行。今までずっとレールズに手を引かれていたリーズは、少し怒ったような表情で手を放すよう言う。レールズが慌てて手を放すが、リーズはそっぽを向いてしまう。
「ま、まぁ、あなた達の世話にならなくても一人で何とかなったんですけど! と、とりあえず今回は皆さん助けてくださって‥‥ありがとう」
 そっぽを向いたまま、一行に対し照れながらも改めて礼を述べるリーズ。これで、少しはリーズの能力者に対する偏見が減った‥‥のだろうか?