●オープニング本文
前回のリプレイを見る「よくぞ、キメラ闘技場の所在を確かめる成功した。ご苦労」
「言葉だけの労いなど、興味は無いぞ」
「もちろん、気持ちも込めているさ」
「ちっ、相変わらずの狸め」
南米のキメラ闘技場についての報告を行なった俺に、大佐が代わり映えの無い労いの言葉を掛ける。俺は憎まれ口を叩きつつ、わざとらしく嫌そうな表情を浮かべるが、大佐は気にした様子もなく笑みを浮かべていた。本当に狸だな。
「これで、あとは実際に内部を調査してくれれば、今回の任務は終了となるな」
「‥‥そのことについてだが、本当に彼らを使うのか? 正直、俺一人でやったほうが‥‥」
「マーキュリー、君の実力は理解している。私も、今回の任務を君一人でも達成できると確信しているよ」
「だったら何故‥‥」
「任務の始めの時も言ったと思うが、この戦争は一人のプロフェッショナル、一人の英雄でどうにかなるものではないのだ。我々は、より多くの優秀な人材を育て、人類全体で戦わねばならない。そのためには、実戦を多く積んでもらいたいのだ」
「しかしだな、今回は敵地にあるバグアの施設へと潜入しないとならないんだぞ。人材の候補となる者を、失う可能性もあるんだ」
「そのために、君をつけている。それに、施設といっても、バグアの主要軍事施設では無いのだ。警備も、外から見る限り、さほど厳重でもないのだろう? その程度のことで、少々の人材を失うリスクよりも、得られるリターンの方が多いとは思わないかね」
「大佐‥‥。すでに、失うリスクは織り込み済みということか‥‥」
俺はギリと歯を噛み締める。必要な時に必要な分だけ切り捨てる判断、司令官として必要な資質だと言える。大佐だって、そんな判断をしたくないことは知っている。しかしそれでも、必要な時には判断を下すことができる。それは、部隊を率いる隊長である俺にも求められることだ‥‥しかし‥‥。
「俺は、仲間を誰一人として失うつもりはない」
「仲間か。随分と入れ込んでいるようだね」
「‥‥かならず、任務を達成し、全員無事に生還する」
「期待しているよマーキュリー。今回のことで、彼らが成長して帰ってきてくれるのを、私も待ち望んでいるのだからね」
だが‥‥真に決断を迫られる時がいつか訪れるかもしれない。その時、俺はどのような決断を行なうのだろうか‥‥。
「前回、ついに南米にあるキメラ闘技場を発見した。そして、今回はようやくその内部の調査を行なう。人間とキメラを戦わせる闘技場。その実態を調べ上げるのだ」
特殊工作員マーキュリーが、前回通ったルートと、所在を確認したキメラ闘技場の場所が描かれた地図を、モニターに映しながら作戦の説明を行なう。
「まず、闘技場までは、よほどのことがない限り、前回と同じようにたどり着けるはずだ。今回はその次のステップ、内部潜入になるが。まず行っておく、俺は今回お前達のサポートにまわるために、内部に侵入後はお前達に同行せずに個人行動を行なうことになる。直接指示できないのは悪いが、お前達が潜入調査を行い易くするために、撹乱など影からのサポートを行なう」
どうやら、今回はマーキュリーは、施設潜入後は一行と分かれ、一行が調査をし易いようにサポートを行なうようだ。逆に、直接な指示や、協力は出来ない様子である。
「さて、闘技場の警備の目を掻い潜り、中へと潜入しなくてはならない。そして、内部でどのようなことが行なわれているのか、それを確かめる。闘技場の大きさは、推定でベースボールの球場ほどの大きさだろう。地下施設があるかどうかは現段階ではわからないが、恐らくあると予想される。このため、広い施設内をくまなく調べるためには、何人かのチームに分かれ、手分けして調査を行なう必要があるだろう」
マーキュリーの説明と共に、キメラ闘技場の立体予想図がモニターに映る。建物の形は闘牛場を模したような、上から見た円形で、中央に闘技場のステージがあり、その周囲を段差型の観客席が囲んでいる。円形外周側に通路があり、中央に向かって観客席に出る通路が延びている。外周通路のどこかに、ステージと闘技者の控え室に通じる通路があると思われるが不明。また、地下への階段などもあると思われるがこれも不明である。
「通常の入口は外壁に八つ。しかし、どれも警備が厳しいはずなので、どこか別の場所から侵入しなければならない。何らかの方法で警備員をやり過ごそうにも、相手はバグアだ。通常の人間のような対応を取るかもわからず危険なので、基本的には見つからないように侵入口を見つけなければならない。といっても、中には多くの普通の人間もいるので、おそらく通気孔もあるだろう。セオリーとしては、そこから侵入するのがもっとも手っ取り早いか」
予想される潜入方法などや、潜入用装備の説明、その他もろもろを詳しく説明し、マーキュリーは一行に真剣な表情を向ける。そして、大きな声でこう指示を行なった。
「これは、バグアの施設に乗り込む危険な任務だ。敵に掴まる可能性や、命を落す危険もある。それを心したうえで‥‥俺はお前達にこう指示する。死ぬな! なにか危険があれば逃げろ! 任務が達成できなくても、お前達が生きていればまたチャンスがある。死ねば、どれほどの情報を掴もうともそこで終わりだ。だから、死ぬな。わかったな!」
・依頼内容
キメラ闘技場への潜入調査
・概要
南米コロンビアにあるキメラ闘技場と呼ばれるバグアの施設に潜入し、施設の内容を調べ上げること。
事前の調査で、キメラ闘技場までのルートは確定されている。そのため、今回の依頼は潜入調査が主となる。
UPCの特殊工作員マーキュリーが部隊を率いることとなる。基本的に、マーキュリーの指示に従い、依頼を行なうこと。ただし、今回マーキュリーは、個人活動によるサポートにまわる模様。
今回はUPCからの物資の支援を受けることができるが、あくまでどうしても潜入に必要と認知された物のみとなる。基本的に、各自での用意を行なうこと。
・予想される施設内部
外周通路 施設入口から中に入ると、まずこの外周通路に出ると思われる。ここから、各施設へと向かう通路が中央へと向かって伸びていると予想される。
闘技場ステージ 施設の中央にあるステージ。ここで、キメラと人間を戦わせていると思われる。
控え室 ステージで戦う前の控え室。
観客席 キメラと人間の戦いを、支配している人間に見せるための観客席。恐らくは、洗脳などを促す効果もあると思われる。
地下施設 恐らくあると思われる、闘技場地下に建築されたバグアの主要施設。どのようになっているかは、まったくわからないが、キメラの製造施設や、牢屋、闘技場の管理施設などがあると予想される。
これらの施設は、あくまで予想であり、内部のことは実際にはまったくわかっていない。
●リプレイ本文
「よし、これよりキメラ闘技場への潜入を開始する。何度も言うが、今回の目的は調査だ。戦闘など危険な行為は極力避けること。見た目が人間であっても油断するな、キメラやバグアに改造されている者かもしれない」
マーキュリーの指示に頷く一行。ここはバグアの支配地域であり、何かあっても、一切の救援は無い。もし、バグアに捕まることがあれば、命の保障も無いのだ。
「隊長も含めて全員で帰還する。そうですよね?」
「‥‥ああ、そうだ。誰一人、欠けることなく‥‥だ。戌亥、お前には教えられるだけ教えたつもりだ。もう俺の弟子のようなものだな、しっかりやれよ」
「は、はい!」
戌亥 ユキ(
ga3014)がマーキュリーに念を押すように言う。マーキュリーは一瞬意外そうにきょとんとするが、ニヤリと笑みを浮かべて頷く。そして、ユキの頭をポンポンと軽く撫でた。これまで、ユキは積極的にマーキュリーから技術を教わろうとし、マーキュリーは余裕のあるときにできるだけのことを教えた。そして、マーキュリーの弟子という言葉に、ユキは素直に嬉しそうな笑みで頷くのだった。
「あら、弟子は彼女だけなんですか?」
「そうね、若い子にばっかり構って。マーキュリーさんとはいいパートナーになれると思っていたのに、そういう趣味だったなんてね」
「おいおい‥‥あんまり茶化さんでくれ」
そのような二人の様子に、オリガ(
ga4562)と風代 律子(
ga7966)が茶化すように言葉を掛ける。それに、マーキュリーは困ったように苦笑した。
「あまり、じゃれあっている状況では無いのではないかね?」
「その通りだ。では、俺が先に潜入し、警備の撹乱を行なう。お前達は、俺の合図のあとに潜入を開始するように。以後の判断は各自に任せる」
UNKNOWN(
ga4276)が苦笑しつつ声を掛けると。マーキュリーは再び真剣な顔つきに戻り、指示を出して闘技場への潜入を開始した。
「それじゃ、ここからは二手に分かれましょう。私たちは地上施設の調査を」
「俺達は地下だ。まずは、地下へと向かう通路を探さないとな」
しばらくしてマーキュリーから侵入の合図があると、通気孔からキメラ闘技場の中へと入った一行。しばらく進み、適当な用具室から外周の通路へと出ると、予定通り二手に分かれて行動することになった。律子、ユキ、綾野 断真(
ga6621)の三人は、闘技場中央にあるステージや、闘技者がいるであろう控え室の調査を行い。御影・朔夜(
ga0240)、UNKNOWN、緋室 神音(
ga3576)達はキメラの主要施設があると思われる地下を探す。二組は軽く声を掛け合うと、それぞれの目的の場所へと向かって、潜入を開始した。
「これは‥‥」
途中、闘牛場として使われていたころの館内図を見つけた一行は、通路を抜け観客席へと出た。そこには溢れんばかりの人々の姿があり、見下ろす位置にあるステージに向かって熱狂的な歓声をあげている。三人は、その様子に一瞬意識を奪われる。
「隠れて!」
そこで、いち早く意識を取り戻した律子が、小さい声で警告の声をあげる。どうやら、観客席の上部には見張りの兵士がいるようだった。慌てて三人は、観客に紛れるように姿を隠す。
「どうやら、見つからなかったようね」
「そうですね。しかし‥‥これは‥‥」
「ええ‥‥、観客達はこの場の雰囲気に我を忘れているみたいね。これも洗脳の一種、ということかしら」
見張りは彼らに気づかなかったようで、ホッと息をつく。だが、周囲の観客の様子に断真は顔を顰める。観客達の瞳には狂気の色があり、一行に気づいた様子もないまま、ステージに向かって歓声をあげていた。
「二人とも、あれを見てください‥‥」
「‥‥‥っ!」
「なんてむごい‥‥」
ユキが双眼鏡を向けた先。観客達が見つめているステージには、今まで見たことのないようなキメラと、それと対峙する人間の姿。おそらく、これがキメラ闘技場と呼ばれる理由であり、散らばる無残な死体はキメラの対戦相手なのだろう。最後に残った一人は、懸命に銃器でキメラへと攻撃を行なうが、通常の武器ではキメラのフォースフィールドは破れず、ほとんど効果が無い。やがて、キメラは対戦相手に容赦なく噛み付き、身体を引きちぎってしまった。それと同時に、観客席のボルテージが一気に最高潮になる。その様子に、三人は驚きと怒り、そして恐怖を感じるのだった。
「おそらく、ここが地下への入口だな」
朔夜達は別の場所で見た館内図を参考に、地下への通路が有りそうな場所を推測した。その場所は、一見普通の扉だが、過去の見取り図には記されていない扉であった。
「よし、開けるぞ」
UNKNOWNと神音が周囲を警戒し、誰もこないことを確認した一行。朔夜が扉のノブに手をかけ、慎重に扉を開けていった。
「どうやら正解のようだな」
「鍵が掛かっていないのか、無用心な」
扉を開けると、そこには地下へと伸びる階段。朔夜の階段発見の言葉に、UNKNOWNは訝しげに呟く。
「誰かくるわ。早く中へ入りましょう」
「ああ‥‥」
廊下の先から聞こえる足音に、神音が気づき中へと入るよう急かす。朔夜は頷き、一行は地下への階段へと入った。階段はコンクリートがむき出しの状態だが、電気が点いている。かなり深い場所まで下りるようになっており、下の様子はわからない。一行は、極力足音を立てないように慎重に下りていく。
「‥‥‥」
しばらく階段を下りていくと、やがて最下段に扉を発見した。一行は、扉の前まで来ると耳を当てて扉の向こう側の様子を探る。そして、扉の向こう側に誰もいないことを確認し、扉を開けた。
「ここが‥‥バグアの地下施設か」
扉の先には、何かの研究所を思わせる清潔で無機質な廊下が伸びている。三人は頷きあうと、再び音も無く廊下を進んでいくのだった。
その頃、オリガと南雲 莞爾(
ga4272)は外で緊急事態に備えて待機していた。
「退屈ですわね」
「そんなことは無い。これも必要な任務だ」
「それはわかっていますが‥‥あら?」
ジャングルに隠れながら、闘技場の様子を探っていた二人だが、闘技場の中がにわかに騒がしくなってきた。
「様子がおかしいな。もしや、誰かが発見されたか?」
「かもしれませんわね‥‥」
『こちらマーキュリー。潜入班が発見された。お前たちは戌亥達の援護に向かえ』
「こちら南雲、了解。あんたはどうするんだ?」
『俺は地下へと向かった御影達のサポートを行なう』
「了解」
マーキュリーからの緊急連絡が入る。どうやら、潜入班がバグアの兵に見つかってしまったようだ。
「はぁ、忙しくなりますわね」
「退屈なのは嫌だったんじゃないのか?」
「いいえ、退屈なのは嫌いじゃないですよ。ゆっくりとお酒を楽しめますから」
「そうか‥‥」
そして二人は、マーキュリーの指示の通り、地上施設を調査しているユキ達の脱出の援護に向かうのだった。
「手ごろな通気孔から脱出、といきたいところだけど。そうタイミングよく、通気孔があるとは限らないわけよね」
「とりあえず、もと来た道を戻りましょう。外周通路までたどり着ければ、何とかなると思います」
「あら、随分と落ち着いているのね」
「こういうとき、慌てればそれだけ状況は悪くなる、落ち着けば道が見えてくるって、教えられましたから」
「そうね、それじゃ行きましょう」
突然の警報に一行はこれ以上の調査を断念、脱出を考える。しかし、律子達は現在長い通路におり、入り込める通気孔も、身を隠す部屋も無かった。そんな状況でも、ユキは落ち着いて次の行動を決める。その様子に感心しながら、律子達は急いで外周通路へと戻ろうとした。
「いたぞ! 侵入者だ!」
「急ぎましょうっ!」
しかし、その途中で後ろからきた兵士に見つかってしまう。三人は急いで通路を走るが、兵士達は射撃を行なってきて、弾丸が彼らの横をすり抜けていった。
「‥‥二人は、先に行って」
「風代さん!?」
突然、律子が走る速度を落す。その様子に驚くユキだが。
「私は囮となって、ヤツラをひきつけるわ。その隙に、通気孔を通って逃げなさい」
「冗談を言わないでください。全員、生きて帰るんですよ!」
「わかってる。私も適当な所で逃げるから」
「でも‥‥!」
「戌亥さん‥‥。風代さん、わかりました。お願いします。ですが、くれぐれも無茶をしないように」
兵士をひきつける囮になると言った律子。ユキは首を振るが、断真がそれを制止し、この場を律子に任せる。
「ですが、もし何かあれば、仲間と共に助け出します」
「うん、その時はお願いね。さ、早く行って」
断真の言葉に苦笑で返し、二人を先に行かせる律子。そして、律子は兵士の注意を引くように動き、二人への追跡を邪魔するのだった。
「どうやら発見されたようだな」
「人の気配にばかり気を取られ、防犯センサーなどを失念していたな」
地下施設を調査していた朔夜達であったが、途中不用意に入った部屋で防犯センサーに引っかかり、警報が鳴り響いてしまった。
「けれど、重要な情報を手に入れたわ。これはなんとしても持ち帰らないと」
神音が言うように、彼らが入った部屋は、なんとキメラの製造を行なっていると思われる場所で。少ない時間ながら、映像として記録をとることが出来た。専門家に見せれば、何かわかるかもしれない。三人は、素早く通路を抜け、地上への階段へと向かった。
「っ! 戻り道に兵士が‥‥」
「倒すか?」
「いや、敵の戦力がわからない」
「‥‥‥」
しかし、途中に兵士を発見した三人は、短い言葉のやり取りで頷きあうと、三方に分かれ脱出することにした。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
「いたぞ! 追え!」
そのような状況で、神音が力を覚醒し、その背に光の翼を出現させる。案の定、神音はその姿で目立ってしまい、兵士に追われることに。しかし、それは彼女が囮となって、二人を逃がす作戦だった。
「がっ!!」
しかし誤算だったのは、逃げ道を押さえられ、抵抗を止めて投降しようとしたときだった。神音が覚醒を止め、手を上げようとした瞬間。人間のものとは思えない力で殴り飛ばされる。
「ここまで侵入しておいて、投降が許されるなど甘いとは思わんか?」
「ぐっ‥‥」
一人の兵士に壁に叩きつけられ、そしてまた強い力で持ち上げられる。どうやら、その兵士は、バグアに強化されているようだ。兵士は、下卑た笑みを浮かべながら、神音を壁に押さえつける。
「どうやら、仲間がいるようだが。見せしめに今すぐなぶり殺してくれる」
「アイ‥‥テー‥‥ぐぅっ!」
「またさっきの光の翼を出そうというのか? 無駄なあがきを」
「がっ! 無抵抗な女を‥‥殴るなんて‥‥最低ね‥‥うっ‥‥!」
「そのような挑発で手を緩めると思うなよ‥‥ちっ、気を失ったか。まぁいい、このまま殺してくれる」
「‥‥‥」
再び、兵士に強力な一撃を受け、悶絶する神音。このままでは、間違いなく殺されてしまうだろう。気丈に相手を睨みつける神音だが、数度目かの攻撃についに気を失ってしまうのだった。
「さすがに、年貢の納め時のようね」
囮となっていた律子は兵士に囲まれ、手を上げて降参する。
「おい、こいつをどうする?」
「痛めつけてから、キメラの餌にでもすればいいだろう」
「あら、か弱い女性に酷い仕打ちね」
「うるせぇ、黙ってろ!」
「ぐっ!」
小銃で殴り倒される律子。どうやら、彼らは普通の人間のようだが、一人でこの囲みを突破するのは難しそうであった。
「仲間がいるだろう! どこに、何人いる!」
「‥‥‥」
「だんまりとはいい度胸だ!」
「がはっ!」
兵士の尋問に口をつぐむ律子だが、そこに容赦なく打ち付ける兵士達。このままでは、身動きもとれなくなるだろう。しかし‥‥。
「悪いが時間も余裕も無くてな‥‥抜く前に斬らせてもらうぞ」
「な、なんだ! こいつの仲間か!? ぐぁっ!」
「はい、正解です。正解者には、銃弾のプレゼント」
そこへ現れたのは、莞爾とオリガ。意識が律子に向いている隙に、一気に近づき、兵士達を切り裂いていく。
「風代さん、大丈夫ですか!」
「あなた達、逃げたんじゃ」
「いいましたよね、何かあれば助け出しますと」
「こんなに早いとは思わなかったわ」
二人が切り開いた所へ、ユキと断真が駆け込み、律子を助け出す。
「さっさと逃げるぞ。地下班にはマーキュリーが向かった!」
「撹乱にスプリンクラーでも発動させて起きましょう」
莞爾の指示に頷く一行。オリガが天井にあったスプリンクラーに衝撃を与えて周囲を混乱させる。そして、一行は無事に外へと脱出するのだった。
「こ、ここは‥‥」
神音が次に目を覚ましたとき、彼女は男に背負われていた。
「目が覚めたか?」
「マー‥‥キュリー‥‥?」
少しずつハッキリしてくる視界に、男の顔が映る。それは、マーキュリーの姿だった。
「助けて‥‥くれたの?」
「あのまま見捨てるわけには行かなかったからな」
「そう‥‥ありがと‥‥」
「どういたしまして‥‥っ!」
「どうかしたの?」
気づくと、マーキュリーは何かを堪えるように顔を顰めている。よく見れば、マーキュリーの肩から血が。どうやら、彼女を助ける際に撃たれたようだ。
「降ろして‥‥」
「すぐに動くのは無茶だ」
「それでも」
「だったら‥‥一つだけ約束しろ」
「なに?」
「もう、一人で囮なんてするな」
「‥‥‥」
「間に合わなければ、本当に殺されていた。次は無いぞ」
「‥‥わかった。だから降ろして」
「よし‥‥」
マーキュリーの言葉にしぶしぶ頷く神音。今後のことはわからない、しかし今は彼に従うしかないようだ。神音はマーキュリーの背から降り、二人は傷ついた身体を庇いながら出口へと急いだ。
「遅いぞ」
「どうやら、全てが改造されているわけではないようだ」
ようやく辿りついた地下の出口には、朔夜とUNKNOWNが待っていた。二人が来るまで、この場を死守していたようだ。数人の兵士が倒れている。
「馬鹿どもが。先に逃げておけと言ったのに」
「馬鹿な隊長を持つと、部下も馬鹿になる」
「‥‥‥」
不満そうに言うマーキュリーだが、UNKNOWNに返され、より複雑な顔になった。ともあれ、四人は協力し合って地下施設から脱出するのだった。
「マーキュリーさん! 大丈夫ですか!?」
「問題ない。さっさと逃げるぞ!」
闘技場脱出後、怪我を負ったマーキュリーを心配するユキだが、まずこの場から逃げる方が先決である。急いで車へと戻った一行は、敵の様子を見た後、その場を脱出した。マーキュリーの怪我は思いのほか大きく、救急セットで応急処置をしたが、それなりの施設でちゃんとした治療を受ける必要があるだろう。しかし、命の危険は無かったようなので、一安心である。そして、一行はなんとか無事にバグアの占領地域から脱出。情報を持ち帰ることに成功したのだった。