●リプレイ本文
依頼を受けた一行は、ジャングルへと入る前に、UPCの駐屯地で補給を受けていた。
「そんなに着こんで暑くありませんか?」
「ん‥‥まぁ、心頭滅却すればなんとやら‥‥かな」
南米の熱帯雨林に入ろうというなかで、フルアーマーともいえる装甲を着込んでいる白鐘剣一郎(
ga0184)に、ナオ・タカナシ(
ga6440)が少し驚いたように問う。剣一郎は涼しげな表情でそれに答えるが、実際の所かなり暑い、むしろ金属のアーマーが日の光を浴びて熱い。それでも表情には出さないのは、ある意味無我の境地とも言えなくも無い。
「しかし、さすがにあんな格好には慣れないしな」
「あ、あれは‥‥」
そう言って剣一郎が向けた視線の先には、上着を脱いで上半部を水着だけになっている朧 幸乃(
ga3078)。
「ん‥‥どうかした?」
「い、いえ!」
二人の視線に気づき、首を傾げて問う幸乃に、ナオは慌てて首を横に振って視線を逸らした。いくら幸乃が少年のような容姿とはいえ、女性のそのような姿は、年頃の少年であるナオにとっては目のやりどころに困るというものだ。
「いやいや、本当に暑いですね〜」
「平坂さん!?」
そんなナオに声を掛けたのは平坂 桃香(
ga1831)。だが、ナオは絶句すると再び慌てて顔を背ける。というのも、桃香はレオタード姿だったのだ、しかも頭には何故かウサギの耳、お尻にはウサギの尻尾、つまりはバニーガールである。
「な、なんでそんな格好を‥‥」
「いや、動きやすそうですし。今回は亀ということで、ウサギとカメとか♪ う〜さ〜ぎ〜、うさぎ、な〜に見て跳ねる〜♪」
「そ、そうですか」
桃香の答えに、どう返せばいいか困るナオ。たしかにレオタードは動きやすいかもしれないが、いくらなんでもと思わざる得ない。しかも、彼女の歌っている歌は、童謡のものとは少し違うようで、メロディが随分とリズミカルだ。おそらく、何かの電波ソングだろう。
「それにしても、今回ご一緒する方は手練が多いので、頼もしいですね」
「そういう伊織こそ、この中で一番の手練じゃなくって?」
「そんなことありませんよ」
鳴神 伊織(
ga0421)は一行の顔ぶれを眺めて、改めて確認するように呟く。それに、緋室 神音(
ga3576)が静かに答えるが、伊織は微笑を浮かべながら小さく首を横に振った。だが、実際に攻撃の威力だけみれば、伊織が一番であることは間違いない。もちろん、他の者もそれぞれ別の能力において優れた力を持っている。
「神音、俺は今回お前のサポートだ‥‥いつも通りに、事を為せばいい。お前の背中は俺が預かる」
「それは頼もしいわね、よろしく頼むわ」
南雲 莞爾(
ga4272)の言葉に、神音は微笑を浮かべた。どうやらお互い面識があるようで、力を認め合い信頼している様子が感じ取れる。
「けひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜。さぁ諸君、新しい亀キメラとやらを見に行くぞ〜」
意味も無く笑い声をあげるドクター・ウェスト(
ga0241)。過去にも何度か亀キメラと戦い、その調査を行なっている彼は、新しい亀キメラが現れたと聞いて楽しみなのだろう。一行の準備が終わるとハイテンションな様子でジャングルへと入っていく。また途中でバテなければいいのだが。こうして、一行は亀キメラ討伐へと出るのだった。
「来たぞ!」
一行はラバートータスの侵攻ルートで戦いやすい場所を選び、キメラが来るのを待ち構えた。やがて、トータスがゆっくりとこちらへ向かって来ているのが見え始める。剣一郎達は攻撃の準備を整え、キメラの様子を観察した。
「よくよく拘りがあると言う事か‥‥随分と厄介な代物になっているようだな」
トータスの様子を観察しながら、剣一郎が呟く。トータスの姿は、黒い甲羅を持った全長2メートルほどで、見た目は以前現れたアイアントータスに似ているが、甲羅に光沢が無く、皮膚も甲羅と同じような質感が見て取れる。
「造った方は何故ここまで亀に執着するのでしょうね」
「何故執着するかはわからんが、バグアにも人間のような拘りや執着といった、感情があるということはわかるね〜」
小さく首を傾げる伊織に、ウェストが考えを述べる。敵にも感情や心がある、それを知ることは人類にとって良いことなのか悪いことなのか。
「前回出現したものは口から水弾をはいたんでしたね‥‥動きは鈍いそうですけれど特殊な甲羅だそうですし、注意しておきましょう‥‥」
「足が遅いのがまだ幸いね‥‥」
幸乃が確認するように、以前現れた亀キメラの報告を口にする。神音はゆっくりと進んでくるトータスの様子に、微笑を溢した。
「敵戦力、予定戦闘地域へと侵入‥‥」
「よし、作戦は事前に決めた通りだ。みんな行こう」
莞爾の報告に、剣一郎は全員に作戦開始の指示を出す。そして、一行はトータスへの攻撃を開始した。
「あなたの相手は私‥‥」
「どうした、この俺を捉えてみろ」
「ウサギとカメ、油断しなければウサギが勝つんですよっと」
まず、幸乃、莞爾、桃香の三人が、射撃を行いながら囮となって三匹のトータスを引き離すように動く。弾丸は硬い甲羅によって弾かれてしまうが、それぞれの注意を引くことには成功した。と、そこへ桃香に狙いを定めた一匹が、口から勢いよく液体を吐き出した。
「わっと‥‥おっかないなぁ」
咄嗟にそれを避けた桃香だが、液体が掛かった木が音と煙をあげながら溶け出してしまう。どうやら強力な酸のようだ。木が跡形も無く溶けてしまう様子を見て、桃香は少しぞっとするのだった。
「―――自らの御自慢の得物で、首を吊るんだな」
莞爾は素早い動きでトータスをかく乱しながら、トータスの吐き出した酸を別のトータスに浴びせようとする。そして、上手く攻撃を誘導し酸を浴びせることに成功するが、トータスの甲羅は溶けることは無かった。
「ちっ、そう上手くはいかないか」
「さすがに、自分の酸で傷ついたりはしないようだね。耐酸性のコーティングかなにかがなされているのかもね〜」
その様子に軽く舌打ちする莞爾と、興味深げに観察するウェスト。
「とりあえず‥‥目潰し‥‥」
幸乃は急所と思われる目へ銃撃を繰り出すが、効果は薄い。そこで、ペイント弾を使用して、目潰しを行なうことにした。ペイント弾はトータスの目の辺りに命中し、一時的にトータスの視界を奪うことに成功する。そして目を潰されたトータスは、頭を甲羅の中に隠し篭ってしまった。
「よし、俺達も攻撃を開始するぞ。まず一匹に攻撃を集中させて倒していく」
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに意向‥‥」
三人がトータスの注意を引いているうちに、剣一郎達は一匹を集中して倒す作戦にでた。神音は自分が名付けたAI『アイテール』に能力覚醒の指示を出し、その背に虹色の翼を出現させる。
「援護します」
まずナオがライフルでトータスに射撃を行なう。しかし、弾丸は甲羅に突き刺さることなく、弾かれてしまう。
「やはり、そう簡単にはダメージを与えられませんか」
「そ〜れ、武器を強化してやるぞ〜」
次にウェストが、剣一郎、神音、伊織に練成強化を行なう。それぞれの武器が淡く輝き、その威力を増した。
「手加減出来る相手ではないからな。参る!」
「まずはこれで動きを止める」
武器を強化させた剣一郎が切りかかる。神音はまず先に銃でペイント弾を発射し、トータスの視界を奪い、刀に持ち替えて追撃を行なった。そして目潰しされ頭を引っ込めようとするトータスに、剣一郎の斬撃が命中するが、逆に弾かれそうになってしまう。神音の攻撃も、同じように弾かれてしまうが、硬い物を斬ったときとは微妙に違う感触が手に残った。ラバートータスの強固さに顔を顰める剣一郎。
「‥‥こうなると、もはや小型のタートルワームだな」
「ならばこの刀ではいかがです!」
続けて伊織が、上段から刀を振り下ろした。その威力は、通常のキメラであれば一刀に斬り伏し、亀の甲羅でさえ切り裂くことが可能なほど鋭い一撃。しかし、ラバートータスの弾性のある甲羅は、硬いだけでなく衝撃を吸収しダメージを抑えてしまう。
「っ! まるで分厚いゴムの塊を切ったような感触‥‥。剛性に加えて弾性ですか‥‥硬いだけより余程厄介ですね」
「いや、さすがだよ」
トータスの硬さに顔を顰める伊織。だが良く見れば、トータスの甲羅に一筋の跡が残っている。どうやらトータスの弾性を持った甲羅でさえ、伊織の一撃は殺しきれなかったようだ。しかしダメージは微々たる物、効果的な一撃を加えられずにいる。
「これならばどう?」
神音は思いついたように、荷物からビンを取り出しトータスへと投げつける。ビンはトータスの甲羅に当たると割れ、中から透明な液体が撒かれる。そして、液体に濡れた甲羅に向かって照明弾を打ち出した。照明弾は眩い光を発しながら甲羅に命中するが、やはり弾かれて森の先に飛んでいってしまう。
「燃えない‥‥か」
「ふむ、作戦は面白いが熱量が足りないようだね〜」
神音が撒いたのはスブロフというアルコール度数99度の酒、ほぼ純アルコールといえるスブロフでトータスを燃やそうと考えたようだ。
「だったら‥‥これで」
照明弾の熱量では火をつけられなかったが、幸乃がライターを取り出して火をつける。ジッポライターの火であれば、スブロフは一気に燃え上がりトータスを火達磨にする。
「こちらも‥‥」
ついでとばかりに、幸乃は別のトータスにもスブロフを掛け、同じように火をつけた。
「どうだ!?」
「‥‥駄目だね〜、効いていないようだ。せめて酸欠にでもなればと思ったのだがね」
火達磨になったトータス。さすがの装甲でも、これならばと思った一行だが、SESを介していない攻撃は、キメラのフォースフィールドによって阻まれてしまうのだった。
「物理耐性は強固‥‥ならば非物理ならどうだ?」
「そういえばタートルワームも、やたら硬いわりに非物理攻撃だとあっさり倒せたりするんですよね、っと!」
剣一郎の言葉に、桃香も攻撃を避けながら同意する。そして、期待するようにウェストを見た。今回のメンバーで非物理攻撃を得意とするのは、サイエンティストであるウェストであった。
「やっぱりそうなるよね〜。っと、そのまえにこれを試してみよう」
期待の視線を受けながらも、ウェストはまず先に銃器で攻撃を行なった。その銃から吐き出された弾丸は帯電しており、敵に雷属性で攻撃できるのだが。
「あ〜、コレは無駄か〜」
「ふざけてないで早くしてくれ」
弾丸はあっさり弾かれ、付加された電撃もまったく効果を表さなかった。ウェストは銃器に見切りをつけ、ようやく本来の武器である超機械エネルギーガンに持ち替えた。その間も、剣一郎達はトータスの攻撃を受けているのだが、まず自分の実験のほうが大事なのだろう。
「それでは、本命を食らえ〜」
ウェストは持ち替えたエネルギーガンをトータスに照射した。事前に掛けておいた電波増幅により、威力を高めたビームがトータスに命中すると、トータスは苦しそうに痙攣を始める。やはり、物理以外の攻撃には弱いようだ。
「ふむ、これが効きそうだね〜」
ウェストは満足そうに頷き、攻撃を続ける。トータスは苦し紛れに酸をウェストに吐き出すが、どうやらウェストには届かないようだ。
「よし、弱っているところに俺達も畳み掛けるんだ」
「はい! これなら‥‥」
効果的な攻撃により動きが鈍るトータス。そこへ、剣一郎の指示のもと、攻撃を畳み掛ける一行。ナオはライフルに貫通弾を装填すると、SESを活性化させトータスの急所目掛けて放つ。さすがにその一撃は弾かれることなく、トータスの首の根っこに突き刺さる。貫通とまではいかなかったが、少なからずダメージを与えることに成功した。そしてそこへ、剣一郎が赤いオーラを纏いながら渾身の力で刀を振り下ろす。
「‥‥天都神影流『奥義』白怒火!」
剣一郎の奥義は、先にナオが銃弾を撃ち込んだ所へ寸分たがわず切り抜き、そのまま首を切り落とした。
「こちらも負けてはいられませんね」
剣一郎が止めを刺すのを確認すると、伊織は微笑を浮かべて次の相手へと向かう。残るは二匹、一行は二手に分かれてこれを撃破することにした。
「今の私がどの程度なのか、この一撃で試させて頂きます‥‥」
そう言って、伊織は渾身の一撃を繰り出した。赤きオーラを纏い、敵の急所を確実に捉える一撃。最初の攻撃とは違うまさに必殺の一撃は、弾性のボディさえも切り裂き、トータスは体液を撒き散らしながら苦痛に悶える。ほとんど無傷のトータスにこの威力、恐るべき切れ味と言えるだろう。
「傷のついた場所にならば、私でも‥‥」
伊織の切り裂いた場所に、幸乃が追撃を加える。腕に装着した鋭い爪が、トータスの傷口に突き刺さり、より一層傷を大きなものにする。
「ここだ」
「わかっているわ」
そして、弱ったトータスに莞爾と神音がさらに追撃。
「花弁の如く散れ――剣技・桜花幻影・散【ミラージュブレイド】」
「天剱――――絶刀」
息の合った連携で、二人の居合い抜きが同時に決まる。威力の神音、高速の莞爾、二人の技がトータスを切り裂き止めを刺した。
「どうやら、この亀は冷気に弱いようですねー」
一方、桃香を狙っていたトータスは、桃香の攻撃により動きが鈍っていた。桃香の銃器には、水属性が付与されており、凍らせるとまではいかないが弾丸の冷気で少しずつダメージを与えられていたようだ。
「ふむ、キメラといえど生き物。体温が下がれば動きが鈍ってくるということだね〜」
すでに弱っていたトータスにウェストの攻撃が炸裂する。ナオと剣一郎も全力で攻撃を行ない、さすがのトータスは力尽きたのだった。
「ごくろうさまです、あとの処理は我々が」
「サンプルの採取をしておきたかったが、しかたないね。そうそう、手間はかかるが、液体窒素手榴弾などで甲羅を凍結してみたらどうかね〜? フォースフィールドで凍らないにしても、冷気で動きを鈍らせて弱らせることはできるかもね〜。もっとも、これから試作品に着手するとして、量産できるのはいつになるか分からないけどね〜、けひゃひゃ」
戦いが終わりUPCに連絡すると、UPC部隊がトータスの処理を行なうことになった。仲間の治療を終え、キメラのデータを取っておきたかったウェストだが、ちょうどいい機材も無かったため一応役に立つか分からないアドバイスだけしておいた。
「さて、これで終わりならいいんだが」
「弱点を克服する敵‥‥やっかいですね。私も、もっと強くならなければ」
こうして一行は依頼を終え無事に帰還する。剣一郎は呟いて小さくため息をついたが、再び強化されたトータスが現れるような予感を感じていた。ナオも、強化されていく敵に負けぬように、強くなることを誓う。