タイトル:新薬開発は長き道のりマスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/29 05:43

●オープニング本文


「おい、メリル! メリル!」
「は、はい〜」
 ドローム社、対キメラ用兵器開発室第三課では今日もいつものように、課長の梶原一三が部下の研究員メリル・ウッドを呼びつけていた。
「な、何か御用でしょうか?」
「用があるから呼んだに決まっておるじゃろうが」
 オドオドとした様子で梶原の前に立つ瓶底眼鏡の女性メリルに、梶原はいつものようにジロリと睨みつけた。メリルも、ほぼ毎日のことなのだから、いい加減慣れれば良いと思うのだが、弱気な性格は治らず何かあるたびにビクビクとしている。
「あ、またキメラの捕獲の依頼ですか? 今度はどのようなキメラを」
「違う。そんなに頻繁にサンプルが不足することなどないわ!」
「そ、そうですかぁ‥‥」
 早とちりするメリルを怒鳴りつける梶原。普段からサンプルが足りないと言っているわりには、理不尽な言い様である。
「今回は、この試作品を実験するための依頼じゃ」
「あ、ついに出来たんですか〜」
 梶原が取り出したのは銃の弾丸。普通の弾丸ではなく、弾丸の先端が注射器の針のような、特殊な形状をしている。
「それはいったい?」
「あ、リーズ」
 二人の様子が気になったのか、同じ研究員のリーズ博士がいつのまにかメリルの横から声をかけた。
「ふん、貴様はここに入ったばかりで、これのことは知らんようじゃな。メリル、説明してやれ」
「んふふ〜♪ これは、うちの課が開発した、SES搭載銃器に対応した薬剤投与用弾丸なの」
「薬剤投与用? それって、麻酔銃などに使われる?」
「そう! 銃器での麻酔投与などに使われる弾丸は、専用の麻酔銃などが必要なんですけど。この弾丸は、基本的にどの銃器でも使用可能、しかもSES銃器に対応してるキメラ専用の弾丸なのです」
「へぇ‥‥」
 誇らしげに胸を張るメリルの説明に、リーズは感心したように声を漏らして、もう一度弾丸を見る。
「でも、言ってみれば、今使われているSES用の特殊弾丸と似たような物よね」
「う‥‥そ、それはそうなんだけれど‥‥」
「ふん、あくまでこの弾丸はおまけみたいなもんじゃ。問題は中身」
「中身?」
「わからんか? 麻酔弾は何故麻酔弾なのか」
「あ、弾丸の中に麻酔薬が入っているから。では、この弾丸で投与する薬が? ですが、キメラには既存の薬物は効果が無いのでは」
「たしかに、キメラに既存の薬物は効果が無い。じゃが、ここに入っているのは、ワシの開発したキメラ専用の薬物じゃ。おそらく、何らかの効果を表すじゃろう」
「なんらかとは?」
「バカが、それを調べるために、実際にキメラに投与して実験するんじゃろうが。能力者どもにこれを使わせて効果を見る」
「ですが、それならわざわざエミタ能力者を使わなくても。投与するキメラの生きたサンプルならあるはずでしょう?」
「そんなことは言われんでもやっとるわ。じゃが、バグアのキメラは種類も様々、それに個体差もある。いまあるサンプルだけでは圧倒的に足らん。じゃったら、キメラ退治ついでに能力者に薬剤の実験をやらせたほうが効率的じゃろう」
「さっきは、不足してないって言ってたのに‥‥」
「なんじゃ?」
「い、いえ! なんでもありませんですぅ〜!」
 梶原の言葉に、メリルが拗ねたようにポツリと呟く。そして、それが聞こえたのか睨みつけてくる梶原に、慌てて首を横に振る。
「まぁよい、とにかくこの弾丸に入っている薬を能力者どもに使わせて、データを取る」
「ですが、傭兵だけでは正確な報告がされるかわからないのでは?」
「その点については、この課から同行者をつける。メリル!」
「は、はひ!? なんでしょうか‥‥?」
「お前が行って来い。傭兵に同行して薬剤の正確なデータを取ってくるんじゃ」
「え‥‥、ええ!? わ、私ですか!!」
 突然の梶原の命令に、素っ頓狂な声をあげて驚くメリル。傭兵とキメラとの戦闘に同行して、データを取って来いと言われたのだから驚いても無理は無い。
「な、なんで私なんですかぁ‥‥? あの、男性の研究員の方に任せたほうが‥‥」
「メリル‥‥なぜワシがお前に白羽の矢を立てたかわからんか?」
「え‥‥それって‥‥、一三博士の助手として、信頼されてるから‥‥?」
「違うわバカモン! お前が一番、失ってもかまわない人材じゃからじゃ!」
「ひ〜ん!!」
 梶原の言葉に、少し期待した表情で言うメリルだが、梶原は怒鳴り声と共に否定する。無能の烙印を押され涙ぐむメリル、さすがに可哀想である。
「理解できたら、さっさと依頼を出して、データを取ってこんか!」
「は、はいぃぃ〜〜〜‥‥」
 梶原の命令に、肩を落として従うメリル。気遣うような声でリーズが声をかけた。
「あの‥‥私が代わりに行こうか? 一応、以前にも傭兵に同行したことあるし」
「うぅ‥‥リーズ‥‥。ううん、大丈夫、私が行って来ますぅ‥‥。ちゃんとこなして、私もできるところを示さないと」
「そ、そう‥‥」
「でも、ありがとうございます。心配してくれるんですね」
 目元を袖でゴシゴシと拭いて、メリルはリーズに微笑みかける。リーズの言葉が嬉しかったようだ。
「そ、それは‥‥。そりゃ、心配するわよ。メリルがちゃんとデータを取ってこれないんじゃないかってね!」
「ひ、酷いですよぅリーズぅ〜!」
 メリルの笑みに、照れたようにそっぽをむくリーズ。メリルはリーズの言葉にショックを受けたように、また泣きそうになったとか。

・依頼内容
 対キメラ用に開発された薬剤の実験
・概要
 対キメラ用に開発された試験薬を、実際にキメラに投与し、その効果を確かめる。
 薬剤の投与方法は、専用に開発された特殊弾丸を用いて行なう。弾数は、二種類の薬剤を3発ずつ、計6発。銃器の指定は特に無いが、単発式のものが望ましい。
 実験方法について。二種類の薬剤が入った特殊弾丸を、それぞれ別の個体のキメラに命中させ、薬剤の効果を確かめる。サンプルは多いほうがいいため、なるべく弾丸を外さずに、より多くの個体のデータを取ることが望ましい。
 なお、データを取ったあとは、該当キメラは駆除すること。また、試験薬の投与により、キメラに予期せぬ変化があった場合、それに対しての対応を行なうことも依頼の範疇とする。対応に失敗し、どのような被害があっても、依頼主側は感知しない。
 実験場所は、北米の競合地域付近。キメラの生息が確認されている街の廃墟。
・同行者
 メリル・ウッド ドローム社、対キメラ兵器開発室第三課の女性研究員。年齢は24歳ぐらい、気弱な性格をしており、運動はほとんどできない。瓶底のような分厚い眼鏡を掛けている。生物工学方面でいくつかの博士号を取っているが、現在は梶原一三博士の助手のように扱われているようだ。
・試験薬について
試験薬1 キメラを麻痺させ、動きを止めることを期待される試験薬
試験薬2 キメラの体調に異常を与え、弱体化させることを期待される試験薬

●参加者一覧

五十嵐 薙(ga0322
20歳・♀・FT
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
雪子・レインフィールド(ga3371
20歳・♀・FT
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
竹林娃鳥(ga4534
21歳・♀・SN
梶原 暁彦(ga5332
34歳・♂・AA
ミンティア・タブレット(ga6672
18歳・♀・ER
草壁 賢之(ga7033
22歳・♂・GP

●リプレイ本文

「今回は‥‥よ、よろしくお願いします」
 待ち合わせ場所に訪れたメリルは、一行にペコリと頭を下げた。大きな瓶底眼鏡で表情は読み取りにくいが、声の調子で緊張しているのがわかる。
「こちらこそよろしくお願いしますね」
「あ‥‥今日は‥‥よろしく、お願い‥‥します‥‥いい結果を、持って、帰りましょうね」
「よろしくでござるよ。はりきってまいりましょう!」
 竹林娃鳥(ga4534)が挨拶を返すと、五十嵐 薙(ga0322)、雪子・レインフィールド(ga3371)と続けて挨拶を行う。
「私も勉強させていただくつもりできました」
「麻痺弾は実用化されたら有り難いわね。こちらの被害も少なくできるかも知れないから」
「私達能力者のためにも、実験は成功させたいわね」
 ミンティア・タブレット(ga6672)や小鳥遊神楽(ga3319)は、実験の結果に期待しているように挨拶をし。遠石 一千風(ga3970)も頷いて言葉を掛ける。
「君がメリルか‥‥」
「ひっ!?」
 と、梶原 暁彦(ga5332)がメリルに声を掛けた。だが、2メートルを越える巨漢の男に声をかけられ、メリルは小さく悲鳴をあげた。しかし、暁彦は気にした様子も無く話しを続ける。
「俺の名前は梶原だ‥‥そう、君にとって馴染みの深い名前だと思うが‥‥そうだ。梶原から伝言だ。下手に動いたら次はお前が実験対象じゃ! だそうだ」
「そ、そんなぁ‥‥ほ、本当ですかぁ‥‥!?」
 もちろん嘘である。だが、メリルは信じた様子で、フルフルと振るえながら涙目になった。
「とにかく行きましょうか。ああ、転ばないでくださいね」
「は、はい〜! だ、大丈夫で‥‥ひゃあ!」
 そして、ミンティアが促し目的地へと向かうことにした一行。メリルに注意をするミンティアであったが。メリルはお約束どおり、何も無いところで転ぶのだった。しかも、持っていた特殊弾丸のケースを放り投げてしまう。
「薬品は大丈夫!?」
「あ、あう‥‥。そ、そう簡単に壊れるようにはできてませんよぅ‥‥。ショック耐性のケースですし‥‥たぶん」
「はぁ‥‥女は、ちょっとたらないくらいが、かわいいんだ。って言うけどこれはどうなんだ? まぁ、私情を仕事に挟むまい‥‥うしッ、注射は嫌いだけど‥‥する側になるなら話は別だなッ」
 ケースの中身を心配する一行に、すっかり弱気口調で答えるメリル。その様子に、草壁 賢之(ga7033)は大きくため息をつくが、掌を拳で叩いて気合を入れるのだった。

「この辺りが良さそうね」
 現地へとついた一行は、安全を確認した民家を拠点にして、キメラを誘き寄せることにした。
「あ、あのぅ、勝手に入ってしまっていいのでしょうか?」
「ここはすでに破棄されて誰もいないのですから、問題ないでしょう」
「は、はい‥‥おじゃましますぅ」
 恐る恐る民家へと入るメリルに、娃鳥がキッパリと答える。こういったことが初めてなメリルは、不法侵入のような気がして罪悪感を覚えているようだ。
「それじゃキメラを探してくるわ」
「いってくる」
 キメラを誘き寄せる係の一千風と暁彦が、適当なキメラを探しに廃墟の街へと出て行く。とりあえず、彼らがキメラを連れてくるまで待機となった。
「はい、これをよろしくお願いしますぅ。できるだけ外さないようお願いしますね」
「あたしの射撃の腕に依頼の成否が掛かっているのか‥‥けっこう責任重大ね。スナイパーとして最善を尽くすわ」
 メリルから特殊弾丸の入ったケースを預かると、神楽は淡々としながらも真剣な口調で呟き頷いた。そして、二人は準備を行なうために屋根へと上がっていく。
「あ、あの、私も何かお手伝いしましょうか?」
「何もしなくて結構です。下手に動き回ったり、何かしようと思わないでくださいね。メリルさんはデータの収集だけをきちんとなさってくださればいいですので、何かして欲しいことがありましたら私たちに遠慮無く申しつけくださいませ‥‥」
「あ‥‥はい‥‥」
 それぞれが周囲の警戒や準備を行なうなか、メリルも何か自分に出来ることはないかと口にするのだが、娃鳥は何もするなとキッパリと言う。それにメリルはショボーンと肩を落として返事を返した。

「見つけた」
 民家を出てしばらく辺りを探索していた一千風は、一匹の猛獣型キメラを発見した。一千風はすぐに建物の影に隠れキメラを観察しながら、相方の暁彦と連絡を取る。
「了解、こちらも確認した。付近に仲間はいないようだ」
「それじゃ、これを誘導するわね」
 暁彦が対象以外の余計なキメラがいないか周囲を確かめ、一千風が囮となってキメラを誘導する事となった。
「こちら遠石。これからキメラを誘導する」
 仲間へと連絡を済ませると、一千風はキメラの前へと躍り出る。そして、武器を弓に持ち替えると、キメラへ向かって矢を放つ。
「!!」
「さ、こちらへいらっしゃい」
 わざと外した矢が地面に刺さり、キメラは一千風を睨み付けた。獰猛そうな牙をむき出しにして、今にも襲い掛かってきそうだ。一千風はそれに対し、挑発するように手招きをしながら、ゆっくりと後ろに下がる。
「どうしたの? 私は一人よ?」
 まだ覚醒はしない。へたに力を見せれば、危険を感じキメラが逃げ出すからだ。ぎりぎりまで抑えなければならない。そして、キメラが一千風へと牙を剥き襲い掛かってくる。
「始まったか」
 離れていた場所で観察していた暁彦。彼はすでに覚醒し、グラサンの下の赤く光る瞳で、逃げる一千風と追いかけるキメラを見つめている。
「そこはまっすぐだ。その次の角を右に‥‥」
 機械的な声で一千風に逃げるルートを指示しながら、周囲の安全を確保していく。間違って他のキメラが居る場所へと逃げ込み、囲まれてしまえば一千風が危険になる。的確に確実に、拠点までのルートを確保しなければならない。
「そろそろ危険だ。覚醒して対処しろ」
「わかったわ」
 そうこうしている間に、一千風がキメラに追いつかれ始める。このままでは、背中に襲い掛かられると判断した暁彦の指示に、一千風がその力を覚醒した。身体中に不思議な紋様が浮かび上がり、高揚したように肌が赤く染まる。そして、キメラが飛び掛ってくる直前、一瞬のうちに前方へと高速移動した。あまりの速さに目標を失ったキメラが周囲を見渡すのを、余裕の表情で一千風が振り返る。
「鬼ごっこはまだ終わりじゃないわよ」
 そうして再び逃げ始める一千風を追いかけるキメラ。一度逃げ出した相手を恐れることはさすがにないようである。
「もう少しだ。そこを左に曲がれば見えてくる」
 その様子を確認し、暁彦は再びルートの指示を出す。拠点はあと少しの距離だった。

「きたきた、来ましたよ〜」
 屋根に登り双眼鏡を覗いていた賢之が、一千風とそれを追いかけてくるキメラを確認する。
「覗くのがキメラじゃなくて寝室とか女湯だったら‥‥いえ、何でもないっす」
「バカ言ってないで回りもちゃんと見て。別にキメラが来たら面倒よ」
「わかってますって」
 賢之の軽口に、神楽は軽く睨みつけて特殊弾丸の用意をする。
「こちら草壁。準備完了、これより試験薬の投与を行ないます」
 神楽が準備整えるのを確認し、賢之は中にいるメリル達に報告を行なった。それでメリル達も観察を開始するだろう。やがて、キメラが民家へと近づいてくる。一千風を追いかけ、猛スピードで駆けて来るキメラに、神楽はライフルの狙いを定めた。
「ヒット」
 そして、キメラが民家の庭へと入る直前、試験薬の入った特殊弾丸が放たれる。弾丸は胴体に命中、苦痛の声をキメラが漏らす。
「効果はどう?」
 神楽は通常弾を装填しつつ薬品の効果を確かめる。キメラは身体に異変が生じたように、身体を震わせながらその場に立ち尽くした。どうやら、薬品の効果が出ているようだ。
「成功かしら?」
「さぁ、それは俺らには判断がつきませんね」
 その様子に言葉を漏らす二人。実際に想定した効果と、現在の様子の相違を判断するのは、メリルの役目だ。とりあえず二人は、キメラがいつ動き出してもいいように狙いを定めておく。
「あ、はい。小鳥遊さん、もうOKだそうです」
「了解」
 その後、十秒もしないうちに動き出すキメラ。中からの指示に、二人はキメラへと銃撃を開始した。
「診察が終了したら速やかにお帰りください‥‥ッ!」
「後が詰まってるの、終わらせてもらうわね」
 二人はキメラに反撃の隙を与えずに、速やかに排除を行なう。やがてキメラは動きを止め、地に倒れ伏した。

「どう‥‥ですか? ちゃんと‥‥観察‥‥出来て、ますか‥‥?」
「は、はひ!! あ‥‥も、もちろん、ちゃんと観察できてますよ!」
 民家の窓から薬品を投与されたキメラを観察していたメリルに、薙が声をかける。それに、驚いた様子で声をあげるメリル。狂暴なキメラの様子に驚いているように見えた。
「本当に大丈夫かしらね‥‥。どんなことをチェックしてるんですか?」
「あ、すいません〜、一応企業秘密なもので、詳細なことは言えないのですよ〜」
「そうですか‥‥」
 娃鳥が疑わしげに問うが、メリルはデータの詳しい説明については話さない。一応バックアップでも取っておこうと思ったのだが、どうやらメリルを信用して任せるしかないようだ。
「もう動き始めたようですよ」
「予想よりも早い‥‥? やはり強い耐性が‥‥でも少なくても効果は出て‥‥ぶつぶつ‥‥」
「どうするんですか? 放って置けば、また暴れかねませんが」
「‥‥ああ! そ、そうですね! とりあえずこの個体は十分ですぅ」
「では、小鳥遊さん達に連絡します」
 なにやら真剣に考えている様子のメリルに、ミンティアが声を掛ける。そして小鳥遊達に排除の指示を出した。
「結局、拙者達の仕事はござらんかったな」
「そう‥‥ですね‥‥。でも‥‥それは順調って‥‥ことだか‥‥ら」
 外を警戒しつつも、撃ち倒されるキメラの様子に、一息つく一行。何事も無かったことに、少し拍子抜けした雪子と、それに頷きながらもそれでよしとする薙。ともかく、実験が全て終了するまでは気を抜かないようにする。
「じゃあ、二人にはあの死体を何とかしてもらいましょうか」
「‥‥‥」
 そんな二人に、娃鳥は邪魔になったキメラの死体の処理を指示するのだった。その後、実験は続けられ、麻痺弾の実験を終了する。途中、ほとんど効果が出なかったり、護衛陣も加わってキメラの退治を行なったりしたが、概ね事件は起きなかった。結果的に、麻痺弾の方は個体により効果に差があり、素人目からもまだまだ改良の余地があるように見えた。

「次に衰弱弾の実験を行ないます」
 次に衰弱効果を期待される薬品が入った弾丸の実験が行なわれることになった。これも、麻痺弾と同じように一匹ずつ誘き寄せて行なうことになる。一回目、二回目の実験は、何事も無く行なわれた。ほとんど、効果による変化が現れなかったが。そして、三回目の実験‥‥。
「‥‥効いたのか?」
 ローテーションにより囮役となった暁彦の目の前で、薬品を投与されたキメラに変化が見られる。身体をガクガクと震わせ、口からは白い泡を吐き出している。明らかに身体に異常をきたしている様子だが。
「様子がおかしいわね」
 周辺警戒をしていた一千風も、キメラの様子に不安を感じ暁彦の横でキメラを観察する。その間にも、キメラは泡を吐き出して具合が悪そうな様子を見せる。しかし、ただ苦しんでいるというよりも、なにか危険な雰囲気があるように見えた。
「どうしますかメリルさん。様子がおかしいですが?」
「え、あ、あの‥‥もう少し様子を見てみないことにはなんとも‥‥」
 そうメリルに声をかけるミンティアだが、どことなく状況が悪化することを期待しているように見える。メリルはまだ判断がつかないと首を横に振るが、予期せぬ変化に戸惑っているようだ。と、急にキメラの振るえが止まった。
「グギャアアアア!」
「!?」
 突然の猛獣型キメラの叫び、そして猛然と暁彦のほうへと突っ込んでくる。その速度は、暁彦を追いかけてきたときよりも速い。
「‥‥勘弁してくれ‥‥どうみても異常だよな」
「指示を待ってられないわね。排除を開始する」
 その行動に、メリルの判断を待たずに射撃を開始する神楽と賢之。だが、弾丸が命中したにも関わらず、キメラは動きを止めない。とっさに刀を構え迎え撃つ暁彦だが、襲い掛かってきたキメラの勢いは止まらず、暁彦の巨体ごと民家の壁を破ってしまう。
「きゃあ!?」
「マズイわね、メリルさんを後ろに下げて」
 悲鳴をあげるメリルを庇いながら、娃鳥はキメラからメリルを遠ざける。キメラは興奮した獣のように、荒い息を上げながら中の人間を睨みつけた。
「黙って逝ってくれない?」
 すぐに覚醒した薙が刀から衝撃波を発し、そのまま一気に間合いを詰め両手の剣で切りつける。しかし、キメラはそれに怯むどころか、腕の一振りで薙を吹き飛ばす。
「痛みを感じてないように見えますね。これも薬の効果でしょうか」
「冷静に観察してないで、援護お願い」
「ふふ、わかっています」
 冷静に様子を見ていたミンティアに、娃鳥が指示を出す。ミンティアは薄ら笑いを浮かべながら、超機械で仲間に練成強化をかけた。
「これ、効果あるかしら」
 そして、そのまま青白い電波のようなものをキメラにぶつける。それは虚実空間という、相手の特殊効果を無効化するものであったが。
「変化無し‥‥か」
 どうやら、今のキメラには効果が無かったようで、暴走は止められない。そして、キメラは目標をメリル達に定めたように突っ込んでくる。
「あまり好き勝手されても困るわね!」
 覚醒し髪が緑色に変化した娃鳥が、銃を連射する。吐き出された多くの弾丸がキメラに突き刺さるが、その動きを止められない。
「ひゃうぅ!!」
 襲い掛かるキメラ。奇声を発し恐怖で頭を抱えて蹲るメリル。
「させないでござるよ!」
 そこへ、雪子が刀を構えて割って入った。粉雪のようなオーラが舞い散る中、渾身の力でキメラを押し返す雪子。
「止まりなさい!」
「やってくれたな」
 そして、一千風と暁彦が無防備になったキメラの横っ腹を激しく斬りつける。これには流石に、肉体的に限界に達した様子で、キメラは動きを止めるのだった。
「メリル殿、大丈夫でござるか!?」
「あ、あうぅ‥‥」
 それを確認したあと、メリルを気遣うように声をかけた雪子。メリルは恐怖でガタガタと震えていた。

「こ、怖かったですぅ」
「はいはい。ともかく、実験の結果を忘れずに報告してくださいね」
 その後、メリルが気を取り直すのを待って、実験を終了した一行。メリルのことはともかく、どうにもまだ試験薬には問題があるようだ。特に、最後に起きたキメラの暴走は問題である。メリルには、くれぐれもちゃんと報告して欲しいと思う一行であった。