●リプレイ本文
「‥‥あのクソ爺ィ」
ULTより依頼を受けた一行は、キメララットを捕獲するため、北米中央南部の目的地へと向かっていた。移動のためにレンタルした大型のバンを運転しながら、ベールクト(
ga0040)が思い出したように呟く。
「これで何度目? いい加減、忘れたらどうです」
「だってよ、何だよあの態度、完全に俺らのこと馬鹿にしてっだろ?」
その呟きに、リディス(
ga0022)が呆れたようにため息をつく。ベールクトはこの移動中、依頼人である梶原の態度をたびたび思い出しては、イラついたように文句を口にしているのであった。
「‥‥研究者気質というやつでしょうか。あまりあぁいう人物は好きになれませんが‥‥まっ、仕事なら仕方ないでしょう」
「そうですよ。あまり好ましい博士ではないみたいですけど、研究でキメラの脅威が減るようなら協力したいです」
リディスの言葉に、鏑木 硯(
ga0280)も同調したように頷く。周囲の仲間達も、どうやらあまり良い印象は持っていないようだが、仕事と割り切っているようだ。ちなみに、硯は綺麗な女性着物を着こなしているが、れっきとした男である。
「なぁ、あんたはどう思ってんだ? あんなこと言われて、ムカつかね?」
「さてさて、今回のパイレーツは鼠さん。‥‥アレな、ペットショップとかで爬虫類の餌的な扱いの奴? なーら、鰐を目指す俺さんは負けるわけには行かないよねぃ? んじゃ、行ってくるよ。‥‥あ、俺さん? まぁ、ムカつくって言えばムカつくけどさ、結局なにも教えてもらえなかったし。でもま、いんじゃね?」
ベールクトは、なにやら大事そうに、持っている写真に話しかけているフレキ・クロックダイル(
ga1839)に話を振る。フレキは、出発前に「んーと、ドクターは、パイレーツ達の遺伝子を研究して、最終的には何を成したいんさー?」と質問をしたのだが。梶原には「貴様らごときが、知る必要は無いわ!」と一蹴されてしまったのだ。しかし、フレキはもうすでに気にした様子もなく、カラッと笑顔を見せた。ちなみに、「麻酔を使いたい」と一行が言ったときには、「馬鹿か! 遺伝子操作された未知の生物であるキメラが、麻酔によって予期せぬ変化をしてしまったらどうするつもりじゃ! これだから素人は‥‥」と馬鹿にされたとか。
「あ、あの、任務って初めてですから、ドキドキするですよ〜」
また愚痴をこぼしているベールクトに苦笑し、アイリス(
ga3942)が話をそらすように、にへへ〜っと緊張と期待の入り混じった笑みを浮かべる。
「鼠‥‥う、何か一寸臭そう」
「あ、あの‥‥さっきから、なにを作っているんですか‥‥」
岸・雪色(
ga0318)が少し嫌そうに呟き。紅太(
ga3901)が、さっきから何かを張り合わせている雪色に、恐る恐る尋ねる。
「ゴキブリ用粘着シートをくっつけて、大きなキメララット用を作っています」
「そ‥‥そうですか‥‥」
「へっ、せめてネズミ捕り用トリモチにしようぜ」
「そ、そういう問題でも‥‥」
雪色の答えに、困ったような曖昧な笑みを浮かべる紅太。パワーマン(
ga0391)が可笑しそうに笑うが、紅太は一層困った顔をする。
「そろそろ着きますよ、みなさん準備してください」
そんな雑談をしていると、リディスが目的地が近いことを伝え、指示を出すのだった。
「なんだ、お前らは!」
「おっさん、あぶねえからそんなもんこっちに向けんな!」
目的地についてみると。洞窟近くにあるという民家の男が、ショットガンを構えながら警戒するように声をかけてきた。どうやら、バグアとの競合地域も近く、不審者に対して神経質になっているようだ。
「あ、あの‥‥ボクたちは‥‥」
「我々は怪しいものではありません。UPCからの依頼で、この近くで発見されたキメララットを‥‥」
紅太が何かを言うまえに、リディスがはっきりとした口調で自分達の身分を説明しようとする。
「おお! ようやく軍はあの忌々しいバケモノを退治してくれるのか!」
「いえ、私達は‥‥」
「良かった! あんなのが近くにいると、いつ子供達が襲われるんじゃないかと心配で! いや、銃を向けてすまなかった!」
「‥‥まぁ、子どもたちもおちおち寝ていられないでしょうしね」
それを途中まで聞いた男は、納得したように歓声をあげ、嬉しそうな笑顔を浮かべる。最初リディスは誤解を解こうと思ったが、結局それ以上は何も言わず、キメララットを殲滅することにした。
「まぁ、いいんじゃないでしょうか。依頼に無い余計な仕事かもしれませんが、目に見える人、手の届く事はできるだけ助けていきたいです。近くに住んでる人たちの今後を考えると、キメラたちを刺激してそのまま帰るっていうのは後味が悪いじゃないですか」
「放っておいて、ネズミが街に大挙して押し寄せるなんてことになったら大変だしな。きっちりとここで全滅させておこうじゃないの」
その様子を見ていた硯とパワーマンも、キメララットを駆除することに賛成し、ほかのメンバーもおおむね賛成のようであった。
「はい、それじゃお任せください。一応危険ですから、終わるまで洞窟には近づかないようにしてくださいですよ〜」
「わかったよ、家で待っているから終わったら言ってくれ。頼んだぞ」
アイリスが、民家の男にできるだけ家からでないようにと頼むと、男は頷いて自宅の方へといってしまった。
「で、あれがパイレーツがいるっていう洞窟か。真っ暗でよく見えないけど、どれくらいの大きさかね」
「ああ! 洞窟の様子を聞いておけばよかったですよ〜」
「そ、そういえば、そうですね‥‥」
「別にいいだろ、そんな深い洞窟にも見えねえし。それより、手伝えよお前ら!」
ぽっかりと崖に開いた洞窟は、人二人が並んで入れるくらいの大きさで、日中も暗く途中から曲がっており奥が良く見えない。それを眺めながらフレキが呟き、それを聞いたアイリスは少し慌てて、紅太も困ったように頷く。ベールクトは、車から捕獲用の檻を降ろしながら、気にした様子もなく答えつつ、フレキ達を恨めしそうに睨んだ。
「準備はできましたか? それじゃ、始めますよ」
「じゃ、早速中に入って、パイレーツを捕まえるとしますか」
最年長のリディスが中心となって指示を出す。それにフレキが腕まくりするようにして、洞窟の中へ入ろうとすると、アイリスが意見を言おうと手をあげた。
「あ、あの、とりあえず入口に罠なんかしかけておくというのはどうですか〜」
「んー、罠ってどんなさ?」
「え、あの‥‥ネズミが入口に現れたら、空から柵が落ちてきてガシャーンとか‥‥」
「具体性に欠けますし、準備もできていませんので、却下」
「あう〜」
アイリスの作戦はリディスに即却下されてしまった。結局、一行は洞窟の中に入って直接キメララットを捕まえることに。
「あ、あの‥‥それ本当に仕掛けるんですか‥‥」
「なにか問題でも?」
「い、いえ‥‥なんでも‥‥」
ゴキブリ用接着シートを張り合わせた、特製キメララット用粘着シートを持つ雪色に、紅太がつい口に出してしまう。それに、雪色は少し眉を顰めて紅太を見て答える。
「別に、これに期待しているわけでもありません。もし引っかかったら、儲けものかなというくらいです」
「そ、そうですか‥‥」
雪色の言葉に、紅太は視線をそらして頷くしかなかった。
「え〜と‥‥洞窟から逃げ出したネズミも漏らさないように、ボクとアイリスさんは外で待機してようと思うのですが‥‥どうでしょう?」
「そうですね、中はあまり広くないようですし、全員で入るより効率はいいのではないでしょうか」
紅太の意見に、リディスが頷く。おどおどとした口調のため、聞き様によっては洞窟に入るのを怖がっているようにも聞こえるが、特にからかわれずに許可されたので、紅太はホッとした。
「じゃ、俺も残るかな。この得物じゃ、狭いところは不利だしな。ガッチリガードして、逃がさないようにするから、安心していってこい」
そう言ってパワーマンも残ることにした。たしかに彼のロングスピアでは、洞窟で扱うには大変そうだ。
「ってことは、俺さんも? でも、ま、なんとかなるっしょ」
同じく槍を持っているフレキだが、彼は前衛で戦うことにしたようだ。そして、紅太達を後衛に残し、一行は洞窟へと入っていった。
「いた‥‥」
洞窟の奥は思ったほど深くなく、少しして光る玉のような大きなネズミの目を見つける。懐中電灯でそれを照らすと、一瞬小型犬ほどの大きさのネズミが一瞬だけ映り、すぐに暗がりに隠れてしまう。そして、ガサガサという複数の物音とキーキーという鳴き声。
「やはり、何匹かいるようですね。間違って倒し過ぎないように注意してください」
「とりあえず、手掴みで捕まえるしかないですよね」
「んー、俺さんにはやっぱりこういう分かりやすいのの方が向いてるねぃ」
「ネズミ捕りの設置はこれでよしと。皆さん踏まないでくださいね」
「暗くてわかりづらいっての」
リディスの指示に、各々がキメララットを捕まえようと、物音のするほうへと近づいていく。雪色は両手に電灯を持ち、できるだけ周囲を照らした。
「あぁッ! チョロチョロとウゼェ」
ベールクトは気配に手を伸ばすも、見た目通りすばしっこいキメララットを捕まえることはなかなか難しく、悪態をつく。
「痛い! 噛まれました!」
「っ! 一瞬すぎて、なかなか大変だこれは。刺すだけなら楽なんだけどねぇ」
暗がりを走り回るネズミを捕らえることはなかなか難しく、逆に足を噛まれたりと反撃を受けてしまう。硯やフレキは、痛みに顔を顰め、動き回るネズミを追いかける。
「つ、捕まえたぞ!」
しばらくドタバタとしたあと、ベールクトが叫んだ。その手は、たしかにキメララットの首根っこを押さえ、捕まえている。
「ベールクトさんは、そのまま洞窟を出て、檻の中へ! あとは残って殲滅します」
「おぅ!」
「わかりました」
「ようやく、本番だね」
リディスの指示で、ベールクトはキメララットを捕まえたまま洞窟の出口へと走る。そして、残りのメンバーはそのまま殲滅へと移った。
「照明弾撃ちます、気をつけてください」
雪色が洞窟の奥に向かって、照明銃を放つ。洞窟内は一気に眩い光に包まれ、その光にネズミ達が一斉に驚き、恐慌状態となって狂ったように走り回る。
「ここからは一切手加減なしの全力で駆逐に当たるぞ‥‥潰す!」
サーっと、リディスの銀の髪が漆黒に染まり、穏やかな笑みは冷徹な無表情へと変わった。そして、光の中走り回るネズミ達に強い口調で呟くと、疾風脚で強化した脚力で、強く踏みつける。そして、奇声を発するネズミ達に容赦なく金属の爪を突き刺した。
「俺も、あなた達を残しておくわけにはいかないんですよ、っと!」
着物を機用に捲り上げて、硯も同じく疾風脚で強化すると、ネズミを蹴り上げる。そして宙に浮いたそのネズミに向かって、手に装着した金属の拳で殴り倒した。
「いーーくぞ? ‥‥いっせーのー‥‥せ!!」
フレキの瞳が、爬虫類のように縦に細くなる。その瞳は、得物を狙う狩人のように、動き回るネズミにロックされ、狭い洞窟の中、最小限の動きで槍を繰り出す。それは見事に、ネズミを串刺し、フレキは満足そうにニヤリと笑みを浮かべた。そして、ほどなくして洞窟内のキメララットは殲滅された。
「お、戻ってきたぜ」
洞窟の外で待機していたパワーマン達の所へ、ベールクトが洞窟から走ってくるのが見えた。その髪と瞳は赤く染まり、背に羽のような黒いオーラが見えており、その手には、たしかに小型犬ほどのネズミが捕まえられている。
「おい! 檻、開けとけ!」
「は、はい!」
走ってくるベールクトの指示に、紅太が慌てて檻の入口を開ける。
「ちっ、ついて来てやがる!」
「任せとけ、おらっ!」
走ってくるベールクトの後ろを、何匹かのキメララットが追いかけてきていた。そこへ、待ってましたとばかりに、伊達眼鏡を外し力を覚醒したパワーマンが素早く槍を繰り出す。そして、一匹が串刺しになって断末魔の悲鳴をあげた。
「に、逃がしませんよ!」
同じく、紅太も覚醒し、2メートルほどもある大きな大剣を振りおろすと、ネズミの頭と胴が切り離された。
「よ〜く狙って‥‥。いまなのです!」
アイリスは、外さないように鋭覚狙撃で狙いを定めると、自動小銃から放たれた弾丸が、吸い込まれるように走るキメララットの頭部へと命中した。
「この! いい加減、離しやがれ!」
そうする間に、ベールクトは檻にたどり着くと、いままでずっと腕に噛み付いていたネズミを引き剥がして、檻へとぶち込むのだった。
「はい、暗幕ですよ〜」
アイリスが、リディアに預かっていた暗幕を檻にかける。キメララットは、何度か檻の中で暴れてぶつかったりしていたが、中に敷き詰められた毛布などで大きな怪我もないうちに大人しくなった。
「あ、血が出てますよ‥‥」
「これっくらい、なんてことねぇ‥‥痛ぅ‥‥」
紅太はベールクトの腕から血が流れている事に気づく。ワザととはいえ、キメララットの強靭な顎に噛まれて、さすがにベールクトも痛みを隠せないようだ。
「どれ、見せてみろ」
「おい、なにすんだよ!」
「応急手当してやる、ジッとしてろ」
パワーマンがベールクトの腕を掴むと、持っていた救急セットで治療を行った。
「一応あとで医者に見てもらえ。よくがんばったな」
「けっ! たいしたことないって、言ってんだろ!」
一通りに治療を終え、パワーマンはベールクトを労うように言葉を掛ける。それに対し、ベールクトは照れたのか、怒った風に顔を背けるのだった。
「ふぅ‥‥。終わりましたね」
リディスは銜えていた煙草を離すと、ゆっくりと紫煙を吐き出した。覚醒後の喫煙は、彼女にとって決まりのようなものだった。慣れない場所での戦いで多少の傷は負ったが、檻の中には目的のキメララット、そして残りは殲滅し、概ね依頼は達成といった感じだ。
「おつかれさん。いや、助かったよ、あんたらのおかげで、この地を離れなくてすむ」
「そう言ってもらえただけでよかったですよ〜」
「は、はい‥‥」
連絡を聞き、お礼を言う民家の男に、アイリスと紅太はにっこりと微笑んだ。依頼外の余計な労働になったが、感謝の気持ちが十分に報酬となった。
「だから、お前ら手伝えよ!」
「はいはい、重いなー、重いなー‥‥手編みのマフラーぐらい重いなー♪」
そんな中で、ベールクトとフレキは、ネズミの入った檻を車に載せていた。まぁ、フレキの豪力発現のおかげで、たいした苦もなかったのだが。
「‥‥害虫しかいなかった」
雪色の設置した、特製キメララット用粘着シートには、結局気色悪い虫しかいなかったようだ‥‥。
そして、一行は無事にキメララットを、あのいけ好かない依頼主の元へと送り届けるのだった。