●リプレイ本文
「ひょわわあぁぁぁぁ!」
「今、変な声が聞こえませんでしたか?」
依頼を受けて廃墟へと向かった一行に届く謎の奇声。水鏡・シメイ(
ga0523)がその声に気づき、声のする方へと向かうことになった。
「こんな所に人が居るわけないっす。聞き間違えじゃないっすか?」
「そうかもしれませんが、もし本当に誰かがいたら大変ですしね。もしかすると迷子かもしれません」
半信半疑のリリア・柊(
ga8211)に、夕波綾佳(
ga8697)が穏やかな口調で答える。さすがに、こんな危険な場所で迷子になる者がいるとも思えないが、しかたないとリリアは肩を竦めた。
「ん? あちらから、何か向かってきますよ」
少しして、一行は人影のようなものが向かってくることに気づく。人よりやや目線の高いリネット・ハウンド(
ga4637)がいち早く気づき、その方向を指差した。
「はぁ、はぁ、なんなのよここは〜」
それは、可愛らしい衣装を纏った少女で、肩にはヌイグルミを乗せている。少女は、何かから逃げてきたように、時折後ろを振り向きながら、走り疲れて肩で息をしながら立ち止まった。なにやら誰かと会話しているように呟いているが、どうやらまだ一行には気づいていない様子だ。
「こんな所に、少女が一人であぶないですよ」
「わわ!? また出た〜!!」
シメイが少女に声を掛けると、驚いた少女はステッキのようなものをシメイに向ける。
「待ってヒカル! 人だよ!」
どこからともなく制止の声が聞こえ、少女は慌てた様子で口にしようとした何かを止めた。
「まぁともかく、落ち着いて話を聞かせてください」
「あ、うん‥‥実は‥‥」
とりあえず少女の話を聞くことにしたシメイ達。少女は少し落ち着いた様子で、事情を話し始めた。
「えー、『あほう少女』っすか? 自分から“あほう”だ何て言っちゃうなんて凄いっすね。あたしも大概頭悪いっすが自分の事をあほうだなんて言わないっすよ」
「魔法だよ、魔法!」
「え、違う? 『魔法少女』っすか? またまた、“まほう”なんてそんな物はないっすよー。人をからかうなんていけない娘っすねー」
さて、事情を説明した少女、ヒカルであったが、リリアはまったく信じない。たしかに、自分は魔法使いで別の世界からやってきたなどという荒唐無稽な話を簡単に信じられるはずもなかった。
「疑うなら、見せてあげるよ。レイテ! どう? これで信じた?」
「そんな事ぐらいなら能力者なら出来る人がいるかも知れないので証拠にはならないっすね。あたしだって覚醒すれば普段の運動音痴も改善されるぐらいっすから」
証拠のためにヒカルは魔法を唱え、ステッキからレーザーのようなものを放つが、それも何らかの武器だろうと考えるリリア。
「うぐぐ‥‥、だったらこれならどうだ! エターナ・ゼウン・ライ‥‥」
「ま、待ってヒカル! この街ごと吹き飛ばす気!?」
「まぁまぁ、リリアさんもその辺で」
「まあ良いっす。とりあえずこんな所を1人で行かせる訳にはいかないっすから、あたし達が目的地まで護衛をしてあげるっす」
意地になったヒカルが、自分の持つ最強の呪文を唱え始めるのを、カトリが慌てて止める。シメイも話が進まないと思ったのか、信じようとしないリリアをなだめた。
「まぁ、なにはともあれ、あたしらにまかしとき! 『乙女組』がきっちり守ったるさかいな!」
「あ、アカネちゃん!? アカネちゃんもこっちに来てたの!?」
「はっ? あんたとあたしは初対面やろ? 何で名前知っとるの?」
「え? どういうこと? もしかして記憶喪失とか‥‥」
そんな中、戎橋 茜(
ga5476)がヒカルに話しかけると、ヒカルは驚いたように茜を見て、知り合いのように言葉を返した。しかし、茜はきょとんとして首を傾げる。
「ヒカル‥‥、おそらく彼女は僕達の世界とは別の、この世界のアカネちゃんなんだよ。だから、ヒカルのこと知らないんじゃないかな」
「そ、そうなの?」
「たぶんね」
そこへ、カトリが別世界について説明する。ヒカルは半信半疑ながら、納得したようだ。
「可愛いお洋服を着てますね♪ ところで、さっきから気になってたのですが、そのヌイグルミもしかして生きてませんか? レッサーパンダなのに、羽が‥‥もしかしてキメラ?!」
「あ、僕はカトリ、ヒカルのパートナーで‥‥うわぁ!?」
そんな話をしていると、小川 有栖(
ga0512)が興味津々な様子で話しかけてきた。さきほどから、カトリは空中に浮き、ヒカルと会話していたのだが。好奇心に駆られた有栖に捕まり、羽根を引っ張ったり、逆さまにしたり、身体中を触って確かめたりされる。
「アルディーヌさん、これはどんな生き物ですか?」
「えー!? ぬいぐるみが生きてるのー!? 楽しい〜!!」
「た、助けてよヒカル〜!」
そして、生物兵器を研究しているサイエンティスト、アルディーヌ・ダグラス(
ga6234)にカトリを見てもらおうとするが、アルディーヌも始めてみる謎の生き物に歓声をあげて喜ぶ。
「わ〜、本物の光流ちゃんだ〜♪ あ、この声‥‥分からない?」
「へ‥‥すばる‥‥ちゃん?」
感激した様子の豊田そあら(
ga4645)が、ヒカルに声を掛ける。その声に、心当たりがあるようにヒカルは不思議そうに首を傾げた。
「そうそう、さすが大親友♪」
「もしかして、こっちの世界のすばるちゃんなのかな‥‥」
「まぁ、ちょっとした関係者かな。とにかく、お姉さん達に任せて! あたし達が光流ちゃん達をしっかりと元の世界に戻してあげるよ!」
「そうですよ、光流さん。安心して、私達に頼ってくださいね」
「あれ? こっちはお母さん‥‥?」
そあらに同調するように、綾佳も優しい声でヒカルに微笑みかける。そんな二人の声に、ヒカルはなんとなく安心感を感じたようであった。
「さて、それではそろそろ行きましょう。ここは、キメラの生息する危険な場所ですが、あなたは私達が守りますから」
「は、はい、お願いします!」
一通り話が済んだあと、リネットが一行に声を掛ける。巨漢のリネットに優しく声をかけられ、ヒカルは素直に頭を下げて協力を頼むのだった。
「魔法少女って本当にいるんですね。少し驚いてしまいましたよ」
「ね、ねぇカトリ‥‥さっきから気になってたんだけどさ」
「う、うん、僕も気になることがあるんだ‥‥」
少しして、一行がヒカルを連れて目的地へと向かう途中。シメイがヒカル達に話しかけていると、なにやらヒカルとカトリは小さな声でひそひそと話を始める。
「でも不思議ですね‥‥貴女達とは初めて会ったはずなのに、何故かそんな気がしません」
「水鏡さんの声って、どっかで聞いた事あるよね‥‥」
「やっぱり? 僕もそう思ってたんだ‥‥。なんだか、あの声を聞くと背筋が寒くなるというか‥‥」
「どうかしましたか?」
「い、いえ! なんでもないです!!」
「?」
そんな、自分をチラチラと見ながら話す二人に、シメイはよく分からない表情で首を傾げるのだった。
「うん、こっちの方角に、強力な魔法磁場を感じるよ」
カトリの先導で、ヒカル達が帰るために必要な魔法磁場の強い場所へと向かっていた一行。ヒカルを護衛しながら廃墟を進んでいると。
「ヒカルちゃん危ない!」
「ひゃあ!?」
突然、空から巨大なキメラが落ちてくる。ズシーンと音を立てて着地するそれに、アルディーヌがヒカルを庇うように押し倒した。一歩間違えれば、キメラに押しつぶされていたかもしれない。周囲を守っていた仲間達も、キメラを上手く避け臨戦態勢に入った。
「これは‥‥ビッグスパイダー!」
キメラの姿を見て、リネットが声をあげる。そのキメラは、全長5メートルほどの巨大な蜘蛛、今回の依頼の本当の目的であった。
「ヒカルちゃん! 大丈夫ですか?」
「うん、何とかね‥‥。でも、この蜘蛛、でかすぎるよ‥‥。こんなのがこの世界にはうじゃうじゃいるの?」
そあらに助け起こされるヒカルは、キメラの姿に顔を顰める。
「まさか、こんなところで、目的のキメラと遭遇するとは‥‥。ですが、邪魔をしないでください。私達は、ヒカルさん達を無事元の世界へ送り届けなければならないのです」
苦笑を浮かべるシメイは、弓を構え覚醒した。鷹のように鋭くなった瞳が金色に染まり、
その身から銀色のオーラが浮かび上がる。
「さ、ヒカルちゃんは下がって」
「私だって戦える、私もやるよ!」
「光流ちゃん! そんなコトしちゃ駄目でしょ!」
「ひゃ!?」
「この世界は、光流ちゃんの世界とは違うの。魔法が使えるからって過信しちゃダメなのよ? それに、光流ちゃんが無茶をして怪我でもしたら、悲しいわ」
「う、うん、ごめんなさい‥‥」
そあらの言葉に、ヒカルが共に戦おうとステッキを構える。しかし、綾佳がまるで母親のような口調でヒカルをたしなめた。ヒカルはその言葉に、反省したように頷く。と、そこへ、三人の少女がキメラの前に立ちふさがった。
「ヒカルちゃんは私たちが守っちゃうよ〜! 純白の白衣、たなびかせてオトメホワイト見参!!」
「無芸大食、オトメブラック参上!」
「眩い太陽の情熱、オトメオレンジ推参!! 我ら天下無敵の純情美少女『乙女組』!」
アルディーヌ、有栖、茜の三人は、人類に危機が迫ると、隠された力が覚醒し純情美少女戦隊(?)『乙女組』となるのだ。戦え乙女組! 地球の平和は君達の手にかかっている!! ‥‥もちろん嘘である。
「ちょっとそれは‥‥恥ずかしいよう‥‥」
「え〜? でも、有栖はノリノリやで?」
「一度やってみたかったんです〜」
決めゼリフと共にポーズを取る茜に、アルディーヌが顔を赤らめてツッコミをいれた。その様子に茜は、超機械でスパーク演出までしている有栖を見る。有栖は気にした様子もなく、満足そうにニヘラ〜っと微笑んだ。
「‥‥どこの世界も一緒なんだね」
「そ、そうだね‥‥」
茜達の様子に、驚いたような呆れたような、それでいてなんとなく納得しているような表情を浮かべるヒカルとカトリ。
「バカなことやってないで、さっさと倒すわよ」
覚醒し、髪が水色になったリリアは、性格もクールなものに変え、剣を構えてキメラへと突っ込む。先ほどまでの、運動音痴っぷりが嘘のようだ。
「前衛は柊さん、戎橋さん、私で。夕波さんはヒカルさんの護衛を。他の皆さんは、後方からの援護をお願いします」
リネットが前にでながら指示を出す。一行はそれに従い、各自が得意な武器で巨大蜘蛛へと攻撃を行なう。
「ヒカルさんには、指一本触れさせませんよ」
「どんなことがあっても、絶対に護るからねヒカルちゃん!」
シメイとそあらが、それぞれ弓と銃で牽制を行なう。攻撃が巨大蜘蛛の足に当たり、蜘蛛の動きを止めた。
「武器‥‥強化‥‥」
覚醒し無表情になった有栖が、前衛の武器を練成強化する。それぞれの武器が、淡い光に包まれた。
「みんな、ビッグスパイダーは粘着糸に気をつけなさい。当たれば、身動きが取れなくなるわ」
「了解や! おっとと、アルディーヌ、ナイスアドバイス!」
冷徹なサイエンティスト然としたアルディーヌが、仲間に忠告を出す。茜は、蜘蛛の吐き出す粘着糸を回避しながら、忠告に感謝する。
「ふぁ〜‥‥みんな変身してる、凄いなぁ」
「皆、光流ちゃんを護るのに一生懸命なのよ」
その戦いの様子を見ながら、ヒカルは感心したように呟いた。ヒカルも神様決定戦を戦い抜いてきたが、やはり能力者の戦いは驚かされるようだ。そんなヒカルに声をかけながら、綾佳は蜘蛛の動きに注意しつつヒカルを庇う。
「急所はここですね!」
「遅い! ここだ!」
リネットが関節の継ぎ目を拳で叩き折り、リリアが両断剣で赤く光った刀で切り裂く。
「我が道に敵なし!」
そして最後に、茜が蜘蛛の頭部へと剣を突き刺し、ついに巨大蜘蛛は力尽きる。茜がノリノリでキメポーズをきめた。
「ここだよヒカル。この場所なら、異世界移動が可能のはずだ」
キメラを倒し、廃墟を抜けた一行は、小さな丘に辿りついた。カトリが言うには、ここが魔法磁場の強い場所らしい。
「ようやくついた〜。慣れない場所で緊張して疲れちゃったよ‥‥」
「ヒカルちゃん、お疲れ様です」
「そちらこそ、お疲れ様です、そあらさん」
「私とヒカルちゃんの仲じゃないですか〜、ソアラでいいですよ♪」
「あはは、うん、ありがとうソアラ」
がっくりとくたびれたように肩を落とすヒカルに、そあらが声をかける。そあらの屈託のない様子に、ヒカルもニッコリと微笑んだ。
「光流ちゃん、気をつけて帰ってね」
「うん、綾佳さんもありがとう。綾佳さんも、ソアラも、茜ちゃんも、私の大切な人達にそっくりなんだ。だから、この世界にわけもわからず放り出されても、皆がいて安心した。本当にありがとうね!」
「そか〜、そう言ってくれると嬉しいな。せやけど、本当にちゃんと帰れるん?」
「うん、大丈夫。ここの磁場なら、ヒカルでもちゃんと元の世界に帰れるよ」
微笑む綾佳に、お礼を言うヒカル。そんなヒカルの言葉に、茜も嬉しそうに微笑んだ。茜の問いには、カトリが太鼓判を押す。
「あー、どんな仕組みなのかもっとカトリを研究したかったよぅ!」
「そうですね〜、カトリさんだけ置いていきませんか?」
「そ、それだけは勘弁‥‥」
「ごめんね〜、カトリいないと帰れないから」
アルディーヌと有栖が、獲物を見つめる獣のように、カトリを見る。カトリは、ぶるぶると首を横に振ってヒカルの背中に隠れた。ヒカルはその様子に、苦笑しながら答える。
「お二人とも、向こうの世界に戻ってもお元気で。パートナーは大切な親友であり、家族ですよ‥‥カトリさん」
「二人とも、またいつか会いましょうね」
「ええ、わかってます。水鏡さんもハウンドさんも色々とありがとうございました」
「あたしにはお礼はないっすか〜?」
「リリアもありがと! 最後まで信じてくれなかったけどね?」
シメイとリネットに礼を述べるカトリ。少し拗ねた様子のリリアにも、ヒカルが元気なお礼を返す。
「それじゃ、そろそろ行こうかヒカル」
「うん‥‥。エターナ・ライティア・リポート‥‥それじゃ皆、バイバイ!」
そして、一通り挨拶を済ませたヒカル達は、呪文を唱え光の中へと消えていった。最後に、元気な別れを残して。
「いっちゃいましたね‥‥」
「異世界から来た魔法少女って本当だったんすね。驚いたっす‥‥」
「他の世界が本当に存在するんですね。自分も他の世界を見ることが出来たらいいんですけれどね」
少し寂しそうに見送るそあら。消えていったヒカルに、驚きで放心するリリア。有栖は、いつか自分も他の世界へ行く機械を作れたらなと思うのだった。
「さぁ、仕事も終わりました。私達も帰りましょうか」
しばらく、ヒカル達が消えていった場所を眺めていた一行は、リネットの言葉に頷き、自分達のあるべき場所へと帰っていくのだった。