●リプレイ本文
「戦闘空域は北米南東部競合地域、敵戦力はHWと推定。ただ情報によれば未確認型とのこと。相互支援を行いつつ、各個撃破を。どんな性能を秘めているか判らないからな」
依頼を受け、基地から出撃した一行。該当地域に近づき、緑川安則(
ga4773)が確認のための指示を行なう。
「ほむ、それにしても何も無い所に突如現れるなんて、不思議な話ですネ」
「軍が警戒を怠ったか、それともバグアが新しい技術を投入したか」
「成る程、バグアの新型の可能性があるってか。何にしても早い所調査して可能なら撃墜してやるぜ」
「拙者にお任せあれでござるよ。あ、審殿、おにぎり握ってきたでござるから、あとで食べましょうぞ」
「わざわざ持ってくるなよ、そんなもの‥‥」
赤霧・連(
ga0668)が小さく小首を傾げて呟くと、二階堂 審(
ga2237)は現状で考えうる答えを口にする。それにザン・エフティング(
ga5141)が納得するように頷きつつ、それでも心配が無いようにニヤリと笑みを浮かべた。雪子・レインフィールド(
ga3371)も任せろとばかりに頷き、好物のおにぎりを入れた弁当箱を審に見せる。それに、審は呆れたようにため息をついた。
「‥‥レーダーに反応」
「こちらでも確認した、だがこの反応は今までのバグアのデータには無いものだ」
索敵を行なっていたノエル・イル・風花(
ga6259)とアンジェリナ(
ga6940)のレーダーに反応があり、一行に注意を促す。だが、その反応は今までにないものであり、アンジェリナは不審気な表情を浮かべた。
「そろそろ目視可能距離だが‥‥ありゃあ一体何だ? 見た事も無い感じだが‥‥バグアの新機種か?」
「あれが敵の新型か‥‥っ! ゴーレムの新型? それにしては随分と印象が違う‥‥?」
やがて、一行の前に現れたのは、巨大な戦艦とその周囲を守るように飛ぶ人型の機動兵器。阿木・慧慈(
ga8366)と井出 一真(
ga6977)は驚きに声をあげ、他の者も同じように驚きを口にする。
「何だ‥‥この感覚は‥‥」
そんな中、シェリー・ローズ(
ga3501)だけはその光景に既知感のようなものを感じ、表情を歪めるのだった。
「‥‥バグアの奴ら趣味が変わったのか? 女性型の機体とは趣味が良いのか悪いのか」
「ふむ、見たことない機体だがバグアの機体って感じではないな。イメージチェンジか?」
「‥‥こちらはUPC軍傭兵部隊。未確認飛行部隊に告げる。君たちの所属と目的を説明されたし」
空中に浮く巨大戦艦と、甲冑を纏った女性のようなフォルムの人型機動兵器。その姿に驚きながらも感想を漏らすザンと審。そしてバグアとの違和感を感じた安則は通信を試みる。
「こちらは、ヴァルハラ軍旗艦フリズスキャルヴ。私は、アースの王オーディンだ。我々は、このジ・アースへと侵攻するため、ヴァルハラ世界より来た」
「ヴァルハラ? オーディン? いったい何を言っている!?」
しばらくして帰ってきた通信に、一行は改めて驚きの表情を浮かべた。相手は、バグアではなくヴァルハラ軍と名乗り、その目的は侵攻だと告げる。
「――ヴァルハラ‥‥、北欧に伝わる英霊の集う場所。オーディン、北欧の神‥‥。しかし、それはただの言い伝え、神話でしかないはず」
「あんたが‥‥オーディン?!」
北欧神話に馴染み深いアンジェリナが、該当する名に関する言い伝えを口にする。そして、シェリーはオーディンの名に、神話とは別になにか言い様も知れない感情を覚えて、驚きの声をあげた。
「君達にとっては異世界といった所か。君達には悪いが、我々の存在をこの世界に理解させるための生贄となってもらおう。SAの力をとくと味わうがいい」
オーディンと名乗った者は、そう言い放つと通信を切った。そして、待機していた機動兵器が武器を構え動き出す。
「ほむ、あちらさんはやる気満々のようですネ」
「ちっ、問答無用か。総員戦闘準備!」
相手の動きに、連が困ったように頷き、安則は全員に戦闘の指示を出す。
「おーでん? 何やら変な名前のバグアだな。大体、異世界からの侵略者なんてな‥‥俺達は宇宙からの侵略者だけで手一杯なんだよっ! 誇大妄想も大概にしやがれっ!!
「宇宙人にマッドサイエンティスト‥‥超人軍団‥‥異世界位じゃ驚かないであります‥‥」
「な、何だってー!? 新しい勢力とか、勘弁してくれよ。これ以上地球を狙う奴を増やすのも何だ、とりあえず追っ払うとするか!」
オーディンの言葉に、ザンは気合を入れるように叫び。ノエルは表情を変えずに首を横に振る。慧慈は困ったように肩を大きく竦めると、すぐに気持ちを切り替えて目標に狙いを定めた。そして、戦いが開始される。
「全員作戦通り三班に分かれ、敵機体を各個撃破するぞ」
一行は部隊を三つに分けると、SAと呼ばれた敵の人型機動兵器から放たれる光弾を回避しながら反撃へと出た。
「SAはオーラフィールドによって守られている。こちらの世界の兵器は効きはしないぞ」
「それはやってみなければわからないな」
「なに!?」
余裕を見せるSAに、審のスナイパーライフルが放たれる。弾丸は、一瞬バリアのようなものに阻まれるが、それを突き破り敵に命中した。どうやら、KVの攻撃はSAのオーラフィールドを破ることができるようである。
「拙者、名は雪子・レインフィールドと申す。いざ、尋常に勝負!」
雪子は敵の射撃を避けつつ、ロケット弾を発射。噴煙を吐きながら飛ぶロケットが、SAに命中し、大きな爆発が起きる。それにより、敵の機体は地上へと墜落していった。
「やったでござるよ!」
「後ろ! 油断するな!」
「俺に任せてください!」
歓声をあげる雪子だが、すぐに後ろを付かれて反撃される。それを慧慈がバルカンで牽制、一真がAAMで攻撃した。そして雪子を追うSAにミサイルが命中、その動きを止める。勝手の違う人型の兵器相手だが、一行は互角以上の戦いを繰り広げていた。
「アレがSAか、悔しいがわが軍の機体より美しく高性能だな。だが、それだけで勝敗が決まるわけではないっ!」
「天使に攻撃する私達はまるで悪者ですネ。差し詰め私は悪い魔女さんでしょうか? ふふ、ならば見事ソレを演じて見せましょう」
「もしあれがヴァルハラの軍ならば、天使ではなく戦乙女か。戦場を守護する神霊にして、英霊をヴァルハラへと連れ去る死神‥‥。しかし戦乙女といえど、私は負けない。――アンジェリナ=ルヴァン。“ティルフィング”‥‥目標を破壊する」
覚醒したノエルが、強気な口調で言い放ち。連は不敵に微笑み、アンジェリナは意識を敵の破壊することに集中させる。彼女達は、後方からの攻撃で仲間達の援護を行なった。アンジェリナの機体が、ジャミングで味方の支援を行い。連とノエルは、アンジェリナを護衛しつつ、スナイパーライフルによる長距離射撃で攻撃を行なう。
「あれは、オーディンの軍。とすると、戦っているのは、こちらの世界の者達か!」
「どうやらそのようだな。存外に善戦しているようだが‥‥。どうするつもりだ?」
「決まっている! 彼らと協力して、今度こそオーディンを討つ!」
「彼らが、本当に協力してくれればいいのだがな」
「ちゃんと話せばわかってくださいますよ。私達がオーディンを止めるために来たのだと、彼らに説明しましょう」
「だといいのだがな‥‥。しかし、彼らの機体、私の記憶しているものとは随分と性能が違うな‥‥」
激しい戦いを繰り広げる能力者とヴァルハラ軍。そこへ、燃えるような赤いSAと、漆黒の闇のようなSAがどこからとも無く現れる。二つのSA、フレイとロキにそれぞれ搭乗しているのは、双子の女性騎士リアとレイと、シンドリという仮面をつけた男。彼らは、戦う能力者達の様子に、共闘の意思を口にする。
「新手か?」
「――何者だ。やつらの仲間ならば‥‥撃つ」
新しく現れた機体に気づいたノエル達。アンジェリナは、SAと酷似しているその機体に不信感を抱き、ガトリング砲の銃口を相手に向ける。
「待て、様子が違う。聞こえるか? アンノンのパイロット。言葉が判るなら、そちらの所属と目的を述べよ」
「アンノン? これはフレイ、アンノンなどという変な名前ではない!」
「レイ君、アンノーンとは未知なという意味だ。つまり、彼らは未知の機体である我々の目的を述べよと言っているのだよ」
「う、最初からそういえば良いだろうに‥‥。私はヴァン神族のレイ! あのオーディンと敵対する者だ」
「姉のリアです。私達は、異世界であるこの世界を征服しようとするオーディンを止めるために来ました。どうか協力してくれませんか?」
「詳しい事情は後にしよう。ともかく我々はオーディンを倒すために来た。君達と目的を同じにする者だ」
「ほむ、了解しました。私達がキミ達を守るから、キミ達は躊躇わず前にGOです!」
ノエルの質問に答えたレイ達は、ヴァルハラ軍へと向かっていくと、攻撃を開始した。その様子に、連達もとりあえず彼らと敵対せずに協力して戦うことにする。
「まさか、こちらの世界でもフィールドを破る装置が開発されていたというのか。まぁいい、ならば純粋な実力の差を見せてやろう。旗艦を下げろ、私も出るぞ」
一行の予想外の反撃に、驚きの言葉を口にするオーディン。だが、その余裕は崩れることなく、オーディンは自ら発進準備を開始した。
「これでも食らえ!!」
「高初速滑空砲なんて趣味な物を選んだのは失敗かな? 改造しまくる資金もないし。報酬で武装を新しくしておくか」
「その程度の実力じゃ、アタシの相手は務まらないよ!」
ザンのAAMの援護を受けつつ、安則がバルカンを撃ちながら突撃、敵の射撃を紙一重で避け、すり抜けざまに大口径の滑空砲を放つ。アグレッシヴ・ファングの効果を受けた砲撃が敵SAの装甲を撃ち抜き、そこへシェリーのガトリングが蜂の巣にした。さすがにそれだけ大きなダメージを受けたSAは、盛大に爆砕し散っていく。
「敵旗艦が下がっていくぞ?」
「新しい機体が出てきたな。なんとなく、あれがボスっぽくないか?」
後退する戦艦に気づいた安則。その戦艦から発進された新しい機体の雰囲気に、ザンは他とは違う感じを受ける。その機体こそオーディン本人が駆る最強のSAであった。
「だったら、あいつを倒せばいいってことだろ! アタシがやってやるよ!!」
「待てシェリー! 一人で突出しすぎだ!」
それにシェリーが過剰に反応し、安則の制止を振り切りオーディンへと突っ込んでいく。
「ピンクの機体? シギュン‥‥」
「どうしてアタシを‥‥?」
一瞬の邂逅、初めて出会ったはずのオーディンに、シェリーは奇妙なビジョンを見る。魂を掴まれたような感覚と、キスを交わし激しく愛し合う二人のビジョン。
「シェリー! なにボーっとしてやがんだ!」
「っ!?」
「何者か知らんが、悪いが落とさせてもらうぞ」
「何ぃ!」
ザンの叱咤に、意識を取り戻すシェリー。そして、武器を構えシェリーに狙いを定めるオーディンの攻撃を、慌てて回避した。ほんの一瞬の出来事、お互いにここではないどこかでの出会い感じつつも、戦いは続けられる。
「地上の建造物を盾にせよ。地上戦に持ち込むのだ」
オーディンの指示に、SA部隊は廃墟となったビル街へと降り立ち、ビルの影に隠れながら攻撃を行なってきた。どうやら、戦闘機には地上戦は不利だと判断したようだ。
「KVを甘く見るなよ!」
「なに!? 変形しただと! ひっ、なんだあの武器は!?」
そこへ、機体を変形させた一真が、手にチェーンソーを持って突っ込む。盛大に音を立てて回転する刃が、SAをビルごと切り刻もうとする様子に、思わず恐怖の声をあげる敵兵士。脚部装輪でダッシュした一真が、SAのすり抜けざまに切り裂き、そのまま180度ターンしてもう一度切り裂く。
「井出! 上に気をつけろ!」
「はっ!? このぉ!! き、消えた!? 光学ステルス? いや違うのか!?」
その時、慧慈の声が届く。一真はすぐに上空にガトリング砲を放つが、一瞬のうちに敵SAが消え去ると同時に、すぐ真横からビームの砲撃が放たれた。
「なんて砲撃だ‥‥! 当たったらひとたまりもない‥‥!」
「外したか、思ったより素早いな」
とっさにバックし砲撃を避けた一真だが、目の前を通り過ぎビルに大きな穴を開けた攻撃に戦慄が走る。
「センサーや機体の性能に頼るんじゃない! 精神‥‥いや魂の力で戦いな!」
「ピンクの機体! 邪魔をするな!」
シェリーがオーディンへと攻撃を仕掛けた。瞬間移動するオーディンを、勘で狙いをつける。オーディンは、その攻撃を避けきれず少し苛立たしげに叫ぶ。
「武士の一撃でござる。はァッ!!」
「くらえ必殺の‥‥サイエンティストドリル!!」
そこへ、雪子が剣で斬りかかり、同じく審が腕につけたドリルで攻撃する。連携の取れた二人の攻撃、しかしこれを瞬間移動で避けるオーディン。
「空間転移!? 厄介なものを持っているものだ」
「さすがにボスだけあって、短時間で見切れるような癖はねえようだな」
その様子を観察していた安則とザンだが、なかなか攻略法は見つからない。
「おいお前達。一瞬でいい、オーディンを止められないか」
「なにか策があるのか。いいだろうやってやる。――ティルフィングの名を与えた機体で刃向かうとは‥‥何の縁か」
レイの言葉に、アンジェリナが頷き狙いを定める。それに、連とノエルもタイミングを合わせる。
「ファントム・ウィッチ‥‥機動性の高いこの子なら、やれるはずです」
「林崎系居合術‥‥はっ!」
連が小回りの効く機体でオーディンを翻弄し、アンジェリナが素早い踏み込みで剣を振るう。
「当たらんよ」
「SESフルドライブっ! 堪えてっS−01!!」
「何!?」
それをまた瞬間移動で回避したオーディンに、ノエルが待ってましたとばかりに全力射撃を行なう。それに意表を付かれたのか、オーディンの動きが一瞬止まる。
「今よ姉さん!」
「ええ、わかってる。ソード・オブ・ビクトリー!」
そこへ、フレイから発射された幾本の剣が、意思を持ったように複雑な動きでオーディンへと襲い掛かる。
「くっ、さすがに損害が大きすぎるか‥‥。この世界の兵器を甘く見ていた私のミスだ。ここは退かせてもらおう」
「オーディン!!」
「‥‥シギュン。いずれまた逢おう」
「っ!! ふん、アタシもまだ甘いようだな」
その攻撃を受け、さすがに不利と悟ったのか撤退するオーディン。そこへ、シェリーが追撃を行なおうとするが、攻撃は放たれることは無かった。
そして、オーディン達は姿を消した。いつのまにか、フレイとロキも消えており、一行は不思議に思いながらも帰還する。そんな中、最後にザンが感想を呟いた。
「まったく異世界からの侵略者とは‥‥まあ、面白い経験が出来たな」