●リプレイ本文
「この辺りで大量に人間が殺されたそうだが、その話を聞かせてもらいたい」
「君は実際犯人を見たと聞いたのでね〜」
「ああ、この間のことか‥‥。酷い有様だったよ、思い出すと吐き気がする」
謎の男が現れたという街へと向かった南雲 莞爾(
ga4272)とドクター・ウェスト(
ga0241)は、目撃者という男の話を聞くことになった。
「キメラに襲われた街から避難してきたという人達が皆殺しに。俺達が駆けつけた時には、周りは血の海で、その中央にあいつが立っていたんだ‥‥。黒いマスクに皮のスーツを着た男で、返り血を浴びて真っ赤になっていた。男は俺達が来たのに気づくと、人間離れした動きで消えてしまった。殺された者は男だけでなく、女子供まで‥‥あれは人間じゃない、悪魔だ」
男は、青ざめた表情で何かを振り払うように首を横に振る。よほど酷い光景だったのだろう。
「その男の噂は聞いていた。キメラを退治して回る人間の味方だって聞いていたのに‥‥。宇宙人の襲撃だけでも大変だっていうのに、あんな異常殺人者まで現れるなんて、俺達はどうなっちまうんだ‥‥。あんたらエミタ能力者も一緒だ、力を持てば人間は変わる‥‥これで俺のできる話は終わりだ、話が済んだらさっさと帰ってくれ」
男は話が終わると、二人を追い払うように、自分の家へと入っていってしまった。男の最後に残した言葉が、なんとも後味の悪い気持ちにさせる。
「力を持てば人間は変わるか‥‥戦う為の力を得た結果が今の俺だが。今の話のような結果に行き着くのだけは、避けて通りたいぜ」
「ノーマルを殺してしまってはただの殺人者ではないか〜」
莞爾が吐き捨てるように呟き、ウェストはつまらない事のように言葉を口にする。今までの調査から、どうやら謎の男が人間を殺しているのは本当のようであり、相応の対応を考えねばならなくなりそうであった。
「しかし、こいつが変容したのは最近のようだ、それまではキメラだけを狩り続けていた様子‥‥いったい何があった?」
「ふん、そんなことは直接捕まえて吐かせればいいのだよ〜。我が輩に任せておきたまえ!」
調査によれば、以前はいくつかの地域でキメラから人間を守っているという情報も得ている。そして、現在もキメラを倒しているようなのではあるが、それに平行して殺人の報告もあるのだ。謎の男の変化に疑問を抱き眉を顰める莞爾。それに対し、目的のためならば手段を選ばないウェストは、痛めつけてでも捕まえる気満々であった。
「さて、ここでの情報は集め終えた。次の街へ向かおうかね」
「次の街はここだな‥‥」
地図にチェックをつけるウェスト。莞爾はリストにある情報を確認した。二人の調査はまだ続く。
「はい、この街も大変でしたけど、エミタ能力者の皆さんのおかげでなんとか無事で済みました。それと、聞いた話ではこの孤児院を守ってくれたのは、黒いマスクをつけた皮のスーツの人だそうで。院長先生を助けていただいて、感謝しています」
ある孤児院の少女がそう答える。謎の男が最初に報告された街では、街を守った傭兵と共に、謎の男も英雄扱いされていた。
「その後、その男を目撃したという話はありますか?」
「いえ、この辺りでは聞いていません。他の街でもキメラを退治しているとは聞いてますけど」
カルマ・シュタット(
ga6302)の質問に首を横に振る少女。他の街の者に聞いても、同じような返答であった。
「他に変わった事はあるか? 不審者を見たとか、別の事件が起きたとか」
「いえ特には‥‥。キメラも最近は見なくなりましたし‥‥。ただ、あの件以来、街を去る人は増えました‥‥」
愛輝(
ga3159)は、謎の男以外でもなにか関連することがないかと、関係のないことも色々と聞いてみるが、これといった情報は得られない。
「そうか‥‥。お前達は逃げないのか?」
「‥‥ここは私達の家ですし、他に行くところもありません。院長先生もお体が悪くて、動けませんから‥‥」
「‥‥‥」
愛輝の言葉に、首を横に振る少女。できれば安全な場所へと避難したいのだろうが、競合地域付近の街に残る者には、それぞれ事情があるようであった。
「お話、ありがとうございました。では俺達はこの辺で失礼します。もしあとでなにか気づいたことがあれば、UPCの方にお願いします」
「あ、あの!」
カルマは話を聞き終え、礼儀正しくお辞儀すると、その場を後にしようとした。そこへ、少女が声をかけて引き止める。
「なにか?」
「い、いえ‥‥。この街を守ってくれた黒いマスクの人が、人を殺したという噂を聞きましたけど‥‥なにかの間違いですよね?」
「‥‥現在それを調査中だ」
「そ、そうですか‥‥すいませんでした」
心配するような少女に、愛輝はぶっきらぼうに答えた。少女は少し肩を落として、頭を下げる。
「だが、その噂が間違いであれば、俺はその男に協力したいと思っている‥‥」
「私も街の人達も、みんな感謝しているんです。だから噂が間違いだと信じてます。あの‥‥がんばってください」
少女の様子に、愛輝は付け足すように答える。それを聞いて、少女は顔をあげ、少し安心したように表情を緩めるのだった。
「結局目新しい情報は無かったな。謎の男か、果たして何が目的なんだろうな‥‥」
「もし復讐をしているのだとしたら、俺も似たようなものだ。ただ、本当に罪の無い人を殺しているのなら、それは俺の罪の償いの邪魔になるから、俺は男の復讐の邪魔をする」
「復讐ね、でもあまりに無差別すぎだよこれは。まぁ、調べるだけ調べたら、あとは直接会ってみるしかないかな」
孤児院を後にして、カルマと愛輝はこれまでに得た情報を整理して、謎の男の目的を探る。しかし、一定地域に限定されてるとはいえ、キメラも人も、日時も共通点が無いため、無差別のようにしか思えなかった。結局は、相手を捕まえてみるしか手段はないようである。
「違和感を感じますね‥‥」
国谷 真彼(
ga2331)と篠崎 公司(
ga2413)は、謎の男の資料を探っていた。そこで、いくつかの報告の資料を確認していた真彼がふと呟く。
「なにかわかりましたか?」
「いえ、よくわからないのですが、報告に違和感を感じまして」
「というと、この報告が間違っていると?」
「そういうわけではなく、ただなんとなく‥‥」
「ふむ‥‥」
公司が問いかけるが、真彼は要領の得ない様子で首を振る。本人にも、なにがおかしいのかわかっていないのだろう。
「これらの資料を見ると、SESの暴走した能力者という線が濃厚ですね」
「たしかに‥‥または暴走を促す技術か。驚くべきは、その技術が実在したという事実です。ともかく、メンテナンスは必要でしょう。エミタではなく、彼自身に」
公司の意見に、真彼が同意するように頷く。犠牲者の素性に特に共通点はないが、人、キメラに問わず、ほとんどの場合、死因は刀傷によるものであった。
「あと分かったことは、ここ最近になって、出没頻度が飛躍的に上がっていることですね」
「っ!! そうか、わかりました、報告を読んで感じた違和感を。人を殺した際の目撃談が多いんです」
「つまり、ここまで圧倒的な力を持ちながら、何故か生き残りがいるというわけですね」
「はい、彼は何故か、目撃者を見逃している。まるで、わざと自分が犯人だとわからせようとするために」
公司の言葉に、何かに気づいたようにハッとする真彼。その言葉に、公司もふむと頷いて言葉を返す。
「では‥‥、もしかすると彼は暴走していない? 何かしらの考えで動いている?」
公司は謎の男のプロファイリングを試みてみるが、まだ情報が足りない。二人はとりあえず、仲間と合流し、次の作戦へと移ることにしたのだった。
一行は合流し情報を整理すると、謎の男を直接捕まえる接触班と、住処を探す探索班に分かれることになった。
「事件の場所、時間等から考えてこの辺りだと思うのだがね〜」
ウェストが、地図に書き込んだ出没地点から、次に現れそうな場所を予測する。ウェスト、愛輝、公司の三人は接触班として、謎の男を捜しに向かった。情報を基にしているとはいえ、確実性の無い状況で捜索を行なっていた一行だが、しばらく捜索を行なっていると人の悲鳴のようなものが聞こえてきた。
「どうやら、ウェストさんの予想が当たったようですね」
「当然だよ!」
「それどころではない、急ごう」
悲鳴のする方へと向かうと、軍服を着た男が一人、必死な様子で走ってくる。そして、ウェスト達の車に気づくと、両手を上げて助けを求めた。
「き、君達はなぜこんな所に!?」
「自分達はエミタ能力者です。ULTからの依頼で、この辺りである人物の捜索を。それより、何がありましたか?」
「そ、そうだ! 部隊の仲間が、突然、黒尽くめの男に襲われて‥‥!」
「黒尽くめの男とは、探してる男に間違いないね〜」
「!!」
UPCの兵士と思われる男の話に、愛輝が車から飛び出すと、兵士が逃げてきた方向へと走り出す。そして、公司、ウェストも愛輝を追いかけた。
「お、おい、君達! 奴は危険だ!!」
「君は、そこで待っていてくれたまえ〜」
兵士の制止を振り切り、現場へと向かう三人。そこで待ち構えていたのは‥‥。
「おまえが、彼らを‥‥」
兵士達の血の海の中で佇んでいた、黒いマスクの男であった。
「長らく放置されていた廃墟だ。人の気配があれば、目標である可能性が高い」
カルマの言葉に頷く莞爾と真彼。三人は探索班として、謎の男の住処を捜索していた。以前に別の依頼で謎の男と遭遇した廃ビル街が怪しいと踏んだ彼らは、現地に着くと生き物の跡を探して捜索を開始した。
「まさにゴーストタウンだな。こんなところに誰かが住んでいるというのか?」
莞爾は疑問を口にしながら、辺りを見回す。人がいなくなってから久しい、ボロボロで何も無い寂しい廃墟。普通の人間ならば、こんな所にいればそれだけで気がどうにかなってしまうかもしれない。
「この辺りは、キメラもいるそうです。気をつけてください」
「言ったそばから、出てきたようですよ」
しばらく探索を続けながら、注意を促す真彼。だが、カルマが言うように、すぐに獣型のキメラに囲まれてしまう。
「余計な戦いはする気はないんだがな。邪魔をするなら排除するしかない」
「ちょっと面倒そうな数だけれどね」
刀を構える莞爾、長い槍を持つカルマ。真彼も銃の形をした超機械を持ち、キメラの攻撃に備える。そして、三人はキメラとの戦闘を開始する。
「!?」
しかし、突然現れた黒い影が、次々とキメラを倒していく。突然の登場に、驚きを隠せないカルマ達。だが、すぐに共闘しキメラを殲滅した。
「あなたが、最近噂になっている黒いマスクの男か」
「‥‥‥」
「俺達は、あなたを探してここへやってきた。話を聞かせてもらいたい」
「‥‥‥」
戦いが終わると、カルマがすぐに男へと声をかける。だが、男は何も答えないまま。
「復讐のためというなら、君の道を僕は妨げるつもりはありません。但し、君が君の行動を理解していることが前提だ」
「あんたが人間まで殺しまわっているのは何故だ。復讐の意志はあんたの勝手だ、然しその為に無関係な連中までも手に掛けた時点で、その戦う理由は形骸に帰す。答えろ、あんたは何を考え、何を求めている!」
「‥‥!」
真彼と莞爾の言葉にも返答しない男。しかし、復讐という言葉には、なにか怒りのような感情を表すように、拳を強く握り締めた。
「!!」
「待て!」
そんな中、突然男が何かを感じたように空を見上げると、驚異的な跳躍力でビルの影へと消えてしまう。それを追いかけようとした三人だが、すぐに見失ってしまうのだった。
「今の様子‥‥奴が何かを見つけたような感じが」
「これは酷い」
「はぁはぁ、君には殺人の容疑がかかっているが、目的は一体何かね〜? それには人の命が必要というわけかね〜?」
愛輝から少し遅れてきた、公司とウェスト。周囲の有様に公司は表情を険しくし、ウェストは少し息切れしながら謎の男へと詰問する。
「これが、本当におまえが行なったことならば、俺はおまえを止める。違うというのなら言え、おまえを信じている者達のためにも」
愛輝は両手に鋭い爪を構え、その瞳は青から深紅へと変わっていく。相手の返答次第では、いつでも飛びかかれるようにと。
「そうだ、これは私がやった」
「!!」
マスクの男が、初めて言葉を口にする。それは、肯定を意味する言葉であった。それを聞いた愛輝は、目にも留まらぬ一撃を男に繰り出す。
「すでに目撃者も逃がした、お前達を生かす理由も無いな」
「くっ!」
しかし、愛輝の一撃はあっさりと避けられ、逆に腕の一振りで軽く吹き飛ばされる。なんとか爪で攻撃を受けたのでダメージは無いが、相手の力は圧倒的だった。
「死んでもらおう」
「どんな手を使ってでも、今ここで君を捕らえてやる〜!」
「その様子では、話し合いとはいかないようですね!」
死を宣言する男に、ウェストと公司が銃と弓での攻撃を行なう。しかし、それも男は軽々と避け、迫り来る。そして、手に持った刀が振り下ろされんとしたその時。
「ふっ‥‥ようやく現れたな!」
「‥‥!!」
刀を止める、もう一つの黒い影。男と同じ姿をした、黒いマスクの男が、ウェスト達を襲った刀を受け止めていた。先に現れた男が、後に現れた男に対し、嬉しそうに言葉を発する。
「お前を誘き出すために、こんな格好までしたのだ」
「つまり偽者ということですか」
一足飛びで距離を取った男は、黒いマスクを脱いで、後から来た男に話しかけた。ブロンドの髪の容姿端麗な男だった。その話を聞いて、公司達は今回の事件の真相を知る。
「さぁ、兄に顔を見せろマサキ!」
「兄!?」
「‥‥貴様は兄ではない!」
次に発した男の言葉に、怒りと共にマスクを脱ぐもう一人の男。マサキと呼ばれた男は、黒い髪のやはり容姿端麗な男であった。しかも、ブロンドの男とその容姿は酷似していた。
「ふふ、我らバグアの裏切り者マサキよ、素直に我らに従え。父も、お前の帰りを待っているぞ」
「黙れ! 俺はバグアに与したことなどない! 貴様達は俺が必ず倒す!」
「良かろう、言っても聞かなければ、殺してでもその肉体は頂く! だが、ここでは邪魔が入る、ついてこい!」
「待て!」
「こんな時にキメラだとぅ〜。我が輩達の邪魔をするな〜!」
二人は会話を終えると、素早い動きで移動してしまう。愛輝達は追いかけようとするが、ブロンドの男が呼んだのだろうか、キメラが邪魔をして追いかけることができなかった。
「あいつらは一体‥‥」
ほどなくして、キメラを倒した三人だったが、彼らのことは分からずじまいだった。
「バグアの裏切り者? 兄弟? ブロンドの男、そしてマサキとは何者なんだ‥‥」