●リプレイ本文
「副長! お前は部下を連れて、ここを脱出しろ。俺がなんとか時間を稼ぐ」
「お一人では無茶です隊長! それに敵に包囲されている今、ここを脱出するすべはありません。そもそも、我々が隊長を置いていけるとお思いですか?」
副長の言葉に顔を顰める駐屯部隊の隊長。しかし現実的に、移動手段を断たれ、負傷者を連れたまま、ここを脱出することは不可能に近かった。
「これは命令だぞ! くっ、バリケードが破られる!!」
「ギシャーーーー!!」
「なんだ‥‥いまの悲鳴のようなものは‥‥。静かになったぞ‥‥?」
突然の獣の断末魔のような悲鳴。そして訪れる静寂。
「隊長! 外に人が!!」
「なに!?」
外を覗き込んだ兵士の報告に、隊長は驚きの声と共に、外を確認した。たしかにそこには数人の人影があり、それは兵士達の所へと近づいてきていた。
「生存者いるか!」
「ここだ! お前達は何者だ?」
「救援よ、助けにきたわ‥‥」
人影の一人が声をかけ、隊長がそれに答え、問い返す。人影は少しホッとしたように息を吐き、問いかけに答えた。
「救援!? そうか‥‥」
「やった、俺達助かるんだ!」
人影の答えに安堵と共におこる歓声。そして兵士達は急いでバリケードを取り除いた。
「怪我人は後方へ、もう1人も負傷させない」
「これは‥‥お前達が?」
「ええ、貴方がここの隊長さん?」
「そうだ」
「私はロッテ・ヴァステル(
ga0066)、救援部隊の隊長です。UPCからの依頼で、貴方がたの救援に来ました」
バリケードから外へ出た隊長は、すでに倒されたキメラの残骸に驚きを見せた。そして、先ほどから受け答えをしている若い女性を改めて見つめる。女性は、隊長へと敬礼を行うとロッテと名乗った。
「傭兵‥‥エミタ能力者か!?」
隊長は、相手の素性がわかると、驚きの声をあげて、畏敬の念でロッテを見る。ロッテは、その視線を気にした様子もなく、表情を変えずに周囲の同じような人影へと指示を出すのだった。
「敵の増援が来る前に、早急にここを脱出します」
「しかし、負傷者が」
ロッテの指示に、現状を説明する隊長。そこへ、大型の軍用トラックがやってくる。
「お、お待たせしました‥‥! み、皆さん、早く乗り込んでください〜」
「敵の増援部隊の接近を確認した、早くしろ」
トラックには小さな少女、幸臼・小鳥(
ga0067)と、運転手の男、時任 絃也(
ga0983)が乗っており。荷台部へと兵士達を誘導する。彼女達は、救出班が任務を完了するまで、近くで待機していたのだ。
「こんな子供まで‥‥」
「彼女もエミタ能力者、立派な戦士よ」
小鳥の幼さに驚きを隠せない兵士達。それにロッテは毅然と言い放つ。
「は、初めての任務‥‥が、頑張らないとぉ‥‥きゃぅっ!? うー‥‥痛いですぅ‥‥」
「‥‥‥」
それでも、何も無いところで転び頭を押さえる小鳥の様子に、少し不安を覚える兵士達であった。ちなみに、小学生に見えるが18歳である。
「うっ、この傷じゃ助からない‥‥俺は置いていってくれ」
「ふざけるな! 誰かを助けるために死ぬような行為‥‥そんなことに意味があるか」
負傷者の一人を叱咤する日乃 晃(
ga1085)。足手まといになりたくないという彼に対し、普段はクールな晃が、激昂したように相手を叱咤し、その傷の手当てを行っていた。しかし、その傷は深く、すぐに適切な治療を行わなければ動くこともできないのも事実であった。
「どきなさい! あたしの超兵器の威力、とくと見せてあげるわ!」
そこへ、ソフィア スターリナ(
ga1670)が少し偉そうな口調で現れる。そして、彼女の持っていた謎の機械を負傷者に向けた。
「あ‥‥? 痛みが和らいでいく‥‥」
そして、ソフィアの前髪の一部がピンとアンテナのように立ち、機械から光が放たれると、負傷者の傷が見る見る間に塞がっていった。
「とりあえずこれで動けるでしょ? べ、べつにあんたなんてどうでもいいんだけど、足手まといになられると困るからね!」
「ありがとう‥‥お嬢ちゃん」
ソフィアは負傷者の傷を癒すと、少し憎まれ口を言ってそっぽを向く。その様子に、兵士は微笑ましいものを見るように感謝の気持ちを述べ、ソフィアの頭を撫でた。
「こ、子供扱いするな!」
「うぉ!!」
しかし、ソフィアは癇に障ったように、兵士の足を蹴飛ばす。136cmという身長の低さにコンプレックスを持っているソフィアであった。
「全員乗ったわね。陣形を、脱出開始するわ」
ロッテの確認に、全員が頷く。部隊突入から、ここまでの救出、脱出までたったの30分。ロッテの指揮は確かなものであった。そして、トラックが兵士達を乗せ発進する。
「建物が‥‥」
脱出から少しして、すでに遙か彼方になった支部のほうで、大きな音が聞こえ、高く土煙があがる。それは、支部の建物が破壊され崩れ落ちる様子であった。
「前方に敵影3。どうする?」
しばらくして、支給された双眼鏡で周囲を警戒していた絃也から、敵キメラの発見の報告がある。敵は額に角のある爬虫類型キメラ、ホーンリザードのようで。どうやら、進路上を妨害しており回避は難しいようであった。
「どうする、このまま突っ切るか?」
「やつらの突進力は脅威だ。トラックへの被害は避けたい。しかし、追撃の恐れもある、前方の敵を迅速に排除し、その後一気に突破する」
「そうこなくっちゃな! また相棒をおもいっきりぶん回せるぜ」
スコール・ライオネル(
ga0026)の問いに、ロッテが答える。その答えに、スコールは両手持ちのグレートソードを握り、満足そうにニヤリと笑みを浮かべた。
「スコール、シズマ、絃也は私と共に前方のキメラを迎撃。小鳥、アグ、晃、ソフィアは援護とトラックを守れ」
「りょーかい。ま、俺様にかかれば、あの程度どうってことないだろ」
「わかりましたリーダー、指示に従います」
ロッテの指示に、シズマ・オルフール(
ga0305)が気楽な調子で答え、アグレアーブル(
ga0095)は淡々と頷いた。
「み、皆さん‥‥が、頑張って‥‥くださいっ。わ、私も‥‥弓で‥‥援護しますのでっ」
小鳥が、迎撃に出るメンバーに応援の言葉を掛ける。どこか自信が無いような、おどおどとした口調がどことなく愛らしく、全体の緊張が少し薄れた。
「さってお仕事お仕事っと‥‥」
「さーって、お仕事お仕事ぉっと‥‥俺の速さについてこれるかな?」
「おい、俺の台詞取るなよ。まぁ、俺の場合はパワーだけどな!」
こちらに気づき、突進してくるキメラに、そんな掛け合いをしつつ武器を構えるスコールとシズマ。それぞれ、覚醒状態を示す炎の模様や、赤く光る瞳が浮かび上がっている。
「くれぐれもトラックに近づけさせないように。ミッションを開始する」
「了解」
ロッテの指示に、絃也が答え、四人はキメラへと向かっていった。
「遅ぇーぜ!」
シズマ、そして絃也、ロッテは持ち前の回避力を生かし、キメラの突進を避けて的確にダメージを与えていく。
「ちっ、やるじゃねえか。おらぁ!」
一方、スコールは真正面からグレートソードで敵を受け止め、キメラと力比べをする。相手の突進力に多少のダメージを受けつつも、その強靭な力でキメラの動きを止めた。
「いま‥‥ですっ」
「よっしゃぁ、これでどうだ!」
そこへ、後方から小鳥の弓矢が的確にキメラを捉える。その攻撃に一瞬怯んだキメラを、スコールが一気に押し切り、体勢を崩したところへとグレートソードの強烈な一撃を加える。
「これで止め!」
そこへ、ロッテの素早い追撃。拳に装着された爪が、キメラの喉笛を掻き切り、絶命させるのだった。
「どうやら優勢のようだな」
その戦いを見守る兵士達。その様子にホッと安堵する彼らの前に、突然物陰から他のキメラが姿を現した。
「伏兵!?」
「やらせない」
トラックの横っ腹へと突進してくるキメラ。だが、待機していたアグレアーブルが疾風のごとき動きで、キメラを蹴り飛ばす。短かったはずの赤い髪が膝まで伸び、まるで赤き矢のようであった。
「アグ、無茶はするなよ」
「問題ありません」
晃の言葉に、淡々と返すアグレアーブル。晃はその返事に信頼を込めて頷き、刀を構えた。
「はぁぁ!!」
そして、体勢を立て直し再び突進してくるキメラに、横一文字の豪快な一閃を繰り出した。交差する晃とキメラ‥‥、そして倒れたのはキメラのほうであった。
「しつこいやつは嫌われるわよ!」
「ごめん‥‥なさいっ」
それでも再び立とうとするキメラに、ソフィアと小鳥の追撃。そして、キメラは動かなくなる。
「あんた、血が出てるわよ。ちょっと見せなさい」
「この程度、大丈夫よ」
「いいから! まったく‥‥、あ、心配なんてしてないんだからね!」
どうやら、腕に怪我をした様子の晃に、ソフィアが治療を施そうとする。ついつい行動と裏腹なことを言ってしまうのは、愛嬌かもしれない。
「俺様の勝ちぃ!」
「どうやら、あちらのほうも決着がついたようですね」
シズマの声に、ロッテ達のほうを見れば、三体のキメラを全て撃破したようであった。そして一同は、敵の追撃が来る前にその場を脱出するのだった。
「作戦完了‥‥ご苦労様」
その後、無事に脱出地点まで移動した一同は、待機していた高速艇での脱出に成功した。
「お前達のおかげで、誰一人死なずに助かった。ありがとう」
そして、駐屯部隊の隊長は感謝の言葉を述べ、握手を交わすのだった。