タイトル:亀の恐怖1 鋼鉄の甲羅マスター:緑野まりも

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/01 01:38

●オープニング本文


「なんだこいつは?」
 南米ジャングル。偵察任務についているUPCの兵士の一人が、それを見つけた。全長1mほどの大きさで、丸い甲羅を背負い、その甲羅から四本の足と伸びる首、尻尾を出して、ゆっくりと大変ゆっくりと歩いている。
「あ? 亀だろ」
「だよな」
 仲間の兵士が、何を当たり前のことをとばかりに答える。そう、それは亀だった。もちろん、亀など珍しくもなく、わざわざ気にするほどではないのだが。最初にそれを見つけた兵士は、何か違和感を感じ顔を顰める。
「でも俺、こんな亀見たことないぜ」
 その亀の甲羅は黒く光沢を持っているのだが、それがまるで磨き上げられた鋼鉄のように見える。
「はは、こんな亀にビビッてんじゃねえよ、うぉっ!」
 仲間の兵士は、相棒の様子をからかうように笑い、不用意に亀へと近づいてく。すると、亀は急にその兵士に噛み付こうとする。兵士は間一髪それを避け、怒った様に銃を亀に向けた。
「亀の癖して、人間様を攻撃しやがって! これでも食らいな!」
 兵士はそのまま、弾丸を亀に撃ちつける。しかし、その攻撃をまるで何も感じないかのように、平然と兵士へと近づいていく。
「こ、こいつ! くそ、なんで銃が効かないんだ!」
「もしかして、こいつもキメラじゃないのか!?」
 兵士はようやく亀がバグアの兵器であることに気づいた。ゆっくりと、しかし確実に、攻撃をものともせずに近づいてくる亀に、一種の恐怖を感じる兵士達。幸いして、亀の動きは遅い。本気で逃げれば、逃げられないことはないはずだ。
「おい、とにかく隊に戻って報告を‥‥」
 ガサリ、兵士が撤退を決めたその時、周囲の草むらから音がする。
「な、なんだ、こっちにも亀が‥‥」
「こっちにも!? だめだ! 囲まれてる!!」
「く、来るな! 来るなぁぁ〜〜〜!!」
 兵士の絶叫と、銃の乱射される音。やがてその音は途切れ、ジャングルに響くのは動物の鳴き声だけとなった‥‥。

「最近、南米ジャングルで、新しいタイプのキメラが発見された。強固な甲羅を持ち、強靭な顎で敵を噛み砕く、亀型のキメラだ。君達には、その亀型キメラの駆除を手伝って欲しい」
 UPCの士官が依頼の内容を説明する。依頼内容は簡単に言えばキメラ退治なのだが、軍が傭兵の手まで借りなければならないことから、かなり面倒なことのようであった。
「そのキメラはとにかく硬いのだ。通常兵器では、フォースフィールドの効果もあり、傷一つつけることはできない。加えて非情に硬い甲羅を外皮を持っており、エミタ能力者の扱うSES兵器であっても、生半可な攻撃ではダメージを与えることができない」
 苦々しげに語るUPC士官。どうやら、何度もそのキメラに痛い目にあっているようだ。
「我々は、そのキメラにアイアンタートルという名をつけた。まぁ、安直なだがわかりやすいだろう。動きは遅いため、囲まれることがないかぎり、対して脅威ではないのだが、やつらは攻撃をものともせずに近づいてくる。そして、簡単には移動のできない駐屯地や人家を破壊するのだ。厄介な事この上ない」
 小さくため息をついて、額を押さえ首を横に振る。そして、真剣な表情で一同を眺めた。
「君達には、このアイアンタートルがまた人家を襲うまえに退治してもらう。もちろん、我々も駆除を行なうが、なにぶん手が足りないのだ。ノルマは最低でも4匹は駆除してくれ。期待しているぞ」

・依頼内容
 亀型キメラ・アイアンタートルの駆除
・概要
 南米ジャングルで発見されたキメラ、アイアンタートルの駆除を行なう。アイアンタートルは大変硬いため、注意が必要。
 アイアンタートルは、ゆっくりと人家へと近づいているため、人家を破壊される前に迎撃を行なう。
 UPCから最低限の支援を受けられるので、必要物資は事前に申告すること。ただし、武装の貸与は認められていない。また、あまり高価な物資は支給できない。あくまでキメラ退治に最低限必要な物資だけである。
 ノルマは最低4匹。付近には他のキメラも生息しているため注意が必要。なお、対象以外を駆除しても、追加の報酬は認めていない。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
陸 和磨(ga0510
23歳・♂・GP
篠崎 美影(ga2512
23歳・♀・ER
ヴァルター・ネヴァン(ga2634
20歳・♂・FT
クリストフ・ミュンツァ(ga2636
13歳・♂・SN
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
四条 総一郎(ga6946
21歳・♂・BM

●リプレイ本文

「けひゃひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜」
 現地へ着いた一行は、早速UPCと合流し、情報と支援を受けることとなった。そこで、部隊長に挨拶(?)するドクター・ウェスト(ga0241)。
「コレは無視してください。それで、足止めのために落とし穴を掘りたいのですが」
「コレ!?」
 ウェストに戸惑う部隊長に、瓜生 巴(ga5119)が割ってはいるように支援の要求を行なう。コレ扱いされたウェストは、ポカーンと口をあけて絶句しているようだ。
「悪いが、我々も厳しい。全てを用意することはできないだろう」
「そうですか、傭兵に手を借りなければならないくらいですしね。SES搭載ショベルはありませんか?」
「いや‥‥さすがにわざわざショベルにSESを搭載したりは‥‥」
「あれば色々と便利ですよ? まぁ、SESを利用できなければ意味がありませんが」
「‥‥‥」
 巴は巴で、言葉の端々にどことなく棘があるのだが、実際に彼女らに頼らなければならないのは事実なので、何も言えない部隊長。
「キメラの来るルートはわかりますか? せめて方角でもわかれば、対処しやすくなるのですが」
「あ、ああ‥‥、大体のところはわかっている。だが、範囲はそれほど狭くないし、ジャングルの中で見通しも悪い。確実に通るルートまではさすがに‥‥」
「わかりました、自分達でなんとかします」
 鳴神 伊織(ga0421)の質問になんとか答えるが、また巴に厳しく言われてしまう。本人に自覚があるかはわからないが、どうしても嫌味のように聞こえてしまうのだ。
「最終的に人里に向かってきているんだから。落とし穴はルートが集約される人里の周囲に作るのがベストだと思う。どうですドクター?」
「けひゃひゃ! その通り! 科学的見地から見ても、最終防衛線であるこの辺りに作るのがもっとも効率的だろう」
 陸 和磨(ga0510)の意見に、ウェストが何故か笑いながら答える。科学的見地は関係ないだろうと思うが誰も突っ込まない。
「基本的にジャングル内での各個撃破を狙い。包囲を抜けたものは人里付近で落とし穴とバリケードで時間を稼ぎつつ、撃破します」
 巴の言葉に、全員が頷き。亀型キメラの駆除作戦が開始された。

「穴の大きさはどれくらいにしますか?」
「穴の寸法は甲長2m前提で前後1.5m×深さ1.5mを予定しています。攻撃隊から実際の大きさを無線で聞いて調整を行い、頭を突っ込んで動きにくい寸法にします」
 落とし穴を掘りながら問うクリストフ・ミュンツァ(ga2636)に、巴がはっきりとした口調で答える。事前にデータから最適と予想される大きさを求めておいたようだ。
「足場のプレートがこれだけで、支柱の長さは‥‥。縄の位置はここになって、引っ張る力は‥‥ああ、上に被せる土の重さがこれくらいだから‥‥ぶつぶつ」
 次に、落とし穴に設置する罠の寸法を説明しだすが、なにやら別の計算を始めてしまう巴。
「とにかく、思いっきり引っ張ればいいですよね」
「‥‥そうね」
 その様子に、少し呆れたように言うクリストフに、巴はデータを軽視されたようでちょっとムッとしつつも頷いた。
「倒れるでおざる〜」
 ヴァルター・ネヴァン(ga2634)の声が響く。彼はバリケード作成のために、木を切り倒していた。SES搭載のバトルアックスの威力は凄まじく、次々と太い木が切り倒されていく。
「戦闘用の武器で、木を切るのはどうなんでしょうね」
「はかどっているならそれでいいと思います。私も武器で穴を掘っていますし」
「そうなんですけどね‥‥」
 クリストフが少し呆れたような言葉に、巴はこともなげに言う。そう、巴も両手に着けた爪で穴を掘っていたのだ。クリストフはなんとなく納得できないものを感じてため息をつきつつ、穴掘りを再開するのだった。

「我輩の予測によれば、敵は間違いなくこのルートを通っているはずだ」
 ジャングルへと分け入った一行。地図を持ったウェストの指示のもとに、標的であるキメラを探していた。
「足元に気をつけてください」
「はい、大丈夫です」
 ジャングルの中を歩くのは、能力者といえどなかなか大変である。和磨は先頭を歩きながら、伊織を気遣う。といっても、体力的に見れば伊織のほうが上なのだが、そこはやはり男としては女性を気遣うのが誠実さであろう。
「いてっ、こう鬱蒼としていると、キメラを見つけるのも大変ですね」
 しんがりの四条 総一郎(ga6946)が、木に頭をぶつけそうになって呟く。身長2メートルの彼は、木々が生い茂るジャングルでは頭の上も気をつけなければならない。
「くれぐれも警戒は怠らないようにしよう。何が出てくるかわからないしね」
 和磨の言葉に全員が頷く。だが草木に遮られ見通しも悪く、どこから敵が出てくるかもわからない状況は、なかなかストレスが溜まるものだ。
「ふぅ‥‥結構大変ですね。着物でこなくてよかったです。帰ったらシャワーを浴びたいですね」
 しばらく経ち、伊織が額の汗を拭いながら呟く。高温多湿の熱帯雨林は、慣れない者にとっては短時間の探索でもかなりの体力を消耗する。
「わ、我輩の計算によれば‥‥。そ、そろそろ遭遇するはず」
「ドクター‥‥、少し持ちますか?」
「い、いや‥‥いい‥‥」
 重そうな超機械や銃を背負ったウェストは、肩で息をしながら歩いている。起伏の激しい道を通ったり、倒れた樹木を乗り越えたりと歩くだけでも大変だ。見かねた和磨が声を掛けるが、ウェストは首を横に振って断った。
「あ、あれは!?」
 そんなこんなで、しばらく探索を続けた一行。ようやく総一郎が、某テレビ番組風に何かを発見したように、声をあげて指差す。その指差す先には、1メートルを超える大きな陸亀の姿。
「我々は、ついに伝説の巨大亀を発見‥‥という冗談は置いておいて。たぶん、あれが標的のキメラでしょうね」
「ええ、金属のように黒く光沢のある甲羅、1メートルを超える大きさ。間違いないでしょう」
 冗談を言うほど結構余裕がある総一郎。多分装備がジャングル向けであったからであろう。伊織も亀の姿を確認して大きく頷くと、スラリと刀を抜き放つ。
「あの甲羅ごと斬れれば一番早いのですけどね」
「ともかく接近しよう。時間的余裕はあまりないからね」
 伊織が呟き、和磨は先頭で亀へと近づいていく。亀の歩みは遅く、急げばすぐに追いつくことができる。
「ほぅ、実に興味深いね! この甲羅はスケーリーフットの鱗と似たようなものかね〜」
 ウェストは、亀の姿を興味深そうに見つめる。どうやら好奇心によって疲れを忘れているようだ。
「ドクター、観察をしている暇はないよ。こいつを含め、4匹退治しなければならないんだから」
「わかっているとも〜、研究は全て終わったあとにさせてもらうよ〜」
 和磨の言葉に、ウェストはちょっと残念そうにしながらも、エネルギーガンを構えて亀に狙いをつける。
「まず、俺が仕掛けてみます」
 そう言って和磨は、小太刀を構える。小太刀の冷たい氷のような美しい刀身は、その切れ味を表しており、さぞかしよく切れるだろうことは一目瞭然だ。覚醒し髪が伸び、全身に焔の模様が浮かびあがった和磨は、小太刀を亀の首の付け根に寸分狂いなく斬りつける‥‥が。
「っ!?」
 ギィン! と響く音をたて小太刀は弾かれた。とても硬い物を斬ったときのような、腕に響く衝撃に顔を顰める和磨。
「傷一つつかない!?」
 亀が強靭な顎で噛み付こうとするのを、後ろに飛んで避けながら、和磨は驚愕の表情を見せた。
「今度は俺が行きます! 俺の武器には火の属性があります。もしかすると、効果があるかもしれません!」
 次に、総一郎が両手の爪を構え覚醒し、爪から炎のようなものが浮かび上がる。そして、一気に間合いを詰めると、鋭い爪で切り裂く。
「くっ」
 しかし、炎の爪さえ亀には効き目がない。むしろどこ吹く風といった様子で、何度切りつけようとも亀は怯むことはない。
「なるほど、火は効き目がないね〜。とすると、金属なら電気のようなものが効果がありそうだけど‥‥」
「たしかクリストフさんの武器が」
「ここにはいないからねぇ」
 その様子を観察していたウェストが、有利な属性に結論をつけるが。あいにくと、今のメンバーでは雷で攻撃できる武器を持っていない。和磨の言葉に、苦笑を浮かべるウェスト。
「ともかく、純粋に力であの皮膚を切り裂くしかないというわけですね」
 そう言った伊織が、全身から青白い光を放ち、蒼く光る瞳で亀を見据えた。その瞳には、戸惑いも躊躇も無く、ただ切り裂くのみという強い意思が感じられる。伊織は、刀を上段に構えると、ゆっくりと摺り足で間合いを詰める‥‥。
「はぁぁ!」
 気合一閃、刀が美しい弧を描き、亀の頭部を切り裂く。そして亀の頭部から血飛沫が飛び散った。
「やったか!?」
「いえ‥‥流石に硬いですね‥‥ならば、急所を狙うまで」
 その様子に声をあげる一同。しかし、斬った本人は、その手ごたえに不十分さを感じていた。そして、今度は確実に急所を狙おうと、狙いを定める。
「なに!? 後ろから!」
 しかし、そこへ草を分け入って、新しい亀が現れる。噛み付いてくる亀に、慌てて間合いを取る伊織。
「一匹でもやっかいなのに、二匹同時か‥‥」
「探す手間が省けたと、前向きに考えましょう」
 顔を顰める和磨に、総一郎が苦笑を浮かべる。だが総一郎にも、攻撃がほとんど効かない相手を二匹同時に相手をするのは、まずいこととわかっていたのだった。

「亀型キメラが二匹こちらに向かっています」
「攻撃班からの連絡は?」
「いまだ、別の二匹と交戦中。苦戦している模様でおざる」
 双眼鏡で見張りをしていたクリストフは、二匹の亀が人里へと向かってきていることを発見する。巴はヴァルターに和磨達の状況を聞くが、どうやらすぐにはこちらに向かえない状況のようであった。
「とりあえず、バリケードで足止めして、落とし穴に引き込みます」
「了解です。ライフルでの牽制攻撃を行ないますね」
 巴の指示に、クリストフが頷き。ヴァルターの設置した木のバリケードを盾にライフルを構える。
「これで、少しでも足止めに!」
 ライフルから吐き出された銃弾は帯電し、向かってくる亀に命中する。しかし、亀は一瞬怯みはするが、銃弾を弾いてはそのまま向かってきていた。どうやら、雷は効果はあるようだが、純粋な攻撃力が足りないようだ。
「バリケードが!」
 そして、亀は横倒しになった木の前までくると、その強靭な顎で、木を噛み砕きはじめる。メキ! メキ! と音を立てて、やがて木は噛み砕かれ二つに折れる。
「ここまでは想定内。さぁ、そのまままっすぐ来なさい」
 巴が小さい声で呟く。亀が進む先には、すでに罠が用意されている。亀は、警戒するそぶりも見せずにまっすぐと進んでくる。
「よし、いまです!」
「足場を落とすでおざる」
 巴の合図に、ヴァルターが思い切り縄を引っ張る。すると、亀の足場になっていたプレートを支えていた棒が横に引かれ、落とし穴の土手に沿ってプレートが倒れ、その上に乗っていた亀は転がるように落とし穴の中へ。
「成功しました。あとは、亀が穴から出ないようにしないと」
 巴の思惑通り、二匹の亀は落とし穴へとはまり、抜け出そうともがく。そこへ、ヴァルターがバトルアックスで力強く斬りつける。
「こら硬い、はよう助けがこあらへんと抜けられるでおざるよ」
 ヴァルターの力ならば、多少なりは亀を傷つけられるようであったが、いかんせん硬いのはどうしようもなく、手の痺れに顔を顰めるのだった。

 再び場面は和磨達。亀二匹と対峙し、苦戦する一同。そこへ‥‥。
「こんなこともあろうかと〜!」
 突然ウェストが声をあげる。
「我輩には、敵を弱体化させ、諸君らの武器を強化することができるのだ!」
「そういうことはもっと早くお願いします!」
「いや、科学者たる者、とっておきを出すタイミングは重要かと思ってだな。まあいい、それではスイッチオーン!」
 ウェストはエネルギーガンのスイッチを変更すると、特殊なエネルギーを仲間の武器に照射する。すると、強化された武器が、淡い光を放つようになる。
「そして、亀にも照射!」
 次に、また別のスイッチに変更すると、今度は亀に向かってエネルギーを照射する。
「見た目は変わらんが、これで亀が柔らかくなったはずだよ〜」
「では、たぁ! ‥‥本当だ、傷つけることができる!」
 ウェストの言葉に、和磨が再び小太刀で斬りつける。すると、さきほどは傷一つ付かなかった亀に、今度はダメージを与えることに成功する。
「効果時間は短いから、一気に叩き込むよ〜」
「わかりました!」
 ウェストの指示に、一同は一斉に亀への攻撃を行なう。強化された武器が、確実に亀を切り裂いていく。
「これでどうだ!」
 最後に総一郎の急所突きが決まり、二匹の亀はついに動かなくなる。
「よし! やりました!」
「喜ぶのは後です。巴さん達のほうに別の亀が向かっているようです。急ぎましょう」
 喜ぶ総一郎に、和磨が声を掛け。一同は急いで元来た道を走り出すのだった。

「これ以上持ちませんよ!」
 クリストフはライフルを乱射しながら後退する。亀達はついに落とし穴を抜け出し、再び人里へ向かって進みだした。巴達は決定的なダメージを与えられないまま、じりじりと後退するしかなかった。
「この程度の威力向上では、焼け石に水ですか‥‥」
 両手の爪により多くの力を注ぎこみ攻撃する巴。手に亀裂のような強い光を宿しながらも、亀の防御を崩すことはできず、焦りの表情を見せる。
「こら奥の手を使いまへんとあかんでおざりましょうか」
 ヴァルターがアックスを強く握り締めながら呟く。しかし、それを使ってしまうと、下手をすれば錬力が切れて覚醒を維持することができなくなるかもしれない。それでも、一縷の望みを掛けてヴァルターは力を使おうとしたとき。
「ひゃはは! 我輩が来たからにはもう大丈夫!」
「‥‥遅いですよ」
 けたたましい笑いと共に、ウェスト達が現れる。巴は嫌味を言いつつも、少しホッとしたように肩を撫で下ろした。
「食らえ、弱体化〜!」
「はぁっ! 急所突き!」
 ウェストの練成弱体と、伊織の急所突きに、あれほど硬かった亀が貫かれる。
「クリストフ君これを使いたまえ。使わなければ意味はない〜。1発だけだが思う存分使いたまえ〜」
「これは‥‥ありがとうドクター!」
 そして、ウェストがクリストフに貫通弾を手渡す。クリストフはウェストに礼を言うと、その一発に全力を込めて放つ。そしてそれが、もう一匹の亀の頭部を撃ち抜いた。
「これで‥‥ノルマ達成ですね!」
「つ、疲れた‥‥」
 こうして4匹の亀を退治し、ノルマを達成する一行。しかし、多くの錬力を使った一同は、ひどく疲れて肩を落とすのであった。