●リプレイ本文
「私は女子高生格闘家タイガーマホ。能力者たちの総合格闘技グライド主宰。バグア被災者を勇気付ける為に巡業しています。安心してね、キメラは私がブチのめして差し上げます。すでに名古屋の戦いで戦功をあげましたの」
「‥‥なんだい、お嬢ちゃんは?」
謎の男が現れたと言う街で、自警団の本部へと向かった熊谷真帆(
ga3826)の第一声に、自警団員達は呆れたような表情で彼女を見た。
「俺達はUPCの依頼で、最近この近くに現れた、謎の男についての調査をしている。あんたらの話を聞かせてくれ」
「わかったわかった、ここはガキの来るところじゃねえ。遊ぶんなら、もっと別のところにしときな」
続いて木嗚塚 果守(
ga6017)が、自分達の用件を説明するのだが、なにぶん果守も若いため信じてもらえず、二人は軽くあしらわれて外に追い出されそうになる。
「あ〜、悪い、そいつらの言うことは本当だ」
「何だあんた、こいつらの知り合いか?」
「まぁ、引率の先生みたいなもんだ。俺様達はエミタ能力者、その二人もてめぇらなんて相手にならないぐらい強いぜ」
「エミタ!?」
そんな二人を見かねたように、角田 彩弥子(
ga1774)が説明をする。彩弥子の説明に、驚きの視線を真帆と果守に向ける自警団員達。真帆は、ようやく信じてもらえたと、気をよくして自分の武勇伝を語り出し。果守は自分の話を信じてもらえなかったことに、憮然とした表情で自警団員達を見返していた。
「それで、俺様達は最近現れた、一人でキメラを退治しているという男を捜している。この近くにも現れたらしいが、詳しい話を聞かせてくれ」
「ああ‥‥あの時のことか‥‥」
彩弥子の話に、自警団員の一人が謎の男について話し出す。団員の話では、街がキメラに襲われそうになった時に突如現れ、たった一人でキメラを皆殺しにして、何も言わずに去っていったとのことだった。服装や背格好も、事前にUPCから渡された情報と一致していた。
「あれは、本当に人間なんだろうか?」
「なんだって?」
彩弥子は団員の言葉に顔を顰めた。団員は何かを思い出したように、表情を恐怖で歪める。
「確かに、人の形はしていたが、本当に人間があんなことをできるのか? たった一人でだぞ、十を超えるバケモンをあっという間に退治した‥‥いや、虐殺したんだ‥‥」
「さっきから聞いてると、あんたら、その男を良く思ってないみたいだな。何でだ? 助けてもらったんだろ? そいつがいたから、この街は無事だったのに、なんでそんなに嫌ってんだ?」
「‥‥‥」
話を黙って聞いていた果守が、疑問を口にした。団員達は、街を助けたはずの謎の男に感謝するどころか、恐れ嫌っている。果守にはそれが納得いかなかった。
「俺達は普通の人間だ。あんなふうに、キメラを簡単に殺したりなんかできない。そんなことができるやつが、もし俺達に襲い掛かってきたらどうする? だから、何者で何を考えてるのかわからないやつを、警戒するのはあたりまえ、それだけのことだ。それに、バグアってのは人間の頭を乗っ取って人間に成りすますんだろう? やつがそういった存在で、俺達を信用させるためにキメラを殺したのかもしれないしな」
「‥‥‥」
団員の話に、顔を顰める果守。そして、続く言葉に全員が表情を曇らせる。
「お前ら、エミタ能力者も同じだ。もしお前らが暴れだしたら、俺達には止めようがない。だから、なるべく関わり合いになりたくないんだ。用件が済んだらさっさと帰ってくれ」
「そんな、あたし達は‥‥」
「熊谷、木嗚塚、行くよ。ああ、そうそう、最後にてめぇらが、その男を見たって場所を教えてくれ」
拒絶の言葉に何かを言おうとする真帆だが、彩弥子はそれを止めて、発見場所を聞くと自警団本部をあとにした。
「全員が全員、ああいった考えのやつらばかりじゃない、気にすんな」
「ああ、わかってるよ」
「やっぱり、時代劇のヒーローのようにはいかないのですね」
「へぇ、ボクシングの巡業で各地をねぇ」
「おぅ、こんなご時世だろ、少しでもみんなを楽しませたいと思ってよ」
そう言って黒川丈一朗(
ga0776)は、軽くシャドーボクシングをしてみせる。その動きは、たしかにボクシング経験者の雰囲気があり、説得力があった。丈一朗は、本来の目的を隠し、ボクシングの慰安巡業という名目で周辺地域の街で情報を集めていた。
「で、そっちの娘も出るのかい?」
「私? ああ、もちろん‥‥」
町人の男が視線を向けた先にはハルカ(
ga0640)が立っている。ハルカは大きく頷こうとするが。
「いや! こいつは、え〜と、そうマネージャー! というか、セコンドというか‥‥、ともかく試合には出ないんだ」
「そうか、残念だなぁ」
「え〜‥‥」
ハルカが答えるまえに、丈一郎が否定した。その答えに残念そうにする男。ハルカは少し不服そうだがしかたない。実際、ハルカがボクシングをしようものなら、その大きな胸に男共は釘付けだろう、などとはさすがに口には出来ない。
「それで、ってわけじゃないんだが、この辺りで噂になっている腕の立つ奴が居ると聞いた。剣を持った奴を知らないか」
「キメラを倒しちゃうような強い人がいるって聞いたんですが‥‥」
「キメラ? ああ、あれかな‥‥。でも、あれはもう強いとかっていうレベルじゃ‥‥」
「おじさん、聞かせて、ね?」
「お、おぅ‥‥」
そうハルカに迫られると、男はまんざらでも無いように知っていることを話し出す。その視線は、もちろんハルカの胸に釘付けだ。その話によれば、付近を警戒していた奴が、キメラに襲われている人影を見つけたのだが、人影は逆にキメラを一方的に倒していたらしい。
「最初は与太話かと思ったんだけどな、実際その辺りに多くのキメラの死体があってな」
「その人、どんな戦い方してました!? えと、キメラに恨みがあるようなとか、誰かを守るためとかそういう感じでした?」
「いや、襲われてたのはそいつ一人だったそうだよ。守ってたというよりも、むしろ自分からキメラに挑んでいった感じじゃないかなぁ」
「そうですか、ありがとうございます」
最後にバイク乗りの溜まり場などを聞いて、丈一郎達は男と別れる。
「自分から挑んで‥‥かぁ。どう思います、ダンディ‥‥じゃなかった、丈一郎さん」
「腕試しか‥‥それともキメラに恨みがあるのか‥‥。ともかく、怪しいバイク乗りがいないか溜まり場のほうへ行ってみるか」
「はい」
「俺の村を助けてくれた恩人で、お礼をしたくて探している。見かけたことはないか」
と言って、近隣の街を回って聞いているのはホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)。
「ああ、聞いたことあるよ。なんでも3メートルを超える大男で、これまたでかい剣でキメラを一刀両断に‥‥」
「そうか、ありがとう」
噂に付いた尾ひれというものだろうが、荒唐無稽な話に笑顔で礼を述べて立ち去るホアキン。聞けた話は、ほとんどの場合が、そういった信憑性の無い噂ばかりだった。
「ホアキンさんどうです、なにかありましたか?」
「いや、なにも」
「謎の男に会ったことがあるという人物にこれから会いに行きますが、一緒にどうです?」
「わかった、行こう」
同じく、話を聞きまわっている夏 炎西(
ga4178)が、謎の男に会ったという人物の話を聞き、二人はその人物に会いに行くことにした。
「へぇ、村を? けど、俺が見たやつはそんな良いやつじゃなかったぜ」
「どうぞ」
「お、気が利くね。ふぅ〜‥‥」
会いにいった男に、炎西は煙草のケースを取り出して勧める。男は、それから煙草を一本取り出すと、気を良くしたようにそれを吸い、話し始めた。
「だってそいつ、人殺しだぜ? 俺は見たんだ、フルフェイスのマスクをつけたライダースーツの男が、持っている剣を人間に突き立てているのを」
「それは本当か?」
「間違いない、周囲にはキメラの死骸があって、やつはそこで血まみれになりながら人に剣を突き立てていた‥‥」
男は、その光景を思い出したように顔を顰めると、気を落ち着かせるように煙草を吸う。
「何かの見間違いとか、キメラに襲われてすでに死んでいたとかはありませんか?」
「いや、剣を突き立ててたんだぜ? しかも頭に‥‥。切り倒すところは見てないが、どうみても殺したのは奴だ」
「それで、そいつはその後どうしたんだ?」
「俺に気づいたのか、一瞬こっちを見て‥‥いやあん時は肝が冷えたな‥‥そして、あっという間に逃げ出したよ」
「そうか、ありがとう」
「あんたらも気をつけな。いくらキメラを退治してるからって、人間まで殺すやつがいい奴なはずがない」
そう残して、男は去っていった。二人は、今の話に思案するように首を傾げた。
「今の話、どう思いますか?」
「信憑性が高いとは思えない。だが、嘘をついているようでもなかった‥‥」
「探している男が、悪い奴だとは思いたくありませんが、一応注意しておいたほうが良さそうですね」
「最近ここいらも物騒になったねぇ」
雑賀孫一(
ga0044)は、街の酒場で情報を集めていた。地元周辺の日系人を装い、気さくな感じで話を聞く。
「ああ、そうだね。この間のキメラ騒動の時はさすがに終わったと思ったよ。そろそろ、ここも閉めて、北の方の街へ移った方がいいのかね」
「寂しいこと言うなよ。それで、そのキメラ騒動の話なんだけど」
「ああ、なんでも一人の男がキメラを全滅させたんだろ? 自警団のやつらが話してたけど、実際そんなことがあるのかね」
「その男について、なんか知ってることあるか? こう、違和感があったとか、態度とかで気になることがあったとか」
「いや、知らないね。実際に見たわけじゃないし」
「そうか、じゃあ邪魔したな」
ある程度話を聞くと、孫一は酒場から出た。聞いた話は、ほとんどが噂の域を出ないものばかり、詳しいことは結局わからなかった。
「‥‥これがアイツだったら」
だが孫一は、個人的に探している男のことを思い浮かべて小さく呟く。もし、今回の目的の男が、自分の知っているやつだったら。そう思うと、なんとしてでも見つけ出したいと感じるのだった。
「ふむ‥‥この範囲と足取りでいくと、この辺りかなぁ」
その後、全員が集まり情報をまとめ、孫一が大体の出現位置を地図に書き込む。そして、その範囲内で怪しい位置にペンで円を書き込んだ。
「ここは、廃墟ですか?」
「ああ、数ヶ月前に人はみんな逃げ出して、いまは誰もいない街らしい」
「たしかに、付近の街で食糧を得ている形跡がないが、捨てられた街ならば保存食ぐらい残っているかもしれないな」
真帆の問いに、孫一が答え、ホアキンが納得するように頷く。円が書かれた場所には街があり、そこはバグアの襲撃で住民が全て避難した街だった。
「でも信じられない、あの人が人を殺してたなんて。そんな悪い人に見えなかったけどな」
「ヒーローの正体は、謎に包まれているものさ。実はヒーローではないということも含めてね」
以前に、別の依頼で姿を見かけたことがあるハルカが首を傾げるのを、ホアキンが意味深に笑みを浮かべて答える。
「ともかく、そこへ向かうとするか。キメラがいるらしいし、全員注意しろよ」
丈一郎の言葉に全員が頷き、一行は廃墟となった街へと向かうことになった。
「寂しいところですね」
やがて廃墟へと辿りついた一行。廃墟といっても、壊れたところは少なく、どちらかというとゴーストタウンといった感じの場所だった。真帆がぽつりと呟き、他の者も同じような感想を抱く。
「いつどこからキメラに襲われるともわからねえ、注意しろよ」
そう言って、丈一郎が両手にメタルナックルを嵌めて、周囲を警戒する。廃墟の中では、いつどこからキメラに襲われるかわからないのだ。
「ちっ、言ったそばからこれかよ」
その後すぐ、一行はキメラに囲まれてしまう。大型の肉食獣の姿をしたキメラが、威嚇しつつ周囲を取り囲む。丈一郎の拳が青く輝き、いつでも戦闘できるようボクシングの構えを取った。そして、他の者達も能力を覚醒し、武器を構えたその時。
「!?」
突然現れた黒い疾風が、キメラを両断する。そしてそこには、黒いフルフェイスのマスクを被った男が立っていた。その手には両刃の剣が握られている。
「‥‥‥」
孫一は、その姿を見ると、その男に向かって黙って腕を伸ばし、相手に拳を突き出すように前に出した。孫一にとって、それはなにか大事な儀式のように感じられたが、しかし男はそれになにも反応せず、視線を残りのキメラへと向ける。孫一は少し残念な表情を浮かべるが、その後は自分もキメラに注意しつつ男を観察することにしたようだ。
「とりあえず、こいつらを何とかしないとな!」
「やれやれ、これ追加報酬にはならないんだよねぇ」
果守が青白く光る右手に握った銃を構え、孫一も肩を竦めながら両手に銃を持ち苦笑を浮かべ、キメラに立ち向かった。
戦いが始まり、一行と謎の男は、キメラに立ち向かう。男は能力者から見ても明らかに異常な戦闘能力を見せ、キメラを駆逐していった。
「個人的な‥‥復讐かな?」
その様子に、ホアキンがポツリと呟く。その言葉に男はなにも反応を示さなかった。しかし、ホアキンの目には一瞬戸惑いで動きが鈍ったように感じられた。やがて、キメラは全て退治され、一行と男だけが残る。
「俺達はULTから派遣されて来た傭兵だ。あんたは? ここで何をしてる? 何が目的か、話してもらえるか?」
「‥‥‥」
まず先に果守が話しかける、しかし男はやはり何も答えない。
「あ、あの! 以前のお礼を!」
「アンタにそのつもりがあったかどうかは知らないが‥‥あの時は院長先生を助けてくれて、ありがとう」
ハルカが礼を言おうと近づこうとするのを、彩弥子が制して言葉を伝える。その言葉にも、男はこれといった反応を示さず、背を向けて立ち去ろうとする。
「待て!」
そこへ、丈一郎が瞬天速で一瞬のうちに回りこみ、ナックルを捨てた拳を男に向けて繰り出した。
「お前は何の為に戦っている!」
しかし、丈一郎の拳はあっさり避けられ空を切る。
「正義は人の数だけあるけど己の正義はただ一つ。あなたの正義はなに?」
「‥‥俺に正義など無い。あるのは復讐だけだ。俺に関わるな、次に邪魔をしたら、お前らも倒す」
真帆の言葉、それに反応を示したというよりも、一行の相手をするのが終わりだと言わんばかりに答える男。
「待て! 補給は大事だぞ!」
最後に、炎西が食糧を差し出すが、男はそれを受け取らず、脅威の跳躍で廃墟の奥へと消えて行ってしまった。
結局その後、彼を見つけることは出来ず。一行はここまでのことをUPCに報告するのだった。