●リプレイ本文
●想いを届けるために
『二兎おうものは一兎もえずといいます‥‥でも、それは間違いなのです』
「いきなりどうした? いや、いいたいことは分かるけど‥‥」
夏目 リョウ(
gb2267)は前振りも無くいわれた赤霧・連(
ga0668)の言葉に一瞬戸惑うもすぐに理解する。
ドミニカ共和国のUPC北中央軍基地、上空からみるだけでもモクモクと煙があがり、逃げ惑う人の叫び声が聞こえてきそうだった。
その状況下でもリョウにはやらなければならないことがある。
『命を掛けて説得する為になら私も命を掛けます。そうでないのなら、あの敵を撃って終りにしましょう』
リョウが操る翔幻の横に付き、音影 一葉(
ga9077)は突き放すように言い放った。
『居場所がないと俺も思っていた。戦って散れば仲間の所にも行けると思った。だから、傭兵になった‥‥今度はその子にそれを教えてやるんだ』
暁・N・リトヴァク(
ga6931)が過去の報告書を読み事情を知ったうえでリョウを励ます。
それぞれの言い方で背中を押されたリョウはその想いに答えようと握る操縦桿に力がこもった。
「ありがとう。俺はすべてをかけて彼女を守る!」
幻影装置を起動させ、それにまぎれてリョウの翔幻は戦火の広がる基地へと着陸する。
『脱出だけでなくリョウさんの説得を気取られないようにがんばりましょう』
『『了解』』
翔幻の着陸を合図に能力者達は動き出した。
●一本釣り
『クックク‥‥。さぁ、逃げろ逃げろ!』
アスレード(gz0165)が孤島の基地をファームライドにて地獄へと変えている。
人類がバグアに対して作られた鋼の騎士はいまやゾディアックの手足となって動く傀儡と化していた。
「ままれーど! また会ったやん。前のオモチャは取り上げられたんか?」
篠原 悠(
ga1826)はオープンチャンネルで基地の周囲を飛行しながら収束フェザー砲を放つアスレードを煽る。
『何だと?』
基地への攻撃をやめたアスレードが黒い煙のあがる中、悠達の方を向いた。
『ステアーでも任務を果たせなかったお前に、私達が倒せるのか?』
レティ・クリムゾン(
ga8679)機が悠機の隣に飛びつつ同じように挑発を行う。
任務はFRを少しでもひきつけることであり、基地から離す事が目的だった。
『そっくり返してやるよ、この俺をてめぇらが倒せるのか? ほらほら、逃げ遅れた奴が瓦礫の下敷きになっているぜ?』
だが、アスレードはそれを見透かすかのように基地への攻撃をやめない。
『時間稼ぎくらいはするっ! いけぇ、雷電!』
待つわけにも行かないとヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)機はFRに向けて大型ミサイルポッドを放った。
『おせぇ、おせぇ! もっとよく狙わないと、てめぇらがこの基地を壊すぜ?』
アスレードがミサイルポッドを避けると迷走したミサイルが基地の倉庫にぶつかる。
爆音と共に火が上がり、それにまぎれるようにアスレードのFRは光学迷彩で姿を眩ました。
『馬鹿の1つ覚えで余裕ぶるなよ、アスレードッ!』
透明になった空間を来栖 祐輝(
ga8839)機のKV武装用ペイント弾を入れたガドリング砲が貫く。
基地にぶつかるものがある中、空中で弾がはじけピンク色に染めた部分ができた。
「古い玩具の扱いがなっとらんよ、ママレード!」
来栖機とヴァレス機が作った初手の隙を生かすように急降下してFRの下に回り、上昇しながらスラスターライフルを撃ちこむ。
ガガガガと高速で射出された弾丸がFRの装甲を叩き、傷をつける。
『舐めやがって、マンタワーム、基地の攻撃を任せる。俺はこいつらをツブス』
アスレードが臨戦態勢を見せると曇り空の彼方から10機のエイが襲来してきた。
●狂い咲き人形
『彼女に似た人を、私は救えました。彼女も何とか救えると良いのですが‥‥それは説得の方にお任せします』
『私では彼女を何とかできるとは思えません。それでも、私には、私のできることを』
宗太郎=シルエイト(
ga4261)の脳裏に潜水艦のドッグで別れた如月・由梨(
ga1805)の言葉が蘇る。
「歪んだままってのは悲しすぎるぜ‥‥夏目と合流しないと」
リョウは空から降り、宗太郎は地下から上がるため合流のラグが生じていた。
避難してくるUPC軍兵士達とは違うルートで宗太郎は進む。
目指すはラシェルが幽閉されていたという塔だ。
塔が見えるところまで来るとズダダダダッと銃声がなり、その後にブシャァと血が溢れるような音が続く。
「夏目は‥‥まだかっ!」
宗太郎は舌をうって断末魔の聞こえる方へと駆けた。
そこは白い廊下だったのだろうが、今は赤く染まっている。
「なんだ‥‥リョウ君じゃないんだ‥‥。あ、でも殺せば生き延びれるんだよね」
返り血を浴びている少女―海禅寺・ラシェル―が薄く笑った。
以前あったときよりも、人としての線を越えているように宗太郎は感じる。
「やめろ! 本当に夏目を想うなら、夏目の笑顔のために力を使え!」
宗太郎はエクスプロードを構えてラシェルに向き合った。
(「夏目、早く来いよ‥‥」)
宗太郎はラシェルの死んだような目に手加減しきれるか不安を感じずにはいられない‥‥。
●犠牲の上にある生
「この中に士官級以上の軍人は居ないか!?」
マンタ・ワームの空爆で揺れる基地の中で狭間は大きく叫んだ。
狭間をはじめとした能力者が目指すのはKVの格納庫。
バグアはKVを鹵獲しては使用してきていた。
退避する基地にそのような『戦力』を残しておく訳にはいかない。
「すみません! ここです」
連続してきた襲撃に翻弄されている現地の士官が狭間の前にでてきた。
襟首の階級章を見る限り少尉であることがわかる。
「避難状況等を教えてくれ」
「以前の戦闘による負傷者の避難がかろうじて。ですが、サンプルBBの確保に人員が割かれている状況です」
『鹿嶋です。第一管制塔は潰されていましたので、予備施設からただいま連絡をしています。機密書類の回収は月森さんが達成してくれました』
基地内に響く音声に狭間の表情は少し柔らいだ。
「ここが格納庫のようですね」
レグが格納庫を覗くと、暗い室内に直立不動をする巨人が並んでいる。
いくつかの装甲ははがされており修理中なのがわかった。
『もしもーし、できれば基地のKVと武器は残しておいてくれると助かるかな? いざって時は使いたいし』
格納庫にある武器や燃料タンクなどを固めているとヴァレスからノイズ交じりの無線が入る。
「それはできません。もし、そうなるということはヴァレスさんの雷電が敵の手に落ちるということにもなります。破棄する前に撤退してください」
多くの戦闘をこなしてきた狭間の回答にヴァレスは納得し、戦闘を続行することに決めた。
「機体を固めるのは終わりました」
KVを動かして作業を終えたレグが降りてきながら狭間と一緒に来ている少尉に報告をする。
そのとき、基地が大きく揺れ、天井などが崩れてきた。
「危ない!」
随伴していた少尉が二人を突き飛ばし、格納庫の中に埋まる。
「少尉さん!」
「ここは‥‥自分が爆破します‥‥二人は、逃げてくだ‥‥さい」
息も絶え絶えといえる少尉の声に狭間もレグも躊躇した。
だが、彼の行為をむげにするわけにはいかない。
「行きましょう‥‥5分したら爆破させてください」
狭間は瓦礫の向こうの少尉に敬礼をするとレグと共に駆け出した。
●エイを狩る獣
「さぁ、こちらですよ」
『ほむ、いくですよ』
上空から空爆するマンタワームに由梨と連の操るビーストソウルが海中よりニードルガンを一斉発射する。
当てることよりもひきつけることを考慮した弾丸がマンタワームの傍を通り動きを止めた。
その瞬間を狙った暁機のスナイパーライフルG−03がマンタワームを貫く。
『まずは一匹、続いて‥‥とはいかないか、んぐっ!?』
続いて攻めようとしていた暁機にファームライドが迫りつつ収束フェザー砲を放った。
不規則に動きつつ放たれる光刃にワイバーンの装甲が解かされ内部まで吹き飛ばす。
『ままれーど! 弱いものいじめをしないでウチラと戦えーっ!』
悠機が音影機、レティ機と共にG型放電装置を放った。
『どっちにしろ、弱いんだよ! 下等生物がぁっ!』
背後を撃ったはずだが、変形して地面スレスレをホバーするかのように動くファームライドにはたいしたダメージがない様に見える。
反撃のフェザー砲が飛び、3機の編隊が崩れた。
『そらぁっ!』
そのままアスレードが間合いを詰めてファームライドのクローを足の遅い音影機に向けて斬りつける。
『その隙、貰った! 特殊機動!』
空中へと逃げていたレティ機、悠機が一気に間合いを詰めながら息の合った攻撃を仕掛けた。
ファームライドを包むように銃弾の雨が降り注ぐ。
煙に覆われていき、一瞬静かになった。
悠機とレティ機が地面にぶつかる前に旋回しようとすると、煙の中から腕が伸び手のひらから弾丸が飛んだ。
不意をつかれた攻撃に二機が大きく揺れ、煙をだす。
「悠さん! レティさん! 潜水艦の脱出はまだなんですか」
引き寄せたマンタワームを排除していた由梨が聞こえるかも分からない声を上げた。
冷静な由梨に合わない苛立ちが言葉の端々に浮かぶ。
そのとき、基地の一角が大きく炎を上げた。
『KV爆破完了、資料回収、負傷者回収も共に済みました。潜航に入りますからいま少し耐えてください』
鹿嶋からの通信が届き、由梨は目を閉じ深呼吸をする。
「了解しました。派手に暴れて引きつけるようにします」
『こちらは順調ですけど‥‥夏目さんは‥‥いえ、信じるだけなのですね』
連絡の来ない夏目リョウのことを心配しつつも、自分に言い聞かせるような連の声が由梨の耳に聞こえてきた。
●戦争の被害者
「やめるんだ、ラシェル!」
「遅いぞ! 白馬の王子様!」
リョウがリンドヴルムで駆けつけたときには宗太郎は深く傷ついていた。
その状況下でもあり、花も宗太郎を小銃「S−01」にて援護をしている。
「リョウ君、来てくれたんだぁ‥‥。ちょっと待っててね、この人たち殺してから相手するから‥‥まずはそこの女から消しちゃうから」
宗太郎のものか、それとも床に散らばる兵士の血なのか判別のつかない赤黒く染まった手を振り上げて花や宗太郎の方へと近づいた。
「どうして、そんなになっったんだよ! 目を覚ましてくれ!」
バイク形態のリンドヴルムを人型に変形して纏い、間に割って入る。
「邪魔をしないで! なんで、邪魔をするの! そうか‥‥リョウ君はリョウ君じゃなくなったんだね。そうだよね、こんな人たちの元で働いているんだもの」
ラシェルは怒ったかと思えば床に転がる兵士の首を一瞥して納得しだした。
「こんな世界に居場所なんてないっ! リョウ君も私の知っているリョウ君じゃない!」
力強くラシェルがリョウに拳をぶつけると、リョウは後ろにいた宗太郎達を巻き込んで壁に向かって吹き飛ぶ。
「そんなこと‥‥ない。できるかどうか見‥‥せてやろうじゃないか、二人で歩いて‥‥さ」
ガラガラと崩れ落ちながらも、足をつけリョウはラシェルへと手を伸ばした。
「そうだぜ、わかってやれよ馬鹿野郎!」
軋む体に鞭をうち宗太郎がリョウのひきつけられているラシェルに向けて全力の攻撃に出た。
右肩を狙った突き、『我流奥義・穿光二式』が放たれるがラシェルは片手で受け止める。
しかし、宗太郎の勢いは止まらなかった。
「んなくそぉっ!」
「かっ‥‥はっ!」
受けとめられたエクスプロードがエフェクトの爆発を起こし、その瞬間離れた隙を逃さないよう宗太郎は左右に薙ぎ払った。
練力の大半を使い切る大技に宗太郎の気力も限界だったが、ラシェルはその攻撃をどちらも受けて倒れこむ。
「宗太郎! ラシェル!」
リョウが起き上がり、足を震わせながらラシェルの元へと駆け出す。
「大丈夫だ、ちゃんと‥‥気絶させている」
微笑みながら、リョウの背中へ言葉を投げかけ倒れ掛かる宗太郎を花が支えた。
リョウはラシェルを抱き上げ、髪を撫でる。
「もう、この手をはなさいから一緒にいこう、ラシェル‥‥」
「リョウ‥‥くっ‥‥けふぉ、ごはぁっ!」
微笑んでいたリョウの顔が見る見る青ざめていった。
ラシェルは激しく吐血し、目からも血の涙が溢れ出す。
「ラシェル! どうしたんだ! ラシェル!」
『人形が人形であることを忘れたのなら、不必要だ。残念だったなぁ、傭兵ぇ?』
ラシェルの指輪からアスレードの挑発するかのような声がリョウの耳に聞こえてきた。
「アスレード!」
リョウが叫んだとき、びくびくと体を痙攣させ血を吐き続けるラシェルはブチャッと嫌な音を立てて弾け飛ぶ。
「ラ‥‥ラシェ‥‥ル」
何が起こったか理解しきれないリョウは呆然とその場で立ちつくした。
●重苦しい撤退
「耐えろよ! 雷電!」
『くそっ、こそこそと動かれて厄介だ』
二機を一気に狙ってくるファームライドのアームガンに能力者たちは予想外に翻弄されていた。
ヴァレス機と来栖機が前面にでて陸上の戦闘を続けている。
戦闘が激化していくほどにアスレードはこちらに乗ってきたため、基地から引き剥がすことには成功していた。
『ほら、もっと踊れよ! なぁっ!』
『言われなくとも踊ってやるさ!』
来栖機が機槍「グングニル」を振り上げてファームライドを狙う。
『遅いっ!』
「それはそっち何だよ!」
避けきれる速度だが、それを避けさせないようにヴァレス機がヘビーガドリングで支援した。
クローでグングニルを受け止めたアスレードは蹴りをして返す。
『ぬぐ‥‥』
『人形が人形であることを忘れたのなら、不必要だ。残念だったなぁ、傭兵ぇ?』
「それって‥‥おーい、説得した人、大丈夫か!」
ヴァレスが不安を感じリョウ達に通信を試みるが返事は無かった。
アスレードのファームライドは浮き上がり、変形して撤退していく。
「二度と来るなー!」
飛び去るファームライドにヴァレスが多目的誘導弾を撃ちこむも、ブーストで急加速したファームライドには一発も当たらなかった。
『夏目‥‥リョウ‥‥だ。ラシェルは死んだよ。俺の手の中で爆破したんだ‥‥』
「‥‥そっか」
遅れてきた返事にヴァレスは一言を搾り出すように出した。
『マンタワームはすべて排除できました』
『リョウさんは1人にさせておいた方が‥‥いいですね』
水中から人型で上陸してきた如月と連がヴァレスにそっと声をかける。
気が付けば雨が降っており、その中一機の翔幻が基地だった場所より飛び立った。
10機のマンタワーム撃墜し
ファームライドを撤退させ
多くのUPC軍人の避難と機密文書、KVの破壊まで済ませることはできた。
だが、雨模様のように靄(もや)のかかる気分を傭兵達は味わっている‥‥。