タイトル:【El】Resetマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/12 03:56

●オープニング本文


 2008年10月。
 現在、南米のジャングルの西端の一角にはその大自然にそぐわないものがそびえたっている。
 『エルドラド』と呼ばれる軍事国家が建造していた軌道エレベーターの名残であり、現在UPC北・南中央軍合同部隊により占領下にあった。
 また、エルドラドの政権が崩壊した事を受けてか、エルドラド周辺のキメラはその姿を消している。
 エルドラド国民だったものの大半はフォークランドへ移住を始めたものの、エルドラドに思いいれの強い人々はそのままこの地に残ってる。
 彼女‥‥ユイリー・ソノヴァビッチもその一人だった。

●荒廃した大地の上で
 即席によって作られた墓地。
 一ヶ月前よりも広くなったそこにユイリーは立ち、冷たい風が髪をなぜるのそのままに眺めていた。
「結局、私は何もできずただ墓を増やすことしかできなかった‥‥私が動かなくても世界は動いている。ねぇ、私はどうしたらいいの?」
 新しい墓地をあるき、その一つの前にしゃがみこんでユイリーは花を添える。
 それはエルドラド国内でユイリーが見つけた名もない白い小さな花だ。
「綺麗な花ね?」
 不意にユイリーの背中から聞きなれない声が聞こえてくる。
 ユイリーが振り返えると、ゴシック服を着た銀髪の女性、レオノーラ・ハンビー(gz0067)が立っていた。
「あなたはエルドラド国民ではありませんね? UPC軍の方ですか?」
「どちらもNOよ」
「では‥‥傭兵」
 微笑みかけるレオノーラに対し、ユイリーの射抜くような視線が向けられた。
 味方か敵かわからない存在。
 一つだけはっきりしているのは、傭兵が多くの同胞に武器を向けたという事実だ。
「そんなにおこらないで。ここをまた戦場にしたいとか、見つからないファーム・ライドを探しているとかそんなことで来たわけじゃないのよ」
 レオノーラはユイリーの視線を受け止めながら、語りだす。
「目的はこの国をもっと良くするために力を貸しにきたのよ‥‥信じてもらえないかもしれないけれどね」
 そういって、レオノーラが後ろに視線を向けた。
 そこにはレオノーラ以外にも傭兵の姿が幾人も見える。
「本当に‥‥助けてくれるの?」
 懐かしい雰囲気を纏った彼らの姿にユイリーは緊張が取れ、涙がこぼれだした。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
シェリー・ローズ(ga3501
21歳・♀・HA
エレナ・クルック(ga4247
16歳・♀・ER
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
小田切レオン(ga4730
20歳・♂・ST
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
フェイス(gb2501
35歳・♂・SN
フェリックス(gb3577
16歳・♀・DG

●リプレイ本文

●責任と義務
「託されたモノ‥‥其れは‥‥大事な想い‥‥」
 ジャック・スナイプとの戦闘の果てに傷ついた体を引きずるように終夜・無月(ga3084)はエルドラド駐留部隊の責任者をたずねた。
 隣には別件の用事ではあったが、一緒に会談をすることになったフェリックス(gb3577)もいる。
 門前払いをされそうになるが無月達は頭を下げて何とか入れてもらった。
「私がブリジット・アスター少佐に代わってエルドラドの駐留部隊の責任者を務める伊井木・文蓮(いいぎ・ぶんれん)中佐だ」
 高雅なデスクに座っている30代前半の日本人が挨拶をし、無月に座るように促す。
「今回は‥‥エルドラドに対して‥‥UPC側の責任と義務について‥‥」
 無月は自分で調べるだけ調べた被害状況の概要を文蓮に提出しながら、話を切り出した。
「義務と責任かね? 何を持って義務とし、何をもって責任と君はいうのかな?」
「それは‥‥」
「もし、君がエルドラドを徹底攻撃をし、死傷者を出したことに責任を持てというのならば、あの独裁国家を生き延びさせて周辺諸国に被害が出た場合の責任は我々の責任でないとでもいうのかな?」
 文蓮の言葉に無月は言葉を返せない。
「仮に責任と義務を訴えるのならば、直接被害を出した君達が何も負わないというのも可笑しい話ではないのかな? 自分の持っているものを削らずに人任せにするのは果たして責任や義務をまっとうしているといえるのだろうか?」
 無言の無月に対して、文蓮は更に言葉で畳み掛けた。
「もちろん、都合のいいことばかりを押し付けるつもりはない。汚れ仕事や雑用などがあれば言いつけてくれ。報酬はなしでも構わない」
 文蓮の畳み掛けるような言葉にフェリックスが無月の代わりに答える。
「では、次はこちらの話を‥‥。アンドリューと呼ばれるエルドラド軍人の行方とかを聞きたくてね。噂では行方不明ということらしいが」
「私達の方でも捜索中だ。現在はキメラがいなくなったため、ジャングル地帯でありながら治安はかなり良くなっているのだから不安要素は早いうちに消したい」
 文蓮は苦笑をもらしつつ答えた。
 書類を手に取り眺めたあと、文蓮は無月に書類の束を返す。
「空路はパラグアイからジャングルを突っ切るものしかないのでそちらを使うといい。基地での補給は通達しておこう。そのほかの申請については受け入れられない」
「‥‥わかり‥‥ました」
 書類を受け取り無月は礼をして部屋を後にする。
「理想を語るのは簡単だ。だが、理想だけでは維持することはできない世界なのだよ。今の世の中というものは‥‥。もし、私の言葉が納得できないのであれば君の目で確かめてくるといい」
「確かめさせてもらうさ。自分の目で見て、この国の歩くべき道を見定めたい」
 部屋に残っていたフェリックスは文蓮へ言葉を返すと優雅に礼をして部屋をあとにした。

●傷跡からうるもの
「新藤雪邑に追い立てられたのが懐かしいな‥‥あれからもう四ヶ月か」
 ディアブロに乗り、上空から様子を眺めていたカルマ・シュタット(ga6302)は以前に訪れた時のことを思い出して呟く。
『話には聞いていましたが、酷い有様ですね‥‥これを『傭兵』がやったと思うと胸が痛みます』
 エルドラドに関わって着ていないラルス・フェルセン(ga5133)だったが、『傭兵』であるために償いをしようと岩龍で参加していた。
 ジャック・スナイプによる軍事国家エルドラドは要塞じみた様相を一変させ破壊の爪あとを残したまま存在している。
 仕方がないとはいえ、武器を持ち破壊行為に加担したことは間違いではないのだ。
『傷痕は深い、ですね‥‥でも、救援のテントは』
 倒壊した建物やアースクウェイクによって空けられた穴がフェイス(gb2501)の眼下にも広がっている。
 その中にはタンポポを模したエンブレムをつけたテントがいくつか建てられてもいた。
『あの軌道エレベーターだっけ? 未完成のようだけど完成したらどうなってたんだろうね?』
 ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)はジャングルの中でも目立つ無機質なものであり、被害を受けていない数少ないものでもある軌道エレベーターを遠目に見る。
 周辺では米粒のような人が集まり作業をしていた。
『あの石垣みたいなものがろ過装置でしょうか? 思っていたものより、すごく原始的です』
 アマゾン川を人型でザバザバと歩いていて上っていたエレナ・クルック(ga4247)がアマゾン川に広がるろ過装置を見つける。
 水中航行形態で上がる予定だったが、水深が足らなかったために人型で上がるしかなかった。
『でも、人型だった分いろいろ見れました。お魚が一杯いましたけど、キメラのようなものは見られなかったです』
「そのまま待機していてくれ、俺とラルスが降下する」
『じゃあ、俺とフェイスの旦那は街の方を先に片付けようか?』
 小田切レオン(ga4730)は地上にいる人々を見たあとに機体をそちらへ傾る。
『そうですね、あのテントも確認したいですから‥‥食事会で合流ということでいきましょう』
 フェイスもそれに続きテントのある区域へと降下していった。
 
●エルドラド・チルドレン
 地震の後のような場所で子供達は集まってぼーっと空を見上げていた。
「暗い顔してんじゃないよ! そんなんで、この国を支えていくつもりかい?」
 そんな、少年少女達にシェリー・ローズ(ga3501)はいつものボンテージ姿で現れる。
 声をかけられた少年少女達はシェリーの姿に気づくと散り散りになって消えてしまった。
「もう少し優しくしたらどう? 怯えるわよ。その姿‥‥」
 様子を見ていたレオノーラ・ハンビー(gz0067)とユイリー・ソノヴァビッチがシェリーの傍までよってくる。
「これでも私の一張羅なんだけれど‥‥子供達には早すぎたかしら?」
「ここでは貴方達の様な傭兵を怖がっている子達もいるんです。あの子達の親もエルドラドの軍人として働いて死んり、爆撃で死んだりしているんです」
 優しく諭すレオノーラとは違い、ユイリーはシェリーをキッと睨んで現状を訴えた。
「まぁ、ユイリー落ち着くんだ。君が傭兵を憎むのもわかるが、私達とて侵略にきたわけじゃない」
 父親が娘をなだめるかのようにUNKNOWN(ga4276)がユイリーの肩を叩く。
「わかっています‥‥ごめん‥‥なさい」
 UNKNOWNに言われて気を落ち着けたユイリーはシェリーやUNKNOWNに頭を下げた。
 表情に疲れが見え隠れしているのは気のせいではないだろう。
「話題を変えるとしよう。君と話をしたいと思ったのは今、この国の現状をしりたくてね。救援や食料などはどうなっているのだろうか?」
「歩きながらしましょうか‥‥」
 ユイリーは少し考えたあと、瓦礫の町並みを進みだした。
 UNKNOWNがその横に着き、レオノーラとシェリーが後ろに続く。
「食料は備蓄がメインでしょうか。今はアマゾン川で漁をするくらいしか人手がありません‥‥市場を作ろうという計画もあったのですが、難しいところです」
「生きるのに必死か‥‥学校を作りたいね。教科書とかもUPC軍から無料配布してくれればいいんだけど」
「UPC軍からタダでくばるよりは、傭兵を怖がっているのなら、私達が買ってあげるほうが喜ぶんじゃないかしら? 元々あった学校を潰してしまったのも私達かもしれないわよ」
 シェリーの呟きにレオノーラは瓦礫を見回しながら言葉を返した。
「子供達に暗い顔をさせたのも私達が原因かもしれないか‥‥」
 大元はバグアに加担したからだと思いながらもシェリーは煮え切らない気持ちをしまいこむ。
 
 
●石を積んで水をひいて
「皆さん、危ないですから離れてくださいね〜」
 ラルスの岩龍がメトロニウムピックを振り上げて、荒れた大地を耕している。
 ろ過装置の修復はKV3機もいれば朝飯前に終わり、ラルスは畑だった土地の整備を行っていた。
 耕す人がおらず、畑だった土地も殆ど荒れている。
 水路も未整備だったので、今はそれらも平行してカルマと共にラルスは作業をしていた。
「KVも平和になったらこういう使い方をしていきたいですね」
 岩龍の足元には子供達が物珍しそうに寄って来ている。
『あんまり広く耕しても維持できなくなるだろうから、必要最低限の区画整理しかできそうにないな』
 土を掘って簡単な農業用水路を掘っていたカルマはため息をもらした。
 現在、エルドラドの人口は1000人にも満たない。
 エルドラドの軍人だったものは戦死したり、UPC軍の駐留により逃亡を余儀なくされた。
 若者はエルドラド軍人だったもの多く、残った国民は子供や老人達の方が成人よりも多い。
「私達がいる間だけ出来ていても仕方ないですからね。自分達の力でやっていける体制を作らないといけません」
 何時になく真剣にラルスはカルマへと答えた。
『そうだな。なんとも手探り過ぎるが地道にやっていくしかないか』
 カルマのKVはラルスの言葉に頷き作業を再開していく。
「ええ、あたらしい出発のために‥‥まず、一歩を」
 小さな呟きをラルスはもらし、今一度メトロニウムピックを振り上げた。

●憩いの広場作り
「‥‥これが、私達のやってきたことなんですね」
 エレナはビーストソウルで居住区の瓦礫を整理している中、赤ん坊を抱いたまま埋まっていた女性を見つけて一瞬言葉を失う。
 どうしてこうなったのかは分からないが、こうさせてしまったのは間違いなく自分達だということを改めてエレナは感じた。
「埋葬できる場所、あればいいんですけれど‥‥」
 握りつぶさないように持ち上げ、エレナは女性の遺体を一角に降ろし、瓦礫の撤去を続ける。
『こいつは使えそうだな。こっちはスクラップにしかならないか』
 レオンはその撤去された瓦礫をさらに再利用可能なものかスクラップにするものか振り分けていた。
 スクラップにしたものはヴァレスが輸送し街で売る流れになっている。
『今日の食事代くらい稼げるといいね〜』
 受け取ったスクラップをヴァレスの雷電はパワーに任せて潰した。
「使えない瓦礫はどうしましょうか? 何か、有効利用したいですけど‥‥。」
『そうだ、憩いの広場の場所だけどさ。いっそ、アースクウェイクでできた穴を埋めて池にしないか? 全部は無理でもこらのコンクリート類で埋めれば多少いけるんじゃないかな?』
 レオン機は廃材を振り分けつつ気になっていた大きな穴へ視線を向けて意見を求める。
『面白そうだね、じゃあ、スクラップ売った帰りに川の様子とか見て水引けるようなルート見てみるよ』
「よろしくお願いします。よし、やる気がでてきました」
『日が暮れる前には済まそうぜ、もう一踏ん張りだ』
 先が見えてきたことで、作業にも力が入りだした。

●腹が減っては復興もできぬ
「すみません、出来れば手伝って貰っていいですか? お腹が空くと力も出ませんし」
「え、私?」
「歌姫カレーを作るんだよ、手を貸してくれよ」
「どんなカレーなの?」
 フェイスとシェリーはダンデライオン財団からきた救援隊の駐留区域にいる子供達に声をかけ、炊き出しの手伝いを頼んでいる。
 医療支援は現在ダンデライオン財団からのボランティアだけであり、UPC軍からは資金援助などが大きくは出来ていないということだった。
 エルドラドという国は今だ多くの人の理解を得られる国ではないということをフェイスは感じている。
 だからこそ、自分達できることをやっていこうと心に決めた。
「歌姫カレーは歌姫カレーだよ。ほら、おいで。とって食ったりはしないから」
 シェリーの方もユイリーに言われたことを気をつけてなるべく優しく話しかける。
 本当は子供がすきなのだ。
「ユイリーはなるべく多く人を集めてくれないか? ただの配給ではなく心のこもった食事会だからね」
「私がですか‥‥?」
「少なくとも君は『市民代表』を自ら名乗った。その責任と義務を果たす必要があると思うのだがね?」
 UNKNOWNの言葉にユイリーは顔を俯けて黙ってしまう。
「責任と義務ですか‥‥」
 ユイリーはUNKNOWNの言葉を反芻しながら、足を外へと向けていった。
 そこにフェリックスがバイク携帯のリンドヴルムでその横を通りがかる。
「ユイリー君‥‥だったかな? 丁度、町を見回りたいと思っていたところだ、後ろに乗って案内してくれないか?」
「え、あ‥‥はい」
 仮面をかぶり貴族然したフェリックスにユイリーは一瞬驚きながらも、リンドヴルムの後ろに乗った。
「おっと、見とれていてはいけませんね。味付けはミソかコンソメかどちらがいいですかね?」
「カレーにミソやコンソメをいれるのかい?」
「違いますよ」
 フェイスとシェリーは子供達を何人か呼び寄せての料理の課外授業をはじめだす。
 夕日がゆっくりと沈んでいった。
 
●今日という日を忘れないために
 国民全員とまでは行かなかったが、200人程度の人が首都であるエルドラドシウダの一角に集まる。
 アースクウェイクが乱入したことで空いた穴を埋め立ててつくられた池の畔にて傭兵主体の食事会が開かれた。
 スクラップを潰したりで得た資金も少なかったがレオノーラが残りを負担し人数分のカレーやスープなどがカルマやラルスの作った机に並べられている。
 エルドラド国民の中心にいるのはユイリーでユイリーをはさむように傭兵達とエルドラド国民に別れている。
「壁は‥‥厚いようです‥‥ね」
 無月は方々を飛び回り、エルドラドの支援を求めたがどの国からもいい返事はえられなかった。
「こんばんわ‥‥答えは出ましたか?」
 軽く会釈で挨拶を返すユイリーに無月はエルドラドでの最終決戦のときから保留されていた返事を尋ねる。
「これからの‥‥ためにも‥‥市民ではなく‥‥国民の代表が‥‥必要なんです。この国を知る人から」
 黙るユイリーに無月は頭を下げて願った。
「さぁ、子供達はあっちで遊ぼうか。学校の設計図とか練りたいからね」
 場の雰囲気を察してかシェリーが子供達をつれて席をはずす。
「ユイリー、頼む。‥‥ジャックの為にも」
 UNKNOWNも無月に続いて頭を下げた。
 ユイリーはしばらく黙っていたが立ち上がり二人を見つめる。
「あの人のために考えていたことは私にもあります。皆さんの行動が偽りでないことも分かりました‥‥。市民代表から国民代表になりたいと思います‥‥それが私の負うべき責任だと思いますから」
 ユイリーの言葉に能力者は安堵した。
「もう1つ、私から提案があります。この国を思ったジャックを忘れないよう首都の名前を変えたいと思います」
 エルドラド国民がユイリーの言葉にざわめく。
「この町の名前はジャックシティ、彼の志が生きる街です」