タイトル:人形使いの戯れマスター:橘真斗

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/11/01 21:42

●オープニング本文


 彼に会えた

 やっと会えた

 以前と変わらない微笑をした彼にあうことができた

 でも、彼の回りには邪魔者がいる

 彼は戻れといったけど、私は戻らない

 けれど、私の方が彼を‥‥

●ドミニカ共和国UPC軍基地
『海岸より敵機上陸。総員ただちに戦闘態勢をとれ。これは演習ではない、繰り返す! これは演習ではない』
 バミューダトライアングルと呼ばれる領域の間近の島国に二足歩行の巨人達が姿を現し、蹂躙していった。
「くそっ、化け物が! KV隊は動けないのか!」
「ちょうど補給中でしばらく動けないとのことです」
「必要なときに使えないのか、あの大きなものは!」
 苛立つ口調で前線に立つ男は部下に指示をだしながら、海岸より現われた巨人―水中用ゴーレム『ポセイドン』―へ対戦車誘導弾を撃ち込む。
 ドゴォンという爆発音と煙があがるが巨人の装甲には傷一つつかなかった。
「そんなオモチャじゃ。この子には勝てない‥‥」
「誰だ!」
 男は戦場にそぐわない幼い声を聞き、振り向く。
 しかし、次の瞬間男は膨れ上がった砂に叩かれて首が180度回転し、地面へ倒れこんだ。
「ひっ、ひぃぃぃっ! お、おまえがパペットマスター!?」
 倒れた男の部下が目の前で起きた異常な光景に情けない声を上げて銃口を”パペットマスター”海禅寺・ラシェルへ向ける。 
 戦場にそぐわないピンクのゴシックロリータ服に身を包んだ日本人とアメリカ人のハーフらしい少女は生気の欠けた瞳でニヤリと笑った。
「ねぇ、おじさん‥‥一つお願い聞いて」
 ガチガチと震える手で銃口を向けている男にラシェルは近づく。
 タァーンタァーンと銃声がなるもそれは砂の塊によって防がれた。
「簡単なこと‥‥ラスト・ホープに応援を呼んで‥‥きっと、あの人が来ると思うから」
「そんなことできるわけ‥‥」
「できないなら、おじさんいらない」
 拒絶しようとした男の視界はラシェルの言葉と共に180度後ろに回る。
「早く来て‥‥でないと、人いっぱいしんじゃうよ‥‥」
 ラシェルは銃声の鳴り響く海岸を一人笑いながら歩いた。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
赤霧・連(ga0668
21歳・♀・SN
鯨井起太(ga0984
23歳・♂・JG
三田 好子(ga4192
24歳・♀・ST
M2(ga8024
20歳・♂・AA
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD

●リプレイ本文

●すべてを助けるために
「ほむ、水上さんこっちが近道です」
「こんなときに襲撃なんて‥‥間が悪いですね。皆さんも無茶はしないでください」
 赤霧・連(ga0668)に言われ、鳴神 伊織(ga0421)は基地にいる兵士達に注意を呼びかけながらKVハンガーに向かった。
 敵襲ということもあり、基地内は軍靴の音が響き、人波が出口へと進んでいく。
 ルートを選び、人波を避けながらハンガーに到着した二人は別ルートからやってきていた麻宮 光(ga9696)とM2(ga8024)がメンテを済ませていた。
「よし‥‥俺の方は準備OKだ。各機の準備が整い次第出撃する。伊織さんに連さんも早く乗ってください。装備は聞いていたようにメカニックに頼んでおきましたから」
「中型燃料タンクも搭載できたし、ミサイルよし、ガドリングよし。準備完了だ、いつでもいけるぜ」
 M2も準備ができたことを知らせ、ハンガー傍のKV用滑走路へ飛行タイプのKV達は移動していく。
 暗いハンガーに開いたドアから外の光がさしこんだ。
『こちら地上班のリョウ。海禅寺を見つけたから接触する』
 AU−KVを1人駆る夏目 リョウ(gb2267)からの通信が連のS−01のコックピットに響く。
「ほむ、これは緊急ですね。急ぎましょう」
 連は鬼気迫る声にあわてながら、空へと飛び上がった。
 懐かしの翼、その力を信じて‥‥。

●人形使いとの対峙
『なぁ、夏目‥‥彼女を止める覚悟はあるのかい?』
 テンタクルス改にのった赤崎羽矢子(gb2140)がAU−KVを変形させ、アーマーを纏った姿になったリョウへ声をかけてきた。
 前回の報告書を見る限り、ラシェルがリョウを求めているのは分かっていた。
 そして、ここで逃がせば『人を殺すことで再びリョウが来る』と思うことは予想できる。
「その‥‥つもりだ。海禅寺は操られているだけだから、助けられるはずなんだ」
 リョウは機械剣とエネルギーガンを構えてラシェルの前に立った。
「狂気に至る想い‥‥か。世俗的な道徳や倫理に縛られず犠牲を厭わない所は嫌いじゃない」
 御影・朔夜(ga0240)がラシェルに向けて真デヴァステイターの引き金を引く。
 大振りの拳銃から弾丸が飛び出した。
 しかし、その弾丸はラシェルの目の前で変形した砂の塊に吸収される。
「邪魔をしないで‥‥私はリョウ君に会いたいだけなの。こういう場所を攻撃すればリョウ君は来てくれるの」
「こんなやり方は間違っている! 海禅寺‥‥君はこんなことをする子じゃなかったはずだ!」
 リョウはバイザーを広げ、顔を出したままリンドヴルムを装着したその体でラシェルへとつかみかかった。
『そのまま掴みとるんです!』
 水上・未早(ga0049)のテンタクルス改からリョウに声が飛ぶリョウの手を掴もうと伸ばしたラシェルの腕は未早機を狙う。
 ラシェルの手には光が集まり、稲妻が放たれた。
 ゴシックロリータという衣装の彼女から放たれる稲妻は『魔法』のように見える。
 ラシェルの手から放たれた光線は未早機の脚部装甲をとかした。
『さぁ、そっちもきっちりがんばってよ! こっちはゴーレム級を相手にしなきゃならないんだから!』
 鯨井起太(ga0984)はあえて外界の情報をシャットアウトし、目の前の仕事に集中しだす。
『パワー負けしているからって、怯む僕ではない。不可能なんてないのさ!』
 間に合わせ装備ではあるがテンタクルスの扱いに慣れている起太はガドリング砲でポセイドンを攻撃していく。
 砂浜の上を弾丸が飛び砂煙を挙げてポセイドンへと迫った。
 しかし、ポセイドンの装甲の前に空しく弾丸ははじける。
『改造していないときついな‥‥』
 起太は一人ごちて、そのままメトロニウムシールドを使ったタックルを当てて押し出しを試みた。
「皆して、邪魔をする‥‥消えてしまえ!」
 思うように戦えないラシェルが怒りをあらわにした声をあげてくるりと舞う。
 それと共に空から3機の戦闘機が飛来してきた。

●グリフォン
「見た目はただのF−15ですが、機動が明らかに違いますね」
 麻宮が飛んでくる戦闘機の速度から明らかに異質なものであることを感じる。
『予定通り、M2さんと麻宮さんは正面を‥‥私と連さんが後ろの2機を一機ずつ相手にしましょう』
『ほむ、了解なのです』
 4機のKVは空をきり、雲を残しながら散らばった。
 戦闘機はそのまま直進し、バルカンを放ってくる。
「振りきれない‥‥バルカンでこの損傷なんて」
 機体を傾けて避けようとした麻宮機だが、猛獣のようにくらいついてくる敵機が麻宮機の装甲を穿った。
『長く戦っているとまずいぜ‥‥先に撃つ! おりゃー!』
 M2が麻宮機の被弾具合に戦慄を感じつつホーミングミサイルを放つ。
 白い尾を引きながら飛んでいったホーミングミサイルが直撃し、煙を上げた。
 しかし、その煙を突き破り、戦闘機は迫ってくる。
「やはり、ブーストをかけて戦域から離そう‥‥このままじっくり戦っていたらこちらがやられるっ!」
『ほわぁ、本当に堅いです‥‥』
 ガドリング砲で集中攻撃を行なうも中々落ちない敵機にたいして、連が驚きの声を漏らす。
 決定打にかける装備ではジリ貧だった。
『レーザー砲は十分効くようです。ガドリングでは押し切れないでしょうから、ミサイルなど少しでも威力と命中のあるものを必ず叩き込めば倒せなくはありません』
 1人、レーザー砲を装備していた伊織は手ごたえを感じ、作戦を指示する。
「了解。でも、やられた分は普通にやりかえしたいところっ‥‥こちらが攻めに出る番だ」
 ブースターで加速し、すれ違いざまに麻宮はガドリングを叩きこんだ。
 マズルフラッシュと共に敵機の装甲がひかる。
 カカカカカンと甲高い音が流れ、弾かれたのが分かった。
 しかし、麻宮は怯まない。
「アグレッシヴ・ファング!」
 直進してくる敵に向け、そのままH12ミサイルポッドを叩き込んだ。
 45発のミサイルが敵の装甲を砕いていく。
 麻宮はその爆発に紛れ機体を傾けながら通過した。
『今度こそやったか!?』
「いや、ボロボロのようだが‥‥まだやる気のようだ」
 キュインと音もなく振り返り敵は麻宮に向かってガドリングを発射してくる。
『早いところ下を片付けてくれればいいんだけどなぁ‥‥』
 M2機からタフな敵を眺めての息交じりな通信が漏れてきた。
 
●狂い咲き人形
「君の選択を間違っているとは言わないが、本当にそれで良かったのか? 『敵』で本当に良かったのか?」
 御影は真デヴァステイターをリロードし、物陰から撃ちつつラシェルに声をかけた。
「人類側で待っていても、リョウ君は私の元には来なかった。直接言葉をいいあって、直接触れ合って‥‥今、私は幸せ‥‥邪魔さえなければ!」
 ラシェルの手から雷撃がほとばしり、御影の隠れていた遮蔽物を砕く。
 舌を撃ちつつ御影は場所を変えだした。
 水中用ゴーレムポセイドン1機はラシェルの傍まで移動してきている。
『硬くって中々落とせやしない!』
 ディフェンダーを使うことで辛うじて装甲を斬り裂ける状況に赤崎は苛立ちを隠しきれず叫んだ。
 ホバーシステムで機動力の上がっ赤崎のテンタクルス改がポセイドンを何度も斬りつける。
 殆どダメージを受けていないように見えるポセイドンがパンチによりカウンターを仕掛けてきた。
 重い拳が胴体にあたりメトロニウムフレームが拉げる。
『フレームがなかったら不味いですね。はやく、ラシェルさんを何とかしてください』
 足を負傷し、引きずるようにして戦う未早機がリョウ達を鼓舞した。
「貴方の手で早く彼女を」
 三田 好子(ga4192)がサンドスライムに向けてスパークマシンΩを放ち、リョウがラシェルへと向かう隙を作る。
 御影も同じように進もうとしたが目の前にポセイドンの槍から圧縮水流が放たれ行く手を阻んだ。
「ちっ‥‥いいだろう、”悪評高き狼”をとめられると思うのならば相手になろう」
 紫煙を揺らし御影は不敵に笑う。
 懐にしまっていた小銃「シエルクライン」を抜いて『二連射』を使いポセイドンを撃ちだす。
 当てる場所を集中させた攻撃はポセイドンの強固なフォースフィールドをも砕き大きく揺らいだ。
 その間にリョウはラシェルの傍へと向かう。
「どうしてこんな事を繰り返すんだ、海禅寺。俺の知っている君は、そんなんじゃなかった、いつもみんなと楽しそうに笑って‥‥」
「この間も言ったけど、君は利用されているだけなんだ。バグアなんかとは手を切って、戻って来いよ」
 バイザーを取って顔をさらした姿でリョウはラシェルの心に訴えかけた。
 ラシェルの顔が一瞬俯く。
「利用されているのはリョウ君だって一緒じゃない‥‥この女がいけないんだね‥‥」
「ラシェル!」
 だが、狂気は収まらずにラシェルは殺気を持ちながら跳躍した。
 リョウの上を飛び越え、三田の懐に入り込む。
「嘘ッ‥‥」
 スライムを攻撃して気を取られていた三田は対処に出遅れた。
 ラシェルのビンタが驚いている三田の顔を叩く。
 バシンと重い音がなり三田の体が吹き飛んだ。
 吹き飛んだ体はズサーッと砂の上をすべり、埋まりながら止まる。
「これで‥‥大丈夫。さぁ、リョウ君。私と一緒にこようよ‥‥ふふふふふ」
 迷いのない瞳でラシェルはリョウへと微笑み、つかつかと歩みよった。
 変貌してしまった元クラスメートに対し、リョウはただ見ることだけしかできない。
『覚悟があるといったのは嘘だったのか! 夏目・リョウ!』
 一体目のポセイドンを満身創痍の状態で倒した赤崎機からリョウへ大きな声が飛んできた。
 声を聞き、はっとしたリョウはラシェルに向かって武器を構えようとするが、それを捨てる。
「やっと来てくれる気になったのね‥‥うれしい」
「違う、俺は‥‥俺はこの世界の平和と、みんなの笑顔を守りたいから‥‥もちろんラシェル、君の笑顔もだ」
「私の笑顔を守りたいなら‥‥こっちにキテよ、リョウ君!」
 話しても埒があかないと思ったのか、ラシェルはついにリョウへとその狂気の矛先を向けだした。
「最後まで諦めない。君を傷つけずに引き戻してみせる。それが‥‥俺の覚悟だ」
 近づいてくるラシェルをリョウは『竜の翼』を使って海岸の方へと引き連れていく。
「はぁ‥‥死ぬかと思いましたよ」
 埋もれていた体を起こし、三田が二人の後ろ姿を見送った。
『あと一息です。皆さんがんばりましょう』
 未早がテンタルクルスを動かし、残ったポセイドンをラシェルに近づけさせないように止める。
 テンタクルス改はどれもボロボロだが、最後の力を振り絞って戦闘を続けた。
 1つの希望を信じて‥‥。
 
●決着
『残り二機! 弾がほとんどないが援護するぜ』
「ほむ、助かります!」
 麻宮機と共にグリフォンを撃墜したM2機が連の援護に回った。
「翼を集中攻撃して、墜落させるのですっ!」
 相手はヘルメットワームと違い、戦闘機タイプである。
 脅威ではあるが、戦闘機と同じであるならば戦い方はまだあった。
『了解。ピンポイントで狙っていく!』
 二機のKVがグリフォンに向かって飛んでいく。
 グリフォンはバルカンを放ち、それを二機が散開して回避。
「これで‥‥終わりなのです!」
 そのまま、M2とタイミングを合わし、ホーミングミサイルを一発ずつ撃ち込んだ。
 ホーミングミサイルの着弾した翼が折れて、グリフォンが煙を上げて墜落していく。
『よっしゃ! やったぜ』
『おめでとうございます。こちらも片付きまし‥‥まだ、です。連さん敵はまだ生きています!』
「なんと!」
 グリフォンはまだ生きていた。
 海中へ墜落するかと思ったとき、水上スレスレを飛行し、一直線へ陸地へ向かっていく。
 陸地ではリョウとラシェルが攻防‥‥いや、リョウが一方的に攻撃を受け説得をしていた。
「目を覚ませ、君が誰かを傷つければ傷つけるほど、俺達の距離は遠くなる‥‥それをわかってくれ!」
「眠ってなんかない! 私はいつもリョウ君のことを‥‥っ!」
 浜辺で戦闘していた二人の下に煙を上げたグリフォンが突撃してくる。
 ラシェルはいち早く気づき、手をかざしてリョウに向かって衝撃波を放った。
「ぐっ‥‥らしぇ‥‥る」
 リンドヴルムの装甲が砕け、リョウは思い切り吹き飛ぶ。
 そして、飛びながらリョウが見たのはグリフォンがラシェルに向かってぶつかり爆発する瞬間だった。
 
●眠る人形
「水中用ゴーレムが撤退していく?」
『F−15は落としましたが弾もないですし、被弾が酷いので追いかけるのは無理なのです』
 ポセイドンが海に帰っていくのをみた未早はレーダーとセンサーを全開にして周囲の状況を確認していく。
 基地の被害は抑えきれたが、これ以上戦闘が続いていれば負けていた。
「そうです‥‥”パペットマスター”は?」
『気を失っていますが、死んではいないようです‥‥吹き飛ばされて砂に埋もれたからでしょう。私と同じですね』
 リョウがラシェルを背負い、負傷具合を見ている三田が『練成治癒』によって治療をしている。
『いいんだ。少しでも可能性が見えているなら‥‥』
 リョウはボロボロになったリンドヴルムを纏いつつ、背中の少女を背負いなおした。
 守りきった基地の一角で、傭兵達はひと時の休息を味わう。
 1人の少女を引き込んだことで、更なる戦いを呼び込んだことを知らずに、このときはただ休んでいた。